おしらせ


MAMIYA-TOMINONのページに写真家・橘ゆうさんからご提供いただいた素晴らしいお写真を掲載しました!
大変感謝しています。是非御覧ください。こちらです。

2022/03/20

Staeble-LINEOGON 35mm F3.5(Brown-Paxette M39 mount)

たったの4枚の構成でこの描写性能は、

ちょっとしたサプライズかも!

Steable LINEOGON 35mm F3.5

Staeble(シュテーブル)社(正式名The Optisches Werk Dr. Staeble & Co)は1908年にドイツの物理学/数学者のフランツ・シュテーブル博士(1876-1950)、技術者のアルフレッド・ノイマン、ビジネスマネージャーのオスカー・イエーガーによってミュンヘンに設立されたレンズメーカーです[1,2]。自社ブランドのレンズに加え、様々な企業に対してOEMレンズの供給を行っていました。主に生産したレンズはカメラ用、プロジェクター用、引き延ばし用ですが、第二次世界大戦中はガンライトなどの光学軍需製品の製造にも関わっています[2]。第二次世界大戦末期、ドイツ降伏が濃厚となる1944年夏にドイツ空軍の命令(連合国の空襲を逃れるため)で会社と工場をバイエルン州のショーンガウ市に移転、はじめはチーズショップの敷地内を工場の避難地としました。その後の1953年にショーンガウ近くのアルテンシュタットにある旧軍用飛行場の航空機修理ホールへと工場の再移転を果たしています。会社は1954年にオットー・フリードルと彼の妻が所有しましたが、1969年にAGFAに買収されています。

今回紹介するレンズはStaeble社のLineogon(リネオゴン) 35mm F3.5です。このレンズはBraun社のPAXETTEという35mm版小型レンジファインダー機に搭載する広角レンズとして1950年代に供給されました。設計構成は4群4枚で、トリプレットの前方に凹メニスカスを設置してバックフォーカスを稼いだレトロフォーカスタイプのレンズです(下図)。同じ構成を採用したレンズとしてはSchneider社のRadiogon 35mm F4, Meyer-Optik社のPrimagon 35mm F4.5, Steinheil Culmigon 35mm F4.5などがあり、Lineogonはこれらの中で頭一つ飛びぬけたF3.5の明るさを実現している点が特徴です。この明るさはシュテーブル社の技術力なのでしょうか。あるいは収差を生み出す呼び水なのでしょうか。

 

Staeble LINEOGONの設計構成(見取り図): トリプレットの前方に空気間隔を開け凹レンズを設置することでバックフォーカスを延長させたレトロフォーカス型の構成です

 

レンズが採用したマウント規格はPaxette M39と呼ばれスクリューマウントとAkaletteというレンジファインダー機に供給されたAkAマウント(スピゴットマウントの一種)、そして数が少なく市場に出回る事はほぼ無いようですが、M42マウントです[3]。Paxette M39マウントの個体は数が多く入手しやすいうえ、デジタルカメラへの搭載も容易なのでおすすめです。eBayにPaxette M39-Leica L39アダプターなど市販のアダプター製品が複数出ています。20ドル程度で手に入るM42-M39ヘリコイド(12-17mm)と1~2ドル程度で手に入るM39-M42変換リング1個を組み合わせることで自分でアダプターを作ることもできます。この場合、ヘリコイドを少し繰り出した状態で用いることになります。シルバーベースの鏡胴と反転ゼブラのデザインが個性的で、とてもカッコよいレンズですね。

 

参考文献・資料

[1]camera-wiki: Staeble, http://camera-wiki.org/wiki/Staeble

[2] Hartmut Thiele (2008) Staeble-Optik. Die Geschichte des Optischen Werkes, Aufstellung der gesamten Objektivfertigung von 1917 bis 1972. München: Lindemanns Fotobuchhandlung.

[3] 同社の雑誌広告より

Steable LINEOGON 35mm F3.5: Braun Paxette用交換レンズ, 最短撮影距離 1m, フィルター径 40mm, 絞り F3.5-F16, 絞り羽 10枚構成, Paxette-M39マウント















 

入手の経緯

2021年8月に値切り交渉を経て送料込みの110ドルでドイツのeBayセラーから購入しました。コンディションの悪い個体が同じくらいの価格でeBayに2~3本出ていたのと、当時どうしても欲しいというわけではなかったので、ダメもとで65ドル安くしてほしいと無茶な交渉をしてみたところ、驚いたことに了承の連絡が来ました。レンズのコンディションは「カビ、クモリ、傷などの問題のない状態の良い個体で、僅かなホコリの混入があるのみ」とのこと。外観もレンズも、各部の動きも十分良好なコンディションでした。通常はまともなコンディションの個体がeBayでは180~250ドルあたりで取引されています。


撮影テスト
中心部は開放からシャープで解像力も良好です。開放でのフレアは少なめでコントラストも良好、スッキリと写るヌケの良いレンズです。ただし、マスターレンズがトリプレットであるためか、中心部と四隅の画質差が大きく、四隅ではフレア量こそ多くないものの引き画では解像力にやや物足りなさを感じます。発色にクセは無くデジタルカメラとの相性は良い感じです。非点収差はそんなにキツくはなく、コマ収差もおとなし目でした。色収差は僅かですが拡大すると確認でき、四隅の方で像の輪郭部が色付いて見える倍率色収差がわかります。設計が単純なわりに歪みはとても少なく、僅かに樽形ですが全く気にならないレベルでした。本当に4枚なのかと疑いたくなるほどスキの無いよく出来たレンズだと思います。強い弱点を挙げるならば没個性的なところかな。
広角なのでF3.5もあれば引き画で撮るぶんには充分な明るさでしょうし、シャッタースピードを稼ぎたい場合にはデジカメのISO感度を上げることでカバーできます。この明るさの広角レンズにマイナス要因はほとんどありません。むしろ、ボディが小さく軽い点はこのレンズの大きな魅力となっています。スナップ撮影のお供にはちょうどよいレンズですね。中判デジタル機のGFXでもダークコーナー(暗角)はわずかでしたので、アスペクト比を変えれば問題なく使えました。
  
model: 鈴木康史さん( @bff_actmodel13 ) Thanks!
 
F4.5 sony A7R2(WB:日陰)
F4.5   sony A7R2(WB:日陰)
F8 sony A7R2(WB:日陰)

 
今回も鈴木康史さんにお写真を撮らせていただきました。ご協力に感謝いたします!
  
F3.5(開放) sony A7R2 鈴木康史さん( @bff_actmodel13 )
 
次いてのイケメンモデルは動きの速い、こちらのお方です。予測不可能なChaoticな動きを深い被写界深度で捉えました。
F3.5(開放) sony A7R2(WB:日光) 
  

 LINEOGON x Fujifilm GFX 100S

中判デジタルカメラのGFXでは四隅にダークコーナー(暗角)が僅かに発生します。ただし、アスペクト比を3:2(35mm判への換算焦点距離は25.7mm)や16:9(35mm判への換算焦点距離は31mm)に設定すれば、光量落ち程度で済みます。以下の写真はフィルムシミュレーションをノスタルジックネガにしていますので、描写傾向が軟調気味であることを断わっておきます。
それにしても、このレンズはホントに4枚なのかと目を疑いたくほど高性能です。いままで全く評価されてこなかったのが不思議でしかたありません。
 
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9,WB 日光,Film Simulation: Nostalgic Nega)
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 3:2,WB 日光, Film Simulation Nostalgic Nega)
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 3:2,WB 日光, Film Simulation Nostalgic Nega)
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9,WB 日光,Film Simulation: Nostalgic Nega)
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9,WB 日光,Film Simulation: Nostalgic Nega)
F8 Fujifilm GFX100S(Aspect Ratio 16:9,WB 日光,Film Simulation: Nostalgic Nega)






2022/02/25

LOMO OKC1-50-1, OKC1-50-3, OKC1-50-6 50mm 50mm F2 (OCT-18 mount) OKS1-50-1, OKS1-50-3, OKS1-50-6



シネレンズ最後の秘境

ロモの映画用レンズ part 12

巨大なフォーカスレバーとゼブラ柄、カラフルな鏡胴に身を包んだお洒落系の実力派レンズ

LOMO OKC1-50-1, OKC1-50-3, OKC1-50-6 50mm F2(OCT-18 mount)

OKC1-50シリーズはLOMO(ロモ)がロシア版アリフレックスの異名をもつ映画用最高級カメラ(映画用35mmフォーマット)のKONVASに供給した焦点距離50mmのレンズです。日本で既に広く認知されているPO3-3Mの後輩にあたるモデルで、洗練された高い光学性能を特徴としています。LENKINAP時代の1950年代中頃に登場し、大きな設計変更のないまま同社の中核モデルとしてソビエト連邦崩壊の1990年代初頭まで長期にわたり生産されました。鏡胴から突きだしたヘラジカの大角のような見事なフォーカスレバー(指掛け)とゼブラ柄、経年変色した美しい鏡胴が見る人の目を引くもう一つの特徴で、一見して特殊な用途に使われていたレンズであることがわかります。デジカメにマウントして町に出かけると、特異なデザインが人々の好奇心を煽るようで、アメリカの美術館や博物館をこのレンズで撮影して回っていた頃には「一体これは何なのか」「どんな風に写るのか」などと話かけられる機会が多くありました。映画館のワイドスクリーンで上映されるような映画を撮るレンズだと答えると、大抵の人は初めて目にする種類のレンズに驚きの表情を浮かべていました。人々のリアクションを楽しむことができるのは、正にオールドレンズユーザーとして冥利に尽きます。
LOMOの映画用レンズには鏡胴の表面素材が酸化している個体が多く、元はブラックだったものが経年を経てメタリックグリーンやメタリックブラウン、パープルなど美しく変色しています。変色の程度は湿度などの保存環境に左右されて決まりますので個体ごとに異なっています。運良く美しい色の固体に出会うことができれば、この世に1本しかない偶然の産物、自分だけのオリジナルレンズであるかのような愛おしい気分に浸れます。LOMOのOKCシリーズをお探しの方は、ぜひ時間を掛けて変色した固体を探してみてください。
OKC1-50シリーズには幾つかのバージョンが存在します。まず注目したいのは1950年代半ばに登場し1977年まで製造された初期モデルのOKC1-50-1で、主に35mm映画用カメラのKONVAS-1/1M(OCT-18マウント)や、バヨネット式のOCT-19マウント(ロシア版PLマウント)を採用したKONVAS-2MとKINOR-35Hに搭載する交換レンズとして供給されました。ほぼ同じスペックをもつ競合製品のKMZ PO3-3M(KONVAS用)に比べると、中心解像力が10%向上しコントラストも向上するなど、画質面での改良がみられます[1]。また数は少ないもののDRUJBA( Дружба =「友情」の意) という防音カバーのついたMitchel BNC型の映画用カメラや、16SP(1958-1964年販売)という16mm映画用カメラに供給されたモデルも存在します(双方とも入手済み)。これらのガラスに蒸着されている反射防止膜は単層膜のいわゆるシングルコーティングですが、後の1977年もしくは1978年にリリースされた後継モデルのOKC1-50-6にはマルチコーティングが施され、シャープネスの向上がみられます。OKC1-50-6はOKC1-50-1と同じ光学設計ですが、新世代のフィルムカメラに対応するため、レンズボディの後部が短くなっています。ボディの設計変更により、OKS1-50-1よりイメージサークルのカバー範囲が僅かに狭くなりましたがコントラストは向上しています。また16mm映画用カメラのKinor 16CXシリーズ(1965年登場)に搭載する後継製品としてもKMZからもOKC1-50-4がリリースされています。こちらはOKC1-50-1(OKC1-50-6)とは別設計の一回り狭いイメージサークルに最適化されているようです。フルサイズ機で使うにはケラレ量が大きく、APS-C機で使うことになります。光学系の各部の寸法はOKC1-50-1よりもむしろPO3-3Mに似ており[1]、解像力は中心部、周辺部ともPO3と同等、レンズがPO3を製造していたKMZからリリースされているという点も頷けます。このレンズは別の機会に取り上げたいと思います。さらにLENKINAP(LOMO) OKC1-50-3というレンズもあり、1950年代後期の比較的早い時期にKONVAS用として既に登場していました。このモデルも入手してはみたのですが、OKC1-50-1との差がどこにあるのか、いまいちよくわかりません。反射防止膜はシングルコーティングで、市場に出回ることの少ない製品です。
 
OKC1-50-1の構成図(GOIレンズカタログ[1]からのトレーススケッチ)。設計構成は4群6枚のオーソドックスなガウスタイプです
 
レンズ構成は上図のような4群6枚のオーソドックスなガウスタイプです。PO3-3Mの構成図と比べると前群側の屈折力が更に強く、前後群の対称性が更に崩れた形態です。
 
参考文献・資料
[1] GOIレンズカタログ(1970年)
 
LOMO OKC1-50-1 50mm F2: 重量(フード込みの実測)218g, 最短撮影距離(定格) 1m, 絞り F2-F16, 絞り羽 14枚, フィルター径 45mm, シングルコーティング, KONVAS-1/1M(OCT-18), マウントS/N: N75***(1975年製造個体), 映画用35mmフォーマット(APS-C相当)に準拠
OKC1-50-1 50mm F2: Дружба(DRUJBA=「友情」)という名のカメラが採用していたバヨネットマウント, 焦点距離50mm, 絞り F2(T2.3) - F16, 最短撮影距離 1m, 映画用35mmフォーマット(APS-C相当)に準拠, シングルコーティング
LENKINAP OKC1-50-3 50mm F2: 重量(実測)211.5g, フィルター径 45mm, 絞り F2(T2.4)-F16, 絞り羽 14枚構成, S/N: N59***(1959年製造個体), 最短撮影距離 1m, KONVAS OCT-18 mount , シングルコーティング, 映画用35mmフォーマット(APS-C相当)に準拠
LOMO OKC1-50-6 50mm F2: 重量(フード込みの実測)215g, 最短撮影距離(定格) 1m, 絞り F2-F16, 絞り羽 14枚, フィルター径 45mm, マルチコーティング, KONVAS-1/1M(OCT-18)マウント, S/N: N86***(1986年製造個体), 映画用35mmフォーマット(APS-C相当)に準拠





今回、比較検討のために入手したOKC1-50ファミリー
16mm映画用カメラのKinor 16CXシリーズ用としてリリースされたOKC1-50-4(KMZ製)。16mmフィルム用であるが、イメージサークルには余裕がありAPS-Cをカバーできた。今回取り上げるLOMO製とは毛色の異なる別設計レンズであるため、別の機会にどこかで取り上げることにする
 
入手の経緯

国内にレンズの流通は少なく、eBayを経由しロシアやウクライナ、ベラルーシ、モルドバなどのセラーから購入するのが主なルートです。日本では秋葉原の2ndbaseでライカマウントに改造した個体を若干数揃えていました。2022年現在のeBayでの取引相場はレンズヘッド単体のみの値段が350~500ドル(送料別)あたりです。このレンズをデジタルミラーレス機にマウントするためのアダプターがeBayに何種類か出ています。おすすめはOCT18 - Leica M(写真・下)で、ライカマウントに中継させミラーレス機にマウントし、ヘリコイドアダプターの外部ヘリコイドでピント合わせを行うことです。このレンズが採用しているOCT-18(オスト18)というマウント規格はヘリコイドを繰り出す際に鏡胴の回転を防ぐ「直進キー」と呼ばれる機構がカメラやアダプターの側にないと、ヘリコイドが正常に機能しません。ちなみに直進キーのあるアダプターも存在はしているのですが、現在のところは、まだとても高価です。直進キーのない安価なアダプターでもピント合わせはできますが、絞り冠との同時操作がやや難しくなりますし、調子に乗って繰り出しすぎると光学ユニットが鏡胴がら抜け外れてしまいます。ピント合わせを外部ヘリコイドに頼る事をおすすめするのはこのためです。

 

ポーランドのセラーがeBayで販売しているOCT18-Leica M簡易アダプターです。直進キーはありませんが、とても良く出来ている製品でした。



写真・左はM42-M39(17-31)直進ヘリコイドに載せライカL(L39)マウントに改造した事例です。使い勝手が格段に向上しました。改造はやや難度が高く、鏡胴をヘリコイドに収めるためにマウント側の銀色の部分を切除しました。参考までにこちらに提示してあります。かなり面倒なのでやり方は質問しないでね・・・!
 

撮影テスト

いずれのモデルもAPS-Cセンサーをカバーできる広いイメージサークルを持っています。フルサイズセンサーでは四隅が若干ケラれますが、純正フードを外すとケラレは僅かとなりギリギリ許容できるレベルです。開放からシャープネスやコントラストは高く、シャドー部の黒の締まりのよい高性能なレンズです。先代モデルのPO3-3やPO3-3Mに比べると中央から四隅にかけての良像域が一段と広く、レンズをフルサイズ機に搭載して用いた場合でも、画面の隅までメインの被写体をしっかりと描き出してくれます。ただし、グルグルボケはややきつめに出る印象でした。像面を平坦化したぶん反動で非点収差が大きくなってしまったのかもしれません。あっちを引っ込めればこっちが出てしまうのは我々人間の営みにもよくある事です。フルサイズ機で用いる場合、四隅に光量落ちがあります。明暗差のある場所でうまく利用すればトーンが誇張され、ダイナミックな画作りができます。

理屈上はシングルコーティングのモデルの方が軟調で味のある描写が楽しめますし、マルチコーティングのモデルの方がコントラストやシャープネスが高く、発色も更に鮮やかです。ただし、実写による感覚・感想としては両者に大差はなく、どちらのモデルもコントラストやシャープネスは良好でした。明確な差は逆光時に出るものと思われます。ちなみに逆光時のゴーストは比較的出やすいレンズです。

 

OKC1-50-6(OKS1-50-6)での写真作例
 
OKC1-50-6@F2(開放) +sony A7R2(WB:日陰) シャドーのトーンがなだらかで、階調はよく出る感じです。明暗差の大きな場面では、四隅に向かってトーンが誇張されるようです。よさそう!


OKC1-50-6 @F2(開放) + sony A7R2(WB:日光) フルサイズ機で用いる場合にはグルグルボケがややきつめに出ます。中心部のシャープネスが高くて高性能なレンズです














OKC1-50-6 @F2(開放) + sony A7R2(WB:日陰) 暗部(黒)の締まりがとてもいいです

OKC1-50-3(OKS1-50-3)での写真作例

OKC1-50-3@F2(開放, without hood) + sony A7R2(WB: 日陰, FF mode) 開放での繊細な質感表現はシネレンズならではのものですね。
OKC1-50-3@F2.8(without hood) + sony A7R2(WB:日陰, FF mode) 












OKC1-50-3@F2.8(without hood) + sony A7R2(WB:日陰, FF mode)
OKC1-50-3@F2(開放) +sony A7R2(WB:⛅, FF mode)  フルサイズセンサーにシネレンズの組合せの場合、四隅がピンボケすることが多くありますが、このレンズでは像面が平らなのか中心から外れたところまでピントが合います
OKC1-50-3@F2.8(without hood) + sony A7R2(WB: ⛅, FF mode) 四隅の僅かなケラレもいい味を出してくれます



OKC1-50-1(OKS1-50-1)での写真作例
 
今回はお芝居などで活躍中の鈴木康史さん( @bff_actmodel13 )にモデルとして登場していただきました!写真ではわかりにくいのですが、ちょっとだけ松潤にも似たルックスの鈴木さん。かわいらしさとカッコよさの同居した魅力的な男性です。
 
OKC1-50-1 @ F2(開放) Fujifilm X-T20 (AWB, F.S.: Standard) 開放描写の質感表現が、これまたとてもよいです。
OKC1-50-1 @F2.8 Fujifilm X-T20 (AWB, F.S.: Classic Chrome) 

OKC1-50-1 @F2.8 Fujifilm X-T20 (AWB, F.S.: Standard)



2022/01/12

写真展のご案内 第3回 クラシックカメラ博in博多【博多阪急8階催場】

第3回 クラシックカメラ博in博多【博多阪急8階催場】

~憧れの銘機からデジタルカメラまで。~2021年

URL: https://yokanavi.com/event/221584/

の写真展に出展予定です。

どうぞよろしくお願いいたします。





2021/12/31

Taika(Taisei Kogaku / TAMRON) Harigon 58mm f1.2 泰成光学

 

激しいフレアの中に緻密な像を宿す、オールドレンズの究極形態の一つがここにあります。これはもうタイカの改新なのでしょうか。

泰成光学の超大口径レンズ

Taika(Taisei Kogaku / TAMRON) HARIGON 58mm F1.2 (EXAKTA outer-bayonet mount)

泰成光学(正式名「泰成光学工業株式会社」)は現役光学メーカーTAMRONのかつての社名です。会社としての創業は1952年で、1950年に創設された泰成光学機器製作所(埼玉県浦和市が拠点)を前身としています[1]。Taisei-KogakuではなくTaikaを名乗ったのは、おそらく海外でのブランディング戦略の一環としてシンプルで覚えやすい名称(トレードネーム)を付けたかったためでしょう。日本光学はNikon、八洲(やしま)精機株式会社はYASHICA、小西六写真工業株式会社がKONICAを名乗るなど、この種の改称はよくあることでした。社名は後の1970年に同社光学技術の礎を築いた田村右兵衛氏の姓をとって、TAMRONへと再改称されています。

今回取り上げるHARIGONは泰成光学が輸出用に製造し、1960年から1969年まで米国市場に供給した超高速レンズです[2]。F1.2の明るさを持つ一眼レフカメラ用レンズとしてはZunow flex用に供給されたZunow 5.8mm F1.2に続くハイスペックな製品で、時代を先取りしていました。ただし、一眼レフカメラの人気がNikonやPentaxに移行する中で本品は主にExakta用に供給されたため、商業的には失敗に終わっています[2]。

レンズ構成は6群8枚です。構成図は入手できませんでしたがオーソドックスな4群6枚のガウスタイプの前方と後方に正の凸レンズを1枚づつ配置した設計です[2]。この種の構成を採用したレンズとしては、Angenieux Type M1 25mm F0.95やAuto Miranda 50mm F1.4の前期型などがあります。描写面での特徴は中心解像力の高さと盛大かつ均一なフレアを伴うピント部で、被写体を線の細い繊細なタッチで描き出してくれます。魔力系収差レンズを探している方には、一度は試していただきたいオススメのレンズです。

Taikaブランドのレンズは主に米国で流通しており、日本の市場に出回る事は極稀です。今回紹介するレンズ以外では広角のW.Taika Terragon 35mm F3.5, 望遠のColor Doryt 135mm F3.5, Tele Colligon 180mm F3.5, Super Colligon 200mm F2.8, Super Cinconar 200mm F3.4, Tele Cinconar 400mm F6.3、焦点距離の変えられるDUO Focus 140mm F4.5/230mm F7.9, Super Westromat 35a用のTerionon 45mm F3.5とTaikor 45mm F3.5が市場で流通しています。EXAKTAマウントのモデルが大半ですが、それ以外にも若干数ですが幾つかのマウント規格で供給されました。

 

参考文献

[1] TAMRON公式ページ 「タムロンの歴史」

[2] Frank Mechelhoff, "Japanese Oddities(Rare stuff)"  May 30, 2009

  

入手の経緯

レンズは2020年4月にeBayにて米国のセラーから26万円で落札しました。写真家の知り合いが手に入れたいとのことで、海外からの購入をサポートする見返りとして、しばらくお借りすることができました。届いたレンズはオークションの記載どうりバルサム剥離が見られましたが、それ以外に問題はなく、拭き傷すら見当たらない保管品のような状態でした。過去何件かのハリゴンの落札履歴をみましたが、2000ドル~2500ドル辺りがeBayでの相場のようです。流通している個体はバルサム接着が経年劣化により剥離しているものが大半です。写真への影響の小さい症状ですのでそのままでも使用できますが、専門の修理業者に修理してもらうことも可能です。希少性の高いうえ海外で販売されていたレンズのため、探すとなるとeBayで気長に待つ以外に方法はありません。出品者は毎回決まって米国のセラーですので、米国内で開催される販売会でも入手できるかもしれません。オールドレンズレンタルサービスのTORUNOでレンタルすることができるようです。

このレンズはEXAKTAアウターバヨネットマウントと呼ばれる外爪方式のマウント規格を採用しており、通常のEXAKTA用アダプターにはマウントできません。EXAKTAやEXAなどのカメラボディからマウント部を取り出した特注アダプターが必要になります。私はどうにかジャンクカメラを入手し、自作のアダプターを用意しました。

重量(実測) 458g, 焦点距離 58mm, 絞り値 F1.2-F16, 最短撮影距離 0.54m, フィルター径 58mm, 設計構成 6群8枚(ガウス発展型), EXAKTAアウターバヨネットマウント

 

撮影テスト

このレンズの良さはピント部だと思います。開放ではフレアが多めに発生し柔らかい描写になりますが、解像力は充分にあり、ひとたびこのレンズのゾーンに入ると、とてつもない表現力で被写体を描き出します。柔らかさの中に緻密で繊細な質感表現を宿す、極めて線の細い描写が特徴です。フレアの纏わりつき方がとても自然で、被写体の輪郭部に集まり強く自己主張するタイプのフレアではなく、極薄いベールが均一に覆う様な出方ですので、これなら引き画で人物を撮る場合にも心配なく使えます。開放では中央しか解像しないという噂をよく耳にしていましたが、私が手にした個体では隅のほうまでしっかりとした像を結んでいました。ボケに強い特徴やクセはなく、よくあるフツーのオールドレンズのボケ方で、口径食も古い大口径レンズによくある一般的な欠け方です。F1.2だけのことはあり、やはり大きくボケてくれます。距離によっては少しグルグルボケが出ることがありました。

今回はレンズをメンズポートレートで使用しました。モデルは以前LOMOのレンズの回でも撮らせていただいたヒュー(Hugh Seboriさん)です。カッコいい人に大げさなポーズは要りません。眉毛をピクリと動かすだけで、口元を少し緩めるだけで、もう充分なポーズなのです。

F1.2(開放) sony A7R2(WB:日光) この質感表現、最高です
F1.2(開放) sony A7R2(WB:日光) 絶妙なフレア感で像を緻密に描き出してくれます

F1.2(開放) sony A7R2(WB:日光) 逆光ではハレーションも良く出ます。コントラストが下がりすぎる場合はフードでのハレ切りも必須ですね












F1.2(開放) sony A7R2(WB:日光) シャワー状のゴーストが出ました

F1.2(開放) sony A7R2(WB:日光) 背後に少しグルグルボケが出ることもあります



F1.2(開放) sony A7R2(WB:日陰)