おしらせ

2023/04/11

Taylor & Taylor Hobson / BELL & HOWELL Super Comat 1inch(25mm) F1.9, c-mount

小さくて丸っこい樽型レンズ
TAYLOR, TAYLOR & HOBSON / BELL & HOWELL 
SUPER COMAT 1inch 25mm F1.9 c-mount
樽みたいな丸みのある形状に、ほぼ一目惚れ状態で購入してしまいました。設計構成なんてどうでもいい。あなたじゃなきゃダメなんです。英国Taylor, Taylor & Hobson(T&H)社と米国Bell&Howell(B&H)社がB&H製16mmシネマカメラのFILMO AUTO LAODFILMO AUTO MASTER搭載する交換レンズとして同時供給した、Super Comat(スーパー・コマート)です。中古市場にはT&H製(Made in England)B&H製(Made in USA)の同一個体が流通しており、さらにB&H Super Comat made by T&H, Englandの表記個体まで存在します。どちらが作ったのか、もはや全くわかりません。レンズの設計構成は不明ですが、光の反射から推測すると前群3枚、後群1枚の4群4枚エルノスター型で間違いなさそうです。ならば、線が太く、コントラスト重視の力強い描写設計が期待できます。どんなもんでしょう。

左がBell&Howell製、右がTaylor&Hobson製の個体。同一個体です


中古市場での取引価格
eBayでは10000円から15000円程度で取引されているレンズで、Taylor HobsonブランドとBell Howellブランドでの価格差はありません。ヘリコイドグリスが劣化し、ピントリングが硬い個体が多いので、グリスを交換する必要がありますが、一般的なレンズよりもヘリコイドの構造が単純で、グリスの交換は簡単でした。

Super Comat 1inch(25.4mm) F1.9: 最短撮影距離 46cm, 絞り F1.9(T2.1)-F22, 絞り羽 6枚構成, フィルター径 23mm前後, 設計構成 4群4枚, 重量(実測)67g, Cマウント




撮影テスト
解像力よりはコントラストで押す線の太いタイプのレンズで、中央はシャープなイメ―ジが得られ、発色も鮮やかです。16mmシネマ用のレンズにしてはイメージサークルに余裕があり、マイクロフォーサーズセンサーでも四隅が僅かに暗くなる程度で充分に実用的です。ただし、四隅は本来は写らない領域ですので、樽型の歪みやグルグルボケが目立つことがあります。気になるようでしたらイメージフォーマットを16:9に変えてしまえばよいでしょう。映画に近いアスペクト比ですので、これはこれでおススメの設定です。近接撮影時には背後にグルグルボケが目立つことがありました。F2.8からF5.6の間で絞り羽の形状が星形になり星ボケが出ました。うまく利用すれば面白い写真がとれます。

マイクロフォーサーズ機(Olympus PEN)での写真作例

F1.9(開放) Olympus PEN E-PM1(WB:日光)
F1.9(開放) Olympus PEN E-PM1(WB:日光)近接ではグルグルボケが出ます
F1.9(開放) Olympus PEN E-PM1(WB:日光)

F1.9(開放) Olympus PEN E-PM1(WB:日光)
F1.9(開放) Olympus PEN E-PM3(Aspect Ratio 3:2) カメラの設定でアスペクト比を変えればダークコーナーは全く出ません


APS-C機(Fujifilm X-T20)での写真作例
センサーサイズが一回り大きなAPS-C機ではカメラの設定を変え、アスペクト比を1:1に変更すればマイクロフォーサーズセンサーとほぼ同等の対角線画角になりますので、ダークコーナーの発生は僅かです。

F5.6 Fujifilm X-T20(Aspec ratio 1:1, WB:Auto, Film Simuration: CC)

F1.9(開放) Fujifilm X-T20(Aspec ratio 1:1, WB:Auto)


F1.9(開放) Fujifilm X-T20(Aspec ratio 1:1, WB:Auto, FS:Standard)

F1.9(開放) Fujifilm X-T20(Aspec ratio 1:1, WB:Auto, FS:CC)

F1.9(開放) Fujifilm X-T20(Aspec ratio 1:1, WB:Auto, FS:Standard)

F5.6 Fujifilm X-T20(Aspec ratio 1:1, WB:Auto, FS:Stndard)
F1.9(開放) Fujifilm X-T20(Aspec ratio 1:1, WB:Auto,FS:CC)

F1.9(開放) Fujifilm X-T20(Aspec ratio 1:1, WB:Auto, FS:CC)
F2.8 Fujifilm X-T20(Aspec ratio 1:1, WB:Auto, FS:CC)
F1.9(開放) Fujifilm X-T20(Aspec ratio 1:1, WB:Auto, FS:CC)

2023/04/01

Dallmeyer PENTAC 76mm (3 inch) F2.9

戦前のフォクトレンダー社がハイエンドモデルに位置づけていたダイナー型のヘリアー(HELIAR)は私の大好きなレンズの一つです。描写はたいへん美しく、品のある滲みが特徴で、艷やな写りにはいつも驚かされます。ピントの芯はしっかり来るためポートレートにも十分に使える性能です。このブログでは過去の2つの記事でHELIAR 75mm F3.5を取り上げ紹介しました。ちなみに同じダイナー型レンズのKODAK Medalist EKTAR 100mm F3.5も大好きなので、いつか手に入れて取り上げてみたいと思っています。最近、このダイナー型レンズに本家ヘリアーよりも更に明るいモデルがある事を教えてもらい、心が揺り動かされました。指を加えて黙っているわけにはいきません。英国ダルマイヤー社が中判カメラのDallmeyer Speed Cameraに搭載するレンズとして1920年に発売したペンタック(PENTAC) F2.9と、イーストマン・コダック社がHESSELBLAD 1000F/1600Fに搭載する交換レンズとして1948年に発売したエクター(EKTAR) 80mm F2.8です(下図)。美しい描写を求め、PENTACとEKTARを2本続けて紹介します。

美しい描写を求めて!本家フォクトレンダーの明るさを超えたDYNARタイプのオールドレンズ

PART 1: Dallmeyer PENTAC 76mm (3 inch) F2.9

明るいDYNARタイプのレンズを紹介する特集となりましたが、1本目は英国のダルマイヤー社(Dallmeyer)が中判スプリングカメラの"DALLMEYER SPEED CAMERA"に搭載するレンズとしてカメラと共に1920年に発売したペンタック(PENTAC)です。レンズを設計したのはLionel A. Booth(Lionel A. ブース)という謎の人物で、Boothはケンブリッジ大学を卒業後、フリーランスのエンジニアとして活動し、1919年にダルマイヤー社にPENTACのレンズ設計を提供しています[1,2]。1919年当時はエルノスターやオピックなど明るいレンズが登場する前でしたので、中判用に設計されたF2.9のレンズは驚異的な性能でした。英国国防総省は8インチのPentacを5x5インチフォーマットの航空カメラに採用しています[1]。レンズの焦点距離は1.5 inch(38mm) から12inch(304mm)まで11種類ありました[3]。焦点距離8inch(203mm)以上の長焦点モデルはソフトな像が得られ、ポートレートに最適であるとのことです。今回手に入れたレンズはDALLMEYER SPEED CAMERの 4.5cmx6cmフォーマットのバージョンに採用されている焦点距離3inch(76mm)のモデルです。カタログ[3]に掲載されているこのモデルの推奨イメージフォーマットは44mmx66mmですので、実際には中判645フォーマットよりも一回り大きい中判6x6フォーマットが最適です。文献[4]によると像面は若干内側に曲がっているとのことですが、像面を曲げることには非点収差を有効に抑える効果があり、レンズ設計士が度々用いるテクニックです。これは意図的な設定でしたが、こうした事情とは正反対にカタログでの製品解説には、とても明るいレンズであるとともに像面が平らであることがセールスポイントとして強調されています。今回は中判6x6フォーマットのブロニカと44mmx33mmのデジタルイメージセンサーを搭載したFujifilm GFXで撮影テストを行いました。

参考文献

[1] Lens collector's vade mecum

[2] L. B. Booth, Brit. Pat. 151506(1919)

[3] B.J.A, P.366(1925)

[4]Rudolf Kingslake.  A History of the Photographic LensAcademic Press; 第1版 (1989)/R.キングスレーク 写真レンズの歴史

[5] Macro Cavina's home page: Hasselblad first lenses

Dallmeyer PENTAC 76mm (3 inch) F2.9: 絞り F2.9-F16, 絞り羽 14枚構成, シリアル番号 110XXX(1925年前後), 重量(実測)132g, フィルター径 35mm, マウントスレッド M32, ノンコート
レンズの取引相場

国内での製品の流通は僅かのため入手先は主に海外からで、eBayでの取引相場はカメラとセットで1200ドル(15万円位)辺りからとなります。レンズ単体で売られていることは少ないのですが、私は2018年にレンズ単体で売られてたものを数万円で購入しました。前玉に若干の拭き傷がありましたが写真には影響ない程度でしたので、これで良しとしました。ちなみに知人に頼まれ2019年頃に同じスペックのレンズをeBayにて売却した事があります。このレンズは前玉にクモリがありましたが、競売の末、まさかの7万5千円で落札され中国人の手に渡りました。海外では人気レンズなのでしょうか?

カメラへのマウント方法

今回はレンズをM42マウントにマウント変換した事例と、ブロニカS2に搭載した事例を紹介します。

まずM42マウントへの変換ですが、上の写真のようにM32-M42アダプターを使用してM42直進ヘリコイド(20-40mm)に搭載できます。この種のアダプターは特殊ですが、AliexpressやCUSTOM PHOTO TOOLSなどで入手できます。ややオーバーインフですが市販の部品のみでできてしまう簡単なマウント変換です。レンズはM42レンズとして問題なく使用できます。

続いて、BRONICA S2への搭載方法ですが、こちらはやや難易度が高めで、過去に何度かご紹介した沈胴方式でマウントする方法が有効です。用意した部品は左からM42-Bronica M57アダプター、M42(1mmピッチ)-M46(0.75mmピッチ)リバースリングアダプター、Bronica M57マクロエクステンションリング No.1、37-46mmステップアップリング、34-37mmステップアップリングです。これらの部品をつかって、下の写真のようにレンズのフィルター側からBRONICA S2のM57スクリューネジにマウントします。レンズの鏡胴はBronica本体の内部に完全に入ってしまいます。これで、無限遠のフォーカスを拾うことが可能です。
 

撮影テスト

古い時代のノンコートレンズらしい軟調な描写で、コントラストは低く発色は淡白になり、階調の暗部が浮き気味です。モノクロフィルムの時代の写真レンズなのでこうなります。デジタルカメラのGFXで用いる場合、光が多い条件下で繊細に光が乱反射し、紗がかかったような柔らかい効果を狙うことが出来ます。また、明暗差が大きい場面ではハイライト部の周りを滲みが覆います。Bronica S2によるフィルム撮影では、このような性質が覆い隠され、素晴らしいソフトワイドレンズとなります。こちらが本来の描写ということでしょうね。背後のボケは概ね安定しており、グルグルボケの原因である非点収差は前評判どうりによく補正されいます。背後のボケは乱れることなく綺麗です。逆光には著しく弱いので、積極的に逆光撮影をする方はフードを装着する方がよいとおもいます。

デジタル撮影

Fujifilm GFX100S

F2.9(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: Standard) 













F2.9(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: Standard)

F2.9(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: Standard)


F2.9(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: Standard)
F2.9(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: Standard)
F2.9(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: Standard)

F2.9(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: Standard)



カラーネガフィルムでの撮影

Bronica S2 中判6X6フォーマット

+ Fujifilm PRO160NS

F5.6 Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)

F2.9(開放) Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)
F2.9(開放) Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)

F5.6 Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)

F8 Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)

F4 Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)

F5.6 Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)

F5.6 Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)
F4 Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)
F2.9(開放) Fujifilm PRO160NS (6x6 medium format)

2023/03/16

Schneider Kreutznach XENOTAR 60mm F2.8

プラナーやアンジェニューがそうであるように、このクセノタールにも昔から絶対的な信頼を置くプロカメラマンや熱狂的なファンがいます。今回はやや変則的な焦点距離60mmの試作モデルを手に入れましたので、ファンの皆様には大変申し訳なく思いますが、美味しい役をいただこうと思います。このレンズはGFXなど中判デジタルセンサーを搭載したカメラとの相性が良さそうです。

やっぱり凄い。シュナイダーの旗艦レンズ

Schneider Kreutznach XENOTAR 60mm F2.8

前群にガウス、後群にトポゴンの構成を配し、奇跡的にも両レンズの長所を引き出すことに成功した優良混血児をXenotar / Biometar型レンズと呼びます。この型のレンズ構成は戦前からCarl Zeissによる特許が存在していましたが、製品化され広く知られるようになったのは戦後になってからです。他のレンズ構成では得がたい優れた性能を示したことから一気に流行りだし、東西ドイツをはじめ各国の光学機器メーカーがこぞって同型製品を開発しました。この種のレンズに備わった優れた画角特性(周辺画質)と解像力の高さは当時のダブルガウス型レンズの性能を凌ぎ、テッサーも遠く及ばないと称賛された程です。ピント部の優れた質感表現に加え、広角から望遠まであらゆる画角設計に対応できる万能性、マクロ撮影への優れた適性、一眼レフカメラにも適合するなど多くの長所が見出され、テッサー、ゾナー、ガウスなど優れた先輩達がしのぎを削る中で大きな存在感を誇示したのです。

このレンズに対しては「設計はBIOMETARと一緒でしょ?」という言い分もありますが、実際の所は硝材の構成まで含め、全く同じということはありません。両レンズの設計は構成配置こそ同じですが、下図のようにXENOTARは前玉と後ろ玉の曲率がきつく、正エレメントの厚みもBIOMETARより薄めで、全体に丸みがあり、背丈も低く、ダルマさんみたいな形状です。気のせいもあるかと思いますが母親のトポゴンに近い形態で、BIOMETARとは異なる別物であるような印象をうけます。設計の基礎となったガウスタイプとトポゴンタイプの交配(折衷)において、トポゴンの形質を強く受け継いでいるのでしょうか?

トポゴンに備わった画角特性の優位性とガウスタイプの持つ優れた描写性能の美味しいところを鷲掴みし、写真の四隅まで力強い描写性能を実現したのが、このレンズの特徴です。

BIOMETAR(左)とXENOTAR(右)の構成図:上が被写体側で下がカメラの側

XenotarはドイツのSchneider社が中・大判カメラ用レンズとして1951年から35年以上もの長期に渡り生産していた主力製品で、ドイツ語ではクセノタール、英語ではクセノターと読みます。レンズ名の由来は原子番号54のキセノン原子、あるいはこの原子の語源となったギリシャ語の「未知の」を意味するXenosと言われています。Rolleiflex用に加え、Linhof-Technika用やSpeed Graphic用にSynchro-Compur/Pronter SVSシャッターモデルなどを生産、少なくとも9種類(75mm F3.5、80mm F2.8、80mmF2、100mm F2.8、100mm F4、105mm F2.8、135mm F3.5、150mm F2.8、210mm F2.8)が市場供給されました。今回ご紹介する60mm F2.8はシュナイダー社の台帳[1]に掲載があり、同社が1953年1月に4本のみ試作したうちの1本です。試作品はこの焦点距離以外にも、50mmF2.8が4本(1951年)40mmF2.8が5本(1952年)、85mm F2.8が3本(1955年)、105mm F3が4本(1957年)存在するようです。また、台帳には無い95mm F4の実物をeBayで確認したことがあり、台帳も完全ではないようです。レンズを設計したのは戦後のSchneider社で設計主任の座についたギュンター・クレムト(Günther Klemt)です。Xenotar F2.8とF3.5の特許をそれぞれ1952年と1954年に西ドイツで出願し、翌年には米国でも出願しています[2]。クレムトは他にも同社でSuper Angulonを設計(1957年)、また公式な資料は見つかりませんがKodak Retina用に開発された戦後型のXenonシリーズ(Xenon/Curtar Xenon/Longer Xenon)も彼が手がけたと言われていますが本当かな???[3]。

 
参考文献
[1] Großes Fabrikationsbuch, Schneider-Kreuznach band I-II, Hartmut Thiele 2008
[2] US Pat.2683398 / US Pat.2831395)
[3] A Lens Collector's Vade Mecum参照
Schneider XENOTAR 60mm F2.8: レンズは後からコンパーシャッターに搭載しました。購入時は未使用の状態で、前後群のレンズユニットがアーカイブ用に用意された特殊な鏡胴に収められていました。後玉のもの凄い湾曲が目を引きます


入手の経緯

レンズは2016年にドイツ版eBayにて個人の出品者から落札しました。「良好なコンディション」との触れ込みで、絞りの無い特殊な鏡胴に前群と後群が据え付けられた状態で売られていました。前・後群が16mm間隔であることや、取り付け部のネジ径がコンパー00番と同一の22.5mmでしたので、別途用意したシャッターユニットに据え付けた上でM42 to M39直進ヘリコイド(17-31mm)に搭載し、ライカL(L39)マウントレンズとして使用することにしました。レンズは試作品ですので、市場での決まった相場はありません。ちなみに、量産モデルの80mm F2.8はeBayにて現在10万円前後の値段で取引されています。

撮影テスト

ピント部の緻密な質感表現といい、なだらかなトーン描写といい、改めて評価の高いレンズであることを再確認しました。スッキリとしていてヌケが良く、被写体がそこに居るかのような臨場感や空気感の伝わってくる描写です。ボケはやや硬めでゴワゴワとしており、僅かに四隅が流れることがあります。今回の個体は逆光で円を描くような物凄いゴーストが出ました。避けたい場合にはフードを付ける必要があります。撮影にはレンズの性能を最大限に引き出すため、中判デジタルセンサー(44X33mm)を搭載したGFX100Sを用いました。全て開放絞りでの撮影結果です。

MODEL: Hughさん親子

CAMERA:FUJIFILM GFX100S

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: NN) トーンはオールドレンズのまま、ピント部の質感表現の緻密さは現代レンズにも引けを取らないと言ったところでしょうか


F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: NN) もはやヤバい性能であること確定です
F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: NN) 背後のボケは硬め

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: NN)
F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, FS: NN)

2023/03/15

MINOLTA MC TELE ROKKOR-PF 135mm F2.8

 

6枚構成で色収差を抑えた

高性能な望遠レンズ

MINOLTA MC TELE ROKKOR-PF 135mm F2.8

135mm F2.8の望遠レンズは設計構成の選択肢が多く、少ない構成枚数ですとトリプレット型(3枚)かエルノスター型(4枚)で製品化できます。高級レンズの部類になるとテレゾナー型(5枚)やクセノタール分離テレ型(5枚)などがあるのですが、今回のレンズは更に構成枚数の多い豪華な6枚玉で、文献[1]によるとクセノタール分離テレ型から派生したG2負正接合タイプと紹介されています(下図)。何のためにこんな豪華な構成にしたのでしょう。その答えが文献[1]にありました。望遠レンズでしばしば問題となる軸上色収差を効果的に抑えるためなのだそうです。このレンズならではのポイントを抑えつつ、どんな写りなのかをみてみましょう。

レンズは1965年に同社一眼レフカメラのSRシリーズ(SR-T101やNew SR-1など)に搭載する交換レンズとして発売されました。初期のモデルは今回ご紹介する個体のような金属鏡胴でしたが、翌66年から同社のレンズではゴムローレットのデザインが増えてゆき、1970年代の同社のカタログではこの135mm F2.8もゴムローレットのデザインとなっています[2,3]。

MINOLTA MC TELE ROKKOR-PF 135mm F2.8の設計構成(左が被写体側):5群6枚のクセノタール分離テレ型からの派生で、第2群(G2)に貼り合わせユニットを持つのが特徴です.上の図は文献[2]からのトレーススケッチ(見取り図)

焦点距離の長い(望遠比の小さい)レンズでは、球面収差の短波長成分が急激にオーバーコレクション(過剰補正)になる問題がありますが、通常の5枚玉までは色収差(軸上色収差)の増大を許容してまでこれを抑えようとします。一方、今回ご紹介するレンズは貼り合わせ色消しユニットで短波長成分の増大を抑えることができ、色収差を増大させることなく、収差設計が可能なのだそうです。レンズの設計枚数が増えると画質補正の補正自由度も増え、妥協のないレンズ設計ができるという一つの典型例です。ちなみに一段明るい同社上位モデルの135mm F2にも同じ構成が採用されています。

歪みの補正についてはクセノタール分離テレ型が得意とするところで、前後群の間隔を大きくとりながら、後群に配置した収斂性(しゅうれんせい)のある空気レンズを利用して、糸巻き状の歪みを効果的に補正しています[1]。シャープネスとコントラストが良好で歪みの少ない高性能なレンズのようです。優等生の困ったちゃんの予感が脳裏をかすめるのですが、どうしましょ。

参考文献

[1] レンズ設計のすべて 辻定彦著 第11章 P134-P137

[2] 「MINOLTA一眼レフ用交換レンズとアクセサリー」 ミノルタカメラ株式会社 1974年7月

[3] 1976年2月 MINOLTA ROKKOR LENSES カタログ

レンズには振り出し式のフードがついています。これが、かなり便利
 

入手の経緯

ヤフオク!でレンズやカメラの詰合せセットを購入した際に付いてきたのが、今回ご紹介するレンズです。ブログでは高性能で現代的なオールドレンズ(ある意味で立ち位置の中途半端なレンズ)を取り上げる機会は極力少なくしていますが、手に入れた個体の状態がかなり良かった事と望遠レンズをご紹介する機会が最近とても少なかったので、例外的に紹介することにしました。レンズは国内のネットオークションで2000円から3000円程度の安値で取引されています。もともとの小売価格を考えると、ちょっと可哀想な扱いです。

MINOLTA MC TELE ROKKOR-PF 135mm F2.8: 最短撮影距離1.5m, フィルター径 55mm, 重量(実測)525g, 絞り羽根 6枚構成, 絞り F2.8-F22, minolta SRマウント, フード内蔵, 設計構成5群6枚(XENOTAR分離テレ型からの派生)


 

撮影テスト

解像力は平凡ですが、やはり歪みが少ないうえ色収差(軸上色収差)は良好に補正されており、開放からスッキリとヌケが良く、コントラストで押すタイプの線の太い描写のレンズです。発色は良好で、逆光でも濁りは少なめです。オールドレンズとしての性格は薄いのですが、万人受けする現代的な描写なので、入門向けにはいいかもしれません。

F2.8(開放) SONY A7R2(WB:日光)



F5.6 SONY A7R2(WB:日光)


F5.6 SONY A7R2(WB:日光)




F2.8(開放) 開放からスッキリとヌケが良く、コントラストも良好。線の太めな現代的な味付けです

F5.6 SONY A7R2(WB:日光)