おしらせ


2018/03/20

KMZ PO(RO)-series cinema movie lenses part 1:KMZ PO2-2(RO2-2) 75mm F2



レニングラード生まれ、クラスノゴルスク育ちの
35mmシネマムービー用レンズ  PART 1
ロシア版アイモに搭載された望遠シネレンズ
クラスノゴルスク機械工場 PO2-2(RO2-2) 75mm F2
PO2-2 75mm F2はモスクワのKMZ(クラスノゴルスク機械工場)が1948年に映画用カメラのAKS-1やKS50Bに搭載する望遠レンズとして発売しました。もともとはレニングラードのKINOOPTIKAファクトリーが1945年~1947年の3年間に1000本のレンズを生産したのがはじまりで、レンズの製造には第二次世界大戦の賠償としてドイツから接収したガラス硝材が使用されました[1]。その後、レニングラードの生産ラインはKMZの393番プラントに移され、国産ガラスを用いた製造に切り替わります[2,3]。このプラントではPO2-2と共にモスクワへとやってきた兄弟レンズのPO3-3 2/50やPO4-1 2/35も一緒に製造されました。また、ゾナーのデットコピーであるZK-50シリーズやビオゴンのデットコピーであるBK-35(ジュピター12  2.8/35の前身)、ロシアン・エルマーのインダスター22、ドイツ・ワイマール時代にツァイスから技術協力を受けて開発されたオリオンシリーズ(トポゴンのコピー)なども製造されています[2]。393番プラントは言わばクローンレンズ製造所だったのです。
KINOOPTIKAファクトリーでPO2-2を設計した人物は明らかになっていませんし、KMZにて国産ガラスを用いた再設計を誰が行ったのかも不明です。KMZで当時の光学システム設計局を率いていたのはインダスター22の設計やジュピターシリーズの再設計を手がけたM.D. Moltsevという人物で、Moltsevは1948年から同局の局長に就任しています[2]ロシア製レンズの場合、設計者不明のレンズは他国の有名メーカーを模した製品である可能性が高くなります(BK-35, BTK-58, FK-35, ZK-50などがいい例です)。PO2-2は構成図を重ねることでPO3-3 2/50と同一設計であることがわかり、前玉径・後玉径・焦点距離はそれぞれPO3の1.5倍です[4]。明らかにPO3-3と相似光学系もしくは準相似になっており、両レンズはセットで設計されました。
近年、日本ではPO3-3が英国Taylor-Hobson(テーラー・ホブソン)社のSpeed Panchro(スピードパンクロ)という有名なシネレンズを模倣した製品であるという説が広まり、ちょっとしたしたブームが沸き起こっています。そのことを初めて見出したのは「オールドレンズx美少女」の著者である写真家の上野由日路氏です[6]。上野氏の仮説にはエビデンスがないことを彼自身が認めていますが、実は仮説を唱えるだけの十分な根拠があります。今回はそのあたりを少し紐解いてみましょう。

COOKE SPEED PANCHRO(SERIES I)50mm F2: コレクターでもない私が積極的に買うはずもないレンズですが、縁あって有名な写真家のもとから我が家に養子としてやってきました


まず、POシリーズを搭載したKS-50BやAKS-1という映画用カメラは米国Bell & Howell(ベル・ハウエル)社が開発したEyemo(アイモ)という映画用カメラをコピーした模造品であることをKMZ (現ゼニット社)が公式ホームページ[9]で認めています。戦前のアイモにはスピードパンクロが正式採用され、1940年代のハリウッド映画では、撮影に使われたアイモの半数以上にスピードパンクロが搭載されました[7]。ならば、ロシア版アイモに搭載されたPOシリーズがカメラ同様にスピード・バンクロから作られたと考えるのは、きわめて自然な発想です。仮説を支える根拠はここからです。上野氏は戦前に設計された同一構成のシネレンズを片っ端からしらべ、PO3-3の第2群にみられる特徴的な構成がスピードパンクロのシリーズ1にしかみられないことを突き止めました。これは消去法的な検証手段でしかありませんが、後にPO3-3とスピードパンクロの各部の寸法を図面で照らし合わせてみると、両者の寸法は前玉径や全長、実焦点距離などの主要部が1mm以内の差で合致していたのです[4,8]。ただし、両レンズの硝材まで比較したわけではありません。
今回取り上げるPO2-2 75mm F2についても、スピードパンクロ・シリーズ1 50mm F2をベースに設計されたと考えるのは無理のない仮説です。ちなみにスピードパンクロのシリーズ1には75mmF2のモデルが存在しますので、PO2-2はこれを参考にしたと考える方も多いのではないかと思います。しかし、構成図の形態は明かにPO2-2とは異なるものです。どうしてなんでしょう。

KMZ PO2-2 75mm F2構成図(トレーススケッチ) :文献[2]に掲載されている構成図を参考に作成した。設計構成は4群6枚の準対称ガウスタイプ

KMZが1948年に発売したPO2-2の最初のバージョンは真鍮鏡胴で、ガラス面にコーティングのないノンコートモデルと、ブルーのコーティングが施された2種のモデルが用意されました。生産本数はノンコートモデルが500本、コーティング付モデルが1500本です[1]。1951年になるとガラス面にマゼンダ色のPコーティング(Pはprosvetlenijeの意)が施された新しい製品へとモデルチェンジされます。また、1952年からはアリフレックス35のロシア版コピーであるKONVAS (OCT-18マウント)に対してもレンズの供給が始まります。レンズの設計構成は4群6枚のスタンダードな準対称ガウスタイプで(上図)[2,4]、第2群の張り合わせレンズがこの時代のガウスタイプによくみられる両凸レンズと両凹レンズの接合ではなく、凸メニスカスと凹メニスカスの接合になっているという大きな特徴を持っていました。この特徴は戦後間もなく登場したフレクソンやパンカラーあたりからよく見られるようになりますが、戦前のレンズでこの形態を採用したものは極僅かでした。上野氏もこの点に着目していたはずです。張り合わせレンズの凸部自体も非常に分厚く作られており、球面収差を徹底して除去する構造となっています[5]。また、映画用レンズで求められる高い画質基準をクリアするため、口径比は無理のないF2に設定されました。

KMZ PO2-2(KMZ初期型 シリアル番号N0032) 1948年製造, 絞り羽根 16枚, 絞りF2-F32, 重量(カタログ値)345g, フィルター径 45mm, 有効焦点距離75.1mm, 画角22°44', 真鍮鏡胴, 光学系4群6枚(準対称ダブルガウス型), この製品個体の名板にはKMZが1945年から1948年まで使用した古いマーク(台形のマーク)が刻印されています

 
入手経緯
レンズは2017年9月にeBay経由でウクライナのレンズセラーから650ドル(送料込み)で購入しました。オークションの記載は「PO2-2の初期型でコンディションはエクセレント++。絞り羽に油染みはない。ガラスにはわずかにクリーニングマークと気泡がみられるが十分に良好。絞りのコントロールはスムーズでソフトである。レンズはコリメーターでチェックし適正な性能が出ている。フロントキャップ、リアキャップ、純正フードが付属している」とのこと。届いたレンズはガラスに僅かな拭き傷こそ見られましたが、とても良好な状態でした。フランジバックに余裕があるので、私は下の写真に示すとおりライカMマウントとソニーEマウントに改造して使用することにしました。
PO2を入手する場合はもっと後に作られたコーティングの付いたモデルの方が流通量が多く、eBayで50000円前後、国内では80000円前後からの値段で手に入ります。ロシア版アリフレックスのKONVAS(コンバス)に供給されたモデルならマウントアダプター(マウント規格はOCT-18とOCT-19の2種)の市販品が存在し、ミラーレス機や一眼レフカメラ(EOSのAPS-C機)で使用できます。ちなみに、OCT-18はスピゴットマウントでOCT-19はバイヨネットマウントです。現代のデジカメで使うにはOCT-19の方が扱いやすいかもしれません。入手にはeBayをあたってみてください。
Leica Mマウントへの改造例:フードを外した際の重量は505gなのでTECHART LM-EA7に搭載するには1%の重量オーバーですが許容範囲では?。ヘリコイドを少し安いタイプ(M52-M42 25-55mm)に交換するとリミット500gの計量をパスでます。ボクサーみたい


左は改造前のレンズヘッド(純正フードを装着しています)、右はSONY Eマウントへの改造例です




参考文献
[1] Belokon Andrey (Ukraine, Odessa)、AllPhotoLenses, Date of publication: 25.12.2011
[2] PO2-2, PO3-3, PO4-1に関するKMZ(ZENIT)の公式資料: КАТАЛОГ фотообъективов завода № 393 (The catalog of photographic lenses of the plant № 393) 1949年
[3] Luiz Paracampo, LOMO-100 Years of Glory book (2011)
[4] Catalog Objectiv 1970 (GOI): A. F. Yakovlev Catalog,  The objectives: photographic, movie,projection,reproduction, for the magnifying apparatuses  Vol. 1, 1970
[5] レンズ設計のすべて―光学設計の真髄を探る 辻定彦著  電波新聞社
[6] オールドレンズ×美少女 (玄光社MOOK) 上野由日路著 玄光社MOOK
[7] "History of Cooke Lenses" (cooke公式HP)
[8] Speed Panchro Ser.1 米国特許 US Pat.1,955,591
[9] Zenit公式ホームページのAKCシリーズに関する記述
 
撮影テスト
イメージサークルはフルサイズセンサーをジャストサイズでカバーしており、写真の四角が暗くなることもなければ、逆に広すぎるということもありません。ピント部は開放からシャープで十分に解像感があり、スッキリとしたヌケの良い描写です。今回手に入れたモデルはガラス面にコーディングのないノンコートレンズですので、癖のない素直な発色が得られます。ただし、屋外での使用時には条件が悪いとコントラストが低下し発色も淡くなりますので、適切な長さのフードを装着し、フードの内側に植毛紙を張り付けるなど万全なハレ切り対策を施すことをおススメします。コントラストや色ノリは植毛を使わないときに比べ劇的に改善し、この時代のシネレンズらしい濃密な色味を堪能することができます。望遠シネレンズは一般に後玉側にハレーションカッターを装着することでシャープネスやコントラストが著しく改善しますが、今回のレンズにはそこまでは手を加えていません。
背後のボケは距離に依らず素直で柔らかく、綺麗なボケが得られます。グルグルボケが目立つことはありません。逆光時に綺麗なハレーションが出るのも、このレンズならではの特徴でしょう。しかも、派手にハレーションが出ているにも関わらず、画質が大きく破たんすることはありません。とてもロバスト性の高いレンズです。
このレンズはピント面がたいへん薄く、精密なピント合わせには苦労するかもしれません。他の75mm F2クラスのシネレンズと比べると判ることですが、ピントの薄さは群を抜いています[注]。また、背後のボケが大きく見えるのも大きな特徴で、開放から1~2段絞った程度では依然としてボケが深く、絞りの効き具合をあまり実感できません。F8あたりまで深く絞ると絞りの効果が急にわかるようになります。ちょうど凹ウルトロンが似たようなハンドリングのレンズでした。

注:バルター75mm F2, スピードパンクロ(シリーズ2)75mm F2と描写の比較テストをおこないました。バルター75mmやパンクロ75mmには開放で微かなフレアが出ますので、球面収差が少し過剰気味に補正されていることがわかりました。対するPO2-2はボケが大きく柔らかく拡散していることや開放でもピント部にフレアが出ないなど完全補正型レンズの特徴がみられました

F2(開放) sony A7R2(WB:日光)


F2(開放) sony A7R2(WB:日光)


F2.8 sony A7R2(WB:日光)

F2.8 sony A7R2(WB:日光)


F2(開放) sony A7R2(WB:日光)
F2.8  sony A7R2(WB:日光)
F5 sony A7R2(WB:日光) だいぶ絞っているが依然としてよくボケている。絞り値F5は珍しいのではないだろうか
F2.8 SONY A7R2(WB:日陰)
F2(開放) sony A7R2(WB:日光)
F2(開放) sony A7R2(WB:日光)



F2(開放) SONY A7R2(WB:日光) ド逆光でのワンショット。盛大なハレーションが出ているにもかかわらず写真には破綻がない



F2.8 sony A7R2(WB:日光)

F2.8  sony A7R2(WB:日光)




F8 sony A7R2(WB:日光)


F2.8   sony A7R2(WB:日光)











パンクロからのコピーという噂が大きく独り歩きすることの無いよう、最後に釘を刺さなければなりません。この噂が流布しているのは日本国内だけです。PO3-3やPO2-2が戦前のスピードパンクロを原型に開発されたという仮説には何一つエビデンスがありません。しかし、構成図は極めてよく似ており、スピードパンクロを模範とした可能性は充分にあります。ぜひ戦前のガウスタイプのレンズ構成をご自身でも調べてみてください。反例を徹底的に探した人だけが辿り着くことのできる手応えのようなものが得られ、最後には「コレ、よく気付いたな!」と仮説の提唱者に共感することができるはずです。PO3-3がスピードパンクロ50mm(シリーズ1)を手本に開発されたというアイデアには私も賛成です。

2018/02/24

KMZ PO(RO)-series cinema movie lenses(Prologue)

左からPO4-1, PO70, PO56, PO2-2, PO3で、いずれもモスクワのKMZがソビエト連邦時代に製造したモデル


レニングラード生まれ、クラスノゴルスク育ちの
35mmシネマムービー用レンズ PART 0(プロローグ)
ロシアのシネマ用レンズは古くからレニングラード(現サンクトペテルブルク)の工場が生産拠点でした。この地には後に合併されLOMO [Leningradskoe Optiko-Mechanicheskoe Obyedineniye(レニングラード光学機械連合)]に参入するLENKINAPファクトリー(Leningrad Kino Apparatus)があり、1936年に登場したロシア初のシネマ用カメラのKSシリーズもこの工場で生産されています。同国のシネマムービー用レンズの原点であるPO(RO)シリーズの最初のモデル(PO2-2, PO3-3, PO4-1, etc...)が誕生したのも、レニングラードのKINOOPTIKAファクトリーでした。初期のPOシリーズは真鍮鏡胴のノンコートレンズで、銘板には工場名の"KINOOPTIKA" LENINGLADが記されていました。このレンズは第二次世界大戦の戦争賠償としてドイツから接収した光学ガラスを用いて1945年に開発され、35mmムービーカメラのKS-50BとAKS-1 に搭載する交換レンズとして市場供給されたのがはじまりです。しかし、製造コストが高く採算面での課題を抱えながら1947年に製造中止となっています。生産設備は同年にモスクワ州中部の工業都市クラスノゴルスクのKMZ(クラスノゴルスク機械工場:現ZENIT)に移設され、これ以降のPOシリーズの生産はKMZが引き継ぐことになったのです[文献1]。
1948年にKMZはPOシリーズのセカンドバージョン(PO2-2, PO3-3, PO4-1 etc...)を発売します[文献2]。レンズはKMZ光学システム設計局の主任技師Maltsevが率いる設計チームが監督し、同工場の393番プラントにて製造されました。このモデルも真鍮鏡胴で、ガラスにはブルーのコーティングが施されていました。しかし、依然として採算性が悪いことからコーティング付モデルはオプションになり、コーティングを省いたモデルとともに同時供給されました。
製造コストの問題を解決しKMZは1951年にコーティングのついた新バージョンを発売、このモデルには新開発の紫色のコーティング(Pコーティング)が施されていました。セカンドバージョンが採用したブルーのコーティングが自然な発色であったのに対し、このモデルに採用された新しいコーティングでは黄色味が強調されました。おそらくコントラストの向上が図られたのでしょう。1952年になるとロシア版Arriflex 35のKONVASという映画用カメラにもレンズの供給が始まります。
1950年代半ばになるとレニングラードのLENKINAPファクトリーでもPOシリーズの生産が始まります。再びレニングラードがシネレンズの生産拠点になるのはLOMOが創設される1965年あたりからです。LENKINAP工場で製造されたPOシリーズは後に再設計され、LOMOのOKCシリーズ、および中心解像度を100本/mmまで向上させたЖシリーズ(Gシリーズ)へと姿を変えることになります。ただし、POシリーズはその後もKMZが生産を継続しており、同シリーズのバージョン3は少なくとも旧ソビエト連邦の社会主義体制が崩壊する1991年まで作られました。本ブログでは数回にわたりPOシリーズの代表的なモデルであるPO2-2(2rd version), PO3-3M(3rd), PO4-1M(3rd)、およびPO56(3rd), PO70(3rd), PO109を取り上げてゆきます。

POシリーズの記事が完結した後はロモ(LOMO)のシネマ用レンズを取り上げる予定です。LOMOは35mm映画用カメラのKONVASにレンズを多数供給していました。中でもOCT-18マウントで供給されたレンズは大きく突き出した羽根を外観上の特徴としており、これがヘラジカの角に似ているため、私は勝手に「ヘラジカレンズ」と呼んでいます。ロモのレンズは初期に作られた製品個体に顕著な色落ちがみられ、ダークグリーンに色落ちした個体やブロンズゴールド、ダークブルーなど色落ちした個体など何種類かあります。まさに、経年が生み出したアート作品!。美しさと高性能を兼ね備えた素晴らしいロモのレンズ群についても特集を組む予定です。取り上げる個体はOKC1-18-1 18mm F2.8, OKC 1-35-1 35mm F2, OKC8-35-1 35mm F2, OKC11-35-1 35mm F2, OKC1-50-1 50mm F2, OKC1-50-3 50mm F2, OKC1-50-6 50mm F2, OKC1-75-1 75mm F2, OKC6-75-1 75mm F2です。いずれも旧ソ連時代最高峰のプライムレンズです。
KONVAS用(OCT-18マウント)に供給されたLOMOのOKC1-50-1(初期型) 
左からOKC6-75-1, OKC1-50-6, OKC1-50-1, OKC11-35-1で、レニングラード(現サンクトペテルブルク)のLOMOが製造したモデル

マウントアダプター
現在、市場に流通しているPOシリーズの多くは映画用カメラ(ロシア版Eyemo)のKS-50BやAKS-1に供給された製品個体ですが、残念なことにマウントアダプターの市販品が存在しません。カメラで使うには工房などがライカLマウントに改造した個体を探すしかありませんが、改造費込みでなので市販価格は高額になっています。ただし、マウントアダプター経由でレンズを使う方法が一つあり、ロシア版アリフレックス35のKONVASに供給された製品個体を手に入れるのです。例えばPO2-2M、PO3-3M、PO56、PO70にはKONVASが採用したOCT-18マウントの製品個体が存在します。これに対応するアダプターがロシアのRafCameraから市販されており、レンズを各種ミラーレス機で使用することができます。入手先についてはeBayをあたってみてください。
PO3-3M(KONVAS OCT-18マウント・後期型)とRafCameraのアダプターに種々の部品を組み合わせて作った自作アダプター。OCT-18マウントのレンズをSONY Eマウントのカメラに装着でき、無限遠のフォーカスを拾える(わずかにオーバインフ)




私がRafCameraから入手したのはOCT-18 マウントを58mmのフィルターネジに変換するアダプターです。フィルターステップアップリングを介して、このアダプターを市販の直進ヘリコイドにマウントしています。ヘリコイドのカメラ側を末端処理すれば、SONYやFUJIのミラーレス機で使用できるヘリコイド付きアダプターになります。例えばM42スリムアダプターを使えばSONY Eマウントにすることができますし、M39スリムアダプターを使えばFUJIFILMのミラーレス機にマウントすることが可能です。例えば上の写真のように直進ヘリコイドM46-M42 Helicoid 17-31mmを用いればSONY Eマウントにすることも可能です。M42-M39 17-31mmを用いてFUJIFILM Xマウントにすることもできます。

参考文献
[文献1]Luiz Paracampo, "LOMO" - From RAOOMP to LOMO 100 years of Glory!-, Hercules Florence International Ed. (2014)

[文献2]КАТАЛОГ фотообъективов завода № 393 (1949)
[The catalog of photographic lenses of the plant № 393]

2018/02/23

KMZ OKS2-75-1(OKC2-75-1) 75mm F2.8



ロシアの16mmシネマムービー用レンズ part 4
迫り出すトーンが場の雰囲気を大きく捉える
KMZ OKS(OKC)2-75-1  75mm F2.8
昨年秋の記事で取り上げたTAIR-41M(タイール41M)の魅力的な写りをフルサイズ機でも堪能したいという願いから、このレンズにたどり着きました。ロシアのKMZ(クラスノゴルスク機械工場/現ゼニット)がソビエト連邦時代に、映画撮影用カメラの16SP(1958-1964年販売)に搭載する交換レンズとして市場供給したOKS(OKC) 2-75-1です。レンズを搭載した16SPというカメラはKMZがアリフレックス16を参考に開発したもので、ターレット式マウントに3本のレンズをいっぺんに搭載することができるプロ仕様の映画用カメラでした。撮影フォーマットは16mmなので、このレンズを現代のデジカメに搭載して使用するにはNikon1(1インチセンサー)あたりを選ぶのが画質的に無理のない組み合わせです。その一方で、レンズのイメージサークルにはかなりの余裕があり、なんとフルサイズセンサーをカバーしてしまいます。収差を大好物とするオールドレンズファンならば言うまでもなく、このレンズをフルサイズ機で使用するに違いありません。
レンズの設計構成は下図に示すような3群4枚の独特な形態で、TAIRタイプと呼ばれています。この構成は第二次世界大戦中にロシアの光学設計士David Volosov(デビッド・ヴォロソフ)教授と彼の共同研究者であるGOI(State Optical Institute)のエンジニアたちの手でトリプレットからの発展形として開発されました[1,2]。はじめは軍からの要望で暗い場所でも使用できる高速望遠レンズを作ることが目的でしたが、戦後はシネマ用レンズにも転用されています。トリプレットの高い中心解像力とヌケの良さをF2.8の明るさでも無理なく実現できるようにすることが、レンズ開発時の設計理念だったのでしょう。その一つの答えがTAIRタイプだったのです。
OKCの75mmと言えば、やはり圧倒的に有名なのはPO2の後継製品でもあるOKC1-75-1 75mm F2と、その更に後継であるOKC6-75-1 75mm F2です。両者とも素晴らしい性能のレンズですが、これらに比べると今回のレンズは同じOKCといえど、マニアックでマイナー路線を突っ走っています。でも、他人とは一味も二味も異なる描写を求める人、ありふれた描写にサヨナラしたい人には、このレンズが一つの有望な選択肢になるはずです。いずれもロシア製品の中では最高峰のプライムレンズです。
OKC2-75-1の構成図(文献[3]からのトレーススケッチ)左がフロントで右がリア(カメラ側)です。設計構成は3群4枚のタイール型で、前群側に正パワーが大きく偏っていることによる糸巻き状の歪曲収差を緩和するため、後群に厚い正レンズを配置している





参考文献・資料
[1] REDUSER.NET: Ilya O."Tair-11 lens diagram/scheme and appearance"(2016 Nov.)
[2] TAIRの光学系特許:USSR Pat. 78122 Nov.(1944)
[3] Catalog Objectiv 1970 (GOI): A. F. Yakovlev Catalog,  The objectives: photographic, movie,projection,reproduction, for the magnifying apparatuses  Vol. 1, 1970

入手の経緯
レンズは2017年12月にeBayにてロシアのセラーから229ドル+送料20ドルで落札しました。オークションでのレンズの売値は状態にもよりますが、350~450ドル辺りです。鏡胴に何らかの問題がある品を探せば、250ドルあたりで手に入ることも可能でしょう。国内でのレンズの相場は取引歴がないため不明ですが、ロシア製シネマ用レンズは概ね現地のセラーが提示する倍の値段で取引されていますので、国内の市場に出てくれば改造費込で6万円を越える値が付くとおもいます。
オークションの記載は「レアなソビエト製シネマ用レンズ。エクセレントコンディションで新品のようだ。レンズはクリーンでクリア、傷やクモリはない。絞り羽に油染みもない。キャップと箱が付属する」とのこと。写真を見ると鏡胴には錆が出ています。これを新品のようだと堂々と解説するセラーの感覚もどうかとおもいますが、相場よりだいぶ安く出品されていたので、迷うことなく購入を決意しました。記載に大きな間違いがなければガラスの状態は良好なはずです。
届いたレンズはやはりピントリングの周りに錆が出ていましたが簡単なクリーニングで充分に除去可能なレベルでした。ガラスの状態は良好でしたのて、思いどうりの良い買い物ができました。
KMZ OKS2-75-1(OKC2-75-1): フィルター径 52mm , 重量275g(改造前): 380g(改造後・ヘリコイド込の参考値), 最短撮影距離1m(改造後は0.4m), 絞り羽 16枚構成, 絞り F2.8-F22, 設計構成 3群4枚タイ―ル型, 前玉前方のイメージサークル・トリマーをはずすとイメージサークルが拡大する
マウントアダプター/M52ヘリコイドへの搭載
eBayでは16SP(Krasnogorsk-2互換)マウントをSONY E/マイクロフォーサーズ/Cマウント/Arri PLに変換するためのマウントアダプターが、5000~8500円程度で市販されています。残念ながらフジとEOS-Mに対応するアダプターは見当たりません。私は接写が出来ようにしたかったので、自分でマウンド部を改造しレンズをM52-M42直進ヘリコイド(最短17mm)に搭載することにしました。ヘリコイドのカメラ側はM42-SONY Eスリムアダプター(1mm厚)でソニーEマウントにしています。本体のヘリコイドを生かしたダブルヘリコイド仕様となり、最短撮影距離を1mから0.4mまで短縮させることができました。改造のヒントはマイクロフォーサーズ用の中華製マクロエクステンションリングを使います。あとは、ご自身で試行錯誤してください。

撮影テスト
シャープネスとコントラストは高く、質感表現は秀逸でシネマ用レンズの底力を知ることができます。このレンズの大きな特徴はやはり圧倒的に美しい光量落ちではないでしょうか。はっきりとケラれることはないので写真効果として十分に活用でき、フルサイズ機で用いるとトーンを強制的につくりだす特殊効果のような役割を果たしてくれます。これが写真の階調描写に躍動感を生み出すとともに、中央の被写体をドラマチックに演出してくれるのです。光量落ちを避けたい時には前玉の前方に据え付けられたイメージサークル・トリマーを外すだけです。また、フルサイズ機と組み合わせる際には強い糸巻き状の歪曲収差が発生し、柱や建物など真直ぐなものが大きく歪んでみえます。こうした特徴が顕著にみられるのはレンズ固有の独特な設計形態によるところも大きいのですが、本来ならば写真には写らないイメージサークルの隅の方を利用しているためでもあります。定格外の使い方ですので四隅では像が甘くなるものの、絞れば良像域は四隅に向かって拡大し、2段も絞ればフルサイズ機でも写真全体にわたり十分な画質となります。ボケには安定感があり、距離によっては背後で微かにグルグルボケの出ることがありますが、二線ボケ、放射ボケはみられず素直で美しいボケ味です。
フルサイズ機による規格外の使い方と中央の目覚ましい描写性能が織りなす甘く危険な協力関係が、均一な写真描写に慣れ親しんだ人の感性を大きく揺さぶるに違いありません。
F2.8(開放) sony A7R2(WB:電球1, iso400)  光量落ちの美しさは圧倒的で、スタジオなど室内のポートレート撮影ではダイナミックなトーン描写が中央の被写体をドラマチックに演出してくれます
F4 sony A7R2(WB: 曇天) 発色はやや温調にコケる傾向があります



F4 sony A7R2(WB: 曇天) すさまじい糸巻き状の歪曲収差!。ここまで気持ちよく曲がると、お見事としか言いようがありません
F2.8(開放) sony A7R2(WB: 曇天) 前ボケも後ボケもフレアに包まれ柔らかく滲みとてもきれいです。一方でピント部には滲にがまったくなく、スッキリとヌケのよい描写です

F2.8(開放) sony A7R2(WB: 曇天) トーンを強制的に出したような不思議な描写もこのタイプのレンズならではの特徴といえます。明暗差の大きな場面で使いたいレンズです
F2.8(開放) sony A7R2(WB: 曇天) 開放からスッキリとヌケのよい描写が実現されており中心部はたいへんシャープで解像感に富む、とても優秀なレンズです

F2.8(開放) sony A7R2(WB: 曇天)

F2.8(開放) sony A7R2(WB: 曇天)  中心部のシャープネスは十分で、sony α7Riiの4240万画素センサーにも根負けしません。中央を拡大したのが下の写真です
ひとつ前の写真(4240万画素)の中央部を当倍でクロップしたもの。解像感の高いレンズです
F4 sony A7R2(WB: 日陰) 












F2.8(開放)  sony A7R2(WB: 日陰)




F2.8(開放) sony A7R2(WB 曇天)




2018/02/09

AIRES CAMERA TOKYO S CORAL 45mm F1.5 (Aires 35-V mount)



アイレスカメラの高速標準レンズ  part 2 
ノクトンを手本に作られた大口径レンズ
AIRES CAMERA TOKYO, S CORAL 4.5cm F1.5(Aires 35-V mount)
アイレス写真機製作所(Aires camera)の高速標準レンズにはエポックメーキングなモデルがもう一本あり、同社がレンズシャッターカメラの最高級機AIRES 35-Vに搭載する交換レンズとして供給したSコーラル(S CORAL)である。このレンズは1958年10月の発売当時において国産レンズシャッター機に搭載されたレンズとしては最も明るいF1.5を記録している。ここまでの明るさに追従できるシャッターは小型で高速な0番シャッターもしくは00番シャッターに限られるが、そのぶん光路は細くなる。ビハインドシャッターの狭い光路に大口径レンズの光を通すのは容易なことではなかったはずだ。
レンズの設計構成は下図のような4群7枚で、旧西ドイツのフォクトレンダー社が1950年に発売した高級レンズシャッター機プロミネントI型(PROMINENT I)に搭載したノクトン(NOKTON) 50mm F1.5を手本にしている。偶然かどうかはわからないが、前エントリーで取り上げたHコーラルもトロニエ博士の設計したシュナイダー社のクセノン(Xenon, 4群6枚)を手本に開発したものだ[文献1]。同社でレンズやカメラの企画と開発にあたったのは創立者の三橋剛と開発部の小寺桂次氏であるが、三橋氏と小寺氏はノクトンやクセノンを設計したトロニエ博士のファンだったのかもしれない。
では、Sコーラルの写りはノクトン的なのかと言うと、微妙に異なる所が面白い。線の細い繊細な描写や光の状態に敏感に反応する神経質な性格など確かにノクトンの特徴を垣間見ることができるものの、開放でのフレア量は若干多く、ノクトンよりも柔らかい味付けになっている。

ノクトンとSコーラルの構成図を比較してみた。一見そっくりだが、よく見るとノクトンでは3枚目と4枚目の間が僅かに分離しており、空気層を利用して球面収差の中間部の膨らみを叩く設計になっているのにたいし、コーラルではこの部分が貼り合わせになっている。前玉に据えたアプラナティック色消しレンズ、そしてビハインドシャッターにギリギリ適合できるアドバンテージはノクトンタイプのレンズならではの特徴であろう




入手の経緯
もともと製造された数が極めて少ない上にコレクターズアイテムでもあるため、入手難度は高く、eBayでは350〜400ドル辺りの相場で取引されている。レンズは2017年3月にeBayを介して米国の個人セラーから即決価格175ドル(+送料40ドル)で購入した。オークションの記載は「希少価値の高いレンズだ。本当におススメしたい。カビやクモリはなく、傷やクリーニングマークもない。ガラス内にチリが2つあるが全く問題ない。私にできる限りの検査と記載をしたつもりだ。現状での販売を希望する」とのこと。届いたレンズはガラス自体とても良い状態であったが、やはりゴミが絞りに接したガラス面に付着していた。幸いなことに後群がねじ込み式でユニットごと簡単に外れたので、光学系を実質バラすことなくブロアーで吹き飛ばすだけで綺麗になった。ここまで状態の良い個体は二度と出てこないに違いない。
Aires S Coral 45mm F1.5(改sony Eマウント): フィルター径 49mm, 絞り F1.5-F16, 絞り羽根 5枚構成, 設計 4群7枚(準ノクトン型), ノクトンでも感じ事だが、この種のレンズの前玉を斜め前方から撮影すると妙な鈍い光り方をする


撮影テスト
開放ではピント部を薄いフレアがまとい、柔らかいしっとりとした描写傾向になる。ただし、中央は確かに解像しており、被写体を中央で捉えれば開放でもポートレートレンズとして充分に使える。フレアや滲みは遠景撮影時ほど多く、軟調で発色も淡いが、近接撮影になるほどスッキリとしたヌケの良い描写に変わりコントラストも向上する。ポートレート域でのフレア量は絶妙で、シットリ感の漂う艶かしい描写のなかに緻密さが残存しておりゾクッとするようなリアリティを与える。ただし、描写傾向は不安定なので、ほぼ同じ条件で撮っているのに、露出の僅かな差で、何でもないごく普通の写りに戻ってしまうこともある。この辺りはノクトンにそっくりで、平たく言えば制御不能で気まぐれな魔性レンズというわけだ。
背後のボケはザワザワとして歯応えがあり、距離によってはグルグルボケを伴うが、反対に前ボケは柔らかくフワッとした柔らかい味付けになる。ノクトンよりも若干フレア量が多めだが、ノクトンには空気レンズが1枚多くあるので、これによる差であろう。逆光では前玉の大きなレトロフォーカスレンズでよく見られるシャワーのような虹色のハレーションが生じる。
撮影時のコンディションや被写体までの距離に応じて、絞り値F2とF1.5(開放)を上手に使い分けることが、このレンズを使いこなすための第一歩となるだろう。
F1.5(開放), SONY A7R2(WB:日光)ここは開放で正解。とても美しい繊細な描写にうっとり!。背後の遠景のボケも見事だ




F2, sony A7R2(WB:日光)逆光では独特なゴーストがでる





F2, SONY A7R2(WB:日光)中遠景よりも近接の方がスッキリとヌケのよい描写だ

F1.5(開放), sony A7R2(WB:日光) ここはフレアをもう少し抑えたい場面なので、開放ではなくF2(下の写真)まで絞るのが正解

F2, sony A7R2(WB:日光) これくらいの柔らかさが好みだ


F2, SONY A7R2(WB:日光)ボケには癖があり、距離によってはグルグル気味になる


F2, SONY A7R2(WB:日陰)このくらいのフレア感が好き。軟調描写の癒し系レンズだ





このレンズは同社が誇るレンズ交換式カメラの最高級機AIRES 35Vに搭載され、1958年に発売された。カメラの方は同社初となるレンズ交換式で、露出計を内蔵し二重露光にも対応するなど当時のユーザーの要求を全て積み込み、随所に凝った機構がみられた。まさにアイレスの工員たちの夢を乗せて放たれた最高のカメラとレンズであったのだ。ただし、欲張りすぎた仕様のため市販価格が他のモデルの1.5倍程度と高くつき、国内市場では全く売れなかった。この失敗が仇となり、さらには35Vが発売される2年前に第一工場が火災で全焼した問題で工場再建による負債が膨らみ、アイレスカメラは35Vの発売から2年後の1960年に倒産している。同社のカメラは35Vを除けば全体的に好調な売れ行きであった。しかし、戦後間もない時代の中小メーカーには不測の事態に対応できる企業体力がなかった。工場の火災は若い工員が溶剤を持ったままダルマストーブのそばで転倒したのが原因だったそうである。一方でアイレスが倒れた直接の原因は35Vを世に送り出した経営判断にあったと伝えられている。会社倒産の原因を社員の失敗としない粋な社長であったからこそ、アイレスは傑出したカメラを世に出すことができたのであろう。分不相応のカメラを世に送り出すこと、それはまさに社運をかけた決死の判断であった。

2018/01/25

KMZ OKC1-10-1(OKS1-10-1) 10mm F2.8



ロシアの16mm映画用レンズ part 3
試写記録:KMZ OKS1-10-1  10mm F2.8
フィルム写真のような色味が魅力のレトロフォーカス型レンズ

OKC1-10-1(OKS1-10-1)はロシアのKMZ(クラスノゴルスク機械工場)が16mm映画用カメラの16SPに搭載する広角モデルとして市場供給したシネマムービー用レンズです。前玉にはロシア製レンズ特有のコッテリとした色のコーティングが施され、いかにもよく写りそうな雰囲気を漂わせています。レンズの構成は下図で示すような6群9枚のレトロフォーカスタイプで、採算性を省みない共産圏ならではの豪華な設計であることがわかります。
レンズを搭載した16SPという映画用カメラはアリ社のアリフレックス16STを手本に開発されたプロフェッショナル向けの製品で、ターレット式マウントに一度に3本のレンズをマウントすることができました。本レンズに加え、例えばOKC-1-50 50mm F2とOKC2-75-1 75mm F2.8などを組み合わせて使っていたようです。

OKC1-10-1構成図。GOI Objective Catalog 1971からの見取り図(トレーススケッチ)。設計構成は6群9枚と豪華


入手の経緯
レンズは2017年秋にeBayにてウクライナのオールドレンズを専門に扱うセラーから7000円(+送料1500円)で購入しました。レンズヘッドのみで売られている個体は改造難度が高いことが一目見てわかるので、今回はヘリコイドがついている個体を狙いました。相場はレンズヘッドだけの商品が10000円~15000円程度。ヘリコイド付きは流通量が少なく探すのが大変です。届いたレンズはカビやクモリこそなく実用上は問題ありませんでしたが、コンディションは値段相応でレンズ内の清掃も必要でした。

フィルター径 58mm,  絞りT3.1(F2.8) -T16, 設計構成 6群9枚レトロフォーカス型, 絞り羽 10枚構成,  上の写真はM42ヘリコイド(22.5-48mm)に搭載しPentax Qマウントに改造した事例ですが、M42ヘリコイド(15-27mm)に搭載しライカマウントに変換することも可能でした
レンズは16mmシネマフィルム向けに設計されているため、Nikon 1で使用するのが相性の良い組み合わせです。この場合の35mm換算焦点距離は28mm相当となります。Pentax Qでも使用することができますが、この場合の換算焦点距離は55mm相当となり、標準レンズとして使用することになります。
本レンズを手に入れた直後に初めはマイクロフォーサーズ機につけてみたのですが、はっきりとトンネル状にケラれてしまい、イメージサークルには規格以上の余裕が無いことがわかりました。手元に使えるカメラがなかったため、しばらく放置していたのですが、ある時に知人がPentax Qを使うとのことで出番が到来、さっさとPENTAX Qマウントに改造しお貸ししたところ、たいへん気に入り、5000円+部品代でお譲りすることにしました。嫁ぎ先が決まって、めでたしめでたし。ご厚意で知人から写真作例を何枚か頂戴できましたので、以下に掲載します。このレンズを使って撮った写真がネット上には皆無でしたので、どんな写りなのか、ある程度参考になると思います。

★試写記録
F4.5, pentax Q(AWB) photo: Wataru Yamamoto スッキリとヌケのよい優等生的な写りです



F5.6(AWB), PENTAX Q, photo: Wataru Yamamoto 階調は適度に軟らかく、発色は温調気味で、いかにもオールドレンズらい写りです

F3.1(AWB), Pentax Q,  photo: Wataru Yamamoto 逆光に敏感なのはレトロフォーカスタイプならではの性質です。赤がきついのはカメラの画像処理エンジンの味付けからでしょう

F3.1(AWB), pentax Q, photo: Wataru Yamamoto 
F4.5(AWB), pentax Q, photo: Wataru Yamamoto 軟らかいフィルムのような写りを期待することができます

F4.5(AWB), pentax Q, photo: Wataru Yamamoto 



2018/01/19

オールドレンズ専用のフィルムカメラ

おすすめのフィルムカメラをご紹介します
もちろんオールドレンズ専用機です
MINOLTA X-700 and YASHICA FX-3 Super 2000
昨年あたりから日本の10代~20代の若者の間でフィルムカメラが流行していることを知りました。インスタグラムが火付け役になっているそうで、知人が企画しているフィルム散歩会には男女を問わず多くの若者が集まります。しかも、参加者らは古くて安いマニュアルフォーカスカメラにオールドレンズをつけて使っているのです。最近はいろいろなコミュニティで「オールドレンズ用におすすめのフィルムカメラはありますか?」と尋ねられる機会も増えてきました。そこで、おすすめのカメラを2台ご紹介しますが、1台目はミノルタのX-700です。まずは、どんなカメラなのか写真でご覧ください。

MINOLTA X-700: 1981-1999年製造, MINOLTA SRマウント(フランジバック43.5mm < M42, EXAKTA, etc...) (GOOD!) ,  最高シャッタースピード 1/1000 (tough! 残念), 露出計: TTL開放中央重点測光/瞬間絞り込み測光, ミラーアップ方式:スイングバック(Great!), 明るさとピントの合わせ安さを両立させたアキュートマットスクリーンを採用(Great!), ファインダー視野率95%(GOOD!), ファインダー倍率0.9(GOOD!), フォーカッシングスクリーン: スプリットマイクロプリズム(中央)アキュートマット(周辺) (GOOD!),  重量 505g, カラーバリエーションはブラックおよびブラック/シルバーのツートン


一眼レフカメラの中ではフランジバックが比較的短いため、アダプターを使えばM42マウント、エキザクタマウント、デッケルマウントなどのユニバーサルマウントに対応でき、オールドレンズの選択肢が豊富にあります。中古市場では5000円以内で手に入るリーズナブルな価格帯にありますが、侮ってはいけません。このカメラには他にはないユニークな特徴が備わっており、私が手元に残した一眼レフカメラの中では最も使い出のある一台になっています。
まず、何と言っても重要な特徴は、ミラーアップの方式がスイングバックになっている点です。これは、ミラーが後退しながらはね上がるという仕組みです。シャッターを切る際にミラーがレンズの後玉に引っかかるトラブル(ミラー干渉)を未然に防ぐことができます。大方の一眼レフカメラはシャッターをきるとミラーが単純にはね上がるクイックリターン方式を採用しているのに対し、スイングバック方式はごく限られた高級機のみに採用されました。後玉が飛び出したレンズでも、このカメラなら使用できたという報告例が相次いでおり、後玉の飛び出し具合が特に著しいキルフィット製レンズでも使用できました。このカメラなら、数多くのオールドレンズが問題なく使用できます。そして、X-700のもう一つの特徴はピントの合わせやすさを極限まで高めた非常に明るく見やすいファインダーです。ここにはミノルタが独自開発したアキューマットスクリーンが使われており、これが実に素晴らしい。アキューマットスクリーンはあのハッセルブラッドにも採用されました。ピントの合わせすさでX-700の右にでるフィルムカメラは無いと言ってもよいでしょう。スクリーンの中央部はスプリットマイクロプリズムになっており、厳密なピント合わせを行う際に重宝します。また、ファインダー倍率が約0.9、視野率が約95%と高いのも魅力です。残念なのは最高シャッタースピードが1/1000までとごく平凡な点と、カメラの心臓部が電子式なので、半永久的に使える機械式とは異なり、いずれ寿命がくる点ですが、その分を差し引いても十分に魅力のあるカメラです。

詳しい事情はわかりませんが、m42-minoltaアダプターには無限遠のフォーカスを拾えない製品がかなりの割合で流通しています。記載文にハッキリと無限が出ないと書いてありますので、入手時には注意してください。無限遠のフォーカスが拾えることを保証している製品もありますので、探してみるとよいでしょう。

Minolta X-700 + Kilfit Tele-Kilar 105mm F4

続く2台目は、コシナがOEM生産しヤシカブランドで1993年に発売されたYASHICA FX-3 Super 2000です。シンプルな操作系と軽くて小さなボディ、壊れにくい構造が特徴で、中古市場では5000円以内で手に入ります。このカメラはヤシカブランドの国内最終モデルですが、なんとZeissとの提携により実現したコンタックス・ヤシカマウントが採用されており、名玉の宝庫、ヤシコンのカールツァイスレンズ群が使用できます。また、アダプターを使い数あるM42レンズ群を使用することもできます。ヤシカ・コンタックスマウントはフランジバックがM42マウントより極僅かに長いので、M42レンズが使用できるのは意外と思われる方も多いでしょう。無限のフォーカスを拾えるよう、アダプターの側でマウントを僅かに沈胴させているのです。

YASHICA FX-3 Super 2000: 1993発売, C/Y(コンタックス/ヤシカ)マウント:フランジバック45.5mm,  最高シャッタースピード 1/2000 , 露出計: 中央部重点 平均測光, ミラーアップ方式:クリックリターン, ファインダー視野率92%(GOOD!), ファインダー倍率0.91(GOOD!), フォーカッシングスクリーン: スプリットマイクロプリズム(中央),  重量 445g(Good!), カラーバリエーションはブラックおよび北米向け輸出モデルのみに供給されたブラック/シルバーのツートン

カメラの機能としての特徴は、露出計を除くカメラの心臓部が機械式のため、オーバーホールさえ続ければ半永久的に使用できる点、そして、最高シャッタースピードが1/2000と機械式にしては高速な点でしょう。X-700が弱点としていた箇所が見事に補完されています。外観はプラスティック感が漂っていますが、アルミダイキャストボディを採用しており、見かけによらず頑丈なつくりです。ファインダーの明るさはごく平凡でX-700には及ばないものの、ファインダー倍率0.91、視野率92%は立派なスペックです。スクリーン中央にはスプリットマイクロプリズムがついており、厳密なピント合わせを行う際に重宝します。

YASHICA Fx-3 super 2000 + Carl Zeiss Contarex Planar 85mm F2

2018/01/18

Event 2018 is this!
Coming soon!


日時 2018年5月25日(金)-27日(日)
場所 原宿デザインフェスタギャラリー

講演・対談
ワークショップ
ポートレート写真展3
オールドレンズ写真学校展4
オールドレンズ体験会・ショップ販売