シュナイダー・ファンにも知る人は少ない
小さなヴィンテージレンズ
今回はいよいよ「シュナイダー・ブルー」の発色特性で知られるSchneider-Kreuznach社のレンズが登場だ。青に特徴のあるこの種の発色特性を好まない人は恐らくこんな体験をしたのであろう。「シュナイダーのレンズをカメラにつけて森林に分け入り風景を撮る。すると、撮影結果の中の草木の緑が、どうもいつもとは違う発色であることに気付く。光の当たる部分は黄緑に転び影の部分は青緑になるなど緑の発色に連続性が無く、照度に応じて色彩が不安定にコロコロと変化するのだ。あまり気にせずに撮影を続けると、今度は木々の隙間の奥深くにあるシャドー部がどうもおかしく見えてくる。やや青味がかったようにも見え、薄暗い辺りに何かあるような気味悪い感覚に陥るのだ。もう風景撮りはいやだと人を撮影することに。すると、今度は肌が青白く美しい死体のように血色感がない。背景もろとも、まるで映像の中のテレビ画面を見ているような感覚になり・・・。ひゃ~、こんなレンズもういやだ!」とまぁ、こんなふうになるわけだ。しかし、使い方を心得れば良い部分もいっぱいあるので、第2弾では、そこらあたりを伝えたい。
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今回再び紹介するJsogon(アイソゴン[注1])はドイツのSchneider(シュナイダー)社が1950年代初頭に生産した一眼レフカメラ用の準広角レンズである。生産総数は僅か725本であり、1950年9月29日に最初の製造ロット125本の一部、もしくは全てがM42マウントとして生産された。残る600本は全てExaktaマウントとして生産されている。入手した個体は希少価値の非常に高い初期ロット125本の中の1本である。Exaktaマウント用のJsogonは本ブログで過去に取り上げているが、残念ながらその時の個体にはガラスに薄らとクモリが入っていたため、100%の描写性能を紹介することができなかった。今回のJsogonは状態がよく、本来備わっている実力を紹介できる。
Jsogonの光学系は4群4枚の珍しいDialyt型で、対称な設計構成ならではの高い平面性が得られる点を長所にしている[文献1]。JsogonはTessar 40mmに次ぐ一眼レフ用広角レンズの第二号といわれている。面白そうなレンズだ。
レンズの鏡胴は真鍮ベースのクロームメッキ仕上げで造りが非常によい。鏡胴のメッキに傷の入った部分からは地金の真鍮ゴールドが露出し、これがたまらなく良い味をだしている。前玉がフィルター枠よりもだいぶ奥まったところに位置しているので、鏡筒がフードとしての役割を兼ねているようだ(このレンズにはフィルター用のネジ切りが無い)。40mmという焦点距離はAPS-Cセンサーで使用してもフルサイズ機や銀塩カメラで使用しても標準レンズに近い使いやすい画角が得られ万能だ。本ブログで過去に扱ったJsogonとは鏡胴のデザインが少し事なり、本品の方が全長が少し短く、重量も100g弱軽いなど軽量でコンパクトにできている。何か差別化する理由でもあったのであろうか。
[注1] JSOGONとかいてアイソゴンと読むそうだ。ドイツ語では単語の先頭にあるJとIの読みが入れ替わることがあり、例えばエキザクタで有名なイハゲー社はJHAGEEと記される。
文献[1] Photographic Optics, by Arthur Cox.( 1979 Spanish edition )
★入手の経緯
[注1] JSOGONとかいてアイソゴンと読むそうだ。ドイツ語では単語の先頭にあるJとIの読みが入れ替わることがあり、例えばエキザクタで有名なイハゲー社はJHAGEEと記される。
文献[1] Photographic Optics, by Arthur Cox.( 1979 Spanish edition )
★入手の経緯
2011年6月にドイツ版eBayを介して個人の出品者から送料込みの総額165.5ユーロで購入した。商品出品時の解説は「シュナイダー・クロイツナッハ社が製造したM42マウントの品。レンズは経年にしてはとてもよい状態だ。絞りはグッド。ピントリングの回転もグッド。ガラスもグッド。少しホコリがあるようだ。キャップが付属する」とのこと。この出品者はビックリするようなレアなレンズをポツリ・ポツリと出す人物なので個人的にマークしている。たぶん大物コレクターではないかと勝手に想像している。商品は初め175ユーロ+送料5.5ユーロで発売されていたが、値切り交渉を受け付けていたので、160ユーロでどうかと交渉したところ、私の物になった。1週間後に出品者から届いた個体には解説どうりに軽度のホコリの混入が見られたが、この程度なら描写には全く影響はない。今回は良い買い物であったと思う。
本品は珍しいレンズなのでEXAKTA版でも相場価格はやや高く、米国版eBayではケビンカメラがプライスリーダーとなり400ドル~500ドル程度で出品している。このJsogonにM42マウントの個体がある事を今回の出品で初めて知ったので目にした瞬間は驚いた。シュナイダーの製造台帳で確認を取ると、Jsogonの生産が始まった1950年9月の最初の製造ロット(125本)の中の1本であることがわかった。マウント規格の表記が空欄になっているので、この時にM42を含む複数のマウント規格の個体が試作的に生産されたのではないだろうか。
本品は珍しいレンズなのでEXAKTA版でも相場価格はやや高く、米国版eBayではケビンカメラがプライスリーダーとなり400ドル~500ドル程度で出品している。このJsogonにM42マウントの個体がある事を今回の出品で初めて知ったので目にした瞬間は驚いた。シュナイダーの製造台帳で確認を取ると、Jsogonの生産が始まった1950年9月の最初の製造ロット(125本)の中の1本であることがわかった。マウント規格の表記が空欄になっているので、この時にM42を含む複数のマウント規格の個体が試作的に生産されたのではないだろうか。
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絞り値 F4.5-F22, 手動絞り, 焦点距離 40mm, フィルター径 ねじ切り無し, 最短撮影距離 0.5m, 絞り羽枚数 8枚, 重量(実測) 180g, 光学系は4群4枚Dyalyt型[1]。本品にはM42マウントとExaktaマウントの2種が存在する
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★撮影テスト
このレンズには、味のある優れた描写力が備わっている事がわかった。解像力はあまり高くないため拡大すると像の甘さが出るもののバリッと鋭く張りのある撮影結果が得られる。ボケ味は硬めで背景にゴチャゴチャしたものが入ると距離によってはザワザワ煩くなるが大きく乱れることは無い。F4.5という控えめな設計が功を奏したのか周辺画質の低下が目立つことはなく、開放撮影時においても像の流れや歪みが気になることはなかった。シュナイダーらしく冒険のない手堅い描写設計といえる。注目の発色特性については色温度が高くクールトーンな仕上がりとなる。黄色がレモン色、レモン色が白、白が青白く変色する様子が確認できる。また、照度に応じて緑が黄緑や青緑にコロコロ不安定に変色し、撮り方次第でとても面白い作例になる。暗部が青みを帯びる傾向が強く、他のシュナイダー製レンズと比較しても、Jsogonは青転びの特性をかなり強く示すレンズのようだ。以下、作例。
F5.6 銀塩撮影(EuroPrint100): 日光のあたる部分で竹林の葉の緑の色が黄緑に転び、まるで燃え盛る炎のように見える。このレンズの特性をうまくいかせた作例だ。竹林の奥のあたりを見てほしい。森林のシャドー部が薄気味悪いとは、こういうことなのだ。だが、涼しげにも見える
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F8 銀塩撮影(EuroPrint100): あれれ凄いな!夕日の逆光で黄色を補色してみたが、結構いい味だすレンズではないか!光の滲みかたといい、石畳の雰囲気といい、奥の樹木の発色など・・・素晴らしい。もしかして、このレンズは久々の大当たりであろうか・・・。
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上段・下段ともF4.5 銀塩撮影(EuroPrint100): 袖口から肩にかけての質感が素晴らしい。描写はかなり鋭くボケ味は硬めのようだが大きな乱れはない。周辺画質の低下も少ない
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F8 銀塩撮影(EuroPrint100): 最短撮影距離は0.5cm弱なので近接撮影も難無くこなす。ハイライトの飛び方がとてもいい。やはり表現力の豊かなレンズだ
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F11 銀塩撮影(EuroPrint100): 変な色が出たケース(その1)。こちらも逆光撮影だがシャドー部が真っ青だ!根元のあたりに青緑の深みがしっかり残り穂の部分と好対照。ある種のメリハリを生んでいる
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撮影条件が夏の晴天日だったのでコントラストが高く、フィルム撮影ではシャドー部の黒潰れが顕著に出てしまった。こういうコンディションではデジタルカメラの方が有利だ。 以下はデジタル撮影による作例。
★デジタル撮影(Sony NEX-5 digital, AWB)
F4.5 NEX-5 digital(AWB): 玉ボケが青(水色)に変色している。緑の発色が照度に応じて黄緑や青緑へとコロコロと変化し綺麗だ
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F5.6 NEX-5 digital(AWB): デジタル撮影の柔らかな階調表現では明確に識別できる。やはりこのレンズは絞りを開けたときの解像力があまり高くない。ボケ味は硬いが大きな乱れもなく良好だ
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F8 NEX-5 digital(AWB): 絞るとスッキリと写りシャープだ。左下の影の部分が青に転んでいる
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Jsogonは味のある描写で勝負するタイプのレンズといえるだろう。理由は分からないが、デジタル撮影よりもフィルム撮影の方が表現力が滲み出ているように感じた。しっかりと自己主張をする優れたレンズのようだ。