おしらせ


2010/10/13

Rodenstock Heligon 50mm/F1.9 (M42) Rev.2 改訂版
ローデンストック ヘリゴン


個性豊かな色彩を見せる幻のレンズ

  今回再び紹介するHeligon(ヘリゴン)50mm/F1.9はドイツ・ミュンヘンに拠点を置く光学機器メーカーのRodenstock(ローデンストック)社が1959年に35mm一眼レフカメラ用として極めて少数だけ生産した単焦点標準レンズだ。光学系は4群6枚の非対称ガウス型でM42、EXAKTA、DKL(デッケル)、Leica-L(35mm/F2.8)、Agfa(50mm/F2)、Retina(50mm/F2)と6種のマウントに対応している。無骨なデザインと個性的な描写力を特徴とし、知る人ぞ知る珍品としてオールドレンズ・コレクターの間では国際指名手配されている。焦点距離の異なる姉妹品には30mm/F2.8と35mm/F4の広角レンズEURYGON(オイリゴン)、100mm/F4、135mm/F4、180mm/F4.5の望遠レンズRotelar(ロテラー)、135mm/F3.5のYonar(イロナー)、120mm/F4.5のソフトフォーカスレンズImagon(イマゴン)などがある。ローデンストックのカメラ部門は主にプロフェッショナル向けの大判用レンズを生産していたため地味な存在であるが、実力やブランド力はライカ、ツァイス、シュナイダーらと同等であり、優れた製品を世に送り出してきたヒットメーカーである。
ローデンストック社(G.Rodenstoc社)は1877年に行商人のヨーゼフ・ローデンストックがドイツのヴュルツヴルクに設立し、主にバロメーターや精密機器、測定器、眼鏡レンズやフレームを生産していた。1880年に眼鏡レンズの周縁に黒い溝切りを施して煩わしい反射を抑えた「ディアフラグマ・レンズ」が大ヒットすると欧州やロシアへの輸出が増え、1883年には本拠地をミュンヘンに移転、1893年に新工場を建てるなど事業規模を拡大させていった。また、この頃から製造を開始したカメラ用レンズの売れ行きが輸出を中心に好調で、これによって生まれた利益は当時の事業全体の拡大を下支えしていた。しかし、後の世界恐慌では輸出が急減し4年で62%も売り上げを落とすなど経営が悪化し、銀行からの圧力やナチスドイツ政府による乗っ取りの危機に直面するなど企業としての存続が危ぶまれた。1930年代中期から再びカメラ用レンズの生産が好調となり、この頃にはクラロヴィッドI型・II型という初の自社製カメラも造られている。しかし、レンズの受注先からの圧力により間もなくカメラの製造は停止に追い込まれてしまった。第二次世界大戦に入ると国防省による厳しい監視のもと自由な事業活動が制限され、同社が生産できたものは戦車の照準器や潜望鏡、眼鏡レンズのみに限られた。終戦時にはミュンヘン本社の施設が40%も破壊されていたが、そのわずか4週間後にアメリカ占領地での唯一の大型工場として眼鏡製造の再スタートを果たすと、経営状態は急速に改善していった。1950年代に当時としては革新的だった有名人を起用した広報戦略が効果をあげ、主力商品の眼鏡が大ヒット、終戦直後に200人程度であった社員の数は僅か10年程で10倍以上にも膨れ上がった。今回紹介するヘリゴンはRodenstock社が企業体としての復興を遂げ、絶頂期を迎えていた1956年から1959年にかけて製造された製品である。Rodenstockの台帳を見るとF1.9のHeligonはExaktaマウント用が160本、M42マウント用が3本のマスターレンズを含め合計1039本製造された。かなりレアなレンズである。
その後も同社は大判カメラ用レンズの生産を続けたが、2000年には写真用レンズの開発・製造を行う光学機器部門をLinos AG社(ドイツ・ゲッチンゲン市)に売却し社名もRodenstock GmbHに変更、製造を眼鏡のみに一本化することで、写真用レンズの生産から撤退している。

米国版のカタログに掲載されていたHeligon 1.9/50(4群6枚)の光学系をトレースしたもの
焦点距離/絞り値:50mm/F1.9-F16、フィルター径:52mm、最短撮影距離:0.6m、重量(実測):260g   光学系は4群6枚で非対称ガウス型。絞り羽は9枚構成。マウント部には絞り連動ピン、マウント部近くにレリーズ穴がついている。絞り機構は半自動絞り。本品はM42マウント仕様となる。コーティングの色は紫。レンズ名はギリシャ語の「太陽」を意味するHeliosに「角」を表すGonを組み合わせたのが由来である。米国版カタログおよびドイツ版カタログによると、1959年当時の価格はEurygon 2.8/30が179.5ドル(425マルク)、Heligon 1.9/50が169.5ドル(405マルク)、Rotelar3種(4/100, 4/135, 4.5/180)が144.5/144.5/139.5ドル(340/375/355マルク)、Yonarが285マルクであった

Heligonの後玉ガード外し: Heligonにはドーム状の大きなレンズガードがついており、このままの状態で使用するとEOS 5Dなどのカメラではガードがミラーに干渉してしまう。しかし、この後玉ガードはネジ込まれているだけなので手で回して外すことができる。いったん外してしまえば後玉そのものには出っ張りがないため、EOS系を含むあらゆるカメラで後玉がミラーに干渉する心配はない

 

★入手の経緯

本品は2009年6月にeBayを介して米国のビンテージカメラ専門業者ゴー・ケビン・カメラから即決価格610㌦(6万円弱)で落札購入した。商品の解説にはMinty/Rare (98% Mint)とあり、届いた商品はまさに新品同様の極上品であった。海外のあるレンズ収集家はブログ上で、M42マウントのHeligonについて「eBayで7年間も購入の機会を待ったが出品されたのはたったの2件だった」と嘆いている。本品は1200本程度製造されたレンズなので、もう少し流通してもよいはずであるが、コレクターが手放さないためなのか市場に出回ることは殆ど無い。中古相場は不明だが、2011年12月に状態の良い品がeBay出品された際には1800㌦の値がついていた。また、2012年4月にヤフオクで「良品」が出品された際には、何と189000円で落札されていた。うーっ、凄い値段。私のレンズも売ってしまおうか悩む。

★撮影テスト

Heligonを入手し1年4カ月が経つが、使用する度に個性豊かなレンズであることを実感するようになってきた。本レンズは発色に際立った特徴があり、光の様子で色彩がコロコロと変わる面白さがある。発色についてはシャドー部の青みが強く、したがってその補色にあたる黄色が薄めになる点を押さえておけば、このレンズの性質を把握できる。赤のバランスは明暗に依らず適度だがHeligonを介すとよりビビットに表現される。赤と青の間の紫系中間色には抜群の再現性があるが、青と黄色の間の緑系中間色はカラーバランスが不安定でハイライト部では黄緑、シャドー部では青緑に転ぶなど全く異なる色彩を示す。これら紫系と緑系の2種の中間色は寒暖のどちらにも感じられる特別な色(「中性色」とも呼ばれる)であり色調全体に大きな影響を与える。Heligonのコロコロと変わる不思議な色彩は、明暗の変化に対する青の不安定性に由来していると考えられる。実写ではシャドー部でコンクリートなどの白や灰色基調の色が青く色づいて見える。また、晴天時の日陰や、日没後の色彩が全体的にクールトーン調(冷黒調)に表現される。これに対し、ハイライト部では黄色が強まり、植物等のグリーンや黄緑色に変色する。まるで水彩画で描いたかのような不思議な色彩が生みだされる。コントラストは決して高いとは言えないが、中間階調が豊かで階調変化がなだらかなため、微妙なトーンの表現を得意とする。また黄系統を除けば、全般に難しい中間色の色再現性が際立って優れているのも特徴だ。本レンズは中間階調が豊富なことからも、光の内面反射を効果的に利用した設計になっている。内面反射光の中でも青色成分はレンズ内に蓄積しやすく、これが過度に進行するとフレアや青かぶりとなってしまうが、青の内面反射を限定的に取り入れることで個性豊かな色彩を実現しているのではないかと思われる。

★日没間際と曇天下でのテスト・・・光量の少ない条件下では全体的に青にが増しクールトーン調に仕上がる

F1.9 銀塩(Kodak Gold100) 曇り空の下での撮影結果。青みがやや強くクールトーン調の仕上がりだ
F1.9 銀塩(UXi-200): 日没間際でのショット。開放絞りではボケ癖に注意したほうがよい。背景の端部にガサガサしたものがあると結像の流れが目立つ
F2.8 銀塩(UXi-200) 1段絞ればボケ癖については問題ない。端部までよく整った柔らかいボケ味だ.
F5.6 銀塩(FujiColor PN400N) こちらは最短撮影距離でのショット

 

 ★光量の豊富な晴天下でのテスト撮影・・・シャドー部には青みがのこりハイライト部は独特な淡い発色となる。全体として実に個性的な色彩が生みだされる

F8 銀塩(Fujicolor S-400)光量が増えると様子が一変し、緑系中間色が黄色に転んでいる。独特な発色だ
上段 f2.4 銀塩(Fujicolor S-400) / 下段 F2.8 銀塩(Fujicolor PN400N) シャドー部の青みが強く、ハイライト部の黄色が薄め
上段 F2.8 銀塩(UXi-200)/ 中段F5.6銀塩(UXi-200) / 下段F2.8 銀塩(PN400N): クールなシャドーと黄色に転ぶハイライトにより、このレンズの個性が最大限引き出され、とても不思議な色彩空間を生む。アウトフォーカス部の緑が不安定な色彩で面白い
F2.8 銀塩(Fujicolor PN400N) 光の明暗の変化に伴い緑のカラーバランスが不安定に変化している。暗部では青みがかり、明部は黄色化。また、木々の間をすり抜けて入ってくる少し暗めの玉ボケが薄らと青く色づいている。中央の花は白に近い微妙なピンクであるが、しっかりと現物に近い色を再現している

★撮影機材

PENTAX MZ-3 + Rodenstock Heligon 50mm/F1.9 (M42 mount) + minolta metal hood



2010/10/08

Schneider-Kreuznach TELE-XENAR 135mm/F3.5 テレクセナー(M42)

ゾナー型からの発展として初めて5枚玉に移行した
名門シュナイダーの望遠レンズ

Tele-Xenar(135mm/F3.5)はドイツの名門光学機器メーカー、シュナイダー・クロイツナッハ社が1949年から1970年代まで製造した単焦点望遠レンズだ。Xenarと言えば本来は同社のテッサー型レンズ(3群4枚の光学系)を思い浮かべるが、本品はどういうわけだかテッサー型ではない。実は本レンズの前身が1940年に発売されたXenar 135mmで、こちらは確かに3群4枚であった。しかし、1949年に設計が変更され同社の望遠レンズが4群5枚構成になったのを機に、ブランド名もTele-Xenarとなったのだ。光学系は戦前から望遠レンズの傑作として名高いツァイス・ゾナー135mm(3群4枚)の発展型で、ゾナーの特徴を継承し第2群が2枚のレンズをはり合わせた構造になっている(下図)。構成枚数が1枚多い4群5枚構成となることで、ゾナー型レンズよりも収差のコントロールがより高度になった。一般に望遠レンズは球面収差などの単色5収差が発生しにくく、広角・大口径標準レンズに比べて高度な光学系を要する必要がないため、画質的には優位とされている。4枚玉以下のシンプルな設計が多いため、望遠レンズには古くからハイコントラストな画質を提供できる優れた製品が多くある。本レンズの設計がゾナータイプよりも1枚多い構成を採用した事にどんな意図があったのかはわからないが、追加する場所を後玉寄りにとることで光の内面反射の増加を最小限に抑え、ゾナーと同等の画質を実現していると考えられる。後年、本レンズによく似た設計をエナ社のTele-Ennalyt 135mm/F2.8や三協光機のコムラー135mm/F2.8などが採用しており、tele-xenarの設計開発に端を発するこの種の光学系の普及はゾナーからの発展形態の典型となっている。なお、1970年代に製造された後期型のSL-Tele Xenar 135mm/F3.5では光学系が更に改良され、2群目の貼り合わせが分離した5群5枚構成となっている。

光学系のスケッチ。左がTele-Xenar 135mmで右がSonnar 135mm
今回入手したTele-xenar(テレクセナー)135mm/F3.5はシュナイダー社のシリアル番号表から、同社が1968年~1970年頃に製造した個体である。光学系の設計自体は1949年の登場時と同一であるが何度かマイナーチェンジを繰り返しているため、コーティングやガラス硝材等は初期の物に比べいくらか改良されていると思われる。最短撮影距離が2mと長めであることは不満だが、無理の無い設計と高度な収差のコントロールにより、欠点の少ない安定した画質を実現している。鏡胴はシュナイダーらしい頑丈な造りで、お洒落なシルバーのラインや合皮を用いているなどデザインに個性がある。また、この時期のレンズとしては珍しくフードをレンズ本体のフィルター枠に対して逆さ付けすることができる。マウント部が通電する材質になっているため、PENTAXの銀塩カメラで使用する際にはフォーカスエイドが有効となり、合焦をランプの点灯と電子音で知らせてくれるようになる。同時期に発売された姉妹品として、28mm/F4と35mm/F2.8のCURTAGON、シフトレンズで35mm/F4のPA-CURTAGON、50mm/F1.9のXenon、50mm/F2.8のXenar、200mm/F5.5と360mm/F5.5のTele-Xenar、ズームレンズのVARIOGON 45-100mm/2.8とTele-Variogon 80-240mm/F4がある(詳しい仕様についてはシュナイダーのホームページ(こちら)の製品カタログPDFファイルを参照できる)。このうち、CURTAGON 35/2.8については過去に本ブログで取り上げた。
純正フードはレンズ本体のフィルター枠に逆さに付けることができるよう工夫されている。純正キャップにもネジ山が切られており、フードの上からねじ込んでとり付ける
戦後の写真用レンズは光の反射防止膜(コーティング)技術の進歩を背景に、テッサーやゾナーといった4枚玉のシンプルな設計が王道だった時代から脱し、より高度な光学設計を追求する時代へと移行していった。いち早く5枚玉による望遠レンズとして世に送り出されたTele-xenarは、こうした潮流の中において、先駆的な位置づけにあるレンズと言えるだろう。
焦点距離/開放絞り値:135mm/F3.5、光学系の構成:4群5枚、重量(実測):312g(純正フードまで含めると352g),フィルター径52mm, 最短撮影距離:2m, 対応マウントにはM42, EXAKTA, デッケル, ライカL39, ALPA, Rollei SL等がある
マウント部近くにはレリーズ穴があいており、絞り機構のA(オート)/M(マニュアル)スイッチもみられる。また、マウント部には絞り連動ピンがついている

★入手の経緯
本品は2010年7月4日にeBayを介してギリシャの有名業者still22から送料込みの153㌦(13800円)で落札購入した。商品には箱と純正フードが付き、"MINT-" コンディション(殆ど新品)と紹介されていた。オークションではかなり競り合うのではないかと予想していたが、入札締め切り1分前になっても70㌦代と盛り上がりに欠けていた。締切20秒前に最高入札額180㌦でスナイプ入札したところジリジリと値が上がりはじめたが、最後は131㌦であっさりと落札できた。eBayでの相場は150-200㌦程度なので今回はお得なお買い物。届いた商品はピカピカの新品のような個体で、経年を考えれば奇跡的な保存状態であった。
★撮影テスト
過去にCURTAGONやXENONなどシュナイダーが製造したレンズを何本かテストしてきたが、どれも素晴らしい描写力を持ち、開放絞りでも画質の低下が少ない安定感のあるレンズばかりであった。シュナイダーのレンズには手堅い設計仕様のものが多く、あまり冒険をしないという企業イメージがある。本レンズも例外ではない。
Tele-Xenarのピント面は開放絞りでも球面収差や像面湾曲、非点収差が顕著化せず、画像端部まで均質でシャープな画質を実現している。ピントの山は大変つかみやすい。デジイチで使用する場合にはイメージセンサーが持つ高い解像力のためか、色収差(軸上色収差)を拾い、ハイライト部の輪郭が色づくことがある。この種の収差は結像を甘くする一因として厄介であるが、実際にレンズを使用した感覚としては充分にシャープで、ピント面の先鋭感は開放絞りからでも実用的なレベルである。アウトフォーカス部の結像は乱れることなく素直で良く整っており、2線ボケ等は検知できない。ボケ味(後ボケ)はとても滑らかで好印象だ。発色はあっさり、すっきりしており落ち着いた自然な仕上がりとなる。優れたレンズだ。
F5.6銀塩(FujiFilm PRO-400H):まずはフィルムによる銀塩撮影。ピント部はとてもシャープ
F3.5 digital(sony alpha  NEX-5): 開放絞りでもこのとおりにシャープ。発色は癖もなくごく自然で派手さはない
F5.6 digital(NEX-5): 背景のボケは滑らかで綺麗。近接撮影にしてはピント面の解像が高く、充分な画質だ。ちなみに被写体はいつものばぁちゃんで、彼女の自宅前の花を撮影していると、どこからともなく現れる。「あんた写真部なの?」と話しかけられて知り合った。撮影テストと掲載に好意的に応じてくれる貴重な人物
左F8 銀塩(UXi-200)  / 右F11 銀塩(UXi-200): こちらも銀塩フィルムでの撮影結果だ。落ち着いた自然な色が出ている。右の写真は左の飛行機の機内から撮影した雲海の様子。濃淡の微妙な変化を楽しめる

★使用機材
銀塩カメラでの撮影
PENTAX MZ-3 + Schneider Tele-Xenar 135mm/F3.5 + フィルム(efiniti UXi super 200)
デジタル一眼での撮影
Sony α NEX-5 + Schneider Tele-Xenar 135mm/F3.5

2010/09/09

あった!無限遠にもピントが合うEXAKTA-EOSマウントアダプター

ネットオークションで購入した中国製のEXAKTA-EOSマウントアダプター。材質は左がアルミニウムで右は真鍮。どちらの製品もeBayの商品解説では無限遠方のピントを拾うことを保障しているが、著者が購入しテストした品では合焦不可能だった

本ブログではeBayやヤフオクからM42マウント用レンズを入手して紹介しているが、代わりにEXAKTAマウント用レンズで代用することがある。この時に活躍するのがEXAKTA-EOSマウントアダプターで、その名のとおりEXAKTAマウント用レンズをキャノンEFマウントに変換し、EOSのカメラ本体に装着するための道具だ。そもそも、EOSのフランジバック(レンズのマウント面からフィルム面や撮像素子面までの距離)は44mmであるのに対し、EXAKTAのフランジバックは44.7mmと若干長いことから、アダプターを用いて0.7mmの厚みを埋めてやれば、EXAKTAマウント用レンズがEOS本体でも使用できるというわけ。ちなみにEOSのレンズをEXAKTAのカメラ本体で使用するという逆の操作は物理的に不可能だ。
さて、0.7mmの厚みを持つマウントアダプターを製造するのは耐久性の観点からかなり難しい。このため市販されている多くのアダプターは0.7mmよりもやや厚めに設計されている。つまり、無限遠方まではピントが合わないのだ!。どうにか無限遠方のピントを拾うダプターを探し出すことはできないものかとeBayをあてもなく徘徊し、やっと見つけることができた。
こちらが無限遠までのピントを拾うことに成功したマウントアダプター。eBayでは30㌦程度の安価な値段で売られている。35mm, 40mm, 135mmの3種類のレンズで合焦に成功した
EXAKTA-EOSマウントアダプターは中国製の品が多く流通しており、日本製の品もKindaiインターナショナルから発売されている。素材は耐久性の高い真鍮製(銅+亜鉛の合金)のものと、アルミ製の2種類があり、値段も安いものでは18㌦程度から揃っている。その幾つかは無限遠点への合焦を保障しているので、「ホンマかいな?」と保証品を片っぱしから購入し検査してみた。その結果、衝撃の事実が判明したのだ。高い剛性を誇る真鍮製のアダプターでは、どれ一つとして無限遠のピントを拾うことがなかった。中には何と約3m先までしか合焦しない品もあり、そんな品が「無限遠までピントが合うことを保障します」と明記され、普通に売られているのだ。勿論、製造精度からくる個体差という可能性もあったのかもしれない。ちなみにkindaiインターナショナルのアダプターも真鍮製だが、この品の説明書には、やや無限遠が出ないため絞り込んで撮影してくれと明記されている。焦点距離ごとに何㍍先までピントを拾うのかが詳しく記されていた。中国製のNG商品に対して出品者に問い合わせ、返品の要請と無限遠が出ないことを告げると、レンズの側の問題の可能性を指摘してくる場合があった。手元にある焦点距離35mm、40mm、135mmのレンズの全てで無限遠が出ないと抗議すると、すんなり返品に応じてくれた。こうして、しばらくのあいだ購入と返品を繰り返していたところ、市販品の中に無限遠の出るアダプターを見付け出すことができた。前述の3種類のエキザクタマウント用レンズに対して、EOS kiss x3においてきちんとピントを拾ってくれたのだ。
ノギスで厚みを測ると0.65mm。EOSとEXAKTAのフランジバック差が0.7mmなので、これで無限遠に届いている


追伸
この記事はAPS-C規格のカメラに装着することを前提に記載しています。無限遠方のフォーカスを拾えるEXAKTA-EOSアダプターはフルサイズ機のEOS 5D/6Dで間違いなくミラー干渉します。ご注意ください。

2010/09/05

Schneider-Kreuznach JSOGON 40/4.5アイソゴン

40mm準広角レンズ第二弾
シュナイダー社初の一眼レフカメラ用広角レンズ
1950年頃の一眼レフカメラ用広角レンズには40mmの焦点距離を持つ準広角レンズが数多く存在した。Carl Zeiss Jena社のTESSARをはじめ, MeyerのHELIOPLAN,  KilfittのMAKRO-KILARなど各社から4枚玉のレンズが供給されていた。今回とりあげるJsogon(アイソゴン[注1])40mm/F4.5もそのうちの一本で、名門Schneider-Kreutznach社が1951年に製造した準広角レンズだ。製造本数は僅か725本と稀少性が高い。このレンズの光学系についてはトリプレットやテッサーという説もあるが、そうだとすれば同社のRadionarやXenarと被る。他には4枚構成という説もありWEB上には4群4枚という踏み込んだ情報もみつかる。この時代に3群のテッサータイプではなく4群4枚の設計をとるのは画質的に不利なので不自然だが、情報が極めて乏しいので光学系の詳細については完全にお手上げ状態だ。本品はCarl Zeiss Jena Tessar 40mmに次ぐKine-Exakta用に供給された広角レンズの第二号だそうである。
鏡胴は真鍮製クロームメッキ仕上げで、コンパクトながらも手に取るとズシリとした重量感が伝わってくる。前玉がフィルター枠よりもだいぶ奥まったところに位置しており、鏡筒がフードとしての役割を兼ねている。Jsogonというブランド名も焦点距離40mmのレンズもこのレンズ一代限りで姿を消し、同社のその後の一眼レフ用広角レンズはレトロフォーカスタイプで供給されている。

[注1] JSOGONとかいてアイソゴンと読むそうだ。ドイツ語にはJとIの読みが入れ替わることがあり、例えばエキザクタで有名なイハゲー社はJHAGEEと書く。

絞り羽根は8枚構成, 焦点距離40mm, 絞り値:F4.5-F16, 重量(実測):272g, 最短撮影距離:0.5m, 絞り機構はプリセット。対応マウントはEXAKTAとM42

★入手の経緯
本品は2010年3月にeBayを介し、米国ラスベガスの中古業者から120㌦の即決価格で落札購入した。オークションの解説には「クモリ入りだが鏡胴は新品の様に綺麗な状態」とあった。クモリ取りの修理に出せば元が取れるだろうと考え、思い切って購入してみた。Jsogonは名門シュナイダーの珍品とあって本来の中古相場はかなり高く、eBayでは状態の良い品が400~500㌦、クモリ玉でも250~300㌦で売られている。
商品は1週間後に届いた。ガラス面は確かに白濁していたが鏡胴はピカピカで、外観は経年を考えれば奇跡としかいいようのない状態であった。どうか良くなりますようにと願をかけて修理業者に持ち込み、その2週間後に修理から返ってきたが、残念ながらクモリを完全に除去することはできずガラスの表面にプツプツと薄いクモリが残ってしまった。ガラス面の傷を埋め合わせるだけの簡易的な施術では、このあたりが限界なのであろう。完治させるにはガラスの研磨とコーティング皮膜の蒸着ができる特別な業者に持ち込んで、本格的な修理を行うしかないようだ。
★撮影テスト
今回入手したJSOGONは本来の光学性能が発揮できない個体だ。クモリが描写に与える影響としては以下の2つが考えられる。
①ガラス面での光の透過率が低下しフレアが発生
クモリの正体であるガラス面上の小さな傷によってレンズに入ってきた光が乱反射し、その一部がレンズ内で全反射を繰り返しながら留まる。こうして生じた内面反射光の蓄積がフレアとなる。画質面においては暗部が白っぽく浮きあがりコントラストが低下するという影響がでる。メリハリのない解像感の乏しい結果を招くこともある。この影響を軽減させるためにはフードをつけてしっかりハレ切りをおこない、深く絞って撮影する必要がある。

②ガラス面での光の屈折率が変化し鮮明感が落ちる(結像がソフトになる)
ガラス面上のクモリが発生している場所では光の屈折率が変化してしまう。そのため、各収差の補正計算に狂いが生じ、結像が不鮮明になるなどレンズが本来持っている光学性能を発揮できなくなる。深く絞って撮影すれば画質は少し改善するものの効果は限定的。
これらの影響を加味した上で、以下では深く絞った作例を提示し、JSOGONが持っている100%の状態を想像してみたい。深く絞ればコントラストは改善し暗部は落ち着きを取り戻すが、依然として鮮明感の乏しいソフトな描写が予想される。ソフトフォーカスレンズとして使用するには好都合だ。
F8 これくらい深く絞れば屋外での撮影においてもフレアは気にならないレベルで、コントラストの高さは充分だ。階調変化のなだらかさが乏しく、暗部でストンと落ちる硬質な描写だ。周辺部の結像はクモリの影響でポワーンと甘く不鮮明

F8 晴天時に遠景を撮影したところフレアが発生しシャドー部が明るく白っぽくなってしまった。深く絞っているものの結像はソフトだ。ここは木々の中を電車が駆け抜けるように見えるお気に入りの場所

 
F11 日没後の綺麗な空。こういう黒主体でコントラストの高いケースにおいては、光の内面反射(フレア)を逆手に利用して黒潰れを防止するなんてことができるのかもしれない

恐らくクモリがなければ鋭い描写と力強い発色を武器とする優秀なレンズなのであろう。クモリを完全に除去するには、ガラス面の研磨とコーティング皮膜の蒸着ができる高度な技術をもった業者に修理をおねがいするしかない。日本でこの技術を持つ業者は私の知る限り数カ所しかない。予算的には最低でも1.5万円~3万円程度はかかる。業者によってはレンズ径が1.5cm以上ないと修理できない場合があるようだ。

★撮影環境
SONY NEX-5 + Schneider Jsogon 40/4.5 + Hakuba Rubber Hood + EXAKTA-EOS Adapter + EOS-NEX adapter(RJ Camera)

2010/08/26

Steinheil Cassaron 40mm/F3.5 VL



40mm準広角レンズ第一弾
レトロフォーカス化しないまま焦点距離を40mmの準広角域まで短縮させることができた価値ある設計
1950年頃までの一眼レフカメラ用広角レンズには40mmの焦点距離を持つ3枚玉のトリプレットや4枚玉のテッサー型が数多く存在した。現在の主流となるレトロフォーカス型タイプ(6枚玉~)が普及する少し前の事である。この頃の写真用レンズはガラス面における光の透過率が今ほど高くないため、シンプルな光学設計で光の内面反射(ゴーストやフレア)を最小限に抑えることのできるトリプレットタイプやテッサータイプは画質的に優位な設計であった。当時はその存在価値が高く評価されており、発展途上であったレトロフォーカス型広角レンズに比べ、ヌケの良さ、コントラストや階調表現の鋭さで勝っていた。これらの設計は大口径化が難しく、大きくボケる明るいレンズを造るには不利な設計であったが、光軸方向の厚みがないので、ミラーの可動部を確保しながら焦点距離を40mmの準広角域まで短縮させることができた。
しかし、その後のコーティング技術やガラス素材の進歩により光の透過率が向上すると、より複雑な光学系においても高い画質が維持できるようになり、広角レンズの設計の主流は大口径化が容易で焦点距離をさらに短縮できるレトロフォーカス型へと急速にシフトしていった。
今回入手したのはドイツ・ミュンヘンの中堅光学機器メーカーSteinheil社が1951年に発売したCassaronという40mmのトリプレット型準広角レンズだ。同社はレンズの生産を専門とするメーカーで、極めてコンパクトなレンズやハイスペックなマクロレンズなど、個性豊かな製品を製造していた。Cassaronもコンパクトかつ軽量で、重量はたったの104gしかない。ただ小さく軽ければいいというわけではなく、絞り羽根の数はしっかり8枚もあるし、フォーカスリングが使いやすく出っ張っているなど、取りまわしの良さや機能を優先しているよく出来たレンズだ。フィルター枠が銀色に装飾され、個性的でお洒落なデザインに仕上がっている。絞り機構はプリセットタイプが採用され、絞りリングには各指標においてクリック感がなく、絞り羽根は実質的に無段階で開閉する。同社からはほぼ同じ時期に3枚玉のCassar S 50mm/F2.8というトリプレット型標準レンズや、トリプレット型をレトロフォーカス化したユニークな4枚玉のクルミゴン35mm/F4.5という広角レンズも発売されていた。いずれもデザインが良く似ており、パンケーキ型と言ってよい超小型仕様のレンズ達である。なお、レンズ名の由来は同社の創業者C.A.Steinheilの頭文字(C+A+S)から来ており、CassarやCassaritなども同様である。
40mmという微妙な焦点距離が生まれた経緯や意義はともかくとして、本品はフルサイズセンサーを搭載した一眼レフカメラにつけてもAPS-Cセンサーの一眼レフカメラにつけても、標準レンズとして使用することのできる使いやすい画角を提供してくれる。個性的なデザインとコンパクトさ、ユニークな焦点距離など、改めて存在価値が見直されてもいい魅力的なレンズといえるだろう。
光学系は3群3枚, 絞り羽根の枚数:8,絞り値:F3.5-F16,重量:104g,最短撮影距離:0.7m,フィルター径34mm。絞り機構はプリセット。対応マウントはM42とEXAKTAの2種で本品はEXAKTA用
  
入手の経緯
本品は2010年5月22日にeBayを介して、米国ラスベガスの総合中古業者(カメラ専門ではない)から135㌦の即決価格で購入した。送料込みの総額は149㌦(13500円位)であった。商品の状態はMINT+で紹介写真も非常に鮮明。出品者も解説で「パーフェクトな状態。これ以上綺麗な品は出てこないだろう」と自信満々に言い切っていた。国内相場は2万円程度、eBay相場は状態が良ければ200㌦位の品なので、これはとチャンスと判断し「BUY IT NOW(即決購入)」のボタンを押したところ、eBayのエージェントが「購入中のバイヤーがいるので早く送金手配を終えた者の品となる」という緊急性を示してきた。「おー。これはいかん」と思い、せっせと払い込んでしまった。1週間後に届いた商品は確かに美品レベルであったが、レンズ内に埃の混入が目立っていた。

撮影テスト
描写には良くも悪くもシンプル構成のレンズに良くある性質が滲み出ている。1950年中ごろの製品としてはヌケが良くハイコントラストな長所と、中間階調が奮わず硬質な撮影結果になりやすいという短所を持つ。階調変化はなだらかさを欠き、明部から暗部へストンと落っこちてしまう傾向がある。こうした欠点は柔らかい階調変化を示す富士フイルムのPRO400Hや最近のデジカメに搭載されているダイナミックレンジ拡張機能(HDR合成等)を利用することで、いくらか改善すると思われる。収差の補正がやや過剰気味のようでボケに滑らかさがない。開放絞りでは距離によって2線ボケの発生することがある。一段絞れば素直なボケ味だ。発色はやや淡白。

F5.6 カリッと硬い階調変化によって鋭い描写に仕上がる
F11 小さな口径や少ない構成枚数のおかげであろうか?モノコート仕様にもかかわらず厳しい逆光でもフレアは出にくい
F3.5 開放絞りで撮影すると距離によっては2線ボケが発生し、滑らかさを欠いたやや目障りな描写になる。発色はやや淡白かな?
F5.6 少し絞っておけば素直なボケ味だ。こちらも背景のシャドー部の階調表現に粘りがなくストンと落ちてしまった
F3.5 近接では収差の影響からか柔らかくボケ、目障りにはならない
F5.6 トリプレットにしては、なかなかいいレンズではないだろうか


ハイダイナミックレンジ(HDR)合成機能を用いれば階調変化の弱点を補うことができるか?
最近のデジイチに搭載されはじめたHDR合成機能とは露出の異なる写真を何枚か連射で撮影し、複数の画像を合成処理することでダイナミックレンジを拡張する新機能だ。この機能を上手に用いれば本レンズにおいても中間階調が豊かになり、画質が大幅に改善するかもしれない。HDR合成機能はCASSARONの救いになるだろうか。...comming soon!

撮影機材
Sony NEX-5 + Steinheil Cassaron 40/3.5

2010/08/07

A.Schacht Ulm Edixa-S-TRAVELON-A 50mm/F1.8 (M42)


忽然と現れ僅か22年間で姿を消した
謎のメーカーA.Schacht社の標準レンズ

Travelonの説明書
光学系が記されている
A.Schacht社はAlbert Schacht(アルベルト・シャハト)という人物が旧西ドイツのミュンヘンに設立した中堅光学機器メーカーだ。同社ついては情報が極めて乏しく、あまり多くのことは伝わっていない。
Schachtは元々、イエナ市のCarlZeissに経営管理者(Betriebsleiter)として在籍していた。1909年、ドイツ経済が不況になりCarl Zeiss財団が傘下のカメラ製造部門Carl Zeiss Palmosbau(カール・ツァイス・パルモスバウ)社を放出すると、パルモスバウは幾つかの中小光学機器メーカーと合併してIca AG社となった。同氏もパルモスバウとともにIca社へと移籍するが、Ica社は1926年にZeiss Ikon社の設立母体となることで再びCarlZeiss財団に吸収され、Schachtも同年から運用マネージャーとしてZeiss Ikonに従事している。同氏はその後、1939年にレンズメーカーのSteinheil社へと移籍し、テクニカル・ディレクターとして1946年まで在籍した。
Schacht自身に経営者として独立する機会が訪れたのは1948年で、ミュンヘンにA.Schacht社を設立しカメラ用レンズの生産を開始した。初期の製品はプリセット絞りで重量感のある真鍮製クロムメッキ仕上げのレンズであり、後にアルミ合金が採用され軽量化がはかられた。会社は1954年代にドナウ地方のウルム市に移転している。1960年代に製造されたゼブラ柄の製品からは絞り機構が自動/手動の切り替え式になっている。対応マウントにはEXAKTA, M42に加え、何とLeica L対応の正式認定を受けている。また、シュナイダー社から生産の委託を受注するなど、技術的に高い評価を得ていたようである。焦点距離は35mmから200mmまで多数のバリエーションが用意されるようになった。中古市場に流通している同社のレンズはこの頃に製造された個体が多く、経営的にはこの頃が最も拡張した時期であったと思われる。レンズの製造は1970年まで続いていたが、1967年に会社はConstantin Rauch screw factory に買収され、その後間もなく、Will Wetzlar社に売却されて姿を消してしまった。
今回入手したのはA.Schacht社が1961年に製造したEdixa-S-Travelon-A(トラベロン)という名のガウス型高速標準レンズである。A.Schacht社が製造したレンズの中では開放絞り値がF1.8と最も明るい製品となる。同社のブランドには他にもテッサー型のTravenarとマクロレンズのM-Travenar, ベローズ用レンズのTravegar, レトロフォーカス型レンズのTravegonなどがある。中でもTravelonは市場に流通する個体数が少なく、M-Travenarと並び同社の製品の中では入手が困難なブランドの一つである。鏡胴の側面には絞り機構の切り替えスイッチがついており、スイッチの動作に連動してマウント面近くの丸枠内の表示がA(オート)とM(マニュアル)に切り替わる。また、絞り冠に連動して被写界深度のゲージ表示が変化するなど、シュナイダーの製品(Edixa-XenonやEdixa-Xenar)を連想させる凝った仕掛けを持っている。


鏡胴側面には絞り機構のMANUAL/AUTO切り替えスイッチがついており、スイッチの動作に連動してマウント面近くの丸枠内の表示がAとMに切り替わる。また、絞り冠に連動して被写界深度のゲージ表示が変化する
重量(実測): 190g, 絞り値: F1.8-F22, 絞り羽根数: 6枚, フィルター径:49mm, 最短撮影距離: 0.5m, レンズ構成: 4群6枚ガウス型,M42-mount, マウント側面にはレリーズ穴が付いている。レンズ名は「遠くへ」または「外国への旅行」を意味するTravelが由来である

★入手の経緯
本品は2010年2月14日にポーランドの中古カメラ業者が即決価格120㌦で出品していた。ガラスはmint-コンディションで完全動作品とのこと。95㌦に値切り交渉したところOKが出た。送料が40㌦と高めだったので総額は135㌦となった。ところが届いた品は絞り羽根の開閉に難点のある不良品であり、絞りスイッチをマニュアル側にすると指標よりも一段深く絞られてしまうという欠陥を持っていた。スイッチをオートにすれば絞りは正しく開放状態になってくれるので実用面で問題なかった。ややレアなレンズのため返品後の再入手には時間がかかりそう。直ぐに使ってみたかったので今回は返品せずに引き取ることにした。

★撮影テスト
本レンズの特徴は透明感のあるヌケの良い描写とソフトな結像、素直なボケ味であろう。開放絞りでやや収差を残す無難な設計を採用しており、近接撮影時にはピント面がやや解像力不足になる。また屋外で撮影する時には被写体の周りに薄らとハロ(光の滲み)が発生することがある。2段絞ればどの距離でもスッキリとシャープな結像に変わりハロも消える。逆光に弱く簡単にフレアが発生するという噂を耳にしていたが、今回入手した個体はモノコートレンズ相応の逆光耐性であり、このレンズが特別に弱いという印象は受けなかった。古いレンズなのでコーティングやガラスの状態による個体差があるのかもしれない。日差しの強い日に屋外で使用してみたところ、しっかりハレ切り対策を行っていたためか、コントラストは適度に高く、良好な撮影結果が得られた。アウトフォーカス部の結像は目立った癖もなく概ね良好で、ボケ味は柔らかめだ。距離によっては周辺部の像が僅かに流れることがあるが、こちらも大して気になる程ではない。発色は青に転びクールトーン気味になる傾向がある。大きな欠点のない安定感のあるレンズといえるだろう。以下には銀塩とデジタルカメラによる作例を示す。

銀塩撮影による作例
KODAK GOLD 100 + PENTAX MZ-3 +PENTACON Metal Hood 49mm径

F5.6 銀塩撮影(KODAK GOLD 100): 溶けるような柔らかいボケ味を楽しむことができる。発色はクールトーンであり、青みを帯びる黄色が薄まる傾向がある
上下段ともF5.6  銀塩撮影(KODAK GOLD 100): 快晴の天気だったので深いフードを用いてしっかりとハレ切りをおこなった。強い日差しにもかかわらずコントラストは適度に高く良好な結果が得られた
F16  銀塩撮影(KODAK GOLD 100): こんどは逆光撮影にトライしてみた。内面反射を抑えるために深く絞って撮影した。ゴーストは出たがフレアはそれなりに抑えることができたので暗部は落ち着きを保っている

デジタルカメラでの作例
Sony NEX-5 + HAKUBA RUBBER HOOD + アダプター( M42→EOS and  EOS→NEX E)


F1.8 NEX-5 Digital,AWB:手前の輪にピントを合わせている。開放絞りで近接撮影を行う場合、ピント面の結像はだいぶ甘くなる。ボケ味は柔らかく、素直で扱いやすい
f2.8 NEX-5 Digital,AWB:上の写真の石像の顔の付近を3通りの絞り値で撮影したものが下の写真だ
NEX-5 Digital,AWB:石像の顔の部分の拡大画像。上段から絞り値F1.8, F2.8, F4で撮影した結果となる。絞り解放(F1.8)は結像が甘く、コントラストもやや低下気味だ。石像表面の凹凸部分が白っぽく締まりがない。輪郭部には薄いハロがまとわりついている。絞り込むにつれシャープになりコントラストも向上している。1段絞ったF2.8でもハロは完全には消えていない
F2.4 NEX-5 Digital,AWB: こちらも綺麗なボケ味だ。フィルム撮影では全く気になることはなかったが、デジタルカメラでは被写体の輪郭部に色収差が出ている。古いレンズに最新の受光センサーという組み合わせなので仕方あるまい
F11NEX-5 Digital,AWB: 遠景の撮影結果。これくらい絞っておけば周辺部までシャープだ
F2.8 NEX-5 Digital,AWB: 最短撮影距離(0.5m)ではこれくらいの倍率になる
F3.5 NEX-5 Digital,AWB: この程度の2次光源ならば深く絞り込まなくてもフレアの心配はいらない
F3.5 NEX-5 Digital,AWB:
F3.5 NEX-5 Digital,AWB: 新型デジカメNEX-5にSchneider jsogonを装着しスナップ撮影に行って参ります

1年間使用したEOS kiss x3を売却しSONYの新型ミラーレス一眼NEX-5を入手した。EOSには電子接点が機能しないレンズを使用する場合に露出が大きく暴れるという癖がある。絞り込むほど撮影結果が明るくなってしまうため、露出をマイナス側に補正しなければならなかった。新たに入手したNEX-5にはそのような癖はなく、とても快適だ。ルンルン♪