おしらせ

2024/07/07

TOMIOKA MAMIYA-TOMINON 32mm F1.7 converted to Leica M


富岡光学ハーフカメラ用レンズ
TOMIOKA MAMIYA-TOMINON 32mm F1.7
カメラ屋のジャンクコーナーで目にしたハーフサイズカメラにトミノンが付いているのを見つけ、こんな富岡製レンズもあるのかと胸が熱くなりました。マミヤが1965年に発売したMYRAPIDというカメラの固定レンズとして供給されたMAMIYA-TOMINON 32mm F1.7です。レンズ自体に内蔵絞りはなく、カメラのシャッターを半空きにすることで絞りを兼ねるというコスト重視のシンプルな設計になっています。カメラからレンズを取り出すのは機能欠如を招きますので、あまり好ましくないのですが、今回はカメラが修理不能レベルでしたので、気にせず摘出、下の写真のようにライカMマウントに改造して用いることとしました。定格イメージフォーマットから考えるとAPS-Cセンサーを搭載したデジタルカメラで用いるのが相性のよい組み合わせです。ちなみにフルサイズ機のSOGMA fpLではケラれなしで使え、SONY A7、Nikon ZF、Panasonic S5IIでは四隅がしっかりとケラれました。何が起こっているのでしょう。
 
MAMIYA MYRAPID
TOMIOKA MAMIYA-TOMINON 32mm F1.7:  レンズ構成 5群6枚拡張ガウス型(ULTRON型),  定格イメージフォーマット  ハーフサイズ(APS-C相当)
  
レンズ構成は5群6枚のULTRON型で、前玉(G1)と2枚目(G2)に曲率の大きな分厚い正レンズが使われています。反対に後群側は小さく、前・後群のアンバランスが著しいのが特徴です。レンズを設計したのが誰なのか確かな情報はありません。ただし、この時代ですと富岡光学の木下三郎氏であった可能性が濃厚です。ネットでは同時代に販売されていたYASHICA HALF17搭載のYASHINON 3.2cm F1.7と同一設計のレンズではないかという噂もありましたが、手元に両レンズがありましたので比較してみたところ、前玉の曲率やレンズ径などが明らかに異なっており、両者は別設計でした。この時代、ヤシカと関係の深かった富岡光学は1961年に開設されたばかりのヤシカのレンズ設計部門と、ある意味でライバル関係にありました。HALF17に自社設計のレンズが採用された代わりに、富岡光学の同等モデルが、これまたヤシカと協力関連のあったマミヤのカメラに供給された事に何か深い背後関係を感じます。

撮影テスト
開放からシャープな描写で、滲みは遠景撮影時に拡大像で微かにわかる程度です。近接域からポートレート域にかけてはスッキリと抜けが良く、完全にシャープな像になります。解像力は中庸ですがコントラストは良好で発色も鮮やか。富岡光学の優秀さがよく伝わってきます。背後のボケは距離によらず安定しており、ポートレート域でも適度に柔らかく綺麗にボケてくれます。グルグルボケや放射ボケが大きく目立つことはありませんでした。逆光撮影時には虹の形のゴーストが出ることがあります。カメラと光源の位置関係(角度)によって出るときと出なくなる時がありますので、試行錯誤してみてください。
フルサイズ機のSIGMA fpLで用いる場合には超明るい広角レンズに化けます。まさに禁断のリミッター外しなわけですが、モンスター級のスペックと言ってよいでしょう。像面湾曲のため四隅の像が怪しくなり、中央の端正な画質とのギャップが大きくなります。四隅では光量落ちが顕著にみられますがケラレはありませんので、ダイナミックな階調表現や色コケを活かした唯一無二の写真を楽しむことができます。
 
今回はMAMIYA-TOMINONを愛用しているドール写真家・橘ゆうさんにお写真を提供していただきました。橘さんはオールドレンズを活かしたドールポートレートに取り組む新進気鋭の写真家です。

Photographer: 橘ゆう(@yu_Scircus)
CAMERA: SIGMA fpL
 
 
PHOTO: 橘ゆう(@yu_Scircus) , Camera: SIGMA fpL 
PHOTO: 橘ゆう(@yu_Scircus) , Camera: SIGMA fpL
PHOTO: 橘ゆう(@yu_Scircus) , Camera: SIGMA fpL

PHOTO: 橘ゆう(@yu_Scircus) , Camera: SIGMA fpL


PHOTO: 橘ゆう(@yu_Scircus) , Camera: SIGMA fpL
  
続いては、ドックポートレートに取り組むSPIRALの写真作例です。モデルはいつものワンコ❤(オマケね)。
 
Photographer: Spiral (M42 MOUNT SPIRAL)
CAMERA:  Fujifilm X-PRO-1, Nikon Zf (APS-C mode)
 
F1.7(開放)   Fujifilm X-PRO1(WB: auto, St)


F1.7 (開放)  Nikon Zf(APS-C mode, WB: 日光Auto)



F1.7 (開放)  Nikon Zf(APS-C mode, WB: 日光Auto

F1.7 (開放)  Nikon Zf(APS-C mode, WB: 日光Auto) aac

F1.7(開放) Fujifilm X-PRO1(WB 曇り空)
F1.7(開放) Fujifilm X-PRO1(WB 曇り空)

F1.7(開放) Fujifilm X-PRO1(WB 曇り空)


F1.7(開放) Fujifilm X-PRO1(WB 曇り空)
F1.7(開放) Fujifilm X-PRO1(WB 曇り空)


F1.7(開放) Fujifilm X-PRO1(WB 曇り空)








F1.7(開放) Fujifilm X-PRO1(WB 曇り空) 夜でも虹が出る不思議

2024/06/01

YASHICA COLOR-YASHINON DX 35mm F1.8

何しろ昭和の名機ヤシカ・エレクトロシリーズを語る上では外せない、広角モデルのELECTRO 35 CCに搭載されていたレンズです。広角でありながらF1.8の明るさ実現した貴重な存在でしたし、独特の青の発色は「ヤシカブルー」などと呼ばれました。いつかデジタルカメラでも使ってみたいと思っていたところ、その機会は前触れもなく訪れました。写真を撮り始めると予想外の展開が・・・。いつも被写体の背後に「何か」が写るのです。そこにいたのは「氷の妖精」の異名を持つクリオネでした!

クリオネが現れる大口径広角オールドレンズ

YASHICA COLOR-YASHINON DX 35mm F1.8

古い35mmレンジファインダー機にF2を超える明るさの広角レンズがついていることは極めて稀です。一眼レフカメラではどうかというとバックフォーカスを長く取るという制約があり、F2よりも明るい広角レンズを作ることは容易ではありません。1950年代のキャノンのライカマウントレンズやニコンSマウントレンズにこのクラスの明るいレンズが少しありましたが[0]、後に一眼レフカメラ全盛時代を迎えると、この明るさのレンズは著しく数を減らします[1]。そういうガラパゴス的な事情からか、キャノンやニコンの35mm F1.8は現在とても高価な値段で取引されています。

ある日、中古カメラ店のジャンクコーナーに束になって転がっていたヤシカエレクトロ35に出会い、思わず二度見してしまいました。明るい広角レンズCOLOR-YASHINON DX 35mm F1.8のついたELECTRO 35 CCです。一見するとごく普通のありふれたレンズが付いているようにも見えますので、誰の目にもとまらなかったわけです。カメラは故障品でしたが、レンズがまだ使えそうでしたので引き取って再利用することにしました。

ヤシカエレクトロ35シリーズといえば1965年に発売され、1980年まで全世界でシリーズ累計800万台を販売した大ヒットカメラです[4]。今回手に入れたカメラは同シリーズの中で唯一、広角レンズが付いているELECTRO 35 CCというモデルで、1970年に「ろうそく1本の明かりで撮れる!」とのキャッチコピーで登場しました。ちなみにスタンリー・キューブリック監督が明るいカール・ツァイスのレンズを手に入れ、ろうそくの炎だけで撮影した映画「バリー・リンドン」を連想させますが、映画は1975年でしたのでパクリではありません。

さて、救出したカメラの固定レンズをミラーレス機に付けるために、どう改造するかが問題でした。バックフォーカスが短く改造難度の極めて高いレンズでしたので、ヘリコイドごと取り出しライカMマウントに改造する案は物理的に不可能であることがわかりました。それどころか鏡胴が太いためSONY Eマウントに改造する事すらも実質無理(←信じ難いことですが、やってみるとわかります)。残された選択肢はヘリコイドを捨て外部ヘリコイドに載せミラーレス機のマウントにするか(ただし使えるカメラが限定されてしまう)、ミラーレス機用ヘリコイド付きアダプターでの使用を想定し、ヘリコイドレスのままライカMマウントにするか(汎用性重視)の二択です。シャッターをスタックさせるため一旦は鏡胴を分解し、シャッターユニットの内部に辿り着かなければなりません。改造には手間のかかるレンズですが、どうにかフルサイズミラーレス機で使用できるようになりました。このブログでは過去にYASHICA HALF 14用のYASHINON-DX 32mm F1.4を扱いましたが、この時も改造難度が高く散々な目に合いました。YASHINONはとにかくバックフォーカスの短い点が共通しており、容赦がありません。

YASHICA ELECTRO 35 CC。1973年には改良モデルのELECTRO 35 CCNが登場しますが、カメラのデザインはほぼ同じで、搭載されているレンズも同一です




絞り羽は脅威の2枚構成、特異仕様です。えっ?絞り羽って2枚で行けるの?。上の写真は1段絞った際の開口部の形状で、「クリオネ」のように見えますが、これが原因で写真の中の点光源が特異な形状となります。ネットにはこれを「クリオネボケ」とか「エンジェルボケ」などと呼ぶ人がいます。どうしてこんな非対称な絞りを採用したのか理解が追いつきません

COLOR-YASHINON DX 35mm F1.8のレンズ構成は4群6枚のオーソドックスなダブルガウスです[2]。前玉や後玉の曲率が大きく、ガラスが前後に大きく飛び出しています。レンズの設計と供給を担当したメーカーがどこなのかは、確かなエビデンスとなる文献や資料がなく不明です。ただし、この時代のヤシカには藤陵嚴達氏率いるヤシカ光学研究室があり、レンズを自社設計することができました。藤陵氏の回顧録にも「ヤシノン交換レンズ群、エレクトロ35用レンズ等を設計」とありますので、レンズを設計したのはヤシカ(藤陵氏もしくは藤陵監修)である可能性が濃厚です[4]。藤陵氏と言えば八洲光学工業からズノー光学(旧帝国光学工業)を経て1961年にヤシカに移籍しており、かの有名なZUNOW 50mm F1.1後期型(1953年発売)の設計に関わった人物でもあります[3]。レンズの製造は1968年から同社の子会社となった富岡光学で対応できました。レンズの設計はヤシカ、製造は富岡光学であったというのが大方の共通見解です[3-5]。情報をお持ちの方はお知らせいただけますと幸いです。

参考・脚注

[0] Canon 35mm F1.8 / F1.5(L mount), Nikon W-Nikkor 3.5cm F1.8(S mount)

[1] Minolta-HH 35mm F1.8 (MD), Tomioka Auto TOMINON 35mm F1.9(M42),  ENNA Super Lithagon 35mm F1.9 (M42, Exakta etc)

[2] YASHICA Electro 35 CCN Instruction manual

[3] 光学設計者 藤陵嚴達~ズノー、ヤシカ、リコー~, 脱力測定(2021年)

[4]  藤陵嚴達「六十年の回想」

[5] 写真工業1966年6月号 「新型カメラの技術資料」

 

撮影テスト

開放では僅かにフレアが発生し適度に柔らかい描写ですが、コントラストは良好で発色も鮮やかです。中心部は解像力があり、線の細い緻密な像を描きます。ただし、四隅にゆくほど像は甘くなります。一段絞ればフレアは消失し、スッキリとしたヌケの良い描写で、四隅までシャープな像が得られるようになります。ボケは概ね安定しており、グルグルボケは近接撮影時に少し出る程度です。発色傾向については、フィルム写真の時代から青に定評があり、くすんだような独特な青の表現を指して「ヤシカブルー」などと呼ばれることがありました。また、絞り開口部の形状が歪で、1段以上絞ると点光源がクリオネの形に見えることがあります。ネット上では「クリオネボケ」「エンジェルボケ」などと呼ばれることがあります。

F4 Nikon Zf(B&W mode)

F1.8(開放) Nikon Zf(B&W mode)
F1.8(開放) Nikon Zf(B&W mode)
F4 Nikon Zf(WB: 日光A)

F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日光A)

F5.6 Nikon Zf(WB:日光A)

続いてボケを生かした写真を何枚かどうぞ。レンズの絞り羽はたったの2枚で、このため1~2段絞ったあたりで絞りの開口部が歪な形状となります。どうしてこんな非対称な形状を選んだのか理解が追いつきません。シャッター開口部の非対称な形状に起因する不均一な光の取り込みを絞りの形状で補正したかったのでしょうか?
 
F2.8, Nikon Zf(WB: 日光)
F4, Nikon Zf(WB:日光)

F4, Nikon Zf(WB:日光)


F2.8, Nikon Zf(WB:日光)

F1.8(開放),Nikon Zf(WB:日光)

F1.8(開放) Nikon Zf(WB:日光)

F4, Nikon Zf(WB:日光)

F4, Nikon Zf(WB:日光)


スナップ写真の表現に遊び心を添える事ができるのは、この種のファンタジック系レンズの醍醐味ですね。