M42マウント用レンズの規格でF1.2の大口径を実現するには、後玉側の絞り連動ピンが邪魔になる。こうした困難を乗り越えるために本レンズでは極めて大胆な設計が導入された。後玉のガラスの一部を削り落としてしまったのである
OEMブランド 第三弾
後玉を削り落とした執念の傑作
富岡光学は日本光学工業(現ニコン)のレンズ設計主任であった富岡正重が1924年に同社を退社後、旧東京市に設立した光学機器メーカーだ。戦時中は大砲や零戦の照準器などの光学兵器の製造を事業の柱に据え、その傍らで高性能な工業用レンズを製造していた。工場は1945年5月の爆撃によって焼失したが、終戦後の1949年に青梅市に疎開させておいた設備の一部を用いて事業を再スタートさせた。その後はヤシカの傘下に入り、カメラ用レンズや複写機用レンズなどを製造した。コンタックス用カールツァイスレンズを製造するなど技術力は国外からも高く評価されてきた。ローザー、トリローザー、トミノンなどの自社ブランドによるレンズも供給していたが、次第にOEM製品が中心となっていった。京セラとヤシカの合併を経て現在は京セラオプティックへと社名を変更している。富岡光学は優れた技術力により戦後のカメラ産業を陰で支えてきた一流名門企業である。
今回入手したのは富岡光学が設計・製造したレンズの中でも絶大な人気を誇るAUTO REVUENON 55mm/F1.2である。レンズを設計したのは同社設計士の木下三郎という人物で、レンズは1970年頃に製造されたと言われている。REVUENON(レフエノン)という名はドイツの通販会社Quelle(クエレ)のカメラ部門REVUEが扱っていたOEMブランドで、このブランドの幾つかの商品を富岡光学が受注生産していたのだ。このレンズの特徴は何といっても、開放絞り値がF1.2と抜群の明るさを持つことであろう。本品以外にはコシナの製造した55mm / F1.2と、暗視スコープ用のNo-irisレンズCYCLOP-M1 85mm/F1.2(ロシア製)があり、いずれもM42マウント用レンズの規格として実現可能なギリギリの口径比を持つレンズだ。
今回入手したのは富岡光学が設計・製造したレンズの中でも絶大な人気を誇るAUTO REVUENON 55mm/F1.2である。レンズを設計したのは同社設計士の木下三郎という人物で、レンズは1970年頃に製造されたと言われている。REVUENON(レフエノン)という名はドイツの通販会社Quelle(クエレ)のカメラ部門REVUEが扱っていたOEMブランドで、このブランドの幾つかの商品を富岡光学が受注生産していたのだ。このレンズの特徴は何といっても、開放絞り値がF1.2と抜群の明るさを持つことであろう。本品以外にはコシナの製造した55mm / F1.2と、暗視スコープ用のNo-irisレンズCYCLOP-M1 85mm/F1.2(ロシア製)があり、いずれもM42マウント用レンズの規格として実現可能なギリギリの口径比を持つレンズだ。
本レンズにはコーティングの異なる2種類の個体の存在が知られている。一つはガラス面がホワイト・ゴールドに輝く単層コーティングのレンズであり、もう一つは若干数が製造されたタイプで、ホワイト・ゴールド色にパープルのかかったマルチコーティングのレンズである。両者には外観上の差異はなく、双方あわせて約3500本が製造された。富岡光学の製造した55mm/F1.2のレンズには他にも幾つかの姉妹品が存在し、CHINON, COSINON, YASHINONなどの名でも製品化されていた。また、若干数であるが自社ブランドTOMINON銘を冠する製品も存在し、希少価値の高さから市場では他のブランド銘の品よりも高値で取引されている。対応マウントはM42とペンタックスPKまで確認したが、他にもあるかもしれない。美しい輝きを放つコーティングと合皮のローレットが高級感を醸し出しており、とてもゴージャスはレンズだ。
富岡光学は優れたレンズを世に送り出していたが、OEM供給が主体であったため表舞台にはあまり登場することがなかった。そのことが知る人ぞ知るレンズという印象を与え、国内外のマニア達のハートをガッチリとつかんでいるようだ。自らを「信者」と称する熱狂的なファンがついているため、大胆な事を書くとこのブログも攻撃対象になってしまう。どうひまひょ。
富岡光学は優れたレンズを世に送り出していたが、OEM供給が主体であったため表舞台にはあまり登場することがなかった。そのことが知る人ぞ知るレンズという印象を与え、国内外のマニア達のハートをガッチリとつかんでいるようだ。自らを「信者」と称する熱狂的なファンがついているため、大胆な事を書くとこのブログも攻撃対象になってしまう。どうひまひょ。
重量: 337g , 最短撮影距離:0.5m, フィルター径:55mm, 焦点距離/絞り値: 55mm/F1.2-- F16, 鏡胴には絞り機構のAuto/Manual切り替えスイッチがある。後玉側のマウント部からは絞り連動ピンが出ている。後玉径が大きいため、ピン押し用の天板がついたアダプターを装着すると、無限遠近くで天板とレンズの後玉枠が干渉してしまう。マウントアダプターを装着する際には注意が必要で、本品には天板なしのアダプターを用いなけらばならない。連動ピンを押し込んで固定させることができれば、EOS5D等フルサイズセンサを搭載したカメラでもミラー干渉せず普通に使用が可能のようだ
★入手の経緯
今回入手した品は2009年12月にドイツ版eBayに出品されていたものだ。商品の記述には「光学系、外観とも綺麗だがローレット部の合皮が一部収縮して短くなり、つなぎ目が開いている」と書かれていた。WEBで調べたところ同様の不具合がREVUENONの古いレンズで多発しており、このブランドに特有の持病であることがわかった。出品当初のオークションの記述欄にはドイツ国内への配送に限定した商品であると書かれていたが、中国人バイヤーが掲示板で国際郵送に対応可能かどうかを問い合わせ、出品者から可能との返答を受けていたので、このまま私も入札に加わることにした。本品は国内の中古店相場が8万円~9万円、ヤフオク相場は6~7万円。eBayでも500㌦~600㌦程度する高級品である。懐事情を考えると私には到底落札などできる品ではない。一応入札はしてみたものの最初から諦めムードのため、スナイプ入札などは考えもしなかった。やる気のないまま前の日に210ユーロ(約27000円)の上限額を設定したまま放置しておいたのである。ところが翌日になって奇跡がおこった。何と僅か177ユーロ(約22500円)で落札されていたのである。出品者も取引連絡の中で「この品には誰も注目していなかったようだ。あんたはラッキーだねぇ。」と言い放っていた。ただし、ドイツからのDHLによる配送費用はバカ高く、40ユーロ(約5000円)もかかった。
ローレット部の合皮(モルトプレーン?)が収縮しつなぎ目が開いてしまう症状。REVUENONシリーズに良くある持病だ
★試写テスト
本品の最大の特徴は開放絞りにおける柔らかい結像と滑らかなボケ味、線の細い繊細な描写である。被写界深度は極めて狭く、きちんと合焦させるのは難しいが、ピント面にはしっかりと芯があるので、丁寧にピントを捉えれば絞り開放でも、そこそこシャープに結像する。アウトフォーカス部では二線ボケの傾向があると耳にしていたがテスト撮影では検出できなかった。少し絞ればピント面の結像は均質かつ大変シャープになり、繊細な線の細い描写にかわる。開放絞り付近では発色がやや淡泊でコントラストは控えめだが、F2あたりまで絞れば程よいレベルに改善する。
後玉を削ってまで実現した開放絞りF1.2にはどれだけの効果があるのだろうか。富岡光学の製造した55mmの標準レンズには開放絞り値がF1.4の製品も存在し、本品の半値以下の相場で売られているので、本品よりもこちらを購入するという選択もある。
F1.2(開放絞り;中距離)被写界深度が極めて浅いことがわかる(新宿区明治通り)
F1.2(近接) 開放絞りで接写撮影となると、このとおり視差が大きくボケは深い。ピント面はカミソリの刃のように薄いので、ピント面付近の結像もポワーンとソフトになってしまう。それにしても実に柔らかい描写だ。ただし、開放絞りではコントラストが少し低下気味である
F1.2/F1.4/F2/F4(中距離); ピント面のシャープネスの比較。開放絞りにおいても合焦面はシャープに結像し、芯のあるしっかりとしたピント面が得られる
上・下段ともF1.2/F1.4/F2/F4において中距離でボケ味を比較した撮影結果。F1.2とF1.4にけるボケ具合の僅かな差異を肉眼で判別することはできない。絞るとコントラストが向上している
F2 開放絞りからF2あたりまでは絞り値の変化に対しコントラストの改善が顕著だ。画質的にはF2が一番おいしい
F2.8(中距離)三角コーナー:新宿区新大久保
F4(近距離)細部まで解像されている。ここまで絞り込めばかなりシャープだ
F5.6 ここまで絞り込めば極普通の描写である。鹿児島→沖永良部島のエアコミューター
F8(遠景) 遠距離での撮影結果(新大久保で見つけた戦艦風のへんな建物)
★使用機材: Tomioka REUVENON 55mm/F1.2 + Eos kiss x3 + minolta hood (内径57mm)
絞り値f1.2とf1.4で撮影した画像を並べてみても、どちらがf1.2のものであるのかを肉眼で判別することはできなかった。残念ながら後玉を削ってまで実現したf1.2の優位性は極僅かなレベルであるといえる。しかし、がっかりしてはいけない。本レンズは何と言っても伝説のTOMIOKA銘を冠する逸品。カメラマンの所有欲を満たし、撮影に対する意欲を高揚させるなど、撮影者の心理面に及ぼす効果は大いに期待できる。本レンズを使えば良い写真が撮れるかもしれないという期待から、カメラマンの感性や集中力はいっそう研ぎ澄まされ、本当に良い写真が撮れてしまうのだ。開放絞りf1.2のアドバンテージは全く無いとは言いきれない。
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