おしらせ


MAMIYA-TOMINONのページに写真家・橘ゆうさんからご提供いただいた素晴らしいお写真を掲載しました!
大変感謝しています。是非御覧ください。こちらです。

2020/04/23

特集:オールドレンズ世界大戦。決戦の舞台はF1.7に!



0.1のアドバンテージを巡りチキンレースを繰り広げた
日本の中堅光学メーカー
6枚構成の明るい標準レンズと言えば戦前に登場したXenonやBiotar、Summar、1950年代に登場したUltronやFlexon /Pancolarが有名で、明るさ(口径比)はいずれもF2でした。一方、1950年代中半になると高性能なガラス硝材が登場し、更に明るいレンズが設計できるようになります。市場での人気は少しでも明るい製品に集まるため、僅か0.1刻みの差を競い、各社レンズの明るさをF1.9、F1.8と変えてゆきます。この流れに警鐘を鳴らしたのはライツとニコンでした。ライツは戦後にF2のSummicronを発売し、現在までレンズの明るさを変えていません。ガラス硝材の進歩によるアドバンテージを明るさではなく画質の向上に費やすことに努めたのです。ニコンもF2からの離脱が明るさの倍化ルールを乱す愚行であると警鐘を鳴らしています[注1]。ニコンやツァイスは1960年代半ばまで、標準レンズをF2の明るさで供給していました。
明るい標準レンズを巡る闘争の中心は血気盛んな中堅メーカーでした。1960年代にはライツを除く大方のメーカーが標準レンズをF1.8の明るさで出すようになります。F1.8のレンズは銘玉揃いなのも事実で、6枚構成でもピント部の性能をどうにか維持することができました。ところが、ここから0.1明るくするというのは簡単なことではなく、技術力やガラス硝材の優劣がレンズの性能に大きな差を生みました。構成枚数を7枚に増やせば明るいレンズを無理なく作れますが、製造コストは高くつき、市場で競争力のある製品にはなりません[注2]。
コストを抑えた6枚玉で技術力を争うというのは、いかにも日本のメーカーが得意とするチキンレースですが、各社一歩も譲らず市場での優位性をかけ、1970年代に決戦の舞台をF1.7へと移行させます。ドイツ勢はF1.8まで日本勢に対抗するも離脱。最終決戦は日本の中堅メーカー達によって繰り広げられたのでした。以下に口径比F1.7の交換レンズの一覧を発売年ごとに列記します。

注1・・・口径比をF1/F1.4/F2/F2.8と√2倍で区分けしたルールで、1段変わるごとに明るさが倍となり、シャッタースピードも倍になります
 
注2・・・Carl Zeiss PLANAR 50mm F1.7(Y/C mount)が7枚玉です
 
(0)Mamiya Sekor F.C. 1.7/58 for Mamiya Prismat NP(1961年) EXAKTAマウント
(1)Minolta MC Rokkor-PF 1.7/55 for SR-T101(1966年)MCマウント
(2)Yashica Auto Yashinon DS-M 1.7/50 for TL-Electro(1969年)M42マウント 富岡製
(3)Konica HEXANON AR 1.7/50 for Autoreflex T3 (1973年) ARマウント
(4)PETRI CC auto 1.7/55 for Petri FTE(1974年) Petriマウント
(5)AUTO-ALPA MACRO 1.7/50 for Si2000(1976年) M42マウント
(6)Auto Chinon MCM Multi-coated Macro 1.7/55  M42マウント
(7)Tokyo-Kogaku RE TOPCOR 1.7/55 for Topcon RE200(1977年)EXAKTAマウント
(8)Ricoh XR Rikenon 1.7/50 for Ricoh XR-1(1977年) M42マウント
(9)Pentax smc PENTAX-M 1.7/50 for Pentax ME/MX(1977年) PKマウント
(10)Makina Opt. auto Makinon 1.7/50 PKマウント(1977年?) 
(11)KMZ Zenitar-M 1.7/50 for Zenit cameras(1977年)M42マウント
(12)Mamiya Sekor CS 1.7/50 for Mamiya NC1000S(1978年) Mamiya CSマウント
(13)Minolta MD 1.7/50 MDマウント(1981年)
(14)鳳凰光学 Phenix 1.7/50 for Phenix DC303(1992年)PK/AI/MD mount
(15)Carl Zeiss Planar 1.7/50 AEJ for Y/C(1975年) ヤシカ/京セラ

今回から毎回2本のレンズを取り上げ、レンズの性能をピント部のシャープネスで比較し、良いほうに軍配を上げます。これは、1965年~1970年代に登場したレンズが像の緻密さを表す解像力よりも写真全体の印象に作用するコントラストを重視した設計になっているからです。コントラストが高ければ発色も鮮やかですし、スッキリとしたヌケの良い描写のレンズとなります。ただし、コントラストが高いだけではシャープな像にはなりません。高い解像力(分解能)とコントラストが両立した時に、はじめて解像感の富んだシャープな像が得られます。
オールドレンズの性質の評価にはシャープネスよりも解像力やボケ味、滲み具合、フレア感、軟調性などを重視する場合が多いので、ここでの性能評価はオールドレンズ選びの参考になりません。むしろ敗北するレンズの中にこそ素晴らしい製品が見つかります。しかし、素晴らしいオールドレンズを発掘することは、本企画の趣旨ではありません。
 
組み合わせを考える際は「中国PHENIX vs ロシアZENITAR-Mの対戦が見たい」「TOPCOR vs SEKORが見たい」「PENTAX-MとMinolta MDは前評判から強豪であることは確実なのでシードにする」「Macro CHINON vs Macro ALPA(COSINA?/CHINON? OEM)が見たい]など他の方のご意見を取り入れました。また、同一メーカーのOEM製品は可能性も含めて直接の対戦を避けています




 
対戦は上のトーナメント表に沿って行い、最後にチャンピオンを決定します。とりあえずアダプターが準備できたレンズから始めますが、組み合わせにアイデアやご要望がありましたら是非お寄せください。ジャッジは自分以外にも何人かのカメラマンに参加してもらい、なるべく複数で行います。まぁ新型コロナウィルスの影響もあるので、どうなることやら先のことはわかりませんが・・・。注意事項として(0)のSekor F.C.は時代的に早すぎる製品ですのでトーナメントからは除外します。4群6枚の背伸びをした柔らかい描写のレンズでしたので出しても初戦敗退となるでしょう。(14)のPhenixは最近まで生産されていた中華ブランドのレンズですが、面白そうなので特別参加させます。ダークホースかもしれませんね。(15)のPlanarは7枚玉ですので参加資格はありませんが、7枚玉にステップアップする時の威力をみるため、最後に6枚玉のチャンピオンと比較してみたいとおもいます。繰り返しますが、評価はシャープネス(コントラスト)一発勝負です。それ以外のレンズの良さについてはレンズの作例紹介の中で取り上げていきたいと思います。


2020/04/13

ELGEET CINE NAVITAR(GOLDEN NAVITAR) Wide Angle 12mm F1.2




非球面を採用した史上初の市販レンズ
Elgeet Cine Navitar Wide Angle 12mm F1.2
米国Elgeet社(現Navitar)のCine Navitar(シネ・ナビター)は通称Golden navitar(ゴールデン・ナビター)とも呼ばれる16mmフォーマットの明るい中口径・広角シネレンズです[1]。1956年に登場したこのレンズは同社の他のモデルにはないゴールドの装飾帯が施されゴージャスな箱に納めらるなど、別格扱いされました。このモデルの何が別格なのかというと、実は市販された製品としては世界て初めて設計構成に非球面を採用した先駆的なレンズなのです[2]。設計構成は下図のような9枚構成の豪華なレトロフォーカス型で、最後群の赤で着色したレンズエレメントに非球面が採用されています。非球面の加工には膜研磨技術(Membrane polishing)という工法が用いられたそうですが、コストのかかる方法でした[3]。市販価格はたいへん高かったものと思われます。
非球面は大口径レンズにおける球面収差の補正と超広角レンズやズームレンズにおける歪曲収差の補正に大きな効果があり[4]、絞りを開放に近づけるほど大きなアドバンテージか得られます。ただし、深く絞る際は球面のみで構成された光学系の方が性能的にやや有利なようです。
イメージサークルは16mmフォーマットのシネレンズにしては広く、Nikon 1で使用できることは勿論のこと、マイクロフォーサーズ機でも撮影モードを3:4に変えればギリギリでケラレを回避できます。Nikon 1では35mm判換算で焦点距離35mm相当、マイクロフォーサーズ機(3:4モード)では焦点距離28mm相当の立派な広角レンズです。どんな写真が撮れるのか、ますます楽しみになってきました。

  
Cine Naviter 12mm F1.2の構成図。文献[2]に掲載されていたものからのトレーススケッチです。左が被写体側で右がカメラの側で、最後群の赤で着色したレンズエレメントに非球面が採用されています
  
Elgeet光学
Elgeet(エルジート)1946年に3人の若者(Mortimer A. London, David L. Goldstein, Peter Terbuska)が意気投合し、ニューヨークのロチェスターに設立した光学機器メーカーです。LondonKodak出身のエンジニアでレンズの検査が専門で、GoldsteinTerbuskaはシャッターの製造メーカーで知られるIlex社出身でした。3人は少年時代からの友人で、Elgeetという社名自体も3人の名の頭文字(L+G+T)を組み合わせたものです。彼らは1946年にアトランティック通りのロフトに店舗を開き、はじめレンズ研磨装置のリース業者としてスタート、すぐ後にレンズの製造と販売も手がけるようになりました。会社は1952年に300人弱の従業員を抱え、数千のシネマ用レンズ(8mm16mmムービーカメラ用)や光学機器を年単位で出荷する規模にまで成長します。この時点で3人の役職はGlodsteinが社長、Terbuskaが秘書、Londonが財務部長でした。プロフェッショナル向けの廉価製品を供給するというスタイルが成功したのか事業規模は順調に拡大し、1954年には米国海軍(US Navy)にミサイル追尾用レンズNavitarの供給を行うようにもなっています。更に同社は1960年頃からNASAや国防総省との関係を強めてゆきますが、この頃から会社の経営は立ち行かなくなります。同時期に筆頭創設者のLondonが退職し、その2年後に同社は一時ドイツ・ミュンヘンのSteinheil社の所有権を獲得するものの直ぐに売却。2年後の1964年には株主総会が会社の再編を勧告し、Goldsteinは社長の座を追われています。株主総会から新社長に任命されたのはAlfred Watsonという人物ですが、それから2年後に会社の資本は株式会社MATI(Management and Technology Inc)に吸収されています。なお、MATI社は1969年まで存続し消滅、Goldsteinはこの時にMATI社が保有していた資産の一部を購入し、D.O.Inc. ( 株式会社Dynamic Optics )を創設しています。しかし、この新事業は軌道に乗らず失敗し、新会社は1972年に閉鎖となっています。Goldstein1972年に改めてD.O.Industries Dynamic Optics工業社 )を設立し、事業を再々スタートしています。同社は1978年にNavitarのブランド名でスライドプロジェクター用レンズを発売し、1994年に顕微鏡用ズーム・ビデオレンズの生産にも乗り出しています。会社は1993年に株式会社NAVITARへと改称。1994年にはGoldstein2人の息子JulianJeremyが父Davidから会社を購入し、兄弟で会社の共同経営にのりだしています。2人はどちらも日本在住の経験があり日本語を話すことができます。Jeremy1984年と1985年に日本のKOWA(興和光学)に出向し、レンズの製造技術と経営学を学んだ経験があります。Navitar社はライフサイエンス関連の光学機器と軍需光学製品を製造・販売するメーカーとして今日も存続しています。

参考文献・資料
[1] NAVITAR社ホームページ:About navitar
[2] A History of the Photographic Lens(写真レンズの歴史) Kingslake (キングスレーク) 著
[3] Wikipedia: Aspheric lens
[4] カメラマンのための写真レンズの科学 /吉田正太郎
 
ELGGET CINE NAVITAR Wide Angle 12mm F1.2: 最短撮影距離 1feet(約30cm), 絞り F1.2--F16, フィルター径 38.5mm, 構成 7群9枚レトロフォーカス型, Cマウント, 発売年 1956年
 
入手の経緯
レンズは201910月にeBayを介し米国の個人出品者から100ドル+送料で落札しました。オークションの記載は「ガラスは綺麗でヘリコイド、絞りリングの回転はスムースだ。写真で判断してくれ」とのことで、安い!と思って飛びつきました。届いた個体はガラスのコンディションこそ良好でしたが、絞りに修理できない不良があり絞り羽根を除去、ヘリコイドがカッチンコッチンに重かったのでグリースを交換、ここまでしてどうにか使用できる状態となりました。米国では200ドル~300ドル程度で売られていますが、日本では認知度が少ないこともあり、決まった相場はありません。
 
撮影テスト
このレンズは広角レンズとして設計されています。Nikon 1(Super 16フォーマット)では35mm判換算で35mm相当の焦点距離となりスナップ撮影に最適な画角となります。またマイクロフォーサーズ機の撮影フォーマット3:4で用いる場合には焦点距離28mm相当となり、遠近感を誇張させるダイナミックな写真にも対応できます。F1.2という非常に明るい口径比を考えると大変優秀なレンズで、非球面を採用した効果が出ています。中央はとても緻密で解像力があり線の細い繊細な描写で、歪み(樽状の歪曲)も16mmシネマ用レンズとしてはたいへん良く補正されています。この時代のレトロフォーカス型レンズはコマフレアの補正に重大な課題を残しており、本レンズも開放ではハイライト部が滲んで軟調気味になります。ただし、コントラストを大きく損ねる程の影響はなく、オールドレンズとして捉えるならば、この程度の軟調さはかえって良い味となります。逆光には強く、レトロフォーカス型レンズでは定番のゴーストも、このレンズの場合には全く見られません。ボケは概ね安定しており、グルグルボケが大きく目立つことはありません。


Olympus PEN E-PL7(WB:auto)
 Aspect ratio 3:4(35mm換算で約28mm相当の焦点距離)
 
F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto)
F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto)
F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto) 驚いたことにマイクロフォーサーズ機の3:4モードでケラレなく使えました。35mm換算の焦点距離は28mmと立派な広角レンズです







F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto)拡大すると薄いフレアが見られるものの解像力は良好で線の細い描写です

F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto) コントラストは良好です

F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto) 

F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto) 
F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto)近接撮影時の方がコントラストは良好でシャープです
F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto) 

F1.2(開放) Olympus E-PL7(Aspect ratio:3:4, WB:auto) 逆光につよくゴーストはあまり出ません
 
   
Nikon 1 J2(WB:日光日陰)
 Aspect ratio 3:4(35mm換算で約28mm相当の焦点距離)
 
続いてNikon 1 J2での撮影結果です。このカメラには16mm映画用レンズのイメージフォーマット(Super 16)とほぼ同じ大きさの1インチセンサーが採用されており、この種のレンズには唯一無二の存在です。ただし、アダプターを介して社外レンズを使用する場合には本来備わっている露出計や拡大ピント合わせ機能が無効になるなど意地悪な仕様のため、オールドレンズユーザ達から総スカンを食らっているカメラです。実用性を確保するには海外で流通しているエミュレーションチップ搭載のアダプターを手に入れて用いるのが有効です。
  
F1.2(開放)  Nikon 1 J2(WB: 日光日陰)近接時には少しグルグルボケが出ます

F1.2(左右とも開放)  Nikon 1 J2(左右ともWB: 日陰)近接時はやはりフレア少な目ですね
F1.2(開放)  Nikon 1 J2(WB: 日陰)ここまで近いのに依然としてボケは硬めですね。まったくケラれません














2020/03/12

試写記録:SANKYO-KOHKI SUPER-KOMURA 135mm F2.8(M42 mount)

F2.8(開放)sony A7R2(WB:日光)



F2.8(開放)sony A7R2(WB:日光)



F2.8(開放)sony A7R2(WB:日光)

F2.8(開放)sony A7R2(WB:日光)

F4sony A7R2(WB:日光)

F2.8(開放)sony A7R2(WB:日光)

F2.8(開放)sony A7R2(WB:日光)

F2.8(開放)sony A7R2(WB:日光)

F2.8(開放)sony A7R2(WB:日光)取材協力いただきました。

F8(開放)sony A7R2(WB:日光)




レンズ名にSUPERを冠した特別なコムラー
SANKYO KOHKI SUPER-KOMURA 135mm F2.8(M42 mount)
 
三協光機は望遠レンズにとても力を入れていたメーカーで、同社のKOMURA 135mmにはF3.5, F2.8, F2.5, F2.3, F2と5種類ものモデルがあります。lensholicの記事(こちら)にはKOMURAの135mm F3.5がシャープなピント部とザワザワしたボケ味を特徴とするレンズであると紹介されています。そこで、同じ焦点距離135mmで半段明るいF2.8のモデルを試してみたところ、こちらはボケが柔らかく素直で、高性能な、言い換えれば没個性的なレンズでした。ピント部はシャープでコントラストが高く、線の太い力強い描写が特徴です。レンズ名にSUPERがつくだけのことはありますが、私的には廉価で構成枚数が少ない分だけ背伸びをしたF3.5のモデルの方が面白いと感じています。ただし、これらよりも更に明るいF2.3のモデルもあり、こちらはF2.8のモデルと同一構成ながらも口径比が明るいので背伸びをしている可能性があり、一転して面白い描写をみせるのかもしれません。今回取り上げるレンズはレンズ名にSUPERを冠する特別なモデルです。どうしてSUPERが付くのか理由は不明ですが、もしかしたら没個性モデルにはレンズ名にSUPERが付くのかもしれません。
KOMURAには焦点距離105mmのモデルもあり、F3.5, F2.8, F2.5, F2とこちらも4タイプもあります。更に焦点距離100mmのモデルもF1.8, F2.5, F2.8と3タイプあります(多すぎ!)。本ブログでは過去に100mm F1.8を扱いました。それぞれが少しづつ性質の異なるレンズなのだと思います。奥の深いメーカーですね。
設計構成は下図に示すような4群5枚でガウスとトリプレットの折衷なのでしょうか。ありそうであまり見ない形態です。エルノスター型なら第3群をもっと前方に置き第4群(後玉)と距離をとります。
KOMURA 135mm F2.8の光学系
 
入手の経緯
レンズはカメラ店のジャンクコーナーにある定番レンズで、流通量も多いため、中古市場ではとても安い値段で取引されています。私は2020年3月にヤフオクにてフード、ケース、前後キャップが付いたフルセットの個体を980円+送料で落札しました。オークションの解説内ではジャンクを宣言していたので博打買いですが、この値段ならば気にすることはありません。届いたレンズには中玉にカビが少しありましたが、分解し清掃したところ綺麗になりました。
 
SANKYO-KOHKI SUPER-KOMURA UNI AUTO  135mm F2.8(M42 mount): フィルター径 55mm, 重量(実測)469g, 絞り値 f2.8-F22(マニュアル/オート切り替え), 最短撮影距離 1.5m弱, 絞り羽 5枚, 本品はM42マウント

 
KOMURAは明るい望遠レンズが海外では高く評価されており、国内よりも海外で人気があります。珍しいERNOSTARタイプの設計構成を積極的に導入していたこともあり、マニアにも大人気です。これから再評価の進むメーカーの一つでしょうね。



2020/03/08

Bausch and Lomb PHOTOMATON 75mm(3inch) F2





Matonox Night-Camera
レンズを供給したのはボシュ・ロム!!!
Bausch and Lomb PHOTOMATON 75mm(3inch) F2
ドイツのC.P.Goerz(ゲルツ)社が1925年頃に試作したMatonox Night-Cameraという35mm判のカメラに搭載されていたレンズが、今回紹介するPhotomaonフォトマトン)75mm F2です[1]。同社は1926年にIca, Ernemann, Contessa-Nettel社と合併しZeiss Ikon社の設立母体となることで消滅していますので、このカメラが発売されることはありませんでした。実在するMatonox Night-Cameraに搭載されたPHOTOMATONにはメーカー名が記されておらず、レンズはカメラ同様にC.P.Goerz社が開発したものだと思われていましたが、不可解だったのは搭載されいるシャッターを供給したのがドイツのDeckel社ではなく米国のILEX(アイレクス)社であったことと、ゲルツはF2クラスの明るいレンズを自社生産するための特許を保有していなかった事です。カメラとレンズは当時、夜間での手持ち撮影を可能とし報道写真の世界に衝撃を与えたエルネマン社のエルマノックス(レンズはエルノスター)に対抗するために開発されました。
ある時このカメラの謎に対する突破口が開けました。知り合いの方からBausch and Lomb(ボシュ・ロム)社の刻印の入ったPhotomatonの存在を教えてもらい、なんと現物を預かったのです。ILEX社はBausch and Lomb社から派生したシャッター製造メーカーで、言わば生みの親のような存在です。レンズはシャッターと共に米国で開発されていたのです。
    
Bausch and Lomb PHOTOMATON 75mm F2(M42改造済): フィルター径 45mm, 絞り値 F2-F16, 設計構成 4群4枚スピーディック型, ILEX製シャッター, GOERZ Matonox Night Canera(スチル用35mmフォーマット)に供給。前群の鏡胴部側面にPhotomatonの刻印、フィルター部の名板には確かにBausch and Lombのメーカー名が刻印されています
 
今回お借りしたレンズは知り合いの方がレンズ単体の状態でeBayから入手したもので、カメラは付属していませんでした。その後、直進ヘリコイドに載せM42レンズとして使用できるよう改造したとのことです。レンズにカビ、クモリなどなく、直ぐに使用できる良好な状態でした。レンズ構成は3枚玉のトリプレットからの発展形として1924年にLeeが考案した4群4枚構成のspeedicタイプです(下図)。収差的にはあまり良い評価がありませんが明るさと立体感のある画作りを特徴とし、バックフォーカスを長く取れる点が長所で、ドイツのAstro社が高級シネマ用レンズに積極的に採用した設計構成です。たいへん貴重なレンズであることに疑いの余地はありません。
  
典型的な4群4枚のSPEEDIC型の設計構成。左が被写体側で右がカメラの側。絞りは第2レンズの直ぐ後ろに配置されています

参考文献・資料
[1]ドイツのオークションハウス”Auction Team Breker”から2008年にMatonox Night-Cameraが1台出品されています
[2]oldlens.com: Bausch and Lomb 3inch:設計構成のよく似たBausch and Lomb社製のレンズがあるという情報をいただきました。ありがとうございます。本レンズと何か関係がありそうです
 
撮影テスト
近接からポートレート域ではフレアの少ないスッキリとした描写で、コントラストはこの時代のノンコートレンズとしては良好ですが、良像域は中央部のごく限られた領域のみとなります。ボケは若干のグルグルボケが見られピント部間際で放射ボケも出ますので、非点収差がそれなりに残存している様子です。ただし、激しい像の流れには至りません。一方、遠景になるとフレアが多くなり、開放では十分な解像感が得られませんので、通常は絞って使うことになります。ポートレート撮影向きのレンズだと思います。

F2(開放) SONY A7R2(WB:日陰)置きピンで撮りました。この位では少し滲みます(シャツの★印に注目)


F2(開放) SONY A7R2(WB:日陰)近づくほど、スッキリと写るようになり・・・


F2(開放) SONY A7R2(WB:日陰)このくらいのポートレート域が一番シャープに写ります。距離によっては背後に少しグルグルボケが発生しまので、非点収差がまぁまぁ残存しているようです
F11 SONY A7R2(WB:日陰)











F5.6 sony A7R2(WB:日光) こちらも絞ってとった結果ですが、遠方をとる場合、少なくともこの位は絞らないと厳しいです。開放になるとフレアが多く、解像感の得られるのはごく限られた領域だけになります(こちら


2020/03/02

Ichizuka Opt. Professional KINOTAR 50mm F1.4(C mount)



市塚光学の16mmシネマムービーレンズ
Ichizuka Opt. Professional KINOTAR 50mm F1.4
市塚光学工業株式会社(Ichizuka Opt.)は1951年より東京都新宿区下落合2丁目にてシネマムービー/CCTV用レンズを生産していた光学機器メーカーです[1]。主力製品は8mm/16mmフォーマット用レンズで、主に米国と日本に市場供給されました。OEM生産にも積極的に取り組む傍ら自社ブランドのCosmicarやミモザ社の登録商標であるKinotar/Kinotelでもレンズを製造[2]、広角から望遠、明るい大口径レンズまであらゆる種類のシネレンズを手掛けていました[3]。同ブランドには広角のWide-Angle KINOTAR、標準レンズのKINOTAR、望遠のKINOTEL、明るいハイエンドモデルのProfessional KINOTARなどがあります。同社は1967年にCosmicar Optical Co.に改称、COSMICARブランドやIZUKARブランドで産業用CCTVレンズを供給しますが、その後は経営不振に陥り旭光学(後のPENTAX / RICOHイメージング)の子会社となっています。旭光学の傘下ではCOSMICARブランドでCCTVレンズを生産し、現在もRICOHイメージングの傘下で生産を続けています。雑誌や広告に掲載されている情報をたよりに、中古市場に出回っているKINOTARブランドのレンズを列記しておきましょう[1,3]。これが全てではないかもしれませんので、もし他にもありましたら、お知らせいただければ追加してゆきたいと思います。

Wide-angle Kinotar
1.9/6mm(Dマウント); 1.5/15mm(Cマウント)

Kinotar
1.9/13mm(D); 2.5/7mm(D); 1.9/38mm(D); 1.4/38mm(D); 1.9/25mm(C); 1.9/12.7(C); 1.9/75mm(C) ; 1.9/15mm(C)

Kinotel
 1.5/75mm(C); 2.5/75mm(C); 3.5/75mm(C); 1.9/25mm(C) ; 1.5/38mm(D); 1.9/38mm(D); 2.5/38mm(D); 3.2/38mm(D); 3.5/38mm(D)

Professional Kinotar
1.4/12.5(C); 1.4/25mm(C); 1.9/50mm(C); 1.4/50mm(C); 2.5/75mm(C);  1.4/75mm(C)

今回は最近ヤフオクで手に入れたProfessional KINOTAR(プロフェッショナル・キノター) 50mm F1.4を取り上げます。設計構成は光の反射を見る限り4群6枚のガウスタイプと推測でき、同社のレンズの中では75mm F1.4に次ぐボケ量の大きなレンズです。イメージサークルはフルサイズセンサーこそカバーしていませんが、APS-Cフォーマットは充分にカバーしており、暗角(ダークコーナー)は全く出ません。


Professional KINOTAR 50mm F1.4: 重量(実測) 274g , フィルター径 40.5mm, 絞り羽 10枚, 絞り f1.4-f22, 最短撮影距離 1.5m強, cマウント, 定格イメージフォーマット 16mmシネマフォーマット
 
参考文献・資料
[1]アサヒカメラ 1958年10月広告
[2] United States Patent and Trademark Office
[3]Popular Photography ND 1957 4月; 1957 1月(米国)

入手の経緯
普通のKinotarはどれも安く手に入りますが、Professional KinotarF1.4クラスは別格で、日本よりも海外での評価が高く、eBayでは高値で取引されています。75mm F1.450mm F1.4は特に珍しいモデルでコレクターズアイテムとなっています。マイクロフォーサーズユーザーならProfessional Kinotar 25mm F1.4はまだ安くてオススメです。

本レンズは201912月にヤフオクに出品されていたものを競買の末に落札しました。オークションの記載はではレンズにクモリがあるとのことでしたが、ただの汚れで軽く拭いたところ完全にクリアになりました。

撮影テスト
本来は16mmシネマフォーマットに準拠した設計のレンズですが、今回はAPS-Cフォーマットで試写しまた。本来は写らない写真の四隅を拾うので画質的に乱れるのは当然ですが、ガウスタイプのためか、このレンズは開放でも四隅まで安定感があります。開放ではピント部ハイライトが微かに滲む適度に柔らかい些細な描写ですが、解像感は充分にあります。トーンはとてもなだらかで繋ぎ目がなく、開放付近ではオールドレンズらしい軟調な描写を堪能できます。発色は開放でやや淡くなるものの濁るほどではありません。絞ればフレアは消えスッキリとした透明感のある描写で、発色も鮮やかになります。グルグルボケや放射ボケはなくボケは安定しており、やや硬めの歯応えのあるボケ味で、なだらかなトーンを纏い良い味を出しています。逆光では簡単に虹が出ますので、活かすもよし、フードをつけて抑えるのもよし。フルサイズセンサーこそカバーしませんが、これだけ明るければAPS-Cセンサーでもフルサイズ換算で75mm F2相当の画作りができます。魅力的なレンズだと思います。
 
モデル 彩夏子さん
sony A7R2(APS-C mode)
F1.4(開放) sony A7R2(APS-C mode, WB:曇天)
F1.4(開放) sony A7R2(APS-C mode, WB:曇天)
F1.4(開放) sony A7R2(APS-C mode, WB:曇天)

 
ここまでかなり優等生ですが、逆光での写りはどうでしょう。最初の1枚目(下の写真)はフードをつけた場合ですが、ピント部をフレアが纏い、キラキラとした素晴らしい描写となります。続いてがフードをとった場合の写真です。ハレーションが盛大に発生し、なかなかの面白い画になります。虹が出ることもありました。このレンズはハマります。
 
F1.4(開放) sony A7R2(APS-C mode, WB:日光)
F1.4(開放) sony A7R2(APS-C mode, WB:日光)逆光ではこの通りに虹ありハレーションありの面白い画になります







FUJIFILM X-T20

最後にフジフィルムのX-T20での写真です。コントラストの高い描写であることがわかるとおもいます。四隅での光量の落ち具合がなだらかで、雰囲気ありますね。
 
F1.4(開放) FUJIFILM X-T20(WB:曇空) APS-Cは完全にカバーします。コントラストがいいですね




F1.4(開放) FUJIFILM X-T20(WB:曇空)縦写真を2枚貼り合わせました。ボケには安定感があります