LOMOの映画用レンズ part 6
ロモの第一世代1960's
焦点距離35mmのシネレンズは
豪華な7枚構成で中心部の画質を重視
LENKINAP/LOMO
OKC(OKS)1-35-1 35mm F2
OKC1-35-1はPO56の後継モデルとして1950年代末にレニングラードのLENKINAP工場(LOMOの前身組織の一つ)から発売されたスーパー35フォーマット(APS-C相当)の映画用レンズです。ロシアの映画用レンズにはオーソドックスなガウスタイプで設計されたPO4-1 / Helios-33 35mm F2の系譜もありますが、PO56 /
OKC1-35-1はこれらの上位のモデルに位置づけられ、最高級35mmムービーカメラ(主にロシア版アリフレックスのKONVASやロシア版ミッチェルのKSKシリーズなど)に搭載する交換レンズとして市場供給されました。中心解像力が高く開放では立体感に富んだ画作りができるのがこのレンズの特徴で、デジタルカメラに付けて通常の写真撮影に用いる場合はポートレート撮影やスナップ撮影に用いるのが面白そうです。設計は同クラスのシネレンズとしては異例の7枚構成で、Hugo Meyer社のP.ルドルフが1931年に設計したミニチュア・プラズマートの後群に正レンズを1枚追加した発展型です(下図)。これと同じ設計構成を採用したレンズにはライツのSummilux 35mmがありますが、口径比は一段明るいF1.4でした。本レンズでは明るさをF2に抑えることで、ワンランク上の描写性能を実現したと考えることができます。この種の構成で中口径レンズを設計する場合、欠点のない極めて優秀なレンズがつくれることが知られています[1]。
レンズは遅くとも1959年には登場しており、LENKINAPがLOMO(当初はLOOMP)の傘下に入る1962年以降も製造は続いています。レンズの製造がいつまで続いたのか定かではありませんが、1970年のGOIのカタログには掲載されていますし1970年代に作られた製品個体も確認しています。
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OKC1-35-1(左)と前身モデルのPO56(右)の構成図。PO56の方が曲率がきつくガラスには厚みがあります。OKC1-35-1は硝材の屈折力に余裕があるため曲率が緩んでおり、収差が生じにくい構造になっています。中心解像力はPO56からの再設計で15%向上しており、コントラストも向上しています[2] |
OKC1-35-1にはシネマ用ムービーカメラのKONVASに供給されたOCT-18マウントのモデルと、1KSK/2KSKなどに供給されたKSKマウント(ロシア版のBNCマウント)のモデルの2種があります。OCT-18マウントのモデルはシネレンズ特有のスピゴットマウントと呼ばれる方式で、マウント部にはヘリコイドの回転による前後の繰り出しを制御する溝がついています。デジタルカメラで使用するには、ロシアのRafCameraやポーランドのeBayセラーなどが出しているアダプターを利用するのが一般的です。KSKマウントのモデルは鏡胴が巨大ですが、光学ブロックだけを取り外せる構造になっており光学ブロック自体はとてもコンパクトなのでヘリコイドにのせて使用することにしました。マウント部はM30ネジ(ねじピッチ0.5mm)でeBayで購入できるM30-M42アダプターリング(ねじピッチ0.5mm)がピタリと付きます。これを使いM42ヘリコイドに搭載し、末端部をSONY EまたはFUJI Xマウントに変換して用いることができます。いったんLeica Lマウントに変換し他のミラーレス機に搭載することも可能で、ポルトガルのcustomphototools.comが出している30mmx0.5 -M39アダプターと一般的なライカLM変換アダプターを併用し、光学ブロックのマウント部をライカMマウントにしてから、ライカM-ミラーレス機アダプター(ヘリコイド付)に搭載すればよいです。フランジバックを微調整し、最後に30mmx0.5-M39アダプターをライカLM変換アダプターに接着固定すれば完成です。
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光学ブロックのマウント部ネジ径はM30(ねじピッチ0.5mm)ですが、eBayで入手したアダプターリングがピタリと装着できM42マウントに変換できますので、M42ヘリコイドに搭載することができます |
参考文献
[1] レンズ設計のすべてー光学設計の真髄を探るー 辻定彦著 電波新聞社2006年
[2] Catalog Objective 1970(1970年のGOIのカタログ)
[3] RedUser.net : ロシアUSSRレンズ サバイバルガイド
★入手の経緯
羽根のついたOCT-18マウントのモデルは2017年12月にeBayを経由してウクライナのレンズ専門業者から220ドル(190ドル+送料)の即決価格で入手しました。オークションの記載は「MINT Condition(美品)。ガラスはカビ、クモリ、キズ、バルサム剥離等のない、とても良い状態。鏡胴の状態は写真で確認してほしい」とのこと。状態の良い個体が入手てきました。eBayには常時何本か出ており、価格は程度の良いものが250~350ドル程度となっています。光学ブロックは2018年6月にeBayを経由してレンズを専門に扱うロシアの出品者から200ドル+送料の即決価格で入手しました。オークションの記載は「OKC1-35-1の光学ブロックでガラスの状態は大変。傷はない。若干のコバ落ちが見られるがカビ、クモリ等の大きな問題はない。適切なアダプターを用いてデジタルカメラに接続できる」とのことです。後玉側にはメタルキャップが付いていました。このレンズが光学ブロックの状態で市場に出る事は滅多にありませんが、本来はKSKマウントの大きな鏡胴に収められていることを後で知りました。届いたレンズはコバ落ちのみでガラスの状態はたいへん綺麗でした。ebayでの相場は状態の良い個体が、やはり250ドルから350ドルあたりです。後玉が飛び出しておりキズの入っている個体が多いため、購入時は後玉のコンディションに気を付ける必要があります。後玉がキャップで保護されているものを入手する方が安全でしょう。
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OCT-18マウントのモデル:重量(実測)180g, 最短撮影距離(規格) 1m, 絞り羽 10枚構成, 絞り値 F2-F16, 推奨撮影フォーマット 35mm映画フォーマット(APS-C相当), 設計 6群7枚 |
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KSKマウントのモデルから取り出した光学ブロック:重量(実測)63g, フランジバック 33.9mm, fマウント部はM30スクリュー(ねじピッチ0.5mm)。その他の仕様はOCT-18モデルと同じ |
★撮影テスト
レンズのイメージサークルはスーパー35シネマフォーマットに準拠しており、デジタルカメラで用いる場合にはAPS-Cセンサーを搭載したカメラを選択するのが最適です。ちなみに、フルサイズ機では両モデルとも四隅に丸いケラレがハッキリと生じ無理があります。時代的にはシングルコーティングですが、滲みやフレアは全く見られず、スッキリとヌケのよい描写で発色も良好、シャープネスやコントラストは開放から高いレベルに達しています。また、絞っても中間階調は良く出ておりトーンを丁寧に拾ってくれます。開放でも中心部は解像力が高く緻密な像を描いてくれますが、像面が平坦ではないため四隅ではピントが外れます。その分、立体感に富んだ画作りに長けており、無理に像面を平坦にしなかったのて非点収差(像面分離)は小さくボケは安定しています。一段絞れば四隅に向かって良像域は拡がり、風景などでも充分に使えます。ボケはポートレート域でややざわつきますが、強いクセはありません。カタログのデータシートでは光量落ちが大きめに出ていました[3]。ただし、使ってみた感触では全く気になりません。歪みは少し樽型です。
CAMERA:Fujifilm X-T20
LENS: OKC1-35-1 (KSKマウントモデル)
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F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:曇) 開放からスッキリとヌケが良く、コントラストも良好です |
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F4 Fujifilm X-T20(WB:曇) この通り解像力は高く、緻密な像が得られます |
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F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:電球2) 逆光では少しゴーストがでる |
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F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:電球2 ISO1600) |
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F2(開放) Fujifilm X-T20(WB:電球2 ISO1600) |
CAMERA:SONY A7R2(APS-C MODE)
LENS: OKC1-35-1 (OCT-18マウントモデル)
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F2.8, sony A7R2(WB:曇天, APS-C mode) 歪みは樽型。これも階調がとてもいい感じに出ている |
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F2.8, sony A7R2(WB:曇天, APS-C mode) 中心部の解像力はかなりいい。中間階調の良く出るレンズだ |
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F2(開放) sony A7R2(WB: 電球/PSカラー自動補正, APS-C mode) 開放でのスッキリとしていて抜けがよく、よく写るレンズだ |
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F2(開放), sony A7R2(WB:Auto, APS-C mode) 僅かにグルグルボケがでました。出てもこんなもんでしょう。広角シネマ用レンズは開放でフレアの多い製品が多いのですが、本品にはフレアやにじみがあまりでないようです |
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F2(開放) sony A7R2(WB: 電球/PSカラー自動補正, APS-C mode) |
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F2.8(sony A7R2, WB:曇り) |
Photographer: Zhi Mei Li
Camera: Sony A7II
知人のZhi Mei Liさんにレンズを使っていただき、昭和記念公園で半日撮影をしていただきました。Liさんは私がお譲りした映画用のJupiter-9を使い、最近いろいろなコンテストで賞を獲得しているポートレート写真家です。写真作品は現像時にカラーバランスをいじっているそうで、発色はこってり目になっています。下のプレビュー写真をクリックするとリンク先のアルバムページにジャンプできます。
Photographer: どあ*
Camera: OLYMPUS OM-D E-M5 MarkⅡ
続いてレンズをお譲りした知人のどあ* さんにもお写真を寄稿していただきました。どあ* さん曰くOKC1-35-1は「横浜が似合うレンズ」だそうです。多重露光のものが何枚か入っています。あと、ホワイトバランスをいじっているそうです。下のプレビュー写真をクリックするとリンク先のアルバムページにジャンプできます。