おしらせ

2025/03/10

KONICA HEXANON 32mm F1.8 (KONICA EYE2 / EYE3)



コニカのハーフサイズカメラ用レンズ(続編)

KONICA HEXANON 32mm F1.8

過去にハーフサイズカメラのKONICA EYEから摘出したHEXANON 30mm F1.9を取り上げ紹介しましたが、このレンズが各方面で人気なようで、今回は続編として後継機のKONICA EYE2に搭載されている姉妹レンズのHEXANON 32mm F1.8を取り上げ紹介することにしました。先代のKONICA EYE同様、EYE2も故障品がジャンク市場にゴロゴロとあり、安値で売り叩かれています。このような廃棄寸前のカメラでもレンズがまだ使える場合があります。レンズのコンディションが良さそうなジャンクカメラを一台救出してきましたので、今回もライカマウントに改造して使うこととしました。デジタルミラーレス機に搭載するオールドレンズとして、第二の人生の始まりです。ついでにカメラとレンズについて、軽くレビューしておきましょう。

KONICA EYEシリーズは第一回東京オリンピックが開催された1964年に登場したハーフサイズカメラの大衆機で、初代EYEには固定レンズのHEXANON 30mm F1.9が搭載されていました。このカメラの生産台数は推定13万台と結構な数がつくられており、かなり人気だったようです[注1]。今回取り上げるレンズは、このカメラの後継機として1967年に登場したEYE2、および1968年に登場したマイナーチェンジモデルのEYE3に固定装着されていたレンズです。レンズは再設計され、焦点距離は32mm、開放F値は少し明るいF1.8に変更されています。EYE2とEYE3についも合計約11万台が製造されたようで、EYEシリーズの人気は後継モデルでも衰えなかったようです。ただし、ハーフサイズカメラ自体の人気は既に下火でしたので、同社は製品の主軸を35mmコンパクトカメラに移し、最終モデルであるEYE3を最後にEYEシリーズを打ち止めとしています。

取り扱い説明書より引用
 

改造についてはHEXANON 30mmの時と同じやり方です。難しくはありませんが削る部分があるため、少し手間を要します。まずカメラからレンズユニットを取り出し、その先端部にC-M42アダプターを装着します。この時にアダプターの内側を削り、ネジ山を落としておきます。あとは、そのままM42-M39直進ヘリコイド(12-19mm)に搭載するだけですが、このときに無限遠のピント位置を調整します。位置が決まったら接着剤等で仮固定しておけばよいでしょう。いざとなれば外せるよう、強力すぎる接着剤は避けたほうがよいかもしれません。これでライカスクリューマウントのレンズとして使用することができます。タイヤみたいな個性的なデザインで、インパクトのあるパンケーキ型レンズに仕上がりました。

 

KONICA HEXANON 32mm F1.8(EYE2 / EYE3用)構成図(右と左・上)。カメラのインストラクションマニュアルに掲載されていた構成図をトレーススケッチしました。図の左下(半分)は初代HEXANON 30mm F1.9の構成図
 HEXANON 32mm F1.8のレンズ構成は初代HEXANON 30mm F1.9と同じ5群6枚で、前群の貼り合わせを分離した拡張ガウスタイプです(上図)。分離部分を空気レンズとすることで画質的な性能を強化しています。構成図をみると第2レンズ(G2)が初代HEXANON 30mm F1.9に比べ、若干肉厚に作られており、屈折力の補強が図られているようです。初代HEXANONと同等の性能を維持しつつ、レンズの明るさをF1.8にしています。

 

[注] 製造本数については、ネット上でこちらのブログの方がシリアル番号から割り出しています。ありがたいことです。

KONICA HEXANON 32mm F1.9: フィルター径 40.5mm, 定格イメージフォーマット: ハーフ判(APS-C相当), 設計構成 5群6枚, 機構的に絞りを持たない(シャッター羽が兼ねる) 
 

入手の経緯

KONICA EYE2は中古カメラ店やネットオークションに多数流通しており、探すのは容易です。動作するカメラを壊すのは野蛮なので、ジャンクの故障品を探すことをおすすめします(そのほうが安上がりですし)。なお、はじめからライカLマウントに改造された個体が秋葉原のオールドレンズ専門店2nd BASEで販売されています。同店の店員さんがインスタグラムで写真を紹介したところ、人気が出始めたとのことで、ここの店員さんが台風の目です。また、同店には本ブログで過去にご紹介したHEXANON 30mm F1.9の改造レンズも取り揃えています。値段はどちら野モデルも15000円前後でした。

 

撮影テスト

KONICAのガウスタイプレンズは適度な滲みを伴う絶妙な柔らかさと、線の細い繊細な画作りを特徴としているものが多くあり、本レンズも例外ではありません。階調は軟らかくトーンを丁寧に拾ってくれますが、軟調にはなりすぎず発色はしっかりとしています。逆光ではゴーストがビシバシと沢山でますし、角度を選ぶととても綺麗な虹のゴーストがアーチを描くように出現します。美しい描写が持ち味ですので、レンズの特性を活かせば素敵な写真が撮れると思います。今回は私のミニベロを大公開。

F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard)

F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard) 虹を出すにはフードを外します

F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard)

F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard)

F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard)

F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard)














F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard)



















F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard) ワル乗り










































































F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard) こうなる






F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard)
F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard)
F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard) 撮影条件によっては、かなり強い虹が出ます

F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard)

F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard)

F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard)

F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard)


F1.8(開放固定)  Fujifilm X-PRO1(WB:日光, F.S: Standard)

2025/01/26

KOWA Opt. Works Prominar 85mm F3.5

興和光器の写真用レンズ  part 9
コーワの中望遠レンズ
いよいよ人気の秘密に迫れるか!?
KOWA Opt. Works, PROMINAR 85mm F3.5

コーワのレンズを紹介する特集はいよいよ最終コーナーを曲がりホームストレートを爆進中ですが、ここに来て中望遠レンズがもう一本手に入りましたので、急遽予定を変更して取り上げることにしました。興和光器製作所が1959年に発売したレンジファインダー機のKALLO T85に固定装着されていたPROMINAR 85mm F3.5です[1]。設計は下図のようなオリンピア・ゾナー型(3群5枚)です。この構成の場合、明るさこそF2.8あたりまでという制約はありますが、コントラストが良く、スッキリとしたヌケのよさ、線の太い力強い描写と安定感のあるボケが特徴です。85mm F3.5の中望遠レンズともなれば設計構成の選択幅は広く、3枚玉のトリプレットや4枚玉のエルノスターなどコストパフォーマンスをさらに追求した製品でも良かったわけですが、ここに豪華なゾナーの5枚玉を当ててきたことに、コーワという会社の理念と拘りが表れています。ゾナーでありながら開放F値がF3.5と控えめな点は他のレンズではみられない本レンズ最大の特徴と言ってもよく、ビハインドシャッターに対応するという別の目的があったにしろ、かなり余裕のある設計であることは間違いありません。ちなみに、今回取り上げるプロミナーには同一構成の兄弟モデル(同年発売のレンジファインダー機KALLO 140に搭載されていた交換レンズ)が存在し、設計もおそらく完全同一です[2]。
 
KOWA 85mm F3.5構成図(文献[2]からのトレーススケッチ)。設計構成は3群5枚のオリンピア・ゾナー型です。このレンズのような前群に正の屈折力が集中した設計構成では、歪曲収差や像面湾曲が問題になります。本レンズでは後群に1枚ある弱い正レンズを絞りから遠くに配置することで、実質的には負レンズのような働きに変え、糸巻き状の歪曲を緩和するとともに、テレフォト性(光学系全長を焦点距離よりも短くする性質)も維持しています[3]。画角を広げさえしなければ、これで歪曲収差と像面湾曲は目立たないレベルに抑えられます。高い合理性を持つ優れた設計構成のレンズといえます
 
KOWA KALLO T85
  
参考文献・資料
[1] カメラレビュー クラシックカメラ専科 No.40
[2] Kallo-140 公式 Instruction manual
[3] 「レンズ設計の全て」 辻定彦著 電波新聞社

KOWA Prominar 85mm F3.5(Kallo T85用)  フィルター径 49mm, 絞り羽 5枚構成, 絞り F3.5-F22, 最短撮影距離 1.3m, 3群5枚(オリンピア・ゾナー型)
 
入手の経緯
今回ご紹介しているレンズは、もともとレンジファインダー機のKallo T85に固定装着されていました。このカメラは2025年1月に秋葉原のレモン社にて販売されていた個体で、店頭価格16000円で購入しました。カメラには若干の難点がありレンズにはカビがありましたので、家に持ち帰りレンズを摘出して清掃してみましたが、後玉に若干のカビ跡が残りました。ガラスは微妙なコンディションですが実用として使う分には何ら問題はないと判断しています。
KOWAの交換レンズはもちろんですが、kallo T自体も中古市場に多く流通しているわけでありませんので、状態の良い製品個体には希少価値からそれなりの高値がつきます。設計構成が同一のKALLO-140用モデルには中古市場で10万円を超える値がつき、コレクターズアイテムとなっていますので、Kallo T85からの改造は同レンズを安く手に入れるための、ちょっとした裏技と言ってよいでしょう。ただし、このレンズの改造は面倒ですので一般の方におすすめはできません。私の辿った改造方法を概要のみ話すと、カメラからレンズユニットを摘出したあと、切断機を用いてヘリコイドネジを根本付近から切断します。このとき、ヘリコイドネジの根本部分は光学ユニットと鏡胴の固定を兼ねているので、残しておく必要があります。下の写真のように切断部にはM37-M42アダプターリングがピッタリとはまりますので、これをネジまたはエポキシ接着で取り付けます。あとはM42-M39ヘリコイド(17-31mmタイプ)に乗せればライカL39マウントレンズとして使用できるようになります。シャッター羽根は不要なので、開いた状態でスタックさせるか取り外しておくとよいでしょう。鏡胴とヘリコイドの間に2mm程度の隙間ができるので、下の写真のようにマルミのステップダウンリング49-46mm(薄型2mm厚、ネジ山の丈は少し削って低くしておきます)でも挟んでおけば綺麗にまとまります。


撮影テスト

開放からピント部の像はシャープで、コントラストも良く、線の太い力強い描写が特徴のレンズです。ただし、解像力は平凡で、フィルム撮影では問題ないのですが、デジカメでピント部を大きく拡大するとベタッとした像になっています。背後のボケは特徴的で、輪郭部がなくブワッと滲み、グズグズっと像が崩壊するように見えます。ゾナータイプのレンズにはよくあるボケ味です。距離によっては背後に若干のグルグルボケが見られることがあり、ゾナータイプにしては珍しくクセのあるボケを楽しめます。逆光ではシャワー状のゴーストが出ます。色収差はよく補正されており、デジタル撮影でもフリンジは目立ちません。

F3.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F3.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)


F3.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F3.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F5.6 Nikon Zf(WB:日光)

F3.5(開放) Nikon Zf(WB:曇り空)

F3.5(開放) Nikon Zf(WB:曇り空)

F5.6 Nikon Zf(WB:曇り空)

F3.5(開放) Nikon Zf(WB:曇り空)
F5.6 Nikon Zf(WB:曇り空)