おしらせ

2011/07/06

Wollensak-Dumont CRO Oscillo-Amaton 75mm F1.9(modified M42)


米国生まれのUFOレンズを
狭いラボから外の世界へ解き放つ

Wollensak Optical Company(ウォーレンサック社)は1972年まで存在していた米国ロチェスターの総合映像機器メーカーだ。大判カメラ用レンズ、シネマ用レンズ、プロジェクター用レンズに加え、工業用、軍事用、核実験記録用にレンズを供給していた。他にもテープレコーダーや双眼鏡の製造で知られる。古くはボシュロム社で絞り機構付きシャッターを設計していた機械工のAndrew Wollensakが、Union Brewing Companyの元社長S.Rauberの支援を得て1899年に創業したRauber and Wallensak社を起源としている。その2年後にRauberが死去したため、社名をWallensak Optical Companyへと変更した。翌1902年にはカメラ用シャッターに加えレンズの生産も開始、1905年にはRochester Lens Companyを買収するなど事業を拡大していった。会社としての最盛期は1950年代であり、この頃の従業員数は千人を超えた。ベル研究所が発明したプリズム回転式ハイスピードカメラの原理を採用し、1秒間に10000フレームの撮影を実現したWollensak FASTAXはハイスピードカメラの草分け的存在として人々の記憶に残る映像アーカイブを数多く残している。同社は後にリビア・カメラ社や3M社など幾つかのメーカーに買収され、1972年に企業活動を停止している。Wollensak社が生産したレンズのブランド名にはAmaton, Optar, Raptar, Verito, Velostigmatなどがあり、米国のムービーカメラブランドには同社のVelostigmatが多く採用された。また、Raptarは同社の最上級ブランドに位置付けられており、軍や研究所に納入された工業用レンズに多く見られる。

左がOscillo-Amaton 1.9/75(改造済)で右がOscillo-Raptar 1.9/75。両者は鏡胴長や前玉/後玉径が異なる。フランジバックはOscillo-Amatonの方が長くNikonの一眼レフカメラにも適合するほどだが、Oscillo-Raptarはかなり短いため一眼レフカメラには適合しない
私が今回入手したのは同社がDUMONT社のCROというオシロスコープの出力波形を記録するために供給したOSCILLO-AMATONというレンズである。第一印象はまるでUFO。紐でつるせば特殊撮影にも使えそうな独特の外観だ。このレンズには同社のAlphaxという名の機械式シャッターが内蔵されており、独特な外観を生みだす一因となっている。このシャッターを生かせば何とデジタル一眼カメラで多重露光を楽しむことができるというオマケつきだ。シャッター部まわりの造りは実に素晴らしく、工業用レンズということもあり、製造コストはかなり高かったのであろう。光学系は4群6枚のダブルガウス型で、オシロスコープの記録レンズにしておくにはもったいない75mmの焦点距離とF1.9の大きな口径比を実現している。イメージサークルは近接域で中判6x6cmフォーマットをカバーし遠方では四隅がケラれるとのこと。遠方を撮るなら6x4.5cmまたは35mm判フルサイズフォーマットで用いるのがよいだろう。よぉ~し、こうなったら私が狭い実験室から風通しの良い草原に連れ出してあげよう・・・。しかし、いきなりの問題が発生。このレンズはマウント規格が特殊なため、このままでは普通のカメラで使用することができない。

★M42マウントへの改造
幸いにもこのレンズはバックフォーカスとフランジバックが長く、Nikonを含む大半の一眼レフカメラに補正レンズ無しでも適合する事がわかった。後群側のレンズ鏡胴をグラインダーで研磨すると別途購入したM52-M42ヘリコイドユニットにピッタリと収まるので、このままエポキシ合体!!!。見事にM42マウント化してしまった。しかも、後玉の出っ張りがないので、フルサイズセンサー機でもミラー干渉の心配がいらない。せっかくだからNikonのフルサイズセンサー機で使うことにした。

フィルター径 48mm, 絞り値 F1.9--F16, 絞り羽根 15枚, 重量(ヘリコイドユニットを含む改造後の実測) 438g, シャッター速度は1s-1/100sに加えTとBモードがある。写真は光学系をばらした様子で4群6枚ダブルガウス型レンズ(1+2+2+1= 6elements/ 4groups)となっている。前方の左から2番目と4番目は張り合わせレンズである。左から3番目にある後玉ユニットの鏡胴部金属面をグラインダーで研磨しM42ヘリコイドユニットにすっぽりと収まるよう改造している

★入手の経緯
本品は2011年5月にeBayを介して米国ニュージャージーの中古カメラ業者から105ドルの即決価格(総額140ドル)で落札購入した。オークションの記述は「珍しい名のレンズだ。ガラスはクリーン、シャッターは全スピードで正確に動作する。クリーニングマークがあるがイメージクオリティには影響ない」とのこと。届いた商品は一見綺麗であったが、強い光をあててガラスを観察するとコーティングに薄い拭き傷がパラパラとあった。レンズ本体に加え改造用ヘリコイドユニットの新品が86㌦かかったので火遊びにしては想定外の出費である。えーい、なるようになれ!

★撮影テスト
OSCILLO-AMATONは本来、オシロスコープの波形を記録するために造られたレンズなので、一般撮影用レンズとは設計理念が異なる。この種のレンズに求められる描写力とは解像力が高く、像面の湾曲や歪曲がしっかり補正されているといった程度であろう。ところが実際に使ってみると、色乗りが良く、階調変化が丁寧に表現されるなど、なかなか良く写るレンズであることがわかってきた。まず色のりであるが、黄色や赤などの原色が濃く表現され、時には気持ち良いくらいスカッと、あるいは時に気持ち悪いくらいに高彩度になる事がある。諧調表現は丁寧で暗部に向かってなだらかに落ちてゆくのが好印象であった。ボケ味については距離によってゴワゴワと、やや滑らかさを欠いた硬めの像になるが、二線ボケやグルグルボケが顕著に表れることはなく概ね穏やかである。解像力は予想どうり高く、輪郭部の線が細く引き締まり、狙った被写体がフッと浮き上がるような像が得られる。近接撮影では結像がやや甘くなるが、中遠距離に対しては開放絞りから高いシャープネスが得られる。屋外での使用時、とくに曇り空のコンディションではコントラストの低下が顕著なのでフードは必須となる。外観も迫力満点だし、面白いレンズを発掘することができた。
F1.9?, F2.8?? Nikon D3 コントラストは良好で色のりも良い。
もうすぐ七夕です。娘はパンダに会えますようにとお願いをした
F2.8 Sony NEX-5 digital  少し絞るだけでビシッとこんな調子。近接撮影時でも細部まできっちり解像する。花の発色がしっかり出た感じで、とても濃厚だ。ときどき色飽和もある

F4 Nikon D3 digital: こちらも解像力が高く、緻密な描写である


F4 コントラストは現代のレンズに比べれば平凡だが、オールドレンズとしては悪くない。諧調変化もなだらかで黒潰れも回避されている。背景にジャギーが見えるのはアウトフォーカス部に網戸が入っているため
★撮影機材
カメラ本体 

Nikon D3+ M42-Nikon adapter(補正レンズ無し)
Sony NEX-5+ M42-NEX adapter
UFOレンズの姉妹品Oscillo-Raptar。
こちらの方が後群の鏡胴が太く、
フランジバックとバックフォーカスが
短いので改造の難易度は高い。
このままでは、死蔵レンズになって
しまう。どうしましょ
今回は勢い余って上位ブランドの姉妹品Oscillo-Raptar(オシロ・ラプター)まで購入してしまった。こうなったらUFOレンズ第二弾でOscillo-Raptarの改造にも挑戦したるわい!ちなみに、こちらの方が改造の難易度は高い。悶々・・・・。



2011/06/30

A.Schacht Ulm M-Travenar R 50mm F2.8(M42)
シャハト マクロ・トラベナー

ベルテレが設計した

テッサータイプのマクロレンズ

A.Schacht M-Travenar 50mm F2.8

A.Schacht社は1948年に旧西ドイツのミュンヘンにて創業、1954年にはウルム市に移転して企業活動を継続した光学メーカーです。創業者のアルベルト・シャハト(Albert Schacht)は戦前にCarl Zeiss, Ica, Zeiss-Ikonなどでオペレータ・マネージャーとして在籍していた人物で、1939年からはSteinheilに移籍してテクニカル・ディレクターに就くなど、キャリアとしてはエンジニアではなく経営側の人物でした。同社のレンズ設計は全て外注で、シャハトがZeiss在籍時代から親交のあったルードビッヒ・ベルテレの手によるものです。ベルテレはERNOSTAR、SONNAR、BIOGONなどを開発した名設計者ですが、戦後はスイスのチューリッヒにあるWild Heerbrugg Companyに在籍しています。

A.Schacht社は1967年にそれまで同社にネジなどの部品を供給していたConstantin Rauch screw factoryに買収され、さらに同社の光学部門は間もなく光学メーカーのWill Wetzlar社に売却されています。なお、シャハト自身は1960年に引退していますが、A.Schachtブランドのレンズは1970年まで製造が続けられました。

今回ご紹介するM-Travenar 50mm F2.8は同社が1960年代に市場供給したマクロ撮影用レンズです。このレンズは等倍まで寄れる超高倍率が売りで、ヘリコイドを目一杯まで繰り出すと、なんと鏡胴は元の長さの倍にもなります。同社のレンズは全てベルテレが設計したわけですが、設計構成はベルテレとは縁の遠いテッサータイプです。ゾナーを作ったベルテレがテッサータイプを作ると、一体どんな味付けになるのでしょう。とても興味深いレンズである事に違いありません。

A.Schacht M-Travenar 2.8/50の構成図(カタログからのトレーススケッチ)。設計構成は3群4枚のテッサータイプで、前・後群に正の肉厚レンズの用いて屈折力を稼ぎF2.8を実現している

テッサータイプのレンズ構成自体は1947-1948年にH. Zollner (ツェルナー)が新種ガラスを用いた再設計によって、球面収差とコマ収差の補正効果を大幅に改善させた事で成熟の域に達しており、口径比F2.8でも無理のない画質が実現できるようになったのは戦後のZeiss数学部(レンズ設計部門)の最も大きな成功の一つと称えられています。A.Schacht社に新しいレンズ設計を提供するにあたり、ベルテレは新種ガラスのノウハウを導入していたに違いありません。

A.Schacht M-Travenar 50mm F2.8( minolta MDマウン): 重量(実測)356g, フィルター径 49mm, 絞り F2.8-F22(プリセット機構), 最大撮影倍率 1:1(等倍), 最短撮影距離 0.08m, レンズ構成 3群4枚(テッサー型), 絞り羽数 12枚, レンズ名は「遠くへ」または「外国への旅行」を意味するTravelが由来である































入手の経緯

A.Schachtのレンズはベルテレによる設計であることが広まり、近年値上がり傾向が続いています。eBayでのレンズの相場は250~300ドルあたりですが、安く手に入れるための私の狙い目はアメリカ人で、ビックリするほど安い即決価格で出品している事が度々あります。米国ではA.Schachtのレンズに対する認識や評価があまり進んでいないのかもしれませんね。国内ではショップ価格が35000円~45000円あたりのようです。今回の私の個体は海外の得意先から出品前の製品を購入しました。珍しいミノルタMDマウントでしたが、市場に数多く流通しているのはEXAKTAやM42、ライカLマウントです。

撮影テスト

ポートレート域ではいかにもテッサータイプらしいシャープで線の太い像ですが、近接撮影時では微かに柔らかい雰囲気のある画になります。コントラストや発色は距離に寄らず良好です。滲みは距離に寄らずよく抑えられており、等倍の最短撮影距離でも充分な解像感が得られます。ここはゾナーを設計したベルテレの設計力の高さを感じます。さすがにテッサータイプなのでガウスやトリプレットのような高解像な画は吐きませんが、フィルムで使用するには、このくらいの解像力があれば十分なのでしょう。ボケはポートレート域で微かにグルっと回ります。テッサーには軽い焦点移動があり、開放でピントを合わせても絞り込んだ際にピントが狂ってしまう問題がありますが、さすがに高倍率のマクロ域で撮影する場合は、絞ってピント合わせをしますので、問題なし。

F5.6 sony NEX-5(AWB)

F2.8(開放) SONY NEX-5(AWB)

F8 SONY NEX-5(AWB)


























続いて我が家のコワモテアイドルであるサンタロボの魅力にトコトン迫ってみました。怖いですよ。

F2.8(開放) sony A7R2(WB:日陰) まずは絞りを変えながらのテストショットです。開放でも滲みなどは出ず、スッキリとしたヌケのよい写りで、発色も良いみたい。十分にシャープな画質が撮れています


F8 sony A7R2(WB:日陰) 十分に絞りましたが、中心部の解像力、改造感はあまり変わらない感じがします。開放からの画質の変化は小さく、安定感のある描写です。


F8 sony A7R2(WB:日陰) 絞り込んだまま、かなり寄ってみました。ここから先は絞り込んでとるのが基本ですので、開放でのショットは省略します。この距離でも十分な画質で近距離収差変動はよく抑えられている感じです。トナカイ君との相性もバッチリで仲良く撮れています。さらに近づいてみましょう
F8 sony A7R2(WB:日陰)ここからはコワモテ君の単独ショットで本領発揮です。彼の魅力は接近時に引き立てられます。写真のほうは思ったほど滲まず、適度な柔らかさのまま解像感も十分に維持されており、想定以上の良い画質を維持しています。近距離収差変動はよく抑えられている感じで、これぐらいの柔らかさなら雰囲気重視の物撮りにおいて普段使ってもいい気がします
F8 sony A7R2(WB:日陰)いよいよ最短撮影距離(等倍)まで来ました。コワモテ君の迫力もMAXです。微かな柔らかさを残しつつも十分な解像感が得られており、コントラストと発色は十分に良好なレベルです。等倍でも十分に使えるレンズのようで、雰囲気重視を想定しているなら物撮りで十分に使えるレンズだと思います













 

続いてはポートレート撮影での写真です。モデルはいつもお世話になっている彩夏子さん。ボーイッシュにイメチェンした彩夏子さんを初めて撮らせていただきましたが、とても新鮮でした。

F2.8(開放) sonyA7R2(WB:日陰)

F2.8(開放) sonyA7R2(WB:日陰)

F5.6  sonyA7R2(WB:日陰)

F2.8(開放) sonyA7R2(WB:日陰)

F2.8(開放) sonyA7R2(WB:日陰)