クセノタールブランドのプロジェクター用レンズで写真を撮る
AV-XENOTAR 90mm F2.4(Rolleivision用)
3年前にブログ記事で紹介したLeitz ColorplanとLeitz Hektorに続きプロジェクター用レンズを写真撮影に用いるのは今回で3度目である。この種の転用は海外のマニア層の間で一昔前から行われており、インターネットで検索するとかなりの数の写真作例が出てくる。Schneiderの製品以外にもDallmeyer, Taylor-Hobson, Angenieux, ISCO, Bell & Howell, Meopta, Voigtlander, Carl Zeiss, Boyer, Leitzなど有名メーカーがレンズの供給元として名を連ねており、絞りやヘリコイドが省かれいるため写真用レンズに比べると手頃な値段で入手できる。ただし、改造し転用することができるのはフランジバックか長くイメージサークルの広い製品に限られるので何でもオーケーというわけではない。
実は最近、ここに至る間に2本のプロジェクターレンズを写真用に転用しようと試みたが敢え無く失敗した。1本目はAngenieux 50mm F1.2であったが、届いたレンズをみたところバックフォーカスが8mm程度しかない。創意工夫で何とかカメラに搭載できたとしてもシャッターに干渉してしまうため断念。このレンズは16mmスライドプロジェクター用であるが、APS-Cセンサーのカメラでは四隅がケラれていた。もう1本は超高速レンズのMeopta Meostigmat 70mm F1.0である。インターネットにAPS-Cカメラによる作例が出ていたので淡い期待を寄せていたが、バックフォーカスは17mm程度と短い上に鏡胴の後玉側が太いため間口の広いSony Eマウントでも収まりきらない。無限遠のフォーカスを拾うには後玉側を削らなければならず断念した。こうして、プロジェクターレンズの改造がハードルの高い行為であることを痛感することになったのだが、懲りない性分の私は今回こそはと3度目の正直を念じながら、このAV-Xenotar(AVクセノタール)に辿り着いたのである。
Xenotarと言えばリンホフやローライフレックスなど高級カメラに供給されたSchneider社のフラッグシップ・ブランドである。今回みつけたAV-XenotarについてはRolleivision(ローライビジョン)というスライド・プロジェクターに搭載するレンズの上位モデルという位置づけで供給されていた。同レンズのシリーズには35mmスライド・プロジェクターのRolleivision 35(1894年登場)に搭載されたAV-Xenotar 90mmF2.4に加え、中判スライドプロジェクターのRolleivision 66(1986年登場)に搭載されたAV-Xenotar 150mmF2.8、AV-Xenotar 250mmF4などがある。さらに1993年からはRolleivision 35の後継製品であるRolleivision MSC300シリーズにバリフォーカルレンズのVario-Xenotar 70-120mm F3.5も供給されている。AV-Xenotarの一部には何と絞りのついたモデルも存在し、絞りの無い今回のモデルよりも若干値は張るが、eBayにはちょくちょく出てくる製品である。このモデルをヘリコイドに搭載すれば写真用レンズとして何不自由なく使用できるであろう。本当はこちらを手に入れたかったのだが縁がなかった。
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重量(実測) 140g, 後玉側の鏡胴径は42.5mm, 設計構成 4群4枚, コーティング HFTマルチコーティング, 写真・左は52mm-43mmステップダウンリングをはめM52-M42フォーカッシングヘリコイドに搭載したところで写真・右はヘリコイド搭載前のレンズを後玉側からみたところ |
光学系は4群4枚構成で、いわゆる4群5枚のXenotarタイプではない。構成に関する資料は見当たらないものの、開放F値がF2.4と明るいことを考えると、おそらくエルノスター型であろう。ガラス表面にはマルチコーティングの一種であるローライ製HFTコーティングが施されており、逆光にはある程度まで耐えそうである。このレンズをカメラで使用するには、まずフォーカッシング・ヘリコイドに搭載しなければならない。AV-Xenotarは鏡胴径が42.5mmなので43mm径のステップダウンリングをはめるのが手っ取り早く簡単である。例えば52mm-43mmステップダウンリングをはめM52ーM42ヘリコイドに載せるも良いし、46mm-43mmステップダウンリングをはめM46-M42ヘリコイドに搭載するのでもよいであろう。あとはM42マウントアダプターを用いれば各種カメラにマウントできる。
★入手の経緯
レンズは2015年2月にドイツ版eBayを介しインター・フォト・ジャンクという写真機材商から入手した。オークションの記述は「スライドプロジェクターのローライビジョンに用いられているレンズ。鏡胴にスレはなく、ガラスに傷、カビ、クモリはない。1ヶ月間の返品・返金保障に対応している」とのこと。35ユーロで入札し放置したところ15人が入札し32ユーロ(+送料12ユーロ)で私が落札していた。1週間程度で届いた現物はホコリや拭き傷すらない非常に良好な状態であった。おそらく未使用のデットストック品だったのであろう。美しい紫色のHFTコーティングが誇らしげに輝いていた。
★撮影テスト
解像力はポートレート域が一番良好で、人の肌の質感や細い髪の毛先まで緻密にとらえている。遠方撮影でも良好だが、反対に近接域になると急にソフトになり、急激に増大する収差により四隅まで画質を維持できなくなる。どうもマクロ撮影は苦手なレンズのようである。ボケは四隅まで良く整っておりグルグルボケや放射ボケなどは距離によらず全くみられない。後ボケはスッキリとしているが前ボケはモヤモヤとしたフレアにつつまれている。ピント部の近くではボケ味が硬くなることもあるが、ピント部から離れたところでは前ボケ・後ボケとも柔らかく拡散し綺麗にボケている。遠方を撮影する場合は球面収差がやや過剰補正気味になり後ボケはザワザワしはじめるが、ボケ量は既に小さいので実写でザワツキが目立つことは殆ど無い。コントラストは概ね良好だが、ピント部前方で発生するフレアの有無に左右され乱高下する。マルチコートレンズにしては逆光に弱くハレーションが出やすい。おそらくコーティングがプロジェクターランプの光の波長帯域に最適化されているためであろう。もともとインドア系レンズなので、これは仕方のないことである。
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Sony A7 digital(AWB): 近接域では四隅の画質を維持するのが難しい。これもレンズの個性だと思って使いたい |
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Sony A7 digital(AWB): ボケ味はピント部の前方、後方とも柔らかく綺麗に拡散している |
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Sony A7 digital(AWB): このとおり近接撮影ではソフトな描写である |
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Sony A7 digital(AWB):ピント部の近くはこのとおりザワザワすることもある。近接域での激しい収差も表現としては面白い |
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Sony A7 digital(AWB):コントラストは基本的に良い。ポートレート域での解像力は良好で肌の質感まで良く出ている |
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Sony A7 digital(AWB): 今度は少し遠方を撮ってみた。悪くない解像力である。ピントは若干外れ手前のステップ辺りにきている |
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Sony A7 digital(AWB): 逆光ではハレーションが顕著に出る。あまり逆光には強くはないようだ |
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Sony A7 digital(AWB): 枝の先までよく解像している。この距離でもピント部前方にはフレアが纏わりついている |
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Sony A7 digital(AWB): 収差変動によるボケ味の変化をみてみた。1m先の近接撮影(左)では前ボケ、後ろボケとも硬すぎず柔らかすぎずノーマルな拡散である。3m先の中距離(中央)では前ボケが更に柔らかくなりフレアを顕著に纏うようになっている。反対に後ろボケはピント部のそばのみやや硬めだが、ピント部から離れたところでは依然として柔らかい。10m先の中遠方(右)では前ボケが更に柔らかくなり後ろボケはやや硬く輪郭にエッジが立ち、玉ボケになりかかっている |
おはようございます。
返信削除いつも参考にさせてもらってます。
プロジェクター用レンズですが最近映画映写用レンズを購入して使ってみてます。
シュナイダーのシネルクス70mmf2とコーワのプロミナー6インチf2です。
ムービーレンズは高くなりましたがまだ投影レンズの方はまだなのでねらい目かもしれませんね。
kenさん
返信削除シネルクスはずーっと気になっていました。概観がゴージャスで、写りそうなレンズですね。
プロミナー6インチはずいぶん大口径ですね。白昼夢のような写りになるのではないでしょうか。
コメントありがとうございます。