おしらせ


2016/10/15

VEB Pentacon AV(Meyer-Optik Diaplan) 100mm F2.8 and 140mm F3.5




爺さんはトリオプラン、父さんはダイアプラン
バブルボケファミリーの血が騒ぐ
Pentacon AV 100mm F2.8 and 140mm F3.5
プロジェクター用レンズのペンタコンAV(PENTACON AV)は改造して写真撮影に転用することでバブルボケを発生させることができるため、高価なトリオプラン(Trioplan) 100mm F2.8の代用品になるレンズとして脚光を浴びている[文献1]。今回はその中でも大口径モデルであるペンタコンAV 140mm F3.5とペンタコンAV 100mm F2.8を取り上げてみたい。ボケ量は口径の大きなレンズほど大きく、開放F値が同一の場合には長焦点(望遠)レンズになるほど大きなボケが得られる。140mmF3.5と100mm F2.8は同シリーズの中で150mm F2.8に次ぐ大きな口径を持つのが特徴で、マクロ域での撮影のみならずポートレート域で人物を撮る際にも、背後の空間に大きなバブルボケを発生させることができる。また、望遠圧縮効果を活かした長焦点レンズならではの撮影ができるメリットもあり、背後に奥行きのある場所で撮影すると、バブルボケの出方が平面的にはならず、大小さまざまなサイズのバブルが折り重なるように発生し、とても印象的な写真が撮れるのである。焦点距離140mmのモデルはネットに作例や情報がなく、どれほどの写真が撮れるのかは今回のエントリーが初公開になりそうである。
ペンタコンAVには今回取り上げる2本以外に複数のモデルが存在し、私が把握しているだけでも9種類のバリエーションを確認している[注1]。最もポプラーなモデルは100mm F2.8と80mmF2.8である。レンズの先代はメイヤー・オプティックのダイアプラン(Diaplan)であるが、メイヤーは1968年にペンタコン人民公社に吸収され、それまでのメイヤーブランドは1971年以降にペンタコンブランドへと置き換わっている。ペンタコンAVはメイヤー時代にダイヤアプランとして生産していたものをペンタコン人民公社が名称を変えて生産したレンズであり、中身の設計はダイアプランと同一である。
ダイアプランはトリオプランと描写傾向がそっくりであるため、設計が同一であるかもしれないという憶測から注目されるようになった。その真偽については何も伝わっていないが、実際にダイアプラン100mm F2.8とトリオプラン100mm F2.8の描写を比較している記事があり、両者は発色傾向が異なるのみでボケ味や解像力、開放での柔らかい描写傾向などは見分けがつかない程よく似ている[文献2]。違いと言えばダイアプランは寒色系の強い現代的な発色傾向であるのに対し、トリオプランは暖色系にコケる傾向がある点で、この差はコーティングの種類が異なることに由来しているものと思われる。

注1:Pentcon AVとDiaplanには焦点距離の異なる複数のモデルが存在し、私が把握しているだけでも9種類(2.4/60, 2.8/80, 3.5/80 2.8/100, 3/100, 3.5/100, 3.5/140, 2.8/150, 4/200)を確認している。


PENTACON AV 100mm F2.8:構成は3群3枚のトリプレット, 今回もレンズヘッドのみを入手後、自分で改造しM52-M42ヘリコイド35-90mmに搭載した


PENTACON AV 140mm F3.5:構成は3群3枚のトリプレット, 灰色の部分はプロジェクターに据え付ける際に用いるペンタコンAV用の純正ヘリコイドである
入手の経緯
本品はレンズヘッドのみをeBay経由でドイツの業者から取り寄せ、自分で直進ヘリコイドに載せM42マウントに改造したレンズである。レンズヘッドの値段は100mmF2.8が13000円、140mm F3.5が8000円であった。はじめから改造済みの品を手に入れるにはNOCTOなどレンズの改造を専門にしている工房に相談するか、ヤフオクでこの種のレンズを定期的に出品しているセラーから買い取るのが国内での入手ルートである。改造済のレンズの場合、100mmF2.8で1本30000円~45000円程度が相場である。140mm F3.5の相場については取引履歴がどこにもないので不明であるが、レンズヘッドの価格や80mm F2.8の相場が20000~30000円であることを考慮すると、25000円~35000円あたりが妥当な値段と言えるだろう。100mmのモデルは元祖バブルボケレンズのトリオプランと同じ焦点距離であるため人気は高く、取引価格も他のモデルより高額に設定されている。

写真用レンズへの改造
両モデルともプロジェクター用レンズであるため、写真用レンズとして用いるには改造が必要である。100mmのモデルは鏡胴の前玉側(首根っこのあたり)にステップアップリング58-55mmとPETRIの55mm径フード(PETRI Φ55mm)をはめ、ステップアップリング55-52mmを介してM52-M42ヘリコイド(36-90mm)に搭載しM42レンズとして使用できるようにした。すこしオーバーインフなので、M42-Nikon Fアダプターを介してNikon Fに搭載した場合にも無限遠を拾ううことができた。
140mmの方はプロジェクターに据え付ける際に用いるペンタコンAV用の純正ヘリコイドがついていたので、これを有効利用している。末端部が58mmネジであることを利用し、58-52mステップアップリングを介してM52-M42直進ヘリコイドに搭載し、M42レンズとして使用できるようにした。



参考文献・サイト
[参考1] レンズの時間VOL2 玄光社(2016.1.30) ISBN978-4-7683-0693-2
[参考2] Markus Keinath - Soap Bubble Bokeh Lenses 
[参考3] 球面収差の過剰補正と2線ボケ,小倉磐夫著, 写真工業別冊 現代のカメラとレンズ技術 P.166;  球面収差と前景、背景のボケ味,小倉磐夫著, 写真工業別冊 現代のカメラとレンズ技術 P.171
[参考4] Kravtsov, Yu. A., A modification of the geometrical optics method: Radiofizika, 7 664-pp.673(1964a); Kravtsov, Yu. A., Asymptotic solutions of Maxwell’s equations near a caustic, Radiofizika, 7, pp.1049(1964b).
[参考5] Ludwig, D., Uniform asymptotic expansions at a caustic, Comm. Pure and Appl. Math., XIX 215-250(1966)


撮影テスト
両レンズとも口径が大きく、設計は3枚構成のトリプレット型である。背後の空間に点光源をとらえると比較的大きなバブルボケが発生する。また、中判6x7フォーマットを越える大きなイメージサークルをもつので、搭載するレンズヘッドにM42-M42ヘリコイドを用いたのでは、ヘリコイドの内壁面で強い反射がおこり、コントラストが低下してしまう。そこで、今回は一回り太いM52-M42ヘリコイドに搭載することにしてみた。するとコントラストが大分改善され、両レンズともシャープで発色の鮮やかな描写傾向を示すようになった。太いヘリコイドを使用するメリットについてはこちらの記事で解説している。
フレアは100mmよりも140mmの方が少なめで、140mmは近接域でもスッキリとしたヌケのよい描写である。その分、コントラストも140mmの方が若干よく、シャープでメリハリのある力強い写真が撮れる。口径比がF3.5と半段暗く、設計に無理がないためであろう。ペンタコンAVのF2.8のモデルに絞りがついていると仮定し、それを開放から半段絞った描写であると考えれば話ははやい。
バブルボケの発生原因は収差であることを忘れてはならない[文献3]。バブルボケはボケの輪郭部に光が集まることにより形成されるが、光の集積部(専門用語では火面と呼ばれている)を作り出しているのは球面収差やコマ収差である[文献4,5]。この種の収差はフレアを生み出す原因にもなるため、フレア量の大小はバブルボケの「ハッキリ度」を察知する指標にもなっている。ならば、半段絞った口径比をもつ140mmのモデルではバブルボケのハッキリ度も小さいであろうというのが三段論法の結論だ。しかし、実写で試してみた感触としては140mmのモデルにもバブルボケを発生させるレベルの残存収差はしっかり残っていた。バブルボケに興味はあるがソフトな描写は苦手という方には140mmのモデルをおすすめしたい。撮影時は半逆光の条件が必須となるので、バブルを引き立たせるには望遠レレンズ用の深いフードを装着し、ハレーション対策にしっかり取り組んでおくことがポイントになる。
 

PENTACON AV 100mm F2.8 + SONY A7
 
Pentacon AV 100mm F2.8 + sony A7(WB:晴天),  ポートレートでもこの通りに大きなバブルボケが出るのは、さすがに大口径レンズである
Pentacon AV 100mm F2.8 + sony A7(WB:晴天): ハイライト部はややフレアっぽいが、シャープネスの高さと発色の良さはMeyerのTrioplan 100mm F2.8の開放描写を超えているという印象をうける。ボケの輪郭部にかなりつよい光の集積がみられ、ハッキリとしたバブルボケを形成している
Pentacon AV 100mm F2.8 + sony A7(WB:晴天): 近接域ではモヤモヤとしたフレア纏うが、コントラストは十分である

Pentacon AV 100mm F2.8 + sony A7(WB:晴天): お気に入りの一枚。子供の世界だ


Pentacon AV 100mm F2.8 + sony A7(WB:晴天): 相場価格10万もする高価なトリオプラン100mmを購入するよりも、M52ヘリコイドに搭載しコントラストを改善させた本品の方が私には魅力的な商品にみえる





 Pentacon AV 100mm + Fujifilm GFX100S
PENTACON AV 100mm F2.8 + GFX100S(WB:日光)


PENTACON AV 100mm F2.8 + GFX100S(WB:日光)

PENTACON AV 100mm F2.8 + GFX100S(WB:日光)

PENTACON AV 100mm F2.8 + GFX100S(WB:日光)

PENTACON AV 140mm F3.5による作例
Pentacon AV 140mm F3.5+ sony A7(WB:晴天): この製品もや点光源を背後の空間に捉えることでバブルボケの出るレンズであることがわかった
Pentacon AV 140mm F3.5+sony A7(WB:晴天), 温調な写真が多いのは撮った時間帯が夕刻だったため。これまで本ブログで扱った口径比F2.8のモデルに比べると、フレアは出にくく、シャープネスやコントラストは明らかに高い
Pentacon AV 140mm F3.5+sony A7(WB:晴天); バブルボケだけがこのレンズの芸ではない。背後のボケは基本的に硬いので、うまく利用すれば形を留めた美しいボケ味になる
Pentacon AV 140mm F3.5+ sony A7(WB:晴天): 

Pentacon AV 140mmF3.5+sony A7(WB:晴天): 長焦点トリプレットというだけのことはあり、解像力は良好でボケも四隅まで乱れずに安定している



Pentacon AV140mm F3.5+sony A7(WB:晴天), ピントは真面目に合わせてはいないので、ご了承いただきたい。バブルボケはしっかり出ている

Pentacon AV 140mm F3.5+sony A7(WB:晴天), バブルボケとはボケ玉の輪郭に光の集積部のある独特のボケ方を指す。普通の玉ボケとは一線を画するものであることがわかる




2016/09/25

Hugo Meyer Doppel-Plasmat 12cm F4(Plasmatlinse 20cm F8 x2)



歴史の淀みを漂う珍レンズ達 part 1
ルドルフ博士の手でブラッシュアップされた
分離型ダゴール
Hugo Meyer Doppel-Plasmat (ドッペル・プラズマート) 
12cm F4 (Plasmatlinse 20cm F8 x2)
古典レンズ愛好家の知人からフーゴ・メイヤー(Hugo Meyer)社のドッペル・プラズマートを試写させていただく機会を得たので、軽くレポートすることにした。ドッペル・プラズマート[以下プラズマートと略称]のルーツは1903年にドイツのポツダムを本拠地としていたシュルツ・アンド・ビラーベック社(Schultz and Biller-beck) [以下SBB社]の設計士E.アルベルト(E.Arbeit)が、ダゴール(Dagor)の内側の張り合わせをはがし明るさを向上させたオイリプラン(Euryplan)であるとされている[1,2]。SBB社は協力関係にあったフーゴ・メイヤー社に1914年に買収され、これ以降のオイリプランはフーゴ・メイヤー社から供給されている[5]。オイリプランは1918年に同社のレンズ設計士パウル・ルドルフ(P.Rudolph)博士の手で改良(再設計)され、口径比をF4/F4.5まで明るくしたドッペル・プラズマートおよびザッツ・プラズマート(Satz Plasmat)を生み出す原型となった。なお、プラズマート発売後もオイリプランの供給は続き、同社の1936年と1938年のカタログにはオイリプランF6~F6.8とプラズーマートF4/F4.5のそれぞれを確認することができる[5,6]。プラズマートはルドルフの名声とともに人気を博し、実際にとても良く写るレンズであったが、第二次世界大戦後は供給が途絶えてしまった。大判撮影や複写・引き伸ばし撮影の分野ではそれなりに需要のあるレンズであったが、突然供給を打ち切ってしまった理由は伝わっておらず、メイヤー社のミステリーの一つとして海外の掲示板等では今も議論が絶えない。
DagorからDoppel-Plasmatへの構成図の変遷:左はダゴールF6.8(E.フーフ, 1882年)[4]、中央はオイリプランF6 (E.アルベルト, 1903年)[2]、右はドッペル・プラズマートF4(P.ルドルフ, 1918年)[3]の構成図(見取り図)。オイリプランはSBB社のカタログからではなくHugo-Meyer社のカタログ[5]からのトレーススケッチである。オイリプランとドッペル・プラズマートはダゴールの内側にある張り合わせを外し空気層を設けることで球面収差の膨らみ(輪帯球面収差)を劇的に抑えることに成功したレンズである



オイリプランをルーツとするプラズマート型レンズは写真の四隅まで解像力が良好なうえ、色ずれ(カラーフリンジ)を効果的に抑えることができ、広いイメージフォーマットの隅々までフィルムの性能を活かしきることが求められる大判撮影や中判撮影にも余裕で対応することのできる[7]。また、絞っても焦点移動が小さいため、引き伸ばし用レンズとしての適性にも富み、この分野ではワンランク上の高級モデル(テッサーの上位モデル)に使われることが多い。明るさはF4程度までのため高速シャッターで手持ちによる撮影を基本とする35mm判カメラの分野で広まることはなかったが、画質には定評があり、プロフェッショナル製品の分野では現在も活躍を続ける優れた設計構成として認知されている。同型構成(プラズマート型)のレンズとしてはツァイスのオルソメタール(Orthometal) F4.5、ポアイエ(Boyer)社のサファイア(Saphir) 《B》、ロシアのRF-240 (LOMO製)やルッサー・プラズマート(Russar-Plazmat)などが古くから知られており、現行レンズではシュナイダー社(Schneider)のコンポノンS F4とジンマー F5.6がある。
Doppel-Plasmat 12cm F4(前後群にPlasmatlinse 20cm F8を配置): フィルター径 34mm, 重量(実測) 225g, シャッター Compur #1, 絞り羽根 10枚, 絞り値 F4-F18.25, 構成 4群6枚, 推奨イメージフォーマットは3x4 inch




★参考文献
[1]Rudolf Kingslake, A History of the Photographic Lens, Academic Press(1989); 写真レンズの歴史 ルドルフ・キングスレーク(著) 雄倉保行(訳) 朝日ソノラマ(1999年)
[2] Euryplanの特許:DE Pat.135742(1903); UK Pat.2305(1903)
[3] Doppel-Plasmatの特許:DE Pat.310615(1918); UK Pat.135853(1918)
[4] Dagorの特許:DE Pat.74437(1892); US Pat.528155, UK Pat.23378(1892)
[5] A Catalogue of Photographic Lenses, Hugo Meyer & Co. (1936)
[6] The British Journal Almanac Advertisements (1938) pp.567
[7] レンズ設計の全て 辻定彦著 東海大学出版会

撮影テスト
プラズマートは柔らかい像の中にも芯があり、線の細い緻密な開放描写を持ち味とするレンズである。解像力は高く、大判で撮るとギッシリと詰まったきめの細かな写真になる。基本的に軟調系のレンズではあるが、ゴーストやハレーションが少ないため発色は濁らず、開放でのしっとり感と相まって、ポートレート撮影においても大きな力を発揮できる。絞るとスッキリとヌケのよいクリアな描写が得られ、コントラストも向上するが、階調が硬くなることはない。像面特性は良好で、ピント部、アウトフォーカス部とも四隅まで画質に安定感があるため、定格より一回り大きな大判イメージフォーマットにも余裕で対応することができる。そのぶん写りは平面的で立体感は乏しい。グルグルボケや放射ボケ、2線ボケ等の乱れは全く見られず、柔らかく上品なボケ味である。
このプラズマートの特徴について設計者ルドルフは「通常のレンズよりも被写界深度が深い」(つまりボケにくい)と述べており、キングスレークは著書[1]の中でそのことを真っ向から疑問視している。ルドルフが言いたかったのは像面が平坦なためにおこる立体感の欠如(ティルト・シフトを行う時のように像面が傾いたり曲がったりすると見かけ上では被写界深度が浅いと感じてしまうが今回はその逆のケース)だったのではないだろうか。

大判4x5フォーマットでの写真作例
メーカーが推奨するイメージフォーマットは3x4インチであるため大判4x5インチは一回り大きいが、実際に使ってみると四隅の像にも乱れはなく、安定感のある素晴らしい画質であることがわかる。イメージサークルに余裕がれば、もう一つ上の大判5x7フォーマットにも対応できそうな感触だ。
 
 CAMERA:  PaceMaker Speed Graphic
 FILM: FUJICOLOR Pro160NS(4x5 inch) 銀塩カラーネガ
  SCAN: EPSON GT-9700F フラットヘッドスキャナ
絞り: F6.3, 大判4x5フォーマット(Fujifilm Pro160NS 銀塩カラーネガ), Camera: Pacemaker Speed Graphic, Scannar: EPSON GT-9700F: 軟調で緻密、濁りのない発色が美しく、とても好きな階調描写だ。強い日差しの下でも階調が硬くなることはない。画質の平坦性が高く絵画的な描写傾向はこのレンズの大きな特徴である

中判6x6フォーマットでの写真作例
中判6x6フォーマットはメーカーの推奨する規格よりも小さなイメージフォーマットであるが、迷い光による写真画質への影響はみられず、中判カメラでも無理なく使えそうだ。
CAMERA: Bronica S2
FILM:  FUJICOLOR Pro160NS(4x5inch) 銀塩カラーネガ
F4(開放), 中判6x6フォーマット(Fujifilm Pro160NS 銀塩カラーネガ): 開放ではしっとり感の漂う上品な描写で、ポートレート撮影でも十分に通用する。背後のボケはとても美しい。セコニックの露出計を娘に奪われ、仕方なくスマートフォンの露出計ソフトでシャッタースピードを決定した

F8(開放), 中判6x6フォーマット(Fujifilm Pro160NS 銀塩カラーネガ): 絞ればコントラストは向上し、スッキリとヌケのよい描写だ。四隅まで画質の均一性が高い












2016/09/19

歴史の淀みを漂う珍レンズ達(プロローグ)

Rudolf Kingslake, A History of the Photographic Lens, Academic Press (1989) 334 pages, ISBN-10: 0124086403, ISBN-13: 978-0124086401;  写真レンズの歴史 (クラシックカメラ選書11) ルドルフ キングズレーク (著), 雄倉保行(訳) 286頁,朝日ソノラマ(1999年) ISBN-10: 4257120215, ISBN-13: 978-4257120216
歴史の淀みを漂う珍レンズ達: プロローグ
マニアのバイブルと言われるキングスレークの名著「写真レンズの歴史」には珍しい設計構成のレンズが数多く登場している。この本に目を通すと、現代へと通じるレンズ設計の歴史が紆余曲折を繰り返しながら、大きなうねりの中を少しづつ前身してきた様子を知ることができる。テッサーやダゴールのように大きく成功し本流となったレンズもあれば、試行錯誤の過程の中で忽然と生まれ消えていったレンズもある。キングスレークの本の素晴らしいところは歴史の表舞台で大きく活躍したレンズの情報だけでなく、マイナーな位置づけながらも特徴を放つレンズの情報まで数多く収録している点である。歴史の淀みを漂う珍レンズ達。本ブログでは数回にわたり、キングスレークの本の中に掲載されている珍しい構成のレンズを取り上げ紹介したい。掲載予定のレンズを列記する。
  • Steinheil Gruppen-Antiplanet
  • Rodenstock Heligonal
  • R&J Beck Isostigmar
  • LEITZ Elcan
  • Aldis Uno Anastigmat
  • Dallmeyer Stigmatic II
  • Hugo-Meyer Doppel Plasmat
  • Ernemann Ernostar
おっと、知人達のレンズも少し合流するかも…。

2016/09/07

Carl Zeiss Pro-Tessar 35mm F3.2 and Pro-Tessar 115mm F4(Contaflex mount) converted to Sony E-mount



コンタフレックスのプロ・テッサー(後編)
Zeiss Ikon Pro-Tessar 35mm F3.2 and Pro-Tessar 115mm F4
プロ・テッサー特集の後編は広角レトロフォーカス型レンズのプロ・テッサー35mm F3.2と望遠レンズのプロ・テッサー115mm F4を取り上げる。
プロ・テッサーが開発された1955年は一眼レフカメラ用の広角レトロフォーカス型レンズが各社から次々と発売された頃であり、後にディスタゴンを世に送り出す旧西ドイツのZeissもギュンター・ランゲ(Günther Lange)率いる設計チームがレンズの開発を急いでいた[文献1]当時の広角レトロフォーカス型レンズはテッサーやトリプレット、ビオメタールといった既存のレンズ設計をベースとし、前方に近視補正用の眼鏡に相当するメニスカスレンズを配置する対処療法的な構成を採用したものが一般的であった。コンピュータによるレンズの自動設計が実用化されるのは1960年代に入ってからの事であり、当時はまだ複雑な構成のレンズを一から組み上げることが容易でなかったためである[文献2]。改めてプロ・テッサー35mmの構成を眺めると6群8枚の非対称な構造を持ち、当時としては極めて複雑な設計構成である[下図上段]。ここまで豪華なレンズがコンピュータの力を借りずに生み出されたのは大変な驚きである。ツァイスの高度な技術力が生んだ時代を先取りするレンズであったに違いない。
プロテッサー35mmは当初F4の口径比でコンタフレックスIII型の発売とともに1957年に登場している。後に改良され、1962年に設計構成は同一のままF3.2の明るさへとモデルチェンジしている。レンズの生産は1975年まで続いた。
プロ・テッサー35mm F3.2(上段)とプロ・テッサー115mm F4(下段)の設計構成。文献3からのトレーススケッチである。右側の黄色で着色したレンズ群がカメラの側に据え付けられたマスターレンズで、左側の青のレンズ群を交換する機構になっている。構成はプロ・テッサー35mm F3.2が6群8枚、115mmF4が6群9枚である
続いて取り上げるプロ・テッサー115mmも6群9枚という当時としては非常に複雑でユニークな設計のレンズである。特に目を見張るのは前玉と中玉に使われている極厚のレンズエレメントで、中玉のエレメントに至っては光学系全体の半分もの厚みをもつ。狭いコンパーシャッターの開口部に光を通すために考え出された唯一無二の特異な構成であり、製造には相当なコストを要したに違いない。前玉には諸収差(球面収差、コマ収差、色収差)を抑えながら口径比を明るくできる素晴らしい性質のレンズ(正のアプラナティック色消しレンズ)が導入されている[文献4]。このモデルもコンタフレックスIII型の発売とともに1957年に登場している。
  • 文献1 焦点距離35mmnのモデルの米国特許:G.Lange, US Pat.2835168(Filed in Aug.1955),  US.Pat 2844997(Filed in Nov.1956)。115mmについてはG.Langeとの関連を示す記録がない
  • 文献2 小林孝久『カール・ツァイス創業・分断・統合の歴史』朝日新聞社
  • 文献3 構成図:PHOTO-REVUE(French Magazine), Nov.1956, pp.284
  • 文献4 カメラマンのための写真レンズの科学 吉田正太郎 地人書館(P.84の図3.18)
入手の経緯
プロ・テッサー35mm F3.2は2016年1月にドイツ版eBayを介してドイツの大手写真店foto-sandorから50ユーロ(6600円)の即決価格で購入した。レンズの状態は同店の格付けでA(美品)「とても良い状態」とのことで、届いた現物はガラスにホコリや傷のない状態のよい品であった。プロ・テッサーF3.2はeBayでも流通量が豊富なため高値をつけることはないが、米国のセラーから買う場合には送料と輸入税にレンズの代金と同じ程度の費用がかかってしまうので注意しなければならない。ドイツなどEUのセラーから手に入れる方がトータルコストは有利である。
続くプロ・テッサー115mm F4はドイツのアナログラウンジという大手セラーからの購入品である。レンズは45ユーロの即決価格で売られていたが、値引き交渉を受け付けていたので41ユーロにしてほしいと提案し、私のものとなった。送料は10ユーロなので入手額の合計は6500円(51ユーロ)である。商品の解説は「グッドコンディション。ガラスにクモリや傷はなく、使用感も少ない。レンズの内側には少しホコリがみられるが、イメージクオリティに影響はない」とのこと。このレンズを購入する際の注意点はバルサム剥離であるが、問題のない状態の良い品が届いた。アナログラウンジは商品在庫が極めて豊富で値段も安く、配送・手数料も良心的な設定であるが、レンズの品質に関しては当たりはずれが大きく博打的要素があるので、オークション上級者向けの取引相手である。実は本個体を手に入れる1か月前にドイツ版eBayで別のセラーからバルサム剥離の見られる製品個体をまんまと買わされた。落札額は4000円程度で送料込みでも5000円弱であったため、返送料を負担してまで返品するほどの額でもない。幸いなことにバルサム剥離を明記しジャンク品扱いで国内のオークションに出したところ、これに近い額で買い手がついた。
Pro-Tessar 35mm F3.2, 最短撮影距離 約0.4m, フィルター径 57mm(特殊ネジピッチ?), 構成 6群8枚レトロフォーカス型, 重量(改造品のため参考) 540g

Pro-Tessar 115mm F4, 最短撮影距離 2.5m, フィルター径 約67mm(特殊ネジピッチ?), 構成 6群9枚, 重量(改造品のため参考) 675g
撮影テスト
Pro-Tessar 35mm F3.2(フードは未装着)
私は正直のところ1950年代に登場した広角レトロフォーカス型レンズの中で、フレクトゴン35mm F2.8ほど高いシャープネスを示すレンズは他に存在しないと思っていた。しかし、この考えは撤回しなければならない。本記事を書くにあたりフレクトゴンとプロ・テッサー35mmの2本を比較する事前調査をおこなってみたが、結果としてプロ・テッサー開放でもフレアや色収差(倍率色収差)の発生量がフレクトゴンと同等レベルに抑えられており、とてもヌケの良いシャープな描写のレンズであることがわかった。感心したのはレトロフォーカス型レンズによくみられる逆光時の激しいゴーストやハレーションなどがこのレンズでは非常に低レベルに抑えられていることである。発色はフレクトゴンが僅に温調で黄色味を帯びるのに対し、プロ・テッサー35mmはほぼノーマル。背後のボケは四隅まで安定しており、柔らかく綺麗に拡散している。開放での解像力(分解能)この時代のレトロフォーカス型レンズ相応のレベルで、中心部・周辺部ともフレクトゴンの方が完全に圧倒しており、四隅まで良像を得るにはF8程度まで絞る必要があった。ところが一体どういう事なのか、不思議なことに普段の実写で使う分には頼りなさを全く感じないのである。四隅の解像力不足は明らかであるが、シャープネスによってもたらされる鋭い解像感がこうした弱点をうまく補っているとしか考えられない。ポートレートで人物をとる場合には四隅の解像力はそれほど問題にはならず、風景や建物など遠景では絞って撮るので画質は改善する。こうした実写による経験が描写設計の中に生かされていとしたら、驚くべき事ではないだろうか。定評のあるフレクトゴンと比べても遜色のないシャープなレトロフォーカス型レンズが1955年当時に既にもう一本登場していたことがわかり、有意義な知見が得られた。
F3.2(開放), SONY A7(AWB): 祖母と孫娘。描写の方は開放でもスッキリとしていてヌケが良くシャープだ。解像力はたかだかこの程度の平凡なものであるが、実用十分な性能であろう
F5.6, sony A7(AWB) 続いて遠景の作例。絞っているので勿論とてもシャープな描写だが、開放でもこちらに示すようにコマなどは少なく、とてもシャープな描写である
F4.5, sony A7(AWB, iso 640): 逆光にはある程度強く、この程度の光源をならばゴーストやハレーションの心配はない



F8, sony A7(AWB): このくらいのド逆光にすればゴーストやハレーションがみられる
Pro-Tessar 115mm F4(フードは未装着)
開放では画面全体が薄いフレア(コマフレア)に包まれ柔らかい描写になる。ハイキーで攻めるとトーンがどこまでも軽くなり、発色も淡くなるので、白昼夢のような面白い写真が撮れる。1段絞るとフレアは消失しヌケもよくなる。もう1段絞る辺りまでコントラストの向上がみられるが、それ以上は絞ってもあまり変わらない。基本的には軟調気質のレンズであり、深く絞り込んでもシャープになることはない。ボケは前後とも適度に柔らかく素直である。口径食は全く見られずグルグルボケは前ボケに僅にみられるだけなので全く目立たない。美ボケレンズの類といえるだろう。逆光撮影には弱くゴーストが発生しやすいので、避けるのであればフードを装着した方がよい。発色は癖などなくノーマルであるが、開放では淡く、逆光になると濁るケースがみられた。歪みは僅かに糸巻き状で、きつくはない。柔らかい描写が好きな方にはおすすめしたいレンズであるが、最短撮影距離が2.5mと長めなところには不満が残る。

F4(開放), SONY A7(AWB): 開放ではモヤモヤとしたフレアが発生し、柔らかい描写になる。発色は淡い。1段絞るF5.6ではこちらのようにコマが収まりコントラストが向上する


F4(開放), SONY A7(AWB): こういう作例でシャープネスを求めるのはむしろナンセンスな気がする。モヤモヤとしたフレアを最大限ぶっかけてやるほうが雰囲気が出るので、絞りはもちろん全開。F5.6での撮影結果もこちらに示す。










F5.6, Sony A7(AWB): 滲みを避けたいならば1段絞ればよい。ちなみに開放ではこちらのようになる。逆光ではゴーストが出る











F8, Sony A7(AWB):やはり逆光ではゴーストが出る

2016/09/06

オールドレンズライフ6 発売


澤村徹氏が監修と執筆をされているオールドレンズ専門誌「オールドレンズ・ライフ Vol.6」(玄光社ムック)が8月31日に発売されました。その中の「マイ・ベスト・オールドレンズ/あの人の愛用オールドレンズ、大公開!」という特集記事で私の好きなレンズCarl Zeiss Jena Flektogon 20mm F4を取り上げていただきました。本の中では洞窟探検家・ブロガーという肩書きで私自身も紹介されています(笑)。1頁まるまる大きく掲載していただき、たいへん驚きました。この特集にはお散歩仲間で「オールドレンズx美少女」(玄光社)の著者である上野由日路氏や、おなじくお散歩仲間でルミエールカメラのタカハシマサキ氏も登場しています。

本書は毎年1冊のペースで定期的に刊行されており、毎号、様々な角度からオールドレンズの情報を提供しています。解説が平易なところもいいですね。とても魅力的な本です。

本は全国の書店にて入手できます。以下は玄光社の書籍紹介(こちら)からの転載です。

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オールドレンズファン必読マガジン
6冊目となる「オールドレンズ・ライフ」シリーズ。
オールドレンズ愛好家の愛着の1本を紹介する「あの人の愛用オールドレンズ、大公開!」、コダック、アグフア、富士フイルムなど往年のフィルムメーカー製レンズをテイスティングする「フィルムメーカー製レンズの彩り」、レンズ構成図の読み方とその描写を紹介する「ゼロからはじめるレンズ構成概論」、個性的なボケレンズを集めた「これが噂のボケモンスター」など、魅力的なオールドレンズを多数紹介。また、「マウントアダプター・マニアックス」ではオールドレンズの基礎知識を丁寧にガイドしました。


・あの人の愛用オールドレンズ、大公開!

・フィルムメーカー製レンズの彩り

・ゼロからはじめるレンズ構成概論

・これが噂のボケモンスター

・マウントアダプター・マニアックス

・着飾るカメラたち

・OLL Pick Up PART-1

・OLL Pick Up PART-2

・OLL Pick Up PART-3

・読者プレゼント

2016/08/22

Carl Zeiss Tessar 50mm F2.8 and Pro-tessar 85mm f3.2 (Contaflex lenses) converted to Sony E-mount



コンタフレックスのプロ・テッサー(前編)
Zeiss Ikon Tessar 50mm F2.8 and Pro-Tessar 85mm F3.2
カール・ツァイスのテッサー(Tessar)は3群4枚という比較的シンプルな構成ながら諸収差を合理的に補正することができ、写りも良いことから世界中のカメラに採用され、20世紀中頃まで市場を席巻したレンズである。1902年の登場以来、ツァイスの看板レンズとして重視され、度重なる再設計を経て1925年に口径比F2.7の明るさに達した。しかし、実用的な性能はF3.5までが限界で、旧来からのイエナガラスに頼る設計ではこれ以上の改良の余地を望むことはできなかった。テッサーがこれよりも明るい口径比で収差的に満足のゆくレベルに到達したのは戦後になってからの事で、ドイツ分断前の1947~1948年にツァイスのハリー・ツェルナー(Harry Zöllner)が新種ガラスを用いた再設計で球面収差とコマ収差の補正効果を飛躍的に高めたことによる[文献1]。ドイツが東西に分断された後は東西それぞれのツァイスからテッサーがF2.8の口径比で供給されている。
プロ・テッサー特集の1本目に取り上げるレンズは1956年に西独ツァイス社のレンズ設計士ギュンター・ランゲ(Günther Lange)が新種ガラスを用いて開発したコンタフレックス用テッサーである[文献2]。このレンズはコンバージョンレンズのプロ・テッサー(Pro-Tessar)シリーズとの連携を念頭に据えた設計になっており、コンタフレックスIII型の発売に合わせ、プロ・テッサーとともに1957年に登場している。基本的にはツェルナーによる再設計の流れを汲む製品である。2本目に取り上げるのは中望遠レンズのプロ・テッサー85mm F3.2である。このレンズも1956年にランゲが設計したもので、F3.2の明るさを実現するため前玉に極厚の正レンズを据えたインパクトのある設計構成となっている[文献2]。テッサーからプロ・テッサーに変更することで焦点距離は50mmから85mmに伸びるが、そのための代償は大きく、前玉の単レンズは4群5枚に置き換わり光学系全体としても著しく巨大になっている。
テッサー50mm F2.8(左)とプロ・テッサー85mm F3.2(右)の光学系(文献3からのトレーススケッチ)。構成はテッサー50mmが3群4枚、プロ・テッサー85mmが6群8枚構成である。黄色のレンズエレメントがマスターレンズの部分で、青の部分がコンバージョンレンズの部分。テッサーの前玉(青の部分)を外し、コンバージョンレンズに交換するという仕組みになっている。プロ・テッサーの構成は軸上光線が高い位置を通過する最前部に屈折力の大きな正の極厚レンズを配置することでF3.2の明るさを実現している

入手の経緯
Pro-Tessar 85mm F3.2は2016年3月に米国の古物商からeBayを介して即決価格で購入した。オークションの記述は「Zeiss Ikon製カメラに搭載するビンテージ品のCarl Zeiss Pro-Tessar 85mm F3.2。ガラスに傷はない。キャップとケースが付属している。鏡胴には傷が散見されるが実用において問題はない。写真をよく見てくれ」とのこと。即決価格が52ドル(+送料33ドル)に設定されており値切り交渉を受け付けていたので、5%オマケして欲しいと提案したところ私のものとなった。届いたレンズは拭き傷やバルサム剥離のない良好な状態であった。鏡胴には管財番号らしき数字列の掘り込みがあったため、元々はどこかの公的機関が保有していたレンズなのであろう。焦点距離85mmのモデルは口径比F4の個体が多く、流通量の少ないF3.2の個体は高値で取引されている。ラッキーな買い物であった。プロ・テッサーはバルサム剥離の見られる個体が多い。
続いてTessar 50mm F2.8はContaflex III型に搭載されていたものを入手した。カメラはeBayやヤフオクに大量に出回っており、6500円から10000円程度で入手できる。カメラからレンズを取り出し自分で改造するのなら、レンズのついたジャンクカメラを安く入手するのがよい。私はカメラから取り外したマスターレンズをPK-Eマウントのアダプターに乗せ換えて使用する事にした。カメラの流通は米国版eBayが最も豊富であるが、米国からの配送は送料が4000~5000円程度と高いので、ドイツ版eBayや国内での入手が現実的であろう。
Carl Zeiss Tessar 50mm F2.8(Contaflex): 重量(改造品につき参考)274g, 絞り羽 5枚構成, フィルター径 27mm, 絞り F2.8-F22, 最短撮影距離 2.5feet(0.75m), Synchro-Compurシャッター(max speed 1/125s), 光学系 3群4枚テッサー型



Carl Zeiss Pro-Tessar 85mm F3.2: 重量(改造品につき参考)525g, 絞り羽 5枚構成, フィルター径 57mm前後 (特殊ネジピッチのようで58mmはきつい。57mmは一見ちょうどよさそうだが受け付けない。ネジピッチが異なるのか?), 絞り F3.2-F22, 最短撮影距離 約1.8m前後, Synchro-Compurシャッター(max speed 1/125s), 光学系 6群8枚


参考文献
  • 文献1  Jena review (2/1984) カールツァイス機関紙
  • 文献2 焦点距離85mmと50mmのモデルの米国特許:G.Labge, US Pat.2816482(Filed in 1956)
  • 文献3 構成図:PHOTO-REVUE(French Magazine), Nov.1956, pp.284
  • 文献4  85mm F4の構成図と収差曲線(実測)が「レンズテスト第2集」中川治平・深堀和良著(朝日ソノラマ)P18にある
撮影テスト
Tessar 50mm F2.8による作例
テッサーらしさがよく出ているレンズで、解像力は平凡だが開放でもフレアはよく抑えられており、シャープネスやコントラストは良好で線の太い描写を特徴としている。ピント部は四隅まで安定しており、近接域から遠景まで収差による画質の変動が小さい。グルグルボケは僅かに出るが、目立つほどではない。逆光には比較的強く、ゴーストは全く出ず、ハレーションも激しい逆光時に多少出る程度である。
F2.8(開放), sony A7(AWB): ハイキー気味に撮影しても、しっかりと色が出るので使いやすい
F8, sony A7(WB:auto):シャープで色鮮やかな優等生だが解像力は平凡。テッサーとは、こういうヤツなのだ
F5.6, sony A7(WB:日光):


F8, sony A7(WB:日光):
F8, sony A7(WB:晴天): 激しい逆光にも耐え、ゴーストは全く出ない
F2.8(開放), Sony A7(WB:晴天): ハレーションも少なく、描写には安定感がある。母子の束の間の再開であった
Pro-Tessar 85mm F3.2による写真作例
開放では僅かにフレアがみられ柔らかい描写であるが、それにも関わらずコントラストは良好で発色も良い。F4以上に絞ればフレアは収まりスッキリとヌケがよくなり、シャープネスとコントラストは更に向上する。開放から発色は濃厚で色のりは良く、ハイキーに撮っても淡くなることはない。階調はテッサーよりも軟らかくなだらかで、炎天下でもカリカリになることはなかった。解像力はテッサー同様に平凡で線の太い描写だが、フィルム撮影の時代のレンズとしては十分な性能なのであろう。デジタルカメラで撮影した写真でも大きく拡大表示しなければ力不足を感じる事はなかった。このレンズの柔らかい描写傾向はポートレート撮影で人物を撮るのに有利である。背後のボケは素直で整っていると言えばそうなのだが、極僅かに出るグルグルボケと相まってブレたような不思議なボケ味になることがある(作例2枚目)。同じ時代に生産されたツァイス・イエナのビオター75mm F1.5にも、どこか似たようなボケ具合を感じることがあった。なお、実写でははっきり示せなかったが、このレンズでは正パワーが前方に偏っている事に由来する糸巻状の歪曲がみられる。
F3.2(開放), Sony A7(WB:晴天): 開放ではややフレアの纏う柔らかい描写となり、ポートレートには使いやすい。F4からはシャープになる。解像力はごく平凡だが、フィルム撮影の時代のレンズとしては、これで十分な性能であろう。露出をかなり持ち上げているが、ライトトーンにはならず、色のりはよい


F3.2(開放) sony A7(AWB): いきなりのモデル登場に絞る間もなく開放でパシャリ。やはり開放では薄っすらと滲みが入るがコントラストは良好。これなら開放でも充分いける
F3.2(開放), SONY A7(AWB):再びポートレート域。絞りはもちろん開放だが、コントラストは維持されている。うっすらと滲みを伴うにも関わらず、ここまで濃厚に写るのはむしろ贅沢。絞るのはもったいない
F3.2(開放), Sony A7(WB:auto): もちろん開放。やはり柔らかい描写である。背後のブレたようなボケ味(かすみ具合)と色ののり具合は同時代のビオター75mm F1.5の描写を思い起こさせる
F4, Sony A7(WB:auto):: こんどは少し絞ってみた。膝のあたりを覆っていたフレアは抑まり、ヌケが良くなっている
F11, Sony A7(AWB):今度は深く絞ってみた。スッキリとした素晴らしい描写だ。発色はやはりコッテリとして濃厚である