おしらせ

2025/11/29

AUTO TAMRON 21mm F4.5 (PFJ-45Au) M42 mount


タムロンにウルトラワイドがあったとは!

AUTO TAMRON 21mm F4.5 (PFJ-45Au) M42 mount

タムロンといえば、望遠レンズやズームレンズ、あるいはマクロ撮影用レンズに強みを持つ、レンズ専業メーカーとして広く知られています。公式サイト[1]に掲載された製品一覧を見れば、標準域や広角域のラインナップがいかに限られているかが一目瞭然であり、今回紹介するような焦点距離21mmの超広角レンズがタムロンから登場していたことは、少なからず驚きをもって受け止められることでしょう。同社が1970年から1973年までの3年間に市場供給したAUTO TAMRON 21mm F4.5です。

このレンズのオールドレンズ市場における位置づけはやや曖昧ですが、焦点距離20mm前後の手頃なウルトラワイドレンズを探し始めると、自然と候補に挙がってくる一本です。このクラスの廉価製品としては、COSINA MC WIDE ANGLE 20mm F3.8(ネットオークションでは7,000円前後から)が圧倒的な存在感を放ちますが、チープな鏡胴の作りが妥協点となります。次いで、NIKKOR-UD Auto 3.5 20mm(実売価格は12,000~15,000円程度)は性能面で優れ、コストパフォーマンスの高さにおいて大きな魅力です。今回取り上げるAUTO TAMRONは、ちょうどこの2本の間に割って入るような立ち位置にあります。

本レンズは、タムロン独自の交換マウント機構「アダプトマチック」を採用しており、様々なマウント規格で市場供給されました。この機構は、独自の交換マウントをレンズに付け替えることで多様なカメラマウントに対応可能とするもので、ボディ側からの自動絞り制御にも対応していた点が特徴です。今回入手した個体にはM42マウント用アダプターが装着されており、往年のスクリューマウント機との組み合わせも楽しめる仕様となっています。

レンズ構成は6群8枚で、残念ながら構成図は公開されていませんが、超大型の前玉を持つことで知られるFlektogon 20mmを模範とした、広角レトロフォーカス型の設計と推察されます。最短撮影距離は25cmと短く、接写にも対応可能です。焦点距離が20mmではなく21mmという点を中途半端と感じる向きもあるかもしれませんが、これはライカ判35mmフォーマットにおいて対角線画角がちょうど90度となるよう設計された結果であり、意図的な選択といえるでしょう。もっとも、焦点距離を20mmにまで詰めるには設計上の困難が伴うため、21mmという設定にはコスト面での配慮も含まれていたのかもしれません。

最短撮影距離 0.25m, 絞り F4.5-F16, 重さ(カタログ値/ニコンFアダプトール装着時) 332g, 設計構成 6群8枚レトロフォーカス型, マウント アダプトマチック, モデル名 PFJ-45Au, フィルター径 82mm(前玉側) / 17mm(後玉側)
 
中古市場での相場

この種のウルトラワイドレンズの中では、比較的安価で入手しやすいモデルに位置づけられます。国内のネットオークションでは、探せば1万円弱から見つかることもあり、1970年当時の新品価格が29,800円であったことを踏まえると、現在の中古価格は非常に手頃といえるでしょう[1,2]

アダプトマチック方式は、各種国産一眼レフカメラのマウントに対応可能な設計となっており、中古市場に流通する個体のマウント規格も多岐にわたります。

参考文献・資料

[1] TAMRON公式ページ アーカイブ
[2] Auto TAMRON 21mm F4.5 テクニカルシート
 
 
撮影テスト

口径比がF4.5と控えめなため、開放でも滲みは最小限に抑えられています。描写はシャープで抜けが良く、すっきりとした印象を与えます。ウルトラワイドレンズ特有の線の太さは見られますが、これは性質上避けられないものです。ただしトーンは柔らかく、絞り込んでも階調が硬くならない点は、この時代のウルトラワイドレンズに共通する美点であり、本レンズもその例外ではありません。開放では周辺部の光量落ちがやや目立つため、気になる場合は半段ほど絞ると良いでしょう。歪曲収差は少し顕著で、上下方向では中央部が樽型、四隅が糸巻き型、左右方向では糸巻き型の傾向を示します。


F5.6 Nikon Zf(WB: 曇空)

F4.5(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)

F5.6 Nikon Zf(WB: 曇空)歪みが波打っています。中央は樽型、周辺は糸巻き型

F4.5(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)





F8(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)



F4.5(開放) Nikon Zf(WB: 曇空)





F5.6 Nikon Zf(WB: 曇空)


2025/11/18

Leica Leitz APO-MACRO-ELMARIT-R 100mm F2.8

 


ライカRシステムの象徴的マクロレンズ

Leica Leitz APO-MACRO-ELMARIT-R 100mm F2.8(Leica R mount)

ライカ APO-Macro-Elmarit-R 100mm F2.8(通称 AME)は、1987年から2009年まで製造されたライカRシステム屈指の高性能マクロレンズで、無限遠から近接撮影まで対応する中望遠レンズとして初めてアポクロマート補正を導入した画期的な製品です。発表当時、その描写性能は衝撃的であり、瞬く間に画質の基準として広く認識されるようになりました。マクロ撮影における性能はもちろん、中望遠レンズとしてポートレート撮影でも優れた表現力を発揮します。

堅牢な鏡胴と組み込み式フード、そして光学的完成度の高さから、現在でも写真家や研究者の間では「Rシステムの憧れの一本」として長く愛用されています。ただし、設計の世代交代に伴い、近年ではインナーフォーカス方式とフローティング機構を備えた新世代のマクロレンズが登場し、徐々に新しい光学設計に追い抜かれつつあります。全群繰り出し方式を採用しているため、軽量化やコンパクト化には不利で、本体重量は760gにも達します。気軽に持ち歩ける携帯性よりも、画質と操作感を優先した「本気で撮るためのレンズ」と言えます。

設計構成は下図のようなガウスタイプをベースとする68枚で、色収差と歪みを徹底的に抑制、開放から極めて高い解像力とコントラストを誇ります。近接撮影性能を高めるため、ガウスタイプの後部に専用の光学群を追加しています。この追加群は近距離での描写を向上させる一方、遠距離撮影時には光学性能に一定の制約をもたらします[1]。とはいえ、マクロ域とポートレート域の描写力を向上させることに特化した、卓越した光学系と捉えるべきでしょう。レンズを設計したのは1981年から1990年までライツ社の光学設計部門を率いたフォルフガング・フォルラートというエンジニアです[3]。時代的にはコンピュータを援用した設計であると考えて間違いありません。

焦点距離100mm・開放F2.8というスペックは、マクロ撮影時での適度なワーキングディスタンスと取り回しの良さに加え、中望遠レンズとして理想的な画角を提供します。最短撮影距離は45cm、最大撮影倍率は1:2。専用のELPROクローズアップレンズを併用すれば、等倍撮影も可能です。

レンズは1986年から2005年の間に20000本が生産されていますが、2005年から2009年の間はデータがありません[2]。

レンズの構成図(トレーススケッチ):ガウスタイプを起点に、後部に正レンズと負レンズを追加した6群8枚構成です









 

参考文献・資料

[1] Erwin Puts – "Leica-R Lenses"

[2]  Camera wiki Leica forum: 100mm f/2.8 APO-Macro-Elmarit-R

[3]  日本オールドレンズ協会・写真展「ライカの望遠レンズ」の山田さんの展示解説を参考

中古相場・アダプターでの使用

販売は2009年に終了しています。当時の新品価格は27万円程度だったそうです。現在は中古品のみが市場に流通しており、相場は16万円~25万円程度と言われています。今回手にした個体は私自身で購入したわけではなく、写真光学研究会の会員の方からお借りしました。代々木の中古カメラ店が店をたたむ際に、安く譲っていただいたものだそうです。レンズはフランジバックの長いライカRマウントですので、アダプターを介して35mm一眼レフカメラとミラーレスカメラで使用できます。ただし、ライカMマウントを経由すると、中判デジタル機のGFXシリーズではアダプターの間口でケラれてしまいますので注意がいります。


重量(カタログ値) 760g, 最短撮影距離 0.45m, 製造年 1987-2009年, フィルター径 E60(60mm), 設計構成 6群8枚, 絞り F2.8-F22, 絞り羽根 7枚構成, フード組み込み, ライカRマウント
 
 

 

 

写真作例 

MTF曲線を見ても明らかですが、絞り開放でも、画面全体にわたって高いコントラストと均一な解像力・解像感が得られます[1] 。中心から周辺まで、非常に細かいディテールが鮮明なエッジ、微妙な階調の陰影によって精緻に再現されます。周辺光量の低下は開放でも小さく、絞りをf5.6まで絞ると画面全域の照度が完全に均一になります。驚いたことは、こうしたピント部の画質が絞り開放時とF5.6まで絞り込んだ時で、見た目には殆ど変化しないことです。

絞り込むことでコントラストは僅かに向上し、微細な質感がより明瞭に描写されます。また、f5.6まで絞り込んでもフォーカスシフトもほとんど認められません。深く絞り込むと、回折のため中心部のコントラストや解像感が僅かに低下するあたりは、多くのマクロレンズに共通する性質で、このレンズも例外ではありません。ただし、回折の影響はかなり改善しており、影響は他のレンズに比べ小さく感じます。デジタル撮影時にもパープルフリンジは全く見られず、歪曲収差はほぼゼロ。グルグルボケや放射ボケなどについても全く出ません。

発色は寒色寄りに転ぶという見解を作例付きでよく目にします。カラーバランスの補正を決めるコーティングの味付けがそのように設定されているためでしょう。ここはメーカーごとの匙加減により決まります。


F2.8(開放) まずはマクロ撮影のお手並み拝見。開放なのでピントは薄く、右側が被写界深度から外れてしまいましたが、中央と左側はしっかり被写界深度内に収まっています。素晴らしい結像性能です

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)














F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F5.6  Nikon Zf(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F5.6 Nikon Zf  (WB:日光)  強い逆光のためグレアが出ています

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)


F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)



F2.8(開放) Nikon Zf



F4 Nikon Zf