おしらせ

2018/01/11

AIRES H CORAL 4.5cm F1.9



アイレスカメラの高速標準レンズ part 1
クセノンを手本につくられた
アイレスのメインストリームレンズ
AIRES Camera TOKYO, H CORAL 4.5cm F1.9
アイレス写真機製作所(Aires Camera)は当初レンズの開発部門を持たない二眼レフ専門のメーカーとしてスタートし自社のカメラに搭載するレンズはニコンやオリンパスなどから供給を受けていたが、1953年末に東京・世田谷にあった昭和光機のレンズ研磨部門を傘下に置き、レンズの自社生産に乗り出している。1954年6月に発売したAIRES 35Iを皮切りに主力製品を35mmレンズシャッターカメラにシフトすると、これ以降のカメラには自社製レンズのコーラル(CORAL)を搭載している。1955年10月発売のAIRES 35IIIに搭載したHコーラル(H CORAL) 4.5cm F2はレンズシャッター機に搭載された国産初のF2級大口径レンズということで話題を呼んだ。このレンズはシャープな描写で知られるドイツ・シュナイダー社のクセノンを手本に設計されており[文献1]、自社のカメラにはシャープな大口径レンズを搭載したいという理念があったようである。
今回紹介するH CORAL 4.5cm F1.9は同レンズF2からの改良としてAires 35IIIL(1957年10月発売)、Aires IIIC(1958年3月発売)、レンズ交換のできる最高級機のAires 35V(1958年10月発売)、Aires Viscount (1959年6月発売)、Aires Radar-Eye(会社倒産前の1960年5月に発売)など数多くのカメラに搭載されたアイレスカメラを代表する標準レンズである。レンズ名の頭につくHのイニシャルは数の接頭語HEXAから来ており、レンズが6枚玉のガスタイプであることをあらわしている。他のコーラルも4枚玉にはQ(Quad)、5枚玉のP(Panta)、7枚玉のS(Septa)など設計構成に応じたイニシャルを冠した。Hコーラルには口径比が更に明るくなったF1.8のモデルもあるが、市場に供給された数はF1.9の方が圧倒的に多い。
では、Hコーラルの写りはクセノン的なのかと言われると、これが全くそうではないところが興味深く、面白いところなのだ。ピント部は開放でフレアが多く、ソフトな味付けで、明らかに収差レンズのカテゴリーに入る製品と言える。F2前後の標準レンズには堅実な写りの製品が多いので、これは貴重な1本と考えてもよい。勿論、設計ミスなんかではない。

Aires H CORAL 4.5cm F1.9の構成図:米国向けのチラシからのトレーススケッチ(見取り図)。設計は4群6枚の準対称ガウス型 

入手の経緯
交換レンズを手に入れたければAires 35V用に供給された個体を探せばよく、アダプターもミラーレス機用がeBayのレア・アダプターズから市販されている。ただし、このカメラやレンズは米国での販売実績が大半だったので、日本の中古市場を探し回っても見つかることはまずない。やや希少なためかカメラ本体はeBayで350~400ドルもの高値で取引されている。本品は故障したAires Viscountから救出した個体である。ガラスには4~5本程度の薄い拭き傷とコーティングに1mm程度の無色のシミがみられたが、実写には影響のないレベルであった。M52-M42直進ヘリコイド(17-31mm)に移植し、末端をソニーEマウントに変換して使うことにした。

Aires H Coral 4.5cm F1.9(改造SONY Eマウント): フィルター径 43mm,  絞り F1.9-F16, 設計構成 4群6枚 準対称ガウス型, シングルコーティング, テッサータイプのQコーラル4.5cm F2.8と並ぶアイレスカメラの代表的なレンズであり、同社の数多くのカメラに採用された実績をもつ


参考文献
[1] クラシックカメラ専科 No.22 朝日ソノラマ

撮影テスト
一般にF2前後の開放F値をもつ戦後の標準レンズは設計に無理がなく、収差が十分にコントロールされている製品が多い。こうしたレンズは端正でシャープな描写のため、色味やボケ味などに特徴を見出すしかないが、その点からいえば今回のレンズは全く心配はいらない。クセノンのようなスッキリとしたヌケの良い描写との接点はなく、開放ではフレア(コマ収差由来のフレア)が顕著に発生する。滲みを伴うしっとりとした味付けで、雰囲気の良くでる写真に仕上がる。もちろん絞ればスッキリとしたヌケの良い描写で、シャープネスやコントラストが向上する。オールドレンズがブームとなり、収差レンズに対するかつてない評価と需要が高まる中、本品は再評価されてもよい1本と言えるであろう。

F1.9(開放) sony A7R2(WB:曇天)  開放では被写体をコマフレアが覆い、柔らかい雰囲気となる

F4, SONY A7R2(WB:日光): 少し絞ればスッキリとした、ごく普通の写りとなる

F4, SONY A7R2(AWB): 高伸長な直進ヘリコイドに搭載したので、だいぶ寄れるようになった
F2.8, SONY A7R2(AWB):ボケは距離によらず、安定している

F1.9(開放), SONY A7R2(WB:照明1) このレンズを使うからには、基本的に絞り全開でいきたい

F1.9(開放), SONY A7R2(WB:Auto): 雰囲気を楽しむレンズに違いない。現代レンズと一緒に使ってみては、いかがであろうか


4 件のコメント:

  1. Spiralさんのブログに触発され、私もやってみましたAires Coralのレンズ改造。

    抽出レンズの改造は初めての作業です。
    Airesのレンズ入手は古いレンズ非交換式RFカメラの中でも入手しやすい方で、ネットオークションでは常に数本の出品があり苦労しませんでした。
    故障しているけれどガラスの程度はまぁまぁの、H-Coral 45mm F1.9搭載のAires 3Lを数千円で入手、レンズの抽出はリング一本で楽に取り出せます。
    ブログを読んだ時にはなぜM52という大きなヘリコイドを使うのか疑問でしたが、レンズを手にして理解しました。
    組み込みのシャッターがM42以下のヘリコイドでは収まらないということを。
    ヘリコイドごと取り出してダブルヘリコイドにするという手段もありますが、今回はシャッターの入るサイズのM52-M42のヘリコイド(伸張25mm-50mm)を使う事にし、ここで途方にくれます。
    どうやってヘリコイドとレンズを接続するのだ?
    24.5mm/0.75ピッチのネジと52mmの変換リングなど、どこを探しても見つかりません。いっその事旋盤屋にでも造ってもらおうかとも思いましたが、懇意にしている加工屋さんもおりません。
    方々のサイトを探ってみると、改造者の中には接着剤を使う人もいるとか。
    強度に不安はありますが、それでやってみる事にしました。
    結果は…けっこう、イケるものですね。接着剤、万歳。
    お蔭様で私もCoralの淡い開放描写を楽しむ事が出来ました。

    加工時に最も不安だったのはレンズの「芯出し」なのですが、このCoralに関しては入手したヘリコイド先端にあった僅かな段差が、レンズの外枠とピッタリだったためにさほど苦労せず芯出し出来ましたが、Spiralさんは接着と芯出しをどのように解決していらっしゃいますか?

    後学のために教えていただけると幸いです。

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    1. terryさん
      完成おめでとうございます。
      今思うと、このレンズの描写、結構好きです。思い出させていただき、ありがとうごさいます。

      接着剤はエボキシ系を何種類か使っています。以前はネジ止めもしましたが、最強クラスの接着剤は溶接並みの耐久性があるので、最近はあまり心配することもなく乱用しています。
      サンドぺーバーをかけることと、油膜をエタノールで落とすこと。この下処理をサボらなければ、物凄い強度が出ます。芯出しは測定機材がないので、厳密なことは何一つできません。かわりに据え付けに使う部品の平坦性を最大限に活かしています。平坦性に関わる面に接着剤を塗布するときには、かなり注意しています。何度も回転させて、接着剤が均一になるようにしています。自分の場合、平坦性が損なわれる可能性は接着面がある場合だけです。なるべく使わないで改造を済ませます。

      趣味レベルの改造なので、このくらいが限界かと思っています。参考になればいいのですが。

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    2. 大事なのは平坦性ですか。先達の技術、参考になりました。
      以前入手した改造レンズの中に、わずかにティルトしたヤツがありましたが、ああいうのはイカン、という事ですよね。(笑)
      それにしても最近の接着剤の進歩は目覚しいものがあり、実際ザックから多少ラフに出し入れしたり、軽くぶつけるくらいでは取れる気配がありません。
      逆に、取り付けの際指標が少し曲がってしまい、取れて付け直すことを期待しているほどなのですが・・・。
      今後も精進していきたいと思います。
      ではでは。

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    3. > わずかにティルトしたヤツがありましたが、
      > ああいうのはイカン、という事ですよね。(笑)

      技術というほど大げさなものではありませんが、
      光軸がセンサーに対して垂直なことが最も大事な事で、
      次に光軸がセンサーの中心にくることです。前者を部品の平坦性で確保します。

      >軽くぶつけるくらいでは取れる気配がありません。

      ですよね。接着剤の強力すぎて、取れないことが逆に不安になります。
      コメントありがとうございました。

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