ライツのスライドプロジェクター用レンズ2
HEKTOR 2.5/85 and HEKTOR 2.5/120

今回取り上げるレンズはLeitz社が1954年にスライドプロジェクター用として発売したHektor(ヘクトール) F2.5である。Hektorといえば1930年代に同社の設計士Max Berek(ベレク)[1886-1949]がトリプレットをベースに開発したレンズが元になっている。幾つかの設計バリエーション(3群4枚/3群5枚/3群6枚など)が存在するが、3群構成であることがHektor銘を冠するレンズの共通則となっている。本レンズの場合は設計構成が3群4枚であり、第2群が貼り合わせレンズに置き換わっていることがトリプレットからの改良点である(下図参照)。貼り合わせ面を用いて球面収差を強力に補正することで更なる大口径化を実現している。Hektor F2.5は同社のスライドプロジェクター(PradoシリーズやPradovitシリーズ)に標準搭載され1963年まで市場供給されていた。ところで、Hektorというレンズ名であるが、ギリシャ神話でトロイ戦争に出てくる勇士の名が由来で、設計者Berekの愛犬ヘクトールの名でもある。
本レンズが開発された1950年代初頭はプロジェクター・ランプの性能が今のようには良くなかった。スクリーンへの投影像に十分な明るさを確保するためには部屋の明りを消し、暗幕カーテンで窓を覆う必要があった。搭載するレンズはできる限り大口径にするほうが光源の明かりを有効活用できるため有利だが、画質的には厳しい条件になるため、明るさと画質の間にはトレードオフの関係があった。広角レンズを用いてスクリーンとプロジェクターの間の距離を詰めることでも投影像を明るくはできるが、Hektorのようなトリプレットの性格を持つレンズでは周辺画質が厳しいため、ある程度は長焦点にしておくことが望ましかった。ただし、口径比を一定にしたまま長焦点化(つまり大口径化)しすぎると、球面収差が膨らんで今度は解像力が維持できない。レンズに要求される解像力はマイクロ・フィルム(新聞や図書などを35mmフィルムに縮小転写したもの)の投射において文字が判読できる程度以上だったはずである。こうした事情の元でLeitzが選んだ妥協点は焦点距離の異なる3種のレンズを用意することであった。投影像が明るくピント部中央の解像力は高いが周辺画質が厳しい焦点距離8.5cmのモデル。これとは対照的に投影像は暗めで解像力はやや控えめなものの、ピント部の均一性が高く四隅まで画質が安定している12cmの長焦点モデル。そして、両者の中間的な位置付けで、よく言えばバランス、悪く言えば妥協を図った焦点距離10cmのモデルである。焦点距離10cmのレンズ一本で勝負するには画質的にも明るさ的にも厳しかったため、わざわざ3種類のモデルが同時供給されたのであろう。しかし、後にプロジェクター・ランプの性能(輝度)が向上し、レンズの方も1960年に高性能なColorplan F2.5が開発されたことで技術的な問題は解消されてしまう。Hektorは一線を退き、Leitzのプロジェクター用レンズは90mmの焦点距離を持つColorplanに一本化されている。
ところで、1954年のLeitzのカタログにはHektor3兄弟に加えElmaron 10cm F2.8が掲載されている。こいつの役割はなんだったのであろうか・・・。
今回入手した2本のHektorはブログの読者の方からお借りしたものだ。少し前のColorplanの記事に興味を持たれたSさんがHektorを所持しているので使ってみてくれとレンズを提供してくださった。偶然にもご近所様だったのでレンズの方は手渡しでお借りすることができた。2本のHektorのうち焦点距離12cmのモデルはColorplanの時に用いた特製ヘリコイドユニットに搭載可能であったが、焦点距離8.5cmの方は鏡胴径が小さかったため、市販のM42ーM42ヘリコイドユニットに搭載し使用することにした。2本のレンズともeBayでは50~75ドル程度で入手できる。ちなみに後継品のColorplanは80~100ドル前後で取引されている。
★M42ヘリコイドユニットへの搭載
本品のようなプロジェクター用レンズはヘリコイド(光学ユニットの繰り出し機構)が省かれており、一眼レフカメラやミラーレス機の交換レンズとして用いるには別途用意したヘリコイドユニットに搭載する改造が必要となる。一番簡単な改造方法は、市販品のM42ヘリコイドユニットに装着する方法であろう。Hektor 8.5cmは鏡胴の口径がM42マウントのネジ径よりも若干小さいので、セロハンテープを巻いて厚みを与えるだけでヘリコイドユニットにすっぽりと填めることができる。
本品のようなプロジェクター用レンズはヘリコイド(光学ユニットの繰り出し機構)が省かれており、一眼レフカメラやミラーレス機の交換レンズとして用いるには別途用意したヘリコイドユニットに搭載する改造が必要となる。一番簡単な改造方法は、市販品のM42ヘリコイドユニットに装着する方法であろう。Hektor 8.5cmは鏡胴の口径がM42マウントのネジ径よりも若干小さいので、セロハンテープを巻いて厚みを与えるだけでヘリコイドユニットにすっぽりと填めることができる。
一方、Hektor 12cmの方は鏡胴径が46mm弱と更に厚くM42ヘリコイドユニットには収まらないものの、Colorplanの入手時に手に入れた特製ヘリコイドユニットに装着可能であることがわかった。市販のヘリコイドユニットを用いるのであれば、どうにかして鏡胴に厚みを与えM52-M42に装着するか、あるいはM46-M42ヘリコイドユニットにギリギリ収まるのかもしれない。
Hektor 12cm F2.5は前回のColorplanの入手時に手に入れた特製ヘリコイドアダプターに装着し使用可能となった。こちらのレンズは鏡胴径が46mm弱とやや太いため、市販のM42ーM42ヘリコイドには装着できない
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Hektor F2.5はスライドプロジェクター用に設計されたレンズであり、3~7m程度の撮影距離で最高の画質が得られるようチューニングされている。これはポートレート撮影に適した距離であるが、遠方では解像力が落ちるので風景撮影には向かない。発色はこのレンズ特有の大きな軸上色収差のためか赤みがかる傾向があり、また屋外での逆光撮影にはたいへん弱くフレアが発生すると発色が途端に淡くなる。逆光撮影に対する弱さは、おそらくガラス面に敷設されたコーティングが太陽光を基準にしたものではなく、プロジェクターランプから出る光を基準に設計されているためなのであろう。ランプの光源から出る光の周波数成分に対して反射防止効果が最も高くなるようコーティングの厚みが調整されており、太陽光に対しては、かえって効果が落ちるのである。
Hektorは3枚玉のトリプレットから派生したレンズである。戦後の再設計で性能が向上したとは言え、良くも悪くもトリプレットの性質を受け継いでおり、撮影結果にはオールドレンズの性格がハッキリと表れる。ピント部中央の解像力はとても高いが、画角を広げると非点収差が急激に増し周辺像が妖しくなる(Hektor 2.5/85)。また、大口径化しすぎると球面収差の膨らみが急激に増すため画面全体が柔らかい描写となる(Hektor 2.5/120)。同じ構成でありながらやや異なる性質を持つ3本のHektor F2.5(8.5cm/10cm/12cm)を使い分けてみるというのも楽しそうな遊び方だ。
Hektor 8.5cm F2.5: スッキリとヌケがよく、ピント部中央は高解像だが非点収差が強いため四隅に行くほど解像力が顕著に落ちる。撮影距離によってはアウトフォーカス部でグルグルボケが目立つ。シリーズの中では比較的画角が広く設計されている事に加え、スクリーンへの投影を意識し像面湾曲の補正を徹底した結果、非点収差の補正力不足に陥ったのであろう。周辺画質の妖しさを生かした写真作例を狙いにゆきたいレンズだ。
Hektor 12cm F2.5: 画角が狭い長焦点レンズなので四隅まで画質が安定しておりグルグルボケも目立たない。ピント部中央の解像力は8.5cmのモデルの方が高い印象だが、ピント部の均質性ではこちらのレンズの方が上をゆくようだ。ただし、ハイライト部からは美しいハロがモヤモヤと出るなど結像がソフトになる。シリーズの中では最も大口径なモデルなので、その分だけ球面収差の膨らみが大きいためであろう。女性の肌を綺麗に撮るにはちょうど良い。
Hektor 12cm F2.5: 画角が狭い長焦点レンズなので四隅まで画質が安定しておりグルグルボケも目立たない。ピント部中央の解像力は8.5cmのモデルの方が高い印象だが、ピント部の均質性ではこちらのレンズの方が上をゆくようだ。ただし、ハイライト部からは美しいハロがモヤモヤと出るなど結像がソフトになる。シリーズの中では最も大口径なモデルなので、その分だけ球面収差の膨らみが大きいためであろう。女性の肌を綺麗に撮るにはちょうど良い。
以下作例。いつものように修正・無加工で、カメラから出したJpeg形式のダイレクト画像だ。
Hektor 12cm F2.5+Nikon D3 digital, AWB: 12cm F2.5のHektorは8.5cmF2.5のモデルよりも大口径の分だけ球面収差が大きいようで、モヤモヤとしたハロがまとわりつき像はソフトになる。ボケは綺麗だ
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Hektor 12cm F2.5+Nikon D3 digital, AWB: この場面ではグルグルボケを狙ったのだが誤算であった。12cmのHektorの方はボケに安定感がある。像はやはりソフトで女性の肌を撮るにはちょうどよさそう
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Hektor 12cm F2.5+Nikon D3 digital, AWB: 逆光にはめっぽう弱く屋外での撮影時にはフレアが出やすい。露出アンダーでごまかしているが、やはり全体的に白っぽくなってしまう。色にじみがやや目立つ
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spiralさんこんばんは。
返信削除12cm、ブルーの服を着た専属モデルさまの描写は、柔らかくそしてとても素直な描写に見えてきます。
解放専門でしかも「映し出す」ことが専門のレンズでも、十分「写し取る」ことができることを示していただきました。
lense5151さん
返信削除コメントありがとうございます。
同じ構成のレンズなのに描写が異なるあたりが
このレンズを使っていて面白かったところです。
spiralさんこんにちは。
返信削除ヘクトール120mmf2.5は筒を後部レンズぎりぎりまで切るとペンタックス645や67でも無限遠まででました。
けんさん
返信削除ご連絡ありがとうございました。写真拝見しました。645にも余裕で対応しているあたり、イメージサークルはかなり大きいものとお見受けします。鏡胴をぶった切るあたりワイルドですね。このまま絞り内蔵アダプターにかませば普通のレンズにもなりますから、Angenieuxの大口径プロジェクターレンズなどでそれができれば儲けものです(笑)。
Hi Sansei,
返信削除I have the same Leitz 8.5cm 2.5. I am planning to do the same in this photo.
http://4.bp.blogspot.com/-jYtZUKYS_oY/UIYPezF8QBI/AAAAAAAA-n4/J2BXe2lXphY/s1600/DSCF1873.JPG
But the lens diameter is larger than M42-M42 25-55 helicoid. Is the helicoid in this photo really M42-M42? or M46-M42 ?
http://2.bp.blogspot.com/-TokCKf6T5dc/UIuFJlmEw1I/AAAAAAAA-q0/zMfbjqa6baI/s640/hektor002.jpg
Thank you very much. arigato.
Hi Kit
返信削除Diameter of my hektor 8.5cm is really less than 42mm, while
that of 12cm is 45-46mm.