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ズミクロン (ライカRマウント) 50mm/F2 タイプI (初期型1-cam) |
重量290g フィルター径43.5mm 最短撮影距離50cm |
ズミクロンが届いた。手に取るとずしりと重く、しっかりとした造りだ。このレンズはかつて圧倒的なシャープネスと優れた描写で世界の標準レンズの頂点を極めたライツの傑作だ。前群を分離した空気レンズと呼ばれる設計を導入したり、ランタン系の新しいガラス素材を使い屈折率を向上させるなど、新技術を積極的に採用することにより、当時のレンズの基準性能を大幅に引き上げたことで知られている。シャドーの微妙な階調変化を丁寧に表現し、苦悩に悶絶する人間の姿や内なる二面性など、芸術的な写真作品を多く生み出してきた。今回はライカ初の一眼レフカメラLeicaflex用に設計しなおされたライカRマウント用のSummicron-R 50mm/F2を入手した。製造台帳によると、このレンズが最初にされたのは1962年のようである。ライツの場合、Summicronという名は開放絞りがF2のレンズに対してつけられており、35mmや90mmの製品も存在している。フィルター枠の部分がおちょぼ口のようにすぼんだ前期型(Type-I)、中でも初期の1-camタイプの描写を好む愛好家が多いという。Type-Iには製造時期により、初期の1-camから3-cam, そして最後期のR-camまである。これらにはコーティングの色の濃さに若干の差異があるようだ。この差が描写にどれほど効くのかは明らかではない。オールドレンズ界には初期型が好まれるという変な法則がある。MC FLEKTOGON 35mm/F2.4に対してもそうであったが、いったいどうしてなのだろうか。真相は分からないが、製造時期の長い製品の場合には初期型のほうが活躍する機会が多かったのは確かである。さらに、リリースされたばかりの頃の強いインパクトの記憶が人々の心に刻まれ、特別な存在になってしまうのかもしれない。「初期型には開発者の魂が宿る」という魅力的な説もあるが根拠はない。
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左:フード無し状態 中央:フードを装着時 右:フードを反転収納時 |
★入手の経緯
2009年7月にeBayにて韓国の個人業者が出品していたものを落札した。商品の解説は「カビ、傷、クモリなし」とあるのみ。写真を見る限りは美品レベルに見えたので、いつものようにカウントダウンしながら入札締め切りギリギリ前に325㌦を投入し、312㌦で落札した。本品のeBay相場は300㌦前後のようだ。
落札から2週間が経ち、なかなか届かないなぁと思っていたら、eBayの落札品リストにある発送完了マークが点灯した。おぃおぃ今頃発送かよ・・・。そして、それから更に1週間が経ち、やっと商品が届いた。ガラス面は綺麗でクモリ・カビ・傷は見当たらない。鏡胴の傷も極僅かのいい品だ。純正フードと落とし込み式フィルターは付いていたが、被せ式のフロントキャップとリアキャップが無い。まぁこれは代用品で何とかしましょう。ところでこの韓国の出品者はいつまで経っても私に落札者評価をくれない。いったい何か恨みでもあるのだろうか・・・。
★純正外のパーツを使う
ズミクロンのフィルター径は43.5mmと特殊である。これはフード、保護フィルター、レンズキャンプなど純正品以外のパーツを使わせないためである。ユーザーには不便でしかない。八仙堂のステップアップリング43.5→49mmなどを用いてフィルター径を変更しておけば、汎用アクセサリーが使用できる。いろいろ似合うフードを探してみたが、私のお勧めはPETRIの被せ式レンズフード(内径51mm)だ。金属製なのでレンズの重厚感を損ねることはない。純正フードを着けたときよりもレンズ全体がコンパクトになる。
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八仙堂の43.5→49mmステップアップリングを用いて、PETRIの被せ式フードとkenkoの保護フィルターを取り付けた。PETRIフードはなかなか良く似合っている
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ペトリのフードはヤフオクでの中古品が1000円程度で手に入る。八仙堂のステップアップリングも500円と安価だ。純正のUV保護フィルターは古い品なので、光の透過率が高い現代のフィルターが使用できるのはありがたい。
★LeicaR - EOS Mount Adapter
ライカRマウントはフランジバックの規格が47mmと長いため、M42マウントのレンズと同様にマウントアダプターを介して多くのカメラにつけることができる。交換マウントを用いれば、なんとNikonでも補正レンズなしで使用できるという[注1]。今回はEOSにつけるにあたり、eBayにて中国製の安価なアダプターを入手した。中国製アダプターの場合、メーカーによっては製造精度がいまいちなので、購入前に情報を集め、よく検討する必要がある。私が最初に購入したのは青いパッケージが特徴の真鍮製電子マウントアダプターで、40㌦代で購入した。このアダプターは素材が頑丈で磨耗の心配が無く、レンズを取り付けたときのガタツキも全く無かったが、カメラへの装着がきつく、スムーズにはいかなかった。きちんと無限遠のピントが出ているのかどうかも怪しい品であった。次にCOWY07という名の出品者から送料込みの僅か16㌦にて購入したアダプターは赤/白のデザインにLeica /R for EOSと書かれているパッケージが特徴であった。こちらは電子チップのないノーマル仕様。装着がスムーズでオーバーインフ気味の設計であった。頑丈な真鍮製なのでオススメな品だ。
- [注1]・・・Type-IにNikon用交換マウントを付ける場合には、マウント上に突き出したカムを切除する改造が必要。Type-II以降のモデルの場合にはビスを外してそのまま付け替えができるようだ(絞りのクリック感を生み出す金属小球を失わないように!)。
★試写テスト
本品は大変有名なレンズなので、雑誌やWEBサイトでこれまで幾多と無く取り上げられ、描写について絶賛する評価を多く見る。ズミクロンの信者は多い。前評判は以下の通り。
●シャドー(暗部)の階調が潰れにくく、明暗の変化がなだらか。丁寧な階調表現が可能
●開放絞りから実用的なシャープネスを示し、1~2段絞るあたりでシャープネスは最大になる
●くすんだような渋く色濃い、地味な発色に定評がある。時々黄色による癖がある
●コントラストは高くない(高すぎない)
●線が細く緻密で繊細に写る
●開放付近では収差の影響が強く、ボケ味については好みが分かれる。ボケの乱れ方が煩いという悪評もあれば、昼間でも玉ボケがコロコロとハッキリ出るのがたまらなく良いという愛好者もいる。私は後者の立場だ。なお2線ボケもよく出る
●開放絞り付近では口径食がきつい
●シャドー(暗部)の階調が潰れにくく、明暗の変化がなだらか。丁寧な階調表現が可能
●開放絞りから実用的なシャープネスを示し、1~2段絞るあたりでシャープネスは最大になる
●くすんだような渋く色濃い、地味な発色に定評がある。時々黄色による癖がある
●コントラストは高くない(高すぎない)
●線が細く緻密で繊細に写る
●開放付近では収差の影響が強く、ボケ味については好みが分かれる。ボケの乱れ方が煩いという悪評もあれば、昼間でも玉ボケがコロコロとハッキリ出るのがたまらなく良いという愛好者もいる。私は後者の立場だ。なお2線ボケもよく出る
●開放絞り付近では口径食がきつい
F2 木更津 日枝神社・右の狛犬 奥の柱に二線ボケが出ている。そして噂どうり玉ボケがコロコロとハッキリ表れている。かなり気に入った。暗部の黒潰れもおきていない
F2 木更津 日枝神社・左の狛犬 絞りは開放なのに大変シャープだ。実物の岩肌の質感がよく再現できている
F2 マザー牧場 開放絞りによるイルミネーションの玉ボケ。周辺部は口径食がきつめだ
F5.6 柿の色の再現性は良好だ。発色が黄色によってしまう癖が出ており、昼間なのに日光が夕方っぽくなってしまった
F2.8 この花は再現が難しい色だ。実際には深い赤紫色をしているが淡いピンクのような色になってしまった。これでも色が濃く出るように露出をアンダー目にしているのだが上手く出ない
F2.8 この花の色はたんぽぽのような明るい軽やかな黄色だが、ズミクロンで撮影すると渋くて濃い独特の黄色になってしまった
F5.6 赤はしっかり濃く出る。上の写真は露出が-2/3 EVの結果で下は-2EVとだいぶアンダーにふった結果
F5.6 最短撮影距離で撮るとこんな感じになる
F2.8 かなりアンダーにしないと、コスモスの色は白っぽくなってしまう。-2EVでようやくちゃんと色が出た。しかし、またもや黄色い発色の発作が出ている
★暗部の粘りについて
ズミクロンの描写には「暗部での黒潰れが起こりにくく、粘りのあるなだらな階調表現が可能である」という定説がある。つまり描写力のないレンズで撮った際には真っ黒く潰れてしまうような深い色でも、ズミクロンで撮れば潰れずに写るというわけだ。この性質には注意しなければならない落とし穴がある。一般にシングルコーティング仕様の古いレンズで撮影した画像は、コントラストが低く暗部の輝度が浮き気味になり、締まりがない。ズミクロンの粘りは本物なのか、それともただ単に暗部が浮いているだけの幻なのか、その判断は難しい。先の定説に高く評価するだけの意味があるとすれば、深い色の黒潰れが避けられているだけでは不十分である。同時に本来あるべき黒の部分がきちんと黒く描写され、暗部の締まりが保たれていることを検証する必要がある。そこで、ズミクロンの階調表現について、もう少しテストを続けてみた。(近日中に追加)
ズミクロンRにはボケ方や発色に独特の癖があり、万人受けするレンズではないという前評判を今回のテストで確認することができた。文字道理に受けとめれば、このレンズは「癖玉」ということになる。しかし、ズミクロンは世界の標準レンズを語るうえで無くてはならない銘玉とされ崇拝されている。発売当時は圧倒的なシャープネスで世界中のカメラマンを驚かせた。現在も独特のくすんだような渋い発色はこのレンズならではの描写といわれている。これらの点を「独特」という名の線で結ぶと、ズミクロンの個性的な描写がこのレンズの癖によって生み出されているという大胆な観点に至る。私がズミクロンに触れてみたかったのは、このレンズの個性的な発色に何か秘密があるのではないかと感じたからだ。使い方によっては毒も良薬になる。そんな根拠のない仮説を今でも胸にしまい、このレンズをどう使いこなせばホームランが打てるのか模索している。ようするに癖玉と銘玉は紙一重ということを示す手がかりを得たいのだが、私のような新参者にはまだまだ真価を見せてはくれない。どうやら、もう少し時間をかけて付き合う必要がありそうだ。
★撮影環境 Leitz SUMMICRON-R 50/2 + EOS Kiss x3 + LeicaR-EOS mount adaptar