癖玉メリターはダメ玉なのか・・・
エルンスト・ルードビッヒ社はドイツのドレスデン近郊にあった小規模の光学機器メーカーである。戦前から眼鏡用レンズやカメラ用レンズを製造しており、1972年に他社に吸収されるまでの間、エントリーレベルの安いレンズの製造を手がけていた。今回テストするメリターはルードビッヒ社が戦前に製造していた主力レンズのVictorをプリセット絞りに発展させたもので、1950年代~1960年代にExa用の標準レンズとして製造されていた。メリターはシンプルな3枚玉のいわゆるトリプレットと呼ばれる設計構造を持つテッサー型のレンズであり、エグザクタマウントとM42マウントの2種が存在する。シンプルゆえの携帯性と画質面での優位性、製造面での低コストを兼ね備えた優れた設計といえる。ドイツレンズらしい青いコーティングと一風代った鏡胴のデザインもメリターの特徴だ。最短撮影距離が80cmと寄れないのは残念。海外のWEBサイトでの評判は劣悪で、描写についてはダメ玉のカテゴリーに入っているようにも感じる。

★入手の経緯
以前からトリプレット構造のレンズに惹かれていた私。メリターがかなりの癖玉だとは知らずに勢いで購入してしまった。私が入手したのはM42マウント仕様のレンズであり、2007年3月にeBayにて出品されていた。誰も入札しなかったため私の手に¥6000で寂しく落札された。銀座と新宿の中古店にもM42マウントの同じものが置いてあり1万2千円前後の値段で売られていた。
★試写テスト
購入後さっそく撮影してみたが、やはり凄い癖玉だというのが第一印象であった。あまりの凄さに数ショット撮影した後、そのまま部屋のどこかにしまい込んでしまったのだ。しばらく時が経ち本ブログを開設して一人で盛り上がっているSPIRAL。そんな中、メリターが蝉の幼虫のようにヒョッコリと顔をだしたので真っ直ぐに向き合うことにした。 メリターの描写性能についてまとめると、
購入後さっそく撮影してみたが、やはり凄い癖玉だというのが第一印象であった。あまりの凄さに数ショット撮影した後、そのまま部屋のどこかにしまい込んでしまったのだ。しばらく時が経ち本ブログを開設して一人で盛り上がっているSPIRAL。そんな中、メリターが蝉の幼虫のようにヒョッコリと顔をだしたので真っ直ぐに向き合うことにした。 メリターの描写性能についてまとめると、
●コントラスト幅がたいへん狭く、暗部は明るく浮き気味、明部は簡単に白トビを起こす。
●階調表現に粘りが無い。輝度の空間変化が失われ平坦になる傾向にある。例えば植物を撮影すると造花のような作り物みたいな画になってしまう。
●カラー彩度が大幅に低く異様な発色となる。まるでモノクロ写真の世界に引きずり込まれてしまいそうな、そんな結果が得られる。ちなみのこのレンズはモノクロ写真が幅をきかせていた時代に作られたレンズである。カラー写真に適したチューニングは施されていない。使い方次第では結構面白い写真が撮れるかもしれない。
●開放絞りでは中央部から解像度不足になる。ブレているのかと思うくらい結像が甘い。2段絞っても中央に解像感が得られる程度であり、シャープネスは期待ほど高まらない。これにはちょっと泣かされる。
●ボケは汚い。二線ボケも出まくる。開放では周辺部で像が流れグルグルボケがでる。収差がちゃんと補正されていないようだ。
描写に関してはまともに評価できる箇所がまるでない。開き直って、癖を生かした写真を狙うしかない。発色だけに関しては、このレンズでしか撮れない異様な写真が得らそうだ。






★撮影機材: E.Ludwig Meritar 50mm/F2.9 + Eos Kiss x3

癖玉とは必ずしも高性能ではないが描写に個性を持ち、使い方次第で撮影者の表現意図がより一層強調できるレンズとされている。メリターが持つ薄気味悪い発色は間違いなくこのレンズの持つ個性である。これをどうやって生かすかが、癖玉なのかダメ玉なのかの分岐点になる。メリターを通して見た画像は、確実にリアルであるが何となく作り物のように見えてしまう。それを見る者に密かに気付かせ、それが偽物ではあるまいかと心のどこかで疑わせるよう企てられた魔物の住む写真。このレンズを用いると、そんなものが撮れそうだ。メリターは魔物を映し込むレンズになれるかもしれない。