おしらせ

2025/12/03

LZOS VEGA-11U 50mm F2.8 (Enlarging lens)

部屋の片づけをしていたら、古い箱の中からロシア製の引き伸ばし用レンズが4個も出てきました。これは以前、EBAYでロシア製レンズを買ったときに、ついてきてしまった製品個体です。せっかくなので、ヘリコイドにのっけて写真撮影に転用してみました。

ロシア製 引き伸ばしレンズを使う

LZOS VEGA-11U 50mm F2.8 (Enlarging lens)

フルサイズミラーレス機の登場によりエンラージングレンズ(引き伸ばしレンズ)の活躍の場は大きく広がりました。この種のレンズには、テッサー型のようにバックフォーカスが長いモデルに加え、クセノタール型やダブルプラズマート型といった比較的短いバックフォーカスを持つ高級モデルも存在します。前者のテッサー型は一眼レフカメラにも適合しやすく、古くから撮影用に転用されてきました。しかし後者は、50mmの標準画角において一眼レフには装着できず、長らく用途を失った「死蔵レンズ」として扱われてきたのです。こうした背景のもと、フルサイズミラーレス機の登場は、これまで活かされることのなかったこの種の標準レンズ群に新たな可能性を切り拓いています。しかも、人知れず静かに・・・。

VEGA11Uの構成図:4群5枚の変形クセノタールタイプで、前群の構成配置が通常のクセノタールタイプとは大きく異なります

今回ご紹介するVEGA-11Uは、ロシアのリトカリノ光学ガラス工場が1980年代から1990年代に製造した変形クセノタール型の光学系をもつ35mm判の引き伸ばし用レンズです(上図)。ただし、1970年のGOIカタログには焦点距離54mm F2.8で既に登場しています。設計から発売までの間に仕様変更があったのかもしれません。なお、アゾフ光学機械工場(Azov Optical Mechanical Plant)で製造された同一設計の個体や、ミンスク機械工場(MMZ)製で54mm F3の個体もあるなど、規格がバラバラです。中古市場では用途がないなどの理由から値段がつかず、日本の市場で売買されることは多くありません。しかし、近年流通し始めた市販の薄型M42ヘリコイドに乗せSONY Eマウントで使用してみたところ、なんと無限のフォーカスをギリギリ拾うことができました。使えるではないですか・・・。出番が来るのを、ずっと隠れて待っていたかのようです。少し写真を撮ってみましたので、報告します。

レンズのマウント部はM39ネジになっており、市販のパーツの組み合わせのみでSONY Eマウントにできます。用意した部品はM42ヘリコイド10-15mm, M42-SONY Eスリムアダプター, M39-M42変換リング
 


 

撮影結果

もともとの用途から考えると、リバースリングなどで逆向きにマウントすれば、近接撮影に向いたレンズとなるようですが、本レンズにはフィルターねじがついていませんので、リバースマウントはできません。普通にカメラにマウントして使いました。

とてもシャープに写りますが、本来の使い方ではないためか、思ったほど解像力は高くはありません。ただし、画角特製は良好で、四隅まで安定感のある均一な画質です。開放でもスッキリと写り、コントラストも良好です。背後のボケは硬めの結像でザワザワとしたボケ具合です。

F4  (Wb: 日陰)

F2.8(開放) (WB:日陰)

F2.8(開放) (WB:日陰)

F2.8(開放) (WB:日陰)

2025/11/29

AUTO TAMRON 21mm F4.5 (PFJ-45Au) M42 mount


タムロンにウルトラワイドがあったとは!

AUTO TAMRON 21mm F4.5 (PFJ-45Au) M42 mount

タムロンといえば、望遠レンズやズームレンズ、あるいはマクロ撮影用レンズに強みを持つ、レンズ専業メーカーとして広く知られています。公式サイト[1]に掲載された製品一覧を見れば、標準域や広角域のラインナップがいかに限られているかが一目瞭然であり、今回紹介するような焦点距離21mmの超広角レンズがタムロンから登場していたことは、少なからず驚きをもって受け止められることでしょう。同社が1970年から1973年までの3年間に市場供給したAUTO TAMRON 21mm F4.5です。

このレンズのオールドレンズ市場における位置づけはやや曖昧ですが、焦点距離20mm前後の手頃なウルトラワイドレンズを探し始めると、自然と候補に挙がってくる一本です。このクラスの廉価製品としては、COSINA MC WIDE ANGLE 20mm F3.8(ネットオークションでは7,000円前後から)が圧倒的な存在感を放ちますが、チープな鏡胴の作りが妥協点となります。次いで、NIKKOR-UD Auto 3.5 20mm(実売価格は12,000~15,000円程度)は性能面で優れ、コストパフォーマンスの高さにおいて大きな魅力です。今回取り上げるAUTO TAMRONは、ちょうどこの2本の間に割って入るような立ち位置にあります。

本レンズは、タムロン独自の交換マウント機構「アダプトマチック」を採用しており、様々なマウント規格で市場供給されました。この機構は、独自の交換マウントをレンズに付け替えることで多様なカメラマウントに対応可能とするもので、ボディ側からの自動絞り制御にも対応していた点が特徴です。今回入手した個体にはM42マウント用アダプターが装着されており、往年のスクリューマウント機との組み合わせも楽しめる仕様となっています。

レンズ構成は6群8枚で、残念ながら構成図は公開されていませんが、超大型の前玉を持つことで知られるFlektogon 20mmを模範とした、広角レトロフォーカス型の設計と推察されます。最短撮影距離は25cmと短く、接写にも対応可能です。焦点距離が20mmではなく21mmという点を中途半端と感じる向きもあるかもしれませんが、これはライカ判35mmフォーマットにおいて対角線画角がちょうど90度となるよう設計された結果であり、意図的な選択といえるでしょう。もっとも、焦点距離を20mmにまで詰めるには設計上の困難が伴うため、21mmという設定にはコスト面での配慮も含まれていたのかもしれません。

最短撮影距離 0.25m, 絞り F4.5-F16, 重さ(カタログ値/ニコンFアダプトール装着時) 332g, 設計構成 6群8枚レトロフォーカス型, マウント アダプトマチック, モデル名 PFJ-45Au, フィルター径 82mm(前玉側) / 17mm(後玉側)
 
中古市場での相場

この種のウルトラワイドレンズの中では、比較的安価で入手しやすいモデルに位置づけられます。国内のネットオークションでは、探せば1万円弱から見つかることもあり、1970年当時の新品価格が29,800円であったことを踏まえると、現在の中古価格は非常に手頃といえるでしょう[1,2]

アダプトマチック方式は、各種国産一眼レフカメラのマウントに対応可能な設計となっており、中古市場に流通する個体のマウント規格も多岐にわたります。

参考文献・資料

[1] TAMRON公式ページ アーカイブ
[2] Auto TAMRON 21mm F4.5 テクニカルシート
 
 
撮影テスト

口径比がF4.5と控えめなため、開放でも滲みは最小限に抑えられています。描写はシャープで抜けが良く、すっきりとした印象を与えます。ウルトラワイドレンズ特有の線の太さは見られますが、これは性質上避けられないものです。ただしトーンは柔らかく、絞り込んでも階調が硬くならない点は、この時代のウルトラワイドレンズに共通する美点であり、本レンズもその例外ではありません。開放では周辺部の光量落ちがやや目立つため、気になる場合は半段ほど絞ると良いでしょう。歪曲収差は少し顕著で、上下方向では中央部が樽型、四隅が糸巻き型、左右方向では糸巻き型の傾向を示します。


F5.6 Nikon Zf(WB: 曇空)

F4.5(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)

F5.6 Nikon Zf(WB: 曇空)歪みが波打っています。中央は樽型、周辺は糸巻き型

F4.5(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)





F8(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)



F4.5(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)





F5.6 Nikon Zf(WB: 曇空)