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2015/09/04

Nikon AI Nikkor 85mm F1.4S (Nikon F)





ゾナーとガウスの混血児
Nikon AI Nikkor 85mm F1.4S
AI Nikkor 85mm F1.4Sは前群にゾナー、後群にガウスの構成を配したハイブリット(折衷)タイプのレンズである。この種のレンズ構成として早期のものには1938年に特許が出願された東京光学の富田良次(Ryoji Tomita)氏設計によるSimlar(シムラー) 5cm F1.5(製品化は1950年)や、1942年に特許が出願されたDallmeyer(ダルマイヤー)社Bertram Langton (B.ラントン)氏の設計によるSeptac(ゼプタック) 50mm F1.5などがある[文献1,2]。また、1952年に登場したCanonのSerenar(セレナー) 85mm F1.5も同じタイプのレンズ構成である。レンズ設計者達の中には大らかで穏やかな描写傾向のゾナーと神経質なガウスを配合することで、両者の長所を受け継ぐ混血レンズを生み出そうという考えがあったのかもしれない。一方、富田良次氏が1938年に出願した特許資料[文献1]には非点収差と像面湾曲を良好に補正できるレンズとの記載がみられることから、折衷というアプローチではなくガウスタイプからの発展形態としていた意図が感じ取れる。ガウスタイプの第2群をダブレット(2枚玉)からトリプレット(3枚玉)に変更し、真ん中に挟まれている凸レンズを低屈折率硝材にすることでガウスタイプに対しペッツバール和の改善をはかったという考え方である。結果的には折衷案と同じになったわけだ。
ゾナーと言えば一般に解像力は控えめで線は太いが、ボケが穏やかで美しく、コマフレアが少ないためシャープでヌケの良い描写が特徴であり、対するガウスは高解像で線は細く色収差も少ないが、コマフレアがやや多く、ボケがやや不安定であるなどゾナーとは概ね正反対の特徴を持つ。レンズの配合が成功した事例としてはプロターとウナーからつくられたTessar、ガウスとトポゴンからつくられたXenotar /Biometar、ガウスとプラズマートからつくられたMiniature Plasmatなどがある。しかし、多くの場合には掛け合わせる両親の性質が混ざり合ってしまい、メンデルの優性の法則のように両親の形質と同等のものが受け継がれるわけではない。長所も短所も中庸化してしまうのが一般的で、都合よく長所のみが高水準で発現する可能性は遺伝子に情報を蓄える生物に比べると圧倒的に低いのである。しかし、それでもF1.5程度の明るさを実現できるレンズ構成が当時まだ数種類しかなく、ゾナーとガウスの配合にはそれなりの意味があったのであろう。
さて、本レンズにはゾナーの形質とガウスの形質がそれぞれどの様にあらわれるのであろうか。

SonnarタイプとGaussタイプの配合で生まれたハイブリットレンズたち。Nikonのみ文献3からトレーススケッチした見取り図で、他は特許資料からのトレーススケッチである

AI Nikkor 85mm F1.4Sは1981年に登場したNikonの一眼レフカメラ用レンズとしては初となるF1.4クラスの中望遠レンズである。フォーカッシングの際に光学系内部のいくつかのレンズ群をそれぞれ異なる繰出し量で動かす近距離補正(フローティング)方式を搭載しており、近接撮影から無限遠まで距離によらず良好な画質を得ることができるというのが特徴である。設計は下図に示すような5群7枚構成のSimlar/Septacタイプからの発展形態で、前群が空気層入りのゾナータイプ、後群がガウスタイプとなっている。前群の空気層には球面収差の膨らみ(輪帯部)を抑え解像力を高める効果があり、後ボケを柔らかくさせる二次的な作用もある。1995年には後継のオートフォーカスレンズAI AF Nikkor 85mm F1.4Dが登場するが、その後も生産は継き、2005年12月の生産終了まで24年間で合計約70000本が世に送り出された[参考1]。2010年には後継の新型レンズAF-S Nikkor 85mm F1.4Gが登場している。

★参考文献
文献1 Ryoji Tomita, JP Pat. no. S15-3014, 特許出願公告第3014号(Appl. date 1938)
文献2 Bertram Langton, Patent GB 553,844(Appl. date 1942)
文献3 「こだわりのレンズ選び part 2」 写真工業出版社 2006年
参考1 KenRockwell.com; Nikon 85mm F1.4
参考2 Nikon仕様表(公式)こちら
参考3  CANON CAMERA MUSEUM; Serenar 85mm F1.5 I
AI Nikkor 85mm F1.4Sの光学系: 構成は5群7枚のSimlar/Septacyタイプである。左側が前群(被写体側)で右側が後群(カメラ側)。文献3に掲載されていた構成図をトレーススケッチした


入手の経緯
レンズは2014年12月にレモン社銀座店の店頭で54000円(税込)にて購入した。商品のコンディションは同店の評価基準でAB+(極小の擦り傷があるが、目立ったキズのない美品)とのことで、純正フードとリア・キャップがついてきた。購入時は同店に同じモデルの在庫が3本あり、それぞれにA、AB+、AB+の評価がついていたので、一本一本ガラスを入念にチェックし光学系が最もクリーンな個体を選択した。私の選んだレンズにはホコリや汚れがあったが、これらは絞りの側の表面であったため、前群をユニットごと取り外せば光学系をバラさなくても美化できると判断、自宅に持ち帰り早速取りかかったところ読みは当たり、軽い清掃だけでレンズは素晴らしい状態になった。オークションでの中古相場は55000~60000円程度である。
重量(公式)620g , 絞り羽 9枚, フィルター径 72mm, 最大径x長さ 80.5x64.5mm, 最短撮影距離 0.85m, 5群7枚, 1981年9月発売(発表は1980年), 2005年12月生産終了, Nikon Fマウント,  絞り F1.4-F16, マルチコーティング(前玉と後玉でコーティングの種類が異なるようである), 近距離補正方式, 小売価格¥90,000(発売時)/¥107,000(販売終了時), 純正フード Nikon HN-20
撮影テスト
ボケの安定感やコマの少なさはゾナーの形質を見事に受け継いでおり、開放でもグルグルボケや放射ボケは殆ど検出できず、滲みやフレアも全く目立たない。穏やかで柔らかいボケ味となっている。ピント部は四隅まで充分に解像力があり、コントラストも良好で、スッキリとヌケのよい写りである。発色はノーマルで、絞りの開閉に対しても安定している。コーティングの性能が良いためか、よほど条件が悪くない限りゴーストやハレーション(グレア)とは無縁である。コマ収差は良好に補正されており、F1.4の開放では周辺部の点光源が僅かに尾を引く程度である。ちなみにF2まで絞れば拡大してもコマは全く検出できない[参考1]。歪みは全く目立たず、周辺光量落ちも開放においてさえあまり目立たない。階調描写は開放で適度に軟らかくトーンはなだらかで、少し絞るとシャープになり、更に深く絞るとカリカリな硬い描写へと変化する。デジタルカメラでの撮影時には開放でカラーフリンジが目立つ事があり、高輝度部に隣り合う低輝度部が色づいてみえる。これはフィルム時代のレンズにはよくあることで、レンズの収差設計がフィルムの感光特性に準拠していることに由来する。絞り込むとカラーフリンジは消滅するので、軸上色収差に起因するものであろう。もちろんフィルムでの撮影時には全く目立つものではない。最も驚いたのは、このレンズがゾナーとガウスの長所をかなり高水準で両立させている点である。そんな都合のよいことが本来は起こるわけがない。おそらく、本レンズに搭載された近距離補正(フローティング)方式と空気レンズの効果であるに違いない。いずれ機会があれば、これらを持たないSimlar 5cm F1.5(Topcor 50mm F1.5)やSerenar 85mm F1.5の描写を見てみたいと思う。
カラーフリンジの事を除けば、これといって取り上げるほどの弱点はなく、開放から完全に実用的な画質である。Nikkorにはよく写る(写りすぎる)モデルが多くオールドレンズ的な嗜好にはそぐわないため、本ブログではこれまであまり取り上げてこなかった。今回のレンズもやはり非の打ち所のない優秀なレンズである。あーあ。 
デジタル撮影
Camera: Nikon D3
Hood: Nikon HN-20 (純正)
F1.4(開放), Nikon D3(AWB): 「開放でここまで写るかニッコール」。写り過ぎるというのも困ったものだ。ピント部は解像力充分である
F1.4(開放), Nikon D3(AWB): 近接域でも滲みなどなくキッチリと写る
F1.4(開放), Nikon D3(AWB): 開放でも充分にシャープだ

F1.4(開放), Nikon D3(AWB): 背後のボケは適度に柔らかく滑らかで安定感もある。階調も軟らかくなだらかだ
F1.4(開放), Nikon D3(AWB): コントラストは高く発色も良い
F1.4(開放), Nikon D3(AWB): コマもよく抑えられており、ピント部は四隅でも高描写である。とてもヌケのよいクリアな写りだ。オールの辺りで少しカラーフリンジを拾っている





F1.4(開放), Nikon D3(AWB): グルグルボケの出そうな状況だが全く問題ない。パドルのあたりにやはりカラーフリンジがみられる。パドルが好きなのか?



 
ここまで全てF1.4の開放絞りによる撮影結果だが、ややカラーフリンジが見られる以外は非の打ちどころのない素晴らしい描写性能だ。続いて絞って撮影した結果である。
 
F2.8, Nikon D3(AWB): 絞れば消えるのでカラーフリンジは軸上色収差に由来するようだ




F2.8, Nikon D3(AWB):
F2.8, Nikon D3(AWB):
F4 , Nikon D3(AWB):
F2.8, Nikon D3(AWB):
F5.6, Nikon D3(AWB): ここまで絞るとデジタルカメラとの組み合わせではカリカリ過ぎる階調描写で、シャドー部がストンと鋭く落ちてしまい硬い印象を与える。ニコンらしいと言えばニコンらしいが










銀塩撮影
Camera Nikon FM2
Hood: Nikon HN-20 (純正)

F2.8, 銀塩撮影(SUNNY 100カラーネガ): 厳しい逆光もなんのその。ゴーストも全く出ない

F4, 銀塩撮影(SUNNY 100カラーネガ): 少し青みがのるのはフィルムの特性である
F1.4(開放), 銀塩撮影(SUNNY 100カラーネガ)カラーフリンジはフィルム撮影の場合には、ほとんど目立たない
F2, 銀塩撮影(SUNNY 100カラーネガ): 綿毛のようなボケ味だ。木にのっている方は本物の綿毛





2012/04/02

Nikon New Micro Nikkor 55mm F3.5(Nikon F mount)


四隅までカリッと写る驚異の5枚玉:PART5(最終回)
小穴教授のDNAを受け継いだ
日本製Xenotar型レンズ

1954年春、Schneider(シュナイダー)社の新型レンズXenotar(クセノタール)は東京大学の小穴教授によって日本の光学機器メーカーのエンジニア達に紹介され、アサヒカメラ1954年7月号にはレンズを絶賛する同氏の記事が掲載された。これ以降、Xenotarは光学機器メーカーによって徹底研究され、メーカー各社から同型製品が数多くリリースされている。アサヒカメラの記事の中で小穴教授はXenotarの設計で口径比をF3.5にとどめるならば、新種ガラスを使うまでもなく、Xenotar F2.8を凌駕する更に優秀なレンズができることを世のレンズ設計者達に唱えている。小穴教授は日本光学工業株式会社(現Nikon)設計部エンジニアの東秀雄氏と脇本善司氏にF3.5の口径比を持つXenotar型レンズの開発を依頼していた。東氏は小穴教授と東大時代の同窓であり、脇本氏は小穴教授の研究室を出ているという親しい間柄である。
1954年3月初旬、依頼を受け開発に取り掛かっていた東・脇本両氏はF3.5で設計したXenotar型レンズの優れた描写力、特に開放からのずば抜けた性能にひどく熱中していた。その数か月後にはアサヒカメラに記事が掲載されるが、その頃にはレンズの試作品が完成、1956年10月には製品化に至っている。Nikonのマクロ撮影用レンズの原点Micro-Nikkor 5cm F3.5である。このレンズは同社のレンジファインダー機Nikon S用に開発されたものであるが、発売から5年後の1961年に脇本氏によって一眼レフカメラに適合させるための修正設計が施され、焦点距離を5mm伸ばしたMicro-Nikkor 55mm F3.5(Nikon Fマウント)として再リリースされている。
左はXenotarで右はMicro-Nikkor 3.5/55の光学系。個々のレンズエレメントの厚みに差はあるが基本設計は大変良く似ている
Xenotar/Biometar型レンズのシリーズ第5回(最終回)は小穴教授のDNAを受け継ぎ、Nikonの脇本善司氏が再設計した日本版XenotarのMicro-Nikkor 55mm F3.5である。1961年に登場した初期の製品は等倍の最大撮影倍率を実現した手動絞り機構のレンズであるが、その2年後には最大撮影倍率を1/2倍に抑えた自動絞りのMicro-Nikkor Auto 55mm F3.5も発売されている。このレンズは1961年の登場後、19年に渡る生産期間で12回ものマイナーチェンジが繰り返され、13種が存在、後半に造られたAiタイプだけでも5種類の存在が確認されている。細かい仕様変更を除けば以下の6モデルに大別される。

1961 Micro-Nikkor 等倍撮影可能 手動絞り
1963 Micro Nikkor Auto 最大撮影倍率が0.5に変更、自動絞り導入
1970 Micro Nikkor Auto-P 金属ヘリコイドリング(後にゴム巻きへ)
1973 Micro Nikkor Auto-PC マルチコーティングの導入
1975 New Micro Nikkor ヘリコイドはゴム巻きのデザインへ
1977 Ai Micro Nikkor Aiに対応

ただし、光学系は脇本氏による再設計以降、一貫して同じものが使われ続けた。1980年にガウスタイプのAiS Micro-Nikkor 55mm F2.8が発売され生産中止となっている。
今回入手したモデルはMicro-Nikkorシリーズの5代目として1975年に登場したNew Micro Nikkor 55mm F3.5である。ガラス面にはマルチコーティングが施され、コントラスト性能をさらに向上させた製品である。描写設計はマクロ撮影に特化されており、近接撮影時に最高の画質が得られるようチューニングされている。Xenotar型レンズには収差変動が比較的小さいという優れた光学特性があるため、このような位置づけの商品が誕生するのはごく自然なことなのであろう。後に富岡光学も同型のマクロ撮影用レンズを開発している。
NEW MICRO-NIKKOR 55mm F3.5: フィルター径 52mm, 最短撮影距離24.1cm, 最大撮影倍率0.5倍, 絞り値 F3.5-F32, 構成 4群5枚クセノタール型, 重量(実測)242g, 基準倍率 0.1倍(被写体からフィルムまでの距離が66.55cm),Nikon Fマウント, ガラス面にはマルチコーティングが施されている

★入手の経緯
このレンズは今でも流通量が多く、中古店やヤフオクでは在庫が絶えることはない。今回の品は2011年12月にヤフオクを通じて前橋のハローカメラから落札購入した。商品には12000円の即決価格が設定されており、私を含めて8人が入札、4904円+送料別途で私が競り落とした。商品の状態は「ピントは正常、レンズ内には少なめのゴミあり。外観は少なめの使用感あり。」とのことでUVフィルターとキャップが付属していた。このショップは清掃を施していない全ての中古レンズに対して、「ゴミあり」と記すのが慣例のようである。ホコリの無い中古品なんて皆無なので、程度の幅を考慮した上での記述のようだ。届いた品は極僅かにホコリの混入があるのみの上等品であった。同品の中古相場は非Ai版で5000-7000円、Ai版とAi改造版では8000-10000円程度とロシアのVega-12Bよりも安い。世界で最も安いXenotar型レンズなのではないだろうか。

 

★撮影テスト
高解像で硬諧調な描写設計はXenotarを模範とする本レンズにも受け継がれており、ピント部はF3.5の開放絞りから高いシャープネスを実現している。手元の資料によると解像力は0.1倍の基準倍率(撮影距離66.5cm)における近接撮影時でさえ100線/mm以上と非常に好成績だ。F3.5の口径比は一般撮影の用途にはやや物足りないが、マクロ域での撮影には充分な表現力を提供してくれる。ガラス面にはマルチコーティングが施されており、高コントラストで発色は鮮やか。写りは現代的である。ただし、弊害もあり、晴天時に屋外で使用する際には階調変化が硬くなりすぎてしまい、シャドー部に向かって階調がストンと落ちる傾向があるので、黒潰れを回避するためには絞りすぎに注意し、コントラストの暴走にブレーキをかけなければならない。このレンズを使いこなすにはカメラマンの腕が問われるところだ。
レンズの設計はマクロ撮影に特化されており、球面収差は無限遠方の撮影時に過剰補正となっている。レンズの事に詳しいマイヨジョンヌさんを介してNikonの技術者の方にうかがった情報によると、このレンズは撮影倍率が1/30となる辺りを境にして、遠方側の撮影時では過剰補正により後ボケが硬くなり、逆にそれよりも近接の撮影では補正アンダー(補正不足)により、なだらかで柔らかいボケが得られるとのことだ。また近接撮影では像面湾曲もアンダーとなり、グルグルボケなどに無縁な穏やかな後ボケになるとのことで、近接でのブツ撮りに適したレンズといえそうだ。
F3.5 銀塩撮影(Fujicolor Superior200): 開放からスッキリとしてシャープ。コントラストは高い
F5.6 銀塩写真(Kodak SG100): こちらも近接撮影。四隅まで均一性は高い
F3.5 銀塩撮影(Fujicolor Superior200): 近接での作例。収差変動により後ボケは大変柔らかくなる。思い切って開放で撮ってみたが、ピント部は依然として四隅までシャープ。優れたレンズだ
F5.6 銀塩撮影(Kodak SG100): マルチコーティングのおかげで発色はかなり鮮やか。現代的な描写だ

F5.6  銀塩撮影(Fujicolor Superior200): ・・・これは笑える

F3.5 銀塩写真(Fujicolor Superior200) 階調はこのとうりに、かなり硬めだ
上段F3.5(開放)/下段F8: 銀塩撮影(Fujicolor Superior200): 手元の資料によると、このレンズはフィルム面から被写体までの距離が66.5cmのところ(基準倍率点)で最高の画質が得られるよう設計されている。この作例はちょうどその辺りの距離で被写体を映したものだ。ピント部は開放から高解像で、ボケも硬くなりすぎずに穏やかだ。ただし、被写体までの距離がこれ以上離れると、いわゆる球面収差の過剰補正域となり、ボケが硬くなってしまう。このあたりが良くも悪くもマクロレンズの宿命なのであろう

F5.6 銀塩撮影(Fujicolor Superior 200): 背後からパシャリとしてみたが、実はこちらを見ている・・・怖いよ~
F11 銀塩撮影(Kodak SG100): 黒つぶれ!このレンズを晴天時に屋外で使用する際は絞り過ぎに注意した方がよい。この作例のように階調がシャドー部に向かってストンと落ち、容易に黒つぶれを起こすからだ。とは申してみても、近接撮影時にはどうしても絞りたい。どう注意すればよいのだろう・・・。そうか、こういう時にこそ、シングルコーティングのオールドレンズを使いコントラストを圧縮すればよいのだ。マルチコーティングが一概によいとは言えない反例を提供している
シャープネスやコントラストなど典型的な描写力だけで比べるならば、Micro-Nikkorは銘玉Xenotarに勝るとも劣らない素晴らしいレンズである。しかし、中古市場における両者の相場には10倍以上の開きがある。この相場の差はレンズの実力ではなくブランド力の差なのだ。いつの時代も、その分野を開拓したパイオニア製品には最高の支持がつく。そのことは銘玉Sonnarと、そのロシア製コピーレンズであるJupiterの関係を見ても明らかである。Micro-Nikkor F3.5はニコンの高い技術力によって生み出された優秀なレンズであるが、やはりXenotarの模倣品である事に変わりはない。仮に実力でXenotarを凌駕していたとしても、高いブランド力を得ることはないだろう。

謝辞
Biometar/Xenotar型レンズのみをひたすら取り上げる5枚玉特集は今回のPART5で最終回となります。ようやくこの企画に一区切りをつけることができました。多くの方からアドバイスをいただき、回を重ねるたびに、この種のレンズに共通する描写の特徴が少しずつわかってきました。個人のBlogなので時々は誤った事も平気で書くことがありますが、私はレンズの専門家ではなく単なるオールドレンズユーザーなので、これからも思いきりの良さだけは大事にしていきたいと思っています。どうか暖かく見守ってください。また、発展途上の私に、どうか正しいレンズの知識をご教示ください。本特集でやりのこした事がひとつだけあります。ローライフレックスの時代から続くPlanar 80mm F2.8とXenotar 80mm F2.8の両横綱の一騎打ちです。Planarは既に入手しています。しかし、このレンズは厳密にはXenotarタイプではありませんので、これは別の機会とすることにしましょう。有意義な機会を与えてくださった諸氏に心から感謝いたします。