おしらせ

2026/06/07

Promar Anastigmat Nippon 105mm F3.5


 

旭光学初期の中判用レンズ

Promar Anastigmat Nippon 105mm F3.5

旭日光学工業合資会社(現リコーイメージング)は、1919年に創業した歴史ある光学機器メーカーです。もともとは眼鏡レンズの製造が中心でしたが、1938年に「旭光学工業株式会社」へと改称し、カメラや写真用レンズの生産に本格参入。戦後は一眼レフ「ペンタックスSP」の大ヒットにより、世界的なメーカーへと成長を遂げました。

今回ご紹介するのは、同社のカメラ事業がまだ黎明期だった1930年代の写真用レンズで、旧・千代田光学(ミノルタ)のフォールディングカメラ「Minolta Auto Press(1937年発売)」へ供給された「Promar Anastigmat」です[1,2]。本レンズはテッサータイプ(3群4枚)の光学系を採用し、6×9判のイメージフォーマットをカバーしていました。また、ミノルタの二眼レフ「Minoltaflex」に供給された姉妹レンズ「Promar 75mm F3.5(6×6判用)」も存在します。こちらも旭日光学製であり、海外のミノルタコレクターのレビューでは「当時としては非常に端正な描写を特徴とし、初期のミノルタ中判システムを語る上で欠かせない存在」と高く評価されています。のちのペンタックス(タクマー系)レンズのルーツを探る上でも極めて重要なシリーズで、珍しいレンズということもあり、コレクターの間で一時話題となりました。

残念ながら当時の構成図は見当たりませんが、現物を確認したところ、後群の反射からテッサー型であることは間違いなさそうです。

 

[1] クラシックカメラ専科「ミノルタカメラのすべて」

[2] Camera-wiki, "Actiplan": https://camera-wiki.org/wiki/Actiplan#cite_note-2

 
Promar Anastigmat Nippon 105mm F3.5: 絞り羽 10枚構成, 絞り F3.5-F25, 設計構成 3群4枚テッサー型 



 
入手の経緯
レンズはカメラとセットで流通しているケースが大半です。カメラ自体は現存するものが少なく、中古市場では全く見かけない製品となっています。このため決まった相場はなくカメラとセットでは、やはりそれなりの価格が付くように思われます。今回の個体はヤフオクにてレンズ単体で出品されているものを6500円で手に入れました。出品時の記載ではレンズ内に薄いクモリがあるとのことでしたが、少し拭いてみたところ綺麗になりましたのでブログで取り上げることに。 
 
 
撮影テスト
ノンコートレンズのため逆光ではゴーストが出やすく、条件が悪いとコントラストが急に落ちます。ゴーストを抑えたければフードは必須です。古いテッサータイプのレンズによくある古めかしい淡い発色が特徴で、軟らかいトーンを楽しむことができるレンズです。3枚玉のトリプレットほど高解像ではありませんが、解像感は十分にあり、開放から滲みはなく、端正な描写です。深く絞ればコントラストは良くなり、発色もこの時代のレンズにしては良好です。ボケは距離に依らず安定しており、四隅まで破綻はありません。ボケ味も滑らかです。
全体的に安定感のある、とても優秀なレンズだと思います。堅実なレンズを作ることのできるメーカーは、その後大きく飛躍することを、このレンズは実証しているように思えます。もちろん、現実は常にそうなるわけではありませんが。
  
F3.5(開放), Kodak Gold 200( 6x6 format)
F3.5(開放), Kodak Gold 200( 6x6 format)
F3.5(開放), Kodak Gold 200( 6x6 format)
  続いて、デジタルカメラGFX100Sでの撮影結果です。GFXで撮影するとイメージフォーマットの中央部のみを使用した写真となりますため、写真の解像度という意味では損をしています。写真作例は参考程度にしてください。フィルムシミュレーションはクラシッククロームに設定し、レンズ本来の軟調描写を更に際立たせた写真に仕立てています。
 
F4.5  Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: CC)



F 3.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB:auto, FS: CC)



2026/05/19

KOMURA lens MFG.LTD KOMURANON 35mm F2.5 and 24mm F2.5

Brief Report

やはり毛色の違うコムラノン28mm・・・。兄24mmと弟35mmはフツーに高描写

KOMURA lens MFG.LTD KOMURANON 35mm F2.5 and  KOMURANON 24mm F2.5

KOMURANON(コムラノン)は三協光機が1970年代から会社倒産の1980年まで販売した35mm一眼レフカメラ用の交換レンズ群です。広角レンズや望遠レンズ、ズームレンズなどがあり、他社との差別化を意識し、口径比F2.5を積極採用したことが特徴です。前回の記事では同シリーズの中でも描写に特徴があると前評判の高い、コムラノン28mm F2.5を取り上げ紹介しました。期待どうり、このレンズはフレアが多く、ボケも暴れ気味になるなど面白かったので、今回は焦点距離の近い35mm F2.5と24mm F2.5を入手し、軽く取り上げてみることにしました。先に結論から述べると、両レンズとも28mm F2.8ほど収差は多くありません。開放からスッキリとシャープに写る、よくまとまった"ふつう"のレンズです。35mm F2.5がこうであるのはわかります。しかし、設計難度の高そうな24mm F2.5が28mm F2.5よりも高性能というのは、どうにも解せません。両モデルはいずれも 28mm F2.5 より明らかにコンパクトで、光学系の枚数が少ない分だけ 重量も大幅に抑えられています。こうして比較してみると、28mm F2.5 がシリーズの中でも 際立って特異な存在であることが、あらためて浮き彫りになります。

レンズの中古相場 

三協光機のレンズは、同社の創業初期に製造された希少モデルや、一部の大口径レンズ・高性能レンズを除けば、現在の中古市場では総じて非常に手頃な価格帯で流通しています。今回取り上げるコムラノンの2本もその例に漏れず、国内中古店では状態の良い個体でも 1万円以内、ネットオークションでは 5千円前後から入手できます。市場に出回る個体の多くには、三協光機独自のコムラ・マウントシステムを各社一眼レフ用マウントに接続するためのアダプターが付属しています。対応マウントは Nikon FCanon FDOlympus OMM42Minolta SRMDPentax K など多岐にわたり、非常に柔軟なシステムを構築していました。


KOMURANON 35mm F2.5: フィルター径 58mm, 絞り値 F2.5-F22, 最短撮影距離 0.5m, 絞り羽 6枚構成, 重量(実測) 272g
KOMURANON 24mm F2.5: フィルター径 58mm, 絞り値 F2.5-F22, 最短撮影距離 0.28m, 絞り羽 6枚構成,重量(実測) 286g
 

撮影テスト

まずは KOMURANON 35mm F2.5 から触れてみたいと思います。

本レンズは、前回取り上げた 28mm F2.5 と比較すると、開放から描写が安定しており、コマ収差由来のモヤつきやフレアも控えめです。画面全体にわたってコントラストが素直に立ち上がり、解像感も十分に確保されているため、いわゆるクセ玉というよりは、実用性を重視したバランス型の広角レンズといった印象です。

周辺部の描写は破綻が少なく、倍率色収差や歪曲も目立たないレベルに抑えられています。ただし、周辺部の光量落ちはレトロフォーカス型レンズとしては目立つ印象です。1970年代のサードパーティ製広角レンズとしては堅実な設計思想が感じられる一本で、当時の三協光機が目指した「口径比F2.5を軸にした差別化」の中では、最もまとまりの良さが際立つモデルと言えるでしょう。


F2.5(開放)Zikon Zf(WB:日光)


F2.5(開放)Zikon Zf(WB:日光)


F2.5(開放)Zikon Zf(WB:日光)


































続いて KOMURANON 24mm F2.5 について触れておきます。
焦点距離が短くなる分、28mm F2.5 よりも収差が増えるだろうと予想していましたが、実際にはその逆で、むしろ本レンズのほうが描写は安定しています。開放から画面全体のコントラストが素直に立ち上がり、細部の解像も破綻しません。1970年代のサードパーティ製24mmとしては、意外なほど“まとまりの良さ”が感じられる一本です。
周辺光量はやや大きめに落ち込みますが、これは当時の広角レンズとしては自然な挙動で、むしろ味として受け取れる範囲でしょう。倍率色収差や歪曲は控えめで、極端なクセが出ないため、スナップから風景まで幅広く使える実用的な描写を見せてくれます。
設計難度の高い24mmでありながら、28mm F2.5 よりも総合的に優れた性能を示す点は興味深く、三協光機の光学設計が単なる「F2.5の差別化」に留まらず、実際の描写バランスにも配慮していたことを感じさせます。

 
F4 Zikon Zf(WB:日光)

F2.5(開放)Nikon Zf(WB:日光)

F2.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)











2026/05/09

KOMURA lens MFG.LTD KOMURANON 28mm F2.5

「どう写るのか」を楽しむためのレンズ

—つまりクセ玉

KOMURA LENS MFG. LTD( Sankyo Koki ) KOMURANON 28mm F2.5(前期型・後期型)

35mmフルサイズセンサーに対応する広角レンズの中で、収差の出方そのものを楽しめる描写を備え、なおかつ手頃な価格で入手できるモデルとなると、その選択肢は意外なほど限られてきます。とりわけ、レトロフォーカス設計が成熟期を迎えつつあった1965年前後からそれ以降の製品に目を向けると、こうした条件を満たすレンズを探すのは容易ではありません。この時代の28mm広角レンズといえば、開放F値はF3.5が標準的であり、たとえコンピュータ設計を導入したとしても、F2.8を実用レベルで成立させるのはまだ難しい段階にありました。実際、NikonやCanonといった大手メーカーから広角28mm F2.8が登場するのは、1970年代中半になってからのことです。そうした状況の中で狙い目となるのが、光学的完成度をある程度確保しつつも、明るさをやや無理に引き上げた「背伸び型」とも言えるレンズです。

今回取り上げる三協光機 KOMURANON 28mm F2.5(1973年頃発売)は、まさにその典型例と言える一本です。他社に先駆けて「より明るい28mm」を世に送り出したいというメーカーの思惑に、同社の当時の技術水準が完全には追いついていなかった。その結果として生まれたのが、このレンズでした。技術と理想の間に生じた歪みが、そのまま描写の個性として現れる、そんな過渡期ならではの魅力が、このレンズの特徴なのです。

光学系は下図に示すとおり、7群9枚構成という当時としてはきわめて野心的な設計です。フロント側(左側)の第1レンズには大型の凹メニスカスレンズを配置することでバックフォーカスを確保し、一眼レフカメラへの適合を実現。さらに第2群には1群2枚構成の色消しユニットを設け、非点収差および倍率色収差を強力に補正することで、28mmという広い画角に耐えうる性能を引き出しています。

完成度の高さよりも、レンズのクセや揺らぎを味わうことに価値を見出すユーザーにとって、コムラノンは今なお魅力的な選択肢となります。「うまく写る」ためのレンズではなく、「どう写るか」を楽しむためのレンズと言えるのです。

 
KOMURANON 28㎜ F2.5構成図: 光学系は7群9枚のレトロフォーカス型です


















 

前期モデルと後期モデル
KOMURANON 28mm F2.5は、製造時期の違いによって大きく二つの仕様に分けることができます。便宜上、ここではそれぞれを「前期型」「後期型」と呼ぶことにします。
まず前期型は、最短撮影距離が0.3m、最小絞りがF22まで設定された仕様で、中玉にあたる第2群にマゼンダ系のコーティングが施されている点が視覚的な特徴です。重量(実測)は422gとかなりの重量があります。一方の後期型では、最短撮影距離が0.35mへとわずかに延長され、最小絞りもF16までに制限されています。重量は346gと前期型に比べかなりの軽量化が図られています。また、第2群のコーティングはシアン系(あるいはグリーン系)へと変更されており、外観上も判別が可能です。描写傾向から推測する限り、前期型と後期型で光学設計そのものに本質的な差はないように思われます。ただし、レンズ構成を詳細に観察すると、後期型では絞り位置に軽微な修正が加えられている可能性が見て取れます。具体的には、後期型では絞り位置が1エレメント分だけ前方へ移動しており、その結果、構成上の前後バランスが入れ替わっています。前期型が前群:4群5枚で後群:3群4枚という構成であるのに対し、後期型では前群:3群4枚で後群:4群5枚という配置に変更されています。この差異が描写そのものに決定的な影響を与えているかどうかは断定できませんが、少なくとも設計者が収差バランスや製造面での最適化を模索していた痕跡であることは確かでしょう。同一レンズ名を冠しながらも、製造時期によって細やかな試行錯誤が積み重ねられている点は、まさに過渡期の「背伸び型レンズ」らしい一面と言えます。なお、KOMURANON には若干数ながら28mm F2.8も存在し、同社晩年期の製品ラインナップがかなり迷走状態だったことがうかがえます。

レンズの相場価格

三協光機のレンズは、同社ごく初期のモデルや、一部のハイスペックな大口径レンズを除けば、中古市場では総じて非常に安価に取引されています。本稿で取り上げているKOMURANON 28mm F2.5も例外ではなく、本品も中古価格は1万円以内、国内ネットオークションでは5千円程度から入手可能です。このクラスのレンズとしては鏡胴が大きく、重量もあることに加え、独自のマウントシステムを採用している点が、人気面では不利に働いているように見受けられます。市場に流通している個体の多くには、コムラ・マウントシステムと各種一眼レフカメラのマウントを接続するためのアダプターが付属しています。これにより、Nikon F, Canon FD, Olympus OM, M42, Minolta SR/MD, Pentax K など、主要なマウント規格に対応可能です。

レンズ単体の性格や描写傾向に目を向ければ、この価格帯で手に入る一本としては、むしろ試す価値のある存在と言えるでしょう。携帯性が悪く、しかもマウントに一癖ある——そうした不利な条件が、そのままコストパフォーマンスの高さにつながっている点も、このレンズの特徴と言えます。

 

KOMURANON 28mm F2.5(前期型): 最短撮影距離 0.3m, 絞り F2.5-F22, 絞り羽 6枚構成, 重量(実測,アダプター部を含まない)422g

KOMURANON 28mm F2.5(後期型): 最短撮影距離 0.35m, 絞り F2.5-F22, 絞り羽 6枚構成, 重量(実測,アダプター部を含まない)346g

左がNikon F用アダプター, 右がMinolta SR/MD用アダプター











































 

 

 

撮影テスト

絞り開放では、ベールを一枚被せたようなフレア混じりの滲んだ描写となり、ピントの山も掴みにくい印象です。周辺光量低下(ビネット)もかなり強く、レトロフォーカス型光学系らしくないところは細長い光学系の宿命と言わざるをえませんが、その一方で画面全体にノスタルジックな雰囲気を漂わせます。ボケは総じてざわつきがちで、とくに周辺部では玉ボケが放射状に崩れて暴れやすい傾向があります。逆光耐性は高いとは言えず、条件によってはゴーストの発生やコントラストの低下が見られますが、レトロフォーカス型広角レンズとしては特段に惨いレベルではありません。樽型歪曲はやや大きめで、建築写真などでは気になる場面があり、状況によっては色収差(フリンジ)も目立つことがあります。ただし、これらのクセは絞ることで次第に落ち着き、F4程度まで絞れば描写は大きく改善し、素直で実用十分なシャープさを得ることができます。

なお、前期モデルと後期モデルの撮り比べを行いましたが、はっきりとわかる明確な差異は見られませんでした。

 
前期モデル@F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(35mm-mode, WB: auto, FS: Standard)
 

前期モデル@F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9, WB: auto, FS: Standard)
前期モデル@F5.6  Fujifilm GFX100S(35mm-mode, WB:auto, FS: Standard)

前期モデル@F2.5(開放)  Fujifilm GFX100S(35mm-mode, WB:auto, FS: Standard)

前期モデル@F2.5(開放)  Fujifilm GFX100S(35mm-mode, WB:auto, FS: Standard)
前期モデル@F2.5(開放)  Fujifilm GFX100S(35mm-mode, WB:auto, FS: ブリーチバイパス)
前期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)

 続いて後期モデルをNikon Zfにマウントして撮りました。
 
 
後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)


後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)

後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:日陰)



後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:曇天)


後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:曇天)




後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:曇天)










 
前期モデルと後期モデルの描写力を比較
結論から先に述べると、前期モデルと後期モデルの描写力に大きな差は感じされません。開放でのフレア量、周辺部の画質、暗角、コントラストや発色の鮮やかさ、歪みの大きさなどはほぼ同等です。
 
前期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:曇天)


後期モデル@F2.5(開放) Nikon Zf(WB:曇天)








2026/02/26

KOMZ URAN-27 100mm F2.5

冷戦期を見つめた眼 part 2 

MiG戦闘偵察機にも搭載された旧ソ連の航空撮影用レンズ

KOMZ URAN-27 100mm F2.5

冷戦期、西側 NATO 軍の ELCAN に対抗する東側陣営の航空用レンズとして、偵察任務や測量で重要な役割を果たしたのが、今回取り上げる旧ソビエト連邦の Uran‑27Уран‑27100mm F2.5 です。Uran‑27 KMZ 製航空カメラ AFA‑39RA‑39)に装着され、MiG 戦闘偵察機をはじめ、可変翼超音速戦闘爆撃機 Su‑17、その前身である Su‑7B、さらには輸送ヘリ Mi‑8 など、旧ソ連の主力航空機に幅広く搭載されました。

また本レンズは、ソ連初期の宇宙開発計画にも投入されたことで知られています。1957年には人工衛星スプートニク1号に搭載されて地球表面の撮影に用いられ、1959年のルナ3号では人類史上初となる「月の裏側」の撮影に成功しました。Uran‑27 は、まさに冷戦期の軍事技術と宇宙開発の最前線を支えた光学系と言えます。

このレンズが開発されたのは1952年で、ソ連を代表する光学研究機関 GOIState Optical Institute)が設計を担当し、製造は国営工場 KOMZKazan Optical‑Mechanical Factory)が担いました。高度5005000mからの地上撮影を前提に、可能な限り高い解像力を引き出すことを目的として設計されたと伝えられています。

レンズとカメラが搭載されたジェット戦闘機MiG-17F(左)と人工衛星LUNA-3(右)

光学系は下図のような 5 群 7 枚構成で、ガウスタイプの絞り直後に薄い凸メニスカスレンズを配置した特徴的な設計となっています。対応フォーマットは中判よりやや大きい 80mm × 80mm で、対角線画角約 59 度をカバーする準広角レンズとしてまとめられています。設計者は、タイール系レンズの開発でも知られる David Samuilovich Volosov 博士です。

Rodion Eshmakov 氏のウェブサイト RADOJUVA には、本レンズについて極めて詳細かつ質の高いレビューが掲載されています[1]。同氏によれば、本レンズの基本設計は 1944 年にまとめられ、先代の Uran‑10 100/2.5(1943年~)の後継として開発されたそうです。まったく同じ構成をもつ西側の ELCAN や SUMMILUX よりも早い時期に完成しており、Uran‑27 が当時いかに先進的なレンズであったのかがよく分かります。Uran ファミリーには Uran‑9 250/2.5 や Uran‑25 200/2.5 など複数の派生モデルが存在していますが、Uran‑27 が最も広く流通したモデルだそうです。また、製造年代によってコーティング仕様が大きく異なる点も特徴として挙げられます。

Eshmakov 氏は Uran‑27 の光学性能について、次のように評価しています。「開放からすでに非常に良好な画質を示し、フレーム中央の解像度は、同氏が所有する Belar‑2 90/2.5 や MC Rubinar 2/100 とほぼ同等の水準に達する。使用条件によってはわずかな球面色収差が観察されるものの、画角全域のシャープネスは主に小さなコマ収差によって制限される程度で、その性能は Belar‑2 と同等、同じ絞り値の 5 群構成 Rubinar 2/100 を大きく上回る」。

さらに同氏は、「画角によって解像度が複雑に変動する特性からも分かるように、Uran‑27 は 3 次収差と 5 次収差の相互作用を巧みに利用して補正されており、その結果として画面周辺部で解像度がピークに達するという、現代の一般的なカメラレンズではほぼ見られない特性を備えている。絞りを F3.5〜F6.3 に設定すると、小型フォーマットにおいて極めて優れた描写性能を発揮する」と述べています。

また、Uran‑27 のボケ描写は非常に独特で、「油のように滑らか」と形容されるほど特異な性質を示すそうです。これは複数の要因が重なり合って生じるもので、より単純な構成のレンズでは得られない描写特性だと考えられています。

URAN-27の構成図(文献[2]からのトレーススケッチ)

参考資料

[1] RADOJUVA:place for very fast lenses by Rodion Eshmakov

[2] GOI lens catalog;  設計特許 Pat.SU68727A1

[3] photohistory.ru  PHOTOHISTORY (G. Abramov) 

[4] "First Pictures of Earth from a Soviet Spacecraft", Space Chronicle, Vol. 71, pp.1-40, 2018

[5] Dan Fromm, "Unlikely lenses on 2¼ x 3¼ Graphics Part 2 : Lenses useful out-and-about at normal distances", Mod.2011

 

GFXマウントへの改造

今回は市販の部品のみでレンズをGFXマウントに改造しました。使用したのは下記の部品です。広角レンズ用のメタルレンズフード(67mmフィルター径用)を使用しているところが工夫点です。ルータを使いフードの内側を0.5mm程度削りました。使用したヘリコイドはM65の間口を持つ17-31mmのタイプです。

 

入手の経緯

軍用レンズとしては比較的流通量が多く、eBayなどでも安定して見つけることができます。中古相場はおおむね 250ドル前後 からで、この価格帯は10年前からほとんど変動していません。

私自身は約10年前にeBayを通じてウクライナのカメラ店から300ドル弱(250ドル+送料)で購入しました。出品時のコンディション表記は MINT(美品・保管品) で、実際に届いた個体も記載どおり極めて良好な状態でした。軍用光学機材のわりに保存状態の良い個体が比較的見つかる点も、このレンズの特徴と言えるかもしれません。

ただし、現代のカメラで使用するには マウント改造が必須 です。残念ながら、改造済みの個体は市場にほとんど出回っておらず、基本的には 自分でDIY改造できる人が手を出せるレンズとなります。鏡胴が重厚で構造も特殊なため、改造の難易度は決して低くありません。単に「珍しい軍用レンズを試してみたい」という軽い動機では手を出しにくいものの、工作に慣れた方にとっては非常に魅力的な素材となるでしょう。

KOMZ URAN-27 100mm F2.5:  絞り F2.5-F16, 設計構成 5群7枚, イメージフォーマット 80x80mm, 絞り羽枚数 12枚, 鏡胴はフルメタル構造の軍用仕様で、弾丸をも跳ね返し、重量は1kgを軽く超える堅牢なつくりです

撮影テスト

オールドレンズとしては、とても面白い描写です。開放から良好な解像力を備えつつ、ピント面にはごく僅かな滲み(コマフレア)が重なり、質感を繊細に描き出します。1段絞ると滲みは消え、描写は一気にクリアで端正な表情へと移行します。ただしコントラストは絞っても殆ど変化せず、軟調で豊かなトーンが一貫して保たれます。発色も鮮やかになるというよりは、むしろ開放から一定です。黒つぶれを意図的に避けるような設計思想が感じられ、この種の特性は航空撮影用レンズに有利に働くという話をどこかで耳にした記憶があります。

光には非常に敏感で、逆光では盛大なハレーション(グレア)が発生しますが、むしろその特性を積極的に活かして描写をコントロールする楽しさがあるレンズです。ボケは撮影距離に左右されず安定しており、二線ボケやバブルボケの傾向も見られません。Eshmakov氏の表現を借りるならば、このレンズの背後のボケは油絵のように絵画的であるそうです。発色はかなり温調気味なので、気になるようでしたら、デジタルカメラの設定で少し補正を加えるとよいと思います。

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(FS:St, WB: 日光)

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(FS:St, WB: 日光)

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(FS:St, WB: 日光)
F6.3 Fujifilm GFX100S(WB:日光) 絞っても黒つぶれはありません。コントラストもあまり変化しません


F6.3  Fujifilm GFX100S 絞っても繊細なトーンが維持されています。おもしろい描写ですね   

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光) 軟調にふって意図的に黒つぶれを避けているような印象をうけます。シュールな写真にはもってこいの、とても面白いオールドレンズです
F2.5(開放)

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光)
F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光)

F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光)
F2.5(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光)