おしらせ

2020/03/08

Bausch and Lomb PHOTOMATON 75mm(3inch) F2





Matonox Night-Camera
レンズを供給したのはボシュ・ロム!!!
Bausch and Lomb PHOTOMATON 75mm(3inch) F2
ドイツのC.P.Goerz(ゲルツ)社が1925年頃に試作したMatonox Night-Cameraという35mm判のカメラに搭載されていたレンズが、今回紹介するPhotomaonフォトマトン)75mm F2です[1]。同社は1926年にIca, Ernemann, Contessa-Nettel社と合併しZeiss Ikon社の設立母体となることで消滅していますので、このカメラが発売されることはありませんでした。実在するMatonox Night-Cameraに搭載されたPHOTOMATONにはメーカー名が記されておらず、レンズはカメラ同様にC.P.Goerz社が開発したものだと思われていましたが、不可解だったのは搭載されいるシャッターを供給したのがドイツのDeckel社ではなく米国のILEX(アイレクス)社であったことと、ゲルツはF2クラスの明るいレンズを自社生産するための特許を保有していなかった事です。カメラとレンズは当時、夜間での手持ち撮影を可能とし報道写真の世界に衝撃を与えたエルネマン社のエルマノックス(レンズはエルノスター)に対抗するために開発されました。
ある時このカメラの謎に対する突破口が開けました。知り合いの方からBausch and Lomb(ボシュ・ロム)社の刻印の入ったPhotomatonの存在を教えてもらい、なんと現物を預かったのです。ILEX社はBausch and Lomb社から派生したシャッター製造メーカーで、言わば生みの親のような存在です。レンズはシャッターと共に米国で開発されていたのです。
    
Bausch and Lomb PHOTOMATON 75mm F2(M42改造済): フィルター径 45mm, 絞り値 F2-F16, 設計構成 4群4枚スピーディック型, ILEX製シャッター, GOERZ Matonox Night Canera(スチル用35mmフォーマット)に供給。前群の鏡胴部側面にPhotomatonの刻印、フィルター部の名板には確かにBausch and Lombのメーカー名が刻印されています
 
今回お借りしたレンズは知り合いの方がレンズ単体の状態でeBayから入手したもので、カメラは付属していませんでした。その後、直進ヘリコイドに載せM42レンズとして使用できるよう改造したとのことです。レンズにカビ、クモリなどなく、直ぐに使用できる良好な状態でした。レンズ構成は3枚玉のトリプレットからの発展形として1924年にLeeが考案した4群4枚構成のspeedicタイプです(下図)。収差的にはあまり良い評価がありませんが明るさと立体感のある画作りを特徴とし、バックフォーカスを長く取れる点が長所で、ドイツのAstro社が高級シネマ用レンズに積極的に採用した設計構成です。たいへん貴重なレンズであることに疑いの余地はありません。
  
典型的な4群4枚のSPEEDIC型の設計構成。左が被写体側で右がカメラの側。絞りは第2レンズの直ぐ後ろに配置されています

参考文献・資料
[1]ドイツのオークションハウス”Auction Team Breker”から2008年にMatonox Night-Cameraが1台出品されています
[2]oldlens.com: Bausch and Lomb 3inch:設計構成のよく似たBausch and Lomb社製のレンズがあるという情報をいただきました。ありがとうございます。本レンズと何か関係がありそうです
 
撮影テスト
近接からポートレート域ではフレアの少ないスッキリとした描写で、コントラストはこの時代のノンコートレンズとしては良好ですが、良像域は中央部のごく限られた領域のみとなります。ボケは若干のグルグルボケが見られピント部間際で放射ボケも出ますので、非点収差がそれなりに残存している様子です。ただし、激しい像の流れには至りません。一方、遠景になるとフレアが多くなり、開放では十分な解像感が得られませんので、通常は絞って使うことになります。ポートレート撮影向きのレンズだと思います。

F2(開放) SONY A7R2(WB:日陰)置きピンで撮りました。この位では少し滲みます(シャツの★印に注目)


F2(開放) SONY A7R2(WB:日陰)近づくほど、スッキリと写るようになり・・・


F2(開放) SONY A7R2(WB:日陰)このくらいのポートレート域が一番シャープに写ります。距離によっては背後に少しグルグルボケが発生しまので、非点収差がまぁまぁ残存しているようです
F11 SONY A7R2(WB:日陰)











F5.6 sony A7R2(WB:日光) こちらも絞ってとった結果ですが、遠方をとる場合、少なくともこの位は絞らないと厳しいです。開放になるとフレアが多く、解像感の得られるのはごく限られた領域だけになります(こちら


2020/03/02

Ichizuka Opt. Professional KINOTAR 50mm F1.4(C mount)



市塚光学の16mmシネマムービーレンズ
Ichizuka Opt. Professional KINOTAR 50mm F1.4
市塚光学工業株式会社(Ichizuka Opt.)は1951年より東京都新宿区下落合2丁目にてシネマムービー/CCTV用レンズを生産していた光学機器メーカーです[1]。主力製品は8mm/16mmフォーマット用レンズで、主に米国と日本に市場供給されました。OEM生産にも積極的に取り組む傍ら自社ブランドのCosmicarやミモザ社の登録商標であるKinotar/Kinotelでもレンズを製造[2]、広角から望遠、明るい大口径レンズまであらゆる種類のシネレンズを手掛けていました[3]。同ブランドには広角のWide-Angle KINOTAR、標準レンズのKINOTAR、望遠のKINOTEL、明るいハイエンドモデルのProfessional KINOTARなどがあります。同社は1967年にCosmicar Optical Co.に改称、COSMICARブランドやIZUKARブランドで産業用CCTVレンズを供給しますが、その後は経営不振に陥り旭光学(後のPENTAX / RICOHイメージング)の子会社となっています。旭光学の傘下ではCOSMICARブランドでCCTVレンズを生産し、現在もRICOHイメージングの傘下で生産を続けています。雑誌や広告に掲載されている情報をたよりに、中古市場に出回っているKINOTARブランドのレンズを列記しておきましょう[1,3]。これが全てではないかもしれませんので、もし他にもありましたら、お知らせいただければ追加してゆきたいと思います。

Wide-angle Kinotar
1.9/6mm(Dマウント); 1.5/15mm(Cマウント)

Kinotar
1.9/13mm(D); 2.5/7mm(D); 1.9/38mm(D); 1.4/38mm(D); 1.9/25mm(C); 1.9/12.7(C); 1.9/75mm(C) ; 1.9/15mm(C)

Kinotel
 1.5/75mm(C); 2.5/75mm(C); 3.5/75mm(C); 1.9/25mm(C) ; 1.5/38mm(D); 1.9/38mm(D); 2.5/38mm(D); 3.2/38mm(D); 3.5/38mm(D)

Professional Kinotar
1.4/12.5(C); 1.4/25mm(C); 1.9/50mm(C); 1.4/50mm(C); 2.5/75mm(C);  1.4/75mm(C)

今回は最近ヤフオクで手に入れたProfessional KINOTAR(プロフェッショナル・キノター) 50mm F1.4を取り上げます。設計構成は光の反射を見る限り4群6枚のガウスタイプと推測でき、同社のレンズの中では75mm F1.4に次ぐボケ量の大きなレンズです。イメージサークルはフルサイズセンサーこそカバーしていませんが、APS-Cフォーマットは充分にカバーしており、暗角(ダークコーナー)は全く出ません。


Professional KINOTAR 50mm F1.4: 重量(実測) 274g , フィルター径 40.5mm, 絞り羽 10枚, 絞り f1.4-f22, 最短撮影距離 1.5m強, cマウント, 定格イメージフォーマット 16mmシネマフォーマット
 
参考文献・資料
[1]アサヒカメラ 1958年10月広告
[2] United States Patent and Trademark Office
[3]Popular Photography ND 1957 4月; 1957 1月(米国)

入手の経緯
普通のKinotarはどれも安く手に入りますが、Professional KinotarF1.4クラスは別格で、日本よりも海外での評価が高く、eBayでは高値で取引されています。75mm F1.450mm F1.4は特に珍しいモデルでコレクターズアイテムとなっています。マイクロフォーサーズユーザーならProfessional Kinotar 25mm F1.4はまだ安くてオススメです。

本レンズは201912月にヤフオクに出品されていたものを競買の末に落札しました。オークションの記載はではレンズにクモリがあるとのことでしたが、ただの汚れで軽く拭いたところ完全にクリアになりました。

撮影テスト
本来は16mmシネマフォーマットに準拠した設計のレンズですが、今回はAPS-Cフォーマットで試写しまた。本来は写らない写真の四隅を拾うので画質的に乱れるのは当然ですが、ガウスタイプのためか、このレンズは開放でも四隅まで安定感があります。開放ではピント部ハイライトが微かに滲む適度に柔らかい些細な描写ですが、解像感は充分にあります。トーンはとてもなだらかで繋ぎ目がなく、開放付近ではオールドレンズらしい軟調な描写を堪能できます。発色は開放でやや淡くなるものの濁るほどではありません。絞ればフレアは消えスッキリとした透明感のある描写で、発色も鮮やかになります。グルグルボケや放射ボケはなくボケは安定しており、やや硬めの歯応えのあるボケ味で、なだらかなトーンを纏い良い味を出しています。逆光では簡単に虹が出ますので、活かすもよし、フードをつけて抑えるのもよし。フルサイズセンサーこそカバーしませんが、これだけ明るければAPS-Cセンサーでもフルサイズ換算で75mm F2相当の画作りができます。魅力的なレンズだと思います。
 
モデル 彩夏子さん
sony A7R2(APS-C mode)
F1.4(開放) sony A7R2(APS-C mode, WB:曇天)
F1.4(開放) sony A7R2(APS-C mode, WB:曇天)
F1.4(開放) sony A7R2(APS-C mode, WB:曇天)

 
ここまでかなり優等生ですが、逆光での写りはどうでしょう。最初の1枚目(下の写真)はフードをつけた場合ですが、ピント部をフレアが纏い、キラキラとした素晴らしい描写となります。続いてがフードをとった場合の写真です。ハレーションが盛大に発生し、なかなかの面白い画になります。虹が出ることもありました。このレンズはハマります。
 
F1.4(開放) sony A7R2(APS-C mode, WB:日光)
F1.4(開放) sony A7R2(APS-C mode, WB:日光)逆光ではこの通りに虹ありハレーションありの面白い画になります







FUJIFILM X-T20

最後にフジフィルムのX-T20での写真です。コントラストの高い描写であることがわかるとおもいます。四隅での光量の落ち具合がなだらかで、雰囲気ありますね。
 
F1.4(開放) FUJIFILM X-T20(WB:曇空) APS-Cは完全にカバーします。コントラストがいいですね




F1.4(開放) FUJIFILM X-T20(WB:曇空)縦写真を2枚貼り合わせました。ボケには安定感があります