おしらせ


MAMIYA-TOMINONのページに写真家・橘ゆうさんからご提供いただいた素晴らしいお写真を掲載しました!
大変感謝しています。是非御覧ください。こちらです。

2014/01/31

本能を読み解きレンズを買う

コレクター全般に当てはまることですが、レンズをコレクションする習性は人間の中に宿る「狩猟本能」が形を変えたものであると言われています。特に男性には古来から体に染み付いた狩猟本能があり、反対に女性には「母性本能」が残っているというのです。男性コレクターの数が女性コレクターの数よりも圧倒的に多いのは、この仮説と矛盾しません。恐らく間違いないことでしょう。

「狩猟本能」とは物欲を満たす行動原理の一種ですが、本質は自分の力を誇示するところにあります。力を誇示し、相手を服従させ、自分にとって優位な環境を構築する「闘争本能(支配欲)」の一形態なのです。レンズをコレクションし、ゆくゆくはレンズに囲まれたハーレムのような生活を堪能するのだ!「ムハハハハ・・・」、なんて夢やロマンは、元を辿れば本能に支配された行動なのでしょう。では、推理を更に発展(暴走)させましょう。

女性オールドレンズユーザーは「母性本能」に支配されているかもしれません。入手したレンズは簡単には手放さず我が子のように可愛がるのです。しかし、「母性本能」とはそう単純なものではありません。母性行動は繁殖戦略の一種ですが、霊長類では母親の体調や栄養状態が危機的状況にあるときに、しばしば育児放棄が見られます。母親は現在の子を犠牲にして将来の繁殖の成功に賭ける事があるのです。こうした習性は無視できません。もしかしたら、栄養状態のよくない女性はレンズを放棄しやすく、栄養状態の良い女性はレンズの入手に前向きになるのかもしれないからです。

画期的なアイデアを思いつきました。妻を説得し新しいレンズを手に入れたい男性諸君は、まずはパートナーを食事にでも連れ出してみてはどうでしょうか。

1月は諸事情によりブログ活動を休んでおりましたが、代わりにくだらないコラムを書きました。気が向いた頃に活動を再開したいと思います。

2013/12/19

Camera Mount for Helicoid Tube(CMHT) and Focusing Helicoid Tube

ヘリコイドチューブ用カメラマウント(中央・シルバー色の金具)、フランジ調整リング(前方・右2枚)、各種ヘリコイドチューブ(後列)

 
マニアの野望を叶えるレンズ遊びの究極ツール
ヘリコイドチューブ用カメラマウント x フォーカッシング・ヘリコイドチューブ
ヘリコイドチューブ用カメラマウントとはショートフランジのミラーレス機にフォーカッシング・ヘリコイドチューブというレンズの繰り出し機構を搭載するためのジョイントアダプターである。一般的なマウントアダプターとは異なり、カメラとレンズの間にヘリコイドチューブを内挿させるために用いる道具である。ヘリコイドチューブを導入すればレンズ本体が内蔵ヘリコイドを持つ必要はないため、活用できるレンズの範囲が広がる。バーレルレンズやエンラージングレンズ、複写用レンズ、プロジェクター用レンズ、工業用レンズなどにヘリコイドの繰り出し機構を提供し、これらをミラーレスカメラの交換レンズに変えてしまうマニア御用達のツールなのである。ヘリコイドチューブ用カメラマウント(以下ではCMHTと略称)のオス側は各種ミラーレス機のマウント規格、メス側はヘリコイドチューブのマウント規格(M42やM39などのネジマウント)になっており、搭載したヘリコイドチューブの先端にレンズやレンズヘッドを装着して使用する。最大の難所は使用したいレンズをヘリコイドチューブの先端部のネジ(M39/ M42/ M52ネジ)に取り付けることができるかどうかである。
ヘリコイドチューブには丈の長さ(最短光路長)や繰り出し長の異なる様々なバリエーションがある。ショートフランジのミラーレス機にCMHTを用いれば、使用するレンズのフランジバックに合わせヘリコイドチューブを自由に交換することができる。この種のツールはこれまでも一般的なマウントアダプターと一眼レフカメラの組み合わせにより実現できたが、搭載できるレンズはフランジバックの長いものに限られていた。この制限はミラーレス機の普及とCMHTの登場により大幅に緩和され、フランジバックの短いレンズでも使用できるようになった。最も短い11-18mmのヘリコイドチューブをEマウント機に用いる場合、先端に搭載することのできるレンズの最短フランジバックは30mmである。
CMHT(シルバーカラーの金具)をM42ヘリコイドチューブに装着するところ
ヘリコイド・チューブへの装着例:左がマウント側、右がレンズ側から見た様子である。ヘリコイドはいっぱいまで繰り出してある。外観は普通のヘリコイド付きアダプターと変わらない
CMHTとヘリコイドチューブの組み合わせがヘリコイド付マウントアダプターと大きく異なる点は、ヘリコイド部を交換することができる自由度の高さである。もちろん普通のヘリコイド付マウントアダプターとして用いることも可能で、ヘリコイドを繰り出せば搭載するレンズの最短撮影距離を強制的に短縮させることができる。
今回私が入手したCMHTはM42マウントのヘリコイドチューブをSonyのα7やNEXなどEマウント機に装着するための製品である。搭載できるヘリコイドチューブの市販品には下記のようなものがある。

ヘリコイド・チューブの市販品
ネジ規格:M42(レンズ側)-M42(カメラ側)
伸縮範囲      製品(入手先)
11mm - 18mm  日本製BORG OASYS 7840(Oasis Direct)
12mm - 17mm  中国製ノンブランド(eBay)
15mm - 25mm  日本製BORG OASYS 7842(Oasis Direct)
15mm - 26mm  中国製ノンブランド(eBay)
17mm - 31mm  中国製ノンブランド(eBay)
25mm - 55mm  中国製ノンブランド(eBay)
27mm - 47mm  日本製BORG OASYS 7841(Oasis Direct)
35mm - 90mm  中国製ノンブランド(eBay)

最近は中国製ヘリコイドチューブにも伸縮率の高い製品が次々と現れている。中国製のヘリコイドは筒の出口がややすぼんでおり、Sony A7で中望遠よりも長い焦点距離のレンズに搭載する場合にはケラレが生じることがわかっている。ケラレを避けたいならば日本製BORGブランドの使用をオススメする。BORGブランドでM42-Emountアダプターを構築する場合には、OASYS 7842に1cm長のM42マクロチューブを組み合わせるとよい。

ネジ規格:M42(レンズ側)-M39(カメラ側)
必要に応じてM42-M39ステップアップリングを用いる。
伸縮範囲       製品(入手先)
13.5mm - 23mm  中国製Yeenonブランド(eBay)
15.5mm - 29mm  中国製Yeenonブランド(eBay)
17.0mm - 34mm  中国製Yeenonブランド(eBay)
20.5mm - 45mm  中国製Yeenonブランド(eBay)
22.5mm - 48.8mm 中国製Yeenonブランド(eBay)

ネジ規格:M52(レンズ側)-M42(カメラ側)
伸縮範囲      製品(入手先)
12mm - 17mm  中国製ノンブランド(eBay)
17mm - 31mm  中国製ノンブランド(eBay)
25mm - 55mm  中国製ノンブランド(eBay)
35mm - 90mm  中国製ノンブランド(eBay)

ヘリコイドチューブ用カメラマウント(CMHT)は現在のところ国内での入手ルートがなく、eBayからのみ購入できる。私は中国製のYeenonブランドの製品(ソニーEマウント用)を14.19ドル+送料20ドルで購入した。この製品はマウント部の厚みが1mm(公証値)なので、仮に25-55mmのヘリコイド・チューブと組み合わせEマウント機(フランジ長18mm)に搭載すると、最短フランジ長の合計は44mm (1+25+18mm)となる。M42マウントのフランジ長は45.46mmなので、この組み合わせなら普通のヘリコイド付マウントアダプター(M42-Eマウント)として使用することも可能だ。下のスクリーンキャプチャーは実際にeBayで売られていたCMHTの製品販売ページである。Eマウント用以外の製品ではマイクロ・フォーサーズ用やFuji Xマウント用、EOS Mマウント用があった。
eBayに掲示されているヘリコイドチューブ用カメラマウントの製品販売ページ(画面キャプチャ)











萌えあがれレンズマニア達!以下では様々なジャンルのレンズに対する装着例を示す。最初は下の写真に示すような、ごく普通(?)のスチル撮影用レンズである。左側はデッケルマウントのSEPTON (ゼプトン)、中央はやはりデッケルマウントであるがロシア仕様の特殊なフランジ長を持つVEGA-3(ベガ3)、右側はMECAFLEX(メカフレックス)用望遠レンズのTELE-KILAR(テレ・キラー)である。デッケルマウント用レンズやレンジファインダー機用レンズは最短撮影距離が1m前後と長く、これまで花や虫などのマクロ的な撮影は諦めなければならなかった。ここにあげた3本のレンズの場合、最短撮影距離はSeptonが0.9m、Vega-3が1m、Tele-kilarが1.5mとなっている。3本ともヘリコイド機構を内蔵したレンズのため、ヘリコイドチューブに搭載するとダブルヘリコイド仕様となり、マクロレンズ並みの近接撮影が可能になる。
VEGA-3はフランジバックが通常のデッケルマウントのフランジよりも2~3mm長く、そのままデッケルレンズとして用いると指標どうりの正しい位置でフォーカスを拾うことができない。こうした製品固有の規格に依存する悩ましい事情も今回紹介するツールを用いれば全く問題にはならない。このレンズに用いるヘリコイドチューブは繰り出し長が最大で3cmにも達するため、2~3mm程度のズレは十分に吸収できるのである。
Tele-kilarはフランジバックが3本のレンズなかで一番短い。このようなレンズには丈の短いヘリコイドチューブを使う。一眼レフカメラには搭載できなかった組み合わせであるが、CMHTとミラーレス機の組み合わによって切り拓かれたレンズの新しい活路である。
左はVoigtlander Septon 50mm F2(デッケルマウント), 中央はKMZ Vega-3 50mm F2.8(Zenit-4/5/6ロシア版デッケルマウント), 右はKilfitt Tele-Kilar 105mm F4(MECAFLEX用/改M42) 。SeptonとVEGA-3はDKL-M42アダプターを用いてM42に変換後、ヘリコイドチューブ(25-55mm)に搭載している。Tele-kilarはM42ネジに改造してあるので、そのままチューブに搭載した





ミラーレス機Sony A7へのTele-kilarの搭載例

続いて複写用マクロレンズとエンラージングレンズ(引き伸ばし用レンズ)への装着例である。この種のレンズは一般にヘリコイド機構を内蔵しておらずレンズヘッドのみの製品である。フランジバック長の規格が製品モデル毎に不統一なので、ヘリコイドチューブをいろいろ試し最適な組み合わせを模索する必要がある。レンズのマウント部がM39ネジになっているケースが多く、M42-M39ステップアップリングを用いればヘリコイドチューブへの取り付けは容易である。
左はエンラージングレンズのBoyer Saphir 《B》 85mm F3.5、右は複写用マクロレンズのLeitz Macro Summar 8cm F4.5である。Saphir《B》はマウント部がM39ネジになっているので、M42-M39ステップアップリングを用いてM42に変換することでヘリコイドチューブに搭載している。SummarはCマウントなのでC-M42ステップアップリングを用いてM42に変換することでヘリコイドチューブに搭載している



ミラーレス機Sony A7へのSaphir Bの搭載例。Saphir Bは珍しいPlasmat/Orthometarタイプのレンズである

最後に中・大判撮影用レンズへの装着例である。この種のレンズも一般には内蔵ヘリコイドを持たないレンズヘッドのみの製品が大半である。フランジバック長の規格が製品モデルごとに不統一なので、ヘリコイドチューブをいろいろ試し最適な組み合わせを模索する必要がある。中・大判撮影用レンズは一部の広角レンズを除きフランジバックの長いものが多いので、ミラーレス機で使用する必要はなく、一眼レフカメラで使用した方がバランス的には快適である。この場合は普通のマウントアダプター(例えばM42-EOSアダプターなど)がCMHTの役割を果たす。CMHTを用いたミラーレス機への搭載はあくまでもフランジバックの短いレンズに対する活路を拓くものであり、フランジバックの長いレンズに対しては必ずしも最良の方法ではない。 
左はCZJ Biotessar 10cm F2.9, 中央はDallmeyer Dalmac 4inch(100mm) F3.5, 右はCZJ Doppel-Protar 128mm F6.3への搭載例である。各レンズとも大判撮影用レンズであり、さまざまな部品を組み合わせM42に変換している。この手のレンズをヘリコイドに搭載するには工夫や経験がいる。自分で手に負えない場合にはレンズ改造店に持ち込みマウント部を変換してもらえば、極端な仕様のレンズを除き大抵はうまくゆく(必ずうまくゆく保証はない)。私はこの手の改造が大好きなので自分でやらなきゃ気がすまない

せっかくなので最後に写真作例をお見せしよう。100年前に製造された古いレンズを現代のデジタルカメラに装着し楽しむことができるのは、とても幸福なことだと思う。新しい道具の登場が様々な可能性を押し広げてくれる事を今後も楽しみにしたい。
Doppel-Protar 128mm F6.3, 絞りF11, ISO2400, EOS 6D使用(AWB): 戦前に生産された2群8枚の大判撮影用レンズ。マクロ域でも良く写る。このレンズは開放付近で線の細い描写を楽しむことができる。いずれ本ブログでも紹介する予定である
Dallmeyer Dalmac 4inch(100mm) F3.5, 絞りF11, ISO, Sony A7'AWB): Dalmacはテッサータイプと言われている。こちらも戦前の製品だが良く写るレンズである