おしらせ


2024/02/08

Kern-Paillard Switzerland YVAR 16mm F2.8 AR c-mount

 
タンポポチップで復活する
焦点距離25mm未満のCマウントレンズ
Kern Paillard YVAR 16mm F2.8 AR (c-mount)
 
焦点距離25mm未満のCマウントレンズ(16mmシネマフォーマット)はマイクロフォーサーズ機で用いると完全にケラれてしまうため、デジカメ全盛時代の今でも人気がありません。ケラレを避けるにはセンサーサイズが16mmシネマフォーマットに近いNikon 1シリーズで使ばよいのですが、なにしろNikon 1というデジカメはオールドレンズ界ではとても悪名が高く、レンズをアダプター経由で用いると露出計は作動しないし、シャッターすら切れない。徹底して社外レンズを排除する意地悪な仕組みになっているのです。しかし、これをどうにか克服する手があり、通称タンポポチップと呼ばれる電子チップをアダプターに接着して用いるのです(写真・下)。このチップはカメラにレンズの情報を伝達する電子回路と電気接点を持った小さな部品です。これを取り付けておくと、カメラはCPUレンズが装着されたと認識し、絞り優先自動露出とフォーカスエイドが有効になります。タンポポチップはeBayなどのネットオークションでキット商品として販売されています。私はeBayでGfotoという業者からロシア製のチップを購入しました。キットにはチップを正しい位置に装着するための固定器具が付属しており、初めての私でも難なく取り付けることができました。最近では初めからチップのついたNikon 1用アダプターも流通しているようです。ただし、値段は高めなうえCマウントアダプターは無限が出なかったり、逆に大幅にオーバーインフだつたりと規格がバラバラです。アダプターくらいは納得のゆく製品を自分で選んだほうがよいと思います。
 
  
今回取り上げるYVAR(イバール)というレンズはスイスのKern-Pillard(ケルン・パイヤール)社が1956年から市場供給したBolex H-16 Reflexという16mm映画用カメラの交換レンズです[2,4]設計構成は下図のような肉厚トリプレットで、各レンズエレメントを分厚くすることで屈折力を稼ぐと同時に各空気境界面の曲率を緩め、収差の発生量を小さく抑えています。廉価版モデルとは言え、手抜きが無いのがKERN流なのでしょう。
 
YVAR設計構成のトレーススケッチ。構成図は文献[1]に掲載されています。左が前方で右がカメラの側です
 
入手の経緯
今回のレンズはネットオークションでBausch & Lombのシネレンズを落札購入した際に、セットでついてきてしまった個体です。自分から欲しくて手に入れたレンズではありませんが、何かの縁ですので記事化しました。KERNと言えば泣く子も黙る超高級ブランドですが、今回のレンズのように使えるカメラが限られている場合は安値で入手できます。レンズは中古市場で5000円~10000円程度で売買されています。
 
Kern-Pillard YVAR 16mm F2.8 AR: 最短撮影距離 約30cm, 絞り F2.8-F22, 絞り羽 6枚構成, 重量(実測) 50.7g, フィルター径 31.5mm, Cマウント
  
参考文献
[1] BOLEX TECHNICAL INFORMATION BULLETIN No.34 6/61, LENSES for 16mm MOTION PICTURE and TELEVISION CAMERAS
[2] BOLEX COLLECTOR: Kern-Paillad lenses
[3] Bolex Product News From Paillard," No. 5, (New York: Paillard Incorporated, June 25, 1974).
[4]Alden, Andrew Vivian (1998). Bolex Bible: Everything You Ever Wanted to Know But Were Afraid to Ask : an Essential Guide to Buying and Using Bolex H16 Cameras. A2 Time Based Graphics.
 
撮影テスト
開放から滲みはなく、四隅まですっきりとシャープに結像しています。コントラストも良好で色乗りは濃厚、歪みはほぼ気にならないなど高性能です。晴天下でも黒潰れはなくなだらかなトーンを維持しており、雰囲気の良い写真が撮れます。ボケは距離に依らずに概ね安定しており、像の流れは少しありますが目立たないレベルです。背後にグルグルボケは出ません。開放F2.8なのでボケ量が足りない点は仕方ありませんが、さすが高級レンズメーカーと言うだけのことはあり、廉価モデルでも欠点らしい欠点はほぼ見当たりません。Nikon 1との相性は、とても良好です。タンボボチップに感謝しています。
 
F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB: 日陰日光)
F4Nikon 1 J2(WB: 日陰日光)


F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB:日光)

F2.8(開放) Nikon 1 J2(WB:日光)

2024/02/03

しろがねの鏡胴映えるシネクセノン

Schneider-Kreuznach cine-Xenon 25mm F1.4 (c mount)

シネ・クセノンと言えば16mm映画用カメラに供給されたシネレンズで、ARRIFLEXマウントのモデルとCマウントモデルの2種があります。本ブログでは過去のこちらの記事でゼブラ柄の後期モデルを紹介しました。今回はBOLEXに搭載する交換レンズとして1960年に登場したCマウント版のシネ・クセノンの前期モデル(アルミ鏡胴)を紹介します。後期モデルは青紫色のコーティングでしたが、今回の前期モデルはマゼンダ色のコーティングですので、コントラストや色味に若干の差が出ることが期待できそうです。

焦点距離25mm(Cマウント)のシネマ用Xenonが登場したのは1920年代と古く、1927年に製造された真鍮鏡胴の個体が確認できます。ちなみに初期のモデルは口径比がF2(2.5cm F2)でしたので、トロニエ設計の4群6枚構成だったものと思われます。1930年代後半になると再設計され口径比がF1.5まで明るくなった真鍮鏡胴のモデル(シルバーカラーとブラックカラーがある)が登場しています。このモデルは戦後の1950年代にも生産が続きますが、1950年代半ばなると鏡胴の素材がアルミに変更され軽量化が図られるとともに、Dマウントでも市場供給されようになります。1960年代に入ると口径比がF1.4の新設計モデルが登場し、ごく初期の僅かな期間だけアルミ鏡胴で作られましたが、すぐにゼブラ柄にデザインが切り替わります。今回紹介するモデルはこの時代のものです。市場に流通している個体のシリアル番号から判断する限り、F1.4のモデルは遅く見積もっても1969年まで生産されていました。

重量 155g, 絞り F1.4-F22, 絞り羽 5枚, 最短撮影距離 約0.45m, フィルター径 31.5mm, マゼンダ系コーティング









Cine Xenon 25mm F1.4: 構成は4群7枚のズミタール型で、前玉が色消しの張り合わせ(たぶん旧色消し)になっています。絞りに接する両側のガラス面の曲率差(曲がり具合の差)でコマ収差を補正しています。上の構成図は文献[2]からのトレーススケッチです

参考文献

[1] Australian Photography Nov. 1967, P28-P32 

[2] SCHNEIDER Movie Lenses for 16mm cinema cameras: シュナイダー公式カタログ


撮影テスト

描写傾向はArriflex版モデルやゼブラ柄の後期モデルと似ており、良好な解像力を維持しつつ、開放では細部に微かな滲みを伴う線の細い繊細な画作りができます。コーティングが少し違うためか、後期モデルよりコントラストが抑え気味で、味のある描写が堪能できるのがこのモデルの大きな特徴と言えます。一段絞れば滲みは消えコントラストも上がり、シャープでキリッとした画作りになります。背後のボケは硬めで過剰補正気味なところはいかにも解像力を重視したレンズの特徴ですが、開放での微かな滲みもこれが原因のように思えます。

もともとは16mmフォーマットが定格ですから、マイクロフォーサーズ機では写真の四隅にダークコーナー(いわゆるケラレ)が出ています。カメラの設定を変え、アスペクト比をシネマ用ワイドスクリーンと同じ16:9にしたり、真四角の1:1にするとケラレは目立たなくなるでしょう。

 Cine Xenon 25mm F1.4 + Panasonic GH-1

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:☁) ピント部中央はご覧の通りで開放でも高解像です














F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:☁) 背後のボケが硬くざわついています













F2.8 Panasonic GH-1(WB:日陰)

F2.8 Panasonic GH-1(WB:日陰)



F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:日陰)

F1.4(開放) Panasonic GH-1(WB:日陰)