0.1のアドバンテージを巡りチキンレースを繰り広げた
日本の中堅光学メーカー
6枚構成の明るい標準レンズと言えば戦前に登場したXenonやBiotar、Summar、1950年代に登場したUltronやFlexon /Pancolarが有名で、明るさ(口径比)はいずれもF2でした。一方、1950年代中半になると高性能なガラス硝材が登場し、更に明るいレンズが設計できるようになります。市場での人気は少しでも明るい製品に集まるため、僅か0.1刻みの差を競い、各社レンズの明るさをF1.9、F1.8と変えてゆきます。この流れに警鐘を鳴らしたのはライツとニコンでした。ライツは戦後にF2のSummicronを発売し、現在までレンズの明るさを変えていません。ガラス硝材の進歩によるアドバンテージを明るさではなく画質の向上に費やすことに努めたのです。ニコンもF2からの離脱が明るさの倍化ルールを乱す愚行であると警鐘を鳴らしています[注1]。ニコンやツァイスは1960年代半ばまで、標準レンズをF2の明るさで供給していました。
明るい標準レンズを巡る闘争の中心は血気盛んな中堅メーカーでした。1960年代にはライツを除く大方のメーカーが標準レンズをF1.8の明るさで出すようになります。F1.8のレンズは銘玉揃いなのも事実で、6枚構成でもピント部の性能をどうにか維持することができました。ところが、ここから0.1明るくするというのは簡単なことではなく、技術力やガラス硝材の優劣がレンズの性能に大きな差を生みました。構成枚数を7枚に増やせば明るいレンズを無理なく作れますが、製造コストは高くつき、市場で競争力のある製品にはなりません[注2]。
コストを抑えた6枚玉で技術力を争うというのは、いかにも日本のメーカーが得意とするチキンレースですが、各社一歩も譲らず市場での優位性をかけ、1970年代に決戦の舞台をF1.7へと移行させます。ドイツ勢はF1.8まで日本勢に対抗するも離脱。最終決戦は日本の中堅メーカー達によって繰り広げられたのでした。以下に口径比F1.7の交換レンズの一覧を発売年ごとに列記します。
注1・・・口径比をF1/F1.4/F2/F2.8と√2倍で区分けしたルールで、1段変わるごとに明るさが倍となり、シャッタースピードも倍になります
注2・・・Carl Zeiss PLANAR 50mm F1.7(Y/C mount)が7枚玉です
(0)Mamiya Sekor F.C. 1.7/58 for Mamiya Prismat NP(1961年) EXAKTAマウント
(1)Minolta MC Rokkor-PF 1.7/55 for SR-T101(1966年)MCマウント
(2)Yashica Auto Yashinon DS-M 1.7/50 for TL-Electro(1969年)M42マウント 富岡製
(3)Konica HEXANON AR 1.7/50 for Autoreflex T3 (1973年) ARマウント
(4)PETRI CC auto 1.7/55 for Petri FTE(1974年) Petriマウント
(5)AUTO-ALPA MACRO 1.7/50 for Si2000(1976年) M42マウント
(6)Auto Chinon MCM Multi-coated Macro 1.7/55 M42マウント
(6)Auto Chinon MCM Multi-coated Macro 1.7/55 M42マウント
(7)Tokyo-Kogaku RE TOPCOR 1.7/55 for Topcon RE200(1977年)EXAKTAマウント
(8)Ricoh XR Rikenon 1.7/50 for Ricoh XR-1(1977年) M42マウント
(9)Pentax smc PENTAX-M 1.7/50 for Pentax ME/MX(1977年) PKマウント
(10)Makina Opt. auto Makinon 1.7/50 PKマウント(1977年?)
(11)KMZ Zenitar-M 1.7/50 for Zenit cameras(1977年)M42マウント
(12)Mamiya Sekor CS 1.7/50 for Mamiya NC1000S(1978年) Mamiya CSマウント
(13)Minolta MD 1.7/50 MDマウント(1981年)
(14)鳳凰光学 Phenix 1.7/50 for Phenix DC303(1992年)PK/AI/MD mount
(14)鳳凰光学 Phenix 1.7/50 for Phenix DC303(1992年)PK/AI/MD mount
(15)Carl Zeiss Planar 1.7/50 AEJ for Y/C(1975年) ヤシカ/京セラ
今回から毎回2本のレンズを取り上げ、レンズの性能をピント部のシャープネスで比較し、良いほうに軍配を上げます。これは、1965年~1970年代に登場したレンズが像の緻密さを表す解像力よりも写真全体の印象に作用するコントラストを重視した設計になっているからです。コントラストが高ければ発色も鮮やかですし、スッキリとしたヌケの良い描写のレンズとなります。ただし、コントラストが高いだけではシャープな像にはなりません。高い解像力(分解能)とコントラストが両立した時に、はじめて解像感の富んだシャープな像が得られます。
オールドレンズの性質の評価にはシャープネスよりも解像力やボケ味、滲み具合、フレア感、軟調性などを重視する場合が多いので、ここでの性能評価はオールドレンズ選びの参考になりません。むしろ敗北するレンズの中にこそ素晴らしい製品が見つかります。しかし、素晴らしいオールドレンズを発掘することは、本企画の趣旨ではありません。
対戦は上のトーナメント表に沿って行い、最後にチャンピオンを決定します。とりあえずアダプターが準備できたレンズから始めますが、組み合わせにアイデアやご要望がありましたら是非お寄せください。ジャッジは自分以外にも何人かのカメラマンに参加してもらい、なるべく複数で行います。まぁ新型コロナウィルスの影響もあるので、どうなることやら先のことはわかりませんが・・・。注意事項として(0)のSekor F.C.は時代的に早すぎる製品ですのでトーナメントからは除外します。4群6枚の背伸びをした柔らかい描写のレンズでしたので出しても初戦敗退となるでしょう。(14)のPhenixは最近まで生産されていた中華ブランドのレンズですが、面白そうなので特別参加させます。ダークホースかもしれませんね。(15)のPlanarは7枚玉ですので参加資格はありませんが、7枚玉にステップアップする時の威力をみるため、最後に6枚玉のチャンピオンと比較してみたいとおもいます。繰り返しますが、評価はシャープネス(コントラスト)一発勝負です。それ以外のレンズの良さについてはレンズの作例紹介の中で取り上げていきたいと思います。