おしらせ


MAMIYA-TOMINONのページに写真家・橘ゆうさんからご提供いただいた素晴らしいお写真を掲載しました!
大変感謝しています。是非御覧ください。こちらです。

2019/01/12

LOMO OKC1-18-1(OKS1-18-1) 18mm F2.8

 
1950年代に活躍した超広角シネレンズと聞いて直ぐに浮かぶのは、レトロフォーカス型レンズのパイオニアメーカーである英国テーラー&テーラーホブソン社のSpeed Panchro 18mmとフランスのAnagenieux Type R2 18.5mmです。一方で東側諸国に目を向けるとロシア(旧ソビエト連邦)には高い光学技術があり、1950年代中半には両社の広角シネレンズに対抗できる製品がつくられていました。レニングラードのLENKINAP工場が1950年代中半から1960年まで生産したPO711960年にリリースした後継モデルのOKC1-18-1です。
 
サンクトペテルブルクからやってきた
ロモの映画用レンズ PART 1
LOMO OKC1-18-1(OKS1-18-1) 18mm F2.8

1952年に映画用カメラのKONVAS-1M(カンバス1M)が登場すると、これに搭載する交換レンズとしてPOシリーズのラインナップが大幅に強化されました。この時にリリースされた新しいレンズの供給元となった工場が、後に合併しLOMO(ロモ)の一部となるレニングラードのLENKINAP(レニングラード・シネマ器機)です。LENKINAPからは、旧来から存在したシネレンズ(PO2 75mm, PO3 50mm , PO4 35mm)の改良モデルにあたるPO60, PO59, PO56などがリリースされ、更にPO71 18mm, PO70 22mm, PO59 28mm, PO63 80mm, PO18 100mmなど、それまでにない新しい焦点距離のレンズも登場しました。1950年代末にこれらは再設計され、解像力を一層向上させたLENKINAP OKCシリーズへと姿を変えてゆきます。
今回取り上げるのは、その中で焦点距離の最も短いPO71RO71)の後継モデルOKC1-18-1です[1]。ここまで広角のシネレンズともなると、常用ではなく室内など狭い空間でのシーンや、パースペクティブを強調したいシーンに限定して使われたに違いありません。市場に流通している個体数が極僅かなのは、このような事情を反映しており、探すとなるとなかなか見つけるのは難しい希少レンズです。
レンズの設計構成は下図に示す通りで、当時のレトロフォーカス型レンズで最高レベルの性能を誇ったVEB Zeiss JenaFlektogon 35mm(フレクトゴン)をベースにしています。Flektogonは初期のレトロフォーカス型広角レンズにおいてコマ収差を有効に補正することのできる唯一無二のレンズでしたので、これを設計ベースに据えることは手堅い選択でした。OKC1-18-1には開放からフレアや滲みのない、Flektogonらしい描写性能が備わっています。
このレンズの外観の特徴は何と言っても巨大な前玉です。見ているだけでワクワクしてしまうのは、恐らく私だけではないとおもいます。なにしろコンピュータによる設計法が確立される前の時代の製品ですから、まず基本となるマスターレンズを設計し、前方に凹レンズを据えてバックフォーカスを延長させ、マスターレンズとの空気間隔をズームレンズのように伸縮させることで、画角を拡大させるアプローチがとられました[2,3]。基準となるマスターレンズは原則いじらないので、最終的に前玉がデカくなるのは当然です。その後のコンピュータに頼る設計技術の進歩がレンズ設計に自由度をもたらし、より小型で高性能なレンズがつくれるようになっていきます。


OKC1-18-1の構成図(文献[4]からのトレーススケッチ):設計構成は6群8枚のレトロフォーカス型で、ビオメタールタイプのマスターレンズの前方に凹メニスカスを1枚、さらにその前方に張り合わせの凹レンズを設置し、バックフォーカスの延長と包括画角の拡大を実現しています。ちなみに2群目から後ろはZeiss JenaのFlektogon 35mmと同一構成です。前身モデルのPO71も同一構成ですが細部の寸法に若干の差があります[4]

参考文献
[1] 市場に流通している製品の独自調査により、PO71の最も新しい個体のシリアル番号が1960年製(N60XXX)であることを写真で確認しています。また、OKC1-18-1の最も古い個体のシリアル番号がやはり1960年製(N60XXXX)であることも写真で確認済です。
[2] 写真レンズの歴史 ルドルフ・キングズレーク著(朝日ソノラマ: 1999年)
[3] Joseph Bailey Walker, US.Pat.XXX(1932)
[4] GOI lens catalog 1970

Lomo OKC1-18-1 18mm F2.8: 重量(実測) 407g, マウント部ネジ径 M21, 絞り指標 T3.3(F2.8)-T22, 設計構成は6群8枚のレトロフォーカス型, 定格イメージフォーマット  35mmシネマ(APS-C相当)



 
入手の経緯
eBayでは状態の良い個体に500~600ドル程度の値が付きます。今回、私が手に入れた個体は20182月にeBayでウクライナのレンズセラーが400ドル代で売っていたものですが、値切り交渉の末に385ドル+送料の即決価格で手に入れました。オークションの記載は「レンズは完全な作動品で、未使用のようなガラスである。カビ、クモリ、拭き傷はなく、パーフェクトなコンディションだ」とのこと。届いた個体は記載通りの素晴らしいコンディションで、おそらくオールドストックであったものと思われます。レンズには下の写真のような美しい純正ケースとベークライト製キャップがついてきました。

レンズはこんな感じのお洒落なペーパーケースに入って届きました。ケースや前玉・後玉用キャップにはLOMOのロゴが入っています



デジタルカメラで使用する
レンズにはヘリコイドが付いていないので、ピント合わせをおこなうには外部のヘリコイドに頼る必要があります。マウント部は特殊な21mm(M21x0.5)のネジですが、これをライカL39マウントに変換するためのマウントアダプター(写真・下)が市販されていますので、これを用います。ちなみにこのネジは少し前に取り上げたOKC1-22-1と同じ規格ですのでOKC1-22-1用で大丈夫です。このアダプターでライカL、更にはライカL→ライカMアダプターを用いてライカMマウントに変換し、そのままライカM→ミラーレス機アダプター(ヘリコイド付)に搭載すれば各社のデジタルミラーレス機で使用することができます。アダプターを3枚も使用していますがスクリューマウントなのでガタは出ず、快適に使用することができます。

M21-L39アダプター。eBayでOKC1-22-1用として販売されている

撮影テスト
35mmシネマフォーマット用レンズなので、イメージサークルはAPS-Cセンサーをカバーできます。中心部の解像力は良好で、開放から滲みやフレアはなく、スッキリとした描写の高性能なレンズです。ただし、軟調でトーンはなだらかなうえ、深く絞り込んでもシャープになりすぎることがないなど、絶妙なポジショニングです。ガラス境界面が多いからなのでしょう。おなじロモの広角レンズでもOKC1-22-1  22mm F2.8は、これよりも更にシャープなレンズでした。レトロフォーカスタイプなので、写真の四隅で光量落ちが顕著に目立つことは性質的にありませんし、ボケも安定しています。倍率色収差は少なく、デジカメで使用した場合でも像の輪郭が四隅で色付くことはほぼありませんでした。歪みは僅かに樽型です。ゴーストやハレーション(ベーリング・グレア)はこのクラスのレンズにしては出にくく、逆光時の描写には安定感があります。

Camera: Sony A7R2(APS-C mode)
TORUNOオープニングセレモニーにて

F2.8(開放) SONY A7R2(APS-C mode) モデルの清水ゆかりさん。接触するんじゃないかと思われるくらいに寄って、やっとここまでの構図になります。清水さんもこのレンズの存在感に驚いていた様子でした

F4  SONY A7R2(APS-C mode) 解像力は良好です

F4  SONY A7R2(APS-C mode)
F5.6  SONY A7R2(APS-C mode) 歪みは僅かに樽側ですが、良好なレベルです
SONY A7R2(APS-C mode)






Camera: SONY A7R2
場所:伊豆大島
F5.6 sony A7R2(APS-C mode WB: 曇天)

F5.6 sony A7R2(APS-C mode WB:曇天)

F4 sony A7R2(APS-C mode WB:日陰)
F4 sony A7R2(APS-C mode  WB: 日陰)
F4 sony A7R2(APS-C mode, WB:日陰)
F5.6 sony A7R2(APS-C mode, WB:日陰)

F5.6 sony A7R2(APS-C mode, WB:日陰)





Camera: SONY A7R2

場所:三浦半島 観音崎灯台


F5.6 sony A7R2 (APS-C mode WB:曇天) 


F8  sony A7R2 (APS-C mode WB:晴天) 





F5.6 sony A7R2(APS-C mode WB:auto)
F4 sony A7R2(APS-C mode  WB:auto)


Camera: FUJIFILM X-T20
場所:和歌山県 高野山

F8  Fujifilm X-T20(WB:Auto)

F2.8(開放) fujifilm x-t20(WB auto)






F8 Fujifilm X-T20(WB:auto, Aspect Ratio 16:9)




2019/01/01

A HAPPY NEW YEAR




新年あけましておめでとうございます。2019年もネタの尽きない1年になりそうですが、ブログの更新はこれまでどうり、ゆっくりとマイペースで進めてゆくつもりです。オールドレンズ・フェスやオールドレンズ写真学校などで皆様にお会いできることを楽しみにしています。

2018/11/18

Kino precision(Kiron Corporation in USA) Kiron 105mm F2.8 MACRO 1:1 MC


「うーっ。うーっ・・・」。ある夜、私は唸っていました。妻に腹でも痛いのかと尋ねられたが、そうではありません。このレンズの凄まじい描写力にショックをうけていたのです。「カシャ」「あり得ない」。「カシャ」「反則だ!」。シャッター音とともに呟くわたし。「カシャ」「信じられん」。「うーっ。うーっ・・・」。ブツブツと独り言を吐いていると、私の異変に気づいて娘が起きてきました。しばらく部屋の戸口で何も言わずに私の事をじーっと観察していましたが、いつの間にかまた寝に入ってゆきました。

海外で絶賛された国産マイナーレンズ PART 3(最終回)
伝説の望遠マクロレンズ
KINO PRECISION(KIRON CORPORATION) KIRON 105mm F2.8 MACRO 1:1 MC
ソーシャルメディアネットワークのMFlensesでかつて実施された公開ファン投票の望遠マクロ部門において、ニコンの名玉AI Micro-Nikkor 105mm F2.8を抑え堂々のベストレンズに輝いたのが、キノ精密工業のマクロレンズKIRON(キロン) 105mm F2.8です。海外の写真誌FOTO[1](1985年)でも、このレンズがMicro-Nikkor 105mm やTokina 90mm F2.5を凌ぐ抜群の性能であると紹介され絶賛されました。私もかつてMicro-Nikkor 105mmを手にしたことがありますが、これは本当に高性能なレンズです。そして、比較テストにこの最強の刺客が送り込まれたのは、KIRONに途方もない実力が備わっていたからに他なりません。KIRON 105mmはこうして、マクロレンズ界の伝説となったのです。
キノ精密工業(KINO PRECISION/現・メレスグリオ株式会社)は埼玉県比企郡ときがわ町に拠点を置く光学メーカーです。創業は1954年で、設立当初は8mmムービーカメラ用レンズ(米国ではKINOTELのブランド名)をOEM供給していました。1965年に同社は35mm判スチールカメラ用レンズの分野に進出し、Ponder and Best(後のVivitar)にレンズをOEM供給を開始しました。1970年代にキノ精密工業が供給したVIVITARシリーズ1は控えめな価格設定とクオリティの高さで消費者からの大きな反響を獲得、キノはビビターブランドを世に広める立役者となります。当時のキノ精密工業のクオリティの高さは日本のOEMレンズメーカーの中で飛び抜けており、他社よりも品質の高い製品を市場に供給することが同社アイデンティティであったことは間違いないと思います。ところがビビターブランドの同じ製品カテゴリーに日本の他のメーカーが参入したため、キノ精密工業に対する評価とビビターブランドに対する評価が一意ではなくなってしまいます。同社は1980年にカリフォルニアのカーソンに米国子会社のKiron Corporationを設立、他社へのOEM供給を続けながらも自社ブランドのKIRONでレンズの供給を開始します。
KIRONブランドは品質の高さと性能の良さで、直ぐにサードパーティ市場での頭角を現してゆきます。特に評判が良かったレンズは28mm F2、105mm F2.8 MACRO、28-210mm F4-F5.6,  28-210mm F3.8-F5.6 varifocal zoom, 28-85mm F2.8-3.8 varifocal zoomの5製品で、解像力の高さとシャープネス、クオリティの高さにより、海外では各方面の雑誌レビューで絶賛されています[3]。Kironブランドの5つの広告のうち4つが米国で広告賞を受賞したこともKIRONの認知度を高める切っ掛けとなりました。1980年代当時のKIRONブランドの販売価格はメーカー純正レンズよりも僅かに安い程度でしたが、販売店や消費者から廉価品扱いされることがありませんでした。Kiron立ち上げから僅か12か月、同ブランドの売上高は米国内で当時64あったレンズブランドの4位をマークしています[8]。
Kironブランドのレンズはすべて日本国内で製造され、品質絶対主義を貫いていました。しかし、1985年のプラザ合意で為替相場が急激な円高に転じると、国外に生産拠点を移したカメラメーカーの純正レンズと同等の価格設定ではレンズが製造できなくなります。また、1980年代後半はオートフォーカスへの移行が進むなどマーケットは流動的になり、1988年に同社は35mm版カメラ用のレンズの生産から撤退、以後は工業用レンズに注力することになります。
1989年にキノ精密工業は光学部品専業メーカーMelles Griot社(米国)の日本法人であるメレスグリオ・ジャパンと合併し、Kino-Melles Griot社となります。1995年に会社はMelles Griot Ltdへと改称、2007年にはメレスグリオ株式会社の一部となっています。さらに、2016年に今度は京セラが同社の全株式を取得し[4]、メレスグリオを完全子会社化します。同社は現在も産業用光学機器の専業メーカー(従業員54/20167月時点)として埼玉県ときがわ町に存続しています。
Kiron corporation(Kino Precision) KIRON 105mm F2.8 MACRO MCの構成図:左が前方(被写体側)で右がカメラ側。構成は6群6枚の固有形態。レンズはコンピュータで設計されており、フローティング機構が導入されています。フローティングとは光学系内部のいくつかのレンズ群をそれぞれ異なる繰出し量でフォーカシングさせ、マウロ撮影時の性能劣化を抑えたり、総繰り出し量を小さくする機構です



今回で本特集の最終回ですが、紹介するレンズは望遠マクロの名品Kiron 105mm F2.8 MACRO MCです。このレンズは繰り出し量が驚くほど少なく、撮影倍率を1:1(等倍)まで持って行っても、鏡胴の全長は元の長さの1.5~1.8倍程度にしかなりません。例えば前の記事で扱った同じ等倍マクロレンズのELICAR 90mmでは元の長さの3倍にもなりました。KIRONの方が焦点距離は長いわけですから、これは驚異的なことです。ヘリコイドが伸びバックフォーカスが長くなると、その分だけ実行F値は暗くなりますが、Kironはマクロ撮影時にも高速シャッターを切ることができるのです。こういう見えないところに工夫があるのも、このレンズの素晴らしい長所だとおもいます。一体どういうカラクリなのかとよく観察してみると、ヘリコイドを近接側に回す際に前群は普通に繰り出されていますが、後玉は全く動いていません。つまり、光学系はフローティング機構になっているのです。フローティングとは光学系内部のいくつかのレンズ群をそれぞれ異なる繰出し量でフォーカシングさせ、マクロ撮影時の性能劣化を抑えたり、総繰り出し量を小さくする機構です。光学系はコンピュータで設計されました。
私が入手した個体はCanon FDマウントですが、他にもMinolta MD/SR, Pentax K, Nikon F, Contax/Yashica, Olympus OM, Konica ARになど国産一眼レフカメラの主要マウント規格に対応していました。ブランド名もVivitar, Lester A Dine, Rikohなど複数の名称でOEM販売されています。光沢感のある美しい鏡胴で、手に取るとクオリティの高さが伝わってきます。前玉のフィルター枠のあたりに内蔵ビルトインフードを隠し持っており、必要に応じて繰り出すことができる凝った仕掛けになっています。設計は6群6枚の固有形態で、前群側にKino-plasmatや凹Ultronを連想させる凹メニスカスが用いられているのが目を引きます。レンズ単体での最大撮影倍率は等倍1:1なので35mm判フィルムと同じ大きさのサイズの被写体を画面いっぱいの大きさで撮ることができます。純正テレコンバータのKIRON MC7 x2を用いれば最大撮影倍率を更に上げることができるとカタログに記載されています[2]。
 
Kino Precision KIRON 105mm F2.8 MACRO 1:1 MC: 重量(カタログ仕様) 650g(マウント仕様により若干前後する), フィルター径 52mm, 絞り指標 F2.8-F32, ビルトインフード内蔵,  撮影画角 23.3度,  最大撮影倍率 1:1(等倍), 最短撮影距離 0.347m, 鏡胴長 102.5mm, 最大鏡胴径 72mm, 構成 6群6枚(フローティング機構),  対応マウント(カタログ掲載)Nikon F, Pentax K, Minlta SR/MD, Olympus OM, Kinoca AR, Yashica/Contax; ただし、本品はカタログ掲載のないCanon FDマウントです。他にもM42があるはずなので、これがすべてで無いことは明らかでしょう
入手の経緯
国内と海外の中古相場には天と地ほどの開きがあり、国内外での評価の差を反映しています。国内では7000円~15000円、eBayでの取引額の相場は40000~50000円です。レンズのクオリティを考えると海外での評価のほうがマトモですが、今探すならもちろん国内です。海外のブローカーに買い漁られ国内マーケットからは蒸発しかけています。
本品はヤフオク経由で2014年1月に山形のコレクターから15000円で落札購入しました。オークションの記述は「レンズの外観は綺麗。ピントリングにほんの少しのスレ。光沢のある鏡胴は綺麗。レンズ面にキズ、汚れ、カビなく良好。内部にほんのわずかなホコリの混入はあると思われるが描写に影響は無いレベル。NEXと組み合わせ使用していた」とのこと。充分なコンディションの製品個体が届きました。
 
参考文献・資料
[1] FOTO (March 1985) 16-20pages: 100mm近辺のマクロレンズの特集でNikkor 105mm F2.8とTokina 90mm F2.5に比べKiron 105mm F2.8の方が性能が上回ると紹介された
[2] Kiron 105mmm F2.8 Macro Lens Instruction(4pages)
[3] Wikipedia: Kiron lenses
[4] Kyocera ニュースリリース(2016年8月1日)
[5] Modern Photography, Kiron 28-85mm Varifocal Macro Zoom Review, March 1981
[6]Keppler, Herbert, Super Stretch Zooms, Do you Lose Picture Quality?, Modern Photography (June 1986), pp. 34-35,74
[7] Shutterfinger, A Look Back At Lenses, 11 April 2009
[8] Camera-wiki: Kino Precison Industries

撮影テスト
解像力・シャープネスともに素晴らしく、開放から滲むことないスッキリとしたヌケの良い描写性能を維持しています。マルチコーティングのためコントラストは良好で、鮮やかな発色が目を引きます。この種のマクロレンズは近接で最高のパフォーマンスが得られるよう収差(球面収差)を意図的に過剰補正にした製品が多く、その反動のためポートレート域では背後のボケがザワザワと硬くなるのが常ですが、本品はフローティング機構のおかげで拡散は適度に柔らかく自然なボケ味が得られます。通常のレンズはF16 、F22と深く絞り込むと回折によりハレーションが発生し、シャープネスが落ちることが多いのですが、本品はそのようなことが全くありません。おかげで、最短撮影距離でも気兼ねなく深く絞り込むことができます。ヘリコイドのトルク感や繰り出す際のヘリコイドピッチがマクロ撮影に最適化されており、取り回の良さは素晴らしいと思います。日本で評価されることはありませんでしたが、世界では大きく評価されたマクロレンズ界の名品です。
F8  sony A7R2(WB:日光)  逆光にも強いレンズで、ハレーションやゴーストは殆ど出ません


F8 sony A7R2(wb:日光)











F2.8(開放) sony A7R2(WB:日陰)開放からシャープネス、コントラストは良好で滲みも全く見られません。驚異的な性能のレンズです



F5.6  sony A7R2(WB:日陰) 2段絞っても画質は安定しており、開放との差は被写界深度が変化したくらいです

F8 sony A7R2(WB:日陰) マクロレンズなので絞って使うのが基本です。マクロレンズは絞った時の回折をどう抑えるかが課題ですが、このレンズにはそうした問題が全く見られません。とても高性能なレンズだとおもいます





F8 (等倍 1:1) sony A7R2(WB:日陰)  上の被写体を最大倍率(等倍)で撮影したもの。ピントは中央より下側にとっています。シャープネス、解像力は最大倍率でも十分に高いレベルをキープしています
F8 sony A7R2(WB:日光) 木の根に赤い小さな蜘蛛がとまっていました。最大倍率で蜘蛛を狙ったのが次の写真です





F16 (等倍)  sony A7R2(WB:日光) 深く絞り込んでもコントラストは落ちません







2018/11/09

OLD LENS FESTIVAL VOL.2 in TOKYO 2019



OLD LENS FESTIVAL in Harajyuku TOKYO

Old Lens Festival vol.2 will be held in Harajyuku(Tokyo) from November 23th to 25th, you can find the outline of the festival in the following official web-page:
https://urbansoul00.wixsite.com/oldlensfestival 

会期が近づいてきましたのでお知らせします。オールドレンズフェス vol.2 が11/23-11/25開催となります。


オールドレンズ写真学校写真展 Vol.6

2018/10/30

LOMO cinema movie lenses part0 (prologue) ロモの映画用レンズ



サンクトペテルブルクからやってきた
ロモの映画用レンズ PART 0(Prologue)
LOMO(ロモ:レニングラード光学器械合同)は文学とバレエの都、そして白夜でも有名なロシア・レニングラード州の古都サンクトペテルブルクに拠点を置く光学機器メーカーです。日本ではロモグラフィーの名でも知られ、トイカメラの供給源としてクリエイティブな創作活動とコラボしているイメージが定着していますが、実態は製造業の90%が軍需光学機器と宇宙開発、産業用・医療用光学機器に向けられ30000人の技術労働者を抱え持つ強大コンビナートでした。カメラや映画用機材の生産は企業活動のほんの一部にすぎません。
創業は旧ソビエト連邦時代の1965年で、戦前から映画用機材や光学兵器を生産していたGOMZ(国営光学機械工場)を中心にLENKINAP(Leningrad Kino Apparatus:レニングラードシネマ器機)など複数の工場の合併と再編により誕生しました。LOMOのシネレンズには映画産業に供給されている業務用のOKCシリーズと、主に産業用や軍需品として供給されているЖシリーズ(Gシリーズ)の2系統があり、鏡胴のつくりや画質基準に差があります。
今回からはロモが旧ソビエト連邦時代に生産した映画用レンズを特集してゆく予定です。取り上げるレンズはOKC1-16-1 16mm F3,  OKC1-18-1 18mm F2.8,  Hydrorussar-8 3.5/21.6,  Ж-21 28mm F2,  OKC4-28-1 28mm F2,  OKC1-35-1 35mm F2,  OKC8-35-1 35mm F2,  OKC11-35-1  35mm F2,  OKC1-50-1 50mm F2,  OKC1-50-3 50mm F2m  OKC1-50-6 50mm F2, OKC1-75-1 75mm F2,  OKC6-75-1 75mm F2,  Ж-48 100mm F2です。レンズ銘が住所の番地みたいでややこしいのですが、OKCのうしろに続くX-YY-ZのうちXがレンズのモデル番号で、設計や仕様が異なるごとに異なる番号が付与されています。YYが焦点距離をあらわし、Zはモデルのバージョンを表しています。Sony α7IIIにたとえるなら、7がXでIIIがZとなり、EOS 5Dマーク3では5DがXでマーク3がZというわけです。採算性を度外視した共産圏の製品らしい怪物レンズも陸海空から何本か登場します。度肝を抜かれてください。


OKC1-16-1  16mm F3  陸(ランドスケープ用の広角シネレンズ)





Hydro-Russar 21.6mm 海  (潜水艦搭載用の広角シネレンズ)

Ж-48 100mm F2 空 (偵察機設置用の望遠シネレンズ)

2018/10/26

KOMINE ELICAR / ROKUNAR V-HQ 90mm F2.5






 
海外で絶賛された国産マイナーレンズ PART 2
知る人ぞ知る高性能マクロ望遠レンズ
KOMINE  ELICAR / ROKUNAR V-HQ MACRO MC 90mm F2.5
ELICAR(エリカ―)は日本のタパック・インターナショナルという会社が設計し、コミネがOEM生産した海外向けの輸出レンズブランドです。日本国内での販売実績は殆どなく欧州や北米のマーケットが中心でしたが、広角、望遠、マクロ、望遠マクロなど数多くのラインナップが供給されていました。私が確認しただけでも広角側から23mm F3.5、28mm F2.8、35mm F2.8、V-HQ 55mm F2.8 MACRO、V-HQ 90mm F2.5 MACRO、V-HQ 90mm F2.5 Medical Macro、135mm F2.8、200mm F3.5、80-200mm F4.5-F5.5 ZOOM MACRO、V-HQ 300-600mm F4.1-F5.7、 600-1200mm F10-F20などがあります。中でも中望遠マクロレンズのV-HQ 90mm F2.5 MACROは英国やドイツのカメラ雑誌が特集号を組み、描写性能、特に解像力の高さを絶賛したため、ヨーロッパを中心に海外市場で一定の評価を得るようになりました。
このマクロレンズは繰り出し量が多く、ヘリコイドを最長まで繰り出すと、鏡胴は元の長さの3倍にもなり、最大で等倍までの高倍率撮影に対応できます。私が入手したのはNikon Fマウントで市場供給された個体ですが、他にもミノルタMDやキャノンFD/EF、ペンタックスPKなどの国産カメラの主要マウント規格に加え、M42、QBM、T2などの個体もあり、実に多くのマウント規格に対応しています。ブランド名もELICAR V-HQ以外に米国ではROKUNAR V-HQの名で販売されました。レンズ銘の後ろにV-HQの表記があることがElicarシリーズの共通則です。ブラックカラーとホワイトカラーの2色の鏡胴があり、マニアの間では「黒エリカ―、白エリカ―」などと呼ばれています。レンズ構成は公開されていませんが、光を通し反射面の数を見ると、前群側に4面分の明るい反射、後群側に4面分の明るい反射と1面の暗い反射が確認できます。おそらく4群5枚のリバース・クセノタール型であろうかと思われます。

 
重量 555g,  絞り羽 8枚構成, フィルター径 62mm, 絞り指標 F2.5-F32, 最短撮影距離 35cm, 入手した個体はNikon Fマウント

 
入手にあたっての基礎知識
国内よりも海外での流通量が多いため、レンズを探すならeBayを当たるほうがよいでしょう。欧州市場での相場は250~300ユーロあたりです。ただし、米国での認知度の方が欧州ほど高くないため、米国のセラーの方が安く出品する傾向があります。流通量は米国よりも欧州市場の方が多いと思います。

撮影テスト
解像力を重視したレンズで、開放では若干のフレアがピント部を覆いますが、細部までしっかりと解像してくれる高性能なレンズです。収差の補正基準は無限遠方ではなく近接側のようで、開放でのシャープネスやコントラストは近接撮影時の方が良好です。ポートレート域では収差の補正が過剰に効いてしまうので、少しフレアの目立つ柔らかい開放描写となり、背後は二線ボケ気味の硬いボケ味になります。あまり語られることは少ないのですが、長焦点のオールドマクロレンズには、実はバブルボケレンズとして流用できる裏技があります。もちろん、このレンズのテリトリーである近接撮影では柔らかいボケに変わります。
フレアは絞り込むごとに消失、F8でシャープネスと解像力は高い次元で両立します。絞りに対する焦点移動はあまり気にならないレベルでした。歪みは殆どありません。
マクロ域での性能が大変素晴らしいレンズだと思います。

エリカ―で1000円札のミクロの世界を探検する




日本の貨幣には偽造を防ぐ観点から、極めて細かなパターンが施されています。今回はこのレンズの最大倍率(等倍)で撮影した画像を見ながら、緻密なデザインが施された1000円札の世界を探検してみましょう。財務省のサイト(こちら)を見ると、お札の写真をブログ等に掲載する場合についての記述があります。これが印刷されると「通貨及証券模造取締法」に抵触する可能性がでてきますが、写真をブログにアップすること自体に制限はありません。画像に「見本」などの文字を入れたり、貨幣全体を写さないなどの配慮が推奨されています。
 
F8,  SONY A7R2(AWB ISO200固定) 等倍:  レンズの最大撮影倍率(等倍)では、このくらいになります。中央をクロップし切り出したのが、下の写真です

F8,  SONY 7R2(AWB  ISO200固定) 等倍からさらにクロップ: 一つまえの等倍の写真の中央部を更に拡大した写真。インクの滲みや小さな文字など、肉眼ではわからない細部まで、しっかりと解像されています

F8, SONY A7R2(AWB ISO1600) 等倍: 再び等倍での画像。ピントは目の部分です。拡大クロップしたのが下の写真です


F8, SONY A7R2(AWB ISO1600) 等倍からさらにクロップ: 瞳は同心円状に描かれていました!

F8, SONY A7R2(AWB ISO200固定) 等倍:このあたりの区域は千円札の中で一番華やかです。中央を拡大クロップしてみてみましょう


F8, SONY A7R2(AWB ISO200) 等倍からさなりクロップ拡大: 「千円」の文字が網目になっており、隙間からはカラフルな顔料が見えています。日本の貨幣の細部の質感には脱帽です



F8, SONY A7R2(AWB  ISO200固定) 等倍:こんどは、野口英世の髪の毛のあたりをみてみましょう。拡大クロップしたのが下の写真

F8, SONY A7R2(AWB ISO200固定) 等倍からさらにクロップ: 日本の貨幣はこのように、いたるところに細かな文字が入っています。肉眼での確認は困難なレベルです











F8, SONY A7R2(AWB  ISO200固定) 等倍:「1000」の文字に注目してみましょう
F8, SONY A7R2(AWB   ISO200固定) 等倍からさらにクロップ: 文字の内側には細かな格子状のパターンが刻まれていました

F8, SONY A7R2(AWB   ISO200固定) 等倍からさらにクロップ: 細かな貝の幾何学パターンですが、インクが滲むことなく見事に描かれています






米国の貨幣にも登場していただけると、日本の貨幣の細かな造りがいかにクレイジーなレベルであるかが相対的にわかり大いに盛り上がるのですが、米国の貨幣の探検は次回以降のお楽しみとしましょう。ここでは軽くレンズの開放描写とF8まで絞った描写を比較します。

開放F2.5とF8での画質比較
開放F2.5とF8まで絞り込んだ2つの画像を比較したのが下の写真です。ぱっと見違いはわかりませんが、細部を拡大してみると開放での写真(上段)の方には表面に薄いフレアが乗っています。ただし、解像度は依然著して高いレベルを維持しており、画面全体でみる限りコントラストも悪くありません。開放から絞り込むごとにフレアが消え、シャープネスが向上します。F8まで絞り込んだ写真画像が下段です。
実は撮影距離を変え、このレンズの専門外であるポートレート域で同じテストをしてみると、開放描写は明らかにソフトな傾向が見て取れます。おそらく収差の補正基準をマクロ域に設けているからで、ポートレート域の撮影時は収差の補正が過剰気味に効いてしまうのでしょう。潔く近接での性能を重視したレンズなのだとおもいます。

上段・F2.5(開放)、下段F8  sony A7R2(WB auto, ISO 200固定)