おしらせ

2020/01/01

LOMO OKC11-35-1(OKS11-35-1) 35mm F2 for KONVAS


  

LOMOの映画用レンズ part 8
ロモの第三世代1980's、
焦点距離35mmのシネレンズは
シャープネスとコントラストが向上
LOMO OKC11-35-1 35mm F2
LOMOは数多くの映画用レンズを世に送り出しました。中でも焦点距離35mmのモデルはバリエーションが豊富にあり、改良の余地がたくさん残っていたようです。今回取り上げるOKC11-35-1LOMO1981年に発売した焦点距離35mm11作目にあたるシネレンズで、映画用カメラのKONVAS-1シリーズ (OCT-18マウント)やKONVAS-2シリーズ (OCT-19マウント)、KINOR-35シリーズ (OCT-19マウント)に搭載する交換レンズとして市場供給されました[1]KONVASのシネレンズとしてはこれまで紹介してきたOKC1-35-1OKC8-35-1があり、前者から後者への改良では設計構成が見直され、中心解像力を落とす代わりに像面特性の改善が図られました。本モデルでは設計構成が再び見直され、中心部の画質を重視した初代OKC1-35-1に近い描写設計に戻っています。シャープネスとコントラストは大幅に向上し、歪みの補正が悪化している点を除けば現代のレンズに近い優れた描写性能です。本モデルからはマルチコーティングが採用され、カラーフィルムの時代にふさわしい鮮やかな発色が得られるようにもなっています。
レンズの設計は下図のような逆ユニライトタイプの後玉を2分割した独特な構成形態で、他に例を知りません[2]。個々のレンズエレメントが厚めにデザインされており、各面の曲率を緩めた収差を生みにくい構造になっています。像面の平坦さは前モデルのOKC8-35-1にはかないませんが、シャープネスとコントラストは先代のどのモデルよりも良好で、初代OKC1-35-1が課題としていた周辺部の光量不足も改善されています[1]。このレンズがいつまで生産されていたのか確かな情報はありませんが、市場に流通している製品の中からは1992年に製造された個体が見つかっています。

OKC11-35-1の構成図:文献[2]からのトレーススケッチ。左が被写体側で右がカメラの側。設計構成は5群6枚で逆ユニライト型からの発展型です


参考文献・資料
[1] 収差図(LOMO) RedUser.net : ロシアUSSRレンズ サバイバルガイド
[2] LOMOのテクニカルシート(1981年)
  
入手の経緯
eBayでの現在の取引相場は350ドル程度かそれ以上です。数年前までは300ドルを切る値段でも買えましたがOKCシリーズは35mm/50mm/75mmの各モデルが近年ジワジワと値上がり傾向にあります。
今回紹介する羽根つきのモデル(OCT-18マウント)は少し前の201712月にウクライナのレンズセラーがeBay329ドル(フリーシッピング)で出品していた個体です。値切り交渉を受け付けていたので300ドルで交渉したところ自分のものとなりました。オークションの記載は「MINT CONDITION(美品)。絞り羽に油染みはない。絞りリングとフォーカスリングはスムーズでソフトに動く。ガラスはクリーンで、カビやキズはない。レンズはコリメーターでチェックしており問題は見当たらない。レンズフードとキャップが付いている」とのこと。綺麗な個体が届きました。

重量(実測):239g(フード無しでは222g), 絞り羽:10枚構成, 最短撮影距離:1m, 絞り:F2(T2.3)-F16, 設計構成:5群6枚, OCT-18マウント

  
レンズブロックのモデルは20188月にロシアのイーベイセラーから253ドル+送料の即決価格で落札しました。オークションの記載は「ガラスはクリアでキズ、クモリ、カビ、バルサム剥離、歪み、拭き傷などはなく、コーティングも問題ない。絞りの動きは適正でフォーカスリングや絞りリングはスムーズに動く。レンズキャップが付属する」とのこと。こちらも綺麗なレンズが届きました。
 
重量(実測): 110g, 絞り羽: 10枚構成, 設計構成: 5群6枚, マウント: M36x0.75

 

デジタル一眼カメラへの搭載例
回のブログエントリーではOCT-18マウントのレンズをフジフィルムのFXマウントに変換する事例を紹介します。下の写真をご覧ください。必要な部品はすべて市販品です。レンズによっては後玉の出っ張りに配慮しヘリコイドをM46-M42に変えなくてはなりませんが(←前ブログエントリー参照)、OKC11-35-1は出っ張りが少なくM42-M39ヘリコイドでも間口への干渉がありませんのて、フジフィルムのデジタルカメラに搭載できます。このままカメラの側のスリムアダプターを交換するだけでSONY Eマウントにも変更できます。


続いて、レンズヘッドの個体ですが、鏡胴にM39M36ステップアップリングをはめてM39ネジに変換すれば、ここから先は自由度が多くあります。M42-M39変換リングを用いてM42-M42ヘリコイド(12-18mm)にのせM42マウントにもできますし、M42-M39ヘリコイド(25-55mm)にのせてライカLマウントにもできます。部品は全てイーベイで買い揃えることができます。

M42 to M42 Helicoid(12-18mm)を用いてM42マウントに変換する場合のレシピ。一眼レフカメラで使用する場合、フルサイズ機ではミラー干渉してしまいますので、APS-C機で用いるのが良いでしょう。最短撮影距離は23cmくらいですので接写も十分にできます
 
撮影テスト
現代のレンズに近い高いコントラストと鮮やかな発色を持ち味とするレンズです。開放からピント部の像はたいへんシャープで、フレア(コマフレア)は等倍拡大時にようやく検知できるレベルです。少し絞ればカリカリの描写で、細部までスッキリとしたクリア―な描写になります。発色はたいへん鮮やかですが、夕方や日陰など光量の少ない条件では青みが増しカラーバランスがクールトーンにコケる事が多くあります。LOMOのカタログスペックを信じるなら解像力は先代の2つのモデルを大きく超えており、実写でもピント部中央は十分に緻密な像ですが、等倍まで拡大するとややベタっとした解像感になっており、正直言うと先代のモデルを超える程の解像力とは思えません。どちらかと言えば解像力よりもコントラストを重視したレンズ設計なのでしょう。逆光で光源を入れるとシャワーのようなハレーションが虹を伴いながら盛大に発生します。この手の虹を望んでいる方には願ってもない良いレンズだと思います。歪みは樽型でやや大きめに生じる点はテクニカルデータどおりです[2]。ボケは適度に柔らかく概ね安定しており、グルグルボケや放射ボケ、二線ボケなどの癖はありませんが、口径食が顕著で写真の四隅で玉ボケが半月状に欠けて見えます。
今回もイメージサークルの違いを期待してOCT-18マウントのモデルとレンズヘッドのモデルの両方を手に入れました。残念ながら両者のイメージサークルに違いはなく、レンズヘッドのモデルをフルサイズ機に搭載して使う場合ではこちらに示すように四隅に暗角が生じ、フルサイズセンサーをカバーすることができませんでした。本レンズはAPSC機またはフルサイズ機のクロップモードで用いるのがベストな使い方です。


CAMERA:FUJIFILM X-T20
LENS: OKC8-35-1 (OCT-18マウントモデル)

F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB) スッキリとヌケのよいクリアな画質のレンズです

F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB) 逆光撮影になるとシャワー状のハレーションが派手に出ます

F2.8 Fujifilm X-T20(AWB)
F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日陰)
F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日陰)

F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日陰)

F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日陰)


F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日光) 歪みを除けばこれと言った欠点はなく、性能的には現代のレンズと大差ありません

F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日光)




F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日光) 逆光でもコントラストは良好です

2019/12/15

LOMO OKC8-35-1 (OKS8-35-1) 35mm F2 for KONVAS




LOMOの映画用レンズ part 7
ロモの第二世代1970's、
焦点距離35mmのシネレンズは
像面特性の改善と歪みの補正に力を入れる
LOMO OKC8-35-1 35mm F2
OKC8-35-135mmムービーカメラの最高峰、ロシア版アリフレックスのKONVASシリーズとロシア版ミッチェルのKSKシリーズに搭載する交換レンズとして、LOMO1971年に発売したOKC1-35-1の後継モデルです[1]OKC1-35-1の設計を見直し、中心部の解像度を維持したまま四隅の画質を大幅に向上させることで風景にも対応できるフラットな描写性能を実現しています[2]。このモデルではレンズのイメージサークルが前モデルよりも若干広くなり、光学ブロックの個体をフルサイズ機で用いる場合には暗角(ダークコーナー)の発生は僅かです。撮影フォーマットのアスペクト比を16:9に変えれば暗角は気にならないレベルに収まり、明るい広角レンズとして使う事ができます。この場合、本来は写真に写らない周辺部の領域が写るため、立体感に富んだ描写表現も可能です。
レンズの設計は下図のようなガウスタイプの後玉を2分割した7枚玉で、一段明るいF1.4のレンズに多く採用された構成です。明るさをF2に抑えることでワンランク上の描写性能を実現したのでしょう。本来はF2クラスのレンズに採用されることのない豪華な構成ですから、よく写るのは当然です、
このレンズがいつまで製造されていたのか確かな情報がありません。市場に流通している個体の大半は1970年代の製造ですが、1991年に製造された個体の存在を確認しています。
 
OKC8-35-1 35mm F2の構成図(文献[1]からのトレーススケッチ):左が被写体側で右がカメラの側。構成は5群7枚のLeitz-Xenon型
レンズの収差チャートを見ると輪耐部の球面収差がやや大きい分だけ中心部の解像度は前モデルよりも控えめですが、中心から四隅に向かって解像力の低下が緩やかで、広い画角領域にわたり解像力は逆に高くなっています[2]。像面湾曲と歪み、周辺部の光量落ちについても大幅に改善しています。LENKINAP PO4-1から続いてきたLOMOの焦点距離35mmの系譜は、このモデルの登場で一つの到達点を迎えたと言ってよいと思います。

参考文献・資料
[1]GOIレンズカタログ (1971年)
[2]RedUser.net : ロシアUSSRレンズ サバイバルガイド

レンズの入手先
20181月にウクライナのイーベイセラーからMINT CONDITION(美品)の個体を、それぞれ300ドル(光学ブロック)と275ドル(OCT-18マウント)で購入しました。LOMOOKCシリーズは日本での認知度がまだ低いため、国内でのレンズの流通は多くありません。レンズを入手するにはロシアやウクライナのeBayセラーから手に入れる事になります。eBayでの取引相場は状態の良い個体が300350ドルあたりです。流通しているモデルの大半は羽根の付いたOCT-18マウントのモデルですが、光学ブロックのモデルも僅かに流通しています。レンズの後玉が飛び出しているためガラスにキズの入っている個体が多くあります。状態の良い個体を探すのであれば後玉のコンディションに細心の注意を払う必要があります。
 
KONVAS OCT-18マウントのモデル: 重量(実測)165g, 絞り羽の枚数 10枚, 絞り値 F2(T2.2)-F16, 製造年 1974年, 最短撮影距離 1m
光学ブロック(M30ネジ), 重量(実測)43.8g, 絞り羽の枚数 10枚, 絞り値 F2(T2.3)-F16, 製造年 1980年製
   
SONY Eマウントへの変換方法
OCT-18マウントのレンズに対しては現在のところ使いやすい良いアダプターが存在しません。レラーレス機で用いるにはレンズを改造する必要があります。ここではロシアのRAFCAMERAから発売されているOCT18-M58 x0.75アダプターと46-58mmステップアップリングを使い、レンズをSONY Eマウントに変換する方法の一例をご紹介します。下の写真をご覧ください。RAFCAMERAのアダプターをステップアップリングを用いてM46-M42ヘリコイド(17-31mm)に装着します。ヘリコイドのカメラ側末端部はM42-SONY Eスリムアダプターを用いてソニーEマウントに変換してあります。通常よく用いられるM42-M42ヘリコイドではなく、一回り太いM46-M42ヘリコイドを採用したところが工夫点です。これはフォーカスを無限側に取る際に鏡胴が内部でヘリコイドの入り口に干渉するのを防ぐためです。ピント合わせは外部ヘリコイドの側でおこない、レンズ本体のヘリコイドはマクロ撮影時など必要な時以外には使用しません。
 
OCT-18マウントのレンズにRAFCAMERAのアダプターを装着しヘリコイドに搭載、末端をSONY Eに変換しています。ヘリコイドのレンズ側にあるM46ネジのネジピッチはフィルターネジと同じ0.75mmのようです。使用している部品はすべて市販品です

続いてレンズブロックの状態で手に入れたモデルをSONY Eマウントに変換する例です。このモデルはマウント部がM30ネジ(ネジピッチ0.75mm)になっています[2]GOIのカタログではM31(ネジピッチ0.5mm)と記載されていますので2種類の仕様があるのかもしれません。ネジピッチがフィルターネジと同じ0.75mmでしたのでステップダウンリング37-30mmが装着できます。下の写真のようにステップダウンリングを逆さ付けしオスネジ側にM37-M42変換リングを取り付ければ、レンズブロックをM42ヘリコイド(17-31mm)に搭載できるようになります。ヘリコイドのカメラ側末端部は先ほどと同様にM42SONY Eスリムアダプターを用いてソニーEマウントに変換してあります。

使用している部品は全て市販品で、改造と呼べるほど高度なものではありませんが、ステップダウンリングをレンズヘッドに逆さ付けするところが工夫点です






 
撮影テスト
レンズのイメージサークルはスーパー35シネマフォーマットに準拠しており、デジタルカメラで用いる場合にはAPS-Cセンサーを搭載したミラーレス機を選択するのが最適です。OCT-18マウントのモデルの場合、フルサイズセンサーでは四隅に暗角(ダークコーナー)が出ますが、光学ブロックのモデルの方は暗角が少なく、フルサイズ機でも充分に使用できます。
開放からシャープネスとコントラストは高く、発色も濃厚です。滲みやフレアは全く見られず、スッキリとした透明感のあるヌケの良い描写です。絞るとコントラストは更に高くなり、撮影条件によってはカリカリの描写になります。像面は前モデルのOKC1-35-1に比べ格段に平坦になり、非点収差も小さく四隅までしっかりと写り、歪みもよく補正されています。ボケは安定しておりグルグルボケや放射ボケは見られませんが、ポートレート域で背後のボケがやや硬くなることがあります。欠点の少ないたいへん高性能なレンズです。
ピント部の広い範囲にわたり画質が向上したため立体感は控えめですが、フルサイズ機で画角を拡大させると、再び立体感に富んだ画作りができるようになります。
 

CAMERA:SONY A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9)
LENS: OKC8-35-1 (光学ブロック)
Location: Taman Ayun Temple, Indonesia
 
F2(開放) sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)光量落ちが凄くいい感じです

F2(開放) sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)コントラストの良いレンズです

F2(開放) sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)
F2(開放) sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)

F2.8 sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)
F2(開放) sony A7R2(FF mode, Aspect Ratio 16:9,  WB:日光)





 
Fujifilmのカメラに搭載するには、レンズをいったんライカMマウントに改造するのが有効な手です。この場合にはライカM-FXヘリコイド付アダプターに搭載し、ピント合わせはアダプター側の外部ヘリコイドで行います。本体のヘリコイドはスピゴットマウント仕様のため使いにくいからです。マクロ撮影の時など繰り出し量が足らない場合のみレンズ本体のヘリコイドに頼ります。
 
CAMERA:FUJIFILM X-T20
LENS: OKC8-35-1 (OCT-18マウントモデル)

F2(開放)  Fujifilm X-T20(AWB)

F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)

F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)

 F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)


F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)



F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)


 F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB, ISO1600)


OLD LENS LIFE 2019-2020にも掲載されているモバイル情報ブロガーの伊藤浩一さんがOKC8-35-1を所持されていますので、お写真を提供していただきました。ありがとうございます。なんとiPhoneまでも母機にしてしまうという変化自在な使い方を実践なさっています。下の写真をクリックするとWEBアルバムにジャンプできます。
  
Photographer: 伊藤浩一(Koichi Ito)
Camera: Sony A7II / iPhone 11 / Lumix GX7 / Nikon J5
  
LOMOの映画用レンズってカッコいいので、撮っててワクワクしますよね。ヘラジカのような大角も素敵ですが、鏡胴の色落ち具合が1本1本異なるのは素晴らしいと思います。次回のOKC11-35-1もお楽しみに!