おしらせ


MAMIYA-TOMINONのページに写真家・橘ゆうさんからご提供いただいた素晴らしいお写真を掲載しました!
大変感謝しています。是非御覧ください。こちらです。

2018/08/29

Zoomar München Macro-Kilar 90mm F2.8



不思議なボケが楽しめる
バットマンデザインのアメリカンマクロ
ZOOMAR/Kilfitt Makro-Kilar 90mm F2.8
バットマンの映画にはバットモービルやバットウィング、バットスーツ、バットラング(ブーメラン)など様々なスーパーアイテムが登場しますが、仮にバットマンがカメラを手にするとしたら、こんなレンズを使うに違いありません。米国ズーマー社(ZOOMAR)が1970年代に生産したマクロ・キラー(Makto-Kilar) 90mm F2.8です。このレンズはもともと1956年にミュンヘンのKilfitt(キルフィット)社から発売されたものですが、同社は1968年に当時すでに関係の深かった米国ズーマー社の傘下に入り、これ以降は1971年までズーマー社の社名でレンズを市場供給しています。ちなみに、写真用語として定着したズームレンズの「ズーム」はズーマー社の社名から来た派生語です。光学系はマクロ撮影用にチューニングされており、近接撮影時に最高のパフォーマンスを発揮できるよう、収差変動を考慮した過剰気味の補正になっています。レンズの構成はテッサータイプで、もともとはハッセルブラッドなど中判6x6フォーマットのカメラ用で使用できるよう設計されたものです。同社が様々な種類の純正アダプターを供給しており、中判カメラに加え、M42やExakta、Alpa等の35mmフォーマットのスチルカメラ、アリフレックス35等のシネマ用カメラなどに搭載され、幅広く使用されていました。

Makro-Kilar 90mm F2.8の構成図(ALPAレンズカタログからのトレーススケッチ)。左が被写体側で右がカメラの側である。レンズ構成は3群4枚のテッサータイプ

重量(実測) 520g, 最短撮影距離 0.14m, 絞り羽 16枚, 絞り F2.8-F32, 2段ヘリコイド仕様, アリフレックス・スタンダードマウント






左は無限遠撮影時。中央はヘリコイドが一回転し2段目のヘリコイドに移行するところで撮影距離は0.3m。右は2段目のヘリコイドをいっぱいまで繰り出したところで撮影距離は0.14m


入手の経緯
レンズは比較的豊富に流通しており、市場での相場は5万円~9万円あたりです。Kilfitt社銘のモデルにはシルバー鏡胴とブラック鏡胴の2種があり、Zoomar銘のモデルにはブラック鏡胴のモデルがありますが中身は全く同じです。今回のレンズは知人からお借りしました。
 
撮影テスト
開放ではフレアが発生しピント部はソフトですが、絞り込むほどスッキリとヌケがよくなり、F5.6以上に絞ると極めてシャープな像が得られます。絞りのよく効くレンズで、マクロ域で最適な画質が得られるよう、はじめから過剰補正の収差設計になっているのです。解像力は控えめで線の太い描写であるところはテッサータイプの性格をよくあらわしています。ボケは独特で、背後のボケに波紋のような光の集積部があらわれ、前ボケにもちょうどこれを反転させたような光の集積部ができます。はじめてみるタイプのボケです。絞りを開く過程で球面収差曲線が振動するためですが、手の込んだセッティングがこんなにも変わったボケを生み出しているのでしょう。絞った時の焦点移動がほとんどありません。

F2.8(開放), sony A7(AWB): 開放での独特な波紋状のボケはこのレンズの魅力の一つになっている。F5.6まで絞るとこちらのように普通のボケになる


F2.8(開放) sony A7(AWB): 絞り値を変化させ、ボケ具合を見ていきましょう。

F2.8(開放), sony A7(AWB):  背後のボケは光の集積が二重の輪を成しており、前ボケはその光の強度を反転させたようなボケ方となっている
F2.8(開放), sony A7(AWB): ピントをキッチリ合わせ、絞りに対するボケの変化をみてみよう。ピント部は少しソフトですが、

F4, sony A7(AWB): 1段絞ると少しシャープになる。ボケの二重輪は消滅しノーマルな玉ボケになる



F8, sony A7(AWB):: 深く絞るとピント部はかなりシャープ。絞るほどシャープになるレンズだ

ひとつ前の画像のピント部を拡大したもの。恐ろしくシャープだ

2018/07/17

Leica M, a new universal mount emerged in the mirrorless-camera era

LEICA-M、それはミラーレス機時代に見直され始めた
古くて新しいユニバーサルマウント
私が写真撮影に用いるカメラはソニーのフルサイズ機、フジフィルムのAPS-C機、オリンパスのマイクロフォーサーズ機の3台のミラーレス機で、これらをオールドレンズの撮影フォーマットに合わせて使い分けています。レンズの方は一眼レフカメラの全盛期に作られた製品が中心で、M42マウント、ライカMマウント、ライカRマウント、エキザクタマウント、アリフレックスSTマウント、ニコンFマウントなど6種類のマウント規格にわたります。仮にこれら6種のレンズをマウントアダプターを用いて3台のカメラ全てで使用できるようにした場合、図1に示すように必要なアダプターの数は18にもなります。これだけの数のアダプターを揃えるのはかなりの出費ですし、持ち出す機材も大きく重くなります。そして、何よりも大きな問題は、撮影現場でレンズを付け替える際に混乱が発生することです。18もの組み合わせを管理するのは大変なことなのです。混乱を避ける良い方法はないものでしょうか。
従来のシステム:6つのレンズと3つのカメラをつなぐ全組み合わせをアダプター(矢印で表記)で繋いだ概念図

実は良い方法が一つあり、全てのレンズとカメラをライカMマウントに変えてしまうというのが今回ご紹介するアイデアです。手順から話しましょう。
まず初めに3台のカメラ全てにアダプターを装着し、マウント部をライカMマウントに変換します。図2をご覧ください。用意するマウントアダプターはLEICA(M)→SONY E(SE), LEICA(M)→FUJIFILM X(FX), LEICA(M)→OLYMPUS(M4/3)の3種類です。続いてレンズの側にもアダプターを装着し、全てのレンズをライカMマウントに変換します。レンズの1つは初めからライカMマウントなので、残る5本のレンズに対して5個のアダプターを用意すれば十分です。ここまでの準備で用意したアダプターの数はカメラの側が3、レンズの側が5ですから、新システムには合計8個のアダプターが導入されています。アダプターの数を従来のシステムの半数以下に削減できたのです。

新システム:6つのレンズと3つのカメラをライカMマウント経由でつないだ概念図



そうは言っても依然として8個のアダプターを管理するわけで、これで本当に混乱は避けられるのでしょうか。改めて図2で示した新システムを見てみましょう。新システムではライカMマウントをハブにして、6本のレンズと3台のカメラが1点で繋がっています。レンズもカメラも全てライカMマウントになっているので、レンズ交換時にカメラやレンズからアダプターを取り外したり、付け替えたりする必要ないことがわかります。実はこれが狙いだったのです。従来のシステムで発生したレンズ交換時の混乱は新システムでは原理的に発生しません。アダプターの数が減る分だけ機材全体の総重量も軽くなり、同時に機材への出費も軽減されます。このシステムを採用している人同士ならレンズの貸し借りも容易におこなえるはずです。
新システムはカメラやレンズを機種変更する際にも有利です。従来のシステムではレンズの機種変更毎に3個のアダプター、カメラの機種変更毎に6個のアダプターを入れ替える必要が発生しました。これに対し、新システムではそれぞれの機種変更に対して、入れ替えるアダプターは僅か1個で済みます。長期的に見ても運用コストの大幅な低減につながるのです。
運用中の3台のカメラのうち1つが故障した場合、従来のシステムでは特定のレンズが使用不可能になる可能性がありました。しかし、新システムでは全てのレンズを全てのカメラで使用できますので、そのような事態に陥ることはありません。アクシデントにも強いことがわかります。
カメラの側にヘリコイド機能付きの高性能アダプターを当てると、レンズの最短撮影距離が短縮され近接撮影力が向上しますが、新システムではその効果を6本のレンズ全てで享受できます。また、カメラの側にTECHART LM-EA7のようなAFアダプターを当てると、6本のレンズ全てでAF撮影が可能になります。
このようにライカMマウントをハブにするという考え方にはメリットしかありません。ただし、いくつかの注意点を挙げておきましょう。
まず、レンズとカメラの間に2種類のアダプターを噛ませる場合、アダプターの精度が悪いとガタが出ることがあります。この種のガタは画質にも影響を及ぼします。これを回避するため、少なくともカメラの側に高品質なアダプターを使う必要があります。たとえば日本製のrayqualブランドやコシナ製フォクトレンダーブランドのアダプターは作りの良さと高い精度に定評があります。2種類のアダプターを繋いでもガタが出ることは極めて稀です。

カメラの側に装着するアダプターの一例。右はrayqualブランドのライカM-SEアダプター、左はフォクトレンダーブランドのライカM-FXアダプター。いずれも造りの良さと精度の高さに定評のある製品です。アダプターの連結によるガタを防止するためにも、少なくともカメラの側にこのような高い精度を誇る高級アダプターを使用することをおすすめします



新システムではアダプターを用いて個々のレンズをライカMマウントに変換します。左はLeitz Summicron-R 50mm F2(ライカRマウント)にK&FブランドのライカR―ライカMアダプターを装着しています。中央はKinoptik Apochromat 50mm F2(アリフレックスSTマウント)にHAWK’S FACTORYブランドのアリフレックスST-ライカMアダプターを装着、右はCarl Zeiss Planar 85mm F1.4(コシナ製ニコンFマウント)にrayqualブランドのNikon F―ライカMアダプターを装着しています
 
追記 ライカMマウントの仕様のためと思われますが、焦点距離135mmを超えるレンズをフルサイズ機で使用する場合は、レンズによってはケラレが出ることがあるようです。ご注意ください。

本記事は2018年6月にオールドレンズのポータルサイトLENS HOLICに掲載された記事の再掲載です。

2018/07/08

KMZ Jupiter-9 85mm F2 for Cinema(AKS-4M mount)


Jupiter-9 85mm F2+sony A7R2 with Recoilハイグリップカスタムケース



20世紀を代表する明るいレンズと言えば、真っ先に思い浮かぶのはガウスタイプとゾナータイプです。両者はレンズの設計構成のみならず描写の性格も大きく異なり、設計構成が描写の方向性を決定づける一大要因であることを私たちに教えてくれます。ガウスタイプの特徴がキレのあるフォーカス、線が細く繊細で緻密なピント部、破綻気味のボケであるのに対し、線が太く力強いピント部、安定感のある端正で優雅なボケを提供できるゾナータイプは、ガウスタイプとは異なる性格の持ち主でした。今回はロシア製ゾナー型レンズの鉄板、ジュピター・ナインをご紹介します。
 
クラスノゴルスク育ちの
35mmシネマムービー用レンズ  PART 5
レンズ選びはセンス!
シネ・ジュピターはいかがですか
クラスノゴルスク機械工場(KMZ) JUPITER-9 85mm F2 for AKS-4M cinema movie camera

カールツァイスの名玉SONNAR 8.5cm F2のクローンコピーとして誕生し、美しい描写、豪華な設計、高いコストパブォーマンスから今も絶大な人気を誇るジュピター9(Jupiter-9/ ユピテル9)。ただし、今回取り上げるのは、ただのJupiter-9ではありません。シネマ用に設計された特別仕様のモデルで、カールツァイスのアリフレックス版ゾナーやコンタレックス版ゾナーと同格のプロフェッショナル向けに供給された製品です。
ご存知かもしれませんが、ゾナーとはカール・ツァイスのレンズ設計士ルードビッヒ・ベルテレが戦前に設計した大口径レンズの銘玉です。日本やロシアでは戦後にゾナーを手本とする同一構成のレンズがたくさん作られ、ロシアではこの種のレンズがジュピター(ユピテル)の製品名で市場供給されました。ジュピターは1948年に既に登場しており、モスクワのクラスノゴルスク機械工場(KMZ)の393番プラントにて、はじめはZK(Sonnar Krasnogorsk)というコードネームで開発されました。このモデルの製造には第二次世界大戦の戦後賠償としてロシアがドイツ国内から持ち出したガラス硝材が使われ、ツァイスのイエーナ工場から召喚されたマイスター達の指導のもとで製造されました。ZKはレンズの血肉であるガラスまでもがオリジナルと同一の、いわゆるクローン・ゾナーだったのです。その後、ドイツ産ガラスの枯渇にともなう措置として、ロシアの国産硝材に切り替えるための再設計が行われ、現在のジュピターシリーズの原型が開発されました。ジュピターシリーズを設計したのは1948年にKMZ光学設計局の局長に就任したM.D.Moltsevというレンズ設計士で、Moltsevはジュピターシリーズの他にもテッサータイプのIndustar-22を設計した人物として知られています。

Jupiter-9の構成図。左は今回のシネマ用モデルで右はスチル撮影用に設計されたよくあるモデル。シネマ用の方が構成面の曲率が緩いため、高性能なガラス硝材が用いられているのでしょう




ジュピター9は1950年にKMZから登場し、まずはLeicaスクリュー互換のZorki(ゾルキー)マウントと旧Contaxマウント互換のKiev(キエフ)マウントの2種のマウント規格で市場供給されました。翌1951年には一眼レフカメラのZenit(ゼニット)用のモデルが、やはりKMZから登場します。初期のモデルはどれもシルバーカラーのアルミ鏡胴でした。レンジファインダー機向けに造られたゾルキー用とキエフ用は最短撮影距離が1.15mでしたが、一眼レフカメラのゼニット用では光学系が同一のまま0.8mまで短縮されました。KMZは1950~1957年にジュピター9を複数回モデルチェンジしていますが、1958年にレンズの生産をLZOS(ルトカリノ光学ガラス工場)とウクライナのARSENAL(アーセナル)工場に引き継ぎ、映画用カメラなど新モデルを投入する場合を除いて、基本的にはジュピター9を造らなくなっています。
LZOSからは1958-1988年にZorkiマウントとKievマウントの2種のモデルが生産され、その後、対応マウントのラインナップはM39マウント(1960年代)、シネマ用AKS-4Mマウント(1960年代~1980年代)、1970年代からはM42マウントにまで拡張されています。1980年代半ばからガラス表面にマルチコーティングを施したモデルが従来の単層Pコーティング(Pはprosvetlenijeの意)を施したモデルに混じって造られるようになり、その割合が少しづす増えていきました。一方、Arsenalからは1958-1963年にKievマウントのモデルが生産され、その後は1970年代にKiev-10/15マウントのモデルなどが生産されました。なお、1963年からは各社ともジュピター9のカラーバリエーションにブラックを追加し、その後、1968年にシルバーカラー(写真・下)は製造中止となりました。

Jupiter-9 85mm F2+sony A7R2 with Recoilハイグリップカスタムケース


今回紹介するのは35mm映画用カメラのAKS-4M(AKC-4M)に搭載する交換レンズとしてKMZから供給されたシネマ用のモデルです。レンズの構成は上図に示す通りで、スチル用からの転用ではなくシネマ用として設計されています。スチル用に比べ個々の構成面の曲率が緩く、はじめから収差を補正しやすい構造となっています。イメージサークルは広く作られており、フルサイズセンサーを余裕でカバーしています。

入手の経緯
レンズは2018年4月にeBayを介してロシアのオールドレンズを専門に扱うセラーから265ドル+送料の即決価格にて購入しました。商品はAKS-4Mマウントの状態で売られており、「新品・オールドストック」との触れ込みで「未使用状態のレンズで、カビ、キズ、クモリ、バルサム剥離、陥没等はなく、コーティングもOKだ。絞りの開閉は問題なく、絞りリングとヘリコイドリングはスムーズに回転する」とのこと。届いた品は前玉に僅かに拭き傷がある程度で、前玉に傷の多いジュピターにしては良好なコンディションでした。M52-M42ヘリコイドチューブ25-55mmに搭載し、ソニーEマウントに改造して使用することにしました。改造のための部品代を含めるとレンズには総額315ドル程度とスチル用モデルの1.5倍程度の予算がかかりました。
ブラックカラーモデル:重量[実測]282g(ヘリコイド等改造部位を除く正味の重量), 絞り羽 15枚構成, フィルタ径 49mm,  映画用カメラのAKS-4用, 設計構成 3群7枚(ゾナータイプ)
シルバーカラーのモデル:重量[実測] 281g, 他の仕様もラックモデルと全く同一


撮影テスト
ゾナータイプのレンズは解像力ではなく階調描写力で勝負するレンズです。Jupiter-9も開放から線の太い力強い描写を特徴としており、なだらかなトーンと安定感のあるボケが優雅な雰囲気を作り出してくれます。細部まで写りすぎない描写はポートレート撮影に大きなアドバンテージをもたらしてくれるはずです。コントラストは良好で発色の良いレンズですが、絞っても階調が硬くなることはありません。
今回取り上げるシネマ用のモデルと通常の良くあるスチル用モデル(ノンコート)の違いを試写し比較したところ、シアン成分の階調特性に差が見られました。日光で撮影するとスチル用モデルではここが不安定になりやすく、温調気味に色転びします。また、光量がやや少ない条件では青みが強くなる傾向がありました。発色に関してはシネマ用モデルのほうが安定しておりノーマルです。プロ用モデルの方が描写が安定しているのは理にかなっていますが、オールドレンズとしての面白みは、これとは別問題です。両モデルの解像力とボケ味は同等でしたので、どちらを選ぶかは好みの問題となります。スチル用のほうが発色が転びやすい分だけ意外性に富んだ面白い写真が得られるのかもしれません。
さて、シネ用の長玉はスチル用の同等レンズよりもハレーションが出やすく、軟らかい描写傾向のレンズが多くあり、ジュピター9も例外ではありません。レンズによっては後玉の後方にハレーションカッターを設置しているシネレンズがありますが、スチル用の同等品にこれはなく、ハレーションも出にくい性質になっています。この傾向は多くのシネレンズに普遍的にみられる性質のようですが、どうしてなのか不明です。

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)
F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)

F2(開放) sony A7R2(WB:日陰) シネマ用レンズなんだなと、感じさせる質感表現です



 
2018年夏の鎌倉、海へ・・・。


sony A7R2(WB:日光)


sony A7R2(WB:日光)


sony A7R2(WB:日光)







sony A7R2(WB:日光)

sony A7R2(WB:日光)

sony A7R2(WB:日光)
sony A7R2(WB:日光)


F2(開放) sony A7R2(WB:曇天)









2018/06/17

Additional Info. for Fuji Photo Film X-Fujinon 55mm F2.2(Fujica X-mount)




補足記事:ウナータイプの生き残り
Fuji Photo Film, FUJINON 55mm F2.2

以前、本ブログで扱ったフジノン特集の中で、私が一番のお気に入りだったFujinon 55mm F2.2について、補足情報を流します。以前の記事はこちらです。
https://spiral-m42.blogspot.com/2015/12/fuji-photo-film-x-fujinon-55mm.html

ブログで取り上げたときは二束三文で売られていた安いレンズでしたが、今は値上がりし、何と10000円くらいの相場で取引されています。驚きました。
このレンズの設計構成は私自身が長い間スピーディックタイプだと思い込んでいたのですが、これがどうも誤りであることに最近になって気が付きました。よく見ると20世紀初頭に姿を消したウナー(UNAR)タイプの生き残りではありませんか。UNARについては本ブログにも過去の記事(こちら)があります。
https://spiral-m42.blogspot.com/2013/08/ekrauss-paris-unar-zeiss-145mm-f47-and_12.html

下図は左がFUJINON 2.2/55の構成図で右がUNARの構成図です。こんな設計構成のレンズが最近まで作られていたなんて・・・。まるで、タスマニアンデビルに出会ってしまった感覚です。なんてことでしょう!



フジノンの画質が四隅まで安定しているのはUNARの形質を引き継いでいるからです。これがスピーディックですと、けっこうな暴れん坊でした。なお、このレンズは背後にハッキリとしたバブルボケが出ていました。UNARの口径比はF4.5でしたが、Fujinonでは各レンズエレメントを分厚く設計することでパワーを稼ぎ、F2.2の明るさを実現しています。あくまでマニア向けの情報ですから、民間人はスルーして下さい。

2018/05/27

KMZ PO70 22mm F2.8 for KONVAS(OCT-18 mount)



レニングラード生まれ、クラスノゴルスク育ちの
35mmシネマムービー用レンズ  PART 4
このスペックのレンズが欲しかった!APS-Cセンサーにジャストフィットできる広角シネレンズ
クラスノゴルスク機械工場 PO70(RO70) 22mm F2.8
PO70はモスクワのクラスノゴルスク機械工場(略称KMZ)とレニングラードのLENKINAPファクトリー(後に合併しLOMOを形成)が1950年代中半から1960年代にかけて市場供給したフレクトゴンタイプの広角レトロフォーカス型レンズです。このレンズはロシア版アリフレックスと呼ばれる35mm映画用カメラのカンバス(KONVAS)に搭載する交換レンズとして開発されました。コンピュータによる自動設計法がまだ普及していない1950年代に、映画用レンズに求められる高い画質基準をクリアできる、明るい広角レンズを設計することは至難の業でした。特に難しかったのはモヤモヤとしたフレアの原因であるコマ収差を補正することです。明るい広角レトロフォーカス型レンズの中では、当時VEB Zeiss Jena社(旧東ドイツ)のフレクトゴンだけがコマ収差を有効に補正できる唯一の存在でしたので、ロシアでもフレクトゴンの設計構成を採用した広角レンズが数多く作られました。
PO70の魅力はイメージサークルがAPS-Cフォーマットにピッタリフィットし、なおかつ22mm(実効値は21.1mm)というたいへん魅力的な焦点距離を持つところです。これは35mm判換算で31.7mmの広角レンズに相当する焦点距離なので、スナップ撮影や風景には使いやすい画角です。高い需要があるにも関わらずオールドレンズでこのスペックを探そうとしても、簡単には見つかりません。これは、APS-C相当のイメージフォーマットをサポートするレンズが、PEN-Fなどハーフサイズカメラの交換レンズとシネレンズなどの分野に限られていたからです。ミラーレスAPS-C機を使うオールドレンズユーザーなら、今こそ35mm映画フォーマットのシネマムービー用レンズに目を向ける時ではないでしょうか。
PO70の構成図:GOI Catalog Objective 1970に掲載されていた構成図をトレーススケッチした。設計構成は5群6枚のフレクトゴンタイプで、ビオメタールの前方に大きな凹メニスカスを配置しバックフォーカスの延長をはかったレトロフォーカス型(逆望遠型)のレンズです



KMZ製PO70の生産は1960年代も続きますが、LENKINAP製の個体(PO70-2と表記されている)は短い期間に少量が生産されたのみで、直ぐに後継モデルのOKC1-22-1 22mm F2.8にモデルチェンジしています。OKC1-22-1については本ブログでもこちらで取り上げており、レンズ設計の一部が見直されPO70よりもシャープネスの向上が図られました。このモデルはLENKINAPファクトリーがLOMOに合流した後も生産が継続され、ソ連の社会主義体制が崩壊した1991年12月以降も作られていました。軟調でクラシカルな写りを求めるならばPO70、現代レンズに近いシャープネスと鮮やかは発色を求めるならばLomo OKC1-22-1だと思います。
 
入手の経緯
流通量は多くはありませんが、探せば確実に見つかるレンズです。eBayでは200~250ドル程度で取引されています。私はウクライナのセラーからeBayを介して2本の個体を1本は190ドル、もう一本は240ドルで手に入れました。1本目の個体は前玉に軽いコーティングのヤケがみられ、2本目は薄い吹き傷が前玉に1本見られましたが、双方とも実用的には全く問題のないコンディションでした。2本ともブログ用に使用したのちオールドレンズ写真学校の参加者の方に譲渡しました。


KMZ PO70 22mm F2.8: KONVAS(COT-18)マウント, 絞り羽 6枚, 絞り F2.8-F16, 最短撮影距離 (定格) 1m, 設計構成 5群6枚フレクトゴン型, 重量(実測) 135g,  フィルターネジ 64mm

デジタル一眼カメラで使用する方法

レンズは映画用カメラのカンバス前期型が採用しているOCT-18マウントです。eBayではOCT-18マウントのレンズをミラーレス機各種で使用するためのアダプータが市販されています。また、ポーランドのセラーがOCT-18マウントをライカMマウントに変換するシルバーカラーのアダプターを販売しています。私は接写もできるようレンズをライカMマウントに変換し、ヘリコイド付アダプーターで使用しました。
 
撮影テスト
設計は高性能なフレクトゴンタイプなので開放でも描写性能は安定しています。フレアが目立つのは写真の四隅のみで、中央はスッキリとヌケがよくシャープでした。流石にレトロフォーカス型ともなれば光量落ちはなく、画面全体に均一な明るさか得られます。後継製品のokc1-22-1は現代レンズに近いたいへんシャープなレンズでしたが、PO70には軟調でクラシカルな性質が残っています。コーティングの性能にも改良の余地があったのでしょう。屋外で空に向けて撮影すると軟調さが引き立ち、発色があっさり気味になります。後継モデルで派手に見られた虹のハレーションはこのモデルでは大人し目でした。

★SONY A7R2(APS-Cモード)での撮影★
注意
フルサイズ機で使用する場合には大きくケラれます
F2.8(開放) sony A7R2(WB:日光, APS-Cクロップモード)
F2.8(開放) sony A7R2(WB: 白色蛍光灯, APS-Cクロップモード)


F2.8(開放) sony A7R2(WB:日光, APS-Cクロップモード)

F4 sony A7R2(WB:日光, APS-Cクロップモード)
F5.6 sony A7R2(WB:日光, APS-Cクロップモード)
F5.6 sony A7R2(WB:日光, APS-Cクロップモード)
F5.6 sony A7R2(WB:日光, APS-Cクロップモード)

F8 sony A7R2(WB:日光, APS-Cクロップモード)



F5.6 sony A7R2(WB:日光, APS-Cクロップモード)
F5.6 sony A7R2(WB:日光, APS-Cクロップモード)


F5.6 sony A7R2(WB:日光, APS-Cクロップモード)
F5.6 sony A7R2(WB:日光, APS-Cクロップモード)















★FUJIFILM X-T20での撮影テスト★
ホワイトバランスをオートにしているので、色味はソニーの時と比べだいぶ異なります。

F5.6  Fujifilm X-T20(AWB)

F5.6  Fujifilm X-T20(AWB)



Fujifilm X-T20(AWB)
F5.6  Fujifilm X-T20(AWB)
F8 Fujifilm X-T20(AWB)