ポートレート用テッサー型レンズ PART2:
フーゴ・マイヤーのバズーカ砲
Meyer PRIMOTAR 80mm F3.5
テッサータイプの中望遠レンズをもう一本紹介しよう。旧東ドイツのHugo Meyer(フーゴ・マイヤー)社が1954-1960年代中頃まで生産したPrimotar(プリモタール) 80mm F3.5である。このレンズは前エントリーで取り上げたTessar 2.8/80同様、中判カメラ(6x6フォーマット)にも流用できる一回り大きな光学系を採用しているのが特徴である。発売当初はM42とExaktaの2種のマウント規格に対応していたが、後に発売される中判カメラのKW Praktisix(P6マウント,1956年発売)にも対応した。したがって、厳密には中判用から流用したわけではなく、中判カメラにも対応できる35mm判レンズとして開発されたことになる。わざわざ大きな光学系を採用したのは、やはり階調硬化の抑止を目的としていたからではないだろうか。どっしりとした太い銀鏡胴には現代のレンズに無い強いインパクトを感じる。
Primotarブランドの前身は戦前にMeyerがlhagee社のキネ・エキザクタに標準搭載する交換レンズとしてOEM供給していたlhagee Anastigmat EXAKTAR 5cmF3.5およびEXAKTAR 5.4cmF3.5である。5.4cm F3.5のモデルがシリアル番号80万番台(1937年前後)あたりでPrimotar 5.4cmF3.5に改称されている。また、この頃にはキネEXAKTA用のPrimotar 8.5cmがF2.8の口径比で発売されている。Primotarシリーズは戦後にバリエーションを増やし、50mm F2.7, 50mmF3.5, 85mmF3.5, 135mmF3.5, 180mmF3.5など焦点距離や口径比の異なる多数のモデルが登場、1960年代には50mm F2.8も登場している。また戦前にRobot用に供給された3cmF3.5の存在も確認できる。Meyerの台帳を見ていないので全バリエーションを拾ってはいないが、おそらく他にもまだあるはずである。焦点距離が僅かに異なる85mm F3.5はVEB WEFO社の中判カメラMeister Korelle用に1950年から1952年まで短期間だけ製造され、この期間にEXAKTA用(35mm判)に換装されたモデルも登場している。その後、1954年頃から後継製品の80mmF3.5に置き換わっている。Primotar 80mmF3.5は1964年のPraktisix IIのカタログにも掲載されており、少なくとも60年代中頃までは確実に供給されていた。
PRIMOTAR F3.5の設計のトレーススケッチ。左が前側で右が後側。構成は3群4枚のTessarタイプ
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このレンズは2012年6月にeBayを介して米国の写真機材専門業者から184ドル+送料39ドルで落札購入した。商品は初期価格55ドルでスタートしたが誰かが質問掲示板に「70ドルで売ってくれないか」と個別に交渉を持ち掛け断られていた。その後、7人が入札し締切3分前には105ドルまで競り上がったが、最後は私が自動入札ソフトを用いてスナイプ入札をおこない184ドルで競り落とした。オークションの解説は「EXC+++コンディションのレンズ。ガラスはクリーンでクリア、絞り羽はクリーンでスムーズに動く。絞りリングもヘリコイドリングもスムーズで精確に動く」とのこと。届いた品は撮影に影響のないレベルでホコリの混入があったが、ガラスに傷やクリーニングマークはなく鏡胴も綺麗な状態を維持していた。ややレアなレンズである。
★撮影テスト
本レンズはF3.5の控え目な口径比のためか、前エントリーで取り上げたTessar 80mm F2.8よりもシャープでボケ癖の少ない素直な写りである。コントラストはTessar 80mmよりも高く、開放でもハロやコマは殆んど出ずにスッキリとヌケがよい。解像力はどう転んでもTessarタイプで、至って普通のレベル。同じクラスのTripletタイプやXenotarタイプのような高い解像力は期待できないものの、四隅まで均一な画角特性を維持している。発色はほぼノーマルで色のりは良好だ。開放から欠点の少ない高描写なレンズである。
F4, EOS 6D(AWB): スッキリとヌケの良い写りだ。発色は良い |
F8, EOS6D(AWB): 深く絞っても階調が硬くなりすぎることはない。カラーバランスはノーマルである |
F3.5(開放), EOS 6D(AWB): テッサータイプらしく階調が圧縮されることのない高コントラストな画質で、シャドー側にもハイライト側にも階調が広く分布しきっている(画像は無補正)。ただし、中間階調もそこそこ出ておりトーンはなだらかに推移している。やはり中判撮影用にも対応できる大きな光学系のおかげであろう |
>バズーカ砲 と言えば.....
返信削除前のツアイステッサーにしても、このプリモタールも、前の世代の中判用Primar FlexやReflex Korelleに比べると、3倍以上と思われる大きさになっています。
レンズの口径を大きくする意味合いは何となく理解できますが、レンズ全体を大型にするメリットはあるのでしょうか。
同時代の中判用蛇腹カメラのレンズと比べても、随分大きな容姿を誇っています。
「単にデザインの問題だけさ」という人もいますが、それだけの理由ではないような気がします。
lense5151さん
削除コメントありがとうございます。確かに、Primotar 80mmにしと、Biotar 75mm F1.5の後期モデルにしろ、ここまで太いとヘリコイドを指でまわすというよりも、鏡胴を手のひらでつかんで回さなければならず、もはや使いやすさを理由にするには度を超えた太さですよね。しかも、Primotar 80mmの鏡胴にアルミではなく、重く高価な真鍮が用いられている理由もわかりません。
いろいろ仮説は立てられると思いますが、ズバリの理由は思い当たりません。私が思いついた一つの説は(理由としては弱いのですが)わざと重くしたかったというものです。中望遠レンズを手持ちで撮影するとブレが問題になるからです。想像を膨らませいろいろ考えるのは楽しいものですね。
そうです!想像を膨らませいろいろ考えるのはまったく楽しいものです。
削除古典レンズの楽しみは、当たらない想像と解決しようとしない仮説の世界にあるものと確信しています。
これは私のことですが.....。(笑)
はじめまして。
返信削除最近知人からこちらのサイトの紹介をされて、楽しませて頂いています。
ところで今回のPrimotar 80mmF3.5 ですが、鏡筒は前回のTessar 80mm F2.8 と同じくアルミ製ではないでしょうか?
例えば真鍮で外径55mm・内径50mm・長さ100mmのパイプを作ると 比重にもよりますがそれだけで質量350g前後になるはずなので、それを考慮するとこのサイズのレンズで実測値365gはむしろ軽いという印象があります。
また仕上げも真鍮にクローム鍍金ではなく アルミにアルマイト仕上げされているように見えます。特にマウントの爪部分は擦れてアルミの白い地肌が出ているように見えますね。つまりこのレンズの鏡筒の白い肌はWESTROGON 24mm の距離環のゼブラの白い部分と同じで所謂アルミの白アルマイト仕上げだと推測いたします。
ちなみに手元にある明らかにアルミ鏡筒のCZJ製Tessar80mmF2.8 EXマウントは実測330g弱となっていますので、上記の推測の補強になっているかと...。
では今後も楽しい記事を期待しています(^_^)
Tanimotoさま
削除ご丁寧な解説とご助言ありがとうございました。かなり剛性の高そうな造りで、普段手にしているアルミ鏡胴とは異なる印象を持ちましたので、真鍮とばかり勘違いしていましたが、Tanimotoさんの解説で、なっとくしました。このバズーカ砲を真鍮で造ればとんでもない重量になるはずですよね。記載部分を削除しました。ありがとうございます。
spiral 様、
返信削除早速のご返答ありがとうございます。また記事内容も修正して頂いた様で恐れ入ります。
私の手元のレンズはAs is とかBGN級の傷物が多いため、材質については確認し易い条件が整っていました(^^;
あとヘリコイドに限らずネジ一般では、雄・雌ともアルミの場合カジリが発生することがあるため、どちらかを異素材にして回避することがままあります。よって今回のレンズも内部のヘリコイドの一部には真鍮が使われているかもしれませんね。
ではデッケルマウントレンズ特集楽しみにしています!
Tanimoto