おしらせ


MAMIYA-TOMINONのページに写真家・橘ゆうさんからご提供いただいた素晴らしいお写真を掲載しました!
大変感謝しています。是非御覧ください。こちらです。

2015/10/19

AGFA Solagon 50mm F2 (L39 mount conberted from Karat IV)*

マニア達が口を揃えて言う
このレンズは隠れ名玉だと
AGFA Solagon 50mm F2
もともと評価の高いレンズではあったがバックフォーカスが短い上に交換レンズではないため、デジカメ時代に入り長らく日の目をみない地味な存在となっていた。しかし、ミラーレス・フルサイズ機のSony α7シリーズが登場したことにより状況は一変、このレンズにもようやく旬の時期が訪れている。ドイツのAGFA社がレンジファインダーカメラのKarat 36(1951年登場の後期モデル)と後継機Karat IV(1955年登場)に搭載したガウス型レンズのSolagon(ゾラゴン) 50mm F2である。Karat 36のレンズとしてはそれまでSchneider社からXenon(クセノン) 50mmF2、Rodenstock社からHeligon(ヘリゴン)50mmF2が供給されていたが、AGFA社はSolagonの開発を機に次期モデルからカメラを100%自社生産する体制に移行しようとしていた。レンズを設計したのは同社のTheodor Brendel(テオドア・ブレンデル)という設計士で、1950年にSolagon、1952年には戦前からあるテッサー型レンズSolinar( ゾリナー)の後継モデルを発表した[文献1,2]。Solagon付きのKarat 36は1951年の発売時にXenon付きやHeligon付きのモデルと同一価格で売り出されている。強気の価格設定であるが、現実的に考えて互角の性能ではブランド力の弱いAGFA社のレンズでXenonやHeligonに対抗できるわけがない。Brendelが掲げた目標は少なくとも先発の名レンズ達に実力で勝る優れた性能のレンズを開発することであったに違いない。追い詰められた人間にはとんでもない力を発揮する瞬間があることを私は知っている。隠れ名玉ゾラゴンはこうした逆境の中から生み出された実力派レンズなのである。

AGFA Solagon 50mm F2の構成図(文献[1]からのトレーススケッチ)。構成は4群6枚のダブルガウス型
AGFA社
AGFAと言えばカラーフィルムと現像液のパイオニアとして名高いドイツ発祥の化学薬品メーカーである[文献4]。Kodakが世界初のカラーポジフィルムを発売した翌年の1936年にはAGFAもポジフィルムのagfacolor neu(アグファカラー・ノイ)を発売している。この時に発色現像を1回で完結させることのできる画期的な現像処理法を実用化し、この技術が現在の世界標準となった。また、同じ年にネガフィルムからポジカラープリントを得る方式(ネガポジ法)を世界で初めて実用化した。AGFAが開発し1892年に発売した現像液のRodinal(ロジナール)は今も販売されている超ロングセラー商品である。
AGFAの創業は1867年で、ハイデルベルク大学を1863年に卒業した化学者のパウル・メンデルスゾーン・バルトルディ(Paul Mendelssohn Bartholdy)とイングランドに染料工場を設立した実業家のカール・アレクサンダー・フォン・マルティウス(Carl Friedrich Philipp von Martius)がベルリン近郊のルンメルスブルク湖のほとりに工場を建設しアニリンの生産に乗り出したのがはじまりである。創業者パウルの父はドイツ・ロマン派を代表する有名な作曲家フェリックス・メンデルスゾーンである。「ヴァイオリン協奏曲」「無言歌」「結婚行進曲」などはメンデルスゾーンの名を知らずとも誰しもが耳にしたことのある名曲である。工場を設立したパウルとカールは1873年に会社名をアニリン製造株式会社(Aktien-Gesellschaft für Anilin-Fabrikation)へと変更するが、この頭文字をとり1898年からはAGFAを正式名称とした。なお、パウルは1880年にベルリンで心筋梗塞に倒れ死去、会社の経営は甥のフランツ・オッペンハイムが引き継いでいる。その後、1891年に同社が開発した現像液のロジナールがヒットし会社は事業規模を急速に拡大させてゆく。1925年にはカメラメーカーのRietzschel(リーチェル:1896年にミュンヘンで創業)を吸収合併することでカメラ部門を設立、1926年にはテッサー型レンズのSolinar(ゾリナー) 105mm F4.5が付いたNinon(ニノン)というフォールディングカメラを発売しカメラの生産にも乗り出している。戦後まで続くフォールディングカメラのKaratシリーズが発売されたのは1936年で、同社がフィルム現像技術の発展に大きく貢献し世界的なフィルムメーカーになるための足跡を残したのもこの年である。なお戦前のKaratシリーズに搭載されたレンズはテッサー型のSolinar 5cm F3.5とOppar(オッパール) 5.5cm F4.5、トリプレット型のIgestar(イゲスタール) 5cm F6.3である[文献3]。
会社は1925年の大合併により巨大企業IG・ファルベンインドゥストリーの一部となるが、戦後の1951年に財閥として解体され、1952年からはバイエル染料会社の傘下でAGFA写真工業会社およびAGFAカメラ会社として再スタートしている。1964年にベルギーの印画紙メーカーGevaert(ゲバルト)社と事業統合するものの1983年にカメラ事業からは撤退、現在はベルギーのモンツェルに本社を置き印刷機材、医療機器、マイクロフィルム、ポリエステルなどを主力製品としている。2011年時点での従業員数は13000人である[文献5]。

参考文献
[1]  Theodor Brendel, Pat. DE833419 C (1950年申請, 1952年公開)
[2]  Theodor Brendel, Pat. US2784642 (1952年申請, 1957年公開)
[3]  早川通信:よく写る「アグファのカメラ」紹介(1996年秋・伊勢丹)
[4]  AGFA社公式ページ
[5] 日本アグファ・ゲバルト株式会社:沿革・歴史
重量(実測/ヘリコイド含まず) 180g, フィルター径 29.5mm, 絞り羽 10枚構成, 絞り F2-F16, イメージフォーマット 35mm判, 構成 4群6枚(ガウス型), 本品はL39マウントに改造されている。レンズ名はラテン語で「太陽」を表すSolとギリシャ語で「角」を意味するgonの合成
入手の経緯
このレンズは2015年1月にヤフオクを介しrakuringjpさんからライカLマウントとして距離計非連動で使用できる改造レンズとの説明で購入した。購入価格は29800円(即決価格)である。レンズヘッドの部分がM42に変換されておりM42→L39ヘリコイドに搭載されていた。また、レンズヘッドとヘリコイドの間には薄いスペーサーが何枚か入っており、無限遠調整されていた。商品の解説は「目立つキズ、クモリ、カビ、バルサム切れはない。強い光に透かすとホコリと気泡がある。描写には影響のないレベル。絞りに汚れあり」とのこと。レンズにはマウントアダプターが付属していたが出品者に不要であることを伝え1000円値引きしてもらった。
 
撮影テスト
インターネット上に出ている世評ではシャープで色鮮かなうえ解像力が高く、コマ収差がよく補正されており、フレアが少ないスッキリとヌケの良い描写のレンズということなので、現行レンズ的な性能を想像していた。しかし、使ってみたところ少し違い、良い意味で裏切られた。シャープで色のリは良好なレンズだが、やや温調気味にコケる傾向があり、いい味が出る。このあたりは私好みなのでとても満足のゆく描写傾向である。確かにコマはよく補正されており開放でもフレアや滲みとは無縁のシャープでスッキリとした描写ではあるが、絞っても階調はなだらかで中間階調は豊富に出ている。光の微妙な強弱を丁寧に拾うことができるトーンの美しいレンズである。解像力は開放から実用レベルだが1~2段絞ったあたりが素晴らしく、細部まで緻密に描き切る描写力がある。周辺画質も安定しておりグルグルボケはポートレート域を撮ると背後に僅かに出る程度。開放から安定感があり、トーン描写が美しく、味わい深い発色を楽しむことができる優れたオールドレンズである。
F4, Sony A7(AWB):  さっそくスバラシイ階調描写にビックリ仰天した
F4, Sony A7(AWB): 一段絞れば解像力は良好で細部まで緻密に表現できる

F2(開放), Sony A7(AWB):  開放ではやや解像力が落ちるもののフレアの兆候はなく階調は安定している。絞りに対する画質の変化が少ないので中間絞りにおける球面収差の膨らみが小さいのであろう






F2(開放), Sony A7(AWB): グルグルボケは出てもせいぜいこのくらい。パリコレ気取りだ

F4,Sony A7(AWB): シャドー部に向かって中間階調の変化がなだらかに出ている
F4, sony A7(AWB): 解像力のテスト画像。このレンズは半段から一段絞るあたりで解像力が急激に向上する。中央部をクロップ拡大したものが下の写真である



上の写真の中央部を拡大したもの。細部まで緻密に描写している。比較のために開放での写真もこちらに提示する。開放ではここまで緻密にはならないが、滲みなどなくキッチリと写る
















4 件のコメント:

  1. こんばんは。
    初めて使ったAgfaのレンズはIsoletteについているSolinar 75mm F3.5。
    最初の印象が温調な発色。(少し黄色っぽい)
    その後karatのApotar、Solinarを使ってもやっぱり温調。
    撮影条件が違う中で、オールドレンズに色調のことを言わないようにしていますが、このAgfaのレンズたちだけは特別です。

    このSolagon、karatやKodak Retinaのクセノン、ヘリゴンと比べると、四隅まで平均的にしっかりした描写をするようです。

    返信削除
  2. lense5151さん

    コメントありがとうございました。色に関しては、難しい判断がありますが、
    黄色っぽい結果が多いと思います。浅草の早田さんの作例(フィルム)でも
    黄色っぽく温調にうつっていました。

    このレンズはかなり気に入りました。でも、いつものごとく放出しました。

    返信削除
    返信
    1. >浅草の早田さんの作例(フィルム)でも

      確かに。以前から拝見しています。
      古いレンズに関しては発色の傾向を言いたくないのですが、アグファに関してはついつい.....。

      削除
    2. はい。存じ上げております。
      いつの間にかなくなっていました。(笑)

      削除

匿名での投稿は現在受け付けておりませんので、ハンドルネーム等でお願いします。また、ご質問を投稿する際には回答者に必ずお返事を返すよう、マナーの順守をお願いいたします。