おしらせ


MAMIYA-TOMINONのページに写真家・橘ゆうさんからご提供いただいた素晴らしいお写真を掲載しました!
大変感謝しています。是非御覧ください。こちらです。

2017/04/30

PETRI CAMERA Co. High-speed Petri part 2: Petri 55mm F2




ペトリのレンズが気になりはじめたのは一人の写真家が2年前のある日、フェイスブック版MFlensesに投稿した一枚の写真を見てからだ。それは、新緑を背景に一列に並んだティーカップを撮影した何でもない構図の写真であったのだが、今まで見たこともない独特なボケ味に度肝を抜かれ、思わずシェアしてしまったのを今でも覚えている。

ペトリカメラの高速標準レンズ part 2
線描写のバラけっぷりが
背景を絵画に変える
PETRI CAMERA Co., Petri Automatic 55mm F2 and C.C Auto 55mm F2 
ペトリカメラが一眼レフカメラ用として供給した最初の高速標準レンズは栗林写真機製作所時代のオリコール(Kuribayashi Orikkor) 50mm F2で、1959年発売のペトリペンタ(Petri Penta)に搭載する交換レンズとして登場した[0]。1960年代に入るとブランド名はオリコールからペトリ(Petri)に改称され、それまで焦点距離が50mmだった同社の標準レンズは、この頃から55mmで作られるようになる。カメラの方はペトリペンタV(1961年発売)、V3(1964年発売)、V6(1965年発売)、ペトリFT (1967年発売)など新製品の発売が相次ぎ、これに合わせてレンズのほうも鏡胴のデザインや光学設計が短い期間に何度もマイナーチェンジされた[1]。Petriシリーズの第2回はペトリペンタV用に供給されたPetri Automatic 55mm F2(上写真・右)、ペトリV6用に供給されたPetri C.C Auto 55mm F2(上写真・中央)、ペトリV6II用に供給されたPetri C.C Auto 55mm F2(上写真・左)の3本を取り上げたい。
レンズ構成はいずれも典型的な準対称ダブルガウス型で(下図)、前回の記事で取り上げた上位モデルの55mm F1.8と同一の光学系を使い、絞りの動きを制限したり、内部に絞り冠を設置するなどリミッターを設けることで、口径比をF2に制限している[1]。描写傾向も基本的には上位のモデルと同じで、力強く描かれた絵画のようなボケ味とシャープな開放描写がこのモデルの大きな魅力となっている。
Petri Penta V2 取り扱い説明書からのトレーススケッチした55mm F2(旧型)の構成図(見取り図)
ペトリの55mm f1.8にはペトリフレックス7に供給された旧設計のPetri Automatic 55mm f1.8(通称「旧型」)と、ペトリV6の登場から供給された新設計のPetri C.C auto 55mm f1.8(通称「新型」)があり[1]、今回取り上げるPetri 55mm F2は同社がこれらの口径比をF2に制限し廉価モデルとして発売したものである。私が入手した3本の個体のうち2本(AutomaticとシルバーのC.C auto) は旧型、残る1本(ブラックのC.C Auto)は新型の設計をベースにしていることを、レンズ面における光の反射パターンから同定している。
3本の中で最も古いモデルのPetri Automatic 55mm f2は絞りが全開にならないよう動きに制限を加えることで口径比をF2にしており、オート時にはいったん絞り羽が見えなくなりF1.8のモデルと同じ口径比となるものの、カメラのシャッターが降りて絞り制御レバーが押し込まれると、絞り羽が僅かに顔をだし、F2相当に絞り込まれる仕組みになっている。マウントアダプター等でデジカメに搭載する場合には、自動絞りレバーは用いないので、必要に応じてスイッチをオートにすればリミッターは解除され、高速なF1.8での撮影が可能になる。これは、ある種のブーストスイッチともいえるし、妄想を広げるなら(やや見掛け倒しではあるが)「過剰補正/完全補正切り替えスイッチ」ともとれる。このスイッチをオンにして口径比をF1.8にすると若干明るくなるものの、背後のボケが硬くゴワゴワと力んだ描写となり、オフにすると若干絞るので少し暗くはなるが、ボケはより素直になり、解像力やコントラストが若干向上するというわけである。ただし、実写テストによるF2とF1.8の比較では、こうした違いを見出すことはできず、両モデルの描写は極めてよく似ていた・・・(空騒ぎでしたスミマセン)。
C.C auto 55mm F2についてはレンズの内部に絞り冠が設置され、口径比がF2に制限されているので、残念ながら上記のように手動でブーストさせることはできない。
 
[0]「オールドレンズとシネレンズで遊ぶ」 詳しい解説があり、レンズの特徴がよくわかる写真も掲載されている
[1] Petri@Wikiの特集記事「ペトリ一眼レフ交換レンズの系譜 標準レンズ編
[2] Petri Penta V2 Instruction Book
[3] Petri@Wikiの特集記事:c.c Auto 55mm f1.8
 
本当に同一設計なのか?
F2とF1.8が同一の光学系であるという仮説に対する確かな証拠は今のところペトリ@wikiにも提示されていない。自分もF2の新旧各モデルのガラスに光を当て、各レンズエレメントからの光の反射を観察してみたが、光の反射パターンはF1.8の新旧それぞれのモデルのパターンと見分けのつかないレベルまでよく似ており、仮説はホントのように思える。ちなみに、新型と旧型の反射パターンは大きく異なるため、これらの分別は容易だ。この仮説の核心に迫るには、やはり光学系をバラすしかない。今回は旧型のAutomatic F1.8とAutomatic F2を分解し、ノギスで各レンズエレメントの大きさや厚みをチェックすることにした。結論から先に述べると、両モデルに差は見られなかったので、光学系は同一であるという判断に至った。
左はPetri Automatic 55mm F2(S/N: 170304) で、右はPetri Automatic 55mm F1.8(S/N: 91986)。両レンズとも設計は「旧型」である



両モデルの前玉の直径は34.94mmで同一。厚みにも差はなかった





玉を抑えるトリムリング(カニ目リング)の内径には明らかな差があり、F1.8のモデル(右)が内径33.54mmであるのに対し、F2のモデル(左)は内径31.49mmと一回り狭い。上の写真からも明らかに左の方がリングの幅が広いが、外径は同じなので、そのぶん内径が狭いことが見てわかる


ノギスによる計測対象は前玉の直径以外にも、前玉の厚み、前群全体の厚み、後群全体の厚み、後玉の直径、前・後群の絞り側のエレメントの直径、絞り全開時における絞り周辺部の鏡胴内径など多岐にわたるが、全ての点検項目で両レンズのスケールが一致した。同一光学系であるという判断に疑いの余地はなく、ペトリ@wikiに掲示されている情報をコンファームする結果となった。

入手の経緯
Petri Automatic 55mm F2 (S/N: 170304)は2017年3月にヤフオクを介して兵庫県の古物商から購入した。オークションは500円の開始価格のまま誰も入札しなかったので、この値段で自分のものとなった。商品の記載は「中古品につき外観に傷・汚れがある。ジャンク品なので返金は不可」とのことで、ガラスの状態には何も触れていないので博打的に手を出すことにした。届いたレンズには前玉の裏に汚れがあったので分解し清掃したところ綺麗になった。分解も慣れたものだ。

Petri Automatic 55mm f2(S/N: 170304) Petri Penta V(1960年発売)用、およびPetri Penta V2(1961年発売)用, 絞り F2-F16, 絞りの開閉を制限し口径比をF2としている,最短撮影距離 0.6m, 重量(実測) 205g, フィルター径 52mm, 設計構成 4群6枚準対称ガウス型, Petriブリーチロックマウント, 光学系はPetri Automatic 55mm F1.8(通称「旧型」富田良三氏による設計[3])と同一である可能性が高い



続くPetri C.C Auto 55mm F2(S/N: 203343)は2013年2月にヤフオクを介してカメラ(PETRI U VI)付きのものを1000円で落札した。カメラの方はシャッターが壊れミラーも脱落しておりジャンクとの扱いであったが、レンズの状態については何も触れていなかったので、やはり博打にうって出ることにした。ハズレくじを引くと分解清掃をするという趣味の悪い罰ゲームであるが、コンディションの良い個体が届いた。シルバーカラーは少し珍しい。カメラの方はマウント部を取り出し、アダプターをつくるための材料にした。 
Petri C.C Auto 55mm F2 (S/N: 203343) Petri Penta V6前期型(1965年発売)用, フィルター径 52mm, 設計構成 4群6枚準対称ガウス型, 絞り F2-F16,  最短撮影距離 0.6m, Petriブリーチロックマウント, 光学系はPetri Automatic 55mm F1.8(通称「旧型」富田良三氏による設計[3])と同一である可能性が高い
最後の1本Petri C.C Auto 55mm F1.8(S/N: 248448)は2017年3月にヤフオクを介して1本目のレンズと同じ兵庫県の古物商から購入した。オークションの記載は「中古品につき外観に傷・汚れがある。ジャンク品なので返金は不可」とのこと。500円の開始価格のまま誰も入札せずに自分のものとなった。届いたレンズには前玉の裏に汚れがあったが、分解し清掃したところ綺麗になった。分解・清掃は慣れたものだが、こう毎度毎度だとかったるくなる。

Petri C.C Auto 55mm F2(S/N: 248448) Petri V6II用,  フィルター径 52mm, 設計構成 4群6枚準対称ガウス型, 絞り F2-F16, 最短撮影距離 0.6m, Petriブリーチロックマウント, 光学系はPetri C.C 55mm F1.8(通称「新型」島田邦夫氏による設計[3])と同一である可能性が高い



撮影テスト
描写に定評のある上位モデル(F1.8)と同じ設計なので、本モデルも高性能であると考えて間違いはない。
ピント部中央は開放からとてもシャープなうえ解像力も十分で、安いのに感心する写りだ。背後のボケには独特の々しさがあり、2線ボケを超越した線描写のバラけっぷりが不思議に調和した旋律を奏で、ハイライト部を覆うフレアと相まって、力強く描かれた絵画のようなボケ味を作り出している。前ボケは柔らかく綺麗に拡散しており、グルグルボケや放射ボケが目立つことはない。中央のシャープネスは新旧両モデルでほぼ互角の性能であったが、四隅では旧型よりも新型の方がフレア量が少なく若干シャープな像が得られた。発色は新型の方がトリウムガラスの影響からか温調方向にコケる傾向がみられた。
当初は口径比をF2に制限したことで収差設計がいくらか過剰補正から完全補正にシフトしていると予想したが、使ってみた印象では依然として過剰補正の特徴を強く残しており、明るさこそやや異なるものの、ピント部のシャープネスやフレア量、ボケ味などにF1.8のモデルとの差を見出すことはできなかった。
F2(開放), Petri C.C Auto 55mm F2 (旧型 S/N: 203343)+ sony A7(WB:晴天) 


F2.8, Petri Automatic 55mm f2(旧型 S/N: 170304) + sony A7(WB: 日陰)




F2(開放), Petri C.C Auto 55mm F2 (旧型 S/N: 203343)+sony A7(WB:晴天): 背景が絵画にしか見えない(笑)。知人に貸したブロニカ。ペッツバールをマウントして、楽しそうにつかっている


F2(開放), , Petri C.C Auto 55mm F2 (新型S/N: 248448)+ sony A7(AWB) 開放からスッキリとヌケがよい。シャープネス、コントラストは十分
F2(開放), Petri C.C Auto 55mm F2(新型 S/N: 248448)+ sony A7(AWB) 背後のボケは非常に硬く、輪郭を保ちながら質感を潰したような面白いボケ味になっている
F2(開放), Petri C.C Auto 55mm F2 (旧型 S/N: 203343)+sony A7(WB:晴天) これだけ寄っても、平気によく写る。接写に強いレンズだ

F2(開放), Petri C.C Auto 55mm F2(新型 S/N: 248448)+ sony A7(AWB)  中心解像力は充分だ

F2(開放), Petri C.C Auto 55mm F2(新型 S/N: 248448)+ sony A7(AWB) 
F2(開放), Petri C.C Auto 55mm F2 (旧型 S/N: 203343)+ sony A7(WB:晴天)



3 件のコメント:

  1. こんばんは。
    「とても似ている」と思ってましたがやはりエレメントは同じでしたか・・・(笑)
    描写は多少違う様な気がしましたが単なる個体差(劣化具合)!?勘違い!?
    同時に分解したことがないので分かりませんでしたが、1.7の結果も楽しみです。

    背景は平面的で画用紙に水彩画で描いた感じで実に「いい感じ」ですね。
    中心部はバッチリシャープ、素晴らしいです。これは魔玉です。

    次回も楽しみにしております!





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    1. スケールは同じでしたが、ガラスは異なるかもしれませんね。
      F1.7の描写は毛色が異なります。

      コメントありがとうございました。

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    2. >F1.7の描写は毛色が異なります。

      そうですね。1.7の描写を確認した瞬間ハッと我に返った後に目と口を閉じ、PETRIというカメラメーカーの始まりから終わりまで、歴史と記憶をしみじみとなぞります。

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