おしらせ


MAMIYA-TOMINONのページに写真家・橘ゆうさんからご提供いただいた素晴らしいお写真を掲載しました!
大変感謝しています。是非御覧ください。こちらです。

2020/08/10

レンズフィルターの歪みを矯正するバイスツールを使ってみた!

新型コロナウィルスの流行による外出自粛が続いていますが、こういう時は家に籠ってレンズのメンテナンスをする機会が多くなります。今回は以前から気になっていたフィルター枠の変形補修ツールを入手し、効果を試してみることにしました。変形したフィルター枠というのは、こういう状態の部位のことです。



過去に落下したりぶつけたりなどで先端部に大きな力が加わりグニャグニャと変形していますが、ラジオペンチでは真円の状態に戻すのは困難でしょう。そこで手に入れたのが下の写真に示すNEEWERのPRO LENS REPAIR TOOL(メード・イン・チャイナ)で、アマゾンでは3000円代(送料込)の値段で購入できます。「レンズ、バイスツール」というキーワードで検索してみてください。


さっそく効果をみてみましょう。
よくみると先端部の出っ張りにネジ山が彫り込まれていますので、これをレンズのフィルター枠のネジ山にはめます。
続いてバイスツールのハンドルを回し、徐々にテンションをかけて、内側に凹んだ歪みを広げるように矯正します。
テンションはかけすぎないよう注意してください。テンションをかけながら回すのではありません。少しテンションをかけたらテンションを解除、歪んだ場所だけでなく、その周辺部、別の場所にも弱い力でテンションをかけます。この操作をフィルター枠の全周に渡って均一に繰り返します。




歪みのある場所のみにテンションをかけるのではなく、フィルター枠の円周全体に渡って矯正してゆくのが修理のポイントです。徐々に歪みが消え、歪んだ部分が綺麗な真円に戻っています。

大きなテンションは要りません。弱く均一な力で、時間をかけて地道に取り組むのが綺麗に仕上げるコツです。不器用だったり気が短かったりすると、難しいかもしれません。作業は自己責任。使い方はメーカーまでお願います。
 
はげたペイント部は自動車修理用のタッチペンで目立たなくしました。最後はフードやレンズ保護フィルターが問題なく装着できる程まで回復しました。

2020/05/31

Auto Chinon MCM Multi-coated Macro 55mm f1.7 vs Auto-Alpa Macro 50mm f1.7



part 3(1回戦E組)
高速マクロレンズの頂上対決
Auto Chinon MCM Macro vs Auto-Alpa Macro
「似た者同士」という言葉が実にシックリとくるレンズの組み合わせが今回紹介するオート・チノン・マクロ(Auto CHINON MCM MACRO)55mm F1.7とオート・アルパ(Auto-ALPA)50mm F1.7で、どちらもF1.7の明るさを誇るハイスペックなマクロ撮影用レンズです。文献[1-2]にはAuto-ALPAがCHINONから供給を受けたと記されており、事実なら同門対決ということになりますが、実際にはもう少し複雑な背景があります。ともあれ、今回はマクロレンズ対決を楽しんでください。

Auto CHINON MCM 55mm F1.7は1977年にチノン株式会社が富岡光学からOEM供給を受けて発売した製品で、M42スクリューマウントの一眼レフカメラCHINON CE-3 MEMOTRONに搭載する交換レンズとして登場しました[3]。構成図は手に入りませんでしたが、設計はガウスタイプの前群の貼り合わせを外した拡張ガウスタイプ(5群6枚)と呼ばれる構成で、球面収差の膨らみを抑えることで一定水準の画質を実現しています。F1.7クラスの標準レンズとしては最もオーソドックスな設計構成です。
対するAuto-ALPAは高級カメラブランドのアルパで知られるスイスのピニオン社による監修のもと、1976年にコシナが製造しチノンから供給された拡張ガウスタイプ(CHINON MCMと同じ5群6枚)標準レンズです[4]。この製品はM42スクリューマウントの一眼レフカメラALPA Si2000(チノン製)に搭載する交換レンズとして登場しました[1]。実は外観や仕様が全く同じコシナ製チノンブランドのCHINON MACRO MULTI COATED 50mm F1.7という製品も存在し、Auto-ALPAとは銘板のみを挿げ替えた双子の製品のようです。コシナと富岡光学の関係がチノンとALPAを巻き込んでグチャグチャに絡み合っており、様々な憶測と誤解を生んでいます。まぁこの時代の日本の中堅光学メーカーにはよくある混沌とした状況ですが。
Auto ALPA 1.7/50の構成図(トレーススケッチ)

 
参考文献・資料
[1]  ALPA 50 Jahre anders als andere: ALPA Swiss controlにスイスコントロールのもと、日本のチノンと富岡からカメラやレンズのOEM供給をうけた経緯が記されています
[2] アルパブック―スイス製精密一眼レフアルパのすべて (クラシックカメラ選書)1995年
[3] マウント部のスイッチカバー(メクラと呼ぶらしい)に3方向からの固定用のイモネジがあるため、富岡光学製です。この検証法の詳細は「出品者のひとりごと: AUTO CHINON MCM」を参考にしています
[4] 内部に「直進キー用ガイド」があり富岡光学の製品ではありません。内部構造はコシナ製チノンブランドと同一です。「出品者のひとりごと:CHINON MACRO MULTI COATED(M42)」を参考にしています

入手の経緯
Chinon MCM MACROは知人が所有している個体をお借りしました。レンズのコンディションはとてもよく、ガラスに軽い拭き傷がある程度です。中古市場には最近、全く出てこなくなり、ヤフオクでもここ半年間で1本も出ていません。10年ほど前に買おうと思った時がありましたが、当時の相場は3万円弱で流通量も今よりは多かったと記憶しています。現在はもっと高い値が付くのではないでしょうか。
続いてAUTO-ALPAは2020年3月にeBayにて英国の古物商から250ドル+送料で落札しました。オークションの記載では「Very good condition」と説明されていました。このレンズのeBayでの相場は500ドル程度でしたので、安く手に入りラッキーと大喜びしていたのですが、届いたレンズには前玉のコーティングにごく小さなスポット状のカビ跡が2か所ありました。写真への影響は全く問題にならないレベルですので、これで良しとしました。




 
撮影テスト
これは一般論ですが、解像力(分解能)に偏重した画質設計ではフレアが発生しコントラストが低下気味になります。逆にコントラストに偏重しすぎるとヌケのよい画質になりますが、解像力が落ち、被写体表面の質感表現が失われてしまいます。両者は言わばトレードオフの関係にあり、メーカーによるチューニングがレンズの性格を決めています。シャープな像を得るには解像力とコントラストを高い水準でバランスさせる必要があり、うまくゆけば解像感に富む素晴らしい描写力のレンズができるとされています。今回取り上げる2本のレンズはどうなのでしょう。
両レンズとも開放からフレアの少ない高性能なレンズです。マクロ撮影に順応させただけのことはあり、背後のボケは中遠方でやや硬く、マクロ域までくると収差変動で適度な柔らかさに変わります。ボケはよく似ており、後ボケ内の点光源の輪郭は光強度分布まで含め、そっくりです。
 
Auto CHINON MCM Macro 55mm F1.7
CHINON MCM @F1.7(開放)sony A7R2(WB:日陰) 背後のボケ味はマクロ仕様のレンズらしく少し硬めで、玉ボケの輪郭部に光の輪っか(火面)ができています。ヌケはとてもいい
CHINON MCM @ F1.7(開放)sony A7R2(WB:日陰 iso 2400) 


CHINON MCM @ F2.8 sony A7R2(WB:日陰) 



 
Auto ALPA Macro 50mm F1.7

ALPA @ F2.8 sony A7R2(WB:日陰) こちらは色滲みが全く出ません。近接撮影に強い印象です

ALPA @ F4 sony A7R2(WB:日陰)



ALPA @ F1.7(開放) sony A7R2(WN:日陰) 遠方撮影ではChinonよりも柔らかく少し軟調気味です。近接を優先させ、かなり過剰補正にしたのか、これくらいの距離だと少しフレアが入ります。かなりストライクかも


  
画質の比較
遠方撮影時でのコントラストはCHINONの方が高く、発色も鮮やかなうえ濃厚です。ALPAはハレーション(迷い光)に由来するコントラストの低下がみられ、発色も青紫にコケる傾向があります。充分に深いフードをつけるなど、しっかりとしたハレ切り対策が必要です。ただし、滲みを伴うわけではありませんので解像感はCHINONと大差はありません。解像力は1段絞ったあたりでALPAの方がよく、CHINONよりも過剰補正が強いのでしょう。一方で近接撮影時になると遠方時とは少し様子が変わります。
CHINONは被写体の輪郭部が滲んで色付く色収差が目立つようになり、より近接域になるほど滲みが大きくなるとともに、ピント面全体でも少しフレア感が出てきます。この影響が描写の評価にかなり効いてしまい、解像感(シャープネス)はALPAよりも悪くなります。ALPAの方は近接撮影時でも色収差がよく補正されており、滲みやフレアは少なく、そのぶんシャープネスやヌケは一歩抜き出ています。ただし、一段絞れば両レンズのシャープネスはほぼ同等になります。
ポートレートから遠方を撮影する場合、コントラストはCHINON、シャープネスは同等かCHINONの方が僅かに上ですが、近接撮影になるとコントラストとシャープネスでALPAに軍配があがります。今回はマクロ撮影を売りにしたレンズであることを重視し、近接域で有利なALPAに軍配を挙げるべきかと思います。

さて、では評価結果を具体的に見てみましょう。2本のレンズの性能に顕著な差が見られたのは近接撮影時です。被写体はいつもの木馬で、ピントは目ではなく、質感の出やすい顎の表面の色が変色しているあたりとしました。絞りは開放、シャッタースピードとISO感度を固定し、三脚を立ててセルフタイマーを用いて撮影を行っています。

 
写真の赤枠を拡大したのが下の写真で、左がCHINON MCM MACRO、右がALPA MACROです。写真をクリックすると更に拡大表示ができます。
  


シャープネス(解像感)は明らかにALPAの方が高いうえ、コントラストも良く、スッキリとしたヌケの良い描写です。CHINONは色収差が大きめでフレアも出ています。背後のボケの拡散も大きいなどから判断すると、この距離で既に球面収差等が大きくアンダーに転じているように見えます。 

両レンズの活躍したフィルム撮影の時代では、色滲みは大きな問題にはなりませんでした。フィルム撮影による画質評価であるならばCHINON MCMが勝利した可能性も十分に考えられます。また、マクロ撮影用レンズの場合は絞った際に最高の画質が得られるよう過剰補正タイプにチューニングされている可能性もありますので、開放で評価した今回のテストは一つの切り口を与えたにすぎません。まぁ、CHINON MCMの場合は近接テストで既に補正がアンダーになっていたので、絞っても解像力の向上は限定的でALPAを追い抜くことは考えにくいと思います。

富岡光学がコシナに敗北するなんて信じられませんが、何度やっても結果は同じです。個体差なのではないかという意見もあるでしょうが、この意見は採用できません。CHINON MCMについてはショップでみつけた別の個体との比較をおこなっており、私が手に入れた個体との間に描写力の明らかな差は認められませんでした。
マクロスイターで名を馳せたピニオン社は本レンズを登場させるにあたり「スイス・コントロール」を宣伝文句に掲げていました。ピニオン社が当時のコシナにどのような技術供与をしたのか、とても興味がわいてきます。
 

2020/05/29

Yashica Auto Yashinon DS-M 50mm F1.7 vs Makina Optical Co. Auto Makinon 50mm F1.7


part 2 (1回戦B組)
マルチコーティングをいち早く導入した2社
富岡光学の底力を相手にマキノンの下剋上なるか!?
Yashinon DS-M vs Makinon
コーティングとはレンズのガラス表面を薄い金属の被膜で覆い、ゴーストとグレアの原因となる光の反射を抑え、写真のコントラストとシャープネスを向上させる技術です。コントラストが上がれば発色はより鮮やかになり、ピント部の解像感(シャープネス)もより強くなります。それが良いかどうかは別としても、高性能な現代のレンズの描写に近づくわけです。また、コーティング膜を層状に重ね、光の波長ごとに反射を防止するマルチコーティング(MC)という技術もあります。今回はMCをいち早く導入した2本のレンズの対決を楽しんでください。

1本目は現・京セラ(旧・八洲光学精機)のYASHICA(ヤシカ)から登場したAuto YASHINON DS-M(ヤシノン) 50mm F1.7です。このレンズは一眼レフカメラのYashica TL Electroに搭載する交換レンズとして1969年から市場供給されました。レンズを製造したのは富岡光学(こちらも現・京セラ)で、同社はYASHINONブランドに多数のOEM製品を供給しました。富岡光学と言えば後にYASHICAがCONTAXブランドでカメラを製造を始めた時代にCarl Zeissブランドのレンズの生産を請け負った伝説のメーカーで、同社にはZeissも認める高い技術力がありました。富岡光学が製造したレンズには今でも大変な人気が集まります。レンズの構成図は手に入りませんが、F1.7クラスとしては最も一般的な5群6枚の拡張ガウスタイプです。前群の貼り合わせを分離し球面収差の補正効果を高めることで、F1.7の明るさながらもF1.8クラスのレンズと同水準の画質になるよう工夫されています。ただし、6枚のレンズ構成でこの0.1の差を詰めるのは富岡光学といえども容易なことではなかったはずです。同社がこの難所をどう攻略したのか、想像するだけでもワクワクします。
 
これに対するのはAuto Makinon 50mm F1.7(オート・マキノン)で、東京・品川区五反田に本社のあったMakina Optical Co.(マキナ光学)が1970年代半ばに市場供給した標準レンズです。同社のレンズは一眼レフカメラの主だったマウントに対応しており、私が確認した限りでは少なくともM42, OLYMPUS, CONTAX/YASICA, CANON, MINOLTA, NIKON, PENTAX, KONICA, FUJICA X, ROLLEIに対応した製品個体が存在しています。マキナ光学は北米を中心に海外での販売に力を入れていたため国内では影の薄い存在となっていますが、eBayなど海外の中古市場には今もMakinonブランドの製品が数多く流通しています。レンズの鏡胴にはMCをイメージさせるグリーンのロゴと緑・赤・黄の三本線のデザインがあり、マルチコーティング(MC)をいち早く導入していたことが同社の製品の売りだったのは間違いなさそうです。最短撮影距離も0.45mと短く設計されており、レンズ専業メーカーらしい意欲的な製品仕様となっています。構成図は手に入りませんが、設計構成はF1.7クラスのレンズにしては珍しい4群6枚のオーソドックスなガウスタイプです。



 
入手の経緯
今回のYashinonはメルカリにてカメラ(YASHICA AX)とセットで5000円で購入しました。レンズのコンディションは「チリ、ホコリのない美品」とのことで状態のよいレンズが届いたのの、ピントリングのローレットにべた付きがあったので交換しました。このレンズは流通量がとても多いので、状態のよい個体を安く購入することも可能です。
Auto Makinonの方は2020年3月にドイツのショップからeBayを経由し即決価格5800円+送料で購入しました。オークションの記載は「ペンタックスKマウントのとてもコンディションの良いレンズ。鏡胴に僅かにスレ傷がある」とのこと。ガラスは拭き傷すらない状態の良いレンズでした。Makinonブランドは主に海外で販売されたため、国内のショップなどで見かけることは、ほぼありません。手に入れるなるとeBayなどを経由し海外からとなります。時間をかけて探せば5000円以下(送料込み)でも買えると思います。
 
撮影テストAuto YASIHNON DS-M 50mm F1.7
開放からコントラストは高く発色は鮮やかでスッキリとしたヌケの良い描写、まるで現代レンズを使っているような感覚をおぼえます。ピント部のシャープネスは高く、細部まで緻密な像が得られます。コレが本当に1969年製のレンズなのでしょうか。富岡光学の底力をまじまじと感じます。マキノンにはかわいそうでしたが、これは間違いなく優勝候補です。シードに入れるべきだったかな・・・。
 
YASHINON @ F1.7(開放) sony A7R2(WB:日陰)開放でこの描写・・・。全く滲みませんしフレアも出ません。笑ってしまいました

YASHINON @ F1.7(開放) sony A7R2(WB:日陰)

YASHINON @ F4 sony A7R2(WB:日光)

撮影テストAuto MAKINON 50mm F1.7
開放からコントラストが高く発色は鮮やかで、とても良く写ります。ただし、開放では解像力があまりないのか緻密な描写表現は苦手のようです。せっかくのコントラストも細密描写がなければ解像感(シャープネス)には連動しません。まぁ、フィルムで撮るにはこの位の解像感でも十分だったのかもしれません。写真を大きく引き伸ばす必要がないのであれば、かなり綺麗な現代レンズ的な写真が撮れます。
 
Makinon @F1.7(開放) sony A7R2(WB:日光)
Makinon @ F1.7(開放) sony A7R2(WB:日光)
Makinon @ F1.7(開放) sony A7R2(WB:日光)
Makinon @ F2.8 sony A7R2(WB:日光)

Makinon @ F1.7(開放) sony A7R2(WB:日光)

Makinon @ F1.7(開放) sony A7R2(WB:日光 APS-C mode)



Makinon @ F1.7(開放) sony A7R2(WB:日陰)  解像力はせいぜい、こんなもんです。フィルムで撮るにはこのくらいでも十分だったのかもしれませんが

 
両レンズの描写比較
写真全体の印象を決めるコントラストや発色の鮮やかさは両レンズともたいへん良好で大差はなく、マルチコーティングの効果がよく出ていると思います。ただし、シャープネスはYashinonの方が高い結果となりました。
Makinonはピント部を拡大すると被写体の表面を若干のフレアが覆っており、背後の玉ボケの輪郭部の強度分布に大きな偏りがあるなどコマ収差が多く発生しています。一方でYashinonは拡大してもスッキリとクリアに写り、細部まで解像感の高い描写です。背後のボケは写真の中央から四隅に向かう広い領域で綺麗な円型になり、玉ボケの輪郭部は均一な強度でした。Makinonのフレアが過剰補正の兆候である場合、1段絞ると解像力とシャープネスが急向上し、Yashinonを追い抜く可能性もあります。しかし、F2.8での比較時もYashinonの描写力はMakinon追撃を寄せ付けませんでした。富岡光学の設計力をまじまじと感じる結果です。私個人はマキナ光学の信者ですのでMakinonには下剋上を期待していましたが、今回の対決はYASHINON DS-Mの圧勝で予想どおりの展開になってしまいました。
 
Makinon @F1.7(開放) sony A7R2(WB:日光 Speed:1/640 ISO:100 三脚使用) 


Yashinon DS-M: F1.7(開放) sny A7R2(WB:日光 ISO:100 speed:1/640 三脚使用) 



 

 
富岡光学が素晴らしいと世間で評判なのはZeissに技術力を認められた経緯があってのことです。ただし、それがどう素晴らしいのか、私自身は正直なところ、よくわかりませんでした。でも、今回の比較テストで富岡光学は本当に超一流メーカーだったのだと認識することができました。Makinonのハッとするような高いコントラストにも驚くべきものがあます。当初から何かやらかしてくれるものと個人的にマキノンを応援していたのですが、対戦した相手が強すぎました。

2020/05/05

試写記録: SANKYO-KOKI KOMURA 105mm F2.5 (M42 mount / Komura Uni M48/0.75 mount)

F2.5(開放)sony A7R2(WB: 日陰)シャープで線太の力強い描写です。背後のボケは柔らかく綺麗な拡散です

F2.5(開放)sony A7R2(WB: 日陰)距離によっては少しグルグルボケが出ます。新型コロナウィルスによる外出自粛期間のため、写真作例が少ししかありません・・・

試写記録:これもあれもエルノスター!三協光機の望遠レンズ
SANKYO-KOHKI KOMURA 105mm F2.5(M42 mount)
三協光機の明るい望遠レンズは海外で人気があり、珍しいエルノスター型の構成を積極的に導入していたため、マニア層から一定の支持を得ています。本ブログでは過去に100mm F1.8と133mm F2.8の2本をご紹介しましたが、同社の望遠モデルにはまだまだ種類があります。今回は一度も取り上げた事のない焦点距離105mmを手に入れましたので、試写記録を残しておきたいと思います。
焦点距離105mmのモデルには、やや背伸びをした分だけ画質的に粗のあるF2、徹底して安定感のあるF2.8、構成枚数の少ないトリプレットタイプのF3.5があります。F2.5まで入れると絞り半段ごとにF2, F2.5, F2.8, F3.5と、実に4種類のモデルが犇(ひしめ)き合っており、望遠レンズに対する三協光機の執念を感じます。そもそもエルノスター型とは少ない構成枚数で諸収差を合理的に補正でき、しかも、かなり明るいレンズが作れるコストパフォーマンス抜群の設計です。解像力は廉価モデルでトリプレットタイプのF3.5より劣りますが、明るさとスッキリとしたヌケの良さ、安定感のあるボケ、シャープで線太な力強い画作りが特徴です。今回紹介する105mmF2.5にも確かにこれらの性質がみられ、開放から全く滲まずに線の太い力強い描写で、ボケも柔らかく綺麗です。距離によっては背後にグルグルボケが少し見られますが、フツーに良く写る優等生。これは好みの問題ですが、この描写をつまらないと感じる方は廉価モデルの105mm F3.5をお勧めします。こちらは3枚構成のトリプレット型で、高い解像力と歯ごたえのあるボケ味を兼ね備え持つ、性格の異なるモデルです。
  
   
入手の経緯
焦点距離105mmのモデルはポートレート撮影にもギリギリで使えるため、中古市場では焦点距離135mmの望遠モデルよりも人気があり、高値で取引されています。105mm F2.5の場合、国内では7500円~10000円程度、海外では20000円程度の値がつきます。私は2019年12月にヤフオクでカビ入りの個体を5500円で落札、人気の無いKONICA Fマウントだったこともあり、安い値段で手に入りました。届いたレンズはクモリやバルサム剥離など深刻な問題がなく、前玉に拭き傷がありましたが、内部の清掃のみで十分な状態となりました。KOMURAのレンズは各社のマウントに対応させるためのアダプターが初めからついており、アダプターを取っ払うと48mm径のKOMURA UNIマウントになります。どうも、このマウントはネジピッチがフィルターネジと同じようなので、ここにステップダウンリングとステップアップリングを取り付け、M42スクリューマウントに変換しました。

  
KOMURA 105mm F2.5の構成図:設計は4群5枚のエルノスター発展型

2020/05/03

Ricoh XR RIKENON 1.7/50 vs Petri EE Auto CC PETRI 1.7/55



0.1のアドバンテージを巡りチキンレースを繰り広げた
日本の中堅光学メーカー  part 1(1回戦A組)
XR RIKENON vs C.C PETRI
PETRI CAMERA(ペトリカメラ)のC.C Petri 55mm F1.7(シーシー・ペトリ)は評価の高かったC.C Auto 55mm F1.8の後継モデルとして1974年に登場し、ペトリカメラが倒産する1977年までの会社終息期に、同社の一眼レフカメラFTE(1973年発売)とFA-1(1975年発売)に搭載する交換レンズとして市場供給されました。C.Cとはコンビネーション・コーティング(マルチではなくシングルコーティング)の略です。この頃の日本の中小メーカーは市場でのシェアを獲得するため、他社よりも一歩抜き出たスペックの製品を供給することに固執しました。今回紹介するレンズもメーカー各社が主軸レンズの口径比をF1.8からF1.7にシフトさせようとする潮流の中で生み出されました。レンズ構成はF1.7のレンズとしては珍しい4群6枚です。主流が5群6枚であることを考えると、やや無理を押し通した過剰補正頼みの設計が本レンズの特徴と言えます。
 
RICOH(リコー)社はRIKENON(リケノン)のブランド名でレンズを供給していました。ただし、同社にはレンズの製造工場がなかったため、自社で製造していたわけではなく、RIKENONブランドは広角から望遠までレンズの生産を他社に委託する、いわゆるOEM製品でした。今回紹介するXR RIKENON 50mm F1.7もやはりOEM製品ですが、どこから供給を受けたレンズなのか、確かな情報はありません。レンズはRICOH社が1977年に発売した一眼レフカメラのXR-1(Pentax Kマウント採用)に搭載する交換レンズとして登場しました。カメラの方は発売当時にグッドデザイン賞を受賞しています。
RIKENONブランドは複数のメーカーによる寄せ集めで成り立つ、言わばOEM軍団でしたが、同ブランドには癖玉らしい癖玉がありません。RICOH社にはレンズの性能に対するそれなりに厳しい自社基準があったものと思われます。今回のレンズについても高性能な予感がします。レンズの構成図は入手できませんでしたが、設計は国内外のF1.7のレンズに多く採用された拡張型ガウスタイプ(5群6枚構成)で、前群の貼り合わせを外し輪帯球面収差の補正を強化することで、6枚のレンズ構成のままF1.7の明るさと一定水準の描写性能を実現しています。RICOH社のレンズの中では同じ時期に供給されたXR RIKENON 50mm F2が「和製ズミクロン」などと呼ばれもてはやされましたが、これに比べれば今回のレンズはやや地味な存在です。






 
レンズの相場
両レンズとも中古市場での相場はとても安く、流通量も安定しています。XR RIKENONの場合にはネットオークションで3000円から5000円程度の値段で手に入れることができます。私はヤフオクで美品との触れ込みで出品されていた個体を5000円で落札しました。届いたレンズは未使用に近い新品同様のコンディションで、純正ケースと純正の前後キャップがついていました。C.C PETRIの方はレンズのコンディションに気をつけなくてはいけません。PETRIのレンズは市場に流通している個体の大半でレンズ内にカビが発生しており、後玉にクモリのある個体も多くあります。組み立て時にクリーンルームを使用していなかったのかもしれません。ヤフオクなどのネットオークションではジャンクとの触れ込みで1500円程度で手に入れることができますが、多くはメンテナンスされていないコンディションの厳しい個体です。状態の良いものを探すには、多少高くても業者などで一度オーバーホールされているものを買い求める事をおすすめします。今回の個体はメルカリにカメラとセット出品されていたものを2800円で購入しました。やはりカビ入りでしたので、レンズの評価時にはオーバーホールした状態の良い個体を使用しています。

撮影テストC.C PETRI 55mm F1.7
開放ではモヤモヤとしたフレアがピント部を覆い、ハイライト部の周りがよく滲むなど、かなり柔らかい描写です。遠方撮影時にはややボンヤリすることもあり、シャープネスは低下気味でトーンも軽めですが、濁りはなく、コントラストや発色は意外にも悪くない水準です。解像力は同社のF1.8と同等の良好なレベルで、柔らかさのなかに緻密さを宿す線の細い写りとなっています。絞ると急にヌケが良くなりシャープネスとコントラストが向上、絞りの良く効く過剰補正型レンズの典型です。背後のボケにはペトリならではのザワザワとした硬さがあり、形を留めながら質感のみを潰したような、絵画のようなボケ味が楽しめます。グルグルボケや2線ボケが目立つことはありません。4群6枚の設計構成のまま口径比F1.7を成立させるため、大きく膨らむ輪帯球面収差を強い過剰補正で抑え込んでおり、その反動で背後のボケ味が硬くザワザワとした性質になっています。また、設計にやや無理があったのか、開放ではピント部もある程度のフレアを許容した画作りになっています。柔らかい描写傾向を求める方には、またとないレンズだと思います。ガウス型レンズ成熟期の1970年代にこんな趣味性の高いレンズを出したペトリカメラには、何か別の狙いがあったのでしょうか。
 
C.C PETRI@F1.7(開放) + sony A7R2(WB: 日陰) 開放ではフレアが多めにみられ、ソフトな描写傾向になります
C.C PETRI @ F1.7(開放) + sony A7R2(WB: 日光) トーンはなだらかで軟調。発色はこれだけのフレア量にしては良い印象です
 
撮影テストXR RIKENON 50mm F1.7
続いてXR RIKENONの写真を見てみましょう。開放では僅かにフレアの出るソフトな描写傾向ですが、これはF1.7レンズの多くに見られる特徴です。ただし、フレア量は少なく、そのぶんコントラストは良好で、シャドー部にも締りがあります。ハイライト部の周りを拡大しても滲みは殆どみられません。背後のボケはC.C PETRIほど硬くならず、ごく平均的な柔らかさです。こちらに両レンズの背後のボケを比較した写真を提示しておきます。1段絞った時のスッキリとしたクリアな描写や鮮やかな発色は素晴らしいと思います。口径比がもう少し控えめなF2クラスのレンズなら開放から鋭くシャープな描写ですが、フツー過ぎてつまらないと言う方も多くいます。一方で1段明るいF1.4クラスにゆくと、値段は倍以上に跳ね上がります。F1.7クラスのレンズはお手頃な価格で、柔らかく軽めのトーンを楽むことにできる穴場的なジャンルです。オールドレンズビギナーにも最適ではないでしょうか。
 
XR RIKENON @F1.7(開放)+sony A7R2(WB:日陰)
XR RIKENON @F1.7(開放)+sony A7R2(WB:日光)











C.C PETRI vs XR RIKENON
両レンズのシャープネス、コントラスト、ヌケの良さを比較してみましょう。撮影はマニュアル―ドとしシャッタースピードやISO感度は固定、同一条件で撮影を行いました。
 




 
XR RIKENONに軍配!
コメント
シャープネス、屋外でのヌケの良さ、コントラストなど、今回の評価項目ではリケノンがペトリを圧倒していました。リケノンは開放でもフレアが最小限に抑えられており、ペトリよりも現代の製品に近い高性能なレンズです。1段絞った時のスッキリとしたクリアな描写や鮮やかな発色は素晴らしいと思います。一方で緻密な描写表現に関わる解像力については両レンズとも甲乙をつけがたい性能です。ペトリの長所はフレアを纏う繊細かつ緻密な質感描写で、1950年代のオールドレンズにはこの手の描写設計の製品が数多くありました。リケノンのようなシャープなレンズでは、どうしても細部の質感表現がベタっとしてしまうのです。