おしらせ

2018/01/14

LOMO/LENKINAP OKC1-22-1 (OKS1-22-1) 22mm F2.8





豪快なハレーションを解き放つ
軽く、小さく、短く、安く、しかも高性能、
最短20cmでマクロまでこなす万能広角シネレンズ
LOMO/LENKINAP OKC(OKS) 1-22-1, 22mm F2.8

ミラーレスのAPS-C機やマイクロフォーサーズ機を使うオールドレンズ初心者から、「手頃でおすすめの広角オールドレンズはありませんか」と相談を受けることがあります。一見すると簡単な質問に思えますが、条件を整理してみると意外に難題です。求められるのは、短い焦点距離、小型軽量、リーズナブル、そして金属製のオールドレンズ。さらに撮影対象は女性ユーザーらしく、ご飯・花・小物などが中心で、寄れることが必須。この条件をすべて満たすレンズとなると、途端に選択肢が狭まります。

広角レンズは一般に、フルサイズで40mm未満、APS-C24mm未満、マイクロフォーサーズで20mm未満あたりからを指します。フルサイズ対応のオールドレンズは種類こそ豊富ですが、焦点距離が短くなるほど大型・重量級になりがちで、軽快なミラーレス機とのバランスが崩れてしまいます。そこで候補に挙がるのが、ハーフサイズカメラ用レンズやシネレンズといったイメージサークルの小さいレンズ群です。しかし、ここでも「安くて広角」という条件を満たすものは多くありません。そんな中で今回紹介する OKC1-22-1 22mm F2.8 は、オールドレンズに詳しい仲間たちと議論を重ねた末に辿り着いた、数少ないすべての条件を満たす回答のひとつです。もしこれ以上に条件の良いオールド広角をご存じでしたら、ぜひ教えていただきたいところです。

OKC1-22-1 は、ロシアのロモ(LOMO:レニングラード光学機械連合)が、1950年代の LENKINAPLeningrad Kino Apparatus)時代から少なくとも1992年頃まで製造していた 35mm映画用レンズです。イメージサークルは APS-C 相当までカバーします。

光学系は 56枚構成で、ビオメタールの発展形として旧東ドイツ Zeiss Jena のレトロフォーカス広角 Flektogon(フレクトゴン) を手本にした設計です。初期レトロフォーカスの中でも、開放からシャープでヌケが良く、フレアも少ない優れた描写で知られています。

なお、このレンズは ヘリコイドを持たないレンズヘッドとして販売されているため、そのままではピント合わせができません。デジタルカメラで使用する際は、いったん ライカMマウントに変換し、ヘリコイド付きアダプターに装着するのが実用的です。

1950年代後期のLOMO設立前にLENKINAPファクトリーで生産された初期型のOKC1-22-1。経年による使用でこすれた部分から真鍮の地金が出ている。和のテイストを感じさせるカッコイイデザインだ




OKS(OKC) 1-22-1の構成図: Catalog Objectiv 1970 (GOI)からトレーススケッチした見取り図。設計構成は5群6枚のフレクトゴン型
入手の経緯

このレンズは、201712月に eBay を通じてウクライナのセラーから レンズヘッドの状態で購入しました。価格は 119ドル+送料の即決で、出品説明には「MINT CONDITION(美品)、コリメーターで性能チェック済み」と記載されていました。実際に届いた個体も記載どおり非常に綺麗で、コンディションに不満はありませんでした。

OKC1-22-1 のレンズヘッドは eBay で比較的豊富に流通しており、美品であれば150ドル前後(+送料)から入手できます。一方で、LENKINAP 製や KONVAS マウントの個体は流通量が少ないためか、同じモデルでもやや高値で取引されている印象です。

LOMO OKC1-22-1  22mm F2.8: 絞り羽根 8枚構成, 最短撮影距離(ヘリコイドアダプター5mm繰り出し使用時) 0.2m, 5群6枚レトロフォーカスタイプ(フレクトゴン型), 実焦点距離21.1mm, 重量(レンズヘッドのみ)45g,    推奨イメージフォーマットはAPS-C相当(35mm映画フォーマット) 製造期間1950年代より1990年代




マウントアダプター

レンズにはヘリコイドが付いていませんしマウント形状はM210.5mmピッチ)ネジですから、このままでは撮影に使うことはできません。デジタルミラーレス機で使用するにはウクライナのua-artprojectcomというセラーがeBayで販売している「HELICOID FOCUSING PART FOR OKS1-22-1 F/2.8 22mm」を購入するか、ロシアのRafCameraeBay3000円程度で市販しているM21x0.5 - M39x1アダプターを手に入れ、マウント部をライカL39マウントに変換します。


HELICOID FOCUSING PART FOR OKS1-22-1 F/2.8 22mm (ua-artprojectcom)






続いてライカLMリング(eBayでは500円程度)を使いマウント部をライカMマウントに変換、最後にライカMマウントレンズ用のアダプター、もしくはRafCameraのアダプータを用いた場合にはライカMマウントレンズ用のヘリコイド付きアダプターに搭載します。アダプターまで含めると予算総額は高くなってしまいますが、ミラーレス機ユーザーにとって、ライカLMリングやライカMマウント用のアダプターは他のレンズにも流用できる使用頻度の高い必須アイテムですので、揃えておいて決して損ではありません。ヘリコイドアダプターの繰り出し量は僅か5mm程度ですが、それでも、このレンズを搭載すると20cmまで寄れ、充分な近接撮影力が得られます。なお、私は下の写真に示すような自作カプラーで対応しました。参考までにカプラーづくりの材料は(1)26-28mmステップアップリング(28mm側のネジ山をルーターで削る)、(2) C-mount > Leica Lステップアップリング、(3)ライカLM変換リング、(4)エポキシ接着剤です。 このレンズにはフィルターネジがありませんので、被せ式のレンズキャップをつける必要があります。ホームセンターにゆくと椅子の足に被せるゴムキャップ(内径31mm)が100円程度で買えますので、丈もぴったりでおススメです。もお願いします。

必要な部品

  1. 26–28mm ステップアップリング(28mm側のネジ山をルーターで削る)
  2. C-mount → Leica L ステップアップリング
  3. ライカLM変換リング
  4. エポキシ接着剤
LENKINAP OKC1-22-1 22mm F2.8:絞り羽 8枚構成, 絞り値 T3.1-16,  最短撮影距離(ヘリコイドアダプター5mm繰り出し使用時) 0.2m, 5群6枚レトロフォーカスタイプ(フレクトゴン型), 推奨イメージフォーマットはAPS-C相当(35mm映画フォーマット), 赤紫のPコーティングが蒸着されている
LOMO OKC1-22-1  22mm F2.8: 絞り羽根 8枚構成, 最短撮影距離(ヘリコイドアダプター5mm繰り出し使用時) 0.2m, 5群6枚レトロフォーカスタイプ(フレクトゴン型), 実焦点距離21.1mm, 重量(レンズヘッドのみ)45g,  こちらは1978年製の個体で、コーティングはシアン系と紫の混合。逆光で虹のシャワーのようなハレーションが豪快に出る
こちらは、1966年製造の個体でLOMO銘が入っている。LENKINAP製の個体と同じ赤紫色のコーティングが施されており、逆光でも虹のハレーションが出ない
LOMO OKC1-22-1: 重量(実測) 125g, 絞り羽 8枚構成, 絞りF2.8-F16, 最短撮影距離(規定) 1m, ヘリコイド付 フィルター径 55mm: こちらはKONVAS(OCT-18)マウント用に作られた珍しい個体。KONVASは市販のアダプターがあるので、無改造のままミラーレス機で使用することができる。私が入手したのはeBayでポーランドのセラーが販売していたOCT18 - LEICA Mアダプターです(下の写真)。




eBayにてポーランドのセラーから9500円で入手したOCT18 - LEICA Mカスタムアダプター。造りはとてもよいが、たまにしか売っていない

 
撮影テスト

プロフェッショナル向けの映画用レンズには設計に無理のない堅実な描写の製品がそろっています。本品も開放からスッキリとヌケがよく、四隅まで滲みの少ないシャープな描写です。コントラストは良好でどこまでも優等生なレンズですが、逆光になるとシャワーのような美しいハレーションが爆発的に発生し、豹変します。発色はノーマルで歪みは極僅かに樽型。工夫次第で素晴らしい写真効果が得られる、とても楽しいレンズです。

ちなみに、LENKINAP製の個体は逆光でもシャワーのハレーションが出ることがありませんでした。コーティングの違いからでしょうか。


LOMO製 OKC1-22-1での写真作例
 
F3.5辺り, Fujifilm X-T20(AWB):
F3.5辺り, Fujifilm X-T20(AWB):

F3.5辺り, Fujifilm X-T20(AWB):
F2.8(開放), FUJIFILM X-T20(AWB): 逆光ではゴーストに加え、シャワーのような美しいハレーションがビシバシと出る

F4辺り, Fujifilm X-T20(AWB):

F3.5辺り, Fujifilm X-T20(AWB): ガラスが1枚入っており、太陽光が写り込んでいる


F4, FUJIFILM X-T20(AWB):  

F4, FUJIFILM X-T20(AWB):  

F2.8(開放) FUJIFILM X-T20(AWB): 

F4, FUJIFILM X-T20(AWB): 


F2.8(開放), FUJIFILM X-T20(AWB): 

F4, FUJIFILM X-T20(AWB): 
F5.6, Fujifilm X-T20(AWB)
F4辺り, Fujifilm X-T20(AWB)
F4辺り, Fujifilm X-T20(AWB):
F2.8(開放)FUJIFILM X-T20(AWB):逆光時のハレーションは開放では放射状だが・・・。


F16辺りFUJIFILM X-T20(AWB) : 深く絞ると、このようになる。ハウルの動く城か?







LENKINAP OKC1-22-1での写真作例

F2.8(開放)FUJIFILM X-T20(AWB)

F2.8(開放)FUJIFILM X-T20(AWB)

FUJIFILM X-T20(AWB)

F5.6, Fujifilm XT-20(AWB)

F2.8(開放) FUJIFILM X-T20(AWB)

F5.6 FUJIFILM X-T20(AWB)
F5.6 FUJIFILM X-T20(AWB)

F5.6 FUJIFILM X-T20(AWB)














2018/01/11

AIRES H CORAL 4.5cm F1.9



アイレスカメラの高速標準レンズ part 1
クセノンを手本につくられた
アイレスのメインストリームレンズ
AIRES Camera TOKYO, H CORAL 4.5cm F1.9
アイレス写真機製作所(Aires Camera)は当初レンズの開発部門を持たない二眼レフ専門のメーカーとしてスタートし自社のカメラに搭載するレンズはニコンやオリンパスなどから供給を受けていたが、1953年末に東京・世田谷にあった昭和光機のレンズ研磨部門を傘下に置き、レンズの自社生産に乗り出している。1954年6月に発売したAIRES 35Iを皮切りに主力製品を35mmレンズシャッターカメラにシフトすると、これ以降のカメラには自社製レンズのコーラル(CORAL)を搭載している。1955年10月発売のAIRES 35IIIに搭載したHコーラル(H CORAL) 4.5cm F2はレンズシャッター機に搭載された国産初のF2級大口径レンズということで話題を呼んだ。このレンズはシャープな描写で知られるドイツ・シュナイダー社のクセノンを手本に設計されており[文献1]、自社のカメラにはシャープな大口径レンズを搭載したいという理念があったようである。
今回紹介するH CORAL 4.5cm F1.9は同レンズF2からの改良としてAires 35IIIL(1957年10月発売)、Aires IIIC(1958年3月発売)、レンズ交換のできる最高級機のAires 35V(1958年10月発売)、Aires Viscount (1959年6月発売)、Aires Radar-Eye(会社倒産前の1960年5月に発売)など数多くのカメラに搭載されたアイレスカメラを代表する標準レンズである。レンズ名の頭につくHのイニシャルは数の接頭語HEXAから来ており、レンズが6枚玉のガスタイプであることをあらわしている。他のコーラルも4枚玉にはQ(Quad)、5枚玉のP(Panta)、7枚玉のS(Septa)など設計構成に応じたイニシャルを冠した。Hコーラルには口径比が更に明るくなったF1.8のモデルもあるが、市場に供給された数はF1.9の方が圧倒的に多い。
では、Hコーラルの写りはクセノン的なのかと言われると、これが全くそうではないところが興味深く、面白いところなのだ。ピント部は開放でフレアが多く、ソフトな味付けで、明らかに収差レンズのカテゴリーに入る製品と言える。F2前後の標準レンズには堅実な写りの製品が多いので、これは貴重な1本と考えてもよい。勿論、設計ミスなんかではない。

Aires H CORAL 4.5cm F1.9の構成図:米国向けのチラシからのトレーススケッチ(見取り図)。設計は4群6枚の準対称ガウス型 

入手の経緯
交換レンズを手に入れたければAires 35V用に供給された個体を探せばよく、アダプターもミラーレス機用がeBayのレア・アダプターズから市販されている。ただし、このカメラやレンズは米国での販売実績が大半だったので、日本の中古市場を探し回っても見つかることはまずない。やや希少なためかカメラ本体はeBayで350~400ドルもの高値で取引されている。本品は故障したAires Viscountから救出した個体である。ガラスには4~5本程度の薄い拭き傷とコーティングに1mm程度の無色のシミがみられたが、実写には影響のないレベルであった。M52-M42直進ヘリコイド(17-31mm)に移植し、末端をソニーEマウントに変換して使うことにした。

Aires H Coral 4.5cm F1.9(改造SONY Eマウント): フィルター径 43mm,  絞り F1.9-F16, 設計構成 4群6枚 準対称ガウス型, シングルコーティング, テッサータイプのQコーラル4.5cm F2.8と並ぶアイレスカメラの代表的なレンズであり、同社の数多くのカメラに採用された実績をもつ


参考文献
[1] クラシックカメラ専科 No.22 朝日ソノラマ

撮影テスト
一般にF2前後の開放F値をもつ戦後の標準レンズは設計に無理がなく、収差が十分にコントロールされている製品が多い。こうしたレンズは端正でシャープな描写のため、色味やボケ味などに特徴を見出すしかないが、その点からいえば今回のレンズは全く心配はいらない。クセノンのようなスッキリとしたヌケの良い描写との接点はなく、開放ではフレア(コマ収差由来のフレア)が顕著に発生する。滲みを伴うしっとりとした味付けで、雰囲気の良くでる写真に仕上がる。もちろん絞ればスッキリとしたヌケの良い描写で、シャープネスやコントラストが向上する。オールドレンズがブームとなり、収差レンズに対するかつてない評価と需要が高まる中、本品は再評価されてもよい1本と言えるであろう。

F1.9(開放) sony A7R2(WB:曇天)  開放では被写体をコマフレアが覆い、柔らかい雰囲気となる

F4, SONY A7R2(WB:日光): 少し絞ればスッキリとした、ごく普通の写りとなる

F4, SONY A7R2(AWB): 高伸長な直進ヘリコイドに搭載したので、だいぶ寄れるようになった
F2.8, SONY A7R2(AWB):ボケは距離によらず、安定している

F1.9(開放), SONY A7R2(WB:照明1) このレンズを使うからには、基本的に絞り全開でいきたい

F1.9(開放), SONY A7R2(WB:Auto): 雰囲気を楽しむレンズに違いない。現代レンズと一緒に使ってみては、いかがであろうか