おしらせ

2018/10/30

LOMO cinema movie lenses part0 (prologue) ロモの映画用レンズ



サンクトペテルブルクからやってきた
ロモの映画用レンズ PART 0(Prologue)
LOMO(ロモ:レニングラード光学器械合同)は文学とバレエの都、そして白夜でも有名なロシア・レニングラード州の古都サンクトペテルブルクに拠点を置く光学機器メーカーです。日本ではロモグラフィーの名でも知られ、トイカメラの供給源としてクリエイティブな創作活動とコラボしているイメージが定着していますが、実態は製造業の90%が軍需光学機器と宇宙開発、産業用・医療用光学機器に向けられ30000人の技術労働者を抱え持つ強大コンビナートでした。カメラや映画用機材の生産は企業活動のほんの一部にすぎません。
創業は旧ソビエト連邦時代の1965年で、戦前から映画用機材や光学兵器を生産していたGOMZ(国営光学機械工場)を中心にLENKINAP(Leningrad Kino Apparatus:レニングラードシネマ器機)など複数の工場の合併と再編により誕生しました。LOMOのシネレンズには映画産業に供給されている業務用のOKCシリーズと、主に産業用や軍需品として供給されているЖシリーズ(Gシリーズ)の2系統があり、鏡胴のつくりや画質基準に差があります。
今回からはロモが旧ソビエト連邦時代に生産した映画用レンズを特集してゆく予定です。取り上げるレンズはOKC1-16-1 16mm F3,  OKC1-18-1 18mm F2.8,  Hydrorussar-8 3.5/21.6,  Ж-21 28mm F2,  OKC4-28-1 28mm F2,  OKC1-35-1 35mm F2,  OKC8-35-1 35mm F2,  OKC11-35-1  35mm F2,  OKC1-50-1 50mm F2,  OKC1-50-3 50mm F2m  OKC1-50-6 50mm F2, OKC1-75-1 75mm F2,  OKC6-75-1 75mm F2,  Ж-48 100mm F2です。レンズ銘が住所の番地みたいでややこしいのですが、OKCのうしろに続くX-YY-ZのうちXがレンズのモデル番号で、設計や仕様が異なるごとに異なる番号が付与されています。YYが焦点距離をあらわし、Zはモデルのバージョンを表しています。Sony α7IIIにたとえるなら、7がXでIIIがZとなり、EOS 5Dマーク3では5DがXでマーク3がZというわけです。採算性を度外視した共産圏の製品らしい怪物レンズも陸海空から何本か登場します。度肝を抜かれてください。


OKC1-16-1  16mm F3  陸(ランドスケープ用の広角シネレンズ)





Hydro-Russar 21.6mm 海  (潜水艦搭載用の広角シネレンズ)

Ж-48 100mm F2 空 (偵察機設置用の望遠シネレンズ)

2018/10/26

KOMINE ELICAR / ROKUNAR V-HQ 90mm F2.5






 
海外で絶賛された国産マイナーレンズ PART 2
知る人ぞ知る高性能マクロ望遠レンズ
KOMINE  ELICAR / ROKUNAR V-HQ MACRO MC 90mm F2.5
ELICAR(エリカ―)は日本のタパック・インターナショナルという会社が設計し、コミネがOEM生産した海外向けの輸出レンズブランドです。日本国内での販売実績は殆どなく欧州や北米のマーケットが中心でしたが、広角、望遠、マクロ、望遠マクロなど数多くのラインナップが供給されていました。私が確認しただけでも広角側から23mm F3.5、28mm F2.8、35mm F2.8、V-HQ 55mm F2.8 MACRO、V-HQ 90mm F2.5 MACRO、V-HQ 90mm F2.5 Medical Macro、135mm F2.8、200mm F3.5、80-200mm F4.5-F5.5 ZOOM MACRO、V-HQ 300-600mm F4.1-F5.7、 600-1200mm F10-F20などがあります。中でも中望遠マクロレンズのV-HQ 90mm F2.5 MACROは英国やドイツのカメラ雑誌が特集号を組み、描写性能、特に解像力の高さを絶賛したため、ヨーロッパを中心に海外市場で一定の評価を得るようになりました。
このマクロレンズは繰り出し量が多く、ヘリコイドを最長まで繰り出すと、鏡胴は元の長さの3倍にもなり、最大で等倍までの高倍率撮影に対応できます。私が入手したのはNikon Fマウントで市場供給された個体ですが、他にもミノルタMDやキャノンFD/EF、ペンタックスPKなどの国産カメラの主要マウント規格に加え、M42、QBM、T2などの個体もあり、実に多くのマウント規格に対応しています。ブランド名もELICAR V-HQ以外に米国ではROKUNAR V-HQの名で販売されました。レンズ銘の後ろにV-HQの表記があることがElicarシリーズの共通則です。ブラックカラーとホワイトカラーの2色の鏡胴があり、マニアの間では「黒エリカ―、白エリカ―」などと呼ばれています。レンズ構成は公開されていませんが、光を通し反射面の数を見ると、前群側に4面分の明るい反射、後群側に4面分の明るい反射と1面の暗い反射が確認できます。おそらく4群5枚のリバース・クセノタール型であろうかと思われます。

 
重量 555g,  絞り羽 8枚構成, フィルター径 62mm, 絞り指標 F2.5-F32, 最短撮影距離 35cm, 入手した個体はNikon Fマウント

 
入手にあたっての基礎知識
国内よりも海外での流通量が多いため、レンズを探すならeBayを当たるほうがよいでしょう。欧州市場での相場は250~300ユーロあたりです。ただし、米国での認知度の方が欧州ほど高くないため、米国のセラーの方が安く出品する傾向があります。流通量は米国よりも欧州市場の方が多いと思います。

撮影テスト
解像力を重視したレンズで、開放では若干のフレアがピント部を覆いますが、細部までしっかりと解像してくれる高性能なレンズです。収差の補正基準は無限遠方ではなく近接側のようで、開放でのシャープネスやコントラストは近接撮影時の方が良好です。ポートレート域では収差の補正が過剰に効いてしまうので、少しフレアの目立つ柔らかい開放描写となり、背後は二線ボケ気味の硬いボケ味になります。あまり語られることは少ないのですが、長焦点のオールドマクロレンズには、実はバブルボケレンズとして流用できる裏技があります。もちろん、このレンズのテリトリーである近接撮影では柔らかいボケに変わります。
フレアは絞り込むごとに消失、F8でシャープネスと解像力は高い次元で両立します。絞りに対する焦点移動はあまり気にならないレベルでした。歪みは殆どありません。
マクロ域での性能が大変素晴らしいレンズだと思います。

エリカ―で1000円札のミクロの世界を探検する




日本の貨幣には偽造を防ぐ観点から、極めて細かなパターンが施されています。今回はこのレンズの最大倍率(等倍)で撮影した画像を見ながら、緻密なデザインが施された1000円札の世界を探検してみましょう。財務省のサイト(こちら)を見ると、お札の写真をブログ等に掲載する場合についての記述があります。これが印刷されると「通貨及証券模造取締法」に抵触する可能性がでてきますが、写真をブログにアップすること自体に制限はありません。画像に「見本」などの文字を入れたり、貨幣全体を写さないなどの配慮が推奨されています。
 
F8,  SONY A7R2(AWB ISO200固定) 等倍:  レンズの最大撮影倍率(等倍)では、このくらいになります。中央をクロップし切り出したのが、下の写真です

F8,  SONY 7R2(AWB  ISO200固定) 等倍からさらにクロップ: 一つまえの等倍の写真の中央部を更に拡大した写真。インクの滲みや小さな文字など、肉眼ではわからない細部まで、しっかりと解像されています

F8, SONY A7R2(AWB ISO1600) 等倍: 再び等倍での画像。ピントは目の部分です。拡大クロップしたのが下の写真です


F8, SONY A7R2(AWB ISO1600) 等倍からさらにクロップ: 瞳は同心円状に描かれていました!

F8, SONY A7R2(AWB ISO200固定) 等倍:このあたりの区域は千円札の中で一番華やかです。中央を拡大クロップしてみてみましょう


F8, SONY A7R2(AWB ISO200) 等倍からさなりクロップ拡大: 「千円」の文字が網目になっており、隙間からはカラフルな顔料が見えています。日本の貨幣の細部の質感には脱帽です



F8, SONY A7R2(AWB  ISO200固定) 等倍:こんどは、野口英世の髪の毛のあたりをみてみましょう。拡大クロップしたのが下の写真

F8, SONY A7R2(AWB ISO200固定) 等倍からさらにクロップ: 日本の貨幣はこのように、いたるところに細かな文字が入っています。肉眼での確認は困難なレベルです











F8, SONY A7R2(AWB  ISO200固定) 等倍:「1000」の文字に注目してみましょう
F8, SONY A7R2(AWB   ISO200固定) 等倍からさらにクロップ: 文字の内側には細かな格子状のパターンが刻まれていました

F8, SONY A7R2(AWB   ISO200固定) 等倍からさらにクロップ: 細かな貝の幾何学パターンですが、インクが滲むことなく見事に描かれています






米国の貨幣にも登場していただけると、日本の貨幣の細かな造りがいかにクレイジーなレベルであるかが相対的にわかり大いに盛り上がるのですが、米国の貨幣の探検は次回以降のお楽しみとしましょう。ここでは軽くレンズの開放描写とF8まで絞った描写を比較します。

開放F2.5とF8での画質比較
開放F2.5とF8まで絞り込んだ2つの画像を比較したのが下の写真です。ぱっと見違いはわかりませんが、細部を拡大してみると開放での写真(上段)の方には表面に薄いフレアが乗っています。ただし、解像度は依然著して高いレベルを維持しており、画面全体でみる限りコントラストも悪くありません。開放から絞り込むごとにフレアが消え、シャープネスが向上します。F8まで絞り込んだ写真画像が下段です。
実は撮影距離を変え、このレンズの専門外であるポートレート域で同じテストをしてみると、開放描写は明らかにソフトな傾向が見て取れます。おそらく収差の補正基準をマクロ域に設けているからで、ポートレート域の撮影時は収差の補正が過剰気味に効いてしまうのでしょう。潔く近接での性能を重視したレンズなのだとおもいます。

上段・F2.5(開放)、下段F8  sony A7R2(WB auto, ISO 200固定)