おしらせ


MAMIYA-TOMINONのページに写真家・橘ゆうさんからご提供いただいた素晴らしいお写真を掲載しました!
大変感謝しています。是非御覧ください。こちらです。

2014/03/12

Voigtländer SKOPAGON(スコパゴン) 40mm F2(DKL)

突然ですが留め金を外し岩が落ちます・・・・・・スコパゴン
広角のSkoparex(スコパレクス)から望遠のDynarex(ダイナレクス)まで主要なレンズをほぼ網羅した1960年のVoigtländer (フォクトレンダー)社。同社はここから新たな製品開発に乗り出している。それは、他社がまだ手がけたことのないスーパーレンズを世に送り出すことであった。世界初となる大型ズームレンズのZoomar (ズーマー) 36-85mm F2.8 (1960年にOEMで登場)を皮切りに、翌1961年には大口径・準広角レンズのSkopagon (スコパゴン) 40mm F2、翌1962年には大型望遠レンズのSuper-Dynarex (スーパー・ダイナレクス) 200mm F4、そして1964年には大型超望遠レンズのSuper-Dynarex 350mm F5.6を完成させるのである。こうした採算性の低いレンズを矢継ぎ早に繰り出すことは、やがて同社を経営破たんに追い込む原因の一つとなってしまう。

銘玉の宝庫デッケルマウントのレンズ達
PART6Voigtländer SKOPAGON(スコパゴン) 40mm F2
フォクトレンダーのクラフトマンシップが誕生させた
モンスターレンズ

今回紹介するSkopagonはVoigtländer社が1961年から1968年まで生産したF2の明るさを持つ準広角大口径レンズである。レンズ名の由来はギリシャ語で「見る、観察する」を意味するSkopeoであり、準広角レンズなのでこれにギリシャ語の「角」を意味するGonをつけSkopagonとなった。生産総数は僅か3484本と少なく、コレクターズアイテムとなっている。発売当時の小売価格が440DM(ドイツマルク)とたいへん高価であったことに加え、Septon 50mmとSkoparex 35mmの狭間に位置する微妙な焦点距離を採用していたため、需要は全く伸びなかった。ちなみに発売当初の小売価格は同じカタログ内に掲載されていたSkoparex (215DM)の2.3倍、Color-Skopar X (125DM)の3.5倍、Septon (298DM)の1.5倍である。
このレンズの特徴を知るには下に示す構成図をみるとよい。F2の明るさを持つ短焦点レンズとしては他に類をみない豪華な設計であり、このレンズの製品コンセプトが結像性能を徹底して高めるところにあったことが容易に理解できる。実際にレンズを使ってみると、四隅まで高解像で、ヌケも良く、ボケはよく整っていて美しい。怪物級の設計が傑出した結像性能を実現しており、素晴らしい描写性能の持ち主である。ただし、この時代はコーティング技術が発展途上だったことに加え、ガラス硝材には光の透過性のやや劣る新種硝子が使われていた。9枚もの構成では階調描写が安定せず、撮影条件に大きく左右されコントラストは乱高下、発色も急に淡くなるなど安定しない。このレンズは卓越した結像力を得ることと引き換えにコントロール不能な発作を抱え込んだ、言わば諸刃の剣なのである。こういう危なっかしい気質のレンズを上手く使いこなすには、それ相応の経験と勘が頼りになる。Skopagonは上級者向けのレンズと考えたほうがよさそうである。
レンズを設計したのはNOKTONやULTRONなどを設計したトロニエ博士(A.W.Tronnier)で1958年に焦点距離のやや異なる45mm F2の米国向け特許、1959年にドイツ向け特許が公開されている。

Skopagon 2/40の光学系。フォクトレンダー社のチラシからトレースした。構成は6群9枚の典型的なレトロフォーカス型で、ダブルガウス型レンズをベースとし、最前部1枚目に凹レンズを据えレトロフォーカス化するとともに、その後方の第2群に2枚のレンズをはり合せた色消しユニット(新色消し)を追加した構成である。この色消しユニットで非点収差と倍率色収差を補正し、四隅の画質を補強、焦点距離40mmのやや広い包括画角を実現している。ベースとなったダブルガウスのはり合せ(赤のユニット)が前後逆順になっているが、この方が軸上光線の低い位置に凹レンズが置かれ光学系全体として正のパワーを稼げるので、大口径化には有利なのであろう。実に豪華な設計である

入手の経緯
2013年12月にドイツのユリウスさんがMINTコンディションの品(美品)をフードや純正キャップ、純正フィルターとセットで出品していたが、入札額は何と958ドルまで競り上がり手も足も出ず落札に失敗。改めて入手難易度の高さを実感した。そのことをデッケルマウント愛好家のdymaさんに話したところ、レンズを所持されており快く借してくださった。硝子の状態はたいへん良好である。レアなレンズなので入手難易度は高く、eBayでは700~900ドルもする高級品である。

重量(実測)360g, フィルター径 52mm, 絞り羽 5枚, 構成6群9枚レトロフォーカス型, 1961-1968年製造, 製造本数3484本,  最短撮影距離:0.9m(後期型は0.6mに短縮されている), 焦点距離40mm, 開放F値 F2, デッケルマウント(Bessamatic/Ultramatic用マウント)。フォクトレンダーのパンフレットには同社の製品ラインナップにおけるSkopagonの位置づけがハッキリと述べられており、このレンズは広角レンズではなく大口径標準レンズとして紹介されている



撮影テスト
Skopagonはフォクトレンダーが持てる技術の粋を集め完成させた6群9枚の怪物級レンズである。余裕のある設計が傑出した結像性能と美しいボケを実現している。解像力は四隅まで高く、開放からハロやコマのないスッキリとしたクリアな写りとなっている。ボケは四隅まで乱れることなく開放でも安定しており、やや硬い印象はうけるものの、どのような距離でも良く整っている。発色は短波長光の透過率が悪い新種ガラスの影響からか温調寄り(黄色)に転ぶが、絞ると少しはノーマルになりコントラストも向上する。また、照度が低いと人の肌が赤みがかる傾向がみられる。夕日と同じ効果が硝子を透過する光にも生じているのかもしれない。光学系の構成枚数が多いため内面反射光が蓄積しやすく、階調性能にはコントロール不能な発作を抱え込んでいる。特に曇天時ではコントラストが大きく低下し発色が淡白になったり濁ったりする。一方、晴天時では持ち直し、鮮やかな発色になる。同じ理由で逆光にはたいへん弱く、ゴーストやハレーション(グレア)が出やすい。ただし、ハレーションの出方は限定的(局部的)で、画面全体に大きく拡散するようなことはないので、写真全体が破綻することはない。少し絞ると再びゴーストに戻る面白さがあり、ゴーストの形状をコントロールすることができる。

CAMERA: SONY A3, Nikon D3, EOS 6D (AWB)

F2(左)/F2.8(右), sony A7(AWB): ゴーストはかなり出やすく、絞りを開けるとフレアに発展することもある。しかし、フレアの出方は限定的(局部的)で、画面全体に大きく拡散するようなことはく写真全体が破綻することはない。少し絞ると再びゴーストに戻る面白さがあり、絞りの開閉でフレアの量や発生具合をコントロールすることができる

F2.8, Nikon D3(AWB): 中間部のトーンがよく出ており、逆光気味だが黒つぶれはみられない。やはり解像力は素晴らしい

F2(開放), sony A7 digital, AWB: ボケは滑らかで絵画のように美しく、周辺部までよく整っている。美ボケレンズだ


F4, EOS 6D(AWB): 晴天時のコントラストは良好で発色は鮮やかである。解像力はかなり高く、衣服の質感が緻密に表現されている。オールドレンズであることを忘れてしまいそうだ
Skopagonは冒険的で過激な製品コンセプトを掲げ、採算性を度外視した前代未聞のレンズであるが、それでも造ってしまうVoiogtlanderのクラフトマンシップとフロンティア精神は尊敬に値する。夢を追い求めるメーカーだったのであろう。しかし、残念なのは当時の市場がこれを力強くサポートできなかったことである。やがて、Voiogtlanderは経営難に陥り、怪物レンズSkopagonは1968年に生産を終了。翌1969年、同社はZeiss-Ikonに吸収合併され、創業から213年続いた世界最古の光学機器メーカーはついに幕を下ろしたのである。

2014/02/23

Voigtländer SEPTON 50mm F2(DKL)



銘玉の宝庫デッケルマウントのレンズ達
PART 5: SEPTON 50mm F2
被写体をダイナミックに捉える美しいトーン
ゼプトンの歌声が聞こえるか
Septon(ゼプトン)は旧西ドイツのVoigtlander(フォクトレンダー)社が最高級カメラのUltramatic(ウルトラマチック)に搭載したF2の明るさを持つ準大口径レンズである。写りが良いため1960年の登場直後からたちまち評判となり、1967年までの7年間に約52000本が製造されている。レンズ名の由来は数字の7を意味するラテン語のSeptemであり、光学設計が7枚の構成であることを主張したネーミングである。コーティング技術が今ほど進歩していない1960年代初頭の製品で7枚玉と言えば、本来は一段明るいF1.4のレンズにみられる構成である。一方、SeptonのようなF2クラスの7枚玉はまだ少なく、ライツの高級ブランドに一部みられる程度で、当時は6枚構成のオーソドックスなプラナー型やゾナー型が主流であった。レンズの構成枚数を増やせば収差の補正パラメータが増えワンランク上の結像性能を実現できるが、空気と硝子の境界面が増えるため内面反射光が蓄積しやすく、階調や発色が不安定になりやすいという代償を背負うことになる。合理的な判段を下すならば製造コストのかからない6枚玉であろう。事実、大方のメーカーはF2級レンズを6枚構成で登場させている。これをチャンスと見たフォクトレンダーは社運を賭けたハイスピード・スタンダードレンズに7枚構成を採用する大勝負を仕掛けたのである。この種の選択はハイリスク・ハイリターンを狙うものであり、代償として失うものこそ多いが、タイミングさえ合えば得られる成果には時として何倍もの価値がつくことがある。Septonは時代の一歩先をゆく前衛的なレンズとして登場、6枚玉のダブルガウスタイプにもテッサータイプにも真似のできない写りは、その後「音まで写しとる素晴らしいレンズ」と絶賛され、日本では伝説となるのである。
重量(実測) : 250g , 光学系の構成: 5群7枚ゼプトン型, 絞り羽: 5枚, フィルター径: 52mm, 最短撮影距離: 0.9m(後期型は0.6m), 製造年: 1960-1967年, 製造本数:52000本弱、デッケルマウント(Bessamatic/Ultramatic用マウント)








Septonの製品コンセプトは7枚構成で得た余力を大口径化に費やすのではなく、描写力の向上に充てていることである。発展期のガウス型レンズに共通してみられるモヤモヤとしたコマフレア(サジタルコマフレア)を徹底して低減させ、開放からスッキリとヌケの良い写りを実現した先駆的なレンズなのである。設計は下図のような5群7枚構成で、旧来からのダブルガウス型レンズに大きく湾曲した負の凹メニスカスレンズ(青のエレメント)を内部に組み込んだ独特な形態である。これがコマフレアを抑制するために生み出された合理的な設計であることは、以下の推論から理解できる。
 
Septonの光学系のトレーススケッチ。左が被写体側で右がカメラ側。構成は5群7枚のゼプトン型で旧来からのダブルガウス型レンズに大きく湾曲した負の凹メニスカスレンズ(青のエレメント)を組み込んだ独特な設計形態である。なお、この凹メニスカスで収差の補正とレトロフォーカス効果を同時に実現しており、50mmの焦点距離を維持したまま一眼レフカメラに適合できるようになっている。凹メニスカスを最前部に据えると普通のレトロフォーカスとなるが、Septonの場合には軸上光線が高い位置を通る最前部に凸レンズを据えることで正のパワーを稼ぎ、明るいレンズを実現している。絞りの手前にある凹レンズ(赤のエレメント)が絞りを挟んだ向かい側の凹レンズよりもフラットな形状でありることに、このレンズの設計の秘密が隠れている
 
スッキリとクリアに写るSeptonの描写力はモヤモヤとしたコマフレアを効果的に封じることで実現している。コマフレアは対称型のレンズに生じやすく、ダブルガウス型レンズはその典型である。コマが多く発生するとコントラストが低下しシャープネスを損ねることになる。Tronnier(トロニエ)が1934年に設計したXenon F2はこの性質を逆手に取り、前群のはり合せを外してコマを低減させた。すなわち、コマを抑える一つの方法は前後群の対称性を破ることにある。Septonの設計も対称設計のダブルガウス型レンズがベースとなっているが、上図に示すように前後群の対称性が凹メニスカスの導入によって大きく崩れている。
コマを抑えるもう一つの方法は絞りの手前側にある凹レンズ(図の赤のエレメント)の曲がり具合を緩めることである[伊藤宏1951/Canon 50mm F1.8]。構成図を見ると、この凹レンズのカーブが後群側の凹レンズに比べ遥かに緩やかになっている様子が確認できる。この部分を緩めた結果、球面収差とペッツバール和の変動が起こるが、これらを新たに追加した凹メニスカス(青のエレメント)によって低減させるのである。凹メニスカスの導入が負のパワーを補強しペッツバール和の変動を抑えると同時に、レトロフォーカス効果を生み出し、50mmの焦点距離を保ちながら一眼レフカメラへの適合をサポートするのである。凹メニスカスが「くの字型」に大きく湾曲していることを見逃してはならない。この湾曲により直ぐ後ろの第3レンズとの間に凸形状の空気レンズができており、この部分には球面収差の膨らみをたたく作用がある。新たに導入した7枚目の凹メニスカスが一石二鳥、いや一石四鳥の効果をあげ、コマフレアを合理的に封じているのである。
なお、Septonと同一構成のレンズとしては他にもHasselblad用Planar CF 80mm F2.8(1983)、Rollei SL66用Planar 80mm F2.8(1966)、Rolleiflex 6008 integral Planar 80mm F2.8(1993)などがあり、いずれも定評のあるレンズである。

Septonは1960年に登場後、生産の終了する1967年までの7年間で52000本弱が市場供給されている。これはColor-Skopar(20万本弱)、Skoparex(6万本強)に次ぎ同社のデッケルレンズとしては3番目に多い製造本数である。しかし、残念なことに現在の中古市場に出回っている製品の多くにはバルサム切れ(レンズのはり合せ面に塗布した接着材が劣化し接着面が剥離する現象)が発生し、バルサムの交換修理が必要となっている。バルサム切れが頻発する原因についてフォクトレンダー製品にお詳しい浅草の早田さんは、製造時に人工バルサムの混合比を間違える人為的なミスがあったと述べている。

入手の経緯
今回紹介する製品個体は2012年5月に米国の写真関連業者からeBayを経由し落札購入した。米国内への配送のみに対応すると宣言していたので、事前に連絡を取り日本への上陸許可を得ておいた。私の経験上、配送先を限定している場合には競売相手が減り、安く手に入る可能性があるので狙い目である。商品の状態はMINT(美品)で前後のキャップと保護フィルターが付属しているとの解説である。このレンズはバルサムの剥離した個体が非常に多くコーティングも傷みやすいため、中古市場に出回っている個体の多くがメンテを必要としている。出品者に事前に質問し、バルサム剥離が無いこととコーティングの状態が良いことを確認しておいた。オークションは1ドルスタートで始まり8人が応札、アンドロイドアプリの自動入札ソフトを用いて最大420ドル、締切時刻の7秒前にスナイプ入札するよう設定し放置したところ、翌朝に386ドルで落札されていた。送料+輸入税の41ドルを含めると購入総額は417ドルなので、相場価格よりやや安くてに入れることができた。現在のヤフオクでの相場はバルサム切れなど問題を抱えている品が30000~35000円程度、状態の良い品は45000~55000円程度(eBayでは400-500ドル程度)である。このレンズの中古相場は緩やかに上昇しているようだ。

撮影テスト
Septonの特徴は7枚構成で得た余力を大口径化に費やすのではなく、描写力の安定と向上に充てていることである。発展期のガウス型レンズに共通してみられるモヤモヤとしたコマフレア(サジタルコマフレア)を徹底して低減させ、開放からスッキリとヌケの良い写りを実現した先駆的なレンズなのである。階調描写はコンディションに左右されやすく明らかに軟調であるが、中間部の階調は驚くほど豊富に出ており、フワフワとしたグラディエーションの出方はその場の雰囲気を繊細かつ大きく捉えるのに適している。7枚玉ならではの軟らかく美しいトーンとテッサー同等のクリアな描写力を融合させた異次元の写りに、このレンズが世間から高く評価されてきた理由を感じ取ることが出る。発色は渋く、温調気味で、コンディションによっては赤みを帯びる傾向がある。開放ではこの傾向が特に増すが、絞れば少しはノーマルになる。後ボケには概ね安定感があり、中距離で周辺部の像が僅かに流れるものの、激しいグルグルボケには発展しない。この時代のダブルガウス系レンズにしては比較的穏やかな後ボケといえるだろう。反対に前ボケは中距離でグルグルボケが顕著に目立つことがある。このレンズはコマフレアが殆んど発生しないため、ダブルガウス系統のレンズにしては背景のボケ味がやや硬い印象をうける。おそらくアウトフォーカス部にコマフレアをやや残存させたほうがブワッと拡散し、柔らかく美しいボケに見えるのであろう。開放では四隅に若干の周辺光量落ちがみられるが一段絞れば均一化する。以下作例。

撮影環境: SONY A7,  M42-Nex Camera Mount, M42 Helicoid Tube, 52mm径Metal Hood
F2(開放) Sony A7(AWB):  開放では被写体前方にグルグルボケが発生するので、こういう面白い使い方ができる。発色は渋く温調気味である。やや赤みを帯びる傾向もみられる。シャドー部が潰れず穏やかな階調描写である



F4, SONY A7(AWB):  近接でも解像力はまぁまぁ高くコマも良く補正されている

F2(開放), SONY A7(AWB): 再び開放。これくらいのディテール再現性があれば解像力としては十分と言えるのではないだろうか。中距離では背景に極弱いグルグルボケが出るので、このようなストーリー性のある場面では演出効果の一翼を担っている
F2.8, SONY A7(AWB):  なだらかで美しい階調描写とテッサー同等のヌケの良さを融合させたSeptonならではの空気感である。ヘリコイドアダプターを用いてレンズの最短撮影距離(規格)よりも近接側で撮影している。モヤモヤ感はなく画質に破綻はない。接写側の余力はまだありそうな感触だ









F4, SONY A7(AWB): 近接撮影の場合、後ボケは穏やかで安定感がある。実は私は洞窟探検家で、これはホンモノの人骨。洞穴が風葬に使われている場合もあり、こういう場面に出くわす。こちらに示すように時々語り合い、「生前はどんな人だったのだろうか・・・」などと、想像しながら静かな時間をすごす
F2, SONY A7(AWB): コンディションに左右されやすく、曇天時はコントラストが低下ぎみで発色も渋いが、晴天になるとコントラストが急に良くなり色のりも鮮やかである





 
SEPTON x Fujifilm GFX 100S
レンズを中判イメージセンサーを搭載したFujifilmのGFXシリーズで使用した場合は、遠方撮影時に写真の四隅が僅かにケラれます。
 
F2(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日陰 F.S: C.C.)

F2(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光, F.S: C.C.)

F2(開放) Fujifilm GFX100S(WB:日光)


2014/01/31

本能を読み解きレンズを買う

コレクター全般に当てはまることですが、レンズをコレクションする習性は人間の中に宿る「狩猟本能」が形を変えたものであると言われています。特に男性には古来から体に染み付いた狩猟本能があり、反対に女性には「母性本能」が残っているというのです。男性コレクターの数が女性コレクターの数よりも圧倒的に多いのは、この仮説と矛盾しません。恐らく間違いないことでしょう。

「狩猟本能」とは物欲を満たす行動原理の一種ですが、本質は自分の力を誇示するところにあります。力を誇示し、相手を服従させ、自分にとって優位な環境を構築する「闘争本能(支配欲)」の一形態なのです。レンズをコレクションし、ゆくゆくはレンズに囲まれたハーレムのような生活を堪能するのだ!「ムハハハハ・・・」、なんて夢やロマンは、元を辿れば本能に支配された行動なのでしょう。では、推理を更に発展(暴走)させましょう。

女性オールドレンズユーザーは「母性本能」に支配されているかもしれません。入手したレンズは簡単には手放さず我が子のように可愛がるのです。しかし、「母性本能」とはそう単純なものではありません。母性行動は繁殖戦略の一種ですが、霊長類では母親の体調や栄養状態が危機的状況にあるときに、しばしば育児放棄が見られます。母親は現在の子を犠牲にして将来の繁殖の成功に賭ける事があるのです。こうした習性は無視できません。もしかしたら、栄養状態のよくない女性はレンズを放棄しやすく、栄養状態の良い女性はレンズの入手に前向きになるのかもしれないからです。

画期的なアイデアを思いつきました。妻を説得し新しいレンズを手に入れたい男性諸君は、まずはパートナーを食事にでも連れ出してみてはどうでしょうか。

1月は諸事情によりブログ活動を休んでおりましたが、代わりにくだらないコラムを書きました。気が向いた頃に活動を再開したいと思います。

2013/12/19

Camera Mount for Helicoid Tube(CMHT) and Focusing Helicoid Tube

ヘリコイドチューブ用カメラマウント(中央・シルバー色の金具)、フランジ調整リング(前方・右2枚)、各種ヘリコイドチューブ(後列)

 
マニアの野望を叶えるレンズ遊びの究極ツール
ヘリコイドチューブ用カメラマウント x フォーカッシング・ヘリコイドチューブ
ヘリコイドチューブ用カメラマウントとはショートフランジのミラーレス機にフォーカッシング・ヘリコイドチューブというレンズの繰り出し機構を搭載するためのジョイントアダプターである。一般的なマウントアダプターとは異なり、カメラとレンズの間にヘリコイドチューブを内挿させるために用いる道具である。ヘリコイドチューブを導入すればレンズ本体が内蔵ヘリコイドを持つ必要はないため、活用できるレンズの範囲が広がる。バーレルレンズやエンラージングレンズ、複写用レンズ、プロジェクター用レンズ、工業用レンズなどにヘリコイドの繰り出し機構を提供し、これらをミラーレスカメラの交換レンズに変えてしまうマニア御用達のツールなのである。ヘリコイドチューブ用カメラマウント(以下ではCMHTと略称)のオス側は各種ミラーレス機のマウント規格、メス側はヘリコイドチューブのマウント規格(M42やM39などのネジマウント)になっており、搭載したヘリコイドチューブの先端にレンズやレンズヘッドを装着して使用する。最大の難所は使用したいレンズをヘリコイドチューブの先端部のネジ(M39/ M42/ M52ネジ)に取り付けることができるかどうかである。
ヘリコイドチューブには丈の長さ(最短光路長)や繰り出し長の異なる様々なバリエーションがある。ショートフランジのミラーレス機にCMHTを用いれば、使用するレンズのフランジバックに合わせヘリコイドチューブを自由に交換することができる。この種のツールはこれまでも一般的なマウントアダプターと一眼レフカメラの組み合わせにより実現できたが、搭載できるレンズはフランジバックの長いものに限られていた。この制限はミラーレス機の普及とCMHTの登場により大幅に緩和され、フランジバックの短いレンズでも使用できるようになった。最も短い11-18mmのヘリコイドチューブをEマウント機に用いる場合、先端に搭載することのできるレンズの最短フランジバックは30mmである。
CMHT(シルバーカラーの金具)をM42ヘリコイドチューブに装着するところ
ヘリコイド・チューブへの装着例:左がマウント側、右がレンズ側から見た様子である。ヘリコイドはいっぱいまで繰り出してある。外観は普通のヘリコイド付きアダプターと変わらない
CMHTとヘリコイドチューブの組み合わせがヘリコイド付マウントアダプターと大きく異なる点は、ヘリコイド部を交換することができる自由度の高さである。もちろん普通のヘリコイド付マウントアダプターとして用いることも可能で、ヘリコイドを繰り出せば搭載するレンズの最短撮影距離を強制的に短縮させることができる。
今回私が入手したCMHTはM42マウントのヘリコイドチューブをSonyのα7やNEXなどEマウント機に装着するための製品である。搭載できるヘリコイドチューブの市販品には下記のようなものがある。

ヘリコイド・チューブの市販品
ネジ規格:M42(レンズ側)-M42(カメラ側)
伸縮範囲      製品(入手先)
11mm - 18mm  日本製BORG OASYS 7840(Oasis Direct)
12mm - 17mm  中国製ノンブランド(eBay)
15mm - 25mm  日本製BORG OASYS 7842(Oasis Direct)
15mm - 26mm  中国製ノンブランド(eBay)
17mm - 31mm  中国製ノンブランド(eBay)
25mm - 55mm  中国製ノンブランド(eBay)
27mm - 47mm  日本製BORG OASYS 7841(Oasis Direct)
35mm - 90mm  中国製ノンブランド(eBay)

最近は中国製ヘリコイドチューブにも伸縮率の高い製品が次々と現れている。中国製のヘリコイドは筒の出口がややすぼんでおり、Sony A7で中望遠よりも長い焦点距離のレンズに搭載する場合にはケラレが生じることがわかっている。ケラレを避けたいならば日本製BORGブランドの使用をオススメする。BORGブランドでM42-Emountアダプターを構築する場合には、OASYS 7842に1cm長のM42マクロチューブを組み合わせるとよい。

ネジ規格:M42(レンズ側)-M39(カメラ側)
必要に応じてM42-M39ステップアップリングを用いる。
伸縮範囲       製品(入手先)
13.5mm - 23mm  中国製Yeenonブランド(eBay)
15.5mm - 29mm  中国製Yeenonブランド(eBay)
17.0mm - 34mm  中国製Yeenonブランド(eBay)
20.5mm - 45mm  中国製Yeenonブランド(eBay)
22.5mm - 48.8mm 中国製Yeenonブランド(eBay)

ネジ規格:M52(レンズ側)-M42(カメラ側)
伸縮範囲      製品(入手先)
12mm - 17mm  中国製ノンブランド(eBay)
17mm - 31mm  中国製ノンブランド(eBay)
25mm - 55mm  中国製ノンブランド(eBay)
35mm - 90mm  中国製ノンブランド(eBay)

ヘリコイドチューブ用カメラマウント(CMHT)は現在のところ国内での入手ルートがなく、eBayからのみ購入できる。私は中国製のYeenonブランドの製品(ソニーEマウント用)を14.19ドル+送料20ドルで購入した。この製品はマウント部の厚みが1mm(公証値)なので、仮に25-55mmのヘリコイド・チューブと組み合わせEマウント機(フランジ長18mm)に搭載すると、最短フランジ長の合計は44mm (1+25+18mm)となる。M42マウントのフランジ長は45.46mmなので、この組み合わせなら普通のヘリコイド付マウントアダプター(M42-Eマウント)として使用することも可能だ。下のスクリーンキャプチャーは実際にeBayで売られていたCMHTの製品販売ページである。Eマウント用以外の製品ではマイクロ・フォーサーズ用やFuji Xマウント用、EOS Mマウント用があった。
eBayに掲示されているヘリコイドチューブ用カメラマウントの製品販売ページ(画面キャプチャ)











萌えあがれレンズマニア達!以下では様々なジャンルのレンズに対する装着例を示す。最初は下の写真に示すような、ごく普通(?)のスチル撮影用レンズである。左側はデッケルマウントのSEPTON (ゼプトン)、中央はやはりデッケルマウントであるがロシア仕様の特殊なフランジ長を持つVEGA-3(ベガ3)、右側はMECAFLEX(メカフレックス)用望遠レンズのTELE-KILAR(テレ・キラー)である。デッケルマウント用レンズやレンジファインダー機用レンズは最短撮影距離が1m前後と長く、これまで花や虫などのマクロ的な撮影は諦めなければならなかった。ここにあげた3本のレンズの場合、最短撮影距離はSeptonが0.9m、Vega-3が1m、Tele-kilarが1.5mとなっている。3本ともヘリコイド機構を内蔵したレンズのため、ヘリコイドチューブに搭載するとダブルヘリコイド仕様となり、マクロレンズ並みの近接撮影が可能になる。
VEGA-3はフランジバックが通常のデッケルマウントのフランジよりも2~3mm長く、そのままデッケルレンズとして用いると指標どうりの正しい位置でフォーカスを拾うことができない。こうした製品固有の規格に依存する悩ましい事情も今回紹介するツールを用いれば全く問題にはならない。このレンズに用いるヘリコイドチューブは繰り出し長が最大で3cmにも達するため、2~3mm程度のズレは十分に吸収できるのである。
Tele-kilarはフランジバックが3本のレンズなかで一番短い。このようなレンズには丈の短いヘリコイドチューブを使う。一眼レフカメラには搭載できなかった組み合わせであるが、CMHTとミラーレス機の組み合わによって切り拓かれたレンズの新しい活路である。
左はVoigtlander Septon 50mm F2(デッケルマウント), 中央はKMZ Vega-3 50mm F2.8(Zenit-4/5/6ロシア版デッケルマウント), 右はKilfitt Tele-Kilar 105mm F4(MECAFLEX用/改M42) 。SeptonとVEGA-3はDKL-M42アダプターを用いてM42に変換後、ヘリコイドチューブ(25-55mm)に搭載している。Tele-kilarはM42ネジに改造してあるので、そのままチューブに搭載した





ミラーレス機Sony A7へのTele-kilarの搭載例

続いて複写用マクロレンズとエンラージングレンズ(引き伸ばし用レンズ)への装着例である。この種のレンズは一般にヘリコイド機構を内蔵しておらずレンズヘッドのみの製品である。フランジバック長の規格が製品モデル毎に不統一なので、ヘリコイドチューブをいろいろ試し最適な組み合わせを模索する必要がある。レンズのマウント部がM39ネジになっているケースが多く、M42-M39ステップアップリングを用いればヘリコイドチューブへの取り付けは容易である。
左はエンラージングレンズのBoyer Saphir 《B》 85mm F3.5、右は複写用マクロレンズのLeitz Macro Summar 8cm F4.5である。Saphir《B》はマウント部がM39ネジになっているので、M42-M39ステップアップリングを用いてM42に変換することでヘリコイドチューブに搭載している。SummarはCマウントなのでC-M42ステップアップリングを用いてM42に変換することでヘリコイドチューブに搭載している



ミラーレス機Sony A7へのSaphir Bの搭載例。Saphir Bは珍しいPlasmat/Orthometarタイプのレンズである

最後に中・大判撮影用レンズへの装着例である。この種のレンズも一般には内蔵ヘリコイドを持たないレンズヘッドのみの製品が大半である。フランジバック長の規格が製品モデルごとに不統一なので、ヘリコイドチューブをいろいろ試し最適な組み合わせを模索する必要がある。中・大判撮影用レンズは一部の広角レンズを除きフランジバックの長いものが多いので、ミラーレス機で使用する必要はなく、一眼レフカメラで使用した方がバランス的には快適である。この場合は普通のマウントアダプター(例えばM42-EOSアダプターなど)がCMHTの役割を果たす。CMHTを用いたミラーレス機への搭載はあくまでもフランジバックの短いレンズに対する活路を拓くものであり、フランジバックの長いレンズに対しては必ずしも最良の方法ではない。 
左はCZJ Biotessar 10cm F2.9, 中央はDallmeyer Dalmac 4inch(100mm) F3.5, 右はCZJ Doppel-Protar 128mm F6.3への搭載例である。各レンズとも大判撮影用レンズであり、さまざまな部品を組み合わせM42に変換している。この手のレンズをヘリコイドに搭載するには工夫や経験がいる。自分で手に負えない場合にはレンズ改造店に持ち込みマウント部を変換してもらえば、極端な仕様のレンズを除き大抵はうまくゆく(必ずうまくゆく保証はない)。私はこの手の改造が大好きなので自分でやらなきゃ気がすまない

せっかくなので最後に写真作例をお見せしよう。100年前に製造された古いレンズを現代のデジタルカメラに装着し楽しむことができるのは、とても幸福なことだと思う。新しい道具の登場が様々な可能性を押し広げてくれる事を今後も楽しみにしたい。
Doppel-Protar 128mm F6.3, 絞りF11, ISO2400, EOS 6D使用(AWB): 戦前に生産された2群8枚の大判撮影用レンズ。マクロ域でも良く写る。このレンズは開放付近で線の細い描写を楽しむことができる。いずれ本ブログでも紹介する予定である
Dallmeyer Dalmac 4inch(100mm) F3.5, 絞りF11, ISO, Sony A7'AWB): Dalmacはテッサータイプと言われている。こちらも戦前の製品だが良く写るレンズである




2013/12/11

List of deckel-mount lense



LIST OF DECKEL MOUNT LENS

Voigtländer

  • Skoparex 3.4/35
  • Skopagon 2/40
  • Color-Lanthar 2.8/50
  • Color-Skopar 2.8/50
  • Septon 2/50
  • Dynarex 3.4/90
  • Dynarex 4.8/100
  • Super-Dynarex 4/135
  • Super-Dynarex 4/200
  • Super-Dynarex 5.6/350
  • Zoomar 36-82mm f2.8 (OEM bland provided by Kilfitt)

●Carl Zeiss (Oberkochen)

  • Distagon 4/35
  • Distagon 4.8/35
  • Tessar 2.8/50
  • Planar 2/50
  • Sonnar ?/?
They have been released for a short period.  Some of them are made for Voigtlander Vitessa-T, which has the deckel mount of an old type(1956-1958) .

●Schneider
  • Curtagon 4/28
  • Radiogon 4/35
  • Curtagon 2.8/35
  • Xenar 2.8/45
  • Xenar 2.8/50
  • Xenon 1.9/50
  • Tele-Arton 4/85
  • Tele-Arton 4/90
  • Tele-Xenar 4/135
  • Tele-Xenar 4.8/200

●Rodenstock

  • Eurygon 2.8/30
  • Eurygon 4/35
  • Ysarex 2.8/50
  • Heligon 1.9/50
  • Rotelar 4/85
  • Rotelar 4/135
Please give me information about Eurygon 4/28 and 2.8/35.  They are listed in some book, but i have never seen.

●Enna

  • Lithagon 3.5/35
  • Tele-Ennalyt 3.5/135

●Steable

  • Ultralit 2.8/50

●Steinheil

  • Culmigon 4.5/35
  • Cassarit 2.8/50
  • Culminar 2.8/50
  • Quinon 1.9/50
●KMZ(USSR) for Zenit-4/5/6
  • Vega-3 2.8/50
  • Rubin-1 2.8/37-80
  • MIR-1 2.8/37 here 
  • JUPITER-25C 2.8/85 here
  • TAIR-38 4/133 here 
  • T- 200 5.6/200 here
Because of the difference of flange length, the compatibility of the above lenses to the regular DKL camera is incomplete.  The latter four lenses seems to be prototype models since they were at the exhibition of Moscow photo fair(see here).

Sankyo Kohki(JAPAN)
  • Vemar 4/135
  • Super Vemar 4/135
  • Vemar 4.5/200
●Wittnauer

  • Chronostar 2.8/50

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ここに掲載されていないデッケルマウントレンズの情報がありましたら、掲示板または下記宛てに情報をお寄せください。

I am just going to create the list of DKL-lenses, which is compatible to Voigtlander Bessamatic , Kodak Retina Reflex and Vitessa-T/Braun Super Colorette. If you have some information not listed above, please write on the bulletin board at the bottom of this page, or send email to the following address.



I am happy if you give the information. 

謝辞
Dyma様、Calvin、山良様から貴重な追加情報のご提供をいただきました。たいへん感謝しております。

2013/12/09

KMZ VEGA-3 50mm F2.8 (Zenit 4/5/6 VIZ."Zenit-DKL")



銘玉の宝庫デッケルマウントのレンズ達
PART4: VEGA-3 50mm F2.8
やはり存在した!デッケルレンズのロシア版コピー
Vega-3(ベガ3)はロシアのKMZ社が旧ソビエト時代の1964年から1968年まで生産したZenit-4(ゼニット4)という一眼レフカメラに搭載したレンズである。カメラの方は4年間で19740台生産され、そのほぼ全てにVega-3が標準搭載されていた。Zenit-4はフォクトレンダー社が生産した一眼レフカメラ(デッケルマウント採用)のBessamatic (ベッサマティック)から産み出されたコピーカメラであり、Vega-3は紛れもなくロシア版デッケルレンズなのである。このカメラの交換レンズには他にRubin-1 37-80mm F2.8というズームレンズも存在していた。Rubin-1(ルービン1)はKilfitt(キルフィット)社がフォクトレンダーブランドとしてOEM供給した世界初のスチル撮影用ズームレンズのZoomar(ズーマー) 2.8/36-82mmから生み出されたコピー製品である。Vega-3にしろRubin-1にしろマウント部の形状はBessamaticと完全に一致するので、デッケルレンズ用アダプターに装着することが可能で、私の所持している中国製DKL-M42アダプターとDKL-Nikon Fアダプターでは絞りの連動も問題なく行えた。ところが通常のデッケルレンズよりもフランジバックが長く、正しい距離でフォーカスを得ることができない。レンズとカメラの間にスペーサーを入れフランジ長を補正する必要があることがわかった。さぁ、どうする。
重量(実測)100g, フィルター径 40.5mm, 絞り羽 5枚, 最短撮影距離 1m, 焦点距離50mm, 開放絞りF2.8, 構成4群5枚Xenotar型, Zenit-4/5/6マウント。レンズ名の由来は七夕の織女星(琴座の一等星)Vegaである

Vega-3の設計構成(下図)は高解像で硬階調な描写を特長とする4群5枚のXenotar /Biometarタイプである。構成図をよく見ると旧東独Zeiss JenaブランドのBiometarよりも旧西独のSchneider社が設計したXenotarに近い丸みを帯びたダルマのような形状になっていることがわかる(こちらを参照)。この丸みは元を辿ればXenotarタイプの母型となったTopogonの光学系から来ており、非点収差の補正効果を高める働きがある。Vega-3がXenotar同様にピント部の均一性と周辺画質(画角特性)を重視したレンズであることを意味している。
Vega-3の光学系。Zenit-4の技術資料からトレースした。左が前方で右がカメラ側となる。構成は4群5枚の典型的なXenotarタイプである
フランジバックの調整
Vega-3が採用しているZenit-4/5/6マウントは通常のデッケルマウント(Retina/Voigtlander-DKL)よりもフランジバックが2~3mm長く、そのままデッケルレンズとして用いると、無限遠の指標点でフォーカスがオーバーインフとなってしまう。指標どうりの正しい位置でフォーカスを拾うにはスペーサー(フランジ調整リング)を入れフランジバック長を補正しなければならない。レンズをミラーレス機で使用するならば解決ははやく、最近はやりのヘリコイドアダプターを用いてアダプターの伸縮によりフランジ長を補正すればよい。この場合は、例えばDKL-M42アダプターでレンズのマウントをいったんM42に変換し、M42ヘリコイドアダプターを介して各種カメラマウントに変換すればよいであろう。一方、レンズを一眼レフカメラで使用する場合には、いったんDKL-M42マウントアダプターを用いてマウントをM42に変換し、M42ネジに2~3mm厚のスペーサーを填めるのが簡単である。ネジマウントの構造はシンプルなのでスペーサーを填めるには好都合なのである。ただし、レンズをNikon Fマウントに変換する場合はM42-Nikon Fアダプター(補正レンズなし)を入れるだけで約2mm厚のスペーサーを入れることと同等になり、運がよければフランジ補正不要のままNikon Fマウントのカメラで使用できる。より精確なフランジ補正をおこないたいなら、ここから更にスペーサーを用いた0.1mmレベルの微調整が必要になる。この手のスペーサー(M42フランジ調整リング)はヤフオクで金属製のものが入手できる。プラ板やポリエチレン板などで自作してもよい。
DKL-M42アダプター(右)のマウントネジに自作のフランジ調整リング(黒い金属のリング)をはめ、その上からM42- Nikon Fアダプター(左)を用いてNikon Fマウントのカメラに搭載してみたところ、無限遠のフォーカスをほぼ精確に拾うことができた



入手の経緯
今回紹介するレンズは2013年11月に英国のeBayメンバー(個人出品者)から手に入れた。この出品者はレンズばかりを売っているので素人ではないと判断し購入に踏み切ることにした。レンズは45ポンド(75ドルくらい)+送料10ポンドの即決価格で売り出されていたが、買い手のつく気配は全くない。値切り交渉を受け付けていたので35ポンドでどうかとリクエストしたところ、直ぐに私のものとなった。商品の記述は「ベリーグッドコンディション。ガラスはクリーン、絞りはスムーズ、概観はグッドコンディション。ヘリコイドリングのギザギザに少し汚れがある。半世紀前のレンズにしては良好だ」とのこと。この出品者の他のレンズに対する紹介文を読む限りではオーバーな表現はない。届いた品はホコリや拭き傷すらない良好な状態であった。eBayでの相場は70ドル程度であろう。

撮影テスト
使用カメラ Sony A7(α7) AWB
Xenotar型レンズといえば、一般に四隅まで高解像で硬階調な写りを特長とし、鋭く硬質な解像感とともに被写体を細部まで緻密に描ききることを得意としている。Vega-3も確かに解像力は高く、開放でも四隅まで破綻のない画質である。しかし、Xenotarのような鋭さや硬さはなく、開放での写りは明らかに軟調気味で、絞っても適度な軟らかさが保たれている。こうした描写傾向はこのレンズのオールドレンズ的な長所として評価してよい点であろう。デジタル撮影の場合は開放で色収差の滲みがみられ、ハイライト部の周りが薄らと色づく事があった。ボケが硬く、ザワザワと騒がしく見えるのはXenotar型レンズによくある傾向である。距離によっては僅かだが背景にグルグルボケもみられる。
F8, sony A7, ISO4000 (AWB): 絞っても階調描写は硬くならず、なだらかな濃淡変化を維持している



F4, sony A7, ISO2000 (AWB): 軟調な階調描写はシルバーを美しく引き立たせる効果がある




F8, sony A7, ISO6400 (AWB): 最近のデジカメは高感度に強い。これがISO6400の画質なのかと自分の目を疑いたくなる写りだ



F2.8(開放), Sony A7(AWB):  ピント部は開放でも高画質だ。後ボケはザワつき気味で、若干グルグルボケも出ている

2013/12/04

Voigtländer SKOPAREX 35mm F3.4 (DKL)


銘玉の宝庫デッケルマウントのレンズ達
PART3: SKOPAREX 35mm F3.4
軽量でコンパクトなレトロフォーカス型広角レンズ 
Skoparex(スコパレクス)はVoigtländer (フォクトレンダー)社が1956年に発売した一眼レフカメラ用のレトロフォーカス型広角レンズである。当初はレンジファインダーカメラのVitessa-T (旧式デッケルマウント)に搭載する交換レンズとしてSkoparet (スコパレット)の名で供給されていたが、1959年にデッケルマウントが新規格にマイナーチェンジされたのを機にSkoparexへと改称され、同社初の一眼レフカメラであるBessamatic(ベッサマティック)の交換レンズとして供給されるようになった。新旧のデッケルマウントに互換性はないことから、レンズ名が変更されたのは規格の変更によるユーザーの混乱を回避するためであったと考えられる。SkoparetからSkoparexへの改称ルールはVoigtländer社の他のレンズブランドにも一様に当てはまり、Vitessa-T用の交換レンズはそれぞれDynaret →Dynalex、Super-Dynaret →Super-Dynalex、Color-Skopar →Color-Skopar Xと置き換えられている。Bessamatic用のレンズだと思い込みVitessa-T用レンズを持ち出しても互換性はないので、使用することはおろかマウントすらできないのである。
Skoparexという名称から容易に連想できることだが、このレンズは同社テッサー・タイプのSkoparブランド(下図・上段)から派生したモデルであり、Color-Skoparの前方に凹レンズを据えレトロフォーカス化したProminent用Skoparon(スコパロン) 35mm F3.5(下図・左)を直接の先祖としている。Prominent(プロミネント)はミラーの可動部を持たないレンジファインダー機のため、一眼レフ的な発想からすれば本来はレンズをレトロフォーカス化する必要のないカメラである。しかし、マウント部にSyncro-Compur(シンクロ・コンパー)シャッターを組み込むという独特の構造のため、バックフォーカスを従来のレンジファインダー機よりも長く設定しなければならなかった。SkoparonはProminent固有の構造的な制限から生まれた変則的なレトロフォーカス型レンズなのである。その後、このレンズはVitessa-T用の交換レンズとして再設計され、バックフォーカスを更に伸張させたSkoparet /Skoparex F3.4へと発展している。SkoparetとSkoparonが兄弟の関係なのか親子の関係なのかについては記録がないのでわからない。
Skoparexの設計(下図・右)はテッサー型レンズ(黄色のエレメント)の前方に凹レンズ(緑のエレメント)と凸レンズ(赤のエレメント)を追加したもので、有名な元祖レトロフォーカスのAngenieux Type R1 2.5/35と同一構成である。Angenieux R1では開放でモヤモヤとしたコマの発生がみられコントラストは低下気味で発色も淡白であったが、Skoparexは口径比をF3.4と控え目に設定しているため、コマの発生は少なく、シャープでよく写るレンズとなっている。このクラスのレンズとしては極めてコンパクトかつ軽量で、重量は僅か167gしかない。
Voigtländer社のレトロフォーカス型広角レンズは1949年に登場したColor-Skopar 3.5/50(図・上段)を起点に生み出されている。1953年になるとColor-Skoparの前部に凹レンズ(緑色)を据えたProminent用レトロフォーカス型広角レンズのSkoparon 3.5/35(図・下段左)が設計され(1954年登場)、2年後の1956年には将来の一眼レフカメラ時代を念頭に据えたSkoparet/ Skoparex 3.4/35(図・下段右)が誕生している









重量:167g, 製造年:1960-1969年製造, 製造数:6万本強(Voigtlander社のデッケルレンズとしてはCoolor-Skoparに次いで2番目に多く生産されたブランドである),構成:5群6枚, 絞り羽 5枚, フィルター径 40.5mm, 最短撮影距離 1m(後期型は0.4mに短縮されている), 開放絞り値 F3.4, 焦点距離 35mm, 前玉が前方に出っ張っているので保護フィルターの装着をおすすめする




レンズは1960年から1969年まの9年間で6万本強もの数が生産され、この間に仕様変更を伴うマイナーチェンジが何度か繰り返されている。初期のモデルではColor-SkoparやTele-Artonと同様、マウント部にフォクトレンダー機では使用されるはずのない距離計連動用のカムがついていた。これは先行発売されていたデッケルマウントのレンジファインダー機Kodak Retina IIIs(1958年登場)に対抗するカメラをフォクトレンダーが計画していたためと考えられている。最短撮影距離は1mと長く、近接撮影が不得意なレンジファインダー機の都合に配慮した製品仕様となっていた。しかし、間もなくカメラ業界はレンジファインダー機の時代から一眼レフカメラの時代へと急速にシフトし、フォクトレンダーの新型レンジファインダー機は実現しなかった。これに応じるように後期のモデルでは不要となったカム構造が段階的に省かれ、最短撮影距離も0.4mまで短縮されている。また、鏡胴側面のグリップリング(ギザギザ)が幅の広いタイプに変更され、カメラへの脱着が容易になった。
 
入手の経緯
今回レンズの紹介で使用したSkoparexはデッケルレンズ愛好家のdymaさんからお借りした個体だ。dymaさんと私は鎌倉の杉本寺で偶然出会った仲である。Nikon FマウントのデジイチにTopcor(旧型)をつけ撮影していたので、普通の人でないことは直ぐにわかった。レンズの方は絞りの調子が悪く開放から2段までしか絞ることができなかったが、ガラスの状態は良く、テスト用の個体としては十分なものであった。Skoparexはデッケルレンズの中でもeBayでの流通量が比較的多いモデルなので、探すのには苦労しないであろう。現在は200-250ドル程度で取引されている。ヤフオクでの流通量は多くない。




撮影テスト
デジタル撮影  SONY A7 (AWB), Nikon D3(AWB)
銀塩撮影 Fujicolor C200(ネガ), SP400(ネガ)

最初期の製造ロットは内面反射光の問題が深刻で階調描写力が奮わなかったが、幾度かのマイナーチェンジを経て改良され、描写性能は飛躍的に向上したようである[文献1]。私が入手した個体はシリアル番号6756XXXで、1965年頃に生産された比較的後期のタイプである。
実際にレンズを手に取って使用してみると、解像力やコントラストなど基本性能は開放から良好で、ヌケや発色もよい。ピント部は開放からスッキリと写り、コマによる滲みは開放絞りの時に四隅で僅かに検出できる程度である。逆光撮影には弱く、ゴーストが出やすいことに加え、撮影条件がさらに厳しいと軽度のフレアも発生する。しかし、フレアが重症化することはなく、発色が著しく淡くなったり濁ったりということはなかった。歪みは僅かに樽型である。口径比がF3.4と控えめなので大きなボケ量は期待できないが、ボケは穏やかで安定感があり、2線ボケやグルグルボケなどの乱れは検出できなかった。以下、作例。
F8, 銀塩撮影(Fujicolor SP400 ネガ) : ご覧の通りにコントラストは良好で発色も鮮やか。Color-Skoparほど階調描写は硬くない
F5.6, 銀塩撮影(Fujicolor C200 ネガ): 右側の船のマストに注目すると、少し樽型に歪曲していることがわかる。気になる程ではない
F3.4, Sony A7 digital(AWB): 今度はデジタル撮影。逆光撮影時になるとゴーストが出やすく、発生したゴーストを中心にスペシューム光線のようなフレア(内面反射由来)が放射状に飛び出している。ただし、白濁するほどフレアが重症化することはない。2段絞ればフレアは消滅する

F3.4(開放), Nikon D3 digital (AWB): コマは初期のレトロフォーカス型広角レンズが抱えていた持病のようなものであるが、Skoparexの場合はよく補正されており、四隅で若干滲む程度である
F8, Nikon D3 digital(AWB): 深い被写界深度と適度に広い画角をもつ焦点距離35mmのレンズならではの構図だ。ちなみにここは浅草寺。100円入れて棒みくじをひき、棒の先端に記された番号をよんで引き出しから三椏紙[みつまたし](みくじの紙)を取り出すルールとなっている。娘は何と大吉を引いていた


F5.6, Nikon D3 digital(AWB): 軒先に人でもいれば、とても良い作例になっていた
F8, Nikon D3 digital(AWB): 絞れば四隅まで高解像だ(娘も5歳。大きくなりました。各方面から祝福のメールをいただき感謝しております)
F3.4(開放), Sony A7 digital(AWB): 絞りは開放だがピント部は四隅まで優れた画質である。控えめな開放F値のためボケ量は小さいが安定感のある穏やかなボケ具合である 



デッケルレンズの最大の悩みは最短撮影距離が長く、被写体に寄れない事である。とくにSkoparexのような広角系レンズでは被写界深度が深くボケ量が控えめとなるため、被写体に寄れないことは表現力におけるハンデとなっていた。このようなハンデはレンジファインダー機用レンズにも共通する悩みである。しかし、ショートフランジのフルサイズ・ミラーレス機やヘリコイドアダプターの登場が事態を一変させた。最短撮影距離を強制的に短くできるという新たな道が開けたのである。テクノロジーの変遷が半世紀も前に製造されたオールドレンズの資産価値を向上させるという、とても興味深い事例を我々は目の当たりにしている。

参考文献1 クラシックカメラ専科39 特集モダンクラシック・レンズ編 朝日ソノラマ P33