おしらせ


Agenieux Type R1 アーカイブ(古い記事です)


オールドレンズ界のマジシャン

最新の改訂版はこちらです。

アンジェニューは、現在の広角レンズの設計の基礎となるレトロフォーカス[1]の発明や、映画撮影のシネマ用ズームレンズを製造していたことで知られている。ライカやツァイスと並びEUを代表するフランスの光学機器メーカーである。本品は1950年に製造されたM42マウント用のレンズである。他にもエグザクタマウント用やアルパマウント用の製品が製造されていた。ハロやフレアを自在にコントロールし、このレンズでしか出せない作風をつくり得る事ができる。熱狂的なファンが多い事でも知られるオールドレンズ界のマジシャンである。 レンズが届いた日、試しに自宅の部屋に飾ってあった雛人形を撮る。わずかに微笑んでいる綺麗な顔のお雛様、その白い顔の輪郭付近に青白いハロが発生、なんとも不気味な面持ちに腰を抜かした。このレンズ・・・いったい何なんだ。

footnote[1]: レトロフォーカスってなんだかカッコいい呼び名だけれど一体なんなのか。レトロフォーカスとは焦点(フォーカス)を後退(レトロ)させるという意味で、それまでの広角レンズの最前面に大型の凹レンズを取り付け、一眼レフカメラのセンサー面やフィルム面までのバックフォーカスを長くする設計。ミラーの空間確保を可能にするという画期的なものであった。いわゆるレトロ(復古調)とは全く関係ないのだが、このレンズの描写を見ていると関係ありそうに思えてしまう私。もはやアンジェニュー中毒者なのか?

最短撮影距離:0.8m フィルター径:51.5mm 焦点距離/絞り値:35mm/F2.5, F4, F5.6,F 8, F11, F22 重量:275g M42マウント用のアンジェニュー35mmはキャノンのフルサイズセンサーを搭載したデジタル一眼レフカメラにおいてもミラー干渉しないがエグザクタマウント用35mmはミラーに当たる

昔のシネマ用レンズによくある円筒形の鏡胴がカッコよい。写りも外観もパリジェンヌ級だ!

入手の経緯
以前から気になっていたアンジェニューだが円高の波に乗り、ついポチッと買ってしまった。本品はM42マウント仕様であり、2009年2月にeBayにて米国の中古カメラ販売業者が新品同様(MINT状態)との触込みで700ドル(約6万5千円)で売り出していた。業者に525ドルでどうかと交渉したところ600ドル(5万5千円)でならよいということで決着し落札できた。日本国内の相場だとM42マウントの場合、10万円近い値段で売られている。なんて高いんだ!

商品が到着
届いた商品はオークションの解説どうり、たいへん状態の良い品だった。アンジェニューは何かとデリケートなレンズであり、中古市場には傷んでいるものが多い。レンズ内に曇りが発生している品が大量に出回っているようである。オークションで購入する際には新品同様品を選ぶのが無難であろう。ここまで状態の良い品に巡り合えたのは、ちと大げさだが奇跡に近い。

試写テスト 既に幾つかのWEBページに作例とともにアンジェニューの描写性能に対する評価が述べられている。それらを簡単にまとめると
  1. 開放絞り付近ではフレアーの多いふわっとした描写をし、絞るとフレアーは消え、全体が均質で細かく輝く特上の画質となる(こちらを参考)
  2. アンジェニューならではのビビットな赤の表現、ハイライト部分に入る優しいフレアが魅力(こちらを参考)
何とも魅力的ではないか!なさっそく試写テストでそれを体験してみた。

ハロが発生し焦点のあった箇所が美しい光に包まれる。これがアンジェニューの魔法だ F4
開放絞り付近では更にハロが出まくり幻想的な光景に様変わりする F2.5

絞ればちゃんとシャープに写る。猪の鬣がきちんと解像されている 千葉県富津市マザー牧場 F5.6



コントラストが低いためボケた部分が空と同化している。すごくいい! 千葉県富津市マザー牧場 F4

逆光ではコントラストが低く暗部もしまりがないためユル~い作風になる 千葉県富津市マザー牧場 F5.6

順光での作例はまともだ 千葉県富津市マザー牧場 F5.6
こちらも斜光での作例 千葉県富津市マザー牧場 F8
繊細で緻密、神経質なアンジェニュー
このレンズを晴天下においてF2.5の絞り開放で使用すると作例にもあるようにハロが出まくる。その原因は開放絞りの付近においてレンズ特有の収差が大きくなるためで、実際に絞りを一段・二段と閉じてゆくと、収差が解消し、ハロの消失とともにコントラストが向上する。ところが更に絞ってF8やF11あたりまで口径を小さくすると、今度はフレアが発生しコントラストが下がってシャドーが浮き足立ってしまう。フレアの原因は光の回折が激しくなるためだ。


F2.5:中央の葉にハロが発生する。F4:ハロが消失しシャープになる。F11:中央に僅かにモヤモヤしたフレアが出始める。F16:中央にハッキリとフレアが見える
一般的なレンズの場合、回折が写真画像に与える影響は解像感の低下くらいである。しかし、アンジェニューの場合には敏感に反応し、はっきり識別できるほどのフレアを生んでしまう。晴天下でこのレンズを扱う場合には、絞りすぎに注意する必要がある。

撮影機材:Nikon D3 +M42-Nikonマウントアダプター(補正入り) + Angenieux Type R1 35/2.5 + フード:MS OPTICAL 51(宮崎製品) 


M42の母艦にニコンを使うなんて・・・フランジバックの差に憂鬱な私。早くキャノンが欲しいよぉ~!
アンジェニューは繊細な描写を生むことに定評がある銘玉だ。しかし、時にはその性質が仇となる。晴天下など光が多い状況になると性格が一変し、不安定でおとなしくない描写を示すようになる。絞り開放ではハロやフレア、絞りすぎてもフレア、神経質でコントロールが難しい様は人間の心理そのものだ。
それにしてもアンジェニュ~。あークセになりそう。ウヒヒ・・・。spiral

0 件のコメント:

コメントを投稿

匿名での投稿は現在受け付けておりませんので、ハンドルネーム等でお願いします。また、ご質問を投稿する際には回答者に必ずお返事を返すよう、マナーの順守をお願いいたします。