おしらせ

2025/08/28

YASHICA Auto Yashinon 5.5cm F1.8 (pentamatic)

ヤシカ初の35mm一眼レフカメラに搭載された主力レンズ

YASHICA Auto Yashinon 5.5cm F1.8 (pentamatic)

1960年に登場したYASHICA初の35mm一眼レフカメラには、広角35mm F2.8、標準5.5cm F1.8、望遠100mm F2.8の3本の交換レンズが供給されました。当時のYASHICAはカメラ本体の製造に特化しており、社内にレンズ設計部門を持たなかったため、これらのレンズはすべて外部メーカーからOEM供給を受けていました。このうち、広角レンズと望遠レンズには「TOMINON」と「Super-YASHION」のダブルネームが刻印されており、製造元が富岡光学であることは明白です。一方、標準レンズであるYASHINON 5.5cm F1.8にはダブルネームの個体が存在せず、焦点距離が例外的にセンチメートル表記ですので、富岡光学製とは異なるメーカーである可能性が指摘されています。このレンズの製造元については諸説あり、確定的な資料は現存しませんが、シリアル番号の連続性、鏡胴の造形、そして同スペックのレンズを製造していた実績などを総合的に検討すると、MAMIYA-SEKOR 55mm F1.8を手がけていた世田谷光機が有力な候補として浮かび上がります。世田谷光機は後継カメラのPENTAMATIC IIにおいてYASHINON 58mm F1.7を供給していましたので、全くありえない話ではありません。確定的な情報をお持ちの方がおりましたら、ご教示いただけると幸いです。

Yashinon 5.5cm F1.8の構成図(YASHICA Pentamatic Instruction Bookletからの引用)

レンズ構成は上図に示す通り、オーソドックスなダブルガウス型(4群6枚)を採用しています。1960年当時、F1.8の高速レンズを製品化することはまだ技術的にハードルが高く、光学設計で当時世界をリードしていた旧東ドイツのCarl Zeiss JENAでさえ、主力モデルであるPANCOLARをF2の開放値で市場に供給していました。PANCOLARの改良モデルがF1.8で登場するのは1965年になってからのことです。

Yashica Auto YASHINON 5.5cm F1.8(pentamatic):  フィルター径 52mm, 最短撮影距離 0.5m, 絞り値 F1.8- F16, 絞り羽 6枚構成, 重量(実測) 324g, 構成 4群6枚ガウスタイプ



  

入手の経緯

Pentamaticマウントは特殊な規格のため、マウントアダプターの市販品は存在していません。この事情からレンズが単体で中古市場に流通することはほとんどなく、カメラ本体とのセットで出回るのが一般的です。中古市場での価格に明確な相場はありませんが、カメラとレンズのセットで10,000円〜15,000円程度で出品されているケースを見かけることが多くあります。私はカメラのマウント部を利用してライカM用アダプターを自作することを念頭に置いていたため、初めから故障したカメラを安く入手するつもりで探し、国内のネットオークションにて2024年夏頃に約5,000円で入手しました。

 

撮影テスト

開放からの描写はクリアで、滲みやフレアはほ全く見られません。やや軟調気味であっさりとした控えめの発色傾向ですが、これがスッキリとした写りや丁寧なトーン描写と調和し、写真全体に透明感をもたらしています。こうした描写は、オールドレンズならではの味わい深さを感じさせてくれます。

逆光では強いゴーストが現れ、描写は更に軟調になり、色味もやや濁る傾向がありますが、それもまたクラシカルな雰囲気を演出する一因となっています。ボケについては概ね良好です。ただし、撮影距離によっては背景のボケがザワつき、やや煩雑に感じられることがあります。

少し前の記事で取り上げた後継モデルの YASHINON 58mm F1.7(Pentamatic II用) は、開放で被写体表面に柔らかなフレアが漂い、よりソフトで線の細い描写が特徴で、同じペンタマチックマウントの標準レンズでも、性格がだいぶ異なります。今回取り上げた初期モデルのスッキリとしたクリアな描写を選ぶか、後継モデルの柔らかい質感表現を選ぶかは、撮影スタイルや好みによって選択が分かれるポイントでしょう。

F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日陰)
F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日陰)
F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)
F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)
F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)
F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)
F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

2025/08/25

YASHICA YASHINON-DX 45mm F1.7

名機ELECTRO 35の主力レンズを

デジタルミラーレス機で試す

YASHICA YASHINON-DX 45mm F1.7 

ELECTRO 35はヤシカが1960年代に市場供給していたレンズ固定方式のレンジファインダー機です。発売からすでに60年が経過し、電子回路の寿命によって故障した個体が、カメラ店のジャンクコーナーに数多く並ぶようになりました。そうした中から、レンズの状態が良好と思われる数台を拾い上げ、カメラ本体からレンズを摘出し、改造を施して再利用することにしました。

搭載されているレンズは、描写力に定評のあるヤシノンDX 45mm F1.7です。フィルム写真の時代には青みの強い独特の描写が人気となり、「ヤシカブルー」などと称されることがありました。かねてより気になっていましたが、ロモグラフィーの公式サイト[1]に掲載された作例写真を目にし、その青の深みや美しさ、粒状感との相性に心を奪われ、興味がさらに高まったのをよく覚えています。

このレンズは先代機YASHICA MINISTER 700に固定レンズとして初めて採用され、その後、Electro 35シリーズに継承されました[2,3]。Electro 35は世界的なヒット商品となり、1975年の最終モデルまでに累計約500万台が販売されたとされています。往年の名機に搭載されていたこの名レンズを蘇らせ、現代のデジタル撮影に活用できるようになったのは、レンズ交換が可能なミラーレス機の登場による恩恵です。

レンズの設計者については確定的な情報はありませんが、藤陵嚴達氏によるものとされており[4]、藤陵氏自身も回顧録[5]の中で「ヤシノン交換レンズ群、エレクトロ35用レンズ等を設計」と述べています。藤陵氏は、八洲光学工業からズノー光学(旧・帝国光学工業)を経て、1961年にヤシカへ移籍。国友健司氏とともに、有名なZUNOW 50mm F1.1の後期型(1953年発売)の設計を手がけた人物としても知られています。


[1]  Lomography : Yashinon-DX 45mm F1.7

[2] ヤシカ・ミニスター700 デラックス マニュアル 

[3] Electro 35 GT instruction manual

[4] 光学設計者 藤陵嚴達 ~ズノー、ヤシカ、リコー~,  脱力測定(2021) 坂元辰次著 

[5] 藤陵嚴達「六十年の回想」

Yashinon 45mm F1.7の構成図:設計構成は4群6枚のガウスタイプ

  

撮影テスト

定評あるレンズだけに開放からシャープで抜けがよく、すっきりとした描写が印象的です。発色は鮮やかで、コントラストの高さがその描写力を裏付けています。一方で、開放時には周辺光量の低下がやや目立ちます。ボケは大きく乱れることなく、ぐるぐるボケや放射ボケが目立つことはありません。歪曲収差は良好に補正されており、構図の安定感に寄与しています。逆光下では、角度によってシャワー状のゴーストが盛大に現れることがあり、使い方次第では印象的で遊び心のある画づくりが可能です。

F1.7(開放) Nikon Zf(WB: 日光)
F1.7(開放) Nikon Zf(WB:日光)
F2.8 Nikon Zf(WB:日光)
F1.7(開放) Niokon Zf(WB:日光) def








F1.7(開放) Nikon Zf(WB:日光)abc


F1.7(開放) Nikon Zf(WB:日陰)


F1.7(開放) Nikon Zf(WB:日陰)