おしらせ

2011/06/30

A.Schacht Ulm M-Travenar R 50mm F2.8(M42)
シャハト マクロ・トラベナー

ベルテレが設計した

テッサータイプのマクロレンズ

A.Schacht M-Travenar 50mm F2.8

A.Schacht社は1948年に旧西ドイツのミュンヘンにて創業、1954年にはウルム市に移転して企業活動を継続した光学メーカーです。創業者のアルベルト・シャハト(Albert Schacht)は戦前にCarl Zeiss, Ica, Zeiss-Ikonなどでオペレータ・マネージャーとして在籍していた人物で、1939年からはSteinheilに移籍してテクニカル・ディレクターに就くなど、キャリアとしてはエンジニアではなく経営側の人物でした。同社のレンズ設計は全て外注で、シャハトがZeiss在籍時代から親交のあったルードビッヒ・ベルテレの手によるものです。ベルテレはERNOSTAR、SONNAR、BIOGONなどを開発した名設計者ですが、戦後はスイスのチューリッヒにあるWild Heerbrugg Companyに在籍しています。

A.Schacht社は1967年にそれまで同社にネジなどの部品を供給していたConstantin Rauch screw factoryに買収され、さらに同社の光学部門は間もなく光学メーカーのWill Wetzlar社に売却されています。なお、シャハト自身は1960年に引退していますが、A.Schachtブランドのレンズは1970年まで製造が続けられました。

今回ご紹介するM-Travenar 50mm F2.8は同社が1960年代に市場供給したマクロ撮影用レンズです。このレンズは等倍まで寄れる超高倍率が売りで、ヘリコイドを目一杯まで繰り出すと、なんと鏡胴は元の長さの倍にもなります。同社のレンズは全てベルテレが設計したわけですが、設計構成はベルテレとは縁の遠いテッサータイプです。ゾナーを作ったベルテレがテッサータイプを作ると、一体どんな味付けになるのでしょう。とても興味深いレンズである事に違いありません。

A.Schacht M-Travenar 2.8/50の構成図(カタログからのトレーススケッチ)。設計構成は3群4枚のテッサータイプで、前・後群に正の肉厚レンズの用いて屈折力を稼ぎF2.8を実現している

テッサータイプのレンズ構成自体は1947-1948年にH. Zollner (ツェルナー)が新種ガラスを用いた再設計によって、球面収差とコマ収差の補正効果を大幅に改善させた事で成熟の域に達しており、口径比F2.8でも無理のない画質が実現できるようになったのは戦後のZeiss数学部(レンズ設計部門)の最も大きな成功の一つと称えられています。A.Schacht社に新しいレンズ設計を提供するにあたり、ベルテレは新種ガラスのノウハウを導入していたに違いありません。

A.Schacht M-Travenar 50mm F2.8( minolta MDマウン): 重量(実測)356g, フィルター径 49mm, 絞り F2.8-F22(プリセット機構), 最大撮影倍率 1:1(等倍), 最短撮影距離 0.08m, レンズ構成 3群4枚(テッサー型), 絞り羽数 12枚, レンズ名は「遠くへ」または「外国への旅行」を意味するTravelが由来である































入手の経緯

A.Schachtのレンズはベルテレによる設計であることが広まり、近年値上がり傾向が続いています。eBayでのレンズの相場は250~300ドルあたりですが、安く手に入れるための私の狙い目はアメリカ人で、ビックリするほど安い即決価格で出品している事が度々あります。米国ではA.Schachtのレンズに対する認識や評価があまり進んでいないのかもしれませんね。国内ではショップ価格が35000円~45000円あたりのようです。今回の私の個体は海外の得意先から出品前の製品を購入しました。珍しいミノルタMDマウントでしたが、市場に数多く流通しているのはEXAKTAやM42、ライカLマウントです。

撮影テスト

ポートレート域ではいかにもテッサータイプらしいシャープで線の太い像ですが、近接撮影時では微かに柔らかい雰囲気のある画になります。コントラストや発色は距離に寄らず良好です。滲みは距離に寄らずよく抑えられており、等倍の最短撮影距離でも充分な解像感が得られます。ここはゾナーを設計したベルテレの設計力の高さを感じます。さすがにテッサータイプなのでガウスやトリプレットのような高解像な画は吐きませんが、フィルムで使用するには、このくらいの解像力があれば十分なのでしょう。ボケはポートレート域で微かにグルっと回ります。テッサーには軽い焦点移動があり、開放でピントを合わせても絞り込んだ際にピントが狂ってしまう問題がありますが、さすがに高倍率のマクロ域で撮影する場合は、絞ってピント合わせをしますので、問題なし。

F5.6 sony NEX-5(AWB)

F2.8(開放) SONY NEX-5(AWB)

F8 SONY NEX-5(AWB)


























続いて我が家のコワモテアイドルであるサンタロボの魅力にトコトン迫ってみました。怖いですよ。

F2.8(開放) sony A7R2(WB:日陰) まずは絞りを変えながらのテストショットです。開放でも滲みなどは出ず、スッキリとしたヌケのよい写りで、発色も良いみたい。十分にシャープな画質が撮れています


F8 sony A7R2(WB:日陰) 十分に絞りましたが、中心部の解像力、改造感はあまり変わらない感じがします。開放からの画質の変化は小さく、安定感のある描写です。


F8 sony A7R2(WB:日陰) 絞り込んだまま、かなり寄ってみました。ここから先は絞り込んでとるのが基本ですので、開放でのショットは省略します。この距離でも十分な画質で近距離収差変動はよく抑えられている感じです。トナカイ君との相性もバッチリで仲良く撮れています。さらに近づいてみましょう
F8 sony A7R2(WB:日陰)ここからはコワモテ君の単独ショットで本領発揮です。彼の魅力は接近時に引き立てられます。写真のほうは思ったほど滲まず、適度な柔らかさのまま解像感も十分に維持されており、想定以上の良い画質を維持しています。近距離収差変動はよく抑えられている感じで、これぐらいの柔らかさなら雰囲気重視の物撮りにおいて普段使ってもいい気がします
F8 sony A7R2(WB:日陰)いよいよ最短撮影距離(等倍)まで来ました。コワモテ君の迫力もMAXです。微かな柔らかさを残しつつも十分な解像感が得られており、コントラストと発色は十分に良好なレベルです。等倍でも十分に使えるレンズのようで、雰囲気重視を想定しているなら物撮りで十分に使えるレンズだと思います













 

続いてはポートレート撮影での写真です。モデルはいつもお世話になっている彩夏子さん。ボーイッシュにイメチェンした彩夏子さんを初めて撮らせていただきましたが、とても新鮮でした。

F2.8(開放) sonyA7R2(WB:日陰)

F2.8(開放) sonyA7R2(WB:日陰)

F5.6  sonyA7R2(WB:日陰)

F2.8(開放) sonyA7R2(WB:日陰)

F2.8(開放) sonyA7R2(WB:日陰)

9 件のコメント:

  1. こんにちは(^^)
    M42レンズの中でも私的にはSchneiderのレンズは今ひとつピンと来なかったんですが、色味が青に転ぶクールトーン軍団ですか~。え?ツァイスのレンズに慣れ親しんできた人がはまる?これはかなりアブナイですねー。いやいや豹変系レンズ恐るべし。(笑)
    M-Travenar R 2.8/50のレンズユニットはヘリコイドの先端から外れるんですね。これも初めて知りました。

    それにしても最後の写真、骨を振り回す無邪気なお嬢さん、大きくなってからこれ見たらひっくり返るかも。うはは…。

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  2. 魔術師さん

    こんばんはクールトーン軍団の3社。中でも一番、青転びの
    特徴がはっきりしていたのは、
    Rodenstockのレンズ(Heligon, Eurygon)でした。
    ただし、このメーカーのレンズは暗部が青かぶりになるほど
    特徴が出すぎており、使いこなすには慣れが要ります。
    そのぶん、はまると思いきり強い特徴がでます。

    シュナイダーとシャハトの青転びはローデンほどの癖ではないものの、ほぼ同レベルです。

    >M-Travenar R 2.8/50のレンズユニットはヘリコイド
    >の先端から外れるんですね。これも初めて知りました。

    M42で外れるものは珍しいそうです。


    >それにしても最後の写真、骨を振り回す無邪気な
    >お嬢さん、大きくなってからこれ見たらひっくり
    >返るかも

    シュールな作例ですしね~♪♪

    じつは昨日、ロシアの大手業者から
    CZJのゾナー 2/85を落札しました。
    シリアル番号から戦中に製造された
    モデルとなります。Tコーティングが施されていました。
    私の初ゾナーです。魔術師さんは銘玉ゾナー、お持ちで
    しょうか?

    じつはこれ、なかなか興味深い個体で何とM42マウント
    なのです。ハチゴー・ゾナー(F2のもの)としては唯一、
    一眼レフで使用できるモデルということになります
    (コシナが現行で出している6群6枚はゾナー名ですので
    ゾナーではありませんので・・・)
    どうも、ロシアが接収し、老舗光学機器メーカーのKMZ
    がM42に改造したレア中のレアの製品だそうです。
    有名なJupitar-9のコピー元になった個体
    ではないかと今調べているところで、
    いまから楽しみです♪♪
    ではでは

    PS
    今週末は大阪で写真撮ってます。

    返信削除
  3. 前エントリー(MIR-20M)を公開直後、長く続いて来たZENITのMIR-20公式ページが閉鎖されてしまった・・・・。いよいよ私も危ないか・・・。

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  4. Rodenstockのレンズちょっと探してみましたがなかなかないですね。
    ところで
    >CZJのゾナー 2/85を落札?
    >KMZがM42に改造したレア中のレア?
    >Jupitar-9のコピー元になった個体?
    うはは、なんかすごいことになってきてますなあ。(^o^)
    もしそのレンズがホントにその個体なら、何とロマン溢れる話でしょう!調査結果楽しみにしてますね~。
    あ、私はゾナーを一本も持っていません。安いMCゾナー135mm3.5に手を出しかけたこともあったんですが、明るいオリンピア・ゾナーが気になって……。(笑)


    >ZENITのMIR-20公式ページが閉鎖
    うーむ。あちらから見られてたんじゃ?(笑)

    返信削除
  5. 魔術師さん
    こんにちは♪♪

    > Rodenstockのレンズちょっと探してみましたが
    > なかなかないですね。

    そうですね。あんまり作例がありませんが、Heligonでしたら、こちらにあります。
    http://spiral-m42.blogspot.com/2010/10/rodenstock-heligon-50mmf19-m42-rev2.html

    まさに、青被りレンズです。


    >もしそのレンズがホントにその個体なら、何と
    >ロマン溢れる話でしょう!調査結果楽しみにし
    >てますね~。

    萌え萌えです。

    >明るいオリンピア・ゾナーが気になって


    ひゃー。あのバズーカレンズですかぁ。
    確かに気になる存在ですが、存在感ありすぎて、
    周りから、そんなんもってどこ行くの?
    なんて言われそうですね(笑)。

    返信削除
  6. オリンピア・ゾナーもバズーカレンズですが、恐れることはありません。
    以前私が所有していたCANON EF100-400mm F4.5-5.6L IS USMは俗に「ガンダムレンズ」と呼ばれておりました。で、今使っているシグマ APO 50-500mm F4.5-6.3 DG OS HSMはどう見てもロケットランチャー。さらにCANON EF600mm F4L IS USMとかEF800mm F5.6L IS USMに至ってはもう…。(笑)

    あ、200mmクラスで私が気になってるオールドバズーカレンズはオリンピア・ゾナーともう一本、CANON EF200mm F1.8L USMです。どちらも買えませんけど、ね。(^^;)

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  7. こんばんは魔術師さん

    ガンダムレンズ!・・・あの白くてデカイのですね。

    ロケットランチャー!・・・画像検索みてビックリでした。ぐひひひひ・・・がぜん、興味湧いてきました。

    ミラーレンズはコンパクトでよさそうですが、画質面でのデメリットが多いのでしょうかね?

    壁紙となった水しぶきのコースターの写真があまりに印象的でしたので。魔術師さんの作例は
    いい刺激になっています。

    本日は夏バテでヘロヘロです。どこにも撮影に出かけられません。熱射病には気を付けてくださいね~。

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  8. It is a nice vintage macro lens but sharpness doesn't match modern macro lens, and personally I prefer steinheil macro...

    Anyway, nice article!

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    1. Hello Clark

      You may also prefer volna 9 more than industar 61L/Z. Thair relationship is similar in optical construction.

      削除

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