ノボフレックス(正式名ノボフレックス精密技術株式会社)といえばオートベローズを考案したドイツのアクセサリーメーカーであるが、マクロ撮影用ベローズの供給に乗じて自社ブランドのレンズも供給していたことがある。今回はユニークな繰り出し機構を持つ同社のマクロ撮影用レンズを一本紹介する。
エクステンションチューブを内蔵した
ノボフレックス社の広角マクロレンズ
NOVOFLEX NOFLEXAR 35mm F3.5(EXAKTA)
同社は写真家で写真機材店のオーナーでもあるカール・ミュラー(Karl Muller)という人物が1948年にドイツのバイエルン州メミンゲンに設立した写真用アクセサリーのメーカーだ[1]。会社立ち上げ時は主にライカやコンタックスに取り付けられるマクロ撮影用ミラーボックスを製造していたが、1951年からはこれ以降の主力製品となるマクロ撮影用ベローズの生産に乗り出している。また、1962年からは製品のラインナップを広げ、ハッセルブラッド用のプリズムビューファインダーやベローズと組み合わせて用いるマクロ撮影用レンズなど、ガラス光学製品も供給するようになっている。同社はメミンゲンを拠点に今もカメラ用アクセサリーの供給を続けており、プロ用高級ベローズに加え、フラッシュマウントなどのスタジオ撮影用機材やミラーレスカメラ用のマウントアダプターに力を入れている[1]。
ノボフレックスの写真用レンズについては他社からOEM供給を受けて発売した製品が幾つかあり、1960年代に一眼レフカメラ用のマクロ撮影レンズNOFLEXAR 35mm F3.5や、レンズヘッドのみの製品でマクロベローズに搭載して用いるNOFLEXAR 105mm F4/F3.5と135mm F4.5、MACRO NOFLEXAR 60mm F4などを市場に供給していた。これ以外にも迅速にピント調整のできるスーパーラピッドフォーカシングレンズシステムを搭載した超望遠レンズのNOFLEXARシリーズ(1982年発売)や、シュナイダーのクセナーからOEM供給をうけたアルパ用の望遠レンズNOVOFLEX XENAR 135mm、日本のタムロンから協力を得て出した望遠用ズームレンズ(1986年発売)などがある。
今回紹介するのは、同社が1962年に一眼レフカメラ用(M42/EXAKTA/Nikon Fマウント)として発売したマクロ撮影用レンズのノフレクサー(NOFLEXAR) 35mm F3.5である。このレンズには振り出し式に伸びるエクステンションチューブが内蔵されており、鏡胴前方のフィルター枠の辺りを手で前方に引っ張ると「カチッ」と音を立てながら光学系が前方に出てゆく仕組みになっている。繰り出し量は全部で4段階あり、マクロ撮影の性能が強化される。いっぱいまで繰り出した状態での最大撮影倍率は0.5である。レンズの設計構成は明らかになっていないが、ガラスに光を遠し反斜面の数を数えると、4群4枚(前後群とも2群2枚)のレトロフォーカス型であることがわかる。
このレンズはUV光の透過率が極めて高いことが知られており、UV撮影に好んで使用する愛用者が多い[2]。MFレンズの世界的なマニアでUV撮影の専門家でもあるDr Schmit KlausはこのレンズのUV透過光特性がシュテーブル(Staeble)社のLinegon 3.5/35にとてもよく似ており、供給元はシュテーブル(Linegonと同一)ではないかと推測している[3,4]。
このレンズはUV光の透過率が極めて高いことが知られており、UV撮影に好んで使用する愛用者が多い[2]。MFレンズの世界的なマニアでUV撮影の専門家でもあるDr Schmit KlausはこのレンズのUV透過光特性がシュテーブル(Staeble)社のLinegon 3.5/35にとてもよく似ており、供給元はシュテーブル(Linegonと同一)ではないかと推測している[3,4]。
ノボフレックス ノフレクサー:フィルター径49mm, 重量(実測)190g, プリセット絞り, 最大撮影倍率0.5, 絞り F3.5-F16, 絞り羽 9枚, EXAKTA/M42/Nikon Fマウント対応(本品はEXAKTAマウント), 設計構成 4群4枚レトロフォーカス型 |
★参考文献
[1] NOVOFLEX公式ホームページ
[2] Dr Klaus Schmit, A Study of 50 wide + normal Lenses for UV Photography
[3] Dr Klaus Schmit: Photography of the invisible world:
[4] 本レンズがシュテーブルから供給されたと断定的に解説するWEBページが最近目立ち始めているが証拠はない。これらのWEBページはみなWEBページ[3]を根拠にしているが、[3]で与えられているのは推測のみで根拠を示しているわけではない。
★入手の経緯
レンズは2015年2月にeBayを介してチェコのカメラメイト(leica-post)から27000円+送料で購入した。オークションの解説は「(A)エクセレントコンディション。使用感は少な目で完全に動作する」とのこと。相場はM42マウントの商品が30000~35000円前後、Exaktaマウントの商品は25000~30000円程度であろう。状態の良いレンズが届いた。ノフレクサーはeBayに常時何本か出ているので入手難易度は高くはない。EXAKTAマウントとM42マウントが大半で、ごくまれにNikon Fマウントの個体も出回ることがある。まぁまぁ売れたレンズなのであろう。
★撮影テスト
エクステンションチューブを繰り出さない状態での最短撮影距離は0.3~0.35mであるが、解像力はこのくらいの距離が最良である。ここからエクステンションチューブを前方に繰り出し最短撮影距離を短くしてゆくと、開放では解像力が顕著に落ちる。ただし、フレアは全く出ずピント部は依然として開放からシャープなので、大きく拡大しない限り解像力不足を感じることはない。また、絞り込むほど解像力が上がり、拡大像においても細部を緻密に表現できるようになる。エクステンションチューブを目いっぱいまで操出し最大撮影倍率に至っても画質は驚くほど安定しており、開放時と絞り込んだ時のフレア量に大差はない。この時代のマクロレンズとしては、たいへん優秀な近接撮影力であると思う。発色はノーマルで特定の色にコケる癖はなく、どのような条件でもシャープでスッキリとしたヌケのよい描写だ。グルグルボケや放射ボケは全くでない。ピント部の画質の均一性は高く、開放でも四隅まで良好な水準をキープしている。絞った時のフォーカスシフトが少なく、絞り開放でピントを合わせたのち絞り込んでも、ピントの山の頂上付近にいる。これだけの性能を備えたレンズなのだから、高い技術力を持つ光学メーカーが供給した製品であるに違いない。
F8, sony A7Rii(WB:晴天) |
F5.6, sony A7Rii(WB:日陰, iso 2000): 近接域でもフレアが目立つことはなく、四隅までシャープな像が得られる |
F11, sony A7Rii(WB: 日陰): エクステンションチューブ4段を全て繰り出した最短撮影距離付近でのショット。さすがに絞ってもこのくらいの解像力だが、シャープネスは依然としてよい |
F5.6, sony A7(AWB) |
F5.6, sony A7(AWB) |
F5.6, sony A7(AWB) |
F8, sony A7(AWB):これも最短撮影距離。とてもシャープだ |
F3.5(開放), sony A7Rii(AWB) 開放でポートレート域の写真も1枚出しておく。フレアは少なくシャープネス、コントラストは充分 |
F5.6, sony A7(AWB) このレンズはエクステンションリングを出さないまま最短側で撮影するあたりが、画質的に最良だとおもう。中央をクロップしたのが下の写真 |
ひとつ前の写真のピント部を拡大したもの。解像力はかなり高い |
F5.6, sony A7Rii(AWB, ISO6400): ISO感度を6400まで上げているので解像力はない。手持ちによる薄暗い中でのマクロ撮影だが、質感表現はよく出ている。悪条件でもここまで写るのはレンズのみならずカメラのおかげでもある |
上段:F3.5(開放)/下段:F8, sony A7Rii(AWB): このレンズの最短撮影距離(4段操出し x0.5倍)における画質の比較。開放でもフレアは少なく、このスケールでは絞り込んだ画との画質的な優劣はわからない。大したレンズだ。ただし、次に示す中央を拡大した写真(下の写真)を見ると、解像力には明らかな差が出ている |
前の写真の中央部拡大:上段:F3.5(開放)/下段:F8, sony A7Rii(AWB): 差とは言ってもこの程度で、開放でもフレア感は全くない。解像力(細部の分解能)に差があり、絞り込んだ方は文字表面の質感まで緻密に拾っている |