日差しの柔らかさを幻想的に捉える
天然系の滲みレンズ
Meyer-Optik DOMIRON 50m F2(exakta mount)
ほのかに滲む美しいピント部、ざわざわと騒がしい背後のボケ、軟調でなだらかなトーンなど、いかにもMeyerらしい味付けを持ち合わせたレンズが今回取り上げるDOMIRONです。中遠景でのこのような描写はオールド・マクロレンズならではのアグレッシブなセッティング(強い過剰補正)による反動(副作用)なわけですが、それを知らずに使う人々から見れば、ある種の確信犯的な描写設計にしかみえないわけで、一気に人気レンズとなってしまいました。ソフトフォーカス用レンズのような意図した滲みとは異なる天然系の滲みがDOMIRON最大の武器なわけですが、近接撮影時にはシャープでスッキリとしたヌケの良い描写となり本領を発揮、背後のボケ味も柔らかく大きな拡散に変わります。DOMIRONは近年の人気で資産価値を著しく上昇させたオールドレンズの代表格と言えます。
レンズは旧東ドイツのMeyer-Optik(マイヤー・オプテーク)が1958年頃に開発し、1960年に開催されたLeipzig Spring Fair(ライプツィッヒ春の見本市)で発表しました[2]。一眼レフカメラのExakta VX(エキザクタVX)やExa(エクサ)に搭載する交換用レンズとして1961年にごく短期間だけ製造され、1962年12月から1963年4月までカメラを供給したJHAGEE(イハゲー)社のプライスリストに掲載されました[3]。しかし、この頃の標準レンズは口径比F2の時代からF1.8の時代に移行してゆく最中で、当時は廉価品扱いだったMeyerブランドでは、口径比F2のままツァイスなど他社と勝負することはできませんでした。Meyerは2年後の1965年春に明るさをF1.8とした後継製品のORESTON(オレストン)を登場させDOMIRONの製造を中止しています。DOMIRONは市場に供給された個体数が少なく希少価値の高いレンズとして、現在では10万円近い高値で取引されています。
レンズには2色のカラーバリエーションがあり、シルバーを基本色とするゼブラ柄のモデルとブラックカラーの単色モデルが流通しています。ブラックカラーのモデルがどのような理由で登場したのか明確な事はわかっていませんが、その後の東ドイツ製レンズはMeyerにしろZeissにしろブラックカラー一辺倒になってゆきますので、メーカーが消費者の嗜好に対応する過渡期の中でMeyer-Optikは素早い対応をみせたのでしょう。レンズの設計構成は上図に示すようなオーソドックスなガウスタイプですが、6つのエレメントのうちの3つに当時まだ画期的だった屈折率1.645を超える高屈折クラウンガラスが用いられた意欲作でした[2]。光学系は誰が設計したのでしょう。情報がありません。1960年代にPrakticar 50mm F2.4を設計したWolfgang GrögerやWolfgang Heckingでしょうか?それとも Otto Wilhelm LohbergやHubert Ulbrichあたりでしょうか。情報ありましたら、ご提供いただけると幸いです。
なお、海外のマニア[1]の間でこのレンズにフローティング機構が導入されているという検証報告が複数件流れ一時注目されましたが、当方の仲間内[5]で分解し内部構造を確認したところ、DOMIRONは単純な直進ヘリコイドであり、光学系も単一ユニットでした。フローティング機構は搭載されていません。こちらに検証結果(証拠)を示しました。
レンズには2色のカラーバリエーションがあり、シルバーを基本色とするゼブラ柄のモデルとブラックカラーの単色モデルが流通しています。ブラックカラーのモデルがどのような理由で登場したのか明確な事はわかっていませんが、その後の東ドイツ製レンズはMeyerにしろZeissにしろブラックカラー一辺倒になってゆきますので、メーカーが消費者の嗜好に対応する過渡期の中でMeyer-Optikは素早い対応をみせたのでしょう。レンズの設計構成は上図に示すようなオーソドックスなガウスタイプですが、6つのエレメントのうちの3つに当時まだ画期的だった屈折率1.645を超える高屈折クラウンガラスが用いられた意欲作でした[2]。光学系は誰が設計したのでしょう。情報がありません。1960年代にPrakticar 50mm F2.4を設計したWolfgang GrögerやWolfgang Heckingでしょうか?それとも Otto Wilhelm LohbergやHubert Ulbrichあたりでしょうか。情報ありましたら、ご提供いただけると幸いです。
なお、海外のマニア[1]の間でこのレンズにフローティング機構が導入されているという検証報告が複数件流れ一時注目されましたが、当方の仲間内[5]で分解し内部構造を確認したところ、DOMIRONは単純な直進ヘリコイドであり、光学系も単一ユニットでした。フローティング機構は搭載されていません。こちらに検証結果(証拠)を示しました。
Meyer-Optikは現在のオールドレンズ・ブームを牽引するメーカーと言っても過言ではありません。かつて日本では「ダメイヤー」などと呼ばれ、シャープネス偏重主義のもとで迫害された時期もありましたが、オールドレンズに対するユーザーの価値観は大きく変わりました。ブランドに惑わされず写りでレンズを評価する人が増え、特にオールドレンズ女子の進出がこの分野で新しいブームを巻き起こしています。メイヤーのレンズ群の中でも特にドミロン、トリオプラン、プリモプランはここ6~7年で再評価がすすみ、現在では大変な人気ブランドとなっています。
★参考文献
[1] MFlenses: who made the first floating element design?
[2] 実用新案: "Photographic lens according to the Gaussian type", Utility model protection in GDR , No. 1,786,978 (Nov.7, 1958)
[3] Jhagee Photo equippment price list(Jhagee 1962)
[4] DOMIRON Ad. Macro and Standard Objectiv(マクロ標準レンズ); It is specified as "Hervorragend geeignet fur Makro-Aufnahmen feinster Struktur".
[5]謝辞:上野由日路さんからの検証情報のご提供に感謝いたします
[5]謝辞:上野由日路さんからの検証情報のご提供に感謝いたします
マクロ撮影用ということでヘリコイドピッチは大きく設定されており、ヘリコイドを少し回すだけで光学系がビューンと飛び出します |
★レンズの相場価格
私がこのブログを書き始めた2009年頃には3万円代で買えたレンズですが、2012年頃からメイヤーブランドのレンズが人気になり、eBayでの国際相場はあっという間に8万円~10万円程度まで跳ね上がってしまいました。現在もレンズ相場は高値で安定しており下がる気配はありません。
Meyer-Optik DOMIRON 50mm F2: 重量(カタログ値)310g, フィルター径 55mm, 絞り値 F2-F22, 最短撮影距離 34cm, 4群6枚ガウスタイプ, EXAKTAマウント, マニュアル絞り/半自動絞り切り替え式
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DOMIRONが本来の性能を発揮するのはマクロ撮影の時で、近くの被写体をとる場合にはスッキリとヌケのよいシャープな像が得られます。一方で、人物のポートレート撮影や遠景を撮る場合には、開放で微かに滲みを伴う柔らかい描写となります。マクロ域で最も好ましい補正が得られるよう、遠方時は強めの過剰補正をかけているためです。ボケ味にもこの設定による影響/効果がよく表れており、ポートレート撮影ではバブルボケ(点光源の輪郭部が明るく縁どられる現象)や二線ボケが生じ、背後はザワザワとうるさく歯ごたえのあるボケ味になることがあります。一方で近接時では柔らかく大きくボケるようになります。ぐるぐるボケや放射ボケは距離に寄らず、あまり目立ちません。開放ではやや口径食が目立ちますが、光学系が鏡胴の奥まった所にあるためかもしれません。オールドレンズならではの軟らかいトーンも、このレンズの持ち味です。
人物のポートレート撮影や風景撮影で、滲みを生かした柔らかい描写を利用するのが、このレンズの美味しい使い方なのだと思います。
★スナップ写真★
Camera: sony A7R2
Location: インドネシア
F2 sony A7R2(aps-c mode, aspect ratio:16:9, wb:日光) |
F2 sony A7R2(aspect ratio:16:9, wb:日光) |
F2 sony A7R2(aps-c mode, aspect ratio:16:9, wb:日光) |
F2 sony A7R2(wb:日光) |
F2 sony A7R2(aps-c mode, aspect ratio:16:9, wb:日光) |
F2 sony A7R2(aps-c mode, aspect ratio:16:9, wb:日光) |
F2 sony A7R2(wb:日陰) |
F2(開放)SONY A7R2(WB:日光, APS-C mode) 早朝の逆光は霞がかったような幻想的なシーンに! |
F2(開放)Sony A7R2(WB:日光) これくらいの距離だとスッキリとしてヌケの良い描写です。日差しが強くなるとコントラストが上がり、よりシャープな像になりますが、このレンズならカリカリにはなりません。背後のボケはこの距離でも依然として硬く、2線ボケ傾向が見られます |
F2(開放)sony A7R2(WB:日光)これくらい離れると滲みが顕著になってきます |
F2(開放)SONY A7R2(WB:日光) これぐらい寄れば背後のボケは大人しくなりますが、激しいボケ癖からの回帰を微かに感じる、絵画のようなボケ味です |
F2(開放)sony A7R2(WB:日光) 背後の点光源は輪郭を残し、バブルボケのようになることもあります |
F2(開放)sony A7R2(WB:日光) 逆光ではシャワー状のハレーションもしっかりでます |
★ポートレート写真★ Camera: sony A7R2 Location: TORUNO主宰のモデル撮影会 Model: 彩夏子さん |
F2(開放) sony A7R2(WB:日光) 白っぽいものが柔らかく滲みます |
F2(開放)sony A7R2(WB: 日光)中央より左側に左右反転像を用いている。やはりこういうシーンは線の細い描写のドミロンが大活躍します |
★再びスナップ撮影★
F2.8 sony A7R2(WB:日陰) |
今回も写真家のうらりんさん(@kaori_urarin)にDOMIRONで撮ったお写真をご提供していただきました。力強いボケ味を活かしたダイナミックな写真ですね。ありがとうございます。うらりんさんのインスタグラムにも是非お立ち寄りください。こちらです。
Photographer: うらりん(@kaori_urarin)
Camera: SONY A7II
Photo by うらりん (@kaori_urarin) sony A7II |
Photo by うらりん (@kaori_urarin) sony A7II |
Photo by うらりん (@kaori_urarin) sony A7II |