おしらせ

2024/11/24

Ichizuka Opt. Telephoto Cine KINOTEL 3inch(76.2mm) F1.5

 

画角が欲しい、魔力も欲しい。欲ばりな人が手に染めるテレ系レンズのリミッター外し

Ichizuka Opt. Kinotel 3inch(76.2mm) F1.5 C-mount

今回取り上げるKinotel(キノテル)のように16mmフォーマットのシネマ用レンズにはハイスペックな製品が数多くあり、3inch F1.5ともなると目が離せません。それにも関わらす値段は数万円程度と手頃なので、つい手を出したくなるのですが、16mmのシネレンズで問題なのはイメージサークルが小さいことです。デジタルカメラで使用するとケラレが生じる可能性が高く、使えるカメラは限られてしまいます。ケラレの出る原因は多々ありますが、望遠系レンズの場合には後玉のすぐ後ろに設けられているフレアカッターと呼ばれる反射板が主な要因です。今回「リミッター」と呼んでいるのはこの部分の事で、画質的な理由から反射板で光路を狭めイメージサークルのサイズに制限をかけているわけです。これを外せばイメージサークルが拡大し、より広い受光部(フィルムやイメージセンサー)をもつカメラでもケラれる事なく使えるようになります。望遠系レンズの場合には潜在的に大きなイメージサークルを持っていますので、運が良ければAPS-Cフォーマットやフルサイズフォーマットなどデジタル一眼カメラのスタンダードな規格でも、ケラレることなく撮影できます。早速、リミッター外しを試してみたところ、KinotelではAPS-Cフォーマットまでケラれることなく使うことができました。

後玉付近に設けられたフレアカッター。今回は写真内の赤線部分をカットしました。フレアカッターをつけたままですと、イメージサークルはAPS-Cセンサーをカバーせず、マイクロフォーサーズセンサーまでが限度です。フレアカッターを外すとフルサイズセンサーこそギリギリでカバーできませんが、APS-Cセンサーは余裕でカバーできるようになります


今回取り上げるのは、COSMICARブランドで知られる市塚光学が1950年代後半から1960年前後あたりで製造した16mmシネマ用望遠レンズのkinotel 3 inchです。レンズの設計構成は公表されていませんが、おそらく前群は2+1の2群3枚でペッツバールの前群のような分厚い2枚の貼り合わせレンズの後ろに正または負のメニスカスが配置されており、後群は普通のゾナーと思われる1群2枚です。構成図などの情報をお持ちの方がおりましたら、お知らせいただければ助かります。

光の反射から推測した構成図(スケッチ)。左が被写体側で右がカメラの側です。空気境界面の曲率は概ね合っていますが、内部の張り合わせ面の向きは肉眼による判断なので、確実ではありません。G2のメニスカスが正なのか負なのかもわかりません

 

市塚光学

市塚光学工業株式会社(Ichizuka Opt.)は1951年より東京都新宿区下落合2丁目にてシネマムービー/CCTV用レンズを生産していた光学機器メーカーです[1]。主力製品は8mm / 16mmフォーマット用レンズで、主に米国と日本に市場供給されました。OEM生産にも積極的に取り組む傍ら自社ブランドのCosmicarや米国ミモザ社の登録商標であるKinotar/ Kinotelでもレンズを製造[2]、広角から望遠、明るい大口径レンズまであらゆる種類のシネレンズを手掛けていました[3]。同ブランドには広角のWide-Angle KINOTAR、標準レンズのKINOTAR、望遠のKINOTEL、明るいハイエンドモデルのProfessional KINOTARなどがあります。同社は1967年にCosmicar Optical Co.に改称、COSMICARブランドやIZUKARブランドで産業用CCTVレンズを供給しますが、その後は経営不振に陥り旭光学(後のPENTAX / RICOHイメージング)の子会社となっています。旭光学の傘下ではCOSMICARブランドでCCTVレンズを生産し、現在もRICOHイメージングの傘下で生産を続けています。

 

参考文献・資料
[1]アサヒカメラ 1958年10月広告

[2] United States Patent and Trademark Office

[3]Popular Photography ND 1957 4月; 1957 1月(米国)

 

Ichizuka Opt. Telephoto Cine KINOTEL 3inch F1.5: 重量(実測)503g, 絞り羽根 16枚構成, 絞り F1.5-F16, 最短撮影距離 約1m, Cマウント




入手の経緯

2024年6月にeBay経由で米国のカメラ屋から220ドル+送料50ドルで落札しました。最近の北米からの送料は異様な程に高いです。鏡胴は傷やスレが目立ちましたがガラスの状態は非常に良好でした。ピントリングの回りが重いのでヘリコイドグリスを自分で交換したのですが、なかなか改善しません。ヘリコイドネジの素材が真鍮なので、まぁこんなものなのかもしれません。レンズは米国市場でのみ流通したと思われます。eBayでの相場は200ドルから300ドル程度と手頃な値段で取引されています。ただし、流通量は少な目なので、実際に手に入れるとなると時間がかかるものかと思います。

 

撮影テスト

F1.5の開放でも滲みはなく、スッキリとした線の太い描写で、コントラストの良さにはたいへん驚かされます。さすがに写真の四隅にゆくにつれ像面湾曲が目立ちますが、良像域は当初思っていたよりも広く、少し絞れば普通に使えるレンズとなります。ぐるぐるボケはまぁまぁ目立つ具合に出ています。中央と四隅の画質的なギャップが大きいので、ヌケの良さと相まって、面白い写真が撮れると思います。

F2 Fujifilm X-PRO1(WB:日光)

F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日陰)

F2 Fujifilm X-POR1(WB:日光)























F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日光)

F2  Fujifilm X-Pro1 (WB:日光) 像面湾曲のためピントが合う部分が平面ではありません。ピントは車の左のライトですが、手前のオートバイにもピンとが合っています













F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日光)
F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日光) 像面湾曲の激しさを物語るもう一つの写真です。中央にピントが合っていますが次の瞬間ワンコが手前に飛び出します(下の写真)









F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日光) ところが、四隅でもワンコにピントが来ています。ピントの合う像面が曲がっているのです

F1.5(開放) Fujifilm X-PRO1(WB:日光)








F1.5(開放)Fujifilm X-PRO1(WB:auto)

F1.5(開放)Fujifilm X-PRO1(WB:auto)
F1.5(開放)Fujifilm X-PRO1(WB:auto)

2024/11/03

KOWA OptIcal Works PROMINAR 50mm F2

興和光器の写真用レンズ part 3
プロミナーシリーズのエース
Kowa Optical Works PROMINAR 50mm F2
1960年代の幕開けは一眼レフカメラ全盛時代の幕開けでもありました。Nikon FやPENTAX SPなど世界的なヒット商品がこの頃に登場し、ミノルタやキャノンなどもヒット商品を生み出そうと追従、各社一眼レフカメラの製品開発に心血を注いでいました。興和光器製作所(コーワ)もこの潮流に乗り遅れまいと1960年に高性能なプロミナー50mm F2を搭載したレンズ固定式の一眼レフカメラKOWAFLEXを発売します。カメラの方はクイックリターンミラーとフォーカルプレーンシャッターの開発が遅れ、時代の最先端とは言えない残念な仕様でしたが、定評のあるPROMINARレンズが固定装着された状態で発売時の価格が19800円と安く、Nikon F(50mm F2付きで約67000円)やPENTAX SP(本体のみで約38000円)には手を出せない消費者層を中心に買い手が付きます。PROMINARの構成は下図のような4群6枚のガウスタイプで[1]、おそらく前年の1959年に発売されたカロ35F2に搭載されていたものと同一設計であろうと思われます。ただし、後継モデルのKowaflex Eに搭載されたProminar 50mm F2は後玉径が小さくなっており、設計変更の可能性があります[2]。シャツターの仕様がビトゥイーンシャツターからビハインドシャッターに変更となったため、これに対応するためです。レンズを設計したのが誰なのかは明らかにされていません。
 
Prominar 50mm F2の構成図(カメラマニュアルからのトレーススケッチ):設計構成は4群6枚のオーソドックスなガウスタイプです
 
入手の経緯
レンズはKowaflex初期型に固定装着されていますので、シャンクのカメラを探すこととなります。ちなみに、このカメラは流通量が少なめなので、完全動作する個体はそこそこいい値段してしまいます。私は2024年9月に国内ネットオークションに出品されていた故障品を3500円+送料1500円で手に入れました。レンズにカビやクモリはなく、前玉に少し拭き傷がある程度の実用充分なコンディションでしたので、カメラからレンズを取り出しヘリコイドに載せてソニーEマウントに改造しています。
 
参考文献
[1] KOWAFLEX instruction manual
[2] KOWAFLEX E instruction manual
[3] 「カメラレンズの画質は向上したか -50㎜F2レンズの変遷 - 」 小倉磐夫 写真工業 1979年12月号

KOWA Optical Works Prominar 50mm F2前期型(kowaflex用) 固定レンズとして搭載されていたもので本品は改造品: フィルター径49mm, 絞り羽 5枚構成
 
撮影テスト
「50mm F2にハズレなし」と言われるように、このクラスのレンズはよく写る製品ばかりです。開放からに滲みはなく、クッキリとシャープな描写で、解像感の高いレンズです。ガウスタイプの弱点である開放でのフレア(サジタル・コマフレア)はほぼありません。トーンは適度に軟らかく、その分、発色は落ち着いていて自分には好みです。背後のボケは硬すぎることなくごく普通のボケ味で、周辺部が僅かに流れますがグルグルボケや放射ボケが顕著に出ることはありません。口径食はこのクラスのレンズの平均的なレベルでした。逆光時でもゴーストは出にくく、コントラストは安定しています。とても高性能なレンズです。
写真工業の記事[3]に50mm F2クラスの標準レンズの解像力に関する定量的な比較記事がありました。ライツのズミクロンMがこのクラスのレンズでは絶対王者なわけですが、プロミナーもかなり健闘しており、格付け的にはNikon F用の50mm F2と遜色のない高い性能が出ています。
 
F2(開放) Nikon Zf(WB:日光A)
F2(開放) Nikon Zf(WB:日陰)
F2(開放) Nikon Zf(WB:日光A)
F2(開放) Nikon Zf(WB:日光A)
F2(開放) Nikon Zf(WB:日光A)
F2(開放) Nikon Zf(WB:日光A)


F2(開放) Nikon Zf(WB:日光A)


F2(開放)  Nikon Zf (WB: 日陰)