逆光に弱いからこそ活かす。
コニカのパンケーキ風レンズ
KONICA HEXANON AR 40mm F1.8
このところブログでコニカの1960年代~1970年代のレンズを取り上げていますが、同社のレンズに共通する繊細で柔らかい描写にすっかり魅了されてしまいました。フレアを許容しながらも解像力を重視する設計理念は1950年代のレンズによくあるセッティングで、オールドレンズを扱う現代のカメラ女子達にはたいへんな人気です。現代のレンズとは程遠い素晴らしい味付けを提供してくれます。しかし、時代の潮流はカラーフィルムの普及とともに、解像力よりもコントラストに偏重した味付けに変わっていきました。HEXANONの描写設計は、よく言えば古風、悪く言えば時代錯誤ともとれるものです。いったい、どういう価値観を持った人物が設計していたのでしょう。
コニカのレンズ設計士を調べてみると、興味深い情報が出てきました[1]。この時代のレンズ設計を手掛けていたのは下倉敏子氏という女性設計士で、女性ならではの感性がレンズの描写設計に活かされているというのです。前回のブログ記事で扱ったHEXANON AR 50mm F1.7も下倉氏の設計でした。これは、もっと取り上げないといけません。そこで、今回は下倉氏の代表作と言われているHXANON AR 40mm F1.8を手に入れて紹介することにしました。このレンズはARマウントを採用した一眼レフカメラKonica FS-1 の交換レンズとして1979年に登場しました。下倉氏の特許資料を読んてみると、開発当時はコンパクトで明るい準広角レンズがスナップ用に使いやすいとレンジファインダー機の分野でブームだったので、一眼レフカメラでも同様のレンズを実現したいという願いがあったようです[2]。ただし、一眼レフにはミラーの可動域がありますので、バックフォーカスを長く保たなければなりません。設計をレトロフォーカスにすることでも広角レンズは実現できますが、レンズの全長が長くなり前玉が巨大になるなどコンパクトなレンズは不可能です。また、F2~F1.8程度の明るさを確保する場合、前群側の屈折力の不足分を後群側で補いますが、これですとサジタル像面の補正が困難になり、背後のボケが乱れるのだそうです[2]。一眼レフ用には困難極まりない条件ですが、下倉氏は才能豊かなエンジニアだったのでしょう。シンプルな6枚構成でこの難局を乗り切る落しどころを見つけてしまいます。レンズはニコンの設計者からも大絶賛されたそうです。
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Konica Hexanon AR 40mm F1.8の光学系。構成は5群6枚の独特な変形ガウス型で、前群の2枚目と3枚目のレンズ配置が通常のガウスとは異なり正負が逆になっています。下倉氏の特許資料には準広角レンズとしての本設計の意義が強調されており、はじめからスナップ撮影向きに開発されたレンズであることがわかります |
レンズの設計構成は5群6枚の変形ガウスタイプをベースにしており(下図)、前群の正エレメントと負エレメントの位置関係がひっくり返った独特な形態です。この構成を採用したレンズとしては、下倉氏とほぼ同じ時期の1975年にモスクワのKMZ(クラスノゴルスク機械工場)でKvaskova V.G.(Kvaskova V.G.)というエンジニアによって設計されたZENITAR-M 1.7/50があります[3]。ただし、ZENITAR-Mは標準レンズですので、準広角レンズをつくりたいとする下倉氏とは開発時の背景が異なります[1]。
焦点距離40mmはスナップ撮影に使いやすく、心地よい画角を提供してくれます。軽くて小さな本レンズは口径比もF1.8と明るく、使い出がありそうです。
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重量(実測)140g, 絞り羽 6枚, 絞り 1.8-22, 最短撮影距離 0.45m, KONICA ARマウント, フィルター径 55mm, 構成 5群6枚(変形ガウス型)
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★参考文献・資料
[1]光学産業開花期の一断面:コニカにおける技術発達し(~1960) 笠原正, Konica Technical Report VOL.12(1999)
[2]Toshiko Shimokura, US.Pat. 4,214,815 1980(Filed in 1978)
[3]ZENIT cameraアーカイブズ: Zenitar-M
★入手の経緯
レンズはヤフオク等に常時出ており流通量は豊富です。ヤフオクでの取引相場は7000円~8000円程度ですが、コンディションの悪い個体ばかりですので、良好なものにはもう少し高値がつくものとおもいます。私は2021年1月中旬にヤフオクで7500円(送料込)で購入しました。この時点で状態の良い個体が1本も出ていなかったので、仕方なくカビ入りの個体を購入し、自分でオーバーホール、綺麗な状態になりました。ヘリコイドもグリスを入れなおし快調になっています。
★撮影テスト
開放では写真全体が薄いフレアに覆われ、繊細な写真になります。逆光に弱くハレーションやゴーストが出やすいので、弱点を上手に活かせばオールドレンズらしい雰囲気のある画作りができると思います。絞るとヌケがよくなりコントラストも向上し、メリハリが出ます。歪みは大変よく補正されており、微かに樽型ですが全く問題ありません。シャドーがストンと潰れやすいので、暗い場所で撮る場合には露出を少し上げてやる方がよいとおもいます。とにかくレンズ任せカメラ任せには撮らないことでしょうね。背後のボケは若干硬めでザワザワしますが、距離によらず安定しており、グルグルボケや放射ボケが目立つ兆候はみられません。特許資料にもかかれているように、非点収差に配慮した設計であることがよく判ります。
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F1.8(開放) sony A7R2(WB:日陰)逆光ではハレーションが出やすいので、活かせば、ぼんやりとした雰囲気のある写真も撮ることができます |
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F2.8 sony A7R2(WB:日陰) 室内では焦点距離40mmのアドバンテージがとても大きいと痛感します |
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F1.8(開放) sony A7R2(WB:日光)シャドー部の粘りが弱いので、暗いところを撮る場合の露出補正には細心の注意が必要です。デジカメ時代で本当によかった・・・ |
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F1.8(開放) 祖nyA'R2(WB:日陰) |
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F1.8(開放) sony A7R2(WB:日陰) |
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F1.8(開放) sony A7R2(WB:曇) |
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F1.8(開放) sony A7R2(WB:日光) 開放では写真全体が薄いフレアに覆われ、柔らかい写傾向になります |
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F2.8 sony A7R2(WB:日光) |
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F2.8 sony A7R2(WB:日光) |