おしらせ

2025/01/26

KOWA Opt. Works Prominar 85mm F3.5

興和光器の写真用レンズ  part 9
コーワの中望遠レンズ
いよいよ人気の秘密に迫れるか!?
KOWA Opt. Works, PROMINAR 85mm F3.5

コーワのレンズを紹介する特集はいよいよ最終コーナーを曲がりホームストレートを爆進中ですが、ここに来て中望遠レンズがもう一本手に入りましたので、急遽予定を変更して取り上げることにしました。興和光器製作所が1959年に発売したレンジファインダー機のKALLO T85に固定装着されていたPROMINAR 85mm F3.5です[1]。設計は下図のようなオリンピア・ゾナー型(3群5枚)です。この構成の場合、明るさこそF2.8あたりまでという制約はありますが、コントラストが良く、スッキリとしたヌケのよさ、線の太い力強い描写と安定感のあるボケが特徴です。85mm F3.5の中望遠レンズともなれば設計構成の選択幅は広く、3枚玉のトリプレットや4枚玉のエルノスターなどコストパフォーマンスをさらに追求した製品でも良かったわけですが、ここに豪華なゾナーの5枚玉を当ててきたことに、コーワという会社の理念と拘りが表れています。ゾナーでありながら開放F値がF3.5と控えめな点は他のレンズではみられない本レンズ最大の特徴と言ってもよく、ビハインドシャッターに対応するという別の目的があったにしろ、かなり余裕のある設計であることは間違いありません。ちなみに、今回取り上げるプロミナーには同一構成の兄弟モデル(同年発売のレンジファインダー機KALLO 140に搭載されていた交換レンズ)が存在し、設計もおそらく完全同一です[2]。
 
KOWA 85mm F3.5構成図(文献[2]からのトレーススケッチ)。設計構成は3群5枚のオリンピア・ゾナー型です。このレンズのような前群に正の屈折力が集中した設計構成では、歪曲収差や像面湾曲が問題になります。本レンズでは後群に1枚ある弱い正レンズを絞りから遠くに配置することで、実質的には負レンズのような働きに変え、糸巻き状の歪曲を緩和するとともに、テレフォト性(光学系全長を焦点距離よりも短くする性質)も維持しています[3]。画角を広げさえしなければ、これで歪曲収差と像面湾曲は目立たないレベルに抑えられます。高い合理性を持つ優れた設計構成のレンズといえます
 
KOWA KALLO T85
  
参考文献・資料
[1] カメラレビュー クラシックカメラ専科 No.40
[2] Kallo-140 公式 Instruction manual
[3] 「レンズ設計の全て」 辻定彦著 電波新聞社

KOWA Prominar 85mm F3.5(Kallo T85用)  フィルター径 49mm, 絞り羽 5枚構成, 絞り F3.5-F22, 最短撮影距離 1.3m, 3群5枚(オリンピア・ゾナー型)
 
入手の経緯
今回ご紹介しているレンズは、もともとレンジファインダー機のKallo T85に固定装着されていました。このカメラは2025年1月に秋葉原のレモン社にて販売されていた個体で、店頭価格16000円で購入しました。カメラには若干の難点がありレンズにはカビがありましたので、家に持ち帰りレンズを摘出して清掃してみましたが、後玉に若干のカビ跡が残りました。ガラスは微妙なコンディションですが実用として使う分には何ら問題はないと判断しています。
KOWAの交換レンズはもちろんですが、kallo T自体も中古市場に多く流通しているわけでありませんので、状態の良い製品個体には希少価値からそれなりの高値がつきます。設計構成が同一のKALLO-140用モデルには中古市場で10万円を超える値がつき、コレクターズアイテムとなっていますので、Kallo T85からの改造は同レンズを安く手に入れるための、ちょっとした裏技と言ってよいでしょう。ただし、このレンズの改造は面倒ですので一般の方におすすめはできません。私の辿った改造方法を概要のみ話すと、カメラからレンズユニットを摘出したあと、切断機を用いてヘリコイドネジを根本付近から切断します。このとき、ヘリコイドネジの根本部分は光学ユニットと鏡胴の固定を兼ねているので、残しておく必要があります。下の写真のように切断部にはM37-M42アダプターリングがピッタリとはまりますので、これをネジまたはエポキシ接着で取り付けます。あとはM42-M39ヘリコイド(17-31mmタイプ)に乗せればライカL39マウントレンズとして使用できるようになります。シャッター羽根は不要なので、開いた状態でスタックさせるか取り外しておくとよいでしょう。鏡胴とヘリコイドの間に2mm程度の隙間ができるので、下の写真のようにマルミのステップダウンリング49-46mm(薄型2mm厚、ネジ山の丈は少し削って低くしておきます)でも挟んでおけば綺麗にまとまります。


撮影テスト

開放からピント部の像はシャープで、コントラストも良く、線の太い力強い描写が特徴のレンズです。ただし、解像力は平凡で、フィルム撮影では問題ないのですが、デジカメでピント部を大きく拡大するとベタッとした像になっています。背後のボケは特徴的で、輪郭部がなくブワッと滲み、グズグズっと像が崩壊するように見えます。ゾナータイプのレンズにはよくあるボケ味です。距離によっては背後に若干のグルグルボケが見られることがあり、ゾナータイプにしては珍しくクセのあるボケを楽しめます。逆光ではシャワー状のゴーストが出ます。色収差はよく補正されており、デジタル撮影でもフリンジは目立ちません。

F3.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F3.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)


F3.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F3.5(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F5.6 Nikon Zf(WB:日光)

F3.5(開放) Nikon Zf(WB:曇り空)

F3.5(開放) Nikon Zf(WB:曇り空)

F5.6 Nikon Zf(WB:曇り空)

F3.5(開放) Nikon Zf(WB:曇り空)
F5.6 Nikon Zf(WB:曇り空)





















2025/01/04

KOWA Co. Ltd., KOWA 48mm F2.8



興和光器の写真用レンズ  part 8
異色のエントリーモデル、
コーワ製テッサー型レンズ
KOWA Co. Ltd., LOWA 48mm F2.8
興和の製品ラインナップは中級機が主軸のため、今回のレンズのようなエントリーモデルは異色の存在です。このレンズは同社が1963年に発売したKOWA Hという一眼レフカメラに固定装着されていたもので、もともとブログて扱う予定はありませんでしたが、次回取り上げるKOWA SET-R 50mmをネットオークションで購入した際にセット販売で付いてきてしまったため、軽く取り上げることにしました。カメラは故障品でしたのでレンズのみ取り出し、ライカMマウントに変換してデジタルカメラで使用することにしました。設計構成は下図に示す通りの3群4枚テッサータイプです。開放F値が2.8の場合、後群に新種ガラスを導入することで、開放でもコントラストが高くシャープな描写性能が実現します。焦点距離が50mmではなく48mmという中途半端な設定になっているのが謎ですが、ピント機構が前玉回転式なので無限遠側と近接側で焦点距離が少し変化することを見越した上での製品仕様なのかもしれませんね。
 
KOWA 48mm F2.8(KOWA H)の構成図:取扱説明書からのトレーススケッチ。構成は3群4枚のテッサータイプ。左が被写体側で右がカメラの側です

フィルター径 49mm, 絞り 2枚構成(シャッター羽を兼ねる), 絞り値 F2.8-F22, ピント機構は前玉回転式, 最短撮影距離 1m, 設計構成 3群4枚(テッサータイプ), 発売年 1963年(KOWA H発売)







撮影テスト
開放からピント部はシャープで、コントラストも良好です。滲みは遠方撮影時に像を拡大するとうっすらと微かにみられる程度で、きれいな質感表現を実現しながらもコントラストには影響のない絶妙なレベルとなっています。滲みが出るのは前玉回転により無限遠撮影時に収差の補正が過剰になるためであろうと思います。近接撮影やポートレート撮影ではスッキリとしたヌケのよい像が得られ、コントラストも向上します。背後のボケは最短撮影距離あたりの近接撮影でもまだ硬く、点光源がザワザワと煩い感じになることがあります。この種のテッサータイプは四隅のボケが少し流れることがありますが、このレンズも同様でした。テッサータイプの長所がよく出ているレンズだと思います。
 
F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日陰)

F2.8(開放) Nikon Zf(WB: 日陰)





F2.8(開放) Nokon Zf(日陰) 


F2.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

 




Fujifilm GFX100Sでの写真作例
富士フィルムの中判デジタル機でもケラレは出ません。35mm換算で焦点距離38mm, 開放F値2.2相当の画角とボケ量が得られます。グルグルボケがやや顕著になり、背後のボケは崩壊気味です。

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(WB:Auto, FS.St)

F2.8(開放) Fujifilm GFX100S(F.S: Classicl Chrome, WB: auto)