おしらせ

2020/02/14

Asahi Opt.Co.(PENTAX) Auto-Takumar 35mm F2.3 M42-mount


元祖レトロフォーカスの国産コピー
Asahi Opt.Co., Auto TAKUMAR 35mm F2.3(M42 mount)
一眼レフカメラの広角レンズを開発したパイオニアメーカーとして知られるフランスのP.Angenieux(アンジェニュー)。同社が1950年に発売したType R1 35mm F2.5は世界初のスチルカメラ用レトロフォーカス型広角レンズとして後世に名を残す名玉となりましたが、このレンズと全く同一構成の国産レンズがありました。後にPENTAXとなるAsahi Opt.Co.(旭光学工業)が一眼レフカメラPENTAX S2の発売に合わせ1959年から1962年にかけて市場供給したTAKUMAR(タクマ―) 35mm F2.3です[1,2]。今や710万円もするType R1によく似たレンズを手頃な価格で入手できるわけですから、これは手に入れないわけにはいけません。さっそくレンズ構成を見てみましょう。
下図の左がTAKUMAR、右の短いほうがType R1で、確かに同一構成のレンズであることがわかります。設計構成はテッサータイプ(後群のブルーの部分)をベースレンズとして前方にオレンジ色の2つのレンズユニットを追加したレトロフォーカスタイプです。最前面に据えられた大きな傘のようなレンズユニット(負のメニスカスレンズ)の効果によりバックフォーカスの延長が図られ、一眼レフカメラにおけるミラー干渉の回避を実現しています。これは、いわゆる眼鏡による近視補正の方法をレンズ設計に持ち込んだようなものです。

   
左がAsahi Opt. Co., TAKUMAR 2.3/35(1959年発売)、右がP.Angenieux Type R1 2.5/35(1952年発売)の光学系(トレーススケッチ)。設計構成は5群6枚のレトロフォーカス型
 
初期のレトロフォーカス型レンズには画質的に改良の余地が多く残されており、特にコマ収差の補正が大きな課題でした[3]。開放ではコマフレアがコントラストを低下させ、発色も淡白になりがちだったわけですが、これに対する解決法が発見されたのは1962年になってからのことです[4]。本レンズの製造期間が僅か3年と短期だったのは、日進月歩に進歩していた1960年代初頭のレトロフォーカスタイプの設計技術が、よりシャープで高コントラストなレンズを実現できるようになったからでしょう。

参考文献 

[1] Asahi Pentax S2 取り扱い説明書 1959
[2]  Takumar 2.3/35Type R1と同一構成であることはこちらの有名サイトに掲載されていた情報で知りました:「出品者のひとりごと・・」解説とオーバーホール工程: Asahi Opt. Co., (旭光学工業) Auto – Takumar 35mm/f2.3M42(20201月)
[3]「写真レンズの基礎と発展」小倉敏布 朝日ソノラマ (P174に記載)
[4] ニッコール千夜一夜物語 第12夜 Nikon-H 2.8cm F3.5 大下孝一
 

入手の経緯

中古市場では数こそ多くはありませんが、常に流通している製品です。ヤフオクでの取引相場は17500円から25000円くらいでしょう。私は2019年春に同オークションにて17500円の入札額で競り落としました。オークションの記載は「カビ、クモリ、バルサム切れ等なくガラスは美品。外観は写真で判断してほしい。フィルター枠には凹みがある」とのことでしたが、届いたレンズはヘリコイドが重めなうえマウント部にガタがありました。説明不足なので返品してもよかったのですが、自分で修理して使う事にしました。本レンズの場合は流通している個体の大半で前玉の裏に多めの拭き傷が見られます。写りに影響がないのであれば、ある程度の拭き傷は仕方ないものだと思います。
  
Takumar 35mm F2.3: 重量(カタログ値) 310g, 最短撮影距離 45cm, 絞り値 F2.3-F22( 半自動絞り), 絞り羽 10枚構成, フィルター径 62mm, 設計構成 5群6枚レトロフォーカス型(アンジェニューR1)

 

 

撮影テスト

Type R1と似ている描写傾向はありますが、想像していたよりも異なる部分の方が多くありました。Type R1よりもコントラストは高く、発色はより鮮やかでカラーバランスはノーマル、ヌケも良いです。これらはコーティングの性能やガラス透過率による差なのかもしれません。ピント部はType R1Takumarもたいへん解像感があり、被写体の質感をしっかりと捉えてくれます。四隅ではコマ収差の多いレンズにみられる玉ボケの変形がみられますが、ぐるぐるボケなどは無く、ボケはおおむね安定しています少しハイキー気味に撮るのがオススメで、開放では薄いベールを一枚覆ったようなコマフレアが強調され少しぼんやりしますが、それでいて色ノリはしっかりとしておりアーティスティックな雰囲気を作り出すことができます。Type R1では黄色にこける独特な発色と何とも表現しがたい味のある軟調描写が魅力でした。カメラ女子が使いこなすというよりはオジサンがカッコよい写真を狙うのに適したレンズだったのですが、TAKUMARの方は発色がノーマルで人肌の質感や色味も綺麗、花も鮮やかに撮ることができます。玄人向きのType R1、万人向きのTakumarといったところではないでしょうか。どちらも滲み系レンズで個性は強めです。

Photo: Shingo Shiojima
Location: 横浜イングリッシュガーデン
Camera: SONY A7S

F2.3(開放) sony A7S 美しいコマフレアが画面全体を覆っています
F2.3(開放) sony A7S 発色はType R1よりもノーマル。美しい肌の質感表現だとおもいます
F2.3(開放) sony A7S 35mmの広角でも口径比がF2.3もあれば、なかなかのボケ量が得られます

F2.3(開放) sony A7S

F2.3(開放) sony A7S 白い部分が少しぼんやりしますが、そこがいいんです







 

Camera: SONY A7R2
Location: 鎌倉
Photo: spiral

F2.3(開放)  SONY A7R2(WB:日光) 滲み系レンズの滲みを活かすには明るめに撮るのがオススメです

Camera: Fujifilm GFX100S
Photo: spiral
Aspect ratio 16:9

















続いて中判デジタルセンサーを搭載したGFX100Sでの写真です。アスペクト比を16:9に設定しダークコーナー(ケラレ)を防止しています。

F2.3(開放)Fujifilm GFX100S (16:9, WB:⛅)
















F2.3(開放)Fujifilm GFX100S (16:9, WB:⛅)

F2.3(開放)Fujifilm GFX100S (16:9, WB:⛅)

F2.3(開放)Fujifilm GFX100S (16:9, WB:⛅)










2020/01/04

シネレンズ最後の秘境LOMOのOKCシリーズ!

新年明けましておめでとうございます。
2020年もよろしくおねがいいたします。

の特集もいよいよ残すところエース級レンズの50mmと75mmのみとなりました。このクラスのシネレンズは通常は高嶺の花で、われわれ一般庶民には手の届かない価格帯のレンズですが、ロシア製ならば、まだギリギリ手の届く範囲にあります。流行るといいなぁ~。いや!流行るでしょ。