おしらせ


MAMIYA-TOMINONのページに写真家・橘ゆうさんからご提供いただいた素晴らしいお写真を掲載しました!
大変感謝しています。是非御覧ください。こちらです。

2020/11/17

KONICA HEXANON AR 57mm F1.4

 
赤いコニカ緑のロッコール 前編
繊細な開放描写を楽しむことができる
小西六の六枚玉
KONICA HEXANON AR 57mm F1.4(Konica AR mount) 
F1.4の明るさを僅か6枚のレンズ構成で成立させたKONICA (コニカ)のHEXANON(ヘキサノン)。それを可能にするために用いられた技術が「過剰補正」です。これは収差の補正を過剰にかけることで特に球面収差の増大を抑え、解像力だけでもどうにか維持しようとしたもので、言ってしまえば強い薬を使って見た目には健康そうにみせる対処療法的な技術です。少し絞ったところで最高水準の画質が得られますが、この方法に頼ると反動で開放ではフレアの滲みが出ますし、コントラストも低下、ポートレート域では背後のボケがザワザワと煩くなるなど副作用が生じます。6枚玉でF1.4の明るさを実現した大口径レンズともなれば更なる劇薬を使いますので、収差が大好物のオールドレンズファンが声高々に狂喜する瞬間が目に浮かびます。 この種の大口径レンズが通常の7枚や8枚ではなく6枚で生み出された背景には製造コストを安く抑えたいというメーカーの思惑がありました。メーカーが市場でシェアを勝ち取るにはレンズを他社の競合製品より1円でも安く市場供給する必要があったのです。 ヘキサノンのレンズの構成は下図に示すようなガウスタイプを基本とする5群6枚の拡張ガウスタイプで、前群に空気間隔を設けることで中間絞りで膨らむ球面収差(輪帯球面収差)を抑え、解像力の維持とボケ味の改善に取り組んでいます。ただし、F1.4の明るさでこれを実現しているため、曲率の大きな屈折面からは大きな収差が発生します。このレンズなら、かなり期待ができそうです。
 
KONICA AR 1.4/57の構成図見取り図。公式カタログよりトレーススケッチしました。黒鏡胴の後期モデルが掲載されていたカタログです

 
HEXANON AR 57mm F1.4は1965年12月の歳末商戦で発売されたKONICAの新型一眼レフカメラAutorexに搭載する交換レンズとして登場しました。このモデルから同社の一眼レフカメラは先代のKONICA Fマウントに代わる新規格のKONICA ARマウントを採用しています。レンズは初期のプリセット絞りのモデル、EE機能に対応した前期モデル、AEロックボタンを搭載した後期モデルの3つのバージョンに大別されます。どのモデルもレンズのガラス表面には赤褐色かアンバー色のいずれかのコーティングが蒸着されており、独特の光彩を放つ強い印象を受けます。バージョンごとにコーティング色の配置が少しずつ異なり、後期モデルの方が赤褐色のエレメントの配分が多くなります。
初期のモデルはAutorexの発売に合わせて登場したプリセット絞りのバージョンで、自動絞りには未対応でした。間もなく自動絞り(EE機能)に対応した前期モデルが登場、一眼レフカメラのKONICA FTA(1968年登場)などに供給されます。EE(Electric Eye)機能とは被写体の明るさに応じて絞りとシャッタースピードをカメラが自動で判断する機能です。この機能を使う場合、レンズの側では絞り値を絞り冠上のEEの位置に合わせておき、カメラに絞り値の選択を委ねます。その後、絞り冠上にEE機能のロックボタンが装備された後期型が登場、一眼レフカメラAutoreflex T3(1973年登場)とAcom-1用(1976年登場)に供給されます。1979年にKonica FS-1と後継レンズのHexanon AR 50mm F1.4が発売され、供給終了となっています。カラーバリエーションは前期型と後期型にツートン(シルバー/ブラック)とブラックの2種類がありました。ブラックカラーのモデルは流通量が少なく、特に前期型のブラックはあまり見ることがありません。
前期型(ツートン)フィルター径 55mm, 重量(実測) 280g, 最短撮影距離 0.45m, 絞り F1.4-F16, 絞り羽 6枚構成, 設計構成 5群6枚拡張ガウスタイプ, コニカARマウント

前期型(ブラック)フィルター径 55mm, 重量(実測) 276g, 最短撮影距離 0.45m, 絞り F1.4-F16, 絞り羽 6枚構成, 設計構成 5群6枚拡張ガウスタイプ, コニカARマウント







後期型(ツートン) フィルター径 55mm, 重量(実測)278g, 最短撮影距離 0.45m, 絞り F1.4-F16, 絞り羽 6枚構成, 設計構成 5群6枚拡張ガウスタイプ, コニカARマウント

後期型(ブラック) フィルター径 55mm, 重量(実測)278g, 最短撮影距離 0.45m, 絞り F1.4-F16, 絞り羽 6枚構成, 設計構成 5群6枚拡張ガウスタイプ, コニカARマウント


 
入手の経緯
中古市場にはやや数は少ないものの、常時流通しているレンズです。ヤフオクでの取引相場はコンディションにもよりますが7000~12000円辺りでしょう。ショップではもう少し上の値段設定です。私は2020年9月に前期型の個体を7000円(+送料)で入手しました。オークションの記載は「カビやクモリのない美品。撮影に影響のないレベルでのホコリやチリの混入はある」とのこと。届いたレンズには中玉にピンポイントでカビが発生しておりヘリコイドはかなり重めでしたので、自分でオーバーホールしました。カビの方は清掃で綺麗になり、カビ跡も残らず良好な状態となっています。 続く後期型のモデルは2020年10月にヤフオクで8500円+送料で落札購入しました。オークションの記載は「チリやホコリはあるがカビやクモリはない。ヘリコイドは重め」とのこと。届いたレンズは絞りを挟むガラス面に少しクモリがありホコリも多めでしたが、拭いたところ綺麗になりました。 後期型のブラックモデルは2020年10月にヤフオクで即決価格7480円+送料で落札購入しました。オークションの記載は「超美品。綺麗な光学です!。カビやクモリはなく、程よい視認性です」とのこと。このセラーは自分でオーバーホールができるようですので有難いです。届いたレンズはガラスがたいへん綺麗、ヘリコイドはグリスが交換されており動きはスムーズで、素晴らしいコンディションでした。
発売から50年以上が経過しているレンズですので、カビやホコリが混入している個体、ヘリコイドが重くグリス交換が必要な個体か数多く流通しています。少し値段が高くても、オーバーホールされている個体を狙うことをオススメします。
なお、2020年12月2日から2021年1月4日まで新宿マルイ本店8階のオールドレンズフェスPreview2021で開催されるTORUNOの体験・即売会(土・日限定)にオーバーホールされた個体が10本程度出品される予定です。
 
撮影テスト
オールドレンズらしい繊細な開放描写を持ち味とするレンズです。開放ではピント部を薄い滲みが覆う柔らかい味付けですが、解像力は高く、薄いベールの中に緻密な像を宿したような線の細い描写を楽しむ事ができます。繊細な開放描写を実現するにはF2でピント合わせをおこない、それから絞りを開けて撮影します。いったんフレアを排除したうえでピントを合わせたい部分(ピントの山)に、しっかりと芯をつくっておくのです。発色は開放でも予想に反し鮮やかで、コントラストもフレアが多いわりに良好、使いやすいレンズだと思います。露出を少しオーバーに振ったくらいでは白ぽくなることはなく、ある程度の逆光に耐えてくれます。この種のレンズは開放からF2までの描写性能の立ち上がりが大きく、絞りが良く効くところも大きな特徴で、マニアの言葉を借りるなら「一粒で二度おいしい」などと評されることがあります。少し絞れば滲みは消え、すっきりとしたヌケの良い描写で解像力やコントラストも更に向上、高性能なレンズとなります。
背後のボケは開放でポートレート域を撮る際にザワザワとしますが、2線ボケに至らないのは、このレンズの長所だと思います。グルグルボケや放射ボケについても、よく抑えられています。反対に前ボケはモヤモヤしたフレア(滲み)がたっぷりと入り、被写体前方側のピントの外れた部分では柔らかい像が得られます。前ボケが大きく滲むのは過剰補正レンズならではのものですが、これを見越し、バストアップ位の撮影距離にてピントを意図的に少し後ろ側にずらすと、被写体をフンワリとしたベールで包み込むことができます。歪みは微かに樽型ですが、ほぼ感知できないレベルでした。
今回の試写はオールドレンズ女子部所属の本多さんにも手伝ってもらいました。

前期型@F1.4(開放) +sony A7R2(WB:日陰) photo by spiral
後期型@F1.4(開放)+SONY A7R2(WB:日光)  photo by spiral

前期型@F1.4(開放) SONY A7III photo by Masako Honda

前期型@F1.4(開放) + sony A7III  photo by Masako Honda



後期型@F1.4(開放) +SONY A7R2(WB:日光) photo by spiral


前期型@F1.4(開放)+ SONY A7III  photo by Masako Honda
前期型@F1.4(開放) + SONY A7III photo by Masako Honda
前期型@F1.4(開放)+SONY A7R2(WB:日光) photo by spiral

後期型@F1.4(開放) +SONY A7R2(WB:日陰)photo by spiral
後期型@F1.4(開放) +SONY A7R2(WB:日陰) photo by spiral

後期型@F2.8 +SONY A7R2(WB:日陰)photo by spiral

後期型@1.4(開放) +SONY A7R2(WB:日陰) photo by spiral

後期型@F1.4(開放)+SONY A7R2(WB:日陰) photo by spiral


後期型@F1.4(開放)+ SONY A7R2(WB:日光)photo by spiral

後期型@F1.4(開放)SONY A7R2(WB:日光)

前期型@F1.4(開放) +SONY A7R2(AWB)

前期型@F2.8+SONY A7R2(WB:日光)

同じ場面にて前期型と後期型の撮り比べもしています。後期型はコーティングに改良が加えられており、コントラストの向上が見られるはずですが、実写による比較からは違いがよく判りませんでした。

2020/11/11

赤いコニカと緑のロッコール:プロローグ

赤いコニカ緑のロッコール プロローグ
6枚構成でF1.4に到達した
国産大口径レンズ
コニカとミノルタは、それぞれHEXANONとROKKORのブランドで数多くのレンズを市場供給した光学機器メーカーで、2003年に経営統合しコニカミノルタとなっています。コニカのレンズは赤褐色に輝くマゼンダ系コーティングとアンバー系コーティングの混合、ミノルタはグリーンに輝くアクロマチックコーティングが特徴で、特にミノルタのロッコールは「緑のロッコール」の愛称で親しまれてきました。

両社のレンズの中でいま特に注目したい製品は、F1.4の明るさをシンプルな6枚のレンズ構成で実現したHEXANON AR 57mm F1.4とROKKOR-PF 58mm F1.4の2本です。画質的な観点からみれば、F1.4の明るさのレンズは7枚や8枚で設計されているものが多く、現代レンズにより近い性能になります。事実、F1.4の明るさを実現した高速標準レンズは多くが、かつては7枚で設計され、今は8枚が主流です。一方、オールドレンズらしい個性溢れる描写に価値基準を置くならば、6枚で設計されている方が断然魅力的で、収差の魔力を求める事ができます。ところがF1.4の明るさで6枚構成のレンズは実は数えるほどしかありません。それだけに、このヘキサノンとロッコールはプレミアム・オールドレンズなのです。海外の製品では有名なAngenieux Type S21 50mm F1.5がやはり6枚玉です。

photographer: どあ*, model: 莉樺 & Re:Say(リセ),  赤と緑のカップ麺の元祖どん兵衛の「赤いうどん、緑のうどん」です。ロッコールユーザの写真家どあ*さんには緑のロッコールの使い手ですので、一活躍していただく予定です

2020/11/10

TAIR-62T 95mm F2.5


ミサイルの弾頭に搭載された
テレビジョンレンズ
TAIR-62T 95mm F2.5
ロシア製レンズの中にはHelios-40TやMIR-1Tなど、レンズ名の末尾にTの頭文字がつくものがあり、テレビシステム用に生産されたレンズを意味しています。今回取り上げ紹介するTAIR-62Tもテレビシステム用ですが、用途がかなり特殊で、ロシア軍のTV誘導ミサイルKAB-500に搭載され用いられました。ミサイルの弾頭部に設置されたレンズからTV映像を送り、目標に向かってミサイルを誘導・着弾させるのです。レンズは着弾とともにミサイルもろとも爆破されてしまいますので、儚い命でしたが、この子は運よく私のところにやって来て、写真用レンズとしての第2の人生を歩むことになっています。ただし、フツーの写真用レンズ(民生品)に比べると良い意味でも悪い意味でも、耐久性が高く、作りがよく、飾りっ気がありません。護身用にもなるくらいの重量感がありますので、これを持って気軽に旅に出ようという気にはなれませんが、近所をスナップ撮影で回るくらいなら問題ありません。
レンズの特徴はマイクロフォーサーズをギリギリで包括できるイメージサークルを持つところです。じつはマイクロフォーサーズ用の望遠オールドレンズには選択肢が多くありません。マイクロフォーサーズ機でオールドレンズを用いる方の多くは、フルサイズ用につくられた標準レンズや中望遠レンズなどを望遠レンズに転用していますが、これですとイメージサークルが広すぎるためレンズ内に余分な光を多く取り込んでしまいます。コントラストは落ち、写真にシャープネスや鮮やかな色を求める際にはデメリットです。イメージサークルにジャストフィットするレンズを使うことは時にとても重要なのです。しかし、一方でレンズは望遠になるほどイメージサークルが大きくなる傾向がありますから、小さなイメージサークルの望遠レンズはマイクロフォーサーズ用としては大変貴重な存在です。
ロシア軍のTV誘導ミサイルKAB-500(出展:Wikimedia Commons; Author:Евгений Пурель; 写真はwikimedia commonsのライセンス規則に則り借用しています)


KAB-500の弾頭部。ガラス内の下の方にTair-62Tが確認できます(出展:Wikimedia Commons; Author:Евгений Пурель; 写真はwikimedia commonsのライセンス規則に則り借用しています)

レンズの構成は下図に示すようなヘンテコな形態で、タイール型と呼ばれています。解像力やコントラストがやたらと高いのが特徴です。この基本構成は第二次世界大戦中にロシアの光学設計士David Volosov教授と彼の共同研究者であるGOI(State Optical Institute)のエンジニアたちの手でトリプレットからの派生として開発されました[1]。軍からの要望で暗い場所でも使用できる高速望遠レンズを開発することが目的でしたが、終戦後はシネマ用望遠レンズの基本構成としても積極的に採用されています。既存のレンズのどの構成にも似ていないロシア発祥の設計形態の一つといえます。 レンズ名の語源はわし座のアルタイール(日本では彦星)から来ています。ちなみにパートナーの織姫もレンズ名になっていて、こと座のベガにちなんだVEGAシリーズです。eBayなどでは彦星レンズと織姫レンズがセットで売られていることも多く、これはもう運命的としか言いようがないペアのようですね。
Tair-62Tの構成図。GOIレンズカタログ[2]からのトレーススケッチ(見取り図)


参考文献

[1] TAIRの光学系特許:USSR Pat. 78122 Nov.(1944)

[2] Catalog Objectiv 1970 (GOI): A. F. Yakovlev Catalog,  The objectives: photographic, movie,projection,reproduction, for the magnifying apparatuses  Vol. 1, 1970


入手の経緯・カメラへのマウント

ンズば2018年9月にeBayを通じてロシアのレンズ専門セラー(アンディさん)から21000円+送料の即決価格で購入しました。イーベイではこの方のみがレンズを出しているので、決まった相場はなく、彼の設定額が相場です。レンズのコンディションは「NEW  オールドストック」とのことで、完璧なコンディションの個体が届きました。まぁ、オールドストックでない中古品が万が一あるとすれば、一度はミサイルに搭載されながらも発射されずに廃棄されたミサイルから出てきた個体なのでしょう。中古品が滅多に存在しないことは容易に想像ができます。

レンズにはヘリコイドがついていませんので、カメラにマウントするには改造が必要です。私はM52-M42ヘリコイド(25-55mm)のカメラ側をライカMマウントに改造し、これをレンズに装着してライカMレンズとして使用できるようにしました。マイクロフォーサーズ機で用いる場合、大きく突き出した後玉がカメラの内部(センサーハウスの土手)に干渉しますので、後玉先端部のレンズガードを少し削らないといけません。とても厄介な改造です。


重量(実測) 454g, 絞り羽 11枚, 絞り F2.5-F22, フィルター径 52mm, 構成は3群4枚のタイール型


 

撮影テスト

レンズのイメージサークルは16mmシネマムービーに準拠していますので、マイクロフォーサーズ機で用いる場合、写真の四隅は本来は写らない領域です。四隅には光量落ちが出ますし、深く絞るとトンネル状のダークコーナーがあらわれ、ハッキリとケラれます。また、距離によっては背後にグルグルボケが出ますし、糸巻き状の歪みが生じ、真っ直ぐなものが曲がって見えます。マイクロフォーサーズ機では、こうした破綻を活かす方向で考える必要があります。もちろん、アスペクト比を変えたりセンサーサイズの小さいカメラを使えば、これらの破綻は回避できます。また、歪みや光量落ちは現像時にある程度補正できます。

レンズの描写は開放からスッキリとしていてヌケがよく、高解像で高コントラストです。ただし、トーンはなだらかで中間階調もよくでており、くもり日でも空の濃淡の微妙な変化までもしっかりと拾うことができます。発色は鮮やかでコンディションによっては気持ち悪いくらい鮮烈に写る事があります。ボケは前ボケも後ボケも均一に拡散し、バブルボケにはなりません。普通は前か後ろのどちらか一方が硬く、反対側は柔らかく写るのるのですが、このレンズの場合はいろいろな部分で普通のレンズの描写とは異なるようです。逆光には強く、ゴーストやハレーションはでません。

F?(少し絞っています) Olympus E-P3(AWB)

F2.5(開放) Olympus E-P3(AWB)

F2.5(開放) Olympus E-P3(AWB)

F2.5(開放)Olympus E-P3(AWB)

F2.5(開放)Olymus E-P3(AWB)


F2.5(開放) Olympus E-P3(AWB)

2020/10/30

イベント告知:オールドレンズフェス Preview @ SEEKBASE







オールドレンズフェスと2nd BASEによるコラボ企画「オールドレンズフェス Preview @ SEEKBASE」が東京秋葉原にて、11月3日~14日までの期間で開催されます。

会期中は2ndBASEすぐ横のイベントスペースにて、オールドレンズ写真家らによるグループ写真展が行われます。是非お立ち寄りください

期間:11月3日~14日

場所:SEEKBASE (アクセス)

三宝カメラ2nd BASE (ホームページ


[出展者]

上野由日路

伊藤弘

ema

take

spiral








週末はオールドレンズの試写なども楽しめるコミュニティスペースになります。

11月6日11時~14時に有志でロッコールとヘキサノンの体験会を行います。

11月14日14時〜17時にロッコールとヘキサノンの体験会を行います。

2020/10/14

オールドレンズフェス2020 in OIOI 会期を無事終了しました

新宿マルイ本館の特設会場で10/1から10/14まで開催されたオールドレンズフェス2020は、無事に会期を終了いたしました。遥々他県からご来場いただいた方も大勢いたようです。スタッフ一同感謝しております。

ありがとうございました! 

写真家の李さん(左)に撮っていただいた写真です!


 
本件に関するお問い合わせ先

メール:oldlensphoto@gmail.com

電話:03-6303-0296(ZENI.LLC)

オールドレンズフェス2020 in 新宿マルイ本館:上野由日路



2020/10/13

トロニエの魔鏡:戦後編 シリーズ予告

トロニエ博士とシュヴァルツシルト博士

ダブルガウス型レンズの発展に大きな功績を残したトロニエ博士 ( A. W. Tronnier )。彼が晩年に設計したノクトン( Nokton )やウルトロン( Ultron )は高速レンズの分野でダブルガウスの存在意義を決定付ける礎となり、やがて訪れるダブルガウス時代の呼び水となった歴史的な銘玉とされています。

トロニエが光学技術者を志すようになったきっかけの一つはブラックホールの父ともいえる科学者で、天体物理学と天文学の分野に大きな功績を残したカール・シュヴァルツシルト(Karl Schwarzschild)博士の影響だったと考えられます。シュヴァルツシルト博士はトロニエの両親と深い親交があり、ゲッティンゲン大学で教鞭をとる傍ら、たびたび彼の自宅に両親のもとを訪れ、当時取り組んでいた光学現象や一般相対性理論の研究について熱弁をふるっていました。当時は物理学を中心とする科学技術が空前の絶頂期を迎え、量子論や相対性理論を生み出したドイツは科学技術大国として世界を牽引していました。誰もが科学の発展に明るい未来の到来を重ね描いていた時代で、その発展が優れた光学技術によって支えられているのは誰もが知るところでした。トロニエはシュヴァルツシルト博士の熱い視線の先に光学技術の発展に寄与したいという思いを重ねたのでしょう。記録による根拠はありませんがトロニエが12〜14歳の頃であろうと思われます。

シュヴァルツシルト博士はブラックホールの予言者として知られており、1916年に完成したアインシュタインの一般相対性理論を使いブラックホール解(シュヴァルツシルト解)を導きだした人物です。ノーベル賞級の物理学者でしたが、残念なことにブラックホール解の論文を発表し、直後に病気でなくなっています。

今から2年前の2018年、ブラックホールがはじめて撮影されました。シュヴァルツシルト博士の予言が世界中の天文台の電波観測で実証されたのです。

「トロニエの魔鏡:戦後編」はPART 3のUltronで開幕し、凹ULTRON、ULTRAGON、NOKTONを扱う予定です。

2020/10/01

トロニエの魔鏡3:Voigtländer Ultron 50mm F2

51歳のトロニエ博士(文献[1]に掲載されていた写真からのスケッチ転写)

 
ザイデルの5収差を満足のゆくレベルで補正する事はレンズ設計の理想ですが、5つを同時に高いレベルで補正することは、時に「より良いレンズ」を作るための重荷となりました。ガウスタイプのレンズ設計に心血を注いだトロニエ博士は試行錯誤の中で、これに拘る事をやめてみたのです。 
 
トロニエの魔鏡3
平面性を捨てた型破りのレンズ
Voigtländer ULTRON 50mm F2
Goerz, Schneider, Voigtländer, Farrand Opticalに籍を置き、写真用レンズの設計者として数多くの銘玉を世に送り出したAlbrecht-Wilhelm Tronnier[トロニエ博士](1902-1982)。レンズ設計の分野では収差を徹底的に取り除く事が良しとされてきたそれまでの基本的な考え方に疑問を抱き、収差を生かし、時には積極的に利用するという逆転の発想によって比類ないレンズを世に送り出してきました。独特な設計思想から生みだされた彼のレンズの描写には妙な迫力、写真の域をこえたリアリティがあり、周辺画質を犠牲にしてまで実現した中央部の描写には生命感が宿るとさえいわれています。今回はトロニエ博士が戦後に設計を手掛け、後に銘玉と呼ばれるようになった拡張ガウス型レンズの傑作ULTRON(ウルトロン)の魅力に迫りたいと思います。

ULTRONの開発の原点は同氏が戦前のシュナイダー時代に設計した2代目Xenon F2まで遡ります。若いエンジニアのTronnierはレンズの全方位的な性能を重視し、ライバル会社の半歩先をゆく製品の開発に心血を注いでいました。当時のライバル会社とはカールツァイスのことで、同社はSONNAR(ゾナー)やBIOTAR(ビオター)など大口径モデルのスター軍団を擁していました。これらに対抗するためTronnierが1934年に開発した新設計のレンズが2代目Xenon F2で、Xenonの構成にはコマ収差と像面湾曲の同時補正が可能な優れた性質が備わっていました[2]。トロニエがコマ収差の補正に力を注いだのはゾナーを意識したのかもしれません。しかし、如何に優れたレンズでも正攻法の設計思想では、ライバルと同じ土俵で戦うことに変わりはありません。Xenonはブランド力の高いライバル製品と貧差を争う熾烈な戦いを繰り広げることとなります。やがて、第二次世界大戦が勃発しドイツは戦火に巻き込まれてゆきます。

大戦中のトロニエは写真用レンズの開発から離れ、故郷ゲッティンゲンにある関連会社のISCOで航空偵察機用レンズや双眼鏡、照準器用の広角アイピースなど主に軍需品の開発に従事しました。ドイツ敗戦が濃厚となる終戦間際の1944年にISCOを離れゲッティンゲンに自身の設計事務所を開設して独立、イギリス占領政権の要請によりVoigtländer (フォクトレンダー)社の技術顧問に就任するとともに、同社とレンズ設計の供与に関するライセンス契約を結びます。この間に彼はXenonに置き換わる新型レンズULTRONの着想を得ることになります。

ULTRONの設計構成はXenonと全く同じでしたが、それまでの常識に囚われない独創的なアイデアが盛り込まれました。トロニエが研究対象としていたガウスタイプのレンズはザイデルの5収差を全て補正できる高い設計自由度を備えていましたが、コマ収差と像面湾曲の補正を強化することが当面の課題でした。この点においてはZeissのビオターも例外ではありません。ULTRONの開発でトロニエが導入したアイデアとは、5収差のうち像面湾曲の補正を捨て、残りの収差の補正に注力することでガウスタイプのレンズに備わった潜在力を極限まで引き上げるというものでした[3][注1-2]。潔く像面の平坦性を捨てたULTRONにグルグルボケは起こらず、Xenonの設計構成に由来する素性の良さでコマ収差の補正にもアグレッシブに取り組むことができたのです。こうして1950年に登場したULTRONは平面を撮ることこそ苦手でしたが、強い像面湾曲からくるやや誇張気味の立体感と中心部の優れた解像力、フレアの無いスッキリとしたヌケの良さ、素直なボケなど、当時のガウスタイプのレンズからは想像もできない新境地に到達、このレンズでしかとれない写真があることを世の写真家達に印象付けることとなったのです。ULTRONの描写に対して当時の人々は「異次元の写り」などと最高の誉め言葉で賞賛しました。XenonからUltronへの進化は、このレンズ構成の活かし方や収差の活用手段に対するトロニエ博士の発想の転換と成熟を意味していたのでした。
ULTRONの構成図[7]からのトレーススケッチ。設計構成は5群6枚でTronnierが戦前に設計し1934年からKodak Retinaに搭載されたXenon 50mm F2をベースとしています。像面湾曲が大きく非点収差の小さい収差設計は他のレンズには見られない特徴で、設計者の明らかな意図を感じるところです[3]。球面収差やコマ収差は良好に補正されており軸上色収差も小さいなど、他の部分はかなり良く補正されています。意図的に放置した像面湾曲からは強い立体感が得られ、背後のボケに影響を及ぼすサジタル像面はアンダーの側に大きく引き込まれたため、美しい後ボケが得られるようになりました[注3]

ULTRONは1950年に登場し、1967年までの17年間で台帳に記載された分だけでも212444本が製造されました[4]。これは、ほぼ同じ期間に約23万本が製造されたライツSummicron初期型(1953-1968年)と肩を並べるヒットと言えます。内訳はVitessa用が69149本で最も多く、続いてProminent I/II用が50030本、Vitomatic IIa用(1960年~1964年)が40288本、Vitomatic III用(1964年~1967年)が33017本、Rectaflex用が8584本、Vito III用が4050本、用途不明(記録なし)が7326本です。1968年にIcarex TM用の後継モデルCarl Zeiss ULTRON(通称凹みウルトロン)50mm F1.8が登場したことで製造中止となっています。ちなみに、後継製品を設計したのはTronnier, Eggert, Uberhagenの3名で、いずれもVoigtländer所属のレンズ設計士です[5]。

ズミクロンとウルトロンはある意味で対照的なレンズなのだと思います。ズミクロンは全方位的な描写力を高める正攻法の設計思想を極めることで生まれました。卓越した描写性能は誰もが認める名玉の中の名玉で、ゾナーすらもかすんで見えます。ただし、ウルトロンの魅力はそこではありません。ウルトロンの設計思想は、戦前のガウスタイプ劣勢時代の中で設計者が試行錯誤を重ねた末に辿り着いた「引き算の美学」なのです。
 
[注1]像面湾曲とは平面にピントを合わせても写真の四隅で平面がピンボケを起こしてしまう性質の収差で、イメージセンサーの側にできる結像面(像面)がお椀のようにレンズの側に湾曲してしまうために起こります。例えば学校などで大人数の集合写真を撮る場合、左右の隅の人はピントが合わず不鮮明に写ってしまいますが、昔はこれに対応するため隅の人には少し曲がった位置に立ってもらいました。

[注2]像面湾曲をしっかり補正すると他の補正をある程度は犠牲にしなければなりません。写真用レンズの収差補正の一般論として幾つかの文献には、像面湾曲の補正に拘らなければ他の全ての収差は比較的容易に補正できる事が述べられており、像面湾曲は太刀の悪い収差であることが伺えます[6]。

[注3] この方法は程度の差こそあれ、「ボケ味」に深い配慮をはらう日本のレンズ設計者がよく用いた美ボケのためのテクニック(グルグルボケ防止法)です。例えばW-Nikkor 3.5cm F2.5の設計は良い例ですので、こちらを参照してください。Tronnierはこの時代においてボケに対する深い認識と配慮を持った稀有なドイツ人設計士だったのかもしれませんね。
 
参考文献
[1]Voigtländer "weil das Objectiv so gut ist", Voigtländer A.G., Kameras, Objectivem Zubehur; Voigtländer 1945-1986 UDO AFALTER(1988)
[2] Pat.US2627204A: Four-component gauss-type photographic objective of high lighttransmitting capacity
[3] 海外製カメラ試験報告VOL7:レンズ, 日本写真工業会昭和33年:  貴重なウルトロンの収差図が掲載されています
[4]フォクトレンダー台帳: Hartmut Thiele, Fabrikationsbuch Photooptik: Voigtlander, Privatdruck Munchen 2004
[5]3名共同で関連特許を1968年にスイス、1969年に米国(US3612663)およびドイツ(DE1797435A1/DE1797435B2/DE6605774U)で出願している
[6] カメラマンのための写真レンズの科学 吉田正太郎著 地人書館; Rudolf Kingslake, A History of the Photographic Lens, Academic Press (1989) 
[7] Vogtlander Prominent カタログ "because the lens is so good" (1954)


入手の経緯
今回、ブログで使用したのはProminent用に供給された1950年代製造の初期のモデルと、Vitomatic用に供給された1960年代製造の後期モデルです。ウルトロンは時代ごとに設計が微妙に異なっているようで、描写にもその違いが表れています。
Prominent用モデルは2013年にeBayを介してフォトホビーから225ドルの即決価格で手に入れました。このセラーの解説はいつものように簡素で、まいど博打に近い買い物でしたが、今回は未使用に近い美品が届きました。こういう時がよくあるので博打が後を絶たないわけです。現在の海外での取引相場は200ドルから300ドルあたりです。レンズをデジカメ等で使用する場合にはPROMINENT用の各種アダプターがebayなどに出ています。私はKiponのProminent-Leica Lアダプター(距離系連動タイプ)を入手しました。
続いてVitomatic IIa用モデルは2011年にカメラから外しM42にマウント改造された状態でeBayに出品されていたものを350ドルで手に入れました。入手元はイタリアのセラーです。届いたレンズがどうやってM42になっているのかを調べたところ、後玉の据え付け部分から本来ないはずの嵩上げリングが出てきました。リングを入れることで前後群の間隔を広げバックフォーカスを延長するという禁断の手法が持ち込まれていたのです。リングを外したところ無限が出なくなりましたので、自分でヘリコイドにのせライカL39マウントに再改造して使用することにしました。本来はカメラ固定式のモデルですので流通量は少なく、このレンズに対する定まった相場はありません。
PROMINENT用ULTRON 50mm F2: 重量(実測) 175g, フィルター径 45mm, 絞り羽 15枚, 最短撮影距離 1m, 絞り値 F2-F22, 設計構成 5群6枚XENON /ULTRON型(拡張ガウス型),  同型タイプの製造期間 1950-1958年(50030本:本個体は1953年製)
Vitomatic IIa/III用ULTRON(改造): 重量(実測)246g, フィルター径40.5mm, 絞り羽 7枚, 最短撮影距離 1m, 絞り値 F2-F22, 設計構成 5群6枚XENON / ULTRON型(拡張ガウス型),  同型タイプの製造期間 1960-1967年(73305本:本個体は1963年製)
 
撮影テスト
1950年代に製造されたプロミネント用ウルトロンよりも1960年代のビトマテック用ウルトロンの方がシャープネスがより高く、少しづつ設計が改良されていた事が判ります。両モデルとも解像力は高く、ピント部中央はとても緻密な画作りができます。高画素機のsony A7R2で用いても頼りなさを感じることが全くありません。開放でもスッキリとヌケがよく、被写体の息づかいを近くで感じるような、リアルな感覚に浸れます。背後のボケは距離によらず安定していて大きな乱れはありません。アウトフォーカス部の像の滲み方がとても綺麗で、背後のボケ味に硬さを感じることがあまりありません。開放で前ボケ側に微かなグルグルボケがみられることがあり、像面は確かに曲がっているようです。階調描写は流石に古い時代のレンズらしく、軟らかくなだらかで、自然光の入る室内での撮影や曇り日の屋外などには豊富な中間階調をいかしたダイナミックなトーンを楽しむことができます。私は全く平気なのですが四隅にやや光量落ちが目立つことがあります。発色はあっさりとしていてモノクロ写真とカラー写真の間をつくようなテイストで今回のメンズポートレートにもよくマッチしていました。この渋さはモノクロ時代のレンズならではのもの。敢えてカラーで使う方が面白いと自分は感じています。
 

Model 稲松悠太さん
Vitomatic IIa ULTRON 50mm F2
+
SONY A7R2
 
Vitomatic IIa Ultron @ F2(開放) + sony A7R2(WA:曇天)

Vitomatic IIa Ultron @ F2(開放) + sony A7R2(WA:曇天)

Vitomatic IIa Ultron @ F2(開放) + sony A7R2(WA:曇天)

Vitomatic IIa Ultron @ F2(開放) + sony A7R2(WA:曇天)
Vitomatic IIa Ultron @ F2(開放) + sony A7R2(WA:曇天)

Vitomatic IIa Ultron @ F2(開放) + sony A7R2(WA:曇天)

Vitomatic IIa Ultron @ F2(開放) + sony A7R2(WA:日陰)
Vitomatic IIa Ultron @ F2(開放) + sony A7R2(WA:日陰)
Vitomatic IIa Ultron @ F2(開放) + sony A7R2(WA:日陰)

Vitomatic IIa Ultron @ F2(開放) + sony A7R2(WA:日陰)

Vitomatic IIa Ultron @ F2(開放) + sony A7R2(WA:日陰)

 
写真を撮らせていただいた方は、モデルのみならず役者としても活躍されている稲松悠太さんです。稲松さんはオールドレンズに関心のある方で、以前はオールドニッコールを所持していらっしゃいました。現在はAPS-Cフォーマットのx-pro2をお使いとのことですので、シネマ用レンズとハーフサイズカメラ用レンズの魅力をお話ししたところ、目を輝かせ熱心に聞いてくださいました。とても魅力的な方です。
 
Prominent ULTRON 50mm F2
+
Bessa T(Fujifilm C200) 
 
Prominent ULTRON 2/50+Fujifilm C200カラーネガフィルム:  角生えてる
Prominent ULTRON 2/50+Fujifilm C200カラーネガフィルム: 角ですか・・・


Prominent ULTRON 50mm F2
+
SONY A7R2

Prominent Ultron @ F2(開放) sony A7R2(WB:日光)





Prominent Ultron @ F2(開放) sony A7R2(wb:日陰)







Prominent Ultron @F2(開放)sony A7R2(wb:日陰)

Prominent Ultron @ F2.8 sony A7R2(WB:日陰)



2020/09/18

速報:オールドレンズフェス in 新宿マルイ本館 開催決定!

イベント名:オールドレンズフェス2020 in 新宿マルイ本館

会場:新宿マルイ本館6F 特設会場

会期10/1(木)~10/14(水)

時間11:00~20:00(10/1|プレオープン15時~)(10/14|最終日18時閉場)


来場先着800名様にフォトブックのプレゼントがあります。

 

本件に関するお問い合わせ先

メール:oldlensphoto@gmail.com

電話:03-6303-0296(ZENI.LLC)

オールドレンズフェス2020 in 新宿マルイ本館:上野由日路