おしらせ


MAMIYA-TOMINONのページに写真家・橘ゆうさんからご提供いただいた素晴らしいお写真を掲載しました!
大変感謝しています。是非御覧ください。こちらです。

2015/11/08

FUTURA FREIBURG BR. EVAR 50mm F2 (M34 Futura Screw)*




プリモプランとは似て非なる変形エルノスター
FUTURA (FREIBURG BR.) EVAR 50mm F2 
Primoplan(プリモプラン)の同型レンズと聞いて俄然興味が湧いてきたので思い切って入手してみた。Futura Kamerawerk(フトゥーラ・カメラ)が1950年代に生産したEvar(エバール) 50mm F2である。事実ならとても珍しい種族のレンズだが、試写してみたところ、どういうわけか描写傾向が全く異なるので興味は増すばかりである。Primoplanは中心解像力こそ高いが、写真の四隅を捨てたような開放描写と荒々しく回る背後のグルグルボケを特徴とするジャジャ馬のヤンキーレンズである。明らかに非点収差が大きく、こうした描写傾向を加味して本ブログの過去のエントリーでは第2群のはり合わせが「旧色消し」であるとの大胆な予想を立てていた。これに対してEvarはピント部四隅まで画質が均一に保たれグルグルボケも出ない優等生で、像面湾曲や非点収差が良好に補正された別人格の写りとなっている。Evarは本当にプリモプラン型なのであろうか。下に示すような構成図が手に入った。構成は4群5枚の変形エルノスター型で、第2群に接合面を持つプリモプランとよく似た設計となっている。特許資料が手に入らないので断定はできないが、接合面のカーブがだいぶ緩いので、恐らく第2群の接合レンズはPrimoplanとは異なる「新色消し」ではないだろうか。「新色消し」の導入は非点収差の補正に有利に働くので四隅の画質を良好に補正できるものの球面収差の補正には不利となる。Evarの描写傾向はこうした予想ととてもよくマッチしている。ちょうどトリプレットとテッサーの関係を思い起こしてもらうとよいが、この場合にはトリプレット的なのがPrimoplanでテッサー的なのがEvarという対応になる。なお、Evarの第2群で増大した球面収差は他のエレメントの助けを借りて光学系全体で補正できるので、硝材の選択がうまくゆけば中心解像力もそれほど悪いものにはならないとのこと。さて、Evarがどんな写りになっているのかは見てのお楽しみである。
 
レンズの構成図(スケッチ):左は原型となったErnemann Ernostar F2(4群4枚)、中央は発展型のMeyer Primoplan F1.9(4群5枚)、右は同じく発展型のEvar F2(4群5枚)である



Futura
Futura Kamerawerk(フトゥーラ・カメラ)は第二次世界大戦中にドイツ空軍に従事しカメラや光学機器の製造に携わっていたがFritz Kuhnert(フリッツ・クーネルト)という人物が1950年にドイツのFreiburg(フライブルク)に設立したカメラメーカーである。Kuhnertは1942年にOptische Anstalt Fritz Kuhnert(フリッツ・クーネルト光学研究所)を設立しFreiburgに工場を建てたが、1944年10月の連合軍の爆撃で大破している。戦後はグンデルフィンゲン(Gundelfingen)の郊外に新工場を建て1947年にEfka 24という24x24mmフォーマットのビューファインダーカメラを発表、続けて上位機種のFuturaレンジファインダーカメラを開発し1950年の第一回フォトキナで発表した。この頃Kuhnertの会社は経営難に陥っていたがハンブルクに拠点を置く船舶会社のオーナーが会社を買収し新たなオーナーに就くとともに会社名を改称し、有限会社Futura Kamerawerk (以後はFuturaと略称する)を再スタートさせている。Futuraは1950年から1957年までの間に4種類の35mmのレンズ交換式レンジファインダーカメラ(Futura, Futura P, Futura S, Futura SIII)を発売している。これらは主に米国などへの輸出用として市場供給されていた。交換レンズのラインナップは大変充実しており、Ampligon 4.5/35, Futar 3.5/45, Frilon 1.5/50, Evar 2/50, Elor 2.8/50, Frilon 1.5/70, Tele Futar 3.8/75, Tele Elor 3.8/90, Tele Elor 5.6/90に加えSchneider Xenar 2.8/45が用意されていた。レンズ名の幾つかはKuhnert一家の家族の名前を由来にしており、Elorは妻Eleonore、EvarとPetarは彼の子供達EvaとPeterから来ている。Frilon F1.5はとても明るいレンズであるとともに希少性が高い(あまり売れなかった)ため、現在の中古市場では極めて高額で取引されている。レンズは全てM34スクリューネジの同一マウント規格で統一されており、上記の4種類のカメラ全てに搭載できる。Futuraのレンズにはミラーレス機用のアダプターも存在しeBayで入手可能であるが、高額なのでステップダウンリングを用いて34mmから42mmに変換しM42ヘリコイドアダプターに搭載してミラーレス機で用いるのが安上がりである。Futuraのレンズを設計したはシュナイダー社の設計士Werner Giesbrechtである。ただし、レンズの製造はSchneider Xenarを除き全てFutura自身が自社工場でおこなっていた。なお、カメラやレンズの生産は1957年頃まで続いていたそうである。

本来の母機であるFutura-Sに搭載したところ。美しいカメラだ




重量(実測) 102g, フィルター径 39mm前後(39mmで若干緩いがOKであった), 絞り F2-F16, 絞り羽 13枚構成, 設計構成 4群5枚(変形エルノスター型), マウント Futura M34 Screw, レンズ名はカメラを設計したFritz Kuhnertの娘Evaの名が由来である



入手の経緯
このレンズは2015年11月に大阪の中古カメラ店からFutura-Sのカメラにマウントされた状態で3万8千円で購入した。レンズについては「カビ、クモリ、バルサム切れ、傷などなくとても良い状態」とのこと。届いたレンズはコーティングの表面の拭き傷のみで他に問題はなかった。カメラの方にはシャッターが低速側でやや粘る不調があった。経年品なのでこの程度の問題は仕方ない。
Futuraのレンズはコーティングがこれまで見てきたどのメーカーのレンズよりも弱く、どの個体もコーティングの表面をよく観察すると、極薄い拭き傷が一面全体にびっしりとみられ、まるで磨いた跡のような様子になっている。おそらく軽く拭いても全て拭き傷になったのであろう。クリーニング歴のない未開封の個体を除き、どうもこのような拭き傷を持っている個体しか市場にはないので、レンズを入手したいのならば覚悟のうえで、欲張らずに実用コンディションを探すのが正解だ。私の場合はコーティングの状態が良い個体を3~4年探したが徒労に終わった。写りに影響がないなら、このまま用いるのがよいし、影響があると判断される場合には、修理に出しコーティングしなおすのがよい。
  
撮影テスト
中心解像力は高くシャープに写るレンズだ。開放ではポートレート域において極僅かにフレアが出るが問題ないレベルである。後ボケはザワザワしていて硬く2線ボケも出やすいが、グルグルボケはみられず反対に前ボケはフレアに包まソフトになる。ちなみにプリモプランの方はかなり激しいグルグルボケが出ていた。プリモプランよりも像面湾曲が良好に補正されているようで、ピント部の良像域はプリモプランよりも格段に広い。ちなみに、プリモプランは元来シネマ用なので、スチル用とは設計理念が異なるレンズである。階調は軟らかくトーンはなだらかである。発色はノーマルでこれといった癖はない。
F4, Sony A7(AWB):トーンはとても軟らかく美しい。下に拡大写真を示すが、ピント部は解像力が良好だ
上の写真の一部を拡大したもの。ピント部はとても緻密で高解像だ
F5.6, sony A7(AWB): ピント部は四隅まで安定感がある

F2(開放), Sony A7(AWB): 開放でもフレアは少なく、スッキリとヌケが良い描写である

F4, sony A7(AWB): しかし、シャープなレンズだ







2015/10/26

New Book Releases "OLD LENS x BEAUTIFUL GIRL" 新刊のご案内 「オールドレンズ×美少女」



知り合いの写真家・上野由日路氏が『オールドレンズ×美少女』を出版します。下記の玄光社MOOKのホームページにもう少し詳しい情報があります。少し関わっています。でも、美少女には会えなかった(涙)。
http://www.genkosha.co.jp/gmook/?p=9277
http://www.genkosha.com/read/gkm/0669/index.htm
 
My friend Yoshihiro Ueno, who is a professional photographer, wrote a very attractive book titled "Old Lens x Beautiful girl".  The book is released on Oct.30 2015. You can buy it in the bookstore in Japan.  This book explains how to shoot the beautiful girls effectively using legendary cine lenses:

Arriflex Cine Xenon 25mm F1.4
Arriflex Cine Xenon 35mm F2
Arriflex Cine Xenon 50mm F2
Cine Planar 32mm F2
Cine Planar 50mm F2
Cine Planar 85mm F2
Cooke Speedpanchro 18mm F1.7
Cooke Speedpanchro 40mm F2
Cooke Speedpanchro 50mm F2
Cooke Speedpanchro 75mm F2
MakroGaussTachar 40mm F2
Tessar 12cm F6.3
Bsusch&Lomb Tessar 16.5cm F6.3
Re Auto Topcor 5.8cm F1.4
Auto Switar 50mm F1.8
Prominent Nokton 50mm F1.5
Prominent Ultron 50mm F2
Noctilux 50mm F1
CommercialEKTAR 8 1/2inch F6.3
Rollei Planar 50mm F1.8
Color Ultron 50mm F1.8
Contarex Sonnar 85mm F2
Contarex Distagon 35mm F2
PO2-2M
PO3-3M

Please check detailed information in the following web page:
http://www.genkosha.co.jp/gmook/?p=9277
http://www.genkosha.com/read/gkm/0669/index.htm
http://www.amazon.co.jp/gp/switch-language/product/4768306691/ref=dp_change_lang?ie=UTF8&language=en_JP
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以下は著者からいただいた解説文(プレスキット)です。

 
オールドレンズ×美少女

【内容紹介】

ポートレート撮影でオールドレンズの魅力を発見する

ミラーレスカメラの誕生により、オールドレンズやシネレンズなどの過去のレンズを自由に楽しめるようになりました。そのレンズの魅力をポートレート撮影を通して楽しむ方法を徹底ガイド。ポートレートにお勧めの名レンズガイドをはじめ、オールドレンズの基礎知識や撮影テクニック、レンズ設計者の歴史物語など、撮影役立つ情報や読み物も豊富に掲載しました。

・シネレンズと10人の美少女
清水富美加/内田理央/小澤奈々花/古畑星夏/柴田杏花/ 高橋ひかる/山地まり/末永みゆ/はねゆり/モトーラ世理奈

・オールドレンズ基礎知識
・RAYQUAL レポート
・オールドレンズ撮影テクニック
・NOCTO レポート
・美少女と名レンズ5選
 北村優衣/里々佳/野口真緒/ハマカワフミエ/手塚真生
・SHELLY×上野由日路
・アライテツヤ×上野由日路
・翁長 裕×上野由日路
・福野礼一郎が語るアリフレック
・オールドレンズストーリーズ〜レンズ設計者の物語〜
・ ショップガイド

【登録情報】 

ムック
出版社: 玄光社 (2015/10/30)
言語: 日本語
ISBN-10: 4768306691
ISBN-13: 978-4768306697
発売日: 2015/10/30
http://www.genkosha.co.jp/gmook/?p=9277

A4変型判 160ページ
定価:本体1,800円+税

Copyright(C)本エントリーで使用している写真やプレスキットは許諾を得たものを使用しています

2015/10/19

AGFA Solagon 50mm F2 (L39 mount conberted from Karat IV)*

マニア達が口を揃えて言う
このレンズは隠れ名玉だと
AGFA Solagon 50mm F2
もともと評価の高いレンズではあったがバックフォーカスが短い上に交換レンズではないため、デジカメ時代に入り長らく日の目をみない地味な存在となっていた。しかし、ミラーレス・フルサイズ機のSony α7シリーズが登場したことにより状況は一変、このレンズにもようやく旬の時期が訪れている。ドイツのAGFA社がレンジファインダーカメラのKarat 36(1951年登場の後期モデル)と後継機Karat IV(1955年登場)に搭載したガウス型レンズのSolagon(ゾラゴン) 50mm F2である。Karat 36のレンズとしてはそれまでSchneider社からXenon(クセノン) 50mmF2、Rodenstock社からHeligon(ヘリゴン)50mmF2が供給されていたが、AGFA社はSolagonの開発を機に次期モデルからカメラを100%自社生産する体制に移行しようとしていた。レンズを設計したのは同社のTheodor Brendel(テオドア・ブレンデル)という設計士で、1950年にSolagon、1952年には戦前からあるテッサー型レンズSolinar( ゾリナー)の後継モデルを発表した[文献1,2]。Solagon付きのKarat 36は1951年の発売時にXenon付きやHeligon付きのモデルと同一価格で売り出されている。強気の価格設定であるが、現実的に考えて互角の性能ではブランド力の弱いAGFA社のレンズでXenonやHeligonに対抗できるわけがない。Brendelが掲げた目標は少なくとも先発の名レンズ達に実力で勝る優れた性能のレンズを開発することであったに違いない。追い詰められた人間にはとんでもない力を発揮する瞬間があることを私は知っている。隠れ名玉ゾラゴンはこうした逆境の中から生み出された実力派レンズなのである。

AGFA Solagon 50mm F2の構成図(文献[1]からのトレーススケッチ)。構成は4群6枚のダブルガウス型
AGFA社
AGFAと言えばカラーフィルムと現像液のパイオニアとして名高いドイツ発祥の化学薬品メーカーである[文献4]。Kodakが世界初のカラーポジフィルムを発売した翌年の1936年にはAGFAもポジフィルムのagfacolor neu(アグファカラー・ノイ)を発売している。この時に発色現像を1回で完結させることのできる画期的な現像処理法を実用化し、この技術が現在の世界標準となった。また、同じ年にネガフィルムからポジカラープリントを得る方式(ネガポジ法)を世界で初めて実用化した。AGFAが開発し1892年に発売した現像液のRodinal(ロジナール)は今も販売されている超ロングセラー商品である。
AGFAの創業は1867年で、ハイデルベルク大学を1863年に卒業した化学者のパウル・メンデルスゾーン・バルトルディ(Paul Mendelssohn Bartholdy)とイングランドに染料工場を設立した実業家のカール・アレクサンダー・フォン・マルティウス(Carl Friedrich Philipp von Martius)がベルリン近郊のルンメルスブルク湖のほとりに工場を建設しアニリンの生産に乗り出したのがはじまりである。創業者パウルの父はドイツ・ロマン派を代表する有名な作曲家フェリックス・メンデルスゾーンである。「ヴァイオリン協奏曲」「無言歌」「結婚行進曲」などはメンデルスゾーンの名を知らずとも誰しもが耳にしたことのある名曲である。工場を設立したパウルとカールは1873年に会社名をアニリン製造株式会社(Aktien-Gesellschaft für Anilin-Fabrikation)へと変更するが、この頭文字をとり1898年からはAGFAを正式名称とした。なお、パウルは1880年にベルリンで心筋梗塞に倒れ死去、会社の経営は甥のフランツ・オッペンハイムが引き継いでいる。その後、1891年に同社が開発した現像液のロジナールがヒットし会社は事業規模を急速に拡大させてゆく。1925年にはカメラメーカーのRietzschel(リーチェル:1896年にミュンヘンで創業)を吸収合併することでカメラ部門を設立、1926年にはテッサー型レンズのSolinar(ゾリナー) 105mm F4.5が付いたNinon(ニノン)というフォールディングカメラを発売しカメラの生産にも乗り出している。戦後まで続くフォールディングカメラのKaratシリーズが発売されたのは1936年で、同社がフィルム現像技術の発展に大きく貢献し世界的なフィルムメーカーになるための足跡を残したのもこの年である。なお戦前のKaratシリーズに搭載されたレンズはテッサー型のSolinar 5cm F3.5とOppar(オッパール) 5.5cm F4.5、トリプレット型のIgestar(イゲスタール) 5cm F6.3である[文献3]。
会社は1925年の大合併により巨大企業IG・ファルベンインドゥストリーの一部となるが、戦後の1951年に財閥として解体され、1952年からはバイエル染料会社の傘下でAGFA写真工業会社およびAGFAカメラ会社として再スタートしている。1964年にベルギーの印画紙メーカーGevaert(ゲバルト)社と事業統合するものの1983年にカメラ事業からは撤退、現在はベルギーのモンツェルに本社を置き印刷機材、医療機器、マイクロフィルム、ポリエステルなどを主力製品としている。2011年時点での従業員数は13000人である[文献5]。

参考文献
[1]  Theodor Brendel, Pat. DE833419 C (1950年申請, 1952年公開)
[2]  Theodor Brendel, Pat. US2784642 (1952年申請, 1957年公開)
[3]  早川通信:よく写る「アグファのカメラ」紹介(1996年秋・伊勢丹)
[4]  AGFA社公式ページ
[5] 日本アグファ・ゲバルト株式会社:沿革・歴史
重量(実測/ヘリコイド含まず) 180g, フィルター径 29.5mm, 絞り羽 10枚構成, 絞り F2-F16, イメージフォーマット 35mm判, 構成 4群6枚(ガウス型), 本品はL39マウントに改造されている。レンズ名はラテン語で「太陽」を表すSolとギリシャ語で「角」を意味するgonの合成
入手の経緯
このレンズは2015年1月にヤフオクを介しrakuringjpさんからライカLマウントとして距離計非連動で使用できる改造レンズとの説明で購入した。購入価格は29800円(即決価格)である。レンズヘッドの部分がM42に変換されておりM42→L39ヘリコイドに搭載されていた。また、レンズヘッドとヘリコイドの間には薄いスペーサーが何枚か入っており、無限遠調整されていた。商品の解説は「目立つキズ、クモリ、カビ、バルサム切れはない。強い光に透かすとホコリと気泡がある。描写には影響のないレベル。絞りに汚れあり」とのこと。レンズにはマウントアダプターが付属していたが出品者に不要であることを伝え1000円値引きしてもらった。
 
撮影テスト
インターネット上に出ている世評ではシャープで色鮮かなうえ解像力が高く、コマ収差がよく補正されており、フレアが少ないスッキリとヌケの良い描写のレンズということなので、現行レンズ的な性能を想像していた。しかし、使ってみたところ少し違い、良い意味で裏切られた。シャープで色のリは良好なレンズだが、やや温調気味にコケる傾向があり、いい味が出る。このあたりは私好みなのでとても満足のゆく描写傾向である。確かにコマはよく補正されており開放でもフレアや滲みとは無縁のシャープでスッキリとした描写ではあるが、絞っても階調はなだらかで中間階調は豊富に出ている。光の微妙な強弱を丁寧に拾うことができるトーンの美しいレンズである。解像力は開放から実用レベルだが1~2段絞ったあたりが素晴らしく、細部まで緻密に描き切る描写力がある。周辺画質も安定しておりグルグルボケはポートレート域を撮ると背後に僅かに出る程度。開放から安定感があり、トーン描写が美しく、味わい深い発色を楽しむことができる優れたオールドレンズである。
F4, Sony A7(AWB):  さっそくスバラシイ階調描写にビックリ仰天した
F4, Sony A7(AWB): 一段絞れば解像力は良好で細部まで緻密に表現できる

F2(開放), Sony A7(AWB):  開放ではやや解像力が落ちるもののフレアの兆候はなく階調は安定している。絞りに対する画質の変化が少ないので中間絞りにおける球面収差の膨らみが小さいのであろう






F2(開放), Sony A7(AWB): グルグルボケは出てもせいぜいこのくらい。パリコレ気取りだ

F4,Sony A7(AWB): シャドー部に向かって中間階調の変化がなだらかに出ている
F4, sony A7(AWB): 解像力のテスト画像。このレンズは半段から一段絞るあたりで解像力が急激に向上する。中央部をクロップ拡大したものが下の写真である



上の写真の中央部を拡大したもの。細部まで緻密に描写している。比較のために開放での写真もこちらに提示する。開放ではここまで緻密にはならないが、滲みなどなくキッチリと写る
















2015/10/09

更新のお知らせ「トロニエの魔鏡1」

トロニエの魔鏡1 銘玉の源流
マイナーチェンジですがパート1の方も作例を追加し一部文章を書き換え更新しました。Retina-XenonをSony A7で使用して撮った写真を収録しています。レンズは戦前の製品個体ですが薄いコーティングがついていました。blogの方はこちらです。最近、トロニエの50歳の頃の写真と60歳の頃の写真を入手しました。左の写真は晩年のトロニエを描いた想像図です。

2015/10/05

更新のお知らせ「トロニエの魔鏡2」

トロニエの魔鏡2 不遇の最速レンズ
状態の良いLeitz Xenon 5cm F1.5をリーズナブルな価格で手にいれるのに4年の歳月を費やしてしまいましたが、先日とうとう入手に成功しました。やっとのことでしたが、まぁその間にSONY A7シリーズが発売されるなど、このレンズをフルサイズセンサーで使用できる環境が整ったので、悪いことばかりではなかったと思います。それにしても、Leitz Xenonは品のある開放描写で想像以上に素晴らしいレンズでした。レンズの作例を加え、blogの内容を全体的にブラッシュアップしました。こちらです。

2015/09/27

Camera Shop Guide 1: FLASHBACK CAMERA & VINTAGE



プロショップガイド part 1
FLASHBACK CAMERA and VINTAGE
気ままにオールドレンズ専門店を巡る旅です。今回は千葉県の流山に2015年5月にオープンしたFLASHBACK CAMERA and VINTAGE(フラッシュバックカメラ & ビンテージ)を訪れました。お店のホームページがこちらにあります。

http://flashbackcamera.jp

まるでお洒落なカフェのような店構えで、棚には様々な収集品が並んでいます。レンズは奥のブースの棚で、表からは見えない位置にありました。なるほど、紛れもなくオールドレンズ専門店です。しかも、置いてある商品は選りすぐりのものばかり。ブースの向かい側はオフィスとなっており、店内がバリアフリーでつながっています。明るい雰囲気の中、スタッフの方々に気軽に相談ができる店です。
お店に到着。新しいマンションの1階に店舗がああります。店の表札を確認するまで、ここがカメラ屋だとは到底思えませんでした





店に入りますが、カメラやレンズなんて何処にも見当たりません。お洒落なカフェそのものです。商売っ気むき出しの普通のカメラ屋さんとは一味も二味も異なる空間プロデュースです











リラックスできるソファスペースもあります。私が訪れたときは、アルゼンチンからのお客さん(アーティスト)が2名訪れていました

オフィスとお店がバリアフリーでつながっており、男性の店長さんと女性のスタッフ数名が働いています。オールドレンズを猛勉強中という若い店員さんもいました
いったい商品はどこにあるのかと振り返ると、ちゃんとありました。外からは見えない区画です。棚の中には厳選されたレンズが綺麗に飾られています
お店には写真家、マニア、コレクターも集まります。楽しく談笑できるスペースがありますので、写真やカメラに関する談議や情報交換で盛り上がる事もしばしばあるみたいです。この日に店を初めて訪れたというお二人ですが、ライカなどカメラにお詳しく、話題についてゆくのがやっとでした(日汗)。「いま、代官山と流山が熱い」などとおっしゃっていましたが、この意味が分かる方は是非ともFlashback Cameraを訪問してみてください。きっとフラッシュバックすること間違いないでしょう。ちなみに、うちの娘は奥のキッズスペースで他の子供たちと楽しく遊んでいます。このあと帰りたくないと駄々をこねるのでした
将来はオールドレンズだけでなくアンティーク収集品も販売したいそうです。お客さんとスタッフの皆さんの距離が近く、力まずに入れるアットホームなお店でした。こうした雰囲気とは対照的に商品の展開はマニア層からウルトラマニア層までをカバーできる充実したものになっており、量よりも質を重視しているという印象をうけました。ライカマウントのレンズはけっこう揃っています。パンカラーやビオメタールなど中古市場にゴロゴロ出回っているレンズはあまり置いていません。カメラ女子も気軽に入れる、とても明るい雰囲気のお店です。スタッフの皆様、ありがとうございました。
 
交通
最寄駅はつくばエキスプレス線と東部野田線の「おおたかの森」で、東京・秋葉原からつくばエキスプレス(快速)に乗ると25分で着きます。駅の北口改札を出て5分程歩いた場所にお店があります。日曜は定休日とのことですのでご注意を。



店内の撮影機材
Carl Zeiss Jena Flektogon 20mm F4
Sony A7
Copyright(C) M42 SPIRAL
お店やお客さんの写真は承諾を得たもを掲載しています。転用はご遠慮ください

続カメラショップガイド part2はFoto:Mutoriです

2015/09/25

Schneider Kreuznach Curatgon 35mm F2.8 (M42/ Exakta)* Rev.2










初期のレトロフォーカス型広角レンズはテッサーやトリプレットなど既存のレンズ構成の前方に大きな凹メニスカスを据える単純な設計形態であったが、収差が多く、特にコマフレアの抑制に大きな課題を抱えていた。これを改善させる方法がニコンの脇本善司氏によるNIKKOR-H Auto 2.8cm F3.5(1960年登場)の開発時に発見され、後群のレンズ配置を正正負正から正負正正に入れ替えるだけで劇的な改善がみられることが明らかになった[文献1]。この発見による波及効果は大きく、1960年代中期になると各社一斉にこの配置を導入しシャープネスやコントラストを向上させた第2世代のレトロフォーカス型レンズを発売している[文献2]。今回取り上げるSchneider(シュナイダー) 社のCurtagon(クルタゴン) 35mmにも前期モデルと後期モデルの構成の違いに第2世代への変遷がみられる。

コントラストとヌケの良さを向上させた
シュナイダー社の第2世代レトロフォーカス型レンズ
Curtagon (2nd version) 35mm F2.8
Curtagonは旧西ドイツのSchneider社が1950年代後期から市場投入した一眼レフカメラ用のレトロフォーカス型広角レンズである。同社の広角レンズとしてはライカのレンジファインダー機にOEM供給されたLeitz Super-Angulon (スーパー・アンギュロン)やXenogon (クセノゴン)とXenagon (クセナゴン)が有名であるが、このCurtagonも性能には定評があり、特に今回紹介する焦点距離35mmのモデルは高級一眼レフカメラとして名高いPignons(ピニオン)社のAlpaflex(アルパフレックス)に採用された実績をもつ。スチル用のレトロフォーカス型レンズとしてはフランスのAngenieux(アンジェニュー)が第1世代を象徴するパイオニアでありコマフレアを纏う繊細な開放描写を特徴としているが、一方で今回取り上げるCurtagon(第2世代)は開放からスッキリとヌケの良い描写で、初代Curtagon(ゼブラ柄)と比べてもシャープネスやコントラストが明らかに向上している。
鏡胴は同じ35mm F2.8の他社製品より一回り小さいうえ重量は他社製品と同程度なので、手にするとズシリと重くギッシリ詰まっているという印象をうける。クルタゴンというブランド名の由来はラテン語のCURTO(短くする)とギリシャ語系接尾語のGON(角)の合成である。いかにも広角レンズらしい名称で響きも可愛らしい。
Curtagon 35mm F2.8の設計は上図に示すようなレトロフォーカス型と呼ばれるもので、光学系の最前部に大きな凹レンズを据えているのが特徴である。これによりバックフォーカスを延長させミラーの可動域を確保し、一眼レフカメラに適合できるようになっている。また凹レンズの後方には広い空気間隔が設けられているのも特徴で、この空気間隔には広角レンズで問題となる像の歪み(樽型歪曲)を軽減させる効果がある。上図のいちばん左は1950年代後期に発売された第一世代のゼブラ柄モデルでレンズ構成は5群5枚となっている[文献3]。中央はゼブラ柄のアルパフレックス用であるがレンズ構成は1枚多い5群6枚となっている[文献4]。アルパは高級カメラなので、このモデルのみ差別化がはかられたのであろう。上図の右は1965年のモデルチェンジから登場した第2世代の設計である[文献5]。レンズ構成は6群6枚へと変更され、これ以降はアルパ用であるかを問わず全てのモデルで共通の設計となっている。旧モデルとの大きな違いは後群の凹レンズの直ぐ後ろに正の凸レンズが一枚加わり、後側4枚の並びが正正負正から正負正正に変更された点である。この並び順はレトロフォーカス型レンズにおいてコマフレアを減少させる特効薬として導入された新配列であり、これ以降のレトロフォーカスレンズの多くがこれと同等の配列を採用している[文献1,2]。なお、これ以降の後継製品(Electric Cultagon等)およびレチナ用の設計構成については資料がないため詳細は不明である。
製品ラインナップ
Curtagonが登場したのは1950年代後期からで、35mmフォーマット用と中判フォーマット用の2種のモデルが存在している。35mmフォーマット用としてはエキザクタ, M42, コダック・レチナ(DKL), アルパフレックスなど少なくとも4種類のカメラに対応しており、28mm F4, 35mm F2.8, 35mm F4の3種類のバージョンがモデルチェンジを繰り返しながら1980年代前半まで生産されていた。また、シフト機構を備えたPA(PC)-Curtagon 35mm F4も1960年代後期から追加投入され、ライカR、アルパフレックス、コンタレックス、M42など少なくとも4種類のカメラに対応している。一方、中判カメラ用としてはCurtagon 60mm F3.5があり、Exakta 66用とRolleiflex6000シリーズ用が1980年代から2000年頃まで生産された。
初期のモデルはコダック・レチナ用を除き全モデルがゼブラ柄のデザインで1950年代後期に登場、1965年頃まで市場供給されていた。1965年になると一斉にモデルチェンジがおこなわれ、デザインと設計が一新、レチナを除く全モデルが今回のブログエントリーで取り上げる新しいデザインへと変更されている。カラーバリエーションはブラックとブラウン/真鍮ゴールドの2種類が用意された。またシフト機構を持つPA Curtagon 35mm F4が新製品としてラインナップに加わり、少なくともライカR, コンタレックス, アルパフレックスに対応していた。レンズ名の前方につく"PA"とはPerspective  Adjustment (パースペクティブ調整)の意味である[文献5]。1970年になると鏡胴のデザインが若干見直され、ヘリコイドリングが従来の窄んだ形状からストレートな形状に変更されている。おそらく窄んだ形状は加工が難しく製造コストがかかるためであろう。1972年になると再びモデルチェンジがおこなわれ、ブラックカラーのスッキリとした現代風のデザインでマウント部に電子接点をもつElectric CurtgonがM42マウントで登場、またPA-Curtagonの後継製品としてPC-Curtagon(Leica R用)も登場している。さらに1970年代後半にはブラックカラーでよりシンプルな鏡胴デザインとなったC-Curtagonが登場している。C-Curtagonは35mm判としての最後のモデルであり、1980年代前半まで生産されていた。
Curtagon(2ndバージョン): 重量(実測)210g,  絞り F2.8-F22, 最短撮影距離 30cm, フィルター径 49mm, 構成 6群6枚レトロフォーカス型(第2世代),  発売は1965年頃, 対応マウントはExakta/M42/Alpa (Retina DKL用は詳細不明)

参考文献
文献1 ニッコール千夜一夜物語 第12夜 Nikon-H 2.8cm F3.5 大下孝一
文献2 「写真レンズの基礎と発展」小倉敏布 朝日ソノラマ (P174に記載)
文献3 シュナイダー公式レンズカタログ: Schneider Edixa-Objective
文献4 アルパフレックス公式レンズカタログ
文献5 Australian Photography Nov. 1967, P28-P32

入手の経緯
ゴールドカラーのモデルは2010年3月にeBayを介してポーランドの大手中古カメラ業者から値切り交渉の末に総額160㌦で入手した。商品の状態に対するセラーの評価はMINT-(美品に近い状態)とのことであったが、届いた品はヘリコイドリングにガタがあり、内部のガラスにも描写には影響のないレベルであるがメンテ傷があった。返品しようか迷ったが、限定カラーのレアなレンズなので悩んだ末にキープすることにした。その後、ヘリコイドリングのガタはどうにか自分で修理できた。
ブラックカラーのモデルは2014年6月に都内のカメラ屋にてジャンク品として売られていたものを6000円で手に入れた。絞りが動かずガラスにはクモリがみられたが、分解して清掃したところクリアになった。分解したついでに光学系の構成を正しく把握することができた。絞りに関しては内部で制御棒が根元から折れていることが判明、別途入手した拡張ばねを取り付け自分で改善させた。絞りの開閉は快調である。
現在のeBayでの中古相場はExaktaマウントのモデルが200ドル弱、M42マウントのモデルでは300ドル程度である。
 
デジタル撮影
1950年代に製造された第1世代のレトロフォーカス型レンズはコマフレアが出やすくコントラストが低いうえ、逆光になると激しいゴーストやシャワーのようなハレーションに見舞われるのが特徴であった。それに比べ、本レンズは描写性能が格段に進歩し現代的になっている。開放からシャープでスッキリとヌケがよく、発色は鮮やかでコントラストも良好である。コマは少ないとは言えないが良く抑えられており、むしろ少しコマフレアを残しているためか後ボケが綺麗で柔らかいボケ味となっている。レトロフォーカス型レンズは前玉に据えた負の凹レンズの作用によりグルグルボケや放射ボケなどがあまり見られず、周辺光量落ちも少ないなど四隅の画質に安定感のあるものが多い。この点についてはCurtagonも同じであるが、一方で少し気になったのは階調がコンディションに左右されやすく不安定なところである。屋外での逆光撮影時にはこれが特に顕著で、黒潰れや白とびを起こしやすいなど露出制御のみではコントロールしきれないことがよくあった。中でも気になったのは緑の階調で、照度が高いとハイライト側の階調に粘りがなく黄色方向に白とびを起こしやすい。シュナイダーのレンズにはこの手の白とび(黄色とび)が時々みられる。この場合、デジカメの画像処理エンジンはシアンが不足していると判断し加色するため、全体に青味がかったような撮影結果になることがしばしばある。これを抑えるため露出を少しアンダーに引っ張ると、本レンズの場合、今度はシャドー部がストンと黒潰れを起こしてしまうのだ。このようにCurtagonは階調描写のコントロールが難しく、真夏日に用いるとうまい着地点を見つけるのが時々困難になる。逆に言えばこの不安定さがCurtagonらしいエネルギッシュな描写表現につながっているように思える。解像力はレトロフォーカス型レンズ相応である。
Photo 0, F2.8(開放), Sony A7(AWB): 

Photo 1, F5.6, Sony A7(AWB):


Photo 2, F8, Sony A7(AWB): 


Photo 3, F8, Sony A7(AWB)

Photo 4, F5.6, Sony A7(AWB): 

Photo 5, F5.6, Sony A7(AWB):

Photo 6, F2.8(開放), Sony A7(AWB): 
Photo 7, F8, Sony A7(AWB):
Photo 8, F11, Sony A7(AWB): 

Photo 9, F8, Sony A7(AWB): 

Photo 10, F2.8(開放), Sony A7(AWB): 





Photo 11, F2.8(開放),Sony A7


Photo 12, F5.6, Sony A7(AWB)

銀塩撮影
このレンズは後ろ玉が飛び出しているので一眼レフカメラで使用する場合には注意が必要だ。カメラの機種によっては遠方撮影時ミラーを跳ね上げる際に、後玉がミラーにぶつかる。MINOLTA X-700やPENTAX LXでは問題なく使用できた。
Photo 13, F2.8(銀塩Fujicolor S400) 



Photo 14, F4(銀塩Fujicolor S400) 
Photo 15, F4(銀塩Kodak GOLD100)