おしらせ

2011/06/11

KMZ MC MIR-20M 20mm F3.5(M42) and Carl Zeiss Jena Flektogon 20mm F4(M42)


MIR-20シリーズの最後継品であるMC MIR-20M(M42マウント)
上段右奥のゼブラ柄のレンズはCarl Zeiss Jena Flektogon 4/20

カールツァイスとロシアの模倣レンズ群団3
ロシアへと渡った怪獣フレクトゴンの隠し子!?

例えるなら、太く短い胴体と巨大な目を持つ異形の姿。広い守備範囲で獲物を探しながら、被写体に僅か16cmのところまで接近し、その大きな目で睨みつける怪獣フレクトゴン。こんなレンズはこの世に2本と存在しないだろう。そう思っていたら、実はロシアにもう一匹いたのである。それが今回紹介するMC MIR-20Mだ。
MIR-20シリーズはロシアの複数のメーカー(GOI, ARSENAL, KMZなど)によって1970年代初頭から生産されている焦点距離20mmの超広角レンズである。最初期のモデルはロシア政府が直轄する光学研究所のGOI(Government Optical Institute)によって生み出されが、直ぐにARESNALやKMZなど老舗メーカーが生産を引き継いだ。1990年にはガラス面にマルチコーティング処理を施した最後継モデルのMC MIR-20M(およびPentax-KマウントのMC MIR-20K)がKMZから発売されている。また、ARSENALからもMC MIR-20HというNikon Fマウント仕様のレンズが発売されている。光学系そのものには初期のモデルからの改良はなく、何と40年もの間、同一の設計を維持したまま、今も生産が続いている現役レンズである。
FlektogonとMIR-20の構成図。
手持ち資料からトレースした。
こうして見るとMIR-20の設計は
新旧Flektogonの進化における
過渡的な形態であることが明ら
かにわかる
MIR-20の生い立ちには謎が多い。ZENIT社の公式ホームページには、このレンズがGOIに属する3名の技士(Volosov, Hmelnikova and Shamanina)により1968年に設計されたと記録されている。レンズの設計は集団でおこなうという作業ではなく、通常は1名ないし多くても2名で取り組む事が多い。設計者の数として3名はやや多いように思える。MIR-20の口径比はF3.5、最短撮影距離は18cmであり、これらはMIR-20が登場する時期を挟んで前期型から後期型へとモデルチェンジを遂げるFlektogonの、言わば過渡的な設計仕様にあたる。レンズが設計された1968年といえば、東独ツァイスのFlektogon 4/20(1963年登場のゼブラ柄モデル)が世界的に大ヒットしていた時期であり、MIR-20は当時のFlektogonをコピーしたレンズであると言われている。しかし、光学系の構造はだいぶ異なり、MIR-20はむしろ後年に登場するMC Flektogon 2.8/20(1976年登場)に近い構造を持っているのである。ZENIT社の公式ホームページでは、MIR-20の設計がMC Flektogon 2.8/20の基本設計になったのだという不可解な記述を目にすることができる。ツァイスがMIR-20を手本にする事などありえないが、あり得ないという事を抜きにすれば、時系列的にも設計構造的にも、この記述には矛盾が見当たらない。ZENIT社の独自見解にはやや大げさな誇張表現が含まれていたと仮定し、この辺りには何か深いわけがありそうに思える。MIR-20の開発にあたり、GOIと東独ツァイスとの間には何らかのコラボレーションがあったのではないだろうか。これらの事実から自然に浮かび上がるシナリオは次のようなものである。
1960年代半ば、ロシア政府は自国産レンズのラインナップに20mmの超広角レンズ(Flektogonのコピー)を加えるため、政府の直轄機関であるGOIから3名の技士を東独ツァイスの研究所に送り込み、新型フレクトゴンの開発に関わらせた。ツァイスから設計開発のノウハウを得るためである。技士の人数が3名と多いのは技術供与の継承を確実にするためである(技士が病死したり西側諸国に亡命されては困る)。3名の技士は東独ツァイスの研究所にて新型Flektogonの開発方針を知らされる。それは、口径比性能を現行のF4よりも更に向上させるというものであった。そして、1968年にFlektogon開発チームの客員メンバーとして自らの手でF3.5の口径比性能を持つ試作レンズを開発し、設計技法を自国に持ち帰った。こうして生まれたのがMIR-20であるというストーリーだ。東独ツァイスはその後も新型Flektogonの改良を進め、1970年代に口径比性能をF2.8まで高めたMC Flektogon 2.8/20を世に送り出している。ロシアのGOIにしてみれば、MIR-20よりも後に登場したMC Flektogonは、開発過程の延長上にあるMIR-20の正統な後継製品という見解になるのである。さて、このシナリオは深読みのしすぎであろうか。

KMZ製MC MIR-20M: 最短撮影距離 18cm, 絞り値 F3.5-F16, 重量(実測)370g, 絞り機構 自動/手動の切り替え式, 絞り羽根は6枚構成, 光学系の構成は8群9枚, 1996年の新品価格は240ルーブル。マウント部からは絞り機構を制御する連動ピンが出ている。M42マウントでカラーはブラックのみ
今回私が入手したのは、MIR-20シリーズの最後継品であるKMZ製MC MIR-20Mである。MCという頭文字からわかるように、ガラス面にはマルチコーティング処理が施されている。デザインには特徴があり、オフロードタイヤ風の鏡胴や異様に盛り上がった前玉のガラスなど、ゼブラ柄のフレクトゴンにも全く引けを取らない強い存在感を放っている。絞り機構はオートとマニュアルの切り替え方式であり、鏡胴側面のスイッチで制御している。前玉が大きく、フィルターを装着することができないので、このレンズにはフィルター枠にネジ切りが設けられていない。その代わりに前玉外周部にはビルトイン式の花形フードがついている。これがたまらなくかっこいい。

★入手経路
本品は2010年8月にLatviaの中古カメラ業者から送料込みの即決価格199ドルで落札購入した。商品のコンディションはEXC+++とあり、フロント・リアキャップが付くとのこと。詳細な記述はなかったが、この業者の他の商品を比較すると、EXC+++の評価はかなり高いランクに位置づけられていることがわかったので購入を決めた。写真ではフィルター枠が若干曲がっているようにも見えたので事前にメイルで問い合わせたところ曲がってはいないとのことであった。届いたレンズはMINT級の素晴らしい状態で満足なショッピングであった。本品は現在も新品が250㌦+送料で購入できる。eBayでの中古相場価格は状態の良いものが200ドル程度、ヤフオクでは2万円前後であろうか。後玉部に純正のカラーフィルターやUVフィルターが装着できるらしく、これらが付属した状態で売られていることもある。購入時にはフロントキャップが付属している品を選ぶことをおすすめしたい。
★撮影テスト
広角レンズは被写界深度が深いからボケ味とは無縁だと思ったていたら大間違いだ。このレンズは最短撮影距離が18cmとマクロレンズ並みに短く、被写体の直ぐ近くまで接近してもフォーカスが合うので、背景は大きくボケる。超広角でありながらボケ味を存分に堪能できる貴重なレンズといえる。もちろん、被写界深度の深さを利用したパンフォーカス撮影も可能だ。
  • 画像中央部の解像力は開放絞りから高く、充分に実用的なレベルである。
  • また、この種の超広角レンズによくある歪曲(真っ直ぐなものが曲がって見える)も20mmのレンズとは思えないレベルまで良く補正されている。
  • 周辺光量の低下は殆どない。
  • 開放絞りで近接撮影を行うと四隅が放射状に流れることがある。また背後にグルグルボケがみられる事もある。
  • 超広角レンズに特有のパースペクティブ効果(近いものは大きく遠いものは小さくみえる遠近効果)が強く働き、撮影ポジションによっては画像端部が隅に向かって傾いて見えることがある。
  • マルチコーティングの甲斐あってコントラストは高く、メリハリの効いた鋭い描写となる。ただし、フィルム撮影では暗部の階調表現に粘りが無く、絞って撮影した場合は階調変化が暗部に向かってストンと急激に落ちてしまう。まるで焦げた目玉焼きのようにカリカリとした硬い階調表現になる。デジタル撮影の場合は、撮像センサーが暗部の階調表現に強いので、このような事はなく、なだらかな階調変化が可能だ。
  • 色の乗り具合はたいへん良好。ただし、銀塩撮影では赤が色飽和を起こす傾向が目に付いた(デジタル撮影では問題なし)。
  • 面白い事に、銀塩撮影の時よりもデジタル撮影の時の方が、フワッと柔らかいボケ味が得られるようだ(理屈もないので全く気のせいかもしれないが・・・)。
総合的な印象は悪くない。設計は古いものの描写力は高く、極めて広い画角を大きな破たんもなく実現している優れたレンズだ。以下、銀塩撮影とデジタル撮影の作例を順番に示す(もちろん無修正・無加工)。

銀塩撮影
F8(FujiColor SP400)  このレンズは被写界深度が深く、パンフォーカス撮影がとても得意
F8(FujiColor SP400) コントラストが高く階調表現は硬めだ

F3.5(FujiColor SP400) 赤がコッテリと出てしまい色飽和気味となっている

F8 銀塩(Uxi Super 200)  このとうりにパースペクティブ効果が強く働き、遠近感が誇張気味だ。今度も逆光撮影だがゴーストやフレアは出ていない。コントラストは高く、暗部には締りがあるが、階調変化はなだらかさに欠け、暗部に向かってストンと落ちてしまう。茶色いポールはほぼ真っ直ぐであり、歪みはきっちり補正されている

F4 銀塩 (FujiColor SP400) 斜め方向に撮ると途端にパースペクティブの効果で画像端部の像が四隅に向かって傾いてしまう。窓枠が隅に向かって傾き、ティーカップも楕円形に変形している。ルンルン♪

F3.5 銀塩 (FujiColor S400) 開放絞りで近接撮影を行うと四隅の像が放射状に流れる
このレンズはコントラストが高く、階調変化が硬くなりすぎてしまうようだ。はじめから軟調な性質のフィルムを用いる方がよさそうだ。

デジタル撮影 Sony NEX-5 digital (AWB)

F4 NEX-5 digital, AWB: 広角レンズなので被写界深度は深いものの、このレンズは最短撮影距離が極めて短く、被写体の直ぐ近くまで接近してもピントが合うので、背景は大きくボケる。ちなみにボケ味はこのとうりに素直だ。デジタル撮影の方が銀塩撮影の時よりも階調変化が丁寧なうえに、ボケ味がフワッと柔らかい事に気付く。この現象はアンジェニューでも確認できるが、原理はよくわからない
F2.8 NEX-5 digital(AWB) 花とその子供たち(←異種の花じゃんよ)
背景がこれくらいの距離になると、このレンズでもグルグルボケが出る

本レンズに関しては銀塩撮影よりもデジタル撮影の方が、暗部の階調変化がなだらで好印象であった。350~500ドルもする中古のFLEKTOGON 20mmを狙っている方。是非とも本品も候補に挙げてみてはいかがでしょうか。250ドルで新品が買えますよ。

歪曲収差をチェック
マンションの壁面を銀塩カメラで撮影したところ、外側に膨らむ樽型歪曲収差をハッキリと確認することができた。私は他にも焦点距離の短い現代のレンズを2本(Nikkor 2.8/20やPentax DA 2.8/14)所持しているが、20mmの超広角レンズともなれば、この程度の歪曲は必ず出る。むしろ、この程度で済んでいるMIR-20の描写を評価したい。


★撮影機材
銀塩撮影 Pentax MZ-3 + Fujicolor Super Premium 400
デジタル撮影 sony NEX-5

実のところ、私は初めMC FLEKTOGON 2.8/20を買おうと思っていた。ゼブラ柄のFLEKTOGONを所持しているので、撮り比べがしたかったのだ。しかし、デザインにインパクトのあるMIR-20Mが目にとまり、気が付いたら本品を手にしていた(浮気といえば確かにそうだ)。後になって「そういや、俺、MCフレクトゴンじゃなかったんだっけ???」と気づいた始末。そんな縁で今回はロシア政府に絡んだ推理で楽しんでしまった。KGBのエージェントが我が家にやって来たら、どうしよう・・・。皆さんサヨウナラ。

2011/05/30

ZOMZ MIR-1 37mm F2.8(M39) and CZJ Flektrogon 35mm F2.8(M42)

MIRという名はロシア語で「平和」あるいは「世界」を意味する。上段右奥のゼブラ柄のレンズはCarl Zeiss Jena Flektogon 2.8/35

カールツァイスとロシアの模倣レンズ群団2
安価で高性能なロシアン・フレクトゴンの魅力
ロシア(旧ソビエト連邦)は同国占領下の旧東ドイツから多くの光学技術を手に入れ、自国のカメラ産業を発展させてきた。中でも東独VEBツァイス社(Carl Zeiss Jena)の技術はロシアのカメラ産業に多大な影響を与えている。戦後のロシアではSonnar、Biogon、Biotar、Flektogon、Tessarなどのコピーが次々と生みだされた。今回紹介するMIR-1もそうした類のレンズで、1952年に登場したFlektogon 35mm F2.8をベースにVavilov State Optical Instituteが1954年に設計、双眼鏡の生産で知られるZOMZ(ザゴルスク光学機械工場)が製造した単焦点広角レンズだ。レンズを設計したのはD.S. Volsov(Д. С. Волосов)[1910-1980]という光学設計を専門とする物理学者で、彼はバリフォーカルレンズなどの複雑な光学設計法を1947年に開発するなどロシアの写真レンズ史の発展に寄与した人物である。なお、初期のロットにはfk-35(Flektogon Krasnogorsk 35)というコードネームで試作されたKMZ製の個体があるようだ。設計のベースとなったFlektogonは切れ味と色のりの良さに定評のあるBiometarをレトロフォーカス化するというユニークな構成を持つレンズである。MIR-1にもその優れた描写力が受け継がれており、1958年にベルギーのブリュッセルで開催された万国博覧会でグランプリを獲得するに至った。その輝かしい栄光を称えるかのように、鏡胴には「Grand Prix Brussels 1958」の文字が誇らしげに刻まれている。一つ残念なのは、それ以降に光学系の改良がなかった事だ。過去に何度か実施されたモデルチェンジにおいても変更されたのは鏡胴のデザインや材質のみであり、最短撮影距離や絞り羽の枚数すら変わっていない。最後の後継モデルはMIR-1bという名で1992年から2004年まで製造されていたので、何と開発から50年もの間、同一の設計を保ち続けたことになる。オールドレンズ界のシーラカンスと言ったところであろうか。
  37mmという中途半端な焦点距離はやや奇異に思えるかもしれないが、焦点距離35mmのレンズの大半が実際には35mmよりもやや長い焦点距離を持つのに対し、MIR-1は厳密に37mmであるため、35mmのレンズに比べ撮影画角の差は僅かである。
  実はMIR-1のプロトタイプらしいレンズが2012年7月に一度ヤフオクに出品された。レンズ名はコードネームでfk-35と表記されており、fkは「FlektogonKrasnogorsk」の略であると受け取れる。外観はMIR-1そっくりで、銘板には製造番号NO.5600001が記されている。1956年に製造されたシリアル番号が1番の製品である。プロトタイプはこれ1本のみだったのであろうか?。そして最も興味深いのは、このレンズの焦点距離がこの段階ではフレクトゴンと同じ3.5cm F2.8と記されている点である。MIR-1は35mmのフレクトゴンからそっくりそのまんまデッドコピーされたのではないだろうか。



MIR-1/Mir-1b 37/2.8(左)とFlektogon 35/2.8(右)の光学系の比較。構成は5群6枚で解像力で定評のあるXenotar (Biometar)型をレトロフォーカス化したユニークな設計を採用している。MIR-1の光学系は文献[1]からの引用だ。フレクトゴンの図は文献[2]に掲載されていたものをトレースした
参考文献
[1] RussiRussian lenses: A. F. Yakovlev Catalog “The objectives: photographic, movie, projection,reproduction, for the magnifying apparatuses" Vol. 1, 1970
[2] 東ドイツカメラの全貌―一眼レフカメラの源流を訪ねて  リヒァルト フンメル、村山 昇作、リチャード クー、 Richard Hummel (1998/12)

★入手の経緯
 本品は2010年9月にeBayを介してウクライナの中古カメラ業者(取引件数6111件中POSITIVE評価99.5%)から65㌦の即決価格で落札購入した。送料込みの総額は80㌦であった。商品の解説は「EXCELLENT++++。光学系はクリーンでクリア。傷も曇りもないオールドストック。レシートとケース、マニュアルがつく」とのこと。届いた商品は極上品。よくまぁ、こんなに状態の良いものが50年間も残ってるなと感心した。ちなみに、ブラックカラーの後継モデルMIR-1Bの海外相場は50ドル程度で、本品よりもやや安価だ。フレクトゴンの1/3の価格で入手できることを考えると、驚異的なコストパフォーマンスといえる。

MIR-1(ゼニットM39マウント): レンズ構成 5群6枚, 絞り値 F2.8-F16(プリセット)
絞り羽根 10枚, フィルター径 49mm,  最短撮影距離 0.7m, 重量(実測) 178g

M39-M42リングアダプターをはめればM42マウント化できる。リングアダプターはeBayで5㌦程度で手に入れることができる
 
後継品のMIR-1b(M42マウント): 構成 5群6枚,  絞り値:F2.8-F16(プリセット),絞り羽根:10枚,フィルター径 49mm, , 最小撮影距離:0.7m 重量(実測);186gこちらは1992年から2004年までVologda Optical-and Mechanical Plant(VOMZ)にて生産された


★撮影テスト
 MIR-1はフレクトゴン35/2.8に勝るとも劣らないシャープな描写力を備えたレンズである。以前の私のブログエントリーでは後継のMIR-1bを取り上げ、ソフトな描写と解説してしまった。あの評価は本エントリーで撤回したい。色味はフレクトゴンと同様に温調で、色ノリが良い点も似ている。球面収差やコマ収差は良く補正されており、開放絞りからスッキリと写る優秀なレンズである。倍率色収差や歪曲も良く補正されている。気になる事と言えばゴーストが出やすいくらいであろう。取り回しに関してはやや癖があり、絞り冠の回転が逆方向である事に加え、制御機構が独特なので、慣れるまでは、やや使いにくいと感じるであろう。ピントの山が掴みにくい印象を抱くかもしれないが、これはヘリコイドの直進が一般的なレンズに比べゆっくりなためである。慣れないうちはピント合わせに手間取るが、きっちりと合わせたい場合には、むしろ好都合といえる。以下に無修正の作例を提示する。


F2.8 Sony NEX-5 digital: 色のりがよく緑が鮮やかに栄えている
F4 sony NEX-5 digital: 色味はオールドツァイス同様に温調気味


★MIR-1とFLEKTOGONの解像力の比較
 MIR-1にはどれほどの解像力が備わっているのだろうか。描写力に定評のあるFlektogonを基準に、実写による評価を試みた。なお、今回はゼブラ柄(2代目)のFlektogonを比較の対象としている。本来ならばMIR-1の設計ベースであるアルミ鏡胴の初期型Flektogonを用いるべきであるが、ゼブラ柄のFlektogonはアルミ鏡胴モデルと同一の光学系なので比較対象としては問題はない。なお、私が以前に所持していたゼブラ柄のFlektogonはヤフオクを介して本ブログの読者の方に売却してしまったので、今回は知人からお借りしたFlektogonを用いての撮影テストとなった(感謝感謝)。
 下のサンプル写真は金属壁の腐食部を垂直に撮影したものだ。レンズの先端から被写体までは約1mの距離を置いている。ピント合わせはじっくりと時間をかけ慎重に行ったので、ジャスピンであると信じている。写真の中央部を拡大し、MIR-1 37/2.8とFlektogon 35/2.8のシャープネスを肉眼で比較してみた。

 下の写真は2本のレンズの開放絞り(F2.8)における撮影結果である。どちらも金属表面の錆を緻密にとらえており、両レンズのシャープネスは互角のレベルといってよい。

F2.8 Sony NEX-5 digital, MIR-1(上)とFlektogon(下)
クリックすると拡大写真が表示され、もう一回クリック
すると最大化される

F4 sony NEX-5 digital, MIR-1(上)とFlektogon(下)
クリックすると拡大写真が表示され、もう一回クリック
すると最大化される
 上の写真は1段絞ったF4において両レンズの撮影結果を比較したものだ。開放絞りにおける結果と比べ、どちらのレンズも鉄錆の赤みが収まり、ニュートラルな発色に近づいている。2本のレンズの解像力はほぼ同レベルで、両者の差を肉眼で識別するのは難しい。 
 Helios-44シリーズやINDUSTAR 61L/Zのブログエントリーの時にも感じた事だが、ロシアのレンズは一般的にどのブランドも、ネタ元のドイツ製レンズに決して引けをとらない優れた描写力を実現している。ただし、光学系の独自改良が活発には進まないようである。
 
★撮影機材
Sony NEX-5 + MIR-1 37/2.8 + PENTACON Metal hood 49mmフィルター径

 MIR-1に対する写真家の評価は賛否両論で、畏敬の念を抱く人もいれば酷評する人もいる。実力相応の世評を勝ち取っているとは言い難いのが事実だ。写真家達の厳しい評価は、発展力の乏しいロシアのカメラ産業界に対する声なのかもしれない。