おしらせ


MAMIYA-TOMINONのページに写真家・橘ゆうさんからご提供いただいた素晴らしいお写真を掲載しました!
大変感謝しています。是非御覧ください。こちらです。

2015/03/24

【続】Schneider Kreuznach Xenotar 80mm F2.8 撮影テスト第2弾(中判6x6フォーマット編)

Xenotarは開放からシャープでヌケが良く、四隅まで解像力があり、背後のボケにユラユラとした不思議な特徴のでるレンズである。リンホフやローライフレックスなど一部の高級カメラにのみ供給されていた経緯もあり、マニア層を中心に熱狂的な愛好者がいることでも知られている
清涼感のある上品な写りが魅力の高性能レンズ
Schneider Kreuznach XENOTAR(クセノタール)80cm F2.8
Lens Test by Medium format CAMERA
3年前に書いたXenotarのブログ記事ではレンズの撮影テストに35mmフォーマットのデジタルカメラと銀塩カメラを用いたが、今回はいよいよ中判カメラによる撮影テストである。このレンズは推奨イメージフォーマットが中判フィルム(6x6フォーマット)に指定されており、規格どうり用いると35mm版換算で焦点距離43mm相当の標準レンズとなる。また、口径比F2.8は画質的に無理がなく、35mm換算でF1.5相当の大きなボケ量が得られるなど表現力も充分である。中判カメラで用いればレンズの潜在力を存分に引き出すことができるであろう。
 
Compur #1マウント, 重量(実測)184g,  S/N: 115*****(1970年に製造された157ロットの中の1本), フィルター径 49mm, 絞り羽 19枚, 絞り値 F2.8-F22(手動絞り機構), 構成は4群5枚のクセノタール型。このレンズはシャッターを内蔵していない仕様のため、おそらくフォーカルブレーンシャッターを持つフォールディングカメラ(Speed Graphic等)に搭載され使用されていたのであろう

今回、レンズをはじめて中判カメラで用いたところ、自分の知っているシュナイダーらしい色味がこのXENOTARでも顕著にみられるようになった。それは、ほんのりと青味がのり上品で清涼感のあるクールトーンなまとまり方をする描写のことである。この描写傾向はシュナイダー製レンズではクセノンの戦後型にもよく見られる。上手く使いこなせば見慣れた日常のワンシーンを良く晴れた日の清々しい朝の風景に変えてくれるに違いない。階調描写は中判カメラで用いる方がなだらかで軟らかく、35mm版カメラで用いる方が鋭くシャープな写りであった。では、写真作例を見てみよう。
  
撮影機材
CAMERA: BRONICA S2(中判6X6フォーマット)
FILM(ブローニー判・銀塩カラーネガ): FUJIFILM PRO160NS / KODAK PORTRA 400
露出計: SEKONIC Studio Delux L-398
クセノタールのフランジバックはブロニカ本体の規格より短いため無限遠のフォーカスを拾うことはできず、撮影は近接域のみとなる。無限遠のフォーカスを拾うにはレンズをカメラ本体の内部に沈胴させるかテレコンを使うなどの工夫が必要である。沈胴させる場合は鏡胴の細い前期型のみ可能で、鏡胴の太い後期型ではブロニカのマウント開口部に収まらない。
F5.6, 銀塩撮影( Fujifilm Pro160NS, 6x6)+Bronica S2:マクロ域にもかかわらず解像力は良好で四隅まで安定感のある写りである。階調はなだらかに推移しており暗部には締りがある



F5.6, 銀塩撮影(Fujifilm Pro160NS, 6x6)+Bronica S2:全体的にほんのりと青味がのり美しい仕上がりになっている。このネガフィルムは本来はノーマルな発色で知られているものの、クールな仕上がりとなった




F2.8(開放), 銀塩撮影( Fujifilm Pro160NS, 6x6) +Bronica S2:開放で近接域にも関わらず、収差的に安定しており、滲みの付け入る隙がない




F8, 銀塩撮影( Kodak Portra 400, 6x6)+Bronica S2:近接域に限定した撮影では一般に収差変動の結果からボケ味はどの作例でも柔らかくなる。Xenotar本来のボケ味を見るにはポートレート域で撮影しなければならないが、今回はその願いはかなわなかった。ポートレート域ではもう少しザワザワするものと思われる




35mm版カメラでの作例
2年前に撮影した35mm版カメラによる撮影結果も参考までに少しだけ示しておこう。1枚目が銀塩カラーネガによる作例、2枚目がデジタルカメラによる作例である。
F5.6 Black model,銀塩撮影(Fujicolor Superior 200, pentax MX) : やはり35mm判カメラでは、より鋭くシャープな写りになる印象をうける
F4, Compurシャッター搭載モデル, Nikon D3 digital, AWB: 一段絞るだけで衣類の質感やホコリなどが細部までしっかりと解像されている

2015/03/13

Handsome Optical engineer 紙上アンケート:決定!ハンサム設計士ランキング

美しい世界の光学エンジニアたち!
今年も恒例の紙上アンケートを実施する時期になりました。テーマは「ハンサムなイケメン設計士」です。今も昔もその地味な存在のため、ほとんど認知されることのなかった光学エンジニア達ですが、中には絶世の容姿をもつとんでもないイケメンがいるとの情報を各方面からいただきました。そこで、あらかじめノミネートしたハンサムな男性エンジニア10人の中からアンケート方式で決選投票をおこない、ハンサムのなかのハンサムを決めるという何の役にも立たない投票企画を実行することにしました。エンジニア達の容姿にスポットライトをあて、カメラやレンズに対する認識を更に深めてみたいと思います。本当に深まるのか?

なお、回答者が男性であるか女性であるかは集計結果に大きな相違を生じさせる可能性があります。これはハンサムな男性に対する女性側の価値観と男性側の価値観が一致する保障がないためでです。

そこで、今回は回答者を性別ごとにわけアンケートを実施することにしました。それぞれの集計を独立に行うことで、男女間の趣味嗜好の差異についての理解にも迫りたいのです。本ブログの訪問者は男性で、しかもマニア層が多いので、本来ならばその特殊性を考慮しなければならないのですが、回答者がマニアであるか否による美意識や価値観、ハンサムな男に対する反応度の差異までは考慮しません。

ハンサムな光学エンジニアを発掘する

エントリーNo.1 ハリー・ツェルナー(H. Zöllner) 1912-2007
参考:Marco Cavina's Home Page, where the photo is supplied by Larry Gubas
ドイツ人。カールツァイスのレンズ設計士。ビオメタールやフレクトゴン 2.8/35,  パンコラー 1.8/50などを設計した。新種ガラスを導入しテッサーF2.8の性能を大幅に向上させたのも彼の著しい功績です
 
エントリーNo.2 ハインツ・キュッペンベンダー(H. Kueppenbender) 1901-1989
参考:Zeiss Historica, Zeiss Historical Soc.
ドイツ人。ツァイス・イコン社のカメラ設計士。オーバーコッヘンに移ってからコンタックス開発のプロジェクトのリーダーとしてカール・ツァイスの再建に尽力、西ドイツのツァイスの社長も務めた。ゾクッとする甘いマスクに釘付けか!?
 
エントリーNo.3 エルハルト・グラッツエル(E. Glatzel) 1925-2002
参考:Arndt Müller, Legendäre Objektive und ihre Konstrukteure / Dr. Glatzel und das Zeiss Planar 50mm/f0.7, Samstag, 6. August 2011
ドイツ人。カール・ツァイスのレンズ設計者。コンピュータを用いたレンズの自動設計方法(グラッツェル法)を確立し、レンズ設計の可能性の新たな境地を築いた。ホロゴン、ディスタゴン、カラーウルトロンなどを設計した。笑顔が素敵
 
エントリーNo.4 アルベルト・ウィルヘルム・トロニエ(A.W. Tronnier) 1902-1982
参考:Frank Mechelhoff's Home page: Rollei Rolleiflex 350
戦前はシュナイダーでクセノン、クセナー、アンギュロンを設計。戦後はフォクトレンダーに移籍しノクトン、ウルトロン、ウロトラゴン、カラーへリアー、カラースコパー、テロマーなど数々の名玉を残した謎の多いレンズ設計士。カラーウルトロンや凹ウルトロンの開発時はツァイスに協力もした。ダブルガウス型レンズを実用域まで高め、現代の明るいレンズの基礎を築いた人物。天才設計者の象徴的存在
 
エントリーNo.5 トーマス・ダルマイヤー(T. Dallmeyer) 1859-1906
参考: Wikipedia: Thomas Rudolphus Dallmeyer
ドイツ系英国人で老舗レンズメーカーDallmeyer社の創始者ジョン・ダルマイヤーの長男(あと継ぎ)。立派なお髭です。パパのお髭も立派です
 
エントリーNo.6 フーゴ・マイヤー(H. Meyer) 1863-1905
参考: Wikipedia: Meyer-Optik
ドイツ人。マイヤー光学(フーゴ・マイヤー)社の創始者。レンズとしては、アリストスティグマートを開発しヒットさせるが42歳の若さで世を去る。ジャニーズ系の容姿です
 
エントリーNo.7 シャルル・ルイ・シュバリエ(C.Chevalier ) 1804-1859
参考: Wellcome Images
フランス人。光学機器商のシュバリエ商会を運営し、レンズの製作にも取り組んだ。19世紀にフランスで絶頂期を迎えたフランスの光学機器産業を語る際には必ず登場する人物。名前がステキ
 
エントリーNo.8 ウィリー・ウォルター・メルテ(W.W. Merte) 1889-1948
参考: Rudolf Kingslake, A History of the Photographic Lens, Academic Press 1989
ドイツ人。カールツァイスのレンズ設計士。ビオター, ビオテッサー , テレテッサー,オルソメタールなどを開発。バンデルスレプとともにテッサーの高速化にも貢献した。眼が生き生きしてる
 
エントリーNo.9 ピエール・アンジェニュー(P.Angenieux) 1907-1998
参考: 「アンジェニューの歴史1907-1950」 nac image technology web site
フランス人。ズームレンズやレトロフォーカスレンズの開拓者として知られている。フランス映画界とも深いつながりのあった人物
 
エントリーNo.10 オスカー・バルナック(O.Barnack) 1879-1936
参考: Wikipedia:オスカー・バルナック
ドイツ人。いわずと知れたライカの生みの親。カリスマ性は抜群です

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では投票に移りたいと思います。

あなたがハンサムだと感じる光学エンジニアを選択肢から最大3名まで選び投票して下さい。1~2名でもかまいません。

Please choose, in the following sheet, camera/lens designers you feel handsome up to a maximum of 3 people.   Note that the left side sheet is for women and the right side is for men.


結果発表
約半年間の投票で45名(男性35名・女性10名)の方から投票をいただきました。ありがとうございました。予想していたことですが男性と女性では結果が異なるようです。投票結果の集計は以下の通りです。

男女を問わずハンサムであると評価された光学エンジニア

 トロニエ(男女計20票)、マイヤー(男女計20票)

男性からのみハンサムであるという支持を得た光学エンジニア

 T.ダルマイーアー(35%の男性がハンサムであると回答、女性は14%)

 アンジェニュー(26%の男性が支持、女性は12%)

特に女性からのみハンサムであるという支持を得た光学エンジニア

 バルナック(46%の女性がハンサムでると回答、男性は12%)

 ツェルナー(42%の女性がハンサムであると回答、男性は9%)
 
とても面白い結果です。



2015/02/24

Meyer-Optik Görlitz Primagon 35mm F4.5



たかがレトロフォーカス、されどレトロフォーカス
Meyerらしくない優等生レンズ
Meyer-Optik Görlitz PRIMAGON 35mm F4.5
Primagon(プリマゴン)はドイツのゲルリッツに拠点を置くMeyer-Optik社(メイヤー光学社)が1952年から1964年にかけて生産し、一眼レフカメラのExakta, Contax S, Praktinaおよびレンジファインダー機のAltixに搭載した広角レンズである。前玉に大きな湾曲凹レンズを据えバックフォーカスを延長させることで一眼レフカメラに適合させる「レトロフォーカス」と呼ばれる設計法を取り入れている(下図)。この設計法はメガネをかける近視矯正にも似ているため、「画質的には何らメリットはない」とか「本来は不要な補正レンズだ」などネガティブな認識を持つ方も多く、私もそんな一人であった。しかし、レンズ設計者の本をいろいろ読むにつれ、どうもその認識は間違いであることに気付かされた。前玉に据えた凹レンズには光学系のバランスを調える役割があり、四隅の解像力を向上させボケを安定させる素晴らしい働きがあるというのだ。更には周辺光量落ちを抑える効果もあり、デメリットどころか広角化に有利な性質を幾つも引き出してくれる素晴らしい添加物なのである。そういう観点を踏まえ過去に取り上げたレトロフォーカス型広角レンズを思い返してみると、確かにボケが穏やかでピント部も四隅まで均一に写る製品が多かった。今回取り上げるPrimagonもシンプルな構成ながら開放から良く写るレンズとして高く評価されている。
では、改めてPrimagonの設計を見てみよう(下図)。プリマゴンは3枚玉のトリプレットを設計ベース(マスターレンズ)とし、その前方に大きな凹レンズを据えた4枚構成のレトロフォーカス型広角レンズである。マスターレンズが広角化には向かないトリプレットなので、このまま包括画角を広げても実用的な画質を維持することは到底できない。しかし、前玉に据えた凹レンズたった1枚のおかげで一眼レフカメラに適合し、広角化にも耐え、しかも開放から良く写るレンズへと大変身を遂げている。
 
Primagonの構成図をトレースしたもの。後方(右側)のトリプレット(3枚玉)をマスターレンズとし、その前方(左側)に大きな湾曲凹レンズを据えた4群4枚の構成である。凹レンズを追加したことで光学系のバランスが改善、ペッツバール和が抑えられ非点収差が容易に補正できるようになっている。前玉の後方に広い空気間隔を設けることで樽型歪曲収差を抑えている。正の第2レンズが異様なほど分厚いのはこれ以降のレトロフォーカス型レンズによくみられる性質であるが、1952年登場のPrimagonには早くもその形態がみられる。一見したところ広角レンズとは無縁にも思われたトリプレットをマスターレンズに起用しているあたりが、とても大胆で興味深い設計構成である
重量(実測):158g, フィルター径:49mm, 構成:4群4枚(トリプレットベースのレトロフォーカス型), 対応マウント:M42, EXAKTA, Praktina, Altix, 絞り:F4.5-F22, プリセット絞り,  絞り羽: 10枚構成,  最短撮影距離:0.4m, 焦点距離:35mm, 本品はEXAKTAマウント。前玉のみコーティングのない初期のモデルと、前玉を含む全てのレンズにコーティング(単層コーティング)の施された後期のモデルが存在する。後期モデルにはフィルター枠の銘板にはドイツの国産コーティングであることを誇示するVマークが記されている


 
入手の経緯
eBayを介して2014年3月にドイツのプライベートセラーから落札購入した。オークションの記述は「フォーカスリング、絞りリングともにスムーズで軽快に回る。絞り羽に油シミはなく開閉はスムース。ガラスはクリーンでクリア。パーフェクトなコーティングでキズ、カビ、クモリはない」とのこと。eBayでの中古相場は85-100ユーロ前後である。スマートフォンの入札ソフトで寝ている間に自動入札したところ、翌日になって53ユーロ(+送料10ユーロ)で落札していた。安い!ラッキー。届いた僅かにホコリの混入と微かな汚れがみられる程度で実用充分な状態であった。
 
撮影テスト
Primagonの設計は3枚玉のトリプレットをレトロフォーカス化した構成である。マスターレンズがトリプレットなので当初は四隅の画質に不安を感じていたが、使い始めてみるとかなりの優等生であることがわかり正直驚いた。トリプレットならではの長所である中心解像力の高さとヌケの良さを受け継ぎながら、短所である四隅の画質を大幅に改善、口径比がやや暗いことと絞ったときに微かに周辺光量落ちがみられることを除けば、弱点らしい弱点は見当たらず開放から良く写るレンズとなっている。ボケも安定しておりグルグルボケや放射ボケなどトリプレットによくある像の乱れは目立たないレベルまで抑えられている。階調はたいへん軟らかく絞ってもなだらかなトーン描写を維持している。発色はややあっさりとしていて癖がなく、どことなく品のある写りは私の好みである。ただし、口径比をF4.5と控えめに設定しているあたりはMeyerらしくない堅実で大人しい設計と言わざるを得ない。

撮影機材
Camera: sony A7
Hood: 広角ラバーフード(49mm径用)
F4.5(開放), Sony A7(AWB): 淡い発色がとても美しく、軟調レンズの良さがとても良く出ている。中心解像力は開放でも良好でヌケも良い。グルグルボケもよく補正されている

F8, Sony A7(AWB): 絞っても階調はなだらかでシャドーにむかってトーンが丁寧に描かれている

F8, sony A7(AWB): 発色はあっさりとしている。癖などなくノーマルだ


F8, sony A7(AWB): 良く見ると若干の周辺光量落ちがみられる。気にしなければよい


F4.5(開放), Sony A7(AWB): グルグルボケは出てもこの程度・・・堪えている。前玉の凹レンズが荒治療ながらもよく奮闘している様子が伝わってくる





2015/02/12

Voigtländer Heliar 7.5cm F3.5


 
1993年12月に刊行された朝日カメラ(別冊)「郷愁のアンティークカメラIII」にはレンズによって表現される「味」や「におい」と呼ばれるものをテーマにした松井満氏の記事があり、今でいうオールドレンズファン達の嗜好に触れている[文献1]。記事の一説を要約すると「写真は事物の単なる記録的再現ではなく、心理的な印象を捉えるべきものである。冷たい鮮鋭なレンズが退屈になり、自分の作画に何かが欠けているのにありきたりなく思っているアマチュアが今後ますますふえてゆくことに間違いあるまい。彼らはカメラのレンズが『良すぎる』ことに不満なのである」と述べ、さらに次のように続けている。「彼らは昔のカメラ(レンズ)が持っていたグラマー(うっとりさせる魅力)を自分の作画に盛りたがっている。具体的な例をあげればフォクトレンダーのヘリアーである」
 
グラマーな写りで世の肖像写真家達を魅了した
伝説の妖玉ヘリアー

Voigtländer HELIAR 7.5cm F3.5
Heliar(ヘリアー)はカメラメーカーとして世界最古を誇るVoigtländer(フォクトレンダー)社が戦前の高級カメラに搭載したフラッグシップレンズである。柔らかいながらも芯のある描写には肖像写真を美しく格調高い作品に仕立てる効果があり、職業写真家達から絶大な称賛を得ていた。レンズを開発したのはフォクトレンダー社のHans Harting(ハンス・ハーティング)博士[注1]で、トリプレットの前玉と後玉を貼り合わせのダブレットに置き換えることで1900年に初代Heliar F4.5を完成させている[文献2]。この置き換えにより中間画角から最大画角にかけての画質(いわゆる写真の四隅の画質)が改善し、トリプレット同等の明るさを維持しながら比較的広い実用画角を達成している。ただし、貼り合わせダブレットが球面収差を補正できないことからフレア量はむしろ多くなり、被写体を柔らかい収差のベールで包み込むHeliarならではの美しい描写力を生み出している。Heliarがポートレート用レンズとして絶大な名声を得たのは、この妖力があっての事に他ならない。

[注1] Carl August Hans Harting・・・1889年に数学、物理学、天文学で理学博士となり1897年から2年間ZeissでAbbeの助手を勤める。1899年にVoigtländerに移籍し31~32才の時に初代Heliarを完成させるが、1908年にドイツ特許庁に移籍しレンズ設計者としてはここで一線を退いている。第二次世界大戦後は東独VEB Zeiss社に招かれ戦後の復興に尽力した。[文献3]の「人物略伝」にHartingついての詳細な解説がある。
 
【構成図の系譜】:HeliarはVoigtländerのHarting博士が1900年にトリプレットの前・後群を貼り合わせレンズに置き換えることで完成した[文献2]。この置換により前・後群の外側表面の曲率を緩めることができ、中間画角から最大画角にかけての画質(非点収差の補正効果)が改善、包括画角をトリプレットよりも広い50°まで広げることが可能となっている。追加した貼り合わせダブレット(イエナガラスを用いた「新色消し」)が球面収差を補正できないことから結像は柔らかく階調も軟らかい描写となり、雰囲気のよくでレンズとして大変な評判となる。初代Heliarの設計は前・後群が完全対称であったがHartingは1902年に同一構成ながらも対称性を崩しペッツバール和の抑制と非点収差の補正強化を実現した第2世代の改良版Heliarを世に送り出している[文献4]。また、同年に登場したZeiss Tessarの後群接合部が正曲率であることによる重要な効果に気づき、Heliarにもこのアイデアの導入を試みた[文献3]。こうした着想を経て1902年に新型レンズを設計し1904年にDynar(ダイナー)の名で登場させている[文献5]。Dynarは開放F値がHeliarより一段暗いF5.5/F6で製品化されHeliarより安く売られたが、本来はHeliar同等以上の明るさにも対応できる光学性能があり、非点収差を除く全ての収差特性でHeliarを上回る好成績をたたき出していた[文献3]。そこで、第1次世界大戦後の1921年にRobert Richter(ロバート・リヒター)博士の手により再設計され、1925年頃に第3世代の新生HeliarとしてF3.5/F4.5の明るさで再登場することになる[文献6-8]。私が入手したHeliarもF3.5の明るさを持ちRichterの手で生み出されたDynarからの改良版で、シリアル番号を辿ると1930年代に製造された製品個体である。このシリーズも包括画角50°前後をカバーし焦点距離は2cmから30cmまで製品化されていた[文献12]。HeliarはH.Deser(デセール)による1933年の再設計でF2.8の明るさにも対応している[文献9]。ただし、性能的に厳しかったのか特許申請のみでF2.8の口径比では製品化されなかった。第二次世界大戦終戦後はSchneider社からの移籍で加入したA.W.Tronnier(トロニエ)がカラーフィルムに対応できる後継モデルのColor-Heliar(カラー・ヘリアー)F3.5をRichter版Heliarの構成で再設計し、中版カメラ用レンズとして製品化させている[文献10]。1999年からは日本のCosina(コシナ)がVoigtlanderブランドの商標使用許諾を取得しHeliarブランドを継承、2001年に101周年記念の復刻モデルとしてHeliar 50mm F3.5(ライカLマウント)を限定生産を実現している。また、2009年にはCosina版Bessaの発売10周年を記念して、Heliar 50mmF2(Lマウント)と50mm F3.5(Lマウント)を限定生産、また現行モデルとしてHeliar 40mm F2.8(ライカMマウント)を登場させている。現行のHeliar 40mmには光学系中央部に非球面レンズが用いられ、たいへん高性能なレンズとなっているそうである。いずれもRichter版Heliarの設計構成を踏襲した改良レンズである。いつか機会があれば、これらも取り上げてみたい
 
今回私が取り上げるモデルはRobert Richter(ロバート・リヒター)博士による1921年の再設計でF3.5の明るさとなった第3世代の改良版Heliar(1925年頃に登場)である[文献6]。Richterは後に航空撮影用レンズとして有名になるTopogon(Carl Zeissが1933年発表)を設計した人物で、Voigtländerに在籍した1914年から1923年の間にHeliar, Repro-Heliar(リプロ・へリアー), Apo-Skopar(アポ・スコパー), Collinear(コリニア)の再設計を手がけた[文献7, 文献11]。1923年にGoerz(ゲルツ)社に移籍した後、GoerzがZeiss Ikon社の設立母体としてCarl Zeiss財団に吸収合併されたため、1926年からはZeissのレンズ設計士となっている。私が入手したRichter版Heliarには1902年にハーティング博士が設計したDynar(ダイナー)の構成が採用されており、初代/2代目Heliarに比べるとシャープに写るレンズとなっている。これ以降Voigtländerは一部のモデルを除き収差的に高性能なDynarの構成にHeliarのブランド名を継承させている。
Heliarは一般にトリプレットからの発展形と紹介されることが多いが、途中でテッサーの血が入り、Richter版Heliar(1921年設計)以降ではテッサーの形質が優位に出ていることがわかる。初代/2代目HeliarはRodenstockのソフトフォーカスレンズImagonと比較されることが多く、そういう意味でも3代目以降とは比較にならないほどソフトなレンズだったのであろう。そうした視点で見ると第二次世界大戦後のColor-Heliarや現行のコシナ製Heliarは初代Heliar(トリプレット)とは別系統で、Dynar(テッサー)の血統を汲むレンズであると捉えるほうが、より自然な解釈のように思える。

重量(実測) 113g, 絞り羽 15枚構成, フィルター径 29.5mm, 最短撮影距離 0.7m, 絞り値 F3.5(F4.5)-F22, ヘリコイドつき, 光学系は3群5枚構成のDynar型でノンコート仕様, シリアル番号より1937-1939年に製造された製品個体と判別できる。メーカー推奨イメージフォーマットは中判4.5x6cm



文献1: 朝日カメラ(別冊)「郷愁のアンティークカメラIII」レンズ雑学辞典 1993年12月
文献2: 初代Heliar特許, US Pat. 716035, DE Pat. 124934
文献3: Rudolf Kingslake, A History of the Photographic Lens/キングスレーク著「写真レンズの歴史」朝日ソノラマ
文献4: 2代目Heliar特許, DE Pat. 143889
文献5: Dynar特許, US Pat. 765006, DE Pat.154911, 124934, 143889,
文献6: 3代目Heliar F3.5, DE Pat.354263
文献7: Arne Cröll, View Camera May/June 2005, Voigtländer Large Format Lenses from 1949-1972 (Revised in Nov.17,2012)
文献8: New Heliar(3代目)広告, B.J.A 1925,p.359
文献9: Heliar(F2.8),  DE Pat. 636166
文献10: Color-Heliar特許, US Pat. 2645156, DE Pat. 888772
文献11: Matthew Wilkinson and Colin Glanfield, A Lens Collector's Vade Mecum
文献12: Voigtlander レンズカタログ 1927年
文献13: クラシックカメラ専科No.8: スプリングカメラ特集
文献14: 小西六本店 PR誌 昭和3年(1928年)3月

入手の経緯
2014年11月にドイツ版eBayを介してドイツのレンズ専門セラーから競売の末に落札購入した。レンズは特製アダプターを用いてM42マウントに変換されていた。オークションの記述は「M42マウントに変換したフォクトレンダー・ヘリアー75mm F3.5で、フォクトレンダーによって1930年代後半に造られたマスターレンズ(ムービー用の試作)である。ヘリコイド冠に距離指標がない。小さく軽いうえ、あらゆる用途に使用できる万能性を備えた実用的な焦点距離である。とても良いコンディションでフォーカスリングと絞りリングは良好に動作する。ガラスは素晴らしい。フォーカスレンジは0.7mから無限遠である。アダプターを用いれば殆どすべての一眼レフカメラで使用できる。このレンズはフルサイズフォーマットよりも広いイメージフォーマットを包括している」とのこと。写真を見る限りかなり綺麗な鏡胴でガラスの状態も良さそうである。この出品者からはシャッターユニットをもたない珍しいHeligon 80mm F2.8やKinoptikの高級レンズも同時に出品されており、やはり特性アダプターでM42マウントに変換されていた。スマートフォンの自動スナイプ入札ソフトで最大額を設定し放置したところ15人が入札し、翌日になって214ユーロで私が落札、ラッキーなショッピングであった。ただし、届いたレンズには若干の汚れが見られたのでメンテナンス業者に持ち込んで軽く清掃してもらった。メンテ料1万4000円を含めると4万5千円程度の出費となっている。

Bronica S2へのマウント
Heliarのフランジバックは75mm程度であるのに対しBronica S2のフランジバックは101.7mmと長いので、この差を切り詰めるにはカメラにレンズを沈胴させるしかない。今回もレンズを前玉フィルター側からマウントし、カメラの内部へと沈胴させて使用することにした。詳しいマウント方法が知りたい方はRoss Xpresを扱った前回のブログエントリー(こちら)に参考情報を掲載したのでご覧いただきたい。ここではレンズをマウントするのに用いた部品のみを列記する。全て市販で手に入るものばかりである。若干オーバーインフになる組み合わせを試行錯誤の末に実現した結果なので、もっと少ない部品数で済ませることも可能なのかもしれない。あくまで参考程度にしてほしい。
  1. 29.5 - 37mmステップアップリング:レンズのフィルター径を汎用的なネジ径に変換
  2. 37 - 46mm ステップアップリング:フランジ調整用
  3. M42(P1) - 46mmリバースカプラー(リバースリング): M42ネジへの変換用
  4. BronicaマクロエクステンションチューブNo.1: フランジ調整用
  5. Bronica M57 - M42(P1)アダプター: レンズをブロニカ本体にマウントするためのアダプター
M57-M42アダプターの前方にM42(P1)-58mmリバースカプラーと58mm綱手リング(八仙堂のプロダクト)を装着しレンズのフロント側を58mmのフィルターネジに変換しフードの装着を可能にしている




 
撮影テスト
戦前のフォクトレンダー社が大判撮影用のCollinear(コリニア)と共に最高級レンズに位置付けていたのがヘリアーである。開放では結像が柔らかく階調も軟らかいためソフトフォーカスレンズに近い写真となるが、ソフトとは言ってもこのレンズの場合には解像力を捨てたわけではなく、モヤモヤとした美しいフレアの中にピント部の緻密な表現がしっかりと残り、線の細い繊細な描写を維持している。少し絞れば、なだらかな階調を保ちながらコントラストが向上、深く絞ればスッキリとヌケの良い写りへと変化する。ポートレート写真のあるべき姿を写真レンズの描写設計にどう盛り込むのか、戦前のフォクトレンダーの出した答えがこのヘリアーなのであろう。コントラストは低くカラーでの発色も地味だが、階調の推移がなだらかなため、かえってそれが作画に深み(しっとり感)を与え、主張しすぎないフレアと相まって、写真を見た者に味や匂いを呼び起こさせる特殊効果のような働きをしている。ボケは美しく、四隅まで乱れることなく整っており、適度な柔らかさで拡散している。ソフトフォーカスレンズの美味しいところを少し分けてもらうことで雰囲気の良く出る開放描写を実現しているのだろう。現代のレンズに通じるクリアで雑味のない、「CDで聴く音楽」のような作画もよいが、このヘリアーの魅力はそこではない。
 
デジタルカメラ(Sony A7)による写真作例
F3.5(開放), Sony A7(AWB):

F3.5(開放), Sony A7(AWB): 



F3.5(開放), Sony A7(AWB):


F5.6, Sony A7(AWB):


F4.5, Sony A7(AWB)


F4.5, Sony A7(AWB)
F8, Sony A7(AWB):










F8, Sony A7(AWB): 絞ればこのとおりのにヌケは良い


F8, Sony A7(AWB): 絞っても階調が硬くなることはない
 
カラー・ネガフィルム(6x6 format)での写真作例
Camera: Bronica S2
Film: Fujifilm Pro 160NS, Kodak Portra 400 ブローニー・カラーネガ
露出計: セコニック スタジオデラックス
F3.5(開放), 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS (6x6 format) + Bronica S2: 

F3.5(開放), 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS (6x6 format) + Bronica S2:

F3.5(開放), 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS (6x6 format) + Bronica S2: 

F8, 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS (6x6 format) + Bronica S2:

F4.5 銀塩撮影, Kodak Portra 400 (6x6 format) + Bronica S2

F5.6, 銀塩撮影, Kodak Portra 400 (6x6 format) + Bronica S2
F3.5(開放), 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS (6x6 format)+ Bronica S2: 
F4.5, 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS(6x6 format) + Bronica S2, 黒絞め(階調補正を適用)

F4.5, 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS(6x6 format)+ Bronica S2, 黒絞め(階調補正)適用
F4.5, 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS(6x6 format) + Bronica S2: 
F3.5(開放), 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS(6x6 format)  + Bronica S2: 

F3.5(開放), 銀塩撮影, Fujifilm Pro160NS (6x6 format) + Bronica S2: 

 
ヘリアーと言えば昭和天皇ご夫妻の御真影(ごしんえい)にも採用されたことから日本では別格視されるようになり、昭和時代には写真館などで家宝のように大切に扱われてきたそうだ[文献13-14]。このレンズの描写は見たままの姿を忠実にとらえ再現するだけでなく、被写体の美しさを引き立て、格調高く仕立てる効果があり、御真影に採用されたのもそのためであろう。時代的に撮影に使用されたのはDynar型の3代目ヘリアーだったであろうと思うが、こういう歴史の舞台や映画の名作などで活躍したレンズに思いを寄せ、伝説と共に写真撮影を楽しむのも、オールドレンズの魅力の一つと言える。以下ではBessa66判のへリアーを最新のデジタル中判センサーを搭載したFujifilmのGFX100Sでも使用してみた。
 
Heliar 7.5cm F3.5 (Bessa66用): 前玉回転式, 最短撮影距離 1m, F3.5-F16, 絞り羽10枚, 重量(外部ヘリコイド除く) 75g

まずはスタジオ撮影の写真を何枚かどうぞ。スタジオのライティング光ではどうもレンズの特徴である柔らかさがうまく出せないのか、思っていた以上にスッキリとしてシャープで、解像感の高い現代的な写りとなった。背後のボケには安定感があり、グルグルボケが目立つことはなかった。
 
F3.5(開放, 外部ヘリコイドで合焦) Fujifilm GFX100S(AWB,NN,Color:-2)

F3.5(開放, 外部ヘリコイドで合焦) Fujifilm GFX100S(AWB,NN,Color:-2)









































F3.5(開放, 外部ヘリコイドで合焦) Fujifilm GFX100S(AWB,NN,Color:-2)























 
続いて屋外での写真を何枚か提示する。自然光で撮影すると被写体の表面を微かなフレアが覆っていることがはっきりと見え、しかも、シャープネスには大きな影響を及ぼさない程度の絶妙なフレアだ。トーンはやや軟調気味で雰囲気のある写りとなる。GFXの中判デジタルセンサーで使用する限りだが、四隅でもしっかりとピントが合い、解像感はピント部全体にわたり均一であった。本来のイメージフォーマットはもっと広い中判6x6なので四隅まで端正に写るのはごく当たり前なのであろう。前玉回転で合わせるとポートレート域で少しグルグルボケが目立つことがあった。

F3.5(開放, 前玉回転で合焦) Fujifilm GFX100S(WB:⛅, NN)

F3.5(開放, 前玉回転で合焦) Fujifilm GFX100S(WB:⛅, NN)

F3.5(開放, 前玉回転で合焦) Fujifilm GFX100S(WB:⛅)

F3.5(開放, 前玉回転で合焦) Fujifilm GFX100S(WB:⛅)

F3.5(開放, 前玉回転で合焦) Fujifilm GFX100S(WB:⛅)

F3.5(開放, 前玉回転で合焦) Fujifilm GFX100S(WB:⛅, NN)


2015/02/06

M52-M42 focusing helicoid*


M52-M42ヘリコイド(左)とM42-M42ヘリコイド(右)。どちらもマウント側(カメラ側)はM42ネジとなっている。M52-M42ヘリコイドの方が内径が広いためマウント側で大きくすぼんでいて、いわゆる土手にあたる部分の面積も広く造られている

 
太いヘリコイドによる照り返しの軽減効果を検証する
M52-M42フォーカッシング・ヘリコイド
今、私の中で一押しのホットなアイテムになるつつあるのがM52-M42直進ヘリコイドです。これまで用いてきたM42-M42ヘリコイドに比べ、①内径が広く、②カメラ側(マウント側)の出口が大きくすぼんでおり、③出口の土手に当たる部分が薄く造られているというのが構造上の特徴です。このためイメージサークルの大きなレンズを長丈ヘリコイドに搭載する際に懸念されていた「内部での照り返し」が緩和され、コントラストの悪化を防止できます。強い光を前方から当てると効果の差がよくわかりますので、早速見てみましょう。
下の写真の上段はM42-M42ヘリコイド、下段はM52-M42ヘリコイドをカメラのマウント側からみたものです。いずれもヘリコイドは丈の長い36-90mmのモデルで、前方に中版用レンズ(6x6フォーマットをカバーできるヘリアー)を搭載し、その前方から強い光を当てています。角度をいろいろ変え、照り返し光が一番きびしい(強い)状態を写真に収めました。双方の結果にかなりの差があることがわかります。M42-M42ヘリコイドによる結果では内部の側面と出口の土手にあたる部分で明るい光の反射がみられます。これに対し、M52-M42ヘリコイドは内部の側面までの懐が深く、土手も薄いため、顕著な光の反射はみられません。このような照り返し光はハレーションの発生原因となり、コントラストや発色などの写真画質に甚大な影響を及ぼします。M52-M42ヘリコイドの方が好ましい結果であることは一目瞭然です。同様の観測を35mm版レンズを搭載した場合でも試しましたが、この場合は双方のヘリコイドとも側面での顕著な照り返しはみられませんでした。したがって、ここでの結果はM42-M42ヘリコイドを貶めるものではなく、使用上の注意があることを明らかにしているだけです。中判用レンズや大判用レンズを丈の長いヘリコイドに搭載する機会がありましたら、ご参考になさってください。主に長丈ヘリコイドに頼る機会の多いミラーレス機での用途において発生する問題になろうかと思われます。

M42-M42フォーカッシング・ヘリコイド36-90mm(上段)とM52-M42フォーカッシング・ヘリコイド36-90mm(下段)における照り返し光の比較。搭載したレンズはHeliar 7.5cm F3.5(6x6 medium format)です。




M52-M42ヘリコイドのカメラ側は52mmネジ(1mmピッチ)になっていますので、ここにレンズを搭載するには工夫がいります。今回用いた中国製のヘリコイドには52mm-42mmのフィルター用ステップダウンリング(ネジピッチ0.75mm)の装着が可能です。また、このステップダウンリングの先にはレンズのマウント改造によく用いられるM42(ネジピッチ1mm)リバースカプラーも装着可能でした。中国製のアイテムはいずれもネジピッチの工作精度が悪いので公証規格が合わなくても装着できてしまいます。ある意味スバラシイと思えるファジィなアイテム達です(笑)。なお、M52-M42フォーカッシング・ヘリコイドは現在eBayから入手可能です。