おしらせ


2015/09/25

Schneider Kreuznach Curatgon 35mm F2.8 (M42/ Exakta)* Rev.2










初期のレトロフォーカス型広角レンズはテッサーやトリプレットなど既存のレンズ構成の前方に大きな凹メニスカスを据える単純な設計形態であったが、収差が多く、特にコマフレアの抑制に大きな課題を抱えていた。これを改善させる方法がニコンの脇本善司氏によるNIKKOR-H Auto 2.8cm F3.5(1960年登場)の開発時に発見され、後群のレンズ配置を正正負正から正負正正に入れ替えるだけで劇的な改善がみられることが明らかになった[文献1]。この発見による波及効果は大きく、1960年代中期になると各社一斉にこの配置を導入しシャープネスやコントラストを向上させた第2世代のレトロフォーカス型レンズを発売している[文献2]。今回取り上げるSchneider(シュナイダー) 社のCurtagon(クルタゴン) 35mmにも前期モデルと後期モデルの構成の違いに第2世代への変遷がみられる。

コントラストとヌケの良さを向上させた
シュナイダー社の第2世代レトロフォーカス型レンズ
Curtagon (2nd version) 35mm F2.8
Curtagonは旧西ドイツのSchneider社が1950年代後期から市場投入した一眼レフカメラ用のレトロフォーカス型広角レンズである。同社の広角レンズとしてはライカのレンジファインダー機にOEM供給されたLeitz Super-Angulon (スーパー・アンギュロン)やXenogon (クセノゴン)とXenagon (クセナゴン)が有名であるが、このCurtagonも性能には定評があり、特に今回紹介する焦点距離35mmのモデルは高級一眼レフカメラとして名高いPignons(ピニオン)社のAlpaflex(アルパフレックス)に採用された実績をもつ。スチル用のレトロフォーカス型レンズとしてはフランスのAngenieux(アンジェニュー)が第1世代を象徴するパイオニアでありコマフレアを纏う繊細な開放描写を特徴としているが、一方で今回取り上げるCurtagon(第2世代)は開放からスッキリとヌケの良い描写で、初代Curtagon(ゼブラ柄)と比べてもシャープネスやコントラストが明らかに向上している。
鏡胴は同じ35mm F2.8の他社製品より一回り小さいうえ重量は他社製品と同程度なので、手にするとズシリと重くギッシリ詰まっているという印象をうける。クルタゴンというブランド名の由来はラテン語のCURTO(短くする)とギリシャ語系接尾語のGON(角)の合成である。いかにも広角レンズらしい名称で響きも可愛らしい。
Curtagon 35mm F2.8の設計は上図に示すようなレトロフォーカス型と呼ばれるもので、光学系の最前部に大きな凹レンズを据えているのが特徴である。これによりバックフォーカスを延長させミラーの可動域を確保し、一眼レフカメラに適合できるようになっている。また凹レンズの後方には広い空気間隔が設けられているのも特徴で、この空気間隔には広角レンズで問題となる像の歪み(樽型歪曲)を軽減させる効果がある。上図のいちばん左は1950年代後期に発売された第一世代のゼブラ柄モデルでレンズ構成は5群5枚となっている[文献3]。中央はゼブラ柄のアルパフレックス用であるがレンズ構成は1枚多い5群6枚となっている[文献4]。アルパは高級カメラなので、このモデルのみ差別化がはかられたのであろう。上図の右は1965年のモデルチェンジから登場した第2世代の設計である[文献5]。レンズ構成は6群6枚へと変更され、これ以降はアルパ用であるかを問わず全てのモデルで共通の設計となっている。旧モデルとの大きな違いは後群の凹レンズの直ぐ後ろに正の凸レンズが一枚加わり、後側4枚の並びが正正負正から正負正正に変更された点である。この並び順はレトロフォーカス型レンズにおいてコマフレアを減少させる特効薬として導入された新配列であり、これ以降のレトロフォーカスレンズの多くがこれと同等の配列を採用している[文献1,2]。なお、これ以降の後継製品(Electric Cultagon等)およびレチナ用の設計構成については資料がないため詳細は不明である。
製品ラインナップ
Curtagonが登場したのは1950年代後期からで、35mmフォーマット用と中判フォーマット用の2種のモデルが存在している。35mmフォーマット用としてはエキザクタ, M42, コダック・レチナ(DKL), アルパフレックスなど少なくとも4種類のカメラに対応しており、28mm F4, 35mm F2.8, 35mm F4の3種類のバージョンがモデルチェンジを繰り返しながら1980年代前半まで生産されていた。また、シフト機構を備えたPA(PC)-Curtagon 35mm F4も1960年代後期から追加投入され、ライカR、アルパフレックス、コンタレックス、M42など少なくとも4種類のカメラに対応している。一方、中判カメラ用としてはCurtagon 60mm F3.5があり、Exakta 66用とRolleiflex6000シリーズ用が1980年代から2000年頃まで生産された。
初期のモデルはコダック・レチナ用を除き全モデルがゼブラ柄のデザインで1950年代後期に登場、1965年頃まで市場供給されていた。1965年になると一斉にモデルチェンジがおこなわれ、デザインと設計が一新、レチナを除く全モデルが今回のブログエントリーで取り上げる新しいデザインへと変更されている。カラーバリエーションはブラックとブラウン/真鍮ゴールドの2種類が用意された。またシフト機構を持つPA Curtagon 35mm F4が新製品としてラインナップに加わり、少なくともライカR, コンタレックス, アルパフレックスに対応していた。レンズ名の前方につく"PA"とはPerspective  Adjustment (パースペクティブ調整)の意味である[文献5]。1970年になると鏡胴のデザインが若干見直され、ヘリコイドリングが従来の窄んだ形状からストレートな形状に変更されている。おそらく窄んだ形状は加工が難しく製造コストがかかるためであろう。1972年になると再びモデルチェンジがおこなわれ、ブラックカラーのスッキリとした現代風のデザインでマウント部に電子接点をもつElectric CurtgonがM42マウントで登場、またPA-Curtagonの後継製品としてPC-Curtagon(Leica R用)も登場している。さらに1970年代後半にはブラックカラーでよりシンプルな鏡胴デザインとなったC-Curtagonが登場している。C-Curtagonは35mm判としての最後のモデルであり、1980年代前半まで生産されていた。
Curtagon(2ndバージョン): 重量(実測)210g,  絞り F2.8-F22, 最短撮影距離 30cm, フィルター径 49mm, 構成 6群6枚レトロフォーカス型(第2世代),  発売は1965年頃, 対応マウントはExakta/M42/Alpa (Retina DKL用は詳細不明)

参考文献
文献1 ニッコール千夜一夜物語 第12夜 Nikon-H 2.8cm F3.5 大下孝一
文献2 「写真レンズの基礎と発展」小倉敏布 朝日ソノラマ (P174に記載)
文献3 シュナイダー公式レンズカタログ: Schneider Edixa-Objective
文献4 アルパフレックス公式レンズカタログ
文献5 Australian Photography Nov. 1967, P28-P32

入手の経緯
ゴールドカラーのモデルは2010年3月にeBayを介してポーランドの大手中古カメラ業者から値切り交渉の末に総額160㌦で入手した。商品の状態に対するセラーの評価はMINT-(美品に近い状態)とのことであったが、届いた品はヘリコイドリングにガタがあり、内部のガラスにも描写には影響のないレベルであるがメンテ傷があった。返品しようか迷ったが、限定カラーのレアなレンズなので悩んだ末にキープすることにした。その後、ヘリコイドリングのガタはどうにか自分で修理できた。
ブラックカラーのモデルは2014年6月に都内のカメラ屋にてジャンク品として売られていたものを6000円で手に入れた。絞りが動かずガラスにはクモリがみられたが、分解して清掃したところクリアになった。分解したついでに光学系の構成を正しく把握することができた。絞りに関しては内部で制御棒が根元から折れていることが判明、別途入手した拡張ばねを取り付け自分で改善させた。絞りの開閉は快調である。
現在のeBayでの中古相場はExaktaマウントのモデルが200ドル弱、M42マウントのモデルでは300ドル程度である。
 
デジタル撮影
1950年代に製造された第1世代のレトロフォーカス型レンズはコマフレアが出やすくコントラストが低いうえ、逆光になると激しいゴーストやシャワーのようなハレーションに見舞われるのが特徴であった。それに比べ、本レンズは描写性能が格段に進歩し現代的になっている。開放からシャープでスッキリとヌケがよく、発色は鮮やかでコントラストも良好である。コマは少ないとは言えないが良く抑えられており、むしろ少しコマフレアを残しているためか後ボケが綺麗で柔らかいボケ味となっている。レトロフォーカス型レンズは前玉に据えた負の凹レンズの作用によりグルグルボケや放射ボケなどがあまり見られず、周辺光量落ちも少ないなど四隅の画質に安定感のあるものが多い。この点についてはCurtagonも同じであるが、一方で少し気になったのは階調がコンディションに左右されやすく不安定なところである。屋外での逆光撮影時にはこれが特に顕著で、黒潰れや白とびを起こしやすいなど露出制御のみではコントロールしきれないことがよくあった。中でも気になったのは緑の階調で、照度が高いとハイライト側の階調に粘りがなく黄色方向に白とびを起こしやすい。シュナイダーのレンズにはこの手の白とび(黄色とび)が時々みられる。この場合、デジカメの画像処理エンジンはシアンが不足していると判断し加色するため、全体に青味がかったような撮影結果になることがしばしばある。これを抑えるため露出を少しアンダーに引っ張ると、本レンズの場合、今度はシャドー部がストンと黒潰れを起こしてしまうのだ。このようにCurtagonは階調描写のコントロールが難しく、真夏日に用いるとうまい着地点を見つけるのが時々困難になる。逆に言えばこの不安定さがCurtagonらしいエネルギッシュな描写表現につながっているように思える。解像力はレトロフォーカス型レンズ相応である。
Photo 0, F2.8(開放), Sony A7(AWB): 

Photo 1, F5.6, Sony A7(AWB):


Photo 2, F8, Sony A7(AWB): 


Photo 3, F8, Sony A7(AWB)

Photo 4, F5.6, Sony A7(AWB): 

Photo 5, F5.6, Sony A7(AWB):

Photo 6, F2.8(開放), Sony A7(AWB): 
Photo 7, F8, Sony A7(AWB):
Photo 8, F11, Sony A7(AWB): 

Photo 9, F8, Sony A7(AWB): 

Photo 10, F2.8(開放), Sony A7(AWB): 





Photo 11, F2.8(開放),Sony A7


Photo 12, F5.6, Sony A7(AWB)

銀塩撮影
このレンズは後ろ玉が飛び出しているので一眼レフカメラで使用する場合には注意が必要だ。カメラの機種によっては遠方撮影時ミラーを跳ね上げる際に、後玉がミラーにぶつかる。MINOLTA X-700やPENTAX LXでは問題なく使用できた。
Photo 13, F2.8(銀塩Fujicolor S400) 



Photo 14, F4(銀塩Fujicolor S400) 
Photo 15, F4(銀塩Kodak GOLD100)



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