LOMOの映画用レンズ part 8
ロモの第三世代1980's、
焦点距離35mmのシネレンズは
シャープネスとコントラストが向上
LOMO OKC11-35-1 35mm F2
LOMOは数多くの映画用レンズを世に送り出しました。中でも焦点距離35mmのモデルはバリエーションが豊富にあり、改良の余地がたくさん残っていたようです。今回取り上げるOKC11-35-1はLOMOが1981年に発売した焦点距離35mmの11作目にあたるシネレンズで、映画用カメラのKONVAS-1シリーズ (OCT-18マウント)やKONVAS-2シリーズ (OCT-19マウント)、KINOR-35シリーズ (OCT-19マウント)に搭載する交換レンズとして市場供給されました[1]。KONVASのシネレンズとしてはこれまで紹介してきたOKC1-35-1とOKC8-35-1があり、前者から後者への改良では設計構成が見直され、中心解像力を落とす代わりに像面特性の改善が図られました。本モデルでは設計構成が再び見直され、中心部の画質を重視した初代OKC1-35-1に近い描写設計に戻っています。シャープネスとコントラストは大幅に向上し、歪みの補正が悪化している点を除けば現代のレンズに近い優れた描写性能です。本モデルからはマルチコーティングが採用され、カラーフィルムの時代にふさわしい鮮やかな発色が得られるようにもなっています。
レンズの設計は下図のような逆ユニライトタイプの後玉を2分割した独特な構成形態で、他に例を知りません[2]。個々のレンズエレメントが厚めにデザインされており、各面の曲率を緩めた収差を生みにくい構造になっています。像面の平坦さは前モデルのOKC8-35-1にはかないませんが、シャープネスとコントラストは先代のどのモデルよりも良好で、初代OKC1-35-1が課題としていた周辺部の光量不足も改善されています[1]。このレンズがいつまで生産されていたのか確かな情報はありませんが、市場に流通している製品の中からは1992年に製造された個体が見つかっています。
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OKC11-35-1の構成図:文献[2]からのトレーススケッチ。左が被写体側で右がカメラの側。設計構成は5群6枚で逆ユニライト型からの発展型です |
★参考文献・資料
[1] 収差図(LOMO) RedUser.net : ロシアUSSRレンズ サバイバルガイド
[2] LOMOのテクニカルシート(1981年)
★入手の経緯
eBayでの現在の取引相場は350ドル程度かそれ以上です。数年前までは300ドルを切る値段でも買えましたがOKCシリーズは35mm/50mm/75mmの各モデルが近年ジワジワと値上がり傾向にあります。
今回紹介する羽根つきのモデル(OCT-18マウント)は少し前の2017年12月にウクライナのレンズセラーがeBayに329ドル(フリーシッピング)で出品していた個体です。値切り交渉を受け付けていたので300ドルで交渉したところ自分のものとなりました。オークションの記載は「MINT CONDITION(美品)。絞り羽に油染みはない。絞りリングとフォーカスリングはスムーズでソフトに動く。ガラスはクリーンで、カビやキズはない。レンズはコリメーターでチェックしており問題は見当たらない。レンズフードとキャップが付いている」とのこと。綺麗な個体が届きました。
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重量(実測):239g(フード無しでは222g), 絞り羽:10枚構成, 最短撮影距離:1m, 絞り:F2(T2.3)-F16, 設計構成:5群6枚, OCT-18マウント |
レンズブロックのモデルは2018年8月にロシアのイーベイセラーから253ドル+送料の即決価格で落札しました。オークションの記載は「ガラスはクリアでキズ、クモリ、カビ、バルサム剥離、歪み、拭き傷などはなく、コーティングも問題ない。絞りの動きは適正でフォーカスリングや絞りリングはスムーズに動く。レンズキャップが付属する」とのこと。こちらも綺麗なレンズが届きました。
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重量(実測): 110g, 絞り羽: 10枚構成, 設計構成: 5群6枚, マウント: M36x0.75 |
★デジタル一眼カメラへの搭載例
今回のブログエントリーではOCT-18マウントのレンズをフジフィルムのFXマウントに変換する事例を紹介します。下の写真をご覧ください。必要な部品はすべて市販品です。レンズによっては後玉の出っ張りに配慮しヘリコイドをM46-M42に変えなくてはなりませんが(←前ブログエントリー参照)、OKC11-35-1は出っ張りが少なくM42-M39ヘリコイドでも間口への干渉がありませんのて、フジフィルムのデジタルカメラに搭載できます。このままカメラの側のスリムアダプターを交換するだけでSONY Eマウントにも変更できます。
続いて、レンズヘッドの個体ですが、鏡胴にM39-M36ステップアップリングをはめてM39ネジに変換すれば、ここから先は自由度が多くあります。M42-M39変換リングを用いてM42-M42ヘリコイド(12-18mm)にのせM42マウントにもできますし、M42-M39ヘリコイド(25-55mm)にのせてライカLマウントにもできます。部品は全てイーベイで買い揃えることができます。
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M42 to M42 Helicoid(12-18mm)を用いてM42マウントに変換する場合のレシピ。一眼レフカメラで使用する場合、フルサイズ機ではミラー干渉してしまいますので、APS-C機で用いるのが良いでしょう。最短撮影距離は23cmくらいですので接写も十分にできます |
★撮影テスト
現代のレンズに近い高いコントラストと鮮やかな発色を持ち味とするレンズです。開放からピント部の像はたいへんシャープで、フレア(コマフレア)は等倍拡大時にようやく検知できるレベルです。少し絞ればカリカリの描写で、細部までスッキリとしたクリア―な描写になります。発色はたいへん鮮やかですが、夕方や日陰など光量の少ない条件では青みが増しカラーバランスがクールトーンにコケる事が多くあります。LOMOのカタログスペックを信じるなら解像力は先代の2つのモデルを大きく超えており、実写でもピント部中央は十分に緻密な像ですが、等倍まで拡大するとややベタっとした解像感になっており、正直言うと先代のモデルを超える程の解像力とは思えません。どちらかと言えば解像力よりもコントラストを重視したレンズ設計なのでしょう。逆光で光源を入れるとシャワーのようなハレーションが虹を伴いながら盛大に発生します。この手の虹を望んでいる方には願ってもない良いレンズだと思います。歪みは樽型でやや大きめに生じる点はテクニカルデータどおりです[2]。ボケは適度に柔らかく概ね安定しており、グルグルボケや放射ボケ、二線ボケなどの癖はありませんが、口径食が顕著で写真の四隅で玉ボケが半月状に欠けて見えます。
今回もイメージサークルの違いを期待してOCT-18マウントのモデルとレンズヘッドのモデルの両方を手に入れました。残念ながら両者のイメージサークルに違いはなく、レンズヘッドのモデルをフルサイズ機に搭載して使う場合ではこちらに示すように四隅に暗角が生じ、フルサイズセンサーをカバーすることができませんでした。本レンズはAPS-C機またはフルサイズ機のクロップモードで用いるのがベストな使い方です。
CAMERA:FUJIFILM X-T20
LENS: OKC8-35-1 (OCT-18マウントモデル)
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F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB) スッキリとヌケのよいクリアな画質のレンズです |
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F2(開放) Fujifilm X-T20(AWB) 逆光撮影になるとシャワー状のハレーションが派手に出ます |
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F2.8 Fujifilm X-T20(AWB) |
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F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日陰) |
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F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日陰) |
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F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日陰) |
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F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日陰) |
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F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日光) 歪みを除けばこれと言った欠点はなく、性能的には現代のレンズと大差ありません |
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F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日光) |
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F2(開放)Fujifilm X-T20(WB:日光) 逆光でもコントラストは良好です |