興和光器の写真用レンズ part 3
プロミナーシリーズのエース
Kowa Optical Works PROMINAR 50mm F2
1960年代の幕開けは一眼レフカメラ全盛時代の幕開けでもありました。Nikon FやPENTAX SPなど世界的なヒット商品がこの頃に登場し、ミノルタやキャノンなどもヒット商品を生み出そうと追従、各社一眼レフカメラの製品開発に心血を注いでいました。興和光器製作所(コーワ)もこの潮流に乗り遅れまいと1960年に高性能なプロミナー50mm F2を搭載したレンズ固定式の一眼レフカメラKOWAFLEXを発売します。カメラの方はクイックリターンミラーとフォーカルプレーンシャッターの開発が遅れ、時代の最先端とは言えない残念な仕様でしたが、定評のあるPROMINARレンズが固定装着された状態で発売時の価格が19800円と安く、Nikon F(50mm F2付きで約67000円)やPENTAX SP(本体のみで約38000円)には手を出せない消費者層を中心に買い手が付きます。PROMINARの構成は下図のような4群6枚のガウスタイプで[1]、おそらく前年の1959年に発売されたカロ35F2に搭載されていたものと同一設計であろうと思われます。ただし、後継モデルのKowaflex Eに搭載されたProminar 50mm F2は後玉径が小さくなっており、設計変更の可能性があります[2]。シャツターの仕様がビトゥイーンシャツターからビハインドシャッターに変更となったため、これに対応するためです。レンズを設計したのが誰なのかは明らかにされていません。
Prominar 50mm F2の構成図(カメラマニュアルからのトレーススケッチ):設計構成は4群6枚のオーソドックスなガウスタイプです |
★入手の経緯
レンズはKowaflex初期型に固定装着されていますので、シャンクのカメラを探すこととなります。ちなみに、このカメラは流通量が少なめなので、完全動作する個体はそこそこいい値段してしまいます。私は2024年9月に国内ネットオークションに出品されていた故障品を3500円+送料1500円で手に入れました。レンズにカビやクモリはなく、前玉に少し拭き傷がある程度の実用充分なコンディションでしたので、カメラからレンズを取り出しヘリコイドに載せてソニーEマウントに改造しています。
★参考文献
[1] KOWAFLEX instruction manual
[2] KOWAFLEX E instruction manual
[3] 「カメラレンズの画質は向上したか -50㎜F2レンズの変遷 - 」 小倉磐夫 写真工業 1979年12月号
KOWA Optical Works Prominar 50mm F2前期型(kowaflex用) 固定レンズとして搭載されていたもので本品は改造品: フィルター径49mm, 絞り羽 5枚構成 |
★撮影テスト
「50mm F2にハズレなし」と言われるように、このクラスのレンズはよく写る製品ばかりです。開放からに滲みはなく、クッキリとシャープな描写で、解像感の高いレンズです。ガウスタイプの弱点である開放でのフレア(サジタル・コマフレア)はほぼありません。トーンは適度に軟らかく、その分、発色は落ち着いていて自分には好みです。背後のボケは硬すぎることなくごく普通のボケ味で、周辺部が僅かに流れますがグルグルボケや放射ボケが顕著に出ることはありません。口径食はこのクラスのレンズの平均的なレベルでした。逆光時でもゴーストは出にくく、コントラストは安定しています。とても高性能なレンズです。
写真工業の記事[3]に50mm F2クラスの標準レンズの解像力に関する定量的な比較記事がありました。ライツのズミクロンMがこのクラスのレンズでは絶対王者なわけですが、プロミナーもかなり健闘しており、格付け的にはNikon F用の50mm F2と遜色のない高い性能が出ています。
F2(開放) Nikon Zf(WB:日光A) |
F2(開放) Nikon Zf(WB:日光A) |